荒野に隣接する山岳地帯にて、五人は異様な光景と立ち会った。
それは、凍結した山の頂上よりも高い位置で黒い戦艦と銀色の戦艦が戦っている、というものだ。黒い戦艦は銀色の戦艦に向かって弾幕を放ち、銀色の戦艦は薄い緑色のバリアを張りながら黒い戦艦にレーザーを撃って反撃する。黒い戦艦にレーザーが直撃するが、黒い戦艦はレーザーをものともせずに弾幕を放ち続けていた。
「な……なんだろう、あれ」
リュカが怖々としたようすでつぶやいた。レッドやマルス、アイクも見た事が無い光景に、体に纏わりつくような寒気を感じていた。
「……メタナイト、あれって……ハルバードよね」
「ああ。間違いなさそうだ」
そんな中、サラとメタナイトの間には妙な緊張感が漂っていた。
「どうするの? あの四人を置いて、あたし達だけで奪還しに行く? それとも、あの四人の力を借りる?」
「……答えは、君と私で奪還する。だな」
「はあ……答えになって無いわよ。まあ、大体言っていることは、承知したけどね!」
サラは先程の憂い顔とは打って変わって、少年のような力強い笑顔を見せた。その笑顔を見ると、なんだか心強くて、頼もしいという感情が湧き上がる。同時に、彼女は敵にしたくないという戦慄が体を襲うが。
「よし、行くぞ」
「了解!」
メタナイトは群青色のマントを瞬きをするよりも速く黒い翼に変え、地面を蹴り、山に飛び立った。サラもその後を追うべく、地面を蹴って空中浮遊の能力を発動させ、メタナイトにすぐに追いつくような速さで飛翔した。
隣で異音が聞こえたと思ったマルスは、まさかと思いつつも、サラとメタナイトがいたところに目を向けた。案の定、二人の姿は無く、自分達は取り残されてしまったという苦々しい感情が心に巣食った。
「三人とも! サラとメタナイトがいない!」
マルスの緊迫した声でようやく二人がいないことに気づくアイク達。
「ど、どこに行ったんですか!? あの二人!」
リュカがおどおどした様子で周りを見る。
「ん? なんだろ、あれ……」
「……? どうした、レッド?」
「ほら、あれですよ」とレッドは山の中部付近を指さした。アイクはレッドが示しているところを目を細めて凝視した。何やら小さい人影が、二つ、テンポ良く山を登って行くようだが?
(なんだ? 亜空軍の敵か? それとも……)
その頃、メタナイトとサラは焦燥感に苛まれながらも、ハルバードを目指して山に降り立った。メタナイトはハルバードと銀色の戦艦の状況を把握するため、上を見上げた。
だが、そこには、山の上空を覆うように血液を含んだような雲があるだけで、ハルバードの姿も、銀色の戦艦の姿も、どこにも見当たらなかった。おそらく、雲の中に隠れてしまって見えないだけかもしれないが。
「……山の上に行くしかなさそうだな」
「まあ、そうでしょうね。テンポ良く行きましょう」
サラとメタナイトは地面を同時に蹴り、違う足場に飛び乗った。それを何度も、何度も、繰り返す。
これは、その道中の話だが。
「ナナー! 早くおいでよ!」
「待ってよ、ポポ!」
ファーの付いた青いコートの男の子───ポポが、ピンク色の同じコートを着た女の子───ナナの手を掴んだと同時に引っ張りあげる。
彼らは、アイスクライマー。数々の山を登って来た登山のベテランだ。そんな二人の側を、メタナイトとサラは素早く通り越した。
「あっ! ぼく達、抜かされちゃったよ! ナナ!」
ポポがメタナイト達を指さした。
「ほんとだ……! わたし達も早く行こ!」
ナナの言葉にポポはしっかりとうなずき、メタナイト達に追いつくほどの速さとテンポで山を登った。
タンッ───地面を叩く軽い音。
この音を響かせたのはもちろん、ナナとポポだった。そんな二人に追いついたサラとメタナイトもブーツをカツンと鳴らして凍った山の頂上に降り立った。
「やったー!」
「わーい!」
アイスクライマーは、喜悦の笑みをこぼした。歓喜する二人を、サラは微笑ましそうな笑顔で見ていた。ただ一人、メタナイトはその和やかな空気の中にはいなかったが。
「…………」
目指すべき場所を見上げたメタナイトだが、視界に誰かがいると判断した刹那、ギャラクシアを構えた。剣が抜ける音を察知したサラは、同じく〈
メタナイトが捉えたその人物は、青い毛並みを持つ者だった。その人物は、閉じていた目を開くとサラ、メタナイトを順に見た。
「私はルカリオ。“波動を司る者”だ」
「波動?」
青い者───ルカリオが放った波動という固有名詞の意味がわからなかったサラはルカリオに聞き返した。
「全てのモノが発する力のことだ」
ルカリオは簡単に説明した。
「……そんな人が、あたし達に何の用かしら?場合によっては、容赦なんてしないけど」
サラはレイピアの切っ先をルカリオに向けた。ルカリオはフッと笑い、山の頂から飛び降り、サラ達の目の前に降り立った。
「そこにいる仮面を着けた騎士殿と手合わせしたく馳せ参じた。ただ、それだけだ」
メタナイトを指さすルカリオ。
「あたし達はそんな事してる暇なんて、無いんだけど」
癪に触る態度に、サラはそう吐き捨てた。「あんたも何か言いなさいよ、メタナイト」と、隣にいるパートナーを見つめたが、仮面の騎士は微動だにしない。
「もういいわ。あたしが、あんたの相手を───!」
しびれを切らしたサラが立ち向かおうと身構えたその時。
「いいや、サラ。その必要は無い」
今まで黙っていたはずのメタナイトがサラの目の前に立った。
「ちょっと、メタナイト! あんたはそんなことしてる暇なんて無いでしょう!?」
「確かに、その通りだ。しかし、私がその決闘を買おう」
「はあっ!?」
あまりにも身勝手なパートナーの言葉にただひたすらに、ツッコミをいれることしかできないサラ。そんな中でも、メタナイトは剣の切っ先をルカリオに向けて、戦う意欲があることを示した。
「サラ。君はそこにいる二人を守れ。巻き込んでしまっては、可哀想だ」
メタナイトは目だけで、サラに“二人”のことを教えた。メタナイトの視線を追い、その場所を見ると、これから始まるであろう戦いに息を呑んで待機しているアイスクライマーの姿があった。
「……了解したわ。メタナイト」
サラはレイピアを鞘に収め、右腰に収めているであろう笛───〈流星の笛〉に手をかけた。何かあったら、これでなんとかすればいい。そう、思った。
「いざ……!」
メタナイトが剣を構える。
「尋常に……!」
ルカリオが体制を低くし、前に翳した手が青白い炎を纏う。
「勝負だ!」
互いの言葉が合図となり、二人は同時に走り出した。
激闘の末、ルカリオはメタナイトの策略にハマり、フィギュアに戻ってしまった。メタナイトはフィギュアに近づくと、プレートにポンと触れた。フィギュアは、まばゆい光を放ち、もとのルカリオの姿に戻った。
「くっ……まさか、この私が敗れるとは」
ルカリオは頭を何回か左右に振ってから、メタナイトを見つめた。そして、メタナイトから目を離し、サラのことを見た。ルカリオからの視線を感じ、サラは見つめ返した。
「……何よ」
不満げなサラの声が返ってくるが、ルカリオはサラを凝視した。
(なんだろうか、彼女からは波動ではなく、別の何かを感じる……)
「ルカリオ殿」と、声をかけられるまで、周りが見えなくなっていたルカリオ。
「ルカリオ殿。貴殿の戦法は見事であった。敵ながら、関心してしまったよ」
「メタナイト殿こそ、とても鋭い剣さばきだった」
お互いに戦法を称賛しあう二人からギスギスした空気が穏やかな空気に変わった感じがした。そして、二人は固く、そして力強く握手を交わした。
(……全く……世話がやけるんだから)
そんな二人をよそに、サラは深く、そして、呆れた、というようにため息をついた。
「ねぇねぇ、お姉さん。あの二人、なんだか仲良くなったみたいだね」
「良かったね! お姉さん!」
ナナとポポがサラに微笑む。そんな二人にサラは「似たもの同士ってヤツよ」と苦笑いを浮かべた。
ズウウンと、空から重い轟音が耳に入った瞬間、サラとメタナイトは嫌な予感がした。
山頂にいるすべてのファイター達が音のした方向を見ると、赤い雲の中から、ハルバードに抱えられる形で銀色の戦艦が拘束されていた。どうやら、弾幕戦の決着は、すでについてしまったらしい。
「こ……こっちに近づいてくる!」
ナナが顔面蒼白になって叫んだ。
「メタナイト! これを逃したら、もう、
サラの緊迫したソプラノが頂上にこだました。メタナイトはしっかりとうなずき、マントを
「メタナイト、サラ。私も同行しよう」
ルカリオが二人を呼び止めた。
「良いのか? これは、私とサラの問題だぞ?」
「何を今更。私はもともと、亜空軍とやらを倒すべくこの山で待機していたのだ。あの戦艦が貴方達の物だとわかった今、目的は一緒だろう?」
不敵な笑みを浮かべたルカリオ。
「……本当に、あんたのことを信用して良いのね?」
それでも、まだ信用しきれていないサラはルカリオを睨みつけて問いかける。ルカリオはそんなサラに向かってしっかりとうなずいた。
「……わかった。だが、もし、メタナイトに害があるような事をしたら……あたしが、容赦しないから」
サラは厳しい言葉を吐き捨てた。メタナイトは「すまん」と視線を送った。
「よし……行くぞ、サラ! ルカリオ殿!」
「了解よっ!」
「承知した!」
三人はほぼ同時に地面を、蹴った。その直後、ハルバードは銀色の戦艦を岩肌に衝突させた。岩山全体に、激しい振動がはしる。ハルバードからなのか、銀色の戦艦からなのかは定かではないが、闇色の粉が、山の下に流れ落ちる。
「うわああああああああっ!!」
その粉と一緒に、悲鳴を上げてアイスクライマーの二人も落ちていった。
「急げ! こっちだ!」
ハルバードに突撃した三人は、落下する岩をうまく利用して、潜入を試みていた。
今ここに、長い奪還作戦が幕を開けたのであった。