MAJIKOI×DRIFTERS   作:霜焼雪

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第三幕 上陸!ロックンロール・タイフーン

 

 

 

「それじゃあ簡単に情報共有をするか。主に身辺のことになるだろうけどな」

 

「ならまず俺に聞け。機関の目がないからな、少しは話せることもあるはずだ」

 

 

 

 互いの名乗りが済んだところで質疑応答へと推移する。まず質問をされる側を買って出たのは与一。与一の世界にいたものならば、彼がこういったことに乗り気でいるのは珍しいことと思うだろう。

 

 彼からすると、今現在羽を伸ばせている状況を精一杯謳歌しようとしているのだろうか。ニヒルにかぶれている表情の隙間から、年相応の笑顔が垣間見えてしまう。

 

 

 

「その武士道プランってのは、他にクローンがいたりするのか?」

 

「ああ。源義経と武蔵坊弁慶の二人に、もう一人葉桜清楚っていう三年の先輩がいる。この人だけはオリジナルが分からんが、妙に逆らえんオーラを纏っている時がある。それだけじゃなくても、弁慶とはいい思い出がなくてな……」

 

 

 

 その時のことを思い出しているのか、与一の顔がほんの少しだけ青くなった。きっと何か暴力的な意味で怖いことがあったのだろうと、その表情を見て察する十夜と準。

 

 準は学園で行われているラジオのパーソナリティに骨を外されるわ殴られるわの毎日。十夜はちょっとした失言で実の姉からの制裁を受ける毎日。

 

 この三人、妙なところで共通点が存在している。

 

 

 

「きっと、すごい人、なんでしょうね……」

 

「誤解無きよう忠告しておくが、俺以外は女のクローンだ」

 

「ん? 義経も弁慶も男じゃないのか?」

 

「それが女でな。学園の人気者だ」

 

 

 

 源義経、武蔵坊弁慶と聞けば、源平合戦の軍記に記されている源平武者の中でもとくに有名な主従関係にある偉人である。方や絶世の美少年、方や得物狩りの巨漢、どちらも史実上は男性である。

 

 与一の話から推測するに、その男性の遺伝子から生まれたクローンは、学園のトップクラスの美女に対抗できるほどの美少女となって転生しているらしい。武の実力もオリジナルの名に恥じないものだというから、十夜と準は呆れを通り越して感心してしまう。

 

 

 

「九鬼って何でもできるんだな」

 

「もう九鬼一社だけでいいんじゃないかな」

 

「九鬼の支部ができただけでその国の財政が好転するレベル」

 

 

 

 三人の世界の共通概念は、九鬼はすごい、ということに集束してしまった。

 

 

 

「もう一度言うが、義経だけじゃなく弁慶も女だからな? ゴリラみたいなのは想像するな。贔屓目に見なくてもあれは一応美人の枠に入る。暴力ばかりふるってくる女だがな……」

 

「容姿だけなら美人の枠……。うっ……!?」

 

「毎日振るわれる暴力……。頭がっ……!?」

 

「お前らも、何か背負ってきたんだな……!」

 

 

 

 ボソボソと呪詛の様に反芻した言葉に、三人はその場で身震いする。女性から受ける暴力の度が行き過ぎている点や、その暴力の理由がほとんど理不尽である点など、三人はシンパシーを感じざるを得なかった。

 

 この後数分間、極度の人見知りの十夜でさえ肩を組んで慰め合うほど、三人の結束は強いものとなっていった。初対面の人間は共通点を見つければ見つける程親密になると言うが、この場合は暴力を振るわれているという負の要因が作用しているため、その効果は極めて高かったようだ。

 

 

 

「ところで、あの弓お前のか?」

 

 

 

 慰め合いが一段落したところで、準が壁に立てかけてある弓を指さした。その弓は一般的な和弓とは違い、余分な造形が施されている。また、その大きさも太さも一線を画している。超弩級、と表現してもいいのだろうか。それほどまでに与える印象は大きい。

 

 

 

「ああ。基本の作りは変わらないが、やはり飛距離は出るな。俺が天下五弓に選ばれたのも――――いや、忘れてくれ。なんでもない」

 

 

 

 与一は自身の射の性質を語ろうとしたが、直前でそれをやめた。

 

 また何か中二病が発症した結果だろうと思った準と十夜だったが、それは全く違う考えだった。これは、与一のプライドにかかわる問題であった。

 

 天下五弓に選ばれたという実力に自尊心は当然ついており、それを外に出さないものの、与一もそれを当然のように誇りにしている。だからこそ、与一の存在しない他の世界の天下五弓、若しくはそれ以上の弓兵の存在など知りたくなかった。自分がいない世界にいる自分の代わりなど知りたくなかった。

 

 与一はそんな心配が杞憂に終わることなど露知らず、一人で抱え込んでしまうのであった。彼の過去にある、大人たちに那須与一“なんか”と指差されたという心の傷はまだ癒え切っていないようだ。

 

 

 

「それより、次はお前だ。川神十夜」

 

 

 

 話の追及をさせないように、矛先を十夜へとずらした。ずらされた十夜はと言うと、突然のことにびっくりして座っていた石から転げ落ちてしまう。

 

 

 

「……お前、本当に武神の血縁者か?」

 

 

 

 ついに来たか、四つん這いで尻を与一と準に突き出した状態で、来るだろうと覚悟していた質問を受け入れて何とか耐える。その姿勢や格好は実に無様であるが。

 

 その無様な格好を直し、再び石へ座って大きく深呼吸をし、十夜は与一へ向き返った。

 

 

 

「……一応は。武術の鍛錬はもうやめちゃったんで強くはないです。最近は勘をちょっとだけ取り戻したから、少しはマシになったかな、と言う程度ですよ。色々ありまして……」

 

 

 

 十夜は何年も武術の鍛錬をこなしていなかった。一般人よりは目がいいし、そこそこの経験も積んでいるため、余程のことがない限り不良から逃げきれないということはなかった。加えて、ここ最近の軍人仕込みのトレーニングに加え、大きな戦闘大会があった。全盛期には程遠いが、実力は武術の鍛錬をしていたころに戻り始めている。

 

 しかし、例え全盛期に近づこうとも、十夜は実の姉に追いつくことは決してない。それを理解してしまったからこそ、十夜は武術から離れてしまったのだが。

 

 その質問をされて十夜の態度が急にそわそわし始めたのは与一だけでなく、準にさえ分かってしまう。余程触れられたくない話題だったと見える。

 

 見るに見かねてか、与一が声をかける。

 

 

 

「……あっているかは知らんが一つだけ言わせてもらおう」

 

「……?」

 

「比べられるのは、辛いはずだ」

 

「!」

 

「クローンとして生まれたってのはよかった。何せ偉人の生き写し、蘇りだ。大いに称えられたもんだ。けどな、史実の義経にはもっと有名な部下がいただろうと言われることが次第に多くなっていった。値踏みされてたんだよ。どんなもん使えるかってのをな。だから、お前のその暗い表情が比べられていることに対するトラウマだとするなら、少しは分かる」

 

 

 

 義経には優秀な部下がいたとされる。義経四天王とまで称され、それが異説で広がり八人あげられている。その中に与一の名前はない。心無い研究者によって告げられた事実は、与一の心を捻じ曲げてしまった。

 

 

 

「比べられて欠点が見つかると、それは大きなコンプレックスになって付きまとう。ステータス異常みたいなもんだ。自分だけの力じゃどうやっても取り除けない。誰かしらの協力が必要になる」

 

「…………」

 

「だが、そう心を砕く必要はない。本来人は死ぬまで孤独な生き物だ。比べられようが貶されようが、俺らは変わらず俺らだ。残酷なこの世界、せめて苦しんで生きよう」

 

 

 

 ――――それなりに良いことを言っていたのに、何でニヒルかぶれで終わったんだ。

 

 

 

 本の少しだけ与一の言葉が身に染みていた十夜だったが、最後の若干達観したような物言いに感動は漂白されて流されてしまった。

 

 そうとは知らず、与一は自身の言葉の決まり具合に心酔し余韻に浸っていた。

 

 

 

「それにしても、川神弟ねぇ」

 

 

 

 二人の話が一段落したところで、準が話に入り込んできた。

 

 

 

「川神のところは女ばかりだろ? だからあのじいさん以外で男ってのはやっぱり違和感あるな」

 

「俺からしたら、女ばかりの川神家ってのはやっぱり違和感を感じますよ」

 

「まあそうだろうな。女の間に男が挟まれて嫐(なぶ)ると読める。本当は男に挟まれてるもんだが、あの家計ならこの漢字の意味がよく分かるな。何せ女が四人もいるんだし、姦しいどころじゃなくて大変――――」

 

「「は?」」

 

 

 

 準の何気ない一言に、思わず声を合わせて驚いてしまう十夜と与一。

 

 準も与一も十夜も、全員が何を言っているんだという顔をしている。この情報共有のもっとも期待されていたところ、世界線による食い違いがようやく如実に表れてきた。

 

 

 

「女、四人?」

 

「姉貴にワン子……。数えるまでもなく二人だぞ? 両親は今川神にいないし」

 

「モモ先輩と同じ三年生に一人いるだろ? 双子の姉が」

 

「武神が双子だと!? そんなことは初耳、というかありえん! それなら学園中で有名になっているはずだ! 例えそれが弱かろうが強かろうが美しかろうが醜かろうが!」

 

「引き籠ってた俺が言うのもなんですけど、うちの血族半端ないよ? 姉貴の姉貴なんかいたら世界滅びるって!」

 

 

 

 準の平然とした言い方に十夜も与一も信じられないといった表情を浮かべる。松明の明かりで仄かに照らされていることもあり、その表情はより動揺しているように見えてしまう。

 

 

 

「いやそれだけじゃないぞ。なんせその人娘までいるし」

 

「「娘ぇ!?」」

 

「ああ。一回会っただけで俺の脳内フォルダ三つは彼女で埋め尽くされた。ロリはやはりいい」

 

 

 

 その娘の顔を脳内フォルダを開きスライドショーでも起動して高速に流しつつ愛でているのだろう、準の表情は変質者そのものであった。

 

 準が幼女に対して見境がなくなってしまうのは十夜の世界でも与一の世界でも同じようで、その光景は何故か二人を安心させてしまう。変わらずこの男は変態であったと。

 

 

 

「天使だったな。健全なお付き合いは認められている。一歩間違えれば惨殺されるだろうが、イエスロリータノータッチ。心得ている」

 

「与一さん。別の世界って進んでるね」

 

「俺が扇を射抜けないくらい手が震える程戦慄」

 

「で、その人の名前だけど――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドォン!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「!?」」」

 

 

 

 準がその人物の名を述べようとした瞬間、体ごと揺さぶるとてつもなく大きな爆音と、地震のような大地の揺れが発生した。

 

 あまりにも唐突なことだったので、十夜は再び石から転げ落ちる。他の二人も同様に振り落とされてしまうが、直ぐに体勢を立て直して立ち上がった。十夜は二転三転したが、先程よりも幾分か素早く姿勢を正すことに成功した。

 

 

 

「い、今の何!?」

 

「外に出た方がよさそうだな。崩落なんかされたら堪ったもんじゃない」

 

 

 

 準が危惧しているのは、自分たちが生き埋めになってしまうという最悪のケースだった。どういう洞窟が頑丈で、どういう洞窟が崩れやすいかなどは彼らには分からない。しかし、パラパラと天井から粒の大きい砂が落ちてきているところから、準はすぐにここを出るべきだと判断したのだ。

 

 十夜も与一も異論はないようで、あるだけの荷物を持って外へ飛び出す三人。その三人に、洞窟の暗がりに慣れてしまっていた目を日中の太陽の明かりが襲う。

 

 一瞬のこととは言え、視界を取られるのは痛かったのか、十夜は目頭を押さえたまま準の袖を掴んでいた。しかし、準もまた目をやられたようで、目頭を押さえながら与一を探していた。

 

 

 

「じっとしてろ。様子を見てくる」

 

 

 

 しかし、与一は準に袖を掴まれることを拒絶し、準たちから離れ単独で行動を開始した。同時に、少しだけ準が落ち込んでいたのを誰も見ることはなかった。

 

 ようやく目の痛みが治まった十夜は、何とか与一の向かった先を記憶しつつ、洞窟の外の景色を把握する。

 

 洞窟の外は、天使のように背中から翼の生えた少年二人と出会った場所と同じ、木々の茂る山の中だった。陽光の角度は五十度から四十度と言った具合だろうか。空の明るさから判断して、日の入りに向かっているのだろうと当夜は推測した。

 

 与一は近くの登りやすい樹に登って行ったようで、樹の幹や枝にところどころ足についていた泥が付着している。

 

 待つこと一分弱、樹の頂点から張った声が聞こえてきた。

 

 

 

「煙が上がっている! ハーピーの村で何かあったようだ!」

 

「ハーピー?」

 

「お前を介抱しようとしてくれていた羽の生えた人間だ。鳥人間というべきか? 亜人だとか言われたりしてるが、まあそいつらだ。与一がそう名付けた。よくこの辺りまで木の実を拾いに来るんだが、その度に与一が弓で威嚇してたりする」

 

「間違いなくファンタジーなゲームのやりすぎですね」

 

 

 

 与一の命名に苦笑していた十夜と準だが、そのハーピーたちが襲われているというのはどういうことだろうか。十夜たちの疑問は解消されないまま与一の実況が続く。

 

 

 

「兵士が見える! 侵略を敢行しているように見えるぞ! 足軽みたいな兵は槍や剣を構えている!」

 

「おいおい、穏やかじゃないぜ……?」

 

「それだけじゃあない、指揮官がいる!」

 

 

 

 軍が村を蹂躙しようと侵攻していることは明らかだと与一は推測し、それを準と十夜に告げた。

 

 

 

「あまり関わりたくはないが、近隣住民がやられていく様を見過ごすのは性に合わん! 井上! ソドムの弓を用意してくれ! ここから狙撃する!」

 

「そう言うと思って準備しといたぜ! 矢も作っておいた甲斐があったってもんだ!」

 

 

 

 準は与一がこの状況を見過ごせないと察知していたのか、侵略と言う単語が出た瞬間に、十夜と協力して与一の弓を張っていたのだ。大弓のためかなり力のいる作業ではあったが、鍛え直している十夜と現在進行形で鍛えている準の二人係だ。決して楽とは言えなかったが、なんとか弓を張ることに成功した。

 

 

 

「弓を担いだまま登れる自信はねぇ! いったん降りてこい!」

 

「待て! 指揮官の顔に見覚えがある! 兜を被っているが、角度的にもうすぐ見える!」

 

 

 

 与一はそう言うとしばし無言になり、十数秒後にスルスルと頂点から降りてきた。

 

 降りてきた与一は弓を肩にかけ、体に矢筒を複数装備していく。その様は実に手慣れたもので、弓の名手那須与一のクローンであることはだてではないと見せつけているようであった。

 

 準備をしている与一を手伝いながら、準は与一に質問を投げかける。

 

 

 

「それで、指揮官の顔は見えたのか?」

 

「ああ。よく見れば上着の中は川神学園の制服で、一気に確信に至った。雰囲気が違うから違うと思ったんだが、外見が一致し過ぎている」

 

 

 

 与一は自信たっぷりにそう語るが、本人自身が自分の言ってることに納得がいっていないようだった。雰囲気が違うがどう見ても自分の知っている人物であると言っている。それはつまり、与一が言うところの“別の世界線の知人”なのだろう。

 

 

 

「それで、誰だったんですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「話題にも上がってたな。川神の末っ子、川神一子だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その言葉を聞いた瞬間、十夜は頭に金槌で殴られたかのような衝撃を受けた。

 

 

 

 





 あとがきしょーとすとーりー 暴君川神十夜

十夜「俺に逆らう者は皆死刑だ! 殺してやる!」

与一「どうやって?」

十夜「勿論打ち首だ! 俺の得物、方天画戟を使ってな!」

準「馬に引きずられて泥まみれだぞ? ちょっと刃も欠けて」

十夜「うるさい! 見てろ、こうやって……!」ググッ

与一「持ち上がらないな」

準「重そうだもんな」

十夜「ふんっ……!」ズルズル

与一「引きずってるな」

準「より泥まみれだな」

十夜「ふんぬっ……!!」ズルズル

完
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