MAJIKOI×DRIFTERS   作:霜焼雪

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第三十幕 ポケットにファンタジー

 

 

『という惨状で……』

 

「……できうる限りその暴走を止めろ。若しくは流れをこちらに寄せろ」

 

『後者で善処します……では』

 

 

 

 パチッ、と通話機能を持つ扇子を閉じ、燈火は大きく息を吸い込み、臍あたりに溜まった疲労を呼気へ混ぜ込んで垂れ流す。

 

 

 

「はぁ……」

 

「心労が滲みでてるな、灯火様」

 

 

 

 人がいないからこそできた燈火の疲労のアピールであったが、運悪く、よりにもよってクラスメイトであった女子に目撃されてしまう。

 

 

 

「……なんだそれは、嫌味か川神」

 

「べっつに? ただ、よくそんな疲れ切った表情を隠しながら老けないなーって」

 

 

 

 百代のニヤニヤというオノマトペが似合う表情に、燈火も若干苛立ちがあったのだろう。滅多に見せない反抗心が、燈火の喉からひょっこり顔を出す。

 

 

 

「老けているとも。もうすぐ五〇だ。そういうお前もアラサ」

 

「舌を縛られるのと歯を裏返されるの、どっちがいい?」

 

「悪かった、こちらが悪かったからその恐ろしい脅迫を止めろ」

 

「乙女の年齢を暴露するもんじゃないぞ? えい!」

 

 

 

 女子が同級生の男子の肩を軽く小突く、ということの威力はさして大きいものではない筈であった。蚊蜻蛉のような儚さはないにしろ、小動物がぶつかった程度の衝撃があるかないかと言ったところだと燈火も思っていた。

 

 しかし、その女子は既に三十路を彷徨う洗練された武神。襲いかかってきたのは小動物などという生易しさとは程遠い、巨大な羆の得物を狩る一振り。

 

 

 

「ごはっ!?」

 

 

 

 ――――本来ならば、ここは島津あたりの役どころだろうに――――!

 

 

 

 地面に叩き伏せられながら、燈火は今置かれている立ち位置に納得がいかなかった。しかし、それを口に出せば更なる過剰な親愛表現(スキンシップ)が飛んでいることを体で覚えている彼は、喉にさえその言葉を通らせることはしなかった。本来そこに居座るべき男島津岳人よりも、燈火は比較にならないほど理性的で賢かった。

 

 

 

「どうした京極。私はそんなに強く殴ってないぞ?」

 

「……わ、私は戦闘要員じゃないんだ、加減を間違えるな」

 

 

 

 ゆっくりと起き上り、百代の物差しで言えば小突いた程度のタッチで痛めた肩をさする燈火。

 

 

 

「まったく……二〇年近く経っても恐ろしい女だ。こういうところは変わらんな」

 

「……まあ一〇年、二〇年ならまだ変わらずにいられるさ」

 

 

 

 ふと、百代の表情が翳りゆく。燈火がこの世界に飛ばされる前には決して見ることのなかった、憂いを伴う大人びた表情だった。

 

 こんな表情をする時の百代は、決まって同じ話題に心を砕いている。

 

 

 

「……あの、廃棄物(エンズ)のことか」

 

「……何十年と待たせたらしい」

 

 

 

 憂いの表情の上から罪悪感が塗りたくられ、幼さが追いやられて年相応の雰囲気が現れる。

 

 

 

「顔も無駄な皺が見えないように覆う恥ずかしがり屋だ……死人のような目は相変わらずだったがな」

 

「こちらでそれほど長く続いているとなると」

 

「ああ、限界なんだろう。異能なしではもう戦えないとも言っていた……私がもう少し早く呼ばれていたらな」

 

「それでも――――十年以上決着はつかないままだ」

 

 

 

 この世界に百代が飛ばされたのは十数年ほど前のこと。まだ川神学園の制服は原型を留めており、幼さも残る川神院総代候補としての才能と危うさを秘めた頃のことであった。

 

 そんな百代を真っ先に発見したのが、彼女が語る恥ずかしがり屋である。

 

 

 

「それは何故だ? 私には何もわからん。廃棄物(エンズ)になってしまった以上、意思疎通など……」

 

「…………あいつの異能で殺されそうになった時、あいつは手を緩めて自分が卑怯だったと詫びたよ。次回に持ち越しだってね」

 

「な……」

 

 

 

 廃棄物(エンズ)の考えられない行動に瞠目してしまう燈火に対し、全くその通りだと言わんばかりに笑って見せる百代。

 

 

 

「おかしいだろ? 廃棄物(エンズ)なんだぞ? 世界を崩壊させようと統一意志を持つ廃棄物(あいつ)が、侘びたんだぞ?」

 

「……昨今の廃棄物(エンズ)は、やはり何かがおかしい。指導者のせいかは知らんが、人臭い……やはり、今一度調べる必要がある、か……」

 

「あいつ以上に人臭い廃棄物(エンズ)は知らないがな。たまに一緒に釣りしたりもした」

 

「…………はは、傑作だな」

 

 

 

 驚きの余り、ついには笑い声すら出てしまう。燈火の中にある廃棄物(エンズ)像のどれにも、百代が語る恥ずかしがり屋は当てはまらない。

 

 

 

「……その滑稽なやりとりも、もうすぐ終わるんだな」

 

「……ああ、全面戦争だ」

 

「…………引導を渡してやらなきゃな。人臭いうちに、殺してやらなきゃな」

 

「……さて、川神次女」

 

「うっ」

 

 

 

 川神次女、そのたった一つの単語で百代の視線が泳ぎ始めた。

 

 

 

「川神長女と川神長男と親睦を深めて来い。半月ほど経つのにどことなくぎこちないじゃないか」

 

「し、仕方ないだろ。ワン子ならともかく、姉に弟だぞ? 弟分がいるがあれとは全く違うし、姉に至ってはジジイより強いし年下。もう何がなんだか分からん!」

 

 

 

 ◇

 

 

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

 

 

 ――――拝啓、俺の世界の少ない友人と家族へ。空気が重過ぎて滅びてしまいそうです。

 

 

 

「……と、とりあえず()る!?」

 

「そ、そうね!」

 

「肉体言語禁止って今しがた決めたばっかりじゃん!!」

 

 

 

 ◇

 

 

 

「ふむ、どうやら……和解とまではいかなかったか?」

 

「残念ながらな。血は繋がっているとは言えやはり勝手が違う。特に、私の心労はでかいぞ」

 

 

 

 はぁ、と大きく溜め息を漏らす百代。奇しくもその大きさは先ほどの燈火の溜め息にも匹敵するほどであった。故に、燈火からは労いと気遣いの言葉がかけられる。

 

 

 

「ああ、それならば無理にやることはない。武神はこちらの最高戦力、純度は保ってもらわないとな」

 

「その戦力の事だが、私同様に川神千李は扱っていいぞ」

 

 

 

 武神として崇められ、それに恥じることのない屈強さを誇る川神百代自身が、強さに焦点を当てて同列として扱う。それがどれほど異常で驚異的であるのか、それが分からない燈火ではなかった。

 

 

 

「お、お前にそこまで言わせるのか……。川神千李、ハーピーの話では廃棄物(エンズ)より悪魔的であるとのことであったが」

 

「あれは口だけじゃないな。弱体化してるって話が嘘みたいだ」

 

「ふむ……覚えておこう。これならば被害をより抑えることができるだろう」

 

「……切り捨てることも考えろよ?」

 

 

 

 その言葉が、燈火の頭にこびりついた。

 

 

 

「……なんの、話だ?」

 

「お前は捨て駒を嫌いすぎてる。そんなんが頭じゃダメだぞ? 必要犠牲というものがあることを忘れるな? 川神千李というお前の知らない全くの他人だろうが、世界戦は違えど互いに顔見知りだった私だろうが、切り捨てるという選択肢はあって当然なんだぞ?」

 

「……ああ、頭では分かってるつもりだ。安心しろ」

 

「……京極、今のお前の悪いところだ。昔のお前は他人と関わりが薄い生活ばかり送っていたから分からなかったが、お前は実のところ熱すぎる。燈火なんて名前、お前の熱心さを表すには弱すぎる。獄炎とでも言い換えたらどうだ?」

 

「……私が言葉を操ることを忘れたか? そんな名前を自らに課したら、それこそ私は形振り構わずみんなを助けようとするさ」

 

「……それもそうだな」

 

 

 

 ◇

 

 

 

「これより、行灯機構(ラント)の本拠地へ移る。漂流物(ドリフ)は着いてくるという志願兵に準備するよう伝えてくれ」

 

 

 

 百代との会話から数時間後、燈火は漂流物《ドリフターズ》を招集して次の行動についての会議を開始していた。

 

 会議の要点は二つ。

 

 一つは、このハーピーの村から離れて行燈機構(ラント)の本拠地へ移動するということ。移動には数日を要するが、次の作戦、ひいては崩王軍への対策をするのであればここではやれることが少ないという理由に基づいた判断であった。

 

 もう一つは、崩王軍の圧倒的兵量に対抗するべく、少しでも多くの戦闘員をかき集めてほしいということ。性別も年齢も人種も問わず、我こそはと志願する勇気ある者を呼び集めて戦力の補強を図ってのことだった。

 

 

 

漂流物(ドリフ)に拒否権はない、ってか?」

 

「なんだ井上。逃げたいのか?」

 

「ええまあ、死にたくないんで……なんて言ってられないっすね」

 

「物分かりが良くて助かる」

 

 

 

 準は心底戦いたがっていない、と暗に訴えていたが、そんな我が儘が一人通じるはずもなかった。

 

 加えて、敵と接触することが避けられない後輩が彼の隣に一人いる。後輩を見捨てられないお人よしな部分が、準を戦線へと引っ張ってしまう。

 

 

 

「……他に異論はないな? では、移動するぞ。他の漂流物(ドリフ)と合流を――――」

 

「あ、あのっ」

 

 

 

 燈火としては、「漂流物(ドリフ)廃棄物(エンズ)を打ち倒すことを義務としている」と考えている。そのために、異論が出ることを考えていない、というよりは異論が出ることをは許さないと言った具合で、直にでも出発する心構えでいた。

 

 しかし、そこに待ったをかけたのが沙也佳であった。

 

 

 

「と、トラさんは……トラさんは助けに行かないんですか……?」

 

「……我々は行かない」

 

 

 

 沙也佳が納得がいかないと詰め寄ろうとする直前、しかし、と大きく楔を打ち込む。

 

 

 

「その代わり、信頼できる漂流物(ドリフ)行灯機構(ラント)の仲間を捜索に出した。そう気を揉むな。聞いたところ、彼はサバイバルの極限状態で君を庇いながら生き延びた強者だろう? ならばきっと生きている」

 

「……そう、です……ね……」

 

 

 

 沙也佳の心の中は酷く濁って渦巻いていた。

 

 燈火がシンの情報を共有しているとなれば、虎之助と沙也佳がシンに出会ったあの「勘違い」がそのまま伝わっている筈であった。

 

 本当のことを言うべきなのか、黙ったまま男を立ててやるべきなのか。虎之助の生存力を信じるべきなのか、虎之助を危うさを信じるべきなのか。

 

 結果として、沙也佳は曖昧な返事しかできなかった。

 

 

 

「川神百代、千李、十夜。井上準。那須与一。立花虎蔵。黛沙也佳。そして、私。今ここにいる漂流物(ドリフ)八人と行灯機構(ラント)、そしてハーピーの志願兵を参集し、地獄の蓋を開けに行くぞ」

 

「そう言えば、どこなんです先輩? 行灯機構(ラント)の本拠地って……」

 

 

 

 

 

「……そうだな、つい最近奇妙な城ができたケットシーの村の隣だ。お陰で崩王に目をつけられたようだがね」

 

 

 





 あとがきしょーとすとーりー 共同企画没案

王貴「むむ? むんむんむむむん!? 英雄(オレ)の邪悪レーダーにビリリと引っかかるそこの貴様!! 貴様漂流物(ドリフ)だな!? いや、応える必要はないぞ!! 英雄(オレ)のレーダーは高性能!! 故に!!」

灯「…………」

王貴「むんむんむむむん!! 聞こえる聞こえる……聞こえるぞぉん!! 貴様未成年の癖に酒を飲んだな!? 加えて法定速度を大幅にオーバーした運転をした経験があるな!? いやいや、応える必要はないぞ!! 英雄(オレ)のレーダーは高性能!! 故に!!」

灯「…………」

王貴「他にも過度なセクシュアゥルルルッ、ハァルルァスメンツッ!! これは厳罰対象、処罰せねばこの世界のためにならん!! よかろう罪ありき少年よ……判決を下す!!」

灯「はぁ……」

王貴「罪状は「キャバクラ街道まっしぐら男(セクハライダー)の罪」!! 「背骨を引っこ抜いて菊門から突き刺す刑」に処すッ!! いや、反論する必要はないぞ!! 英雄(オレ)の天秤は正確!! 故に!!」

灯「はぁ……」

王貴「ぬっ、暫し待てい!! 姉上からメールが届いた!! ゆーがっためーる!! 故に!!」

灯「あ、そう……」

王貴「なになに……「菊門を弄るならまずはホームセンターでグッズを仕入れてからにしなさい」……? 流石姉上だ……なんと聡明なアドバイスであろうか!!」

灯「……」ブロロロンブロロロン

王貴「いいかそこのセクハラ街道まっしぐら男(セクハライダー)!! 今からワーク○ンに準備に行ってくる!! 故に!! 小一時間ほどその場で待機しておケプラァアアアアアアアアアアアアアアア!?」グシャッ

義経(轢き殺した)

準(頭からいった)

一子(お肉食べたい)

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