MAJIKOI×DRIFTERS   作:霜焼雪

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第二十九幕 じゃじゃ馬にさせないで

 

 

 

 とある密林地帯――――

 

 

 

「っだぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!! どこだよここぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 

 

 刀を片手に叫び声をまき散らす一人の少年がいた。本来羽織っていた白いシャツであろう布きれが体のいたるところに包帯代わりに使われているため、彼は黄色と黒の虎縞の肌着一枚で密林を進んでいる。危険な服装ではあるが、四の五の言っていられる状態ではないことがうかがえる。

 

 何故彼は一人でこのような場所へ投げ出されてしまったのか、それは今から数時間前のこと、彼が乗っている馬車に襲撃者がやってきた時のことだ。

 

 コンクリートによる舗装という知恵の結晶が生まれていないこの世界において、幾分かその馬車道は均されていた方ではあった。時折小石を弾く程度のぐらつきはあったが、比較的快適なものであったと言える。

 

 その相対的に快適であった馬車に、風を纏った廃棄物(エンズ)が、それこそ嵐のように襲いかかってきたのだ。

 

 即座に反応したのは同じく風の力を扱える燈火と呼ばれる男であった。風の柱、竜巻、おおよそ人に耐えられないであろう異能を用いての応戦。瞬間的に襲われたにしては上出来な反応であったと少年は感心する。

 

 しかし、燈火の顔は優れなかった。何故ならば、燈火が扱った術の全てが「まるで元の主に操られるように襲いかかってきた」からだ。

 

 それに対抗したのは武神と呼ばれる女性であった。風を蹴りの一つで薙ぎ払い、廃棄物(エンズ)に対して殴る蹴ると体術で張り合ってみせる。

 

 しかし、彼女の顔は優れなかった。何故ならば、彼女が振るった技の全てが「まるでかつての家族を殺せないような躊躇いを帯びていた」からだ。

 

 燈火と武神、二人が彼を撃退することができなかった以上、馬車の乗客たちは防戦一方となってしまう。廃棄物(エンズ)が馬車に巨大な竜巻を放ったのは、そんな折である。地面ごと抉り、馬車を浮かせ、地面へ勢いよく叩き付けようとするその攻撃に、武神は馬車全体の衝撃を抑えることしかできなかった。

 

 その隙を突かれ、一人の少年が廃棄物(エンズ)の攻撃によって弾き飛ばされてしまった。鎌鼬にでも遭遇したように体を薄く切り裂かれ、血をまき散らしてふっ飛んで行った。馬車から落とされ、馬車道のように舗装がなされていない崖下へ。

 

 結論を言えば、彼に助けは来なかった。武神も燈火も応戦で手いっぱいであったということは少年から見ても容易に想像できた。一人を切り捨て多数を救う、至極全うな話である。社会の勉強でもしていればそういう考え方に直面する。

 

 しかし、だからと言って、彼が自ら命を諦めるという話では決してない。

 

 

 

「何か獣道みたいだけど足跡あるから辿ってみようと思ってみたが、行けども行けども出会うのは野兎ばっかり!!」

 

 

 

 廃棄物(エンズ)が追撃に来ないのは僥倖であった。恐らく、武神と燈火が精いっぱい引き留めているのだろう。それもまた容易に想像ができた。

 

 彼はとにかく人里へ向かい、助けを求めることを第一目標にした。崖下へ吹き飛ばされた時についた擦り傷や切り傷の大きいものは止血し、人が通った形跡のある獣道を進んでいる。

 

 

 

「確かに俺のあだ名トラだけど、本当にトラみたいに樹に登ったり森で過ごしたりするわけじゃないんだからな!」

 

 

 

 トラこと立花虎之助は声を大きく上げ、気落ちを防ぐ。大所帯から途端に一人、どこからかこみ上げてくる奇妙な不安を無意識に打ち消そうとしてるのか。

 

 

 

「……にしても、どれくらい持つか……」

 

 

 

 しかし、鬱陶しい草木を鞘に入ったままの刀で振り払いながら、この密林地帯でどれだけ長く生き延びれるかをぼやいてしまう。力任せの抑え込みを、するりとかいくぐる不安。

 

 

 

「食べられそうな果物は採った」

 

 

 

 彼の刀の柄の部分に結ばれた小さな包みを持ち上げた。包帯同様、元は彼が来ていたシャツだったそれに包まれているのは、林檎にも似た赤い果実。臭いや味見を既に済ませ、ある程度の数をもぎ取って非常食としていた。

 

 

 

「綺麗な小川も見つけた」

 

 

 

 彼が辿る獣道を沿うように、密林地帯のオアシスとも言える水流が確認できる。獣道を歩き進めてもそれが途切れないのは僥倖と言えた。

 

 

 

「火を起こせそうな薪には困らない」

 

 

 

 密林地帯と言えるほどには、周囲は木々で溢れかえっている。切ったばかりの木では何とも言えないが、樹の皮を剥げば十分に火おこしの燃料として扱えるはずだ。

 

 

 

「…………肉も、うん。最悪南蛮人の野兎狩りみたいに」

 

 

 

 彼の視界に何度か移る小さな茶色の物体。恐らく兎だろうと判断し、最悪肉を欲した時の食糧として記憶にとどめている。

 

 

 

「……取り敢えず、人肌恋しいなぁ……」

 

 

 

 サバイバル感満載の現状を嘆き、苦笑する。なまじやっていけそうな環境下であるせいか、絶望できないのがまた厄介であった。

 

 希望的観測を持ててしまう状況を再認識した、その時だった。

 

 

 

「……ん? 何だこれ?」

 

 

 

 虎之助の足もとに、密林地帯にはあるはずがないと断言できるものが置かれていた。彼はそれに見覚えがあった。この世界に飛ばされてくる直前の記憶であるため、とても鮮明にそれを思い出せる。

 

 

 

「………………川神学園の、制服?」

 

 

 

 ほんの少し泥に塗れているとはいえ、綺麗に折り畳まれたその制服は、これを着ていた人間が脱いで畳んだものと推測できた。スカートまでも綺麗に四角に畳まれている。決して肉食動物に襲われた誰かの残骸などではなかった。

 

 

 

「ひっ、人がいる!? どどっ、どこだどこだぁ!!」

 

 

 

 この時、虎之助は異常なまでに興奮していた。途方に暮れている中に差した一条の光明、諦めていたことが急にできてしまった驚愕、大金の入った財布が無傷で見つかった幸福感、何とも言えない心臓の高鳴りが彼を襲う。

 

 脳汁がじゃぶじゃぶと溢れて耳や目から吹き出しそうな状態になった彼は、思わず叫んであたりを走り回る。

 

 

 

「トゥラトゥラトゥラァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

 

 その声に反応してか、ばしゃり、と水の跳ねる音が聞こえた。獣道に沿っている小川の方から聞こえたその水音を、トリップ状態に入っている虎之助は聞き逃さなかった。音の発信源へ向かい、韋駄天の如く駆け抜ける。

 

 

 

「ここだぁああああああああああああああああああああああああっ!!」

 

 

 

 草木をかき分け、虎之助は目的の人物を見つけ出した。

 

 しかし、何故彼は気が付けなかったのだろうか。制服が脱いで置いてあるということは、件の人物は今それを着ていないことになる。さらに、スカートを見ればその制服は女物であるということは明瞭だ。

 

 そこに小川の水音とくれば、導き出される答えはかなり限定される。いや、ひょっとすると、彼はそれを本能的に察したからこそ、今の妙なテンションになってしまったのかもしれない。

 

 

 

「……え?」

 

「……っ!」

 

 

 

 虎之助の視線の先には一糸まとわぬ姿の女性が二人、小川の開けた水の溜まり場で汗を洗い流していたのだった。

 

 

 

「……水浴び中の廃棄物(エンズ)ってのはありえない気がするから、あの二人は()――――」

 

「「きゃああああああああああああああああああああああああああああ!?」」

 

「ま、待って! 俺は漂流物(ドリフ)だ!」

 

「黙れ廃棄物(エンズ)以下の下衆人格め!!」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 場所は変わって、ケットシーの村――――

 

 

 

「…………なあ、王貴」

 

 

 

 ズズゥ、やけに綺麗なティーカップを口につけていた霧夜王貴はゆっくりと赤銅色の茶を飲み切り、一息つくとようやくその呼びかけに言葉を返した。

 

 

 

「……なんだ英雄」

 

「紋が攻めて来たのは、いつのことだったか」

 

「そうだな、今より二週間ほど前のことか」

 

 

 

 彼らが惜敗を受けざるを得なかった戦いから二週間経過していたことを念のため確認し、九鬼英雄は自分のあたりを見回しながら王貴との会話を続けようとする。

 

 

 

「それで我らはこの村の再建を――――」

 

「王国だ、勘違いするなよ」

 

「――――ああ、そうか、王国だったな。その王国を造り上げようとしてまだ二週間だ」

 

「そうだな。半月程だ」

 

 

 

 何度も言わせるな、そう言いたげに王貴はティーカップをずい、と英雄に突き出した。お代わりの催促である。

 

 普段の英雄ならば自分で入れろと言うか、従者の誰かしらに任せていたことだろう。しかし、なんと英雄がそのお代わりを自らの手で注いだのだ。従者もいない異世界だからと言って、英雄が高圧的な態度に施しをすることなど、そうそうあり得ることではない。

 

 英雄をそうさせたのは何であるか、彼自身もよく分かっていなかった。ただ、英雄はあたりを見回しながら困惑気味であるのは確かである。

 

 

 

「その半月程の半分、一週間前までには「こんなもの」はなかったぞ?」

 

「「こんなもの」? 何を指して、疑問に思う?」

 

 

 

 あたりを見回す英雄の目が、ようやく王貴の眼を貫いた。

 

 

 

「……気のせいか、ケットシーの数が異常なまでに増えているばかりか、村の敷地は以前の十倍以上……。「こんなもの」と濁したが、正面から言ってやろう。このような「豪勢な城」まで建っているとはどういうことだ?」

 

 

 

 英雄は手を大きく広げ、今自分がいる城の存在理由を問いただした。

 

 かつて存在した、英雄が拠点としていたケットシーの村一つ分の面積を以て建てられた巨大な城。その城下町のように連なる村々――未だ発展途上でキャンプのようであるが、しっかりと衣食住は完備されている――に集められた多数のケットシーたち。

 

 英雄が一週間目を離しただけで、王貴はとんでもないことをしでかしていた。

 

 

 

「ケットシーの村は複数に分かれていた。人間が市町村に別れている感覚とさほど変わらん。それらの生き残りを集めるべく動いてくれたお前や石なんとかは労おう。おかげでこの猫代(バビロニャア)王国は最盛期を更なる先に見据えることができた。尤も、その大半をかき集めたのはハンターたる(オレ)の功績だがな」

 

 

 

 一体全体どうやってハンティングしたというのか、英雄は問いただそうとする欲求をぐっとこらえた。

 

 

 

「……まあいい。それで、小規模とは言え、城下町のみならず城までどうやって完成させた?」

 

 

 

 その質問に、王貴はその時を思い出してやれやれと言った具合に話し始める。その呆れながらも口角が上がっている様子は、甘えて足にすり寄ってくる猫の視線に射抜かれ「しょうがないなー」と抱きかかえる独身女性のようであった。

 

 

 

「ふん。ケットシーの働きぶりは見ていられなかったのでな。木の枝で手を切ったり、重いものを運べずヘたりこんだりと惨憺たるものだ。こちらを申し訳なさそうに潤んだ瞳で見つめてきたが故に、五行を全開にして簡易ながら城と城下町を建てた」

 

 

 

 ――――骨抜きにされているではないか。

 

 

 

「丸二日動けなくなったがその間常に五匹のね――――五人のケットシーが付きっきりであったおかげで今や全快よ。見ろこの溢れんばかり王気(オーラ)

 

「ぬ、確かに莫大な王気(オーラ)

 

「おい九鬼! ボケに転じるな! 困惑するだろうが!」

 

 

 

 今まで沈黙を決め込んでいたもう一人の少年、石田三郎が爆発したように話に割り込んできた。

 

 

 

「ぬ、貴様は石田鉄工所の石某」

 

「石田鉄工所を覚えている癖に何故石以降出てこんのだ! 俺の名前は石田三郎! しっかり覚えろ霧夜王貴! 第一、元天神館の癖に出世街道を歩む俺を知らんとは!」

 

(オレ)の世界に貴様のような奴はいないものでな」

 

「何をやっているんだ異世界の俺!! 意識されてすらいないとは!!」

 

 

 

 ――――意識されていなくて助かったようなものだがな。

 

 

 

「して、王貴よ。王国を建て……その後のことは考えているのか?」

 

 

 

 ぎゃあぎゃあ騒ぎ立てる三郎を後ろへ追いやり、英雄は最も聞きたかったことをぶつけてみた。それに対する王貴の反応は、数秒の沈黙。先ほどまでの満足げな微笑はどこへやら。

 

 

 

「…………紋を待つのも一考だったのだが、まだ雌馬と傀儡の始末が済んでいない。場所さえ割れればすぐにでも彫像にしてやるところだが、生憎と行方知らず。そこで、キツとやらだ」

 

行灯機構(ラント)か」

 

「あやつには無能剣士と共に居場所を割らせている。照明器具(ランプ)だか簡易住居(テント)だか知らんが、本拠地を探っているそうな」

 

 

 

 次に王貴の顔に浮かび上がってきたのは、よからぬことを企んでいるような不敵な笑い。

 

 

 

「なぁに、ケットシーの中にも怨恨覚めやまぬ優秀な素質を持った物が多い。なればそれを汲み取り、(オレ)の軍勢に参集させようではないか」

 

「……行燈機構(ラント)を巻き込んだ以上、全面戦争となるな」

 

「ケットシー以外の塵芥、況してや顔も知らぬ連中に頼むのは甚だ不本意ではある……。そこでだ、石某」

 

「いっしっだ!! さっぶっろう!!」

 

「貴様にはそこそこ働いてもらう。先の戦いで貴様には多少の感心を持った。精々死なぬよう気張るといい」

 

 





 あとがきしょーとすとーりー 大魔法御曹司

虎綱「ぐわぁああああああああああああああああああああああっ!!」

灯「こ、高坂ぁ!!」

虎綱「ぐっ、がふっ……! くそっ……銃が効かないなんて……!」

灯「なんなんだアイツは……!?」

三千尋「はーっはっはっは。銃なんか効くわけないだろ」

灯「う、浮いてやがる……!」

三千尋「ようやく手に入れたこの聖遺物の力を使って、僕は思想統一をするんだ。邪魔する奴は消えてもらうよ、特に男」

虎綱「くっ……! お前の目的はなんだ!!」

三千尋「ふん、僕の高尚な理想が理解されるとは思わないけど、ひょっとしたら同士が見つかるかもしれないからそう聞かれたら教えることにしてるんだ。だから話してあげる」

灯「ちっ……!」

三千尋「……食い込みだ」

虎綱「………………は?」

三千尋「十年前くらい前、とある義務教育教師がいたんだ。その人は音楽教師でね、教育委員会にも顔の利いた……いわゆるエリート教師だった。絶対音感を持ってて、その気になれば音楽以外にも英語を教えられる頭のいい人だったよ」

灯「……だった?」

三千尋「そう。その人は捕まってしまったんだ。ある一つの崇高な理念を実現しようとしてね……」

虎綱「……それが、食い込み?」

三千尋「その時の小学校はブルマに近い短パンだった……。それなのに、一人の少女が短パンの上から恥ずかしいという理由でハーフパンツをはいてきたんだ。あの人はそれが許せなかった」

灯「…………」

三千尋「あの人は適当な理由……確か「子供は寒い日も薄着をしないと強くなれない」とかそれっぽいことを理由にハーフパンツを無理やり脱がしたんだ。そして、独房行きさ……」

虎綱「……えっ、それだけで捕まるの? 停職とかじゃなくて?」

三千尋「いや、その日うっかり隠し忘れた学校のトイレの盗撮動画が見つかっちゃってね」

灯「そら捕まるわ」

三千尋「その人は常々こう言っていたよ。「ブルマはいい。もっとしっかりはけとブルマを持ちあげると、食い込むんだ。ハーフパンツにはできない食い込み方をする」って。僕はそれに「そんな無理やりやったら下衆じゃないですか」と非難したんだ。すると、あの人は恥ずかしげもなく「それが下衆じゃないと教え込むために教師になった」と言ったんだ」

虎綱「これ以上ない最低な理由だな……」

三千尋「僕は感動すら覚えた」

灯「えっ」

三千尋「あの人のブルマ好き、いや、ブルマニアぶりは倫理社会の教科書に載せるべきだと思ったよ。けど、社会はそれを許さなかった。ブルマの食い込みだけでなく、ブルマ自体を淘汰した!」

虎綱「いや、ひょっとしたらその人がきっかけなんじゃ……」

三千尋「だから僕は決意した。「ブルマを食い込ませても罪に問われない」、「普段着はブルマであるべき」、そんな思想を当たり前にするんだ……」

灯「飛躍したな」

三千尋「そのための聖遺物さ。これで全人類の頭にノイズを送り込み、僕の思想を全人類と共有する!」

虎綱「くそっ、危険な話なのに下らない話が混じってどうでもよく思えてきたけど止めないと!!」

???「フーッハッハッハッハッハッハッハ!!」

三千尋「……ん? 誰だ?」

王貴「この(オレ)の声を聞き、顔を見ても誰か分からぬと抜かすか塵ブルマ! しかしよかろう、今日は気分が妙にいい! 耳を針金でひっかきまわしてしかと聞くがいい!!」

 続く

盟主「……これは何部作なのでしょうか」ウキウキ
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