MAJIKOI×DRIFTERS   作:霜焼雪

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第二十二幕 お願い!シンデレラ

 

 

 

「紋から離れろ、雌馬めが!」

 

 

 

 王貴の上段蹴りが赤髪の少女の頭部目掛けて放たれた。大した速度もなく威力もあるようには見えない、極々平凡な学生が遊び半分で蹴りだしたような様だが、少年はその行為に絶対的な自信を持っていた。

 

 

 

「おっと」

 

 

 

 そのご自慢の蹴りを、赤髪の少女は全力の蹴りで迎え撃った。王貴の蹴りとは対照的に、鋭く素早く放たれた蹴りだ。格闘技を齧ってすらいないただの一般人にも、その脚から放たれた蹴りが無駄のない洗練されたものだと感じてしまうほどに流麗な蹴り。

 

 力量の差が、技としての優劣が一目瞭然と言っても過言でない両者の蹴りが激突する。

 

 その瞬間、互いの脚の接地点を中心として球状に爆風のような波動が広がった。それでいて生じた音は爆発のそれではなく、大きな鉄球が二つぶつかったような、大地を激しく揺らすような金属音。

 

 土煙を晴らして、その後に生じた風の乱流で再び大気を汚す。互いの頭髪は突風にあおられたように暴れて乱れる。

 

 

 

 ――――王の蹴りを、いとも容易くっ……!?

 

 

 

 しかし、精神を乱されたのは王貴だけ。少女はこの結果を予測していたかのように不敵に笑う。

 

 

 

「衝撃波って言うんでしょ? それ、私にはちょーっと相性悪いよ? 金髪」

 

「無礼な口の利き方だな、雌馬!」

 

「雌馬雌馬うるせぇな貧弱っ!」

 

 

 

 ガキィン!! と不快感しか覚えない金属音が再び響き渡り、両者の脚が衝突した。

 

 

 

「私には南浦梓っていう女の子らしい名前があってね」

 

「名前? 塵芥にすらなれん存在が名を持つと? 烏滸がましいな、雌馬」

 

「衝撃波を破られた程度で動揺する豆腐精神(メンタル)の王様なんて聞いたことないけどね」

 

 

 

 ゴリゴリ、と梓と王貴の脚が擦りあっていく。互いに一歩も譲らないと言う意思表示だろうか。衝撃波は既に出しきった王貴も、全力を出しきった後の梓も脚を引っ込めようとしない。ただただ押し付けるだけの、意地の張り合い。押し切るだの蹴り倒すだの一切考えていない。

 

 ただただ、擦りあわせる。ゴリゴリと脛を擦り合わせて立ち続ける。

 

 しかし、王貴の目に映る光景は脛を擦りあわせるようなものではなかった。

 

 

 

 ――――何故、王(オレ)はこの雌馬の脚に届かない?

 

 

 

 王貴と梓の脚の間には確かに隙間が空いていた。卓球の球がすっぽり挟まってしまいそうな、僅かな空間。

 

 僅かでも、確かに空いている。王貴は彼女の脚に拒絶されている。

 

 

 

「単純なことなんだよ。これ」

 

 

 

 王貴の当惑した表情に快楽を感じ取ったのか、梓の口角がククッ、と上がる。

 

 

 

「単純かつ大胆な異能(これ)で、私は戦場(ここ)を闊歩するのよ」

 

「……ふん、虚仮威しにすぎん!」

 

 

 

 

 

「灰靴(シンデレラ)」

 

 

 

 

 

 王貴の衝撃波の装填された蹴りを、再び梓が迎撃する。そして同時に発生する波動と金属音。あまりにも規模の大きすぎる金属音が王貴の贓物をしっちゃかめっちゃか掻き乱し、王貴の体調を内側から破壊していく。

 

 

 

 

「ちっ……!」

 

 

 

 王貴と梓の脚が再び鍔迫り合いを起こすも、彼らの脚は視覚的に接地しない。それでも王貴の脚には確かに蹴りあっている感覚がある。奇妙な現象に加えて激しい金属音に揺さぶられた脳髄が思考を鈍くする。

 

 

 

 ――――王(オレ)の牙(ファング)、釈迦堂のリングとは別系統の、高密度の気か何かか……? ええい、己の技を自慢げに披露するだけの未熟者め。王(オレ)が手ずから相手取ってやっていると言うのに、極めて不愉快だ……。

 

 

 

 忌々しそうに舌を打ち、梓を睨み付ける。

 

 

 

「いつまでこうしてるつもり?」

 

 

 

 その王貴の態度を甘美な蜜と捉えて食らい、くつくつと笑う。

 

 

 

「言われずとも動いてやる」

 

 

 

 すっ、と王貴が梓から一瞬だけ足を離して、衝撃波を再装填する。そのまま足を押し付けるように梓の脚へ再び蹴りをぶつける。そして鳴り響く金属音に、王貴だけでなく不意を突かれた梓も顔を顰める。

 

 蹴りのようでありながら、その実王貴の狙いはこの一撃だけではなかった。

 

 衝撃波を打ち込んだ反動を敢えて身に受け、王貴は右足を勢いよく地面に戻した。普段以上に負担のかかった脚が僅かに悲鳴を上げたが、彼の経験の中では大した痛みではない。

 

 あの時の、王貴が一目置く彼との「喧嘩」で達した限界に比べれば、蚊に刺された程度と王貴は断ずるだろう。

 

 両脚が地面に付いたその瞬間、王貴の脚元が爆発したように抉り取られる。梓の脚による迎撃を掻い潜るように超々近接戦闘に持ち込み、王貴は右手を広げて首を掴む様に腕を伸ばした。

 

 

 

「うおっと!」

 

 

 

 梓はそれを咄嗟に脚で止めた。

 

 上体を反らし、足の裏で何かを蹴り落とすような体勢で王貴の不意打ちを防ぎ切った。

 

 

 

 ――――届かんな。

 

 

 

 またしても王貴の手は梓の脚に確りと触れらない。見えない壁のようなものに阻まれて王貴の手は拒絶される。

 

 

 

 ――――王(オレ)の気の障壁とも違う。原理が違えど似通っている分、気に食わんな。

 

 

 

「まあ、固いことだけは認めてやろうか。馬は蹄鉄を付けていることが当然であるからな」

 

「素直に褒められないの? それに、女の子に向ける言葉じゃないね」

 

「女の子? 思慮の足らない餓鬼の様に素足を晒し、最早着崩しとも着古しとも言えない着壊し振り。貴様を女と思える要素など皆無だ」

 

 

 

 梓の風貌を再確認して王貴は言い捨てた。素足は素足でも、靴どころか靴下すら身に付けない、義務教育真っ只中の学生が運動会の徒競走で靴を脱ぎすてた様を彷彿とさせる脚だ。彼は女性らしさをそこから感じ取ることはできなかったのだろう。

 

 

 

「失礼しちゃう。これでもDカップよ?」

 

 

 

 しかし、梓の体型自体が女らしさを秘めていないかと言われるとそうではない。学生にしては十分に発育した胸部に加え、鍛え上げられた脚を繋ぐその臀部もまたハリがある。ティーンズ雑誌に載っていても差し支えのないスタイルだ。

 

 

 

「ふん。Dで見栄を張るか、中途半端な。どこぞの武神らしくFまで伸ばして見せろ」

 

「何で知ってるの?」

 

「……不本意ながら共闘した塵芥との他愛話で知った程度だ」

 

 

 

 ――――俺は見ただけで女のスリーサイズが分かるからな。

 

 

 

「何故そのようなことを話したかまでは覚えておらんがな」

 

「……いっがい。そういうこと話すんだね」

 

 

 

 そう指摘され、王貴の目を丸くした。その言葉に驚いたのか、その言葉があまりにも的確だったからか、兎にも角にも王貴は自分自身に驚愕していた。

 

 

 

 ――――ちっ、あの裏切り者め。くだらんことで王(オレ)を掻き乱す。

 

 

 

「……これから死ぬ貴様への冥土の土産だ。滅多にくれてやるものではないが、今回は特別興が乗ってな。感謝しろ」

 

「君の世界のモモちゃんの情報をもらってもなぁ。モモちゃんは私の世界のモモちゃん一人で十分なんだよね。ちょっぴり弱くて、ものすごく強い可愛い武神だけで」

 

「世界が違うのだ。同一であってたまるものか。あんなものが五人も十人もいてみろ。地球が消滅して超新星が爆誕し、全知全能の霊(グレートスピリッツ)が森羅万象を司る地球の王(シャーマンキング)によって世界が再構成されて凄い」

 

「やばいってことは何となくわかった」

 

「川神百代は、王(オレ)の知る一人で十二分だ」

 

「そこに関しては同感ね。私の知るモモちゃんだけでいい」

 

 

 

 それが相容れぬと決まっている以上、と梓が付けたし、

 

 

 

「生き残るのは一人で十分ね!」

 

「王(オレ)一人、だな」

 

 

 

 王貴の頭部目掛けて梓の右足を、対象となった王貴本人は微動だにせず防ぎ切った。一切の動作を見せることなく、相手の攻撃を全てうけきる金城鉄壁、気の障壁が展開されているのだ。

 

 その城壁が真正面から打ち砕かれたことなど、彼の記憶にはない。

 

 

 

 

 

 その障壁が、突如音を立てて軋み始める。

 

 

 

 

 

「……な、に……!?」

 

「もういっちょ!!」

 

 

 

 ガキィン!! と王貴と梓の攻撃が衝突した際に生じた金属音が再び響き渡り、梓の脚が王貴の気の障壁を痛めつける。一切の欠損も破損もなかった、装飾品に用いられる鉱石がかけてしまったように、気の障壁に罅が入る。

 

 

 

「っ……!」

 

 

 

 障壁が破られると言うことが直接的に王貴の死に直結するわけではない。しかし、障壁が消滅すればその分の気が消滅する。王貴の莫大な気の貯蔵量から気の障壁分の気がごっそりと持って行かれれば、王貴に突如虚無感が襲い来ることだろう。

 

 気の障壁に込められている気の量は膨大だ。だからこそ、今まで一切の侵入者を拒んできた堅固な壁であり続けたし、壊れることなど想定されていなかった。ある種の油断が具現化し塊となったものがこの障壁だ。

 

 己の手を煩わせたくないという戦闘スタイルを極めた結果の、過ち。

 

 

 

「そぉら!!」

 

 

 

 ビシリ、梓の三度目の攻撃に耐えきれなくなった気の障壁は音を立て、決定的な稲妻を己の身に走らせてしまう。

 

 

 

 ――――障壁の内側から、裂けた……!? 巫山戯るな、このような雌馬に……!?

 

 

 

 自らの気がどのようにして打ち破られつつあるかを理解しながらも、目の前の現実を否定し梓への殺気を膨らませる王貴。

 

 

 

「硬ければ硬いほど、壊れやすい。ほんの少しのきっかけで、あっさりと」

 

 

 

 まるで止めと言わんばかりに、梓は爪先を気の障壁に突き出す。王貴の障壁の中心にそれは音を立ててめり込み、毛細血管のように細かく複雑な模様の罅を伝播させた。

 

 あとは触れるだけで瓦解する、藁を積み上げた建造物より容易く壊される。

 

 

 

「相性良すぎだねホント。いやぁ私の見立ても捨てたもんじゃ――――」

 

 

 

 捨てたものじゃない、そう言いかけた梓は目の前の光景に声を詰まらせた。

 

 障壁が破られ、気の減少にえも言われぬ脱力感と虚脱感に苛まれているはずの王貴の足が唸っていた。王貴の足から太陽の灼熱に焼かれた舗装道路のような熱量が発生しているように、王貴の足の周囲が揺らめき空気が収束していくように見られる。

 

 気の障壁が破られることを覚悟していたわけではなかった。この右足に溜まった高密度の気は、王貴が無意識に貯めていた苛立ちの現れ。

 

 

 

「――――分を弁えろ、塵芥にも届かぬ畜生が」

 

 

 

 ぐるぐると回転させて練り上げた衝撃波を飛ばす。打撃に込めるのではなく衝撃波を単体の凶器として扱う、霧夜王貴が最も信頼するその技の名は――――

 

 

 

「征け――――牙(ファング)っ!!」

 

 

 

 何もない空間を蹴りぬく王貴。その脚に付随していた気がその行為をスイッチとして体を扇状に広げ、巣から飛び立った。まるで死神の鎌のようでありながら、刃と峰を選ばず全てを薙ぎ払い打ち砕く。

 

 絶対的な破壊の象徴、牙が梓の腹部目がけて奔る。

 

 

 

「行くよ灰靴(シンデレラ)!」

 

 

 

 その圧倒的な暴力を前に、梓は己の脚を平手で叩き鼓舞し、己の新たな力の名を叫ぶ。

 

 襲い来る気の塊に対し、梓は真っ向から右足を立ち向かわせた。

 

 ガキィン!! と再び激しい金属音が響き渡り、梓の脚が王貴の牙により削られ始める。ガリガリと音を立てながら王貴が届かなかった僅かな溝を食っていく。

 

 

 

「う、おおおおおおおおおおおっらぁ!!」

 

 

 

 

 その溝が埋まり切る寸前、梓の脚を添うようにして牙の方向が変化する。所謂「いなされた」と表現されるような、斜め上方に弾かれてしまったのだ。

 

 

 

 

「へっ、へへ……。ちょっと危なかったかな?」

 

「――――」

 

「あら絶句? ご自慢の技を足蹴にあしらわれて驚嘆のご様子で」

 

 

 

 ――――削れたな。

 

 

 

 梓に煽られながらも、王貴は思考を巡らせる。

 

 王貴が相手を分析し、事細かに状況を把握しながら戦うことは極めて稀有な行動だろう。彼を知る者がこれを見れば、違和感や嫌悪感を抱くやもしれない。

 

 圧倒的暴力で捩じ伏せることを放棄し、多方面から観察し値踏みする。雑感、慢心とは掛け離れた行動を取る王貴。

 

 

 

 ――――厄介な記憶だ。

 

 

 

「そろそろ私も帰りたいし、終わらせちゃおうかしら……ね!」

 

 

 

 止めだと言わんばかりに、梓のハイキックが王貴の頭部に襲いかかった。

 

 

 

「な――――」

 

「――――早計だったな、雌馬」

 

 

 

 しかし、梓の足が王貴の頭部に触れる直前、見えない何かに阻まれて止まってしまっていた。まるで、先程の脚による鍔迫り合いの時の様に触れることができないでいた。

 

 先程と違うのは、その溝を創り出しているのが梓だけでなく、王貴も関わっていると言うことだ。

 

 

 

「なるほど、相性は素晴らしい。その言葉は受け取ってやろう。だが、それを貴様が発言することは金輪際許可しない。それは優位に立つ者のみが許された特権だ」

 

 

 

 梓の足がギリギリと悲鳴を上げる。ただ蹴りを止められているだけではない。見えない何かに脚が締め付けられているのだと気付くのは難しくなかった。

 

 

 

「下らぬ芸当だ。原理は知らんが法則さえ見抜けばこの有様。全く、前回も今回も、工夫が足りんな廃棄物(エンズ)共」

 

「……工夫……ですって?」

 

「貴様にそれ以上享受する資格はない。精々、奇っ怪な彫像となり果てた後に考えることが可能であれば、独りで悩むことを許――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

「あんまり新人を虐めんなよ霧夜」

 

 

 

 

 

 

 

 

 堂々と講釈を述べる王貴の背後から、突如目にも止まらぬ速さで飛び出してきた白銀の巨躯の何かが突進してきた。

 

 

 

「ごぼっ……!?」

 

「講釈たれてるお前も、気の使い方が一辺倒なんだよ。相変わらず背後はすっからかんだし」

 

 

 

 背中にのしかかる巨大な獣の重量。その獣の体躯にまとわりつくように、白い煙が細く漂っている。

 

 

 

「義経ちゃんダウンさせたし、遊びに来たぜ?」

 

 

 

 





 あとがきしょーとすとーりー 御遊戯十傑集

千李「では! 基本とも言える十傑集走りをマスターしてもらうわ!」

虎之助「十傑集走りって何?」

王貴「黙っていろ直系の」

虎之助「ち、直系? 誰の?」

十夜「まあまあ樊瑞」

王貴「何故王(オレ)が山賊なぞにならねばならん!! 王(オレ)はどう考えても衝撃の立ち位置だろう!!」

十夜(ファッションセンスが皆無なところそっくりだから)

千李「まず車より速く走ります」

三千尋「壁越えだけでやってくれ」

虎綱「世界記録が時速44kmなんだけど」

千李「次に肉眼で捕えられない程度の速度で足を動かします」

十夜(遊び半分で参加したのが間違いだったか)

準「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」シャカシャカ

十夜(ハゲ先輩ここまでついてきてるやばい)

王貴「精々気張れセルバンテス」

紋白「頑張れセルバンテス!」

準「紋様のご命令とあらばぁああああああああああああああああああああああああ!!」シャカシャカ

十夜(ロリコンってすごい)

完
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