MAJIKOI×DRIFTERS   作:霜焼雪

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第二十七幕 NEEDING/GETTING

 

 

 

「……薬草、ですか?」

 

 

 

 川神異界兄弟がほんの少しだけ心内を吐露し合っていた頃、井上準はこの世界に一番詳しいと見込んだユイにある提案を持ちかけていた。その顔はいつになく真剣で、隣で話を聞いていた那須与一は訝しげに準の様子を窺っている。

 

 

 

「ああ、常備してあるやつ、栽培してあるやつ、何でもいい。薬や応急手当できる道具を見せてくれ。今の内に俺がそれに適応しておかなきゃならない」

 

 

 

 幼女嗜好だの禿だのとののしられることが多い準であるが、その性能は一般学生から遥かにかけ離れている。大人でも敵わない者の方が多いかもしれない。

 

 かつて彼がいた世界において、井上準という生徒は成績優秀という位置づけで、運動自体も得意と自他ともに認められている水準にあった。加えて、葵紋病院という大病院の副院長の息子という血統書付き。

 

 たった一つの汚点、幼女趣味の変態ということさえなければ女子から引く手数多だったことだろう。現に、幼女嗜好という理由で告白を幾度となく断ってきたという。

 

 しかし、そういった負の面を除けば優秀であることは事実。単身ここに飛ばされたこともあってか、何か憑き物が落ちたような表情を見せるようになった彼はある役目を全うしようとしていた。

 

 それは、叩き込まれた知識を用いた医療班である。

 

 初歩的な応急処置からある程度の薬学の知識まで、彼はこの未発達の世界において間違いなく五指に入る医学の知識を持っていた。異常な教育の影響で特に薬に関しては最先端を行っているだろう。

 

 

 

「…………少々お待ちください」

 

 

 

 その意図を理解し、ユイは準の頼みで連れてきていたハーピーの村の長に対して事情を説明する。

 

 

 

『ムラオサ!』

 

『一体なんでしょうか、行灯機構(ラント)の方』

 

『実はですね――――』

 

 

 

 ユイが交渉を進めていく中、ようやく状況を理解した与一が準に話しかける。

 

 

 

「そう言えばお前、医者の息子だったか」

 

「まあな。大規模な手術は無理だが、応急手当ならできる。普段から自分の体に叩き込まれてるからな……」

 

「そうか、あのラジオか……。だとすると、手術まで自分でできてもおかしくなさそうだけどな……」

 

 

 

 ある時は骨を外されたり、ある時は顔を殴られたり、またある時は気絶から起こさせるために水責めにされる。その光景を見ていないものの、毎日のように準の叫び声を聞いている与一はその辛さに共感せずにいられなかった。

 

 準の武神から折檻を受ける毎日と、自分が姉貴分から関節技を決められる毎日を重ねてしまっている。

 

 

 

「他にも色んな無茶ぶりに答えてるからな……」

 

「苦労してるな……お前も……」

 

「なあに、もう慣れたもんさ……」

 

 

 

 どこか遠い目でありながら、沈む夕日を見つめるその瞳は僅かに潤んでいるようだった。

 

 

 

「お待たせしま……どうしたんですか?」

 

 

 

 そこへ、交渉を進めていたユイが怪訝そうな表情を貼り付けてやってきた。その両手には瓶詰にされた種のようなものから、摘んできたばかりのような青々とした数種類の葉がある。

 

 「なんでもない」と追及をかわしつつ、準は目に見えた成果を素直に受け取ることはせずに敢えて問いただす。

 

 

 

「どうだった」

 

「……見たとおりですよ。食材以外に備蓄してあるものは枯れた種、知識が乏しいせいかどれがどう利くかも分かっていないようで、手当たり次第に摘んできたんです。その昔、旅人に採っておけと言われたものは優先したようですが……」

 

 

 

 ドサッ、と音を立てて落とされる植物たち。その音からして相当な量があるようだが、散乱させられたそれらを見る限り統一性はない。言葉通り、手当たり次第で聞きそうなものを持ってきたようだ。まるでゴミをかき集めてきたかのような達成感のない顔を浮かべるユイ。

 

 しかし、それを見て準は呆れも諦めもしていなかった。

 

 

 

「まあ織物ができるんだから包帯は布で補えるとして割愛してだな……。アロエ、ヤロウ、オトギリソウにコンフリー……なんだ、全くという程じゃないな」

 

「え……?」

 

「誰がこういう鎮痛やら止血やらに使える薬草を教えておいたのかは知らないが、中々に知識がある奴だろうな。山奥の田舎者か、時代錯誤のご隠居か、幅広い医学に優れた秀才か……」

 

 

 

 はたから見ればただの雑草や種子にしか見えないようなものを手に取り、瞬時に薬草の名前と効能を把握する準を見た与一は目を丸くさせる。

 

 

 

「……なんだよ」

 

「いや、真面目で気味が悪いと思ってな。槍か剣でも降るか?」

 

「扱いがぞんざいすぎやしないか? 普段の俺をなんだと思っている」

 

「その普段があの普段だからな」

 

「そんなことは……うん……それを言われるとな……」

 

「まあ見直したということだ。評価が上がったんだから喜んでおけば――――」

 

 

 

 子供をからかうような笑顔を浮かべていた与一だったが、突然言葉を遮断して両目を見開き動きを止めてしまった。

 

 一体どうしたのか、と尋ねようとした準を手で制し、人差し指を口に添えて声を上げるなという指示を出す。

 

 

 

「…………転がる、音……。地面が抉れる音もする……」

 

 

 

 何かを聞き取っている与一の真似をするように準も耳を澄ませてみるが、聞こえるのは少し離れたところで談笑しているハーピーたちの話し声が精いっぱいだった。しかし、与一はどうあらそれとは違う異質な音を感知しているらしい。

 

 

 

「……石を弾いて、こっちに…………馬車か?」

 

「馬車って……敵か!?」

 

 

 

 準の顔色が目に見えて青くなる。今や壊滅状態のこの村に追撃が来てしまえば、いくら川神千李という天災がいても多大な被害は免れない。何よりも、川神姓を持つ二人は今村から少し離れたところにいる。例え千李が万全でも無傷では済まないだろう。

 

 しかし、与一は誰よりも敵の接近に早く気が付いていながらも、その対応は実に落ち着いたものだった。

 

 

 

「分からんが……明らかに音が少ない。戦でいえば使者程度の量しか感じない……」

 

「て、敵じゃないかも知れないってことか?」

 

「むしろ、敵じゃない方に賭けたいくらいだ」

 

 

 

 そう言いながらも、与一の左手には既に弓が握られている。右手に(ゆがけ)ははめられていないものの、いつでもこの場から離れて狙撃準備ができるような用意を整えているようだった。

 

 一分と経たないうちに、馬車の音が準の耳にも届くようになっていた。ガラガラ、と小石を弾き飛ばしながらけもの道を駆け抜ける車輪の音が、その音を聞いている者の心臓を早めようと急かしているようだった。

 

 

 

 

 

「どっせーい!」

 

 

 

 

 

 その音の発信源が到着する前に、何か黒い物体が飛来して準の体を押し倒した。

 

 

 

「どぅわぁ!?」

 

「んー……敵影なし、だが…………ちょっと遅かったか」

 

 

 

 黒いそれは、準の頭を足蹴にしながら村の惨状を確認していた。既に廃棄物(エンズ)に襲われて戦いに区切りがついてしまっていることを理解し、来襲者は顔に苦渋の思いを滲ませている。

 

 

 

「…………も、モモ……せん、ぱ……?」

 

「ん……? お、おお! ハゲ、生きてたか!!」

 

 

 

 下敷きになっていた準の胸倉を掴んで持ち上げ、がくがくと揺さぶるのは長身の女性だった。

 

 体の輪郭が分かりやすいタイトな黒いスーツを身に纏い、現代から飛ばされてもなお維持されている髪や肌の艶は彼女が常識外の存在であることを象徴していた。

 

 武神と讃え恐れられた少女、川神百代がそこにいた。

 

 

 

「…………モモ先輩が、俺を殺しに来た」

 

「失敬な!」

 

 

 

 スパン! と張り手が準の頬を襲った。頬をはたいただけなのに、準の目はぐるぐると回っているようにピントが合っていないようだった。

 

 

 

 

 

「私は漂流物(ドリフ)だぞ!」

 

 

 

 

 

「ぶ、武神だと……!?」

 

 

 

 あまりにも突飛な登場に腰を抜かしかけた与一だったが、当の本人は一切の動揺を見せていなかった。近所の商店街で偶然出くわした、という程度の反応に近いだろう。

 

 

 

「お、与一だ。が、私の世界の与一ではないな。匂いが違う」

 

 

 

 百代が準を乱暴に離したところで、ようやく与一が探知した音の発信源が到着した。

 

 ガラガラ、と獣道を踏破しながらやってきたそれは、二頭の馬によって運ばれてきた馬車だった。屋根も何もない荷台に、複数人の人間が詰め込まれている。

 

 その荷台から素早く飛び降りたのは、ユイと似たような恰好をした顔立ちの整った男だった。

 

 

 

「ユイ、無事か」

 

「と、燈火様!?」

 

「普段から連絡用の扇子は携帯しろと――――いや、ふむ、連絡している暇がなかったと見る」

 

 

 

 燈火は村の様子を一瞥し、ユイが知らせようとした状況を把握しきって見せたように頷く。

 

 

 

「申し訳ありません。つい先程まで廃棄物と交戦を」

 

「いやいい。よく漂流物を護り切った。漂流物は二人か?」

 

「いえ、あと二人」

 

「四人か……。こちらの保護した漂流物を含めれば新たに七人か。十分に揃いつつある」

 

 

 

 荷台に乗っている三人の人間に目を向けて確かな実感を得たように、燈火はぐっと自分の拳を握りしめた。

 

 

 

 

 

 

 

「…………なあ京極先輩。何してるんですか」

 

 

 

 

 

 

 

「やあ井上。私の世界の井上かは分からんが、元気そうで何よりだ」

 

 

 

 燈火と騙る(語る)京極彦一の登場に、準は愕然とせざるを得なかった。

 

 

 





 あとがきしょーとすとーりー 快楽男二人組

十夜「くっそー、またMASTERフルコンできなかった……。俺にはPROがお似合いなのかな……」

……ィゴッ……ァモン……

十夜「……ん?」

……ゴッ……カモッ……

灯「ヒュウィゴッ……カモン! ヒュウィゴッ……カモン!」

十夜「!?」

灯「練習は~大事~♪  デッドナイフ英二~♪」

十夜「」

灯「なななな~なななな~♪ 七浜ベイスターズ♪」

灯「いきなりでてきてごめーん♪ まことにすいまめーん!」

灯「ンフッ」グルグルグルグル

十夜「――――なっ、なんだこいつぅ!?」

灯「ラップで夢色ハーモニーMASTER+フルコン目指そうよー!」

十夜「なっ、なんだよいきなり……。無茶言うなよ、☆25のSTAR!!でもフルコンできてないっていうのに……」

灯「MASTERの練習大事だね! フルコンどれできる? SAY!」

十夜「えっ? そうだな……DOKIDOKIリズムとか……あとはミツボシ☆☆★あたりなら……」

灯「OK! ミツボシ、星殺し!」

十夜「星殺し!? なんで川神流の技知ってんだよ!!」

灯「ミツボシ~♪ 星殺し~♪ 渋谷凛、大車輪!」

十夜「大車輪!? 一子の知り合いかお前!?」

灯「渋谷凛~♪ 大車輪~♪ 宇佐美巨人、GOIN'!!! イェイ!!」

十夜「…………はっ! いぇいじゃねーよ!!」バシッ

灯「あっ……」

十夜「何なんだよこの歌は!!」

灯「…………」

十夜「あれ、急に大人しくなっ」

灯「千川ちひろ、タカヒロ!」

十夜「帰れ!!」

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