MAJIKOI×DRIFTERS   作:霜焼雪

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第三十一幕 WOW WAR TONIGHT 〜時には起こせよムーヴメント

 場所は変わって密林地帯。

 

 少年が一人、樹に縛り付けられていた。

 

 

 

「あなたが立花虎之助?」

 

 

 

 三角コーナーに捨てられた生ごみを見るかのような冷え切った視線で貫かれ続けた虎之助は、その質問に対して声を出すことはできず頷くことしかできなかった。

 

 

 

「本当に漂流物(ドリフ)でしょうか。怪しいところです、拷問にかけるべきです」

 

 

 

 ギラリ、と狐耳の少女が手にしていたナイフが鈍く輝く。今にも独りでに少年に飛びかかって心臓を突き刺してしまいそうな危うさを放っていた。

 

 対して、今の今まで剣山に活けられていたような状況だった虎之助も流石に命の危機を感じたのだろう。溜まっていた分の声を一気に吐き出して許しを請い始める。

 

 

 

「の、覗いちゃったのは謝ってるだろう!? 信じてくれよ、あれは事故なんだよ!!」

 

 

 

 事の始まりは数十分前、虎之助が不用意に人の気配がした水場へ飛び込んだことにあった。

 

 脱いであった制服から学園を割り出したはいいものの、それが女性ものであるという判断までは至れずに川に飛び込んでしまったせいで、二人の少女の水浴び現場に遭遇してしまったのだ。

 

 叫び声は「トゥラトゥラトゥラー」、サバイバルを覚悟したが故に血走った眼、人を見つけた興奮と全力で駆け抜けた疲労が相まって現れた荒い息遣い。これを見て変質者と思わなければ何だと思うのだろうか。少なくとも、少女二人は覗き魔の変質者として手早く拘束をしていた。

 

 それから数十分、少女二人から冷たい視線を浴びせられ続けていた。

 

 

 

「では、事故であることを信じてもらうのと、漂流物(お仲間)であることを信じてもらうの、どちらがいいですか?」

 

「両方信じてもらえないと殺されるじゃんか!!」

 

「ふむ、見かけによらず頭は回るようですね。虎に関わる服を着た異世界人は馬鹿丸出しだと聞いたことがありますが」

 

「偏見もいいところだ!!」

 

 

 

 確かに俺は虎柄の服着てるしあだ名はトラだけど!! と声を大にして、自分を含めた全ての虎にまつわる服装をした人間を擁護する。

 

 

 

「どうしようか? これだけ会話が成り立つなら、漂流物(ドリフ)かどうかはともかくとしてまともみたいだし」

 

 

 

 その必死さが伝わったからなのか、二人の少女の片割れ――長い髪を乾かし終えて馬の尻尾のような形に纏め上げた少女――は情状酌量の余地があるように提案している。もっとも、虎之助に向ける視線は未だにマイナスであった。

 

 

 

廃棄物(エンズ)よりは、という補足が抜けていますよ? 女の水浴びを覗くとはまともとは思えません」

 

「だーかーらー、事故なんだってば!!」

 

 

 

 ジタバタと脚を地面に叩き付けて足掻く姿を見て、ほんの少し警戒心を解いた少女は大きく溜め息をついた。

 

 

 

「……ねえハツ、そろそろ樹からだけでも解放してあげましょ? 何だか理不尽なことばっかしてると廃棄物(エンズ)になった気分で嫌になるの」

 

「……そうですか」

 

 

 

 ハツと呼ばれた狐耳の少女は、握っていたナイフをしっかりと握り直すと、少年を樹に縛り付けていた縄をスパッ、と叩き斬った。

 

 その瞬間、虎之助は少女二人から勢いよく距離を取るため後ろへ跳び、勢いそのままに足を畳んで膝を地面にこすり付けながら着地する。

 

 

 

「大っ変っ、申し訳ありませんでしたぁっ!!」

 

「あはは、綺麗な土下座」

 

「笑ってる場合ですか。きっとあなたのスカートの中を覗こうとしているのですよ」

 

「どうすりゃいいんだよ!?」

 

 

 

 許しが出るまで続けるつもりであった土下座も、思わず顔を上げて反応してしまったせいで崩れてしまった。仕方がないのでゆっくりと立ち上がった虎之助は、縄の跡が残る手首の調子を確かめる。

 

 

 

「とまあ、二割の冗談はこれくらいに」

 

「ほ、本気も本気じゃないか……」

 

 

 

 ゴホン、とハツが咳払いを一つ。

 

 

 

「立花虎之助、燈火様のご命令で捜索に参りました。私は行灯機構(ラント)のハツと申します」

 

 

 

 ピコピコ、と初の狐耳が動く。表情を読み取るより耳を見た方が感情の機微が分かるのではないかと虎之助が思う程、狐耳は頻繁に動いていた。

 

 

 

行灯機構(ラント)、ね。何だか沢山いるなぁ……。で、そちらも行灯機構(ラント)……いや、漂流物(ドリフ)? 川神学園の制服着てるってことは、飛ばされたんだろ? ……というか、見た事あるし」

 

「そうなの?」

 

「……その話しぶりだと、どうやら俺のことは知らないようで」

 

「顔見知りだったらこんなに慎重に疑わないわ」

 

「それもそうか」

 

 

 

 顔見知りだったら容赦なく殴ってるわ、という小さな呟きが無邪気ながら冷えた声で発せられて、虎之助の背筋に奇妙なものが這いずった。

 

 

 

「……で、あの燈火って奴と同じ行燈機構(ラント)所属?」

 

「うーん、協力はしてるけど所属ではないのよね」

 

「?」

 

「私、風の異能の適性がないのよ。突風も起こせないし、壁も作れないし……」

 

「なに、行燈機構(ラント)所属の条件ってのがあるのか?」

 

 

 

 ――――軍力強化してるって聞いてたのに、意外と選り好みするんだな。

 

 

 

「燈火様が兵隊を選抜している、なんて考えているんじゃないでしょうね」

 

「え、違うの?」

 

「はぁ……」

 

 

 

 ――――「これだから素人は」って感じの目を向けられている。

 

 

 

「崩王軍と戦う軍力と行燈機構(ラント)は完全に分けているんです」

 

「なんで」

 

行燈機構(ラント)のメンバーが使う術のほとんどが廃棄物(エンズ)の遺産、人の手に余るもの。今の今まで戦いを知らなかった者に持たせるには荷が重いだけではなく、どうしてもその異能自体が彼らの恐怖を掻きたててしまう。だからこそ、参集した国や村の兵隊はすべて傘下に入るとしても、その極々一部だけが漂流物(ドリフターズ)と肩を並べて戦うことを許されているんです。燈火様は選り好みをしているのではなく、区分しているだけ。皆等しく戦士であるのと同時に、その戦士の中で将たりえる人材にマークをつけているにすぎません。そちらの時代にも十勇士だとか四天王だとか……兵を率いる兵がいますよね?」

 

「……その極々一部になる条件っていうのが、異能の適性?」

 

廃棄物(エンズ)を目の前にしても怯まない精神などの条件もありますが、異能の適性は大きな条件の一つであることは確かです」

 

漂流物(ドリフ)だからーって理由で行燈機構(ラント)には入れないのはそういうこと。まあ、普通に戦いに協力できるから漂流物(ドリフターズ)である人間が行燈機構(ラント)に所属しているかどうかは本当に小さな問題なのよ。……できることなら使いたかったんだけどね」

 

「使いたかった?」

 

「ん、こっちの話」

 

 

 

 それ以上、少女はそのことについて語ろうとはしなかった。

 

 

 

「……それで、名前は?」

 

「あれ、私のこと知ってるんじゃないの?」

 

「……いや、見た事あるって言っても交流戦の頃だぞ? お前、大分大人びてて印象とだいぶ違うんだよ……確認だよ、確認」

 

「あはは、確かに歳取ったからね、私も」

 

 

 

 そう言うと、少女は虎之助に握手を求めた。

 

 

 

「私、川神一子。ヨロシクね」

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

「っ……く、う……」

 

 

 

 廃棄された城、ネッカーメイトハイム。その崩壊した城壁に背中を預け、頭を抱えながらうめき声をあげている一人の男がいた。

 

 そのうめき声の原因は理解できるものではなかったが、見たものはおおよその予測が付けられるものだった。

 

 頭を押さえている手の隙間から、ゆらゆらと白い煙のようなものが上がっている。そこだけではなく、体の輪郭が曖昧になっているかのように煙が吹き出していた。極めつけに、くいしばっている歯が人の者とは思えぬほど鋭利に尖り、人の形から離れかけている。

 

 そうなっている理由は一見して分かるものではない。しかし、それが国吉灯を蝕んでいるということは間違いなかった。

 

 

 

「やあやあ狼男、随分と息苦しそうに息を吐くね……いや、煙か」

 

 

 

 ズシン、と大げさに足音を立てて体格の良い男が現れた。体つきだけ見れば、後から現れたこの男の方が狼男に近しいかもしれない。

 

 

 

「……なんだ、港か」

 

「なんだとはなんだよ。様子を見に来てやったのに……どうだ、頭の具合は」

 

 

 

 コツンコツン、と人差し指で頭を突くしぐさを見せると、灯は心底辛そうに溜め息を吐き出した。

 

 

「…………すこぶる、最悪なんだぜ、これがよ」

 

「だろうと思った。他の連中にも定期的にくる苦痛を、君だけ味わってないのは不公平だからね」

 

「そういうお前はどうなんだ」

 

「勿論苦しいもんだけど、皆よりは楽だと思うよ? 何せ、折り合いが付いてる」

 

 

 

 ――――折り合い付けられるもんじゃねぇだろ……。

 

 

 

「……けっ、羨ましい限りだぜ」

 

「尤も、一番苦しいのは崩王様かな?」

 

 

 

 三千尋の言はさも常識を語るかのようなことだった。魚は水がないと生きていけない、程度の言い方にしか取れないものであった。

 

 しかし、その当然らしさには塗り潰せない秘匿が彼の言葉にはあった。灯は自分の頭痛すら忘れるほどの驚愕に見舞われ、頭を押さえていた手を思わず離してしまう。

 

 

 

「…………おまえ――――」

 

「何で知ってるかって? ――――テメェが一番の古参だかなんだか知らないけどな、何でも隠し通せると思ったら思い上がりもいいところだぞ?」

 

 

 

 三千尋の気配がガラリと変わる。先ほどの笑顔――本心から笑っていなかったにしろ、体裁はしっかり保とうとした作り笑い――はあっさりと身を潜め、灯を嘲笑うような口角が引き裂かれた笑みを浮かべていた。

 

 

 

 ――――折り合いなんか、付けられねぇはずなのに……!

 

 

 

「……他の連中には言ってねぇだろうな」

 

「――――当然だろ? 言ったところでメリットないしさぁ」

 

「……一応忠告しとくぞ、港。崩王ちゃんを裏切ったその時は、俺が容赦なく噛み殺すからな」

 

 

 

 ギラリ、と灯の牙が三千尋の首元に狙いを定めていた。

 

 

 

「おお怖い怖い、ドンドン発想が狼じみてるじゃねぇか。 ――――ま、安心するといいよ。崩王様が約束を守ってくれる限り、僕や高坂や「あの女」は離れることはないだろうさ」

 

「約束……? 高坂やアイツは知ってるが、お前もなんか取引してたのか?」

 

「聞かされて無いの? あらあらそれは――――」

 

 

 

 一歩、三千尋は灯との距離を詰め、クスッ、と音を立てる。その鼻息が消えぬまま――――

 

 

 

 

 

「――――お気の毒に、どんな気分?」

 

 

 

 

 

 憐れみを恵んでやった、その瞬間に灯の「狼のように毛並みだった巨大な腕が三千尋の腹部を貫いた」。

 

 

 

「がふぁっ!?」

 

「おう、もういっぺん言ってみろや」

 

 

 

 城壁に叩き付けられた三千尋の喉元に狼男()の太い爪が突きたてられる。

 

 

 

「や、止めてくれよ……いきなり迅狼(ウールブヘジン)の全力は……「先手を取れなかったら」僕死んでたよ?」

 

 

 

 三千尋自分に向けられていた獣人の腕にそっ、と手を置くと、灯の全身に激しい虚脱感が襲いかかってきた。

 

 

 

「なっ……!?」

 

 

 

 堪らず三千尋から距離を取り、獣人化を解除してしまう。

 

 

「「圧轢(プレッシャー)」……この距離じゃ感覚を鈍らせるのが精一杯だったかな。できれば、地面に熱烈な抱擁を交わしてほしかったところだけど」

 

「……」

 

「そう好戦的にならないでくれよ――――崩王が裏切らなければ、俺が裏切らないのは約束してやるから」

 

「…………港、お前は「何を使ってる」、「何を持っている」」

 

「――――さあてね、答え合わせなら受け付けてあげるから、少しくらい考えてみるといいよ」

 

 

 

 





 あとがきしょーとすとーりー 共同企画控室

虎之助「国吉灯休憩入りまーす」

灯「あっちー!!」モフモフ

十夜「うわもっこもこ……大変っすね、そのメイク」

灯「なんでもキリヤカンパニーと九鬼の最先端だと……簡単にはがせるのが救いだな……」ベリベリ

十夜「うお、まるで脱皮のように……」

灯「その例えやめてくんない?」ベリベリ

ガチャッ

王貴「塵芥共、暇なら(オレ)と遊戯王を……うおっ、何だ貴様羊か何かか!」

灯「それもやめてくれ」ベリベリ

ガチャッ

準「誰か暇な奴いないか、いたら俺とPSVRの体験会に……おいどうした国吉、そんなミーアみたいなプレイして」

灯「おう禿ちょっと待ってろ脱ぎ終わったら殴る」ベリベリ


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