MAJIKOI×DRIFTERS   作:霜焼雪

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第二十三幕 例外の方が多い規則

 

 

 

 太く鋭利な刃物で切り裂かれた傷を背中に受け、源義経は地に伏し立ち上がれずにいた。純白の制服を己の鮮血で染め上げ、さらには大地に血だまりをも作っている。

 

 友人を切り捨てることに覚悟を決めた筈の剣士が、その友人に切り捨てられ生かされている。もぞもぞと動いてはいるが、立ち上がる気配はない。

 

 それをやってのけた張本人、国吉灯は己の狼の様に爪の尖った右手をゴキゴキと鳴らして霧夜王貴を踏みつぶしていた。肩甲骨と肩甲骨の中間と腰の付け根を両脚で抑え、力づくでは立ち上がれないようにしながら王貴の上にしゃがみこんでニヤニヤと笑っている。

 

 

 

「ぎっ、ざまぁ……!!」

 

 

 

 常人でも怒りを覚える踏みつけという行為に、積み上がった自尊心が大気圏を突破するほどの高さを誇る王貴が耐えられる訳もなく、顔面にぷくぷくと青い血管を浮かびあげている。顔も真っ赤で、怒りに塗れていることが明らかであった。

 

 体も僅かに震え、体から殺気が滲み出している。堂々と講釈を垂れていたところで不意を突かれたことによる苛立ちも相まってか、無意識に漏れ出した気が体の震えに合わせて大気や大地に震動を与え始めていた。

 

 

 

「熱烈なキスで大地も大喜びじゃん?ま、生かしてやるから感謝してくれ」

 

 

 

 殺気を全身で浴び、王貴の顔が真っ赤になっていることも把握していながら、ぐりぐりと足を動かして彼をさらに地に擦りつける灯。ただの怖いもの知らずなのか、それとも王貴を抑え込める自信があるのか。灯は笑いを崩さない。

 

 その光景を見ていた南浦梓が顔を顰め、カツンカツンと音を立てて灯に近づいていく。裸足の筈の梓の足もとは地面から僅かに浮き、地面の小石を蹴散らし音を立てていた。

 

 

 

「ちょっとアッカリン!!人の獲物横取りしないでよ!!」

 

「ぶぐっ!」

 

 

 

 梓はご立腹のようで、声を荒げながら灯の胸元に蓄えられた白銀の獣毛を毟る様に握りしめ、力強く引き寄せて鋭く睨み付けていた。

 

 その際、王貴の頭を踏みつけて地面と同化させようとしていた梓だが、その視線を一切王貴に向けていなかった。道端の小石でも切り飛ばすかのような関心で踏みつけられた王貴、彼の怒りのボルテージは極点に達し、メーターを振り切って破壊しようとしている。

 

 

 

「うっせーな。負けそうになってたくせに文句言うな」

 

 

 

 灯もその怒りを確かに体で感じ取っているはずなのに、王貴に視線を落そうとはしない。あくまでも梓との対話に意識を向けているようだ。

 

 

 

「コイツもお前も、能力の使い方が単純なんだよ。そこらへん優秀な高坂にでも訓練してもらえ」

 

 

 

 そう言うと、灯は自分の左腕を梓の前に突き出した。すると、その腕がまるで陽炎のように揺らめき輪郭が曖昧なものになる。まるで煙の様に色素まで抜けて行ったその腕が梓の周囲に漂い、彼女の怒気を霞ませていった。

 

 僅かに灯を惹きつける力が弱まった瞬間、ギラリと鈍く光る巨大な爪が梓の首元に添えられた。灯の肘から手首までは煙の様に原形を保っていなかったが、手首より先だけは梓の首元で実体化している。

 

 奇妙な異能、廃棄物(エンズ)が畏怖されるべく所以を肌で感じて、ようやく梓は身震いした。

 

 

 

「っ……!」

 

廃棄物(ばけもの)になり立てだからって怯えるのはもうこれっきりにしとけ。あずにゃんももう廃棄物(おれら)と同じなんだから」

 

「…………分かったわよ」

 

 

 

 梓は突き放す様に灯から手を放したが、灯は大してバランスを崩すことなく王貴の上でしゃがみ続けている。

 

 

 

「おい金髪くん。次会ったら絶対殺すからな!」

 

 

 

 グイッ、と王貴の顎を脚で持ち上げて顔を無理やり上向かせて梓は宣言する。異能を解除して、文字通りの素足で顔面をなじった。

 

 

 

 

 

 その瞬間、王貴の中で溜め込まれていた何かがようやく爆発した。

 

 

 

 

 

「雌馬」

 

 

 

 轟ッ!! と王貴を中心として竜巻が発生した。

 

 

 

「っ!?」

 

「おっ、と……?」

 

 

 

 その瞬間、王貴の頭に脚を添えていた梓の脚に細かな擦過傷が無数に刻まれ、王貴の上に乗っていた灯がバランスを崩し竜巻に巻き上げられた。

 

 

 

 

「ただでは、殺さん、ぞ……! 貴様らぁ……!!」

 

 

 

 圧倒的な気の量、それを無意識に竜巻に変換し周囲を拒絶する王貴の異能(ちから)。地面を抉って取り出した砂や石すらも気を付随させ凶器と変貌させ、彼ら廃棄物(エンズ)を甚振り殺すような技を展開していた。

 

 梓の脚に食い込む棘のような石と、傷口を広げるように這いずる砂。梓の表情が苦痛に歪む。ただ傷つけられただけではなく、「痛む様に傷つけられた」脚は異能を解除していた。

 

 能力を解除した油断からの失態、自慢の脚が傷つけられた怒り、おろし金で何度も傷つけられたような激痛。それら全てを込めて王貴の竜巻を突破しようと異能を再装填した梓だったが、それらの複雑に絡み合った感情群が瞬間的に冷めてしまった。

 

 吹き荒ぶ竜巻が、王貴のそこの知れない莫大な気を食らってさらに膨張していったからだ。

 

 まだまだ大きくなるその異能はまさに廃棄物(エンズ)のそれじゃないか、と梓は感じてしまった。なまじ廃棄物(エンズ)として生まれた自分よりも、漂流物(ドリフ)でありながら圧倒的な異能を行使する王貴に、恐れを抱いてしまったのだ。

 

 一歩、その竜巻から退く。

 

 

 

「怯えるのはこれっきりにしろって言ったろ」

 

 

 

 それを背中から支えるように押し止めた白銀の狼男。

 

 

 

「おーおー、刺激しすぎちゃったか……。霧夜め、少しは大人しくなったと思ったが……」

 

「国吉ぃ……! 貴様、生きて帰れると思うな……! (オレ)が満足するまで痛めつけて、それから首を刎ねて血を抜き奇怪なオブジェにしてやる……! 裏切った結果の廃棄物(エンズ)、貴様にはお似合いだ!!」

 

「首飛んだらその時点で俺らはオブジェなんだが?」

 

 

 

 立てた親指で自らの首に一筋の軌跡を描く灯。

 

 たったそれだけの行為に、王貴の不機嫌さも計測不能なまでにメーターを振り切ろうとしていた。

 

 

 

「っ……!!」

 

「まあそんなことはどうでもいいんだよ」

 

 

 

 王貴の苛立ちを意に介さず、灯は梓の肩に手を置く。

 

 

 

「お前は立った今重大なミスを犯したぜ」

 

「何……!?」

 

 

 

 ぼそりと梓に何かを耳打ちする。

 

 

 

「えっ……」

 

「やりゃあできる。お前と霧夜は相性がいい。そんじゃあな霧夜。また会えたらちゃんと戦ってやるよ」

 

 

 

 ヒラヒラと手を振って王貴に背を向ける灯。その視線の先には刀を突き立てて上半身を地から浮かしている剣士がいた。

 

 

 

「はっ、はぁっ……!!」

 

「もうよそうぜ義経ちゃん。痛々しくて見てらんねぇよ」

 

「誰のせいだとっ……!!」

 

「俺のせいだよ――――」

 

 

 

 ボンッ!! と灯の足もとが弾ける。

 

 

 

「――――だから、最後まで面倒見てやるよ」

 

 

 

 その音が聞こえた時には、既に義経の背後に灯が回り込んでいた。後ろから聞こえた声に振り返ろうとした義経だったが、体が必要以上に回転してしまう。

 

 

 

「……がふっ?」

 

 

 

 二転三転、くるくると血しぶきを上げながら空中に弾き飛ばされていることに義経が気が付いたのは、酷く冷たい視線で自分を見上げる灯を視界に入れた時だった。

 

 数秒の滞空時間を終えて着弾する義経。高く放り投げられ、背中の傷をさらに増やしながらも意識は刈り取られていない。それどころか、再び立ち上がろうともがく。その姿から灯は視線を逸らしてしまった。

 

 

 

「……あずにゃん、ちびっ子と帰るぞ」

 

「おい国吉、何を勝手に逃げようと――――」

 

 

 

 

 

灰靴(シンデレラ)!!」

 

 

 

 

 

 灯を止めようと手を伸ばし前進しようとした王貴の身体が勢いよく後方に弾き飛ばされた。竜巻も付随して弾かれたことにより数メートルの轍が刻まれる。

 

 

 

「すっ、ごーい……。本当にできちゃった」

 

 

 

 それをやってのけた張本人である梓は己の能力に感嘆の声を漏らした。自分の周囲に王貴のような竜巻を発生させながら。

 

 

 

「だから言っただろ? アイツとお前の愛称は実際良いんだよ」

 

「いいものもらっちゃったー!」

 

「やれやれ……。ちびっ子、大丈夫か?」

 

 

 

 彼らの小戦争は、漂流物の惜敗を持って終戦する。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「やれやれ、困ったものだ」

 

 

 

 自らの内臓を贅肉という贅肉で包んだ肥満体系の男が忌々しそうに呟いた。

 

 

 

「あのような登場をしておいて、まさかあの程度とは」

 

「…………」

 

「五行? 気の障壁? (ファング)? 悪いとは言わんがそうではない」

 

 

 

 トントン、と車椅子の肘掛を指で小突く。

 

 

 

「あの(あか)が欲しいな。鮮血を極限まで薄めた潤いのある艶やかな「扉」が欲しい。そうは思わんかね「EASY」」

 

 

 

 男は手を指しだし、対話している少女の答えを待った。しかし、少女はその投げかけに嫌悪感しか示さない。怒っていいものか、泣いていいものか、はたまた笑っていいものか。そんな複雑な感情から適した表情を探し当てられずにいるようで、少女の表情は二転三転。

 

 

 

「連れないな。この通路の住人は挙って無口を信条とするのか?」

 

「あんな役人風情と一緒にしないでほしいの」

 

 

 

 思わず少女の口から苛立ったような声が漏れる。その声が発せられたことをきっかけに、少女の表情は苛立ちにより固定されたらしい。

 

 

 

「この私と、あんな奴のどこが似ていると言うの」

 

「そうだな……。強いて言うのであれば、親子のようなんだよ」

 

 

 

 カツン! EASYの脚が一歩前に出される。

 

 

 

「その腹掻っ捌いてもらおうかしら。丁度連れてこようと思っていた落ち武者がいるの」

 

「それは「崩王の世界」ではなく、「黒王の世界」のことだろう?」

 

 

 

 キリリ、車輪が三十度回され前進する。

 

 

 

「桔梗紋を呼ぶその人選には脱帽するよEASY。しかし、あの世界とこの世界を混ぜる特権は私に「だけ」ある。その意味が分かるか?」

 

「そうよ。お前がやり直したせいで、お前のところの金髪が厄介な状態で向こう側に付いたの」

 

「しかし、その代わりにお前は崩王とその忠臣を手に入れた」

 

「そうだとしても、お前がやったことは邪魔でしかないの。あっちの悪七兵衛の件も、こっちの立花の一件も! 全部全部狂い始めたの!」

 

 

 

 カツン、カツン! EASYの脚が肥満体系の男の前で止められた。

 

 

 

「今度何かしてみなさい。お前からありとあらゆる能力を奪わせてから奇怪なオブジェにしてやるの」

 

「おや、私は塩の塊の方が好みなんだが」

 

「ふざけるのも大概にするの」

 

 

 

 ガツン! EASYの蹴りで車椅子が傾く。

 

 

 

「暫く「黒王」にこき使われているといいの」

 

 

 

 車椅子が倒れ込む先には、まるで舞台に取り付けられた奈落のような穴があった。

 

 

 

「おやおや手厳し――――」

 

 

 

 言葉を最後まで紡ぐこと叶わず、男は吸い込まれるように穴の中に落ちて行った。

 

 

 

「ええい紫め。自分の不始末は自分で処理しなさいよ」

 

 

 





 キャラクター紹介

・霧夜王貴
 キリヤ=オーキ=スカイウィンドこと金ぴかのなりそこない。スカイウィンドとかいう名前からして怪しい。
 おっぱい星からやってきた甘えん坊。幼少期泣いたふりをして保母さんに抱き着き胸をもんでいたことがある。十二歳まで夜中にトイレに行けなかった。
 驚異的なマザコンとシスコンがかけ合わさって最強に見える。これだけ見たら驚異的な変態。ロリコンのせいで霞むが現実に居たらまずひかれてもおかしくない。
 妹も姉も好きということで手におえない。マース企画のデザイナー棚橋といい勝負のシスコンぶり。
 バラライカ、レヴィ、ロベルタ、シェンホワあたりの女死会に突っ込んでやりたい御曹司。

・国吉灯
 酒飲み自堕落といった典型的な不良(よからず)。デッドナイフ英二の師匠との噂。
 よくバイクに乗っていることを怒られるが、きっとそのうち合体してくれるから合法。そして下半身とバイクが爆発四散して上半身が飛んで死ぬ。
 おっぱい星人の中でも上位クラスの存在、王貴の師匠。高速道路で運転しながら手を出すとおっぱいの感触が得られることを最初に発見した天才。
 カラオケの十八番はグループ魂より「女体盛りやるならリメンバーミー」。
 北春日部老人会の引率で「ニッポンノ、ミナチン!」と言ってほしいオリキャラベスト3。1位はミッチ。
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