MAJIKOI×DRIFTERS   作:霜焼雪

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第四幕 Wiping All Out

 

 

 

 川神一子が村を襲っている。

 

 与一のその言葉に十夜の頭は真っ白になり、フラフラとおぼつかない足取りで体のバランスを崩し、与一が登っている樹を背にしてズルズルと腰を落としてしまう。

 

 川神一子は誰よりも優しく、人情に溢れた皆の人気者。マスコットとも慕われ、年上から愛でられることも少なくない。自分の祖父が溺愛しているのも知っている。男だの女だのと分け隔てもなく、どんな人にも気遣いもでき、心を洗い救い上げてくれる。

 

 かつての十夜も救い上げられた人間だった。

 

 川神一子の底抜けの明るさと諦めの悪さに、十夜は絶望と失望から脱却することができたのだ。故に、十夜は一子の優しさと世話焼きなところを身を以て知っている。

 

 加えて、十夜の世界では家族関係にある。家族としても、一人の友人としても、一人の女性としても、川神一子に惚れて憧れていた。

 

 

 

 

 

 だからこそ、与一の見た光景が、伝えられた事実が信じられなかった。

 

 

 

 

 

「っ――――!」

 

「おい川神! どこへ行く!?」

 

 

 

 居てもたってもいられなくなった十夜は鉄砲玉のように飛び出した。準の言葉に耳を貸さず、一心不乱に山道を駆け抜けていった。十夜を制止しようと準が手を伸ばすが、走ることだけを考えている十夜に手が届かない。

 

 足場も気にしながら走る準と、足場や怪我を気にせずひたすらに走るだけの十夜。反射的な自己防衛だけでなく理性が怪我を躊躇っている準が、我武者羅に突っ走る十夜に追いつけるはずがなかった。

 

 十夜は準の静止を振り切り、と言うか気にも留めずに山を駆け下りていく。

 

 ハーピーという種族が襲われている。確かにそれも行動原理としては大事なことだ。仮にも十夜は介抱された身だ。恩を感じていないはずはない。

 

 まるでゲームのような世界と、RPGのような展開が十夜の身に降りかかっている。心底ゲームが好きな人間ならば、一度は物語の世界に入ってみたいと考えることだろう。ゲーマーとしての叶うはずのない願いが果たされた、これもまた行動原理としては相応しい。

 

 

 

 

 そんな後付のような理由など、十夜の頭の中には存在しない。あるのは直情的な、一子に対する想いだけ。

 

 

 

 

 

 枝が頬を切った、厭わない。

 

 泥が口の中に入った、構わない。

 

 蜘蛛の巣に顔が捉えられる、顧みない。

 

 足を滑らせ地を踏み外し関節に痛みが走る、歯牙にもかけない。

 

 自分の体の問題など二の次である。目指すはハーピーの村、それだけを視野に入れて突き抜ける。引き籠っていたままの自分だったら、こんな無茶はできなかったとふと思った。一子には感謝してもしきれない。

 

 その救世主とも言える一子の不可解な行動の理由を、与一が見た信じられない光景の真偽を確かめるべく、十夜はひた走る。

 

 

 

 ――――ワン子、ワン子、ワン子っ……!

 

 

 

「ワン子ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 十夜の目の前の光景は、地獄だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 羽をもがれ地に叩きつけられ血を流すハーピーたち。中には剣や槍による傷が目立つ死体もあった。酷いものの例を挙げるなら、首や四肢が切り取られた肉塊にまで成り果てている仏もあった。

 

 むせ返る悪臭、耳を疑う悲鳴、駆り立てられる恐怖。村に漂う空気は戦場のそれだった。

 

 明確に十夜に擦り付けられる死のイメージ。彼が今まで経験してきた武とは確実に違う世界の出来事にしか思えなかった。未熟な武術が故の殺人、武術に関しては素人の殺戮。十夜の世界から飛び出した、一歩的な暴力による死の蔓延する外界。

 

 何も食べていない、何も飲んでいない。それなのに十夜は再び吐き出す。自分のいた世界での原因とは全く違う、視覚や聴覚からきた気持ち悪さだけでやってきた嘔吐。実に無様で、正常な人間なら仕方がないことだった。

 

 人ではないが、人に近い亜人の死。十夜はそれを受け止めきれなかった。

 

 

 

『いやぁあああああああああ』

 

『助けてくれ、誰か、誰かぁ』

 

『ひぃいい、ぐえっ――――』

 

 

 

 何を言っているか分からないが、その言葉にこもっている感情は十夜にも分かる。分からない者はまずいない。恐怖という感情が渦巻き、この村は完全に崩壊してしまっていた。止むことない断末魔、無言で殺戮を続ける黒い兵士。

 

 ゲーマーが抱く夢など、現実なってしまえば拒絶したくなる不条理なのだ。現実ではないからこそ、彼らは拒絶でき没頭できるのである。

 

 十夜は吐き出した後も四つん這いになったままその光景を見つめていた。最早何がどうなっているのか分からず、自分が地に足と手を付けているのかさえ自身がなくなってしまった。

 

 そこで十夜を見つけた一人の兵士が、高らかに声を上げた。

 

 

 

『目標発見! 目標発見!!』

 

 

 

 何を言っているか分からないが、十夜と目が合った途端に叫び出したのだ。自分がその叫びの原因だというのは自明の理だ。

 

 

 

『ご苦労様』

 

 

 

 十夜の視界に一人の人間が現れた。黒い兵士とは違い、明らかに格が上だと知らしめるような服を着ていた。

 

 赤いマントが付いた銀の肩甲(ポールドロン)。体を守ると言うよりかは威厳を示す意味で装着しているような肘当てと籠手が繋がったような銀の防具。大鎧、具足等によく見られる草摺(くさずり)も膝まで伸びており、まるで戦闘向きとは思えない、和洋折衷の異常な鎧。頭部には耳と頭だけを覆う日本よりの銀の兜を被っている。

 

 その下に着ているのは川神学園の制服。全く似合っているとは言えないが、似合っていないとも言えない。

 

 何よりも不釣り合いなのは、それを着ているのは十夜よりも小柄な少女だということ。

 

 

 

「向こうの言葉でいいのよね、漂流物(ドリフ)さん?」

 

「おい、何やってんだよ……? 何を、悪の将軍みたいな恰好で先導してんだよ……」

 

 

 

 疑いもなく、その少女は川神一子当人だった。持っている武器の薙刀も十夜の記憶にある一子の薙刀と一致している。家で、学校で、秘密基地で、多馬川のほとりで、毎日顔を合わせているのだ。十夜が一子を見間違えるはずはなかった。

 

 

 

「衰弱してるわね。張り合いのなさそうな漂流物(ドリフ)だわ」

 

「何やってるかって聞いてんだ……! 答えろワン子ぉ!!」

 

 

 

 十夜を見ても何の変化を見せず、恨み失望するような目で十夜を見下ろす一子のその態度に、十夜はついに激昂する。

 

 

 

「………………うふ」

 

「何笑って――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぅあッはははははははははははははははははははははははァ!? 今からみっともなく殺されるのに、生意気にもアタシに人道とやらの講釈垂れる気ィ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――は?」

 

 

 

 左右で開き具合の違う目。その奥にある澱み腐りきった負の感情。皺が寄り切った眉を吊り上げた歪みきったその表情と、狂気に塗れた叫び声に十夜の思考が停止してしまう。

 

 

 

「大して強そうじゃないし、武器も持ってないし、何で呼ばれたのかしらねェ?」

 

 

 

 外見と本能による格付けだけで人を値踏みする一子を目の当たりにし、ようやく十夜はこの世界のシステムを真の意味で実感する。

 

 

 

 

 

 ――――これが、別の世界から来た一子なのかよっ……!!

 

 

 

 

 

「あれ、黙っちゃってどうしたの? 今更怯えちゃった?」

 

 

 

 薙刀を後ろ首に押し付けるようにして肩で担ぎ、片側の口角だけ吊り上げて揶揄するように話しかける一子。十夜の知る一子の正反対の悪魔が、一子の皮を被って十夜に近寄ってくる。

 

 それだけで、十夜が戦闘態勢に入るには十分だった。

 

 目の前の悪夢を打ち払おうとするのは必然だった。

 

 

 

「あれ、殺り合う気? まあ貧弱そうな見た目だけで判断するのはダメだってのは“あの不死身くん”で学んでるし、気は抜かないようにしようかな」

 

 

 

 十夜の構えを見た一子は実に愉しそうに笑い、薙刀を必要以上に振り回して十夜に突きだした。攻撃のための行動ではなく、かかってこいよと挑発するだけの行為。彼の知る一子には到底できない、他人を見下すような視線と必要以上の煽り。

 

 

 

 ――――もう、こんな一子は見たくない。

 

 

 

 戦闘を意識しただけでなく、少しでも視界を悪くしようと眼鏡を外した。本来の彼が戦闘の際に眼鏡を外す理由と、今眼鏡を外した理由には大きな違いがあった。

 

 前者は眼鏡と顔を守るため、後者は自分の心と記憶を保つため。

 

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 

 

 パワーもない、技自体のキレもない、スピードもすばしっこいと評される程度。武道から離れた十夜の鈍った体では、一子とまともに戦うことなどできないだろう。目の前にいる一子は十夜の知らない一子だが、薙刀の扱いは完全に一子のそれだった。いや、十夜の知る一子よりも若干巧かったかもしれない。

 

 勝ち目がないのは火を見るより明らか。そんなことは関係なかった。

 

 十夜がなすべきことは、目の前にいる一子の皮を被った何かを排除すること。十夜はなりふり構わず一子へ突撃した。

 

 

 

「――――殲滅開始ィ……!」

 

 

 

 一子が薙刀を頭上に持っていき、天地上段の構えを取った。その瞬間、一子の背後に陽炎が発生したように空間がゆらりと揺れる。

 

 その光景を見た十夜は全力で後方へ飛んだ。正確には、その光景を見たことで首が跳ねられるイメージが見えてしまったから、十夜は引かざるを得なかったのだ。

 

 心臓が爆発したように大きく爆ぜ、十夜の体からブワッ、と大量の汗が滲み出る。死に直面したことによる恐怖心が体の機能を必要以上に作用させていた。

 

 

 

「伊達に漂流物(ドリフターズ)じゃないわね。もう一歩踏み込んでたら死んでたわよ?」

 

 

 

 一子は十夜に賞賛のようなものを送るが、一子の顔は先程よりも黒く歪んでいった。奥歯を噛み砕こうとしているのかと疑わせる程、ガリガリと音を立てて歯を噛み締める様は怨憎に支配された一種の自傷行為だった。

 

 

 

「才能ある奴ばっかり、嫉妬しちゃう。ま、才能がなかったら漂流物(ドリフターズ)としては落第なんだけどね」

 

「おい、今のは何だよ……」

 

 

 

 十夜は急激に早くなった脈拍を抑えつつ、一子の背後にある何かについて問い質す。先程の殺気についてもそうだが、人を簡単かつ人外的に殺せるような手段を、十夜の知る一子は持っていなかった。

 

 それなのに何故か、十夜は一子の背後にある揺らめきに既視感を覚えていた。十夜からすれば、気味が悪くて仕方がない。

 

 

 

「どうでもいいじゃない、そんなこと。わざわざ殺す手段聞いたところで死ぬのは一緒じゃない? 冥土の土産って概念はアタシらにはないわよ?」

 

「――――は、はは。さっきから難しい言葉使いやがって。気持ち悪ぃな、くそっ……!」

 

 

 

 十夜は涙ながら悔しそうに言葉を漏らした。しかし、戦いの姿勢は解かない。一子に対し最後まで戦い抜くという意思表示だ。

 

 

 

「じゃあ次はもっと早く――――」

 

「オラァ!!」

 

 

 

 一子が余計に薙刀を回していると、一子の背後から一人の男が忍び寄り跳び蹴りを食らわせた。

 

 しかし、一子の後頭部にその蹴りは届いていなかった。何か分厚く見えない壁のようなものがあるのか、頭の手前で蹴りは止まっていたのだ。

 

 

 

「ハゲ先輩!?」

 

「……あら、井上くんじゃない」

 

「ちっ、本当に川神妹かよ……。信じらんねぇが、こう目にしちまうと信じなくちゃいけなさそうだ」

 

 

 

 準は一子の背後にある何かから足を離し後方へ素早く下がる。何か拙いと一度の接触で感じ取ったのか、準が置いた距離は必要以上に大きく、一子の薙刀が三つは間にあっても余裕ができるほど離れていた。

 

 十夜同様、準も死に近い何かをイメージしてしまったのだろうか、接近しただけで準の呼吸が乱れていた。

 

 攻撃された一子はというと、十夜を背にして準へと向き返っていた。獲物を見つけた獣のような表情、纏っている莫大な気の量。準は別人のような一子に対して嫌悪感を覚える。

 

 

 

「お前、俺の世界の川神妹じゃないな。雰囲気で分かる。こんなことで世界の違いってのは分かりたくなかったがな……」

 

「そう? アタシらはみんな壊れちゃってるからね、雰囲気なんかじゃ判別できないわよ?」

 

「どっちでもいいさ。お前がこうして異常な行動を取っている以上、俺にとっちゃ仲間だとか言ってらんねぇ」

 

「潔い決断ね。容赦しないって感じの目をしてる。吠えるだけしか能の無さそうな地味っ子よりは張り合いありそうな漂流物(ドリフターズ)で安心したわ?」

 

 

 

 十夜も準も一子の言葉には耳を貸さない。一子の言葉を聞いてしまうと、聞き入れようが聞き流そうが、決意して宿した闘志が揺らいでしまいそうだから。

 

 無視されたというか、挑発が意味をなさないと察した一子はつまらなそうに薙刀を地面に刺し、両手を組んで大きく天へ向けて伸ばす。同時に首をぐるりと大きく回し、自身の周囲全方位を一瞬にして見渡した。

 

 

 

「井上くん。ハーピー逃がすためにちょっと頑張ったのかなァ? アタシの兵が二割ほどダウンしてるんだけど」

 

「剣の握りも振りもド素人じゃねぇか。たった十七人、お前らみたいな武士娘相手にしてるよりは随分楽な仕事だったぞ?」

 

「ふゥーん? やっぱり漂流物(ドリフターズ)ねェ。あれでもそこそこ使えるようにはしたのよ? ま、所詮畜生紛いの兵が一朝一夕で漂流物(ドリフターズ)に勝てるようにするのは無理があったか――――なッ!?」

 

 

 

 一子は薙刀を地面から抜き、大きく横に薙ぎ払った。すると、一子の薙刀には何も触れていないのに、一子より十メートルほど離れた場所で、ガキィン! という金属が弾かれたような音が聞こえた。

 

 十夜と準は何が起きたのか分からなかったが、空から降ってきた何かの残骸を見てようやく理解する。

 

 

 

「優秀な弓兵がいるじゃない。アタシらの兵を鍛えて欲しいくらい。兵士がドンドン射抜かれちゃうから困っちゃうわ、ねッ!!」

 

 

 

 粉々に砕け散り、矢の先端である鏃と弓に取り付ける筈を、一子は振り上げた足で思い切り踏み潰してグリグリと踏み躙る。

 

 与一の援護射撃だと理解した準と十夜は目を見合わせ、次に来るであろう援護射撃が攻撃のタイミングだと理解し、待ちの姿勢を取った。

 

 しかし、問題が一つある。

 

 

 

「厄介ねェ。さっさと潰してあげましょうか」

 

 

 

 それは、一子の攻撃の手段が未だ分かっておらず、防ぎ切れるかどうかすら分からないということだった。例え急所を守っていても、心臓や頭を吹き飛ばされたらそれで終わり。それほどの威力があるかもしれないと、十夜と準は互いの一合でそれを危険視している。

 

 それほどまでに、一子の背後にいる何かは恐ろしいのだ。

 

 

 

 

 

「――――双槌・毘沙門天」

 

 

 

 

 

「「ッ!?」」

 

 

 

 一子がそう呟いた瞬間、一子の背後から視認できるほど濃く密集した気が、車よりも大きな拳を形成していく。その拳は恐ろしく速く放たれ、準も十夜も拳が見えたと思った瞬間には、既にその拳に襲われていた。

 

 十夜と準は気の塊である拳から発生した衝撃波に吹き飛ばされ、それぞれ一子から離れていくように弾き飛ばされた。準はハーピーたちの民家の壁を破壊するほどの勢いで叩きつけられ、十夜はハーピーたちが自給自足のために育てていたであろう野菜の畑を抉るように滑っていく。

 

 

 

「ぐ、ふっ……!?」

 

「しぶといわねェ。ま、アンタにはちょっと弱めに打ってあげたわ。それにここならあの弓兵からしたら死角。援護はないと思いなさいな」

 

 

 

 体のどこかがへし折れていても不思議ではないほどの衝撃に見舞われ、畑の土と同化しかけている十夜の下に一子が近寄ってきた。

 

 十夜の頭のすぐ横に薙刀を鍬の様にザクッ、と突き刺し、刃を十夜の首筋にピタリと当てる。

 

 

 

漂流物(ドリフターズ)は皆殺し。これは変わらないけど一つ聞かせなさい」

 

「…………?」

 

「臭うのよ。アンタから、アタシや武神の臭いが、色っ濃くね」

 

 

 

 一子は薙刀の持ち手を刃と柄の中間である唾まで落とし、十夜の首元を左手で引っ張りシャツを引き裂き、鎖骨部分に顔を這わせる。

 

 ゾクゾクッ、と何とも言えない感覚に襲われ身震いした十夜。ムカデに這われているようでもあり、優しく包まれているようでもあった。こんなことを一子は自分に決してしない、目の前にいるのは一子ではない、そう言い聞かせてもこの快感に近い感覚を、身体的にも精神的にも拒絶しきれなかった。

 

 

 

「すゥ、はァ……」

 

「……う、あっ……!」

 

「懐かしいくて、気持ちの悪い臭い……。アンタの世界じゃ、アタシらは親しい関係だったんじゃない?」

 

 

 

 どうやっても考えないようにしていたことを一子から告げられる。自分の耳を塞ぎたくても、一子の口を塞ぎたくても、この場から逃げ出したくても、体の自由が利かない十夜にとって、今のこの状況は生殺しそのものだった。

 

 

 

「まともに声も出せないようね。表情を見れば大体分かるわ。アタリみたいね?」

 

 

 

 もう一度首筋に鼻を寄せられ、一子の吐息が十夜をピリピリと刺激する。

 

 

 

「いい仲間になれたかもしれないのに、漂流物(ドリフターズ)なのが惜しいわァ……。せめて見慣れた顔の手で殺されるんだから、悦びなさい?」

 

 

 

 地面に刺さっていた薙刀を抜き、脇差でも扱っているように薙刀を構え、十夜の首を落下地点とする。

 

 

 

 ――――ちく、しょおぉ……!!

 

 

 

 一子に良い様にされ、あっけなく殺されてしまう自分を十夜は悔やみ恥じ、心で盛大に泣いた。ひょっとすると本当に泣いているかもしれないが、その涙は畑に紛れてしまい、一子に見せることはできない。

 

 しかし、それでよかったのかもしれないと十夜は思い直す。

 

 仮にも、姿は自分の憧れ惚れた川神一子だ。みっともなく泣く様を、これ以上見せるわけにはいかないと、殺されることを受け入れてしまった。

 

 

 

「……………………?」

 

 

 

 受け入れたというのに、諦めたというのに、いつまで経っても一子の手は振り降ろされない。それどころか、一子は十夜の上からゆっくりと退いてしまった。

 

 一体何があったのかと、精一杯の力を込めて瞼を開けて目を凝らし、一子の視線を辿りその先を見る。

 

 

 

 

 

 そこには、古錆びた上下開閉式の鉄格子がポツリと浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 ガラガラガラガラ、と大きな音を立てて鉄格子が引き上げられていく。鉄格子は地面に口を向けているため、引き上げられていくという表現は不適切かもしれない。しかし、“向こう側”では確かに引き上げられているのだ。

 

 十夜はふと、ああいうタイプの鉄格子と言うものは、ゲームでよく目にする闘技場で設置されているものだと思った。そこから出てくるのは人よりも獣を連想させられる、武骨で頑丈な鉄格子。飾り気などまるでない。

 

 ガキィン! と完全に鉄格子が開けられた音がしたのと同時に、大きな白銀の狼が飛来し、隕石のようクレーターを作り着弾した。土煙と衝撃波を発生させ、辺りの木々は薙ぎ倒されてしまう。

 

 吹き飛ばされた黒い兵士たち、怯え竦むハーピーたち。

 

 上半身を何とか起こした瀕死の十夜、醜く歪んだ笑顔で薙刀を構える一子、頭から血を流し壁に背を預ける準。

 

 

 

 

 

 彼らが見た者は、歯を剥き出しにして闘争本能を振りまく狼を従える、黒い髪を後頭部でまとめ上げたポニーテールの少女。

 

 

 

 

 

「――――瑠奈はどこ?」

 

 

 

 

 

 その場にいる者全てに暴力的な殺意を向け、来訪者は、鬼となる。

 

 

 

 





 あとがきしょーとすとーりー 暴君川神十夜

十夜「なんだこれは!」

準「空腹とおっしゃいましたので料理をと思いまして」

与一「木の実と薬草のスープでございます」

十夜「こんなもの食えるか! 生姜持って来い!」

準「お言葉ですが王様。この未知の世界、かき集められるだけの食料と使えるだけの調味料を使いこなしその中に入れております。味は問題ありませんし衛生上完璧に仕上げております」

与一「それが嫌とおっしゃるのならば、ご自分で近隣のハーピーたちに交渉しに行き食料を確保し、ご自分でお作りになってください。もっとも交換材料はありませんし、交換したところでハーピーと内容は変わらないと思いますが」

十夜「む……。そうか、致し方あるまい。これで我慢してやろう。どれ……」ズズッ

準「いかがでしょうか」

十夜「おお、意外と上手いではないか! 褒めて遣わす!」

与一「ありがとうございます」

十夜「ふむ、意外とありだな……」ズズッ

準「じゃあ俺らも飯にするか」

与一「ほい、カッ○ヌードル」

準「俺シーフード」

与一「俺はカレー」

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