亜空の使者〜結ばれし絆〜   作:平世ふゆめ

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4章『亜空間』
ステージ28「全ての始まり」


エリア1 高度の島

「エインシャント様ー!」

 一人の部下が私を呼んだ。私は振り向き、「どうした?」と、返事をした。

「先程新タニ、ニ体ノロボットヲ制作シマシテ…ゴ覧イタダケマセンデショウカ?」

 おお、ついに完成したか。という関心が、私の思考を埋め尽くす。

 彼らへの期待を込めて、私はロボットに案内をしてくれないかと頼んだ。無論、答えは快いものだった。

私は彼と共に、新たに開発された部下のもとに向かった。

 

 『開発室』と書かれた札が下げられている部屋の扉の前に立つと、心臓があるわけでもないのに、ドキドキと鼓動が速まる感覚があった───鼓動というもの自体、よく知らないが───。

それと同時に、不安までもが込み上げて来た。

 前回、同じように部下を量産させたのだが、起動してからたったの十秒で強制シャットダウンしてしまい、その後、二度と起動することはなかったのだ。…もう、理解していただけたとは思うが、この島〈エインシャント島〉に住まうロボット達の技術を持ってしてでも、同じようなロボットを量産するのはとても難しいのだ。

 とは言っても、失敗をしたら改善点を見つけ、また、研究に戻り量産をする。という教えを私は部下達に諭した為、部下達はめげる事無く日々、研究に励んでいる。

 今回は、前回のような失敗は無いだろう。

「コチラデス。エインシャント様」

 ロボットが扉のすぐ横にあるロックシステムに視線を合わせる。刹那、ロックを解除した際に流れる電子音が耳に入った───耳は無いが───。

それとほぼ同時に、扉が右にスライドし、開いた。

「サア、ドウゾ」

「ああ、感謝する。失礼するぞ」

 ロボットよりも先に入室した私は、開発室の中央に置かれている二体のロボット達に視線を合わせた。一見、失敗した形跡は無さそうだが、油断はできない。

 私は解析システムをアンロックし、彼らの情報を閲覧した。

 左のロボットは頭脳力のパラメータは高いが、戦闘力はとても低い。反対に、右のロボットは戦闘力のパラメータは高いが頭脳力のパラメータが低い。やはり、どれだけの技術を持っていても、クローンを量産することは難しいのだな。

 解析システムにロックをかけ、私は違うシステムをアンロックした。そのシステムの名は“人格形成システム”。私───マスター・ロボットにしか扱えない特別なシステム。今からこれを使って、彼らに命を吹き込むのだ。

 左側のロボットには、“冷静沈着”のタグを貼り付け、右側のロボットには“慎重だが根は熱い”のタグを貼り付けた。

そして、私はシステムにロックをかけて、私の背後にいる部下に「終わったぞ」と声をかけた。

「オッ……オオ! 遂ニ……遂ニ完成デスネ! エインシャント様!」

「喜ぶのはまだ早いぞ。彼らを起動し、確認し、本当に完成したのを見届けてから、喜べ」

 そう。まだ、完成には至っていない。

 私は二体のロボットを強制起動させた。

「…………」

 開発室に、一時の沈黙が訪れる。───そして。

「……全システム展開完了。ハジメマシテ、エインシャント様。オ会イデキテ光栄デス」

「……全システム展開完了。オオ! アンタガエインシャント様カ! ヨロシクオ願イスルッス!」

 成功だ。今度こそ、本気で喜ぶタイミングだ。

「セ……成功ダ! ヤッタ、ヤッタンダ!」

「ああ! よくやった! よろしく頼むぞ、二人とも!」

 部下は狂喜乱舞で万歳をしたり、その場でぐるぐると回転したり、飛び回ったりした。

私はあまりの嬉しさに、新しい部下にどう言葉をかければ良いのか分からなかったのだが、ようやく言葉が思いついたので、狂喜乱舞の部下に威力の弱いレーザーを浴びせた。

「コホン……ほらお前達、皆のもとに行って挨拶をしなさい。私も後から行くからな」

 新しい部下達にそう促すと、部下達は「ハッ!」と元気よく返事をし、素早く部屋を退出した。

「コ、コラ! オ前ラ、エインシャント様ヨリモ先ニ行クンジャナイ! ッテ、聞イテイル訳無イカ……」

 冷静に戻った部下が、先に部屋を飛び出した部下達を叱責するが、諦めたようにため息をついた。

 そんな部下と共に、私は部屋を退出した。

 

 これが、いつもの日々だった。

おかしな部下と笑ってすごし、新しい仲間と出会い、破損してしまった部下と別れて悲しみ───どんな事があっても、私は、彼らから離れるつもりなどなかった。守ってやりたいと思った。

 だが、そんな想いは“奴”の目の間では、塵に等しかった。

 砂の塔よりも脆い幸せな日々は、あっという間に崩壊していった。

 

エリア2 訪れた闇

 ある日のことだった。私はいつも通り島にいる部下達一体一体に声をかけて、会話を弾ませていた。

 そんな時──。

「エインシャント様ッ! 緊急事態デス!」

 島の警備委員会の委員長であるロボットが息を切らす勢いで、私のもとに駆け寄って来た。ただならぬ様子に、私は「どうした? 何があった」と尋ねた。

「島ノ回線システムガ乗ッ取ラレテシマッタノデス!」

 彼の口から飛び出した言葉は、私の思考回路を一瞬で驚愕で凍りつかせた。

 我が〈エインシャント島〉の回線を乗っ取った!? 馬鹿を言うな、私が設定したパスワードは警備委員会一同にしか伝えていないし、例え情報が外部に流れ出たとしても、解読は不可能のはず。

 それでも、解読をした人物がいる。これは事実だ。

 私は駄目元で、尋ねた。

「……犯人は見つかったのか?」

「ハイ、犯人ハ、“亜空軍の頭領”ヲ名乗ル人物デス……」

 亜空軍? なんの話だ?

 少なくとも、〈この世界〉にいる組織ではないと確信した私は、何も言わずにその場を去ろうとした。

「ド、ドチラヘ行カレルノデスカ!? エインシャント様!」

 その声は、少しばかり震えていた。

「通信室に行く。その“亜空軍の頭領”とやらと、話がしたい」

 私は彼と目を合わせられなくなり、うつむいた。

「我が島の回線を乗っ取り、良からぬ事を企むような輩には直ちに消えて貰わねばならん。心配するな。これも、私……マスター・ロボットの仕事だ」

 私は警備委員長を置いて、通信室に向かった。

 通信室の扉は警備委員長が開けっ放しにしていてくれたようで、わざわざロックを解除し直す手間が省けた。

 私は通信設備の前で止まり、厳しい口調で画面越しの相手を威嚇した。

「…私がこの島の頭首(マスター)、エインシャントだ。“亜空軍の頭領”とやら、なんの用だ」

『これはこれは、エインシャントよ。愚かなる頭首(マスター)よ。我にそのような口を聞けるのかな?』

 うやうやしい挨拶から罵る言葉、全て心が籠もっていない口調だった。

 私は腹を立てて「どういう意味だ」と聞き返した。

『「どういう意味だ」……ふふっ。なんともおかしな言葉遊びだな。ふふふふふふふふふふふ…………』

 訳が分からない。おそらく、まともな会話などできないだろうと悟った私は、通信回線を切ることにした。

『おおっと、失敬。話が逸れてしまったな。今回、キサマに連絡を取ったのは、他でもないのだ』

 回線を切ろうとした矢先、相手は話を元に戻した──訳でもないが──。

「生憎、我々は永世中立文明なのでな。他の文明と関わるつもりは無い。他をあたれ。それではな」

 さっさと話を切りたいので私は冷たく言い放ち、再び、回線を切るべくこの通信室の全設備を一度シャットダウンしようとした。

 だが、その行動は次の言葉で一瞬にして遮断されてしまった。

『エインシャント島は我々が乗っ取る。もちろん、キサマの部下を人質にだ』

 一瞬、本当に時間が止まってしまったのではという感覚に陥った。

「……なん、だと」

 自分でも情けないと思うような声が静まり返った部屋に響く。

 そんな満身創痍になりかけの私を無視し、相手は話を進めた。

『キサマらの文明の技術は、どこを探しても見つからん。我々に協力をすれば、人質共に危害は加えん。

 だが、仮にも、協力しないというのであれば……』

「それ以上言うな!!」

 相手に皆まで言わせずに、私は叫んだ。部屋に重苦しい沈黙が流れ込む。

「良いだろう、貴様に協力する。だが、被害は私だけに留めろ」

 沈黙を破り、私は交換条件を突きつけ、見えもしない相手を睨みつけた。

『ほう? それはどういう御了見でだ?』

「貴様には到底分かり得ないだろうな。仲間を守りたい私のこの想いは」

『ああ、一つ言い忘れていた。協力して貰うにあたって、その理由を言わないとは……ハはッ、我も可笑しくなったものだ」

 私の話を完全に無視して、相手は急に話を切り替えた。

『協力してもらいたい理由、それは、〈この世界〉を我の物にする為だ。

 そして、キサマには制作して貰いたい物が二つほどある。〈亜空爆弾〉〈ダークキャノン〉の二つだ』

 設計図はどれだ、という言葉は私から出ていく前に飲み込まれた。

 なぜなら、私に直接データを送って来たからだ。

「……これを、作れと?」

『いかにも。キサマらの技術力なら、制作するにあたって苦では無いだろう?』

 問題点はそこでは無い。〈亜空爆弾〉の起動する方法に、私は再び感じた事がない感情“恐怖”に囚われた。

 なぜなら〈亜空爆弾〉は一度起動してしまったらもう助からないうえに、必ず二体のロボットで展開しなくてはいけない。

 約束と違う。全然違う。私は、部下達を人質に取られているのだ。交換条件は、被害を私だけにするというものなのに、どうして……部下達を犠牲にする必要があるのだ!!

「……ふざけるな、なぜ、約束と違うだろう!!」

 “恐怖”は“怒り”に変わり、私は余裕を無くして叫んだ。

『どういう意味だ?』

「部下を犠牲にするなと私は言ったはずだ。それなのに、この設計図を見る限り、〈亜空爆弾〉は犠牲者が伴うだろう!? どうして、そんなっ、そんなっ!!」

『黙れ』

 先程まで余裕を振りまいていた声が消え去り、沈黙を命ずる言葉。

 私は一瞬で反論の台詞を忘れてしまった。

『先程、我に従うと、その口で誓っただろう。何を今更怖気づく事があるのだ。キサマは我には逆らえないはずだが? それとも、逆らってこの島を無に帰してやっても良いのだぞ』

 心の籠もっていない脅迫が、私を飲み込もうと魔手を伸ばす。

 どうすれば良い? 私は、大切な物を失わなければならないのか? 私は、私は……。

 

「エインシャント様!!」

 闇に飲み込まれそうになった私の意識を引き戻したのは、鋭い機械音声だった。

振り返ってみれば、部下達が私を見つめていた。

「なっ……! お前達、いつからそこに……!?」

「エインシャント様、ナンデ、オレ達の事ヲ気遣ウノデスカ!」

「オレ達ノ事ハ構ワナイデ、ソイツの言ウトオリニシマショウヨ!」

 部下達はこのような内容を口々に私に投げかけた。これは、一体どういう事だ?

彼らは自分達の命をなんだと思っているんだ?

 それ自体も分からなくなりかけていた私を煽るように通信相手は『さっさと返事をしろ』と急かした。

「…………」

「エインシャント様!」

 腹を決めるしかないか。

 これ以上、彼らを心配させる訳にはいかない。

「……良いだろう、交換条件を破棄する。貴様に加担しよう」

 ふっ、と嘲笑う相手。

『なら、今すぐ制作に取りかかれ。後で、キサマの指揮官に連絡を取らせる』

 ブチッと通信が切れた音が、私達に残された。

 私は部下達を振り返り、一体一体に目を合わせる。部下達の目には覚悟の光が宿っていた。どうやら、彼らは私よりも早くに覚悟を決めていたようだった。

「……すまない、お前達」

「良インデスヨ、エインシャント様」

「サア、我々ニゴ命令ヲ」

「ああ。……直ちに〈亜空爆弾〉及び〈ダークキャノン〉の制作に励め。設計図のデータを送信する」

 私は設計図のデータを瞬時にコピーし、部下達に送信した。直後、部下の一人が「おぉ……」と呆れなのか、唖然としているのか分からない声を漏らした。

「では、作業開始」

 そう言い残し、私は部屋から退出した。

 こんな冷淡な言い方をしなければ良かったと、今、後悔している。

しかし、後悔しても後悔しきれない事件(こと)に発展する事など、この時の私は気づいていなかった。

 

 エインシャント様。心配サセテ申シ訳アリマセン。

 

 オレ達ハ、貴方様ニ気ヅイテイタダキタカッタノデス。

 

 本当ニ人質ニ取ラレテイルノハ───

 

 貴方様ダトイウコトヲ。

 

エリア3 その後の機械達

 あれ以来、“亜空軍の頭領”を名乗る謎の人物は連絡を一切寄越さなかった。代わりに連絡を寄越すようになったのは、“ガノンドロフ”という男だ。

 最初に奴が連絡を入れたのは、“亜空軍の頭領”が通信回線を乗っ取った日から、ちょうど一週間後の事だった。

 

「……それからというもの、私はゲムヲ? だったか。ソイツを利用し、戦艦ハルバードを強奪した。……そして、今はこの有様だ」

 自分自身を皮肉るように、エインシャントは話を結んだ。先程まで賑わっていたこの場所だが、今は霧が視界を遮るように静まりかえっている。

「やっぱり、ガノンドロフが関わっていたのか。今回の事件は……」

 リンクは憎たらしい宿敵が、今も何処かでこの状況を楽しんでいる姿を想像して苦虫を噛み潰したような表情になった。そんなリンクを見つめるゼルダの表情もまた、暗くて哀しそうな色を宿していた。

「……なあ、エインシャント。俺達にできる事は無いのか?」

 マリオがエインシャントに問いかける。

「……できる、事?」

「ああ。最初、お前の事を最低で最悪な機械野郎だと思っていた。でも、今は違う。れっきとした、俺達の仲間じゃないか!」

 マリオはエインシャントの肩──の辺り──をぽんと叩いた。

「それに最初から、ぼく達ファイターの目的は一緒だったんだよ。今は、君も一緒じゃない! なら、力を合わせて、亜空軍をぶっ飛ばしちゃおうよ!」

 カービィも、エインシャントを見上げてぴょんと跳ねた。

 エインシャントは二人だけではなく、他のファイター達にも視線を合わせる。皆、覚悟の上だ。という表情で頷いていた。

「お前達……」

 エインシャントは“ありがとう”という言葉を放とうとするのを寸前で堪えた。今はまだ、これを言うタイミングではない。全て終わってから、言うべきだ。

「以前、ガノンドロフが連絡を取って来た時に、何処に居るのかを尋ねた事がある。その時、奴は『届かない空間に居る』と言っていた。おそらく、“あそこ”だろうな」

 エインシャントは空を見上げた。それにつられるように、他のファイター達も見上げる。

 彼らの視線に映ったのは、直径約20キロメートルほどありそうな巨体な大穴。

「つまり、亜空間に突入するしか、方法は無いって事か……」

 フォックスが腕を組みうつむく。そして、また、ファイター達を沈黙が包んだ。

「なら、あたしに考えがあるわ」

 口火を切ったのは、サラだった。

 彼女の口から紡がれたのは、耳を疑うような作戦だった。

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