MAJIKOI×DRIFTERS   作:霜焼雪

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第八幕 Paradise Lost

 

 

 

「こちらシン! 燈火(ともしび)様! 応答願いします! 燈火様!」

 

 

 

 時を同じくして、北のペガス区駐屯所。南西のドラグ区とほぼ同じつくりの独房である地下室で、ドラグ区に赴いていた男とほぼ同じ服装で、同様に扇子を広げて会話を試みようとしている女がいた。

 

 女の和服は桃色を基調としており帯は白、所々に華が散りばめられており、如何にも女の子が着るような服装だった。しかし、その女は女の子と言うには大人びていて、実に妖艶で美麗な女性のようだった。

 

 しかし、その女性の美しさも焦燥感に打ち消され、大人びているイメージは一旦取り外した方がよいだろう。額から滲んだ汗が煌めいているが、暖かさのある光ではない。

 

 

 

「ダメ……。通じない……!」

 

「おい大丈夫か?」

 

 

 

 奥歯を噛んで現状に焦るシンと名乗った女に、宥めるように声をかける少年がいた。

 

 少年は黄色と黒の虎縞の肌着の上から、右胸のポケットに硬貨程度の大きさのワンポイントだけ縫いこまれた白いシャツを着ていた。虎縞の肌着にも目を引かれがちだが、その腰に差してある日本刀が一際明瞭である。

 

 さらに、少年の頭部には包帯が巻かれている。よく見ると体中に傷が目立ち、まだ治りかけであると印象付ける。少年は正しく怪我人であろう。

 

 

 

「何かさ、嫌な臭いがする。闘争とかそんなんじゃないな。こう、直接鼻を抉って脳にくるような……」

 

「あ、私も……」

 

 

 

 少年の曖昧な感覚での物言いに、少年の背後に隠れていた少女がおずおずと手を上げて賛同した。

 

 少女の服装は少年と同じように制服だが、少年の学校の校章と思われるワンポイントの刺繍はない。別の学校の制服なのだろう。少女のセーラー服のタイは緑色で、それに合わせているのか、胸にかかる程度の長さの髪を肩の高さで二つに縛っているリボンの色は薄い緑色だ。固より髪が若干緑がかっているので、リボンは愛用していたものでタイが後付けかもしれない。

 

 

 

漂流物(ドリフターズ)だけが分かる感覚――――じゃあこの交信妨害も!?」

 

 

 

 

 

 シンが二人の言葉により何かを理解した瞬間、突如大きな震動が彼らを襲った。

 

 

 

 

 

 地下深くに作られたこの独房にも到達する地響きだ。地震かもしれないが、少年少女が感じ取った感覚を信じているシンにとって、この揺れは地震ではないという確信めいたものがあった。

 

 パラパラと天井から砂が零れ落ちる。いくら頑丈に造られている地下室とは言え、“強力な力で上から叩かれたら”、はたきで落とされる埃の様に必然的に落ちる。

 

 自身の焦りを何とか抑え込み、シンは数秒逡巡し決断を下す。

 

 

 

『警備兵はすぐにコウガ全土に通達しなさい! 崩王の手が迫ってきています! 今の揺れは崩王軍の攻撃で間違いありません!』

 

『な、何っ!?』

 

『急ぎなさい! 私は漂流物(ドリフターズ)の二人をつれてここから脱出します! 崩れる恐れも考慮して貴方も非難しなさい!』

 

『り、了解!!』

 

 

 

 シンという女の宣告と命令に狼狽した兵士は、自身の装備を確認して素早く階段を駆け上がっていった。全く気を引き締めていなかったのだろうか、何度か躓きよろけている様は実に無様だった。

 

 シンは燈火という和服の男がコウガに来た時点で、この国が侵略対象に定められていると兵士に告げた。しかし、兵士はそんなはずはないと楽観視して聞き流していた。その結果が今の慌て様、シンはその姿に呆れてものも言えなかった。

 

 兵士が駆け上がっていたことを確認したシンは座り込んでいる二人の肩を掴み、確りと目を見て話しかける。その吸い込まれるような瞳に、二人は思わず唾を飲み込んでしまう。

 

 シンは二人の肩を握る力を強くして、息をゆっくりと大量に吸い込み、囁くように語りかける。

 

 

 

「敵軍によるこの国の侵略が開始されました。ペガス区(ここ)が陥落させられるのも時間の問題です」

 

「「!?」」

 

「安心してください。貴方たち二人は、私が命を懸けて燈火様のところまで届けます。ですから、ここから脱出しま――――にょわっ!?」

 

 

 

 そう言ってシンは二人の肩を握っていた手で彼らの腕を掴み、引き上げ立たせて独房から連れ出そうとした。

 

 しかし、シンは二人を引き上げることはできなかった。まるで壁に取り付けられた縄でも引っ張っているかのように動く気配がなかった。反発によりシンは逆に引っ張られるようにして尻餅を付いてしまう。

 

 

 

「あいたたた……。な、何してるんですか二人共! 早く出なきゃ崩れてしまうかも――――!」

 

「訂正してくれたら出ます」

 

「…………え?」

 

「さすが。オレも同じこと言おうとしてた」

 

 

 

 ペタリと座り込んでしまったシンにずいっ、と近寄った二人の顔は、ほんの少しだけ怒気を孕んでいるように見えた。

 

 シンが座っている床から来るひんやりとした冷たさと、独房特有の冷感も相まってか。二人の憤りの熱量を敏感に感じ取ってしまっていた。

 

 

 

「シンさんは私たちを助けてくれたんだよ? なのに最後まで助かりっぱなしってのは、死んでも御免です!」

 

「ここの郊外で死ぬ寸前だったからさ。シンには返しきれない恩がある。なのに命を懸けてって、悲しいこと言わないでくれ」

 

「…………」

 

 

 

 

 

 シンは二人と初めて出会ったころを思い出した。

 

 一ヶ月前、シンが馬に乗ってコウガ第三帝国の郊外調査に出ていると、東側の野原に少女を庇うように倒れている少年がいた。シンはすぐに二人に駆け寄り介抱しようとした。

 

 すると、東側にある森から黒い兵士が三人出てきたではないか。

 

 シンはその時瞬時に察した。この二人は漂流物なのだと。

 

 漂流物(ドリフターズ)の力ならば黒い兵士を三人打ち倒すのは簡単かもしれないが、漂流物(ドリフターズ)と思しき二人は気絶しており戦うことどころか立つこともできなかった。

 

 シンは黒い兵士三人に立ち向かうことを決意した。漂流物(ドリフターズ)は守り通さなくてはならない。それが彼女の所属する行燈機構(ラント)の絶対的な意向なのだ。シンは行燈機構最高責任者である燈火と言う男から授かった魔法のような力で黒い兵士を圧倒する。

 

 黒い兵士を追い返すことに成功し、シンは二人を馬に乗せて何とかコウガに連れ帰ることに成功した。漂流物(ドリフターズ)は何をしでかすか分からない。そういった統一固定観念のせいで独房という最悪の待遇ではあったが、シンは親身になって二人を介抱した。

 

 少年は少女を庇い所々に傷を負っていたが、意外と傷も浅いこともあってすぐに快調へ向かった。少女は困惑していたが、同じ境遇に置かれた少年が一人いることで少しは平静を保てているようだった。

 

 そして一ヶ月後。二人はすっかり普段の体調を取り戻したようだったが、シンは二人に懐かれたというか、頼られるようになっていた。

 

 そんな二人が、シンのために戦おうとしていた。恩を返そうとしていた。

 

 

 

 

 

「これでも剣聖の娘です! 自分の身は自分で守れます!」

 

「一応オレも剣聖の孫だ。“女に守られてばかりのヘタレ野郎”なんて言われちゃったら、じいちゃんの名前に傷が付いちゃうからな」

 

 

 

 少年少女は立ち上がり、自身が持っている装備を掲げた。

 

 少年の剣は一切の波紋がなく、現代日本における日本刀としては異彩を放つ。しかし、その青々と光を反射する刀身は紛れもなく剣そのもの。美しさを捨て、力だけを求めた末に生まれた、折れも曲がれもしない人斬りの刀。何年と握り振り続けてきたその刀の以前の持ち主の名誉を守るため、少年は刀を振るう。

 

 少女の剣は黒と金を基調とした日本刀。しかし、少女の手に確りと馴染んでいる様子は見受けられなかった。触ってまだ数回と言ったところか、真剣を握る回数も少ないのだろう。しかし、もう一本背負っている竹刀の持ち手はすり減り艶が出る程擦れていた。実戦経験の少なさを、これまでの人生全てで補う。

 

 二人は顔を見合わせて笑い、剣を鞘に納めてシンに手を伸ばす。

 

 

 

「友達でしょ? 私たち」

 

「少しくらい、恩返しさせてくれ」

 

「…………それじゃあ、一緒に逃げ切りましょう」

 

 

 

 シンは涙目になりながら二人の手を取った。

 

 いつか二人を裏切ることになろうとも、シンは決してこの手を傷つけない。そう誓った。

 

 

 

 ◇ ◆ ◇

 

 

 

 コウガ第三帝国は空襲を受け、既に半壊していた。階級を問わず人の住処は平等に押しつぶされ火事になり、道路や橋といった通路は悉く遮断されている。港にあった船は全て沈められている。出入り口である門も潰され、完全な虫篭となった貿易大国。住民は殺されるのを待つばかりとなってしまっている。

 

 その恐怖の蔓延するコウガ第三帝国の中央のアルト区上空、まるで部屋に明かりを灯す照明器の様に、まるっとした月のような背中を持つ巨大な飛龍が停滞していた。その飛龍が与えるのは希望(あかり)ではなく、絶望(かげ)であるが。

 

 その飛龍の大きな背に乗る狐面の人物と四人の人間が乗っていた。狐面の人物だけが立っており、その人物に向かい四人の人間が跪いている。狐面の人物が主で、四人の人間は従っている関係だとハッキリ分かる。

 

 

 

「顔を上げよ」

 

 

 

 狐面の人物は四人に顔を上げるよう指示し、四人は即座に顔を狐面の人物に向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大和田伊代」

 

「はい」

 

「東のタイタ区を落とせ」

 

「了解しました」 

 

 

 

 四人の内一番左にいた少女が立ち上がる。その少女、大和田伊代はこの惨状を作り上げた、縦縞と星のマークがついたジャケットを羽織った張本人だった。

 

 伊予は飛龍の尾まで歩いていき、何の躊躇いもなく飛び降りた。飛び降りた先には何匹もの飛龍が飛んでおり、その背中をピョンピョンと飛び跳ねて下に降りていく。人間業とは思えない曲芸だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「伊達瑠奈」

 

「はーい!」

 

「北のペガス区を落とせ」

 

「了解でーす! それじゃあ行ってきますね!」

 

 

 

 残った三人の右恥にいた少女がぴょん! と飛び跳ねるように立ち上がった。その少女、瑠奈は実に幼い容姿をしていた。年齢を数える際には両手の指で事足りるだろう。あまりにも若くあまりにも小さい。

 

 そして最も特筆すべきことは、瑠奈は両目を真っ黒な包帯で塞いでいることだろう。一筋の光すら入らないよう何重にも巻かれていた。

 

 瑠奈は龍を正面から見て右の翼に向かって勢いよく走っていき跳んだ。くるくると空中で何回転もしつつ、「いやっほー!!」という叫び声を上げながら落下していく。何も見えない瑠奈の先の見えない奇行だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クリスティアーネ・フリードリヒ」

 

「おうっ!」

 

「南西のドラグ区を落とせ」

 

「了解! 豚共率いてまっさらな平地にしてやんよ!」

 

 

 

 残った二人の内、露出を第一として考えたように服を着崩した金髪の少女が立ち上がった。金髪の少女、クリスもまた伊予と同様に、コウガ第三帝国にゴブリンの兵隊を差し向け崩壊の原因を作った張本人だった。

 

 クリスは堂々とふてぶてしく左の翼に向かって歩いていき、鞘に納めていたレイピアを抜いて振り降ろす。

 

 次の瞬間、眩い閃光がクリスを包んだかと思うと、クリスの姿はそこから消失していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「高坂虎綱」

 

「……………………なんですか、崩王様」

 

「中央のアルト区を落とせ」

 

「了解しました……。あー……、気が乗らないなぁ……。やるけどさ」

 

 

 

 最後に残った一人が、のろのろと立ち上がって後頭部をぽりぽりと掻いた。虎綱は真っ黒なシャツと真っ黒なパンツ。全身を黒で染めつくした上、腕に、足に、腰に、首を除く体中の至る所に橙色のベルトを巻きつけていた。動きが制限されることはないが、見ている者に息苦しさを与えるほどきつくまかれていた。

 

 虎綱は気怠そうに狐面の人物の脇をすり抜け飛龍の首元まで来ると、空を飛んでいた一匹の小さな飛龍を呼び寄せて飛び移り、ゆっくりと下降していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「北の戦線から高坂や俺まで呼ぶ必要はなかったんじゃねーの? 崩王ちゃん?」

 

 

 

 大きな体躯をもつ飛龍の上に残されたのは、崩王と呼ばれた狐面の人物だけ、そのはずだった。

 

 飛龍の背中の中央に、赤いピアスの男が大きな酒樽に片腕を乗せて座っていた。男の手には酒樽に入れてあった柄杓が握られており、真っ赤な液体が零れる程掬われていた。

 

 それを口に持って行き一気に飲み干し、再び柄杓を酒樽に入れてかき回す様に液体を掬う男に、崩王がゆっくりと歩み寄る。

 

 

 

「北の制圧は安定している、問題はない。それに、お前がいると安心できる」

 

「嬉しいねェ。崩王様直々に口説かれちまったわ」

 

「好きにしていていいぞ。参戦するもよし、傍観するもよし、だ」

 

「コウガはいい酒が集まるからな。二樽ずつ確保したし、この光景を肴にさせてもらおうかね。どうだい崩王ちゃん、駆けつけ一杯ならぬ、駆けつけてやったから一杯、なんつってな」

 

 

 

 男はぐいっ、と酒の入った柄杓を崩王に差し出すが、崩王は男の手を押し返してそれを拒否する。「ちぇっ」と残念そうな顔を浮かべた男だったが、その返された酒をぐっと呷りすぐに笑顔に戻る。

 

 

 

「国吉灯。お前は廃棄物(エンズ)か、漂流物(ドリフ)か。明確にせよ」

 

「どーすっかね? いい女が多い方に傾かせてもらうさ」

 

 

 

 ◇ ◆ ◇

 

 

 

 “BREAKER LORD MAKES A FIERCE ATTACK”

 

 

 

 真っ黒な通路の末端にある部屋。扉に“EASY”と書かれたネームプレートが飾られてある部屋の中は妙にメルヘンチックだった。置いてある家具はどれもファンシーなものばかりで、少女の思い描くソファーやドレッサーが置かれている。

 

 ただ違うのは、それがすべてモノトーンの配色である、と言うことだろうか。本来なら目に優しくないようなピンクで彩られているようなソファも、とても味気のないものとなっている。ドレッサーに置かれている化粧道具もモノクロで、何のための道具かさっぱりわからない。

 

 女の子の夢は幻想だと、思い描くだけで満足していろと、夢を壊すためだけに作られたような部屋だった。

 

 さらに、その部屋の主が年端もいかない少女の姿をしているのだから、実に皮肉なものだ。

 

 少女はソファーにどっかりと腰を掛けながらパソコンを弄っていた。そのパソコンからはどこか悲しみを誘うような女性の歌が響き渡っていた。

 

 パソコンの画面下に曲名が流れる。“歌劇オテロ第四幕「寂しい荒野に歌いながら泣く」”と表示され、そこから聞こえてくる女性の悲哀のメロディーに少女は浸り笑顔を浮かべる。

 

 

 

「――――いい調子じゃない」

 

 

 





 あとがきしょーとすとーりー 崩王様御乱心

崩王「ようやく本腰入れられるのです! プリプリ怒りながら手当たり次第に国を壊滅させちゃうのです!」

三千尋「イェア!! 崩王様マジパネェ!! もうじゃんじゃかやっちゃってくださいよー!!」

崩王「とりあえずそこの庄司○治のバター犬(♀)とお胸育たナイト、ドリフぶっ殺してこい!!」

一子「だれがバター犬よォ!?」

クリス「喧嘩売ってんのね!?」

三千尋「川神一子。スリーサイズは77・54・79。通称ワン子。犬笛を吹かれるとついていく修正有。直感は卑しい犬とほとんど変わらない。食に関することだとすぐに覚えられる。臭いで人を判別したりできるのでマーキングも可能ともっぱらの噂。弁当一気という技を使い終わると弁当が舐められたように綺麗になるという」

一子「」

三千尋「クリスティアーネ・フリードリヒ。スリーサイズは80・58・81。通称クリス。甘いものばかり食べており虫歯予備軍。歯の磨き方を知らない。匿名希望と言う騎士とは思えない姑息な手段で自身の胸が小さいことを相談。結果丸め込まれる。周囲の胸を見て気にしているが、武神やマルギッテがすごいだけなのでそこまで気にする必要はない。しかしBカップというのは事実」

クリス「」

崩王「流石である」

三千尋「これくらいは」

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