MAJIKOI×DRIFTERS   作:霜焼雪

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第二十八幕 涙をぶっ飛ばせ!!

 

 

 

 行燈機構(ラント)の頭だという燈火という男を準は知っていた。ユイたちと似た和服の上から一枚羽織を着た男を知っていた。

 

 京極彦一。川神学園においてイケメン四天王(エレガンテ・クアットロ)の一人として数えられていた学園屈指の美男子であり、言霊部部長として学園の様々な行事に際して活躍していた有名人であった。

 

 その言霊の力を準はよく知っていた。超能力というよりは催眠や洗脳に近い精神面を操作する技であるそれは、主に軍の士気を高めたりする時によく見られたものだった。川神学園は何かと争う形式の行事が多いからか、京極彦一という男の能力は重宝されていたのだ。

 

 しかし、行燈機構の能力はどう考えてもそういう精神の話では片づけられなかった。それこそ超能力のような、廃棄物(エンズ)たちが行使するような力を以て漂流物(ドリフターズ)を援護する様は、とても京極彦一が頭だとは思い描かせてはくれなかった。

 

 しかし、彼は燈火と慕われている。

 

 自分の目の前で燈火と呼ばれている。

 

 シンと呼ばれていた少女とユイを引き連れ、ハーピーの村の再建を指揮し、そこを漂流物(ドリフターズ)の拠点としようとしていた。

 

 

 

 ――――信じられるかよ。知った顔が異世界で正義の味方みたいなことやってるなんて。

 

 

 

 ある程度の作業が片付いた頃、漂流物(ドリフターズ)たちは村から少し離れた開けた場所にいた。いくつかのテントのようなものを建て、漂流物(ドリフターズ)の根城を作っておいたのだ。

 

 そこで、準は作業が落ち着きだした彦一に声をかけることにした。

 

 

 

「……ほ、本当に先輩ですか……?」

 

「少し年をとってしまったがな。ふむ……よくよく見れば、どうやら元の世界は違うようだな。まだまだお前は「つかれている」」

 

 

 

 年月を重ねたことによる外見の変化や、別の世界から来たのかどうかを聞いている訳ではなかったのだが、準はとりあえず受け取ることにした。

 

 何より、顔も知らない学園生よりは顔を知った別人の方が幾分かやり易かった。

 

 

 

「で、何をしているかだったか。簡単なことだ。漂流物(ドリフターズ)を掻き集めている」

 

漂流物(おれたち)を?」

 

 

 

 その通りだ、と深刻そうに彦一は頷いた。

 

 

 

「崩王軍がこの世界を飲み込んでしまうのも時間の問題だ。我らの力を集結しておく必要がある。その時のために私の代の漂流物(ドリフターズ)で作った行灯機構だ」

 

「その組織のトップ、先輩だったんですね……。ということは」

 

「私も漂流物(ドリフ)だ」

 

 

 

 やりやすい知己の顔とは言え他人である成分は消え去っていたわけではない。はっきりと漂流物(ドリフ)だとくちにしてもらったことで、ほうっ、と準の口から生ぬるい息が漏れた。同時に上がり固まっていた肩も落ちる。

 

 幾らか彼が緊張していた証拠で、同時に安心感を覚えた、彦一に心を許し始めた証だった。

 

 ようやく緊張のようなものもなくなったところで、準は純粋な質問をぶつけることにした。

 

 

 

「私の代の、ってのはどう言う意味ですか。他にも漂流物(ドリフ)が行灯機構に?」

 

 

 

 その質問に、彦一は何やら答えにくそうな表情を浮かべるが、少し考えたようにして言葉を紡ぐ。

 

 

 

「代とは言ったが、そうだな…………いや、もう私たちの代は私しかいない」

 

「…………まるで定期的に呼ばれているような言い草だな」

 

 

 

 そこで与一がようやく話に加わってきた。

 

 準よりも警戒心の強い彼は百代からも彦一からも距離をある程度とっている。したがって準からも離れている位置なので、よく話が聞き取れるものだと準は那須与一という男のスペックに感心する。

 

 

 

「私の代のということを説明するのは少し面倒だが、簡単に言えば十数年前に呼ばれた漂流物(ドリフターズ)のことだ。この時はまとまって呼ばれてな」

 

「先輩今いくつですか! とても三十路越えには見えませんが!」

 

「もうすぐ半世紀を生きる」

 

 

 

 準は絶句する。何十年も前に飛ばされてきたということよりも何よりも、その風貌は三十路を迎えていないと言われても信じてしまう程に美しかったからだ。

 

 

 

「……なしてそんな若いとですか」

 

「何故訛った」

 

 

 

 与一の突っ込みが入る。僅かに距離が縮まってきていることに気が付いたからか、彦一は優しく微笑んでいる。

 

 

 

「私の代の漂流物で作り上げた技法によるものだ。行灯機構の異能は全てそこから来ている」

 

「あれを、先輩が?」

 

「私が廃棄物(エンズ)だったら一人でできただろうがな」

 

 

 

 準が言いたかったことがすぐに分かったのだろう。廃棄物(エンズ)という単語を出して順に説明を続けた。

 

 

 

「技を模倣する漂流物(ドリフ)と、霊を操ることに長けた陰陽師漂流物(ドリフ)。そして言霊の漂流物(わたし)で作り上げた。言霊信仰、技の名の霊を扱うことでこれは成立している」

 

「言霊か……確かに、詠唱すれば力が湧いて」

 

「お前黙ってろ」

 

 

 

 どうやら言霊自身に興味は多分にあったのか、与一は既に準の横で話を聞いていた。

 

 

 

「物についた名前を強い力を込めて発することでその事象と関連付ける。遥か昔から忌言葉などと言われているものもこれが関係している」

 

「ああ、縁起が悪いってやつですか。言葉にすると縁起が悪いことがそのまま起こるって言う……」

 

 

 

 深く頷く彦一。

 

 

 

「それを応用した。技を模倣する漂流物(ドリフ)廃棄物(エンズ)の名のない技を写し取り、それを技にまで昇華させた事象を私ともう一人の漂流物で名を込めた。その名を呼ぶことで精霊を操り現象を引き起こす。精霊信仰(アニミズム)にも近い部分があるか。他人の技を完璧に仕上げる能力があってこそだったがな」

 

「それじゃあ、どれくらい作ったんですか。その、新しい異能は」

 

「……四だ」

 

「えっ……」

 

 

 

 期待のこもった準の声を断ち切るような彦一の言葉。与一も驚いた様子で次ぐ話を待った。

 

 

 

「技を模倣する漂流物(ドリフ)に限界が来たんだ。元々廃棄物(じんがい)の異能だ。最後の一つを披露したのと同時に霧のように分解され消えていった」

 

 

 

 彦一はその終わりを明確に語る。

 

 

 

「技をコピーした瞬間、川神百代の瞬間回復を以てしても回復できない呪いのようなものがかけられた。廃棄物(あいつら)の技は後天的に「弄られて」できたものだ。人間として問題があったと言えど、あの女は人間であり続けた。化け物になるかどうか、あれも悩んだことだろう。だが、あいつにはしっかりとした目的があった。それを成し遂げるには、いや、成し遂げた後でも人間であり続けないといけなかった。だから、あいつは命を手放した」

 

 

 

 目を瞑り、想起するように語るその口調は実に淡々としていた。しかし、その感情は何故か準に伝わっていた。恐らく、与一にも伝わっていたことだろう。遠く離れて聞いている百代にも伝わっていることだろう。

 

 言霊使いの性か、抑えきれない感情は声のトーンには表れず、姿をひそめて第三者に伝わっていく。

 

 

 

「あいつも廃棄物(エンズ)との因縁を終えて覚悟していた事だ。重く捉える必要はないからな」

 

 

 

 ひとしきり思い出しきったからか、大きく息を吐き出して一人の漂流物(ドリフ)の話を終えた。

 

 

 

「では話を続ける。作り上げたのは「風の柱」、「竜巻」など風に関する四つの異能。「音響探索」と「無線通話」、「翻訳扇子」は残りの二人で作り上げた。とは言っても、私は翻訳意外はほとんど何もしていないがな。私は二人が残したこれを力の持たない行灯機構の人間に教えることしかできなかった」

 

「……じゃあ、ユイも?」

 

「ああ、ユイは――――」

 

「わ、私は素質がなかったようで、音響探索に特化させてました……っと!」

 

 

 

 ドサッ! と音を立てて荷物を運んできたユイも話を聞いていたように答えた。犬耳は伊達ではないということだろう。

 

 

 

「もう少しあったので運んできますね、お医者様!」

 

「おう、頼む。それにしても……」

 

 

 

 汗を拭っているユイを全身を眺め、ぼそりと一言。

 

 

 

「もう十年若かったらお医者様として奮起して――――」

 

「“黙れ井上”」

 

「たんぐっ」

 

「舌?」

 

 

 

 良からぬことを口にしようとした準の喉がギュッと何かに締め付けられる。不思議に思いつつ、ユイは彦一に促され仕事に戻った。

 

 

 

「“井上、喋っていいぞ”」

 

「ぶっふぇ!!」

 

「バイキング?」

 

「さっきからうっせーぞ与一! 苦しんでるだけなの見りゃ分かんだろ!!」

 

 

 

 言霊による催眠から解かれた準だったが、「次はないぞ」と扇子をチラつかせられてくぎを刺されてしまう。

 

 

 

「これの素質は完全にランダムでな。身体能力の差などに一切関係なく万人に可能性があるが、素質を持つものは極めて稀だ」

 

「行灯機構は故に少数精鋭になってしまっている、という訳か……。もし誰もがそんなことをできるようになっていれば、今この場に来ている行燈機構は軍勢のはずで、ここまで漂流物(ドリフ)集めに躍起になることもなかったろう」

 

 

 

 瞬時に言い当てた与一に感心する彦一。それは図星だったということもあり、浮かべるのは苦々しい笑顔であったが。

 

 

 

「極まれに漂流物が素質を持っているんだが……この場にはいないようだ」

 

「……ところで先輩。あそこの老人二人も漂流物(ドリフターズ)ですか?」

 

 

 

 準が指差す先には、百代たちが乗ってきた馬車があった。その荷台には二人の老人が縁側に茶でも啜るように座しており、ハーピーの村が壊滅状態から持ち直そうと再建に乗り出している様子を黙って眺めていた。

 

 どちらの越にも、この世界にはふさわしくない日本刀が差してあった。そのため、準は確信を持った上で質問を投げかけていた。

 

 しかし、彦一の反応は好ましくはなかった。

 

 

 

「……そうなのだがな。荷台に座ってより丸まってしまっている側、名を立花虎蔵という。あちらはほんの少しだけ無気力症のようになってしまった」

 

「ええっ!?」

 

 

 

 ――――そんなんで漂流物(ドリフターズ)って呼べるのかよ!?

 

 

 

「顔に出ているぞ井上」

 

「えっ、あ、いやその……」

 

「以前から「ああ」ではなかったんだ。「ああ」なる前は睨むだけで敵を気絶させる強者だったんだ」

 

 

 

 信じられないものを見る目で準はその老人を見る。

 

 いつ死んでもおかしくないような体の丸まり方。軽く押し倒しただけで節々を痛めてしまいそうな弱弱しさを見て、彦一の言葉を信じるのは難しかった。

 

 

「もう一人いたんだ、立花虎之助という若い漂流物(ドリフ)が」

 

 

 

 準を納得させるような理由を述べ始めた。

 

 

 

「再会したばかりの血族だったのだが、上空から襲いかかってきた飛龍の追撃と廃棄物(エンズ)の猛攻に武神も手一杯で、荷馬車から彼が落ちた瞬間に助けることができなかった。引き返そうとしたが、先程話した技をコピーした嵐のような廃棄物(エンズ)に襲われたのが痛かった。捜索もできず撤退しただけ。崩王の手に落ちていないといいが」

 

「……実際問題、難しいだろう」

 

 

 

 僅かでも希望を持たせた意味合いで閉めようとした彦一の言葉を、与一は冷たく切り捨てる。

 

 

 

「その廃棄物(エンズ)とやら、お前たちとは長年の因縁があるものだろう? いわゆる手練れに位置するはずだ。何十年たっても討伐しきれないんだからな」

 

「……確かに、あれは廃棄物(エンズ)の中では一級品だな」

 

「だとしたら、期待を持ちすぎるのは酷だ。半分半分とは言わんがな、少しは覚悟を――――」

 

 

 

 

 

「ぐすっ」

 

 

 

 

 

 与一の足もとが小さく爆発したかのように、彼はその危うい音に飛び跳ねた。

 

 準も与一も、その声の元を見る。そこには、川神学園のものではない学生服を着た、どこか見たことのあるような面影のある少女が涙をこらえていた。

 

 

 

 ――――あの娘は確か……。

 

 

 

 準の大事に保管されている記憶のフォルダが開かれる。

 

 百代たちが到着した直後、ユイの姿を見て泣きつくように抱きついた少女だった。その光景はきっちりと画像として準の脳内に保存されている。

 

 しかし、ユイの困惑する姿を見るや否や。少女は申し訳なさそうに頭を下げ、百代に慰められるように抱きしめられていた。

 

 ユイの顔は黛由紀江の顔に瓜二つだった。世界が違う、ということを行きつめた結果、別の世界では家族ですらなかったのだろう。ユイからみればその少女は顔がよく似た完全な他人だった。

 

 ユイに似た黛由紀江に抱きついていた少女の名は、黛沙也佳。

 

 

 

 ――――サーヤ、とモモ先輩は呼んでいたな。あの一年の妹だったか。

 

 

 

 外見での判断は準の狭いストライクゾーンへ入り込む少女、そして主と離れてしまった小動物感のある行動を見てしまったからか、彼の眼は不謹慎ながらも保養されていた。

 

 そんな彼女が、与一の言葉に泣き出してしまった。その漂流物(ドリフ)と親しかったか、この世界に来て仲良くなったか。

 

 

 

「……トラさん……」

 

 

 

 どちらにしろ、与一の言葉が無神経極まりなかったのは間違いない。

 

 

 

「……おい、与一。あっちでモモ先輩が手招きしてるぞ」

 

「………………いってくる。骨は拾ってくれ」

 

「よう……可憐な少女を泣かせたお前にそんな慈悲をくれてやると思うか?」

 

「そう、だったな……」

 

 

 

 与一は震える足を勧めて、死地に赴いて行った。百代に肩を掴まれると、彼女と一緒に瞬間的に姿を消した。声も姿も見えないところで折檻するつもりなのだろう。

 

 

 

「シン、みてやってくれ…………話を戻すぞ」

 

 

 

 シンという少女に沙也佳を任せ、彦一は話を再開する。

 

 

 

「以来彼は「ああ」だ。完全に呆けているわけではないが、余程ショックだったのだろう。反応が遅れたりと歳相応の老人になってしまった。キツとハチに捜索するよう要請も出した。私も今ここにいる漂流物(ドリフターズ)を本拠地に送り届けてからすぐに搜索に戻る」

 

「…………戯けめ……」

 

 

 

 小さく、か細い、嘆きの声が準の耳に突き刺さった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「っだぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!! どこだよここぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 

 

 





 あとがきしょーとすとーりー 脳内測定機械

百代「おーい十夜! これ見ろこれ!」

十夜「なんだよ一体」

百代「お前の名前を脳内メーカーにかけると「遊」一色なんだよ」

十夜「えっ」

百代「遊び人十夜wwwww生まれつきのゲーマーwwwww」

十夜「なんでインドアだって決めつけるんだよ!!」





王貴「で、その……脳内メーカー? なるものを(オレ)にも試すと?」

百代「ああ! これで人の頭の構成が分かるんだ!」

王貴「ふん……あきれ果ててものも言えんな。そんなくだらん酔狂に身をゆだねるなど塵芥以外の何物でもな」

百代「霧夜王貴で検索かけると、「欲」と「休」ばっかりでなぁ」

王貴「」ガタッガシャン!

百代「おいどうした?」

王貴「ええい! そのニヤニヤした微笑を止めろ!! だ、だがぁ? とても本能的で獅子らしいととれないこともな」

百代「うん? よく見るとちょっとだけ「友」ってあるぞ」

王貴「」ドカッゴロンゴロン!

エリカ「待ちなさい!」バーン!

百代「うん?」

王貴「姉上!?」

エリカ「ふふふ……分かってないわね。かけるべき名前は霧夜王貴ではなくキリヤ・オーキ・スカイウィンドよ!」

王貴「帰ってくれ!!」

百代「じゃあ邪魔な「・」は除いてだな。どれどれ……」

エリカ「「寂」と「金」の二色……」

王貴「」ダッ!

百代「あっ、逃げたぞ!!」

王貴「」ガシャーン!

エリカ「ガラスを突き破って逃げたわ!!」

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