ステージ36「戦いに終止符を、大乱闘に幕開けを!」
太陽の光が無くとも、この場所はなぜか温かかった。温かいというよりは、暑いという表現のほうがしっくりくるだろう。それほどまでに、この場所には命が集まっていた。何度薙ぎ払われても立ち上がり、何度遠くに追いやられても、必ず風のように戻ってくる──そんな頑固な色たちが。
すべての敵を駆逐した三十人近くのファイター達は、今まで通ってきた扉とは違う明らかに別世界──この亜空間も別世界だが──への入り口ともとれる門の前に集まっていた。皆それぞれ違う想いを持ちながら、この場所に集い、決戦の時を待っていた。
「……とうとう、ここまで来たんだね。ぼくら」
ぽつりと、カービィがつぶやいた。その表情はいつもの元気な彼とは違う。何度も自分の故郷や世界を救ってきた、英雄の顔だ。
「うん。……長かったな、ここまでの道のり」
マリオもリーダーらしい表情で門を見つめている。しかし、その表情にはどこか陰りを帯びているようにも見えた。
「心配するなよ、マリオ。オレ達なら、どんな敵だろうと、どんな壁だろうと乗り越えることができるさ」
「リンク……」
「そうだよ、マリオ。ボクらのことをもっと頼って! だって、ボクらは仲間じゃないか!」
「ヨッシー……」
緑色の二人が横に立ち、いつも責任を一人で背負ってしまうリーダーに励ましの言葉をかけた。
「マリオさん」
呼びかけられ、振り向くと、そこには何色にも染まらなかった白い翼を持つ少年が佇み、真っ直ぐな瞳でこちらを見ていた。
「ボク、あなたを初めて見たあの日から……ずっと勘違いしていたことがあるんです」
「勘違い?」
「……えぇ、スマッシュブラザーズのリーダーというだけで、あなたを……雲の上の存在と決めつけていました。でも、こうして、あなたと同じ戦場で、同じチームの一員として旅をしていて分かったんです。……リーダーだから、自分とは違う位置にいるんじゃない。リーダーだからこそ、ボクらに一番近いところにいるんだって」
ピットは一息置いて今の今まで伝えられなかったことを、リーダーに打ち明けた。その言葉は、女神が奏でるハープのように無機質な亜空間に消えていってしまった。ピットの言葉で、ようやくマリオは気づくことができたのだ。
皆、同じ覚悟を背負っている。自分だけじゃない、ここにいる一人ひとりが大きな覚悟を背負っているのだと。
──皆……。
「……ありがとう」
リーダーは、静かに微笑んだ。
気持ちをさっと切り替えて、マリオは門の前に立つ。後ろからは同じ想いを背負った仲間がいる。自分は一人じゃない。
必ず、勝つ。
「みんな、行くぞ!」
「うおおおおお!!」
気合の一声と共に、門が重々しく軋みながら開かれた。ファイター達は、我先にと競い合うように門の向こう側へと駆け込んで行く。
もう後戻りはできない。しかし、彼らは進むのだ。自らの正義と〈この世界〉のために!
門の先には相変わらずの闇が広がっているが、一つだけ明らかに違う点があった。それは、空気だ。今までの亜空間とは比べ物にならないぐらいの重い空気。不吉なことが起こる予兆のような、そんな空気感だ。
〈スマブラ五戦士〉を戦闘に、今回の事件の主犯のもとへとゆっくり歩みを進める。そして、その時は唐突に訪れた。重かった空気に、邪気が混ざったのだ。
「来るぞ!」
波動をキャッチしたであろうルカリオが叫んだ。皆はそれぞれ武器を構え──持っていない者はファイティングポーズをとり──戦闘態勢に入った。その直後闇の奥からゆっくりと、主犯は姿を現した。誰もが、初めてコイツと対面した時と同じような緊張を覚えただろう。
「……ふふふ。よくもここまで辿り着いてくれたな、忌々しきファイターどもよ」
主犯──タブーは、呪いをかけるような低い声で吐き捨てた。
「お前たちのせいで、我が計画は台無しだ。……そもそも、おとなしく亜空間に飲まれていれば、これから先苦しまずに消えられたものを」
「ふーんだ! オマエこそ、こんなことを最初から企まなきゃぼくらに倒されずに済んだんだよ?」
カービィがタブーに言い返す。タブーはそれをふんと鼻であしらい、半透明の様々な色に変化する翼を出現させた。その瞬間に緊張は戦慄へと変わっていく。
「お前らが何を喚こうが無駄だ。あの創造神と破壊神──それだけではないな、誰か復活させる者がいない限り、《OFF波動》を喰らってからフィギュア化を解くことなど不可能だ」
翼にどんどんパワーが溜まっていく。ファイター達がそれぞれバリアを張る体制になるのを見て、タブーは心の奥底から高笑いをした。
「我に仇をなしたことを、後悔するのだな!!」
ファイター達がぎゅっと目をつぶり、あの衝撃が来るのをじわりじわりと迫る恐怖と共に待っていた。だが。
バリィィン! と、ガラスを割るような粉砕音が鼓膜を震わせる。
「ぐあアッ!?」
タブーが呻く。そしてまた、同じような音が響く。
一体何事かとタブーを見上げると、両翼が完全に砕かれていた。傷の形から、何かが強く衝突したのだろうか。
「グウウウウッ……誰だ……誰だ!!」
「ヘイ、禁忌の神サマ! 俺はここだぜ?」
タブーの怒号にも怯まない爽やかな声が、ファイター達の救世主のようだ。声の主に視線を移すと、マリオ、ピーチ、ルイージ、クッパ、ワリオは目を丸くした。その者は、青い二足歩行のハリネズミ。しかし、マリオらはハリネズミが二足歩行しているから驚いているのではない。彼が、“知り合い”だったから驚いているのだ。
「ソ……ソニック!? なんでお前がここに!?」
「よぉマリオ! 久しぶりだな! 実は俺も正式なファイターとしてマスターハンドに招待されていたのさ! まぁ……初っ端からヘンなヤツらに襲われたけどな」
ハリネズミ──ソニックは、やれやれだぜというジェスチャーをし、ファイター達のもとに大ジャンプで移動した。そして「今は戦いのほうに集中しよう。そのあとで、文句でも質問でもなんでも聞いてやるさ」と、マリオに言った。マリオが「あ、ああ!」と頷くとピーチ達も同じようにタブーに向き合った。タブーは翼を砕かれた衝撃から来た痛みが未だに治まらないのか、低い声で苦悶している。
「攻撃するなら今だ! 行くぞ!!」
マリオの指示に答えるように、何人かのファイターとマリオは走り出した。
「……おのれえぇぇっ雑魚どもがよってたかった所で無駄だああっ!!」
突撃してくるファイター達を瞬間移動で避けたタブーは水色の鋭い切っ先を持つ光を纏い、ファイター達に突っ込んだ。それを重量級のファイター達はバリアで防ぎ、中量級のファイター達は軽い足取りで避ける。タブーが通過しきった直後、軽量級のファイター達が彼ら──重量級──を踏み台にし、タブーに向かう。
「今まで散々迷惑かけてきやがって、今回でケリつけてやらァ!!」
「そんな攻撃で、我に傷をつけられるとでも思ったか!」
ファルコの光線銃は瞬間移動で避けられてしまった。ピーチやルカリオの攻撃、ソニックの音速を超える攻撃もタブーの技で相殺されてしまい、第一次攻撃は失敗したかのようにも思えた。
「残念! ボクらがいるよ!」
「なっ……!?」
いつの間にか背後にいたマリオとピットが《ファイアーボール》を浴びせ、短剣を振り下ろした。それは一寸のズレもなくタブーに命中した。
タブーがまたも苦しそうに呻くと、畳み掛けるようにサラやメタナイト、リンクなどの剣士らが斬りかかり、重量のあるパンチを持つドンキーが思い切り飛び上がって拳を打ち込んだ。
多くのファイターが一斉に攻撃をしかける中、タブーの反撃が始まった。ワリオらが使っていたダークキャノンのような大砲を作り、彼らを薙ぎ払うが如くレーザーを放った。一部のファイターはバリアを張って防ぎ、ジャンプで躱したが反応が遅れてしまった一部のファイターはもろに喰らってしまった。
「大丈夫か!?」
「ボクは大丈夫だよ!」
「俺も大丈夫だ!」
「確実に体力は削れている! ヤツの波動が弱まっているのを感じる!」
「よっし……! このまま一気に攻め込むぞ!!」
絶好のチャンスを逃すまいと、ファイター達は更なる攻撃をしかけていく。
この調子で、最後まで行けばよいのだが……。
「……っ、《ダッシュアッパー》!!」
「《ドルフィンスラッシュ》……!!」
ピットの渾身の一撃と、マルスの奇襲をかけた攻撃、もとい、ファイター陣の攻撃はまたも失敗に終わった。タブーが瞬間移動で二つとも避けてしまったからだ。
あれから、ファイター達は一時的にではあるが優勢であった。その証拠に、タブーの攻撃威力が最初の頃よりも少し弱まっている。タブー本人も若干疲れの色が、顔に浮かんでいるようにも見える。しかし、そんな状態でもまだ体力はあまりにあまっている。優勢だったファイター達も打たれ強いタブーに辛抱強く食いついていたが、疲れと攻撃によるダメージで思うように動けなくなっていた。攻撃をしかけた時、焦りからか攻撃を外してしまう者が何人もいた。それぐらい、今、彼らは追い詰められている。
「ふふふふふふ……その程度か? ファイターども。そんな攻撃で、我から〈この世界〉を取り戻そうとしていたと言うのか? ふふふふふふ……愉快、実に愉快だ。滑稽だ!」
「クッ……まだまだこれからだ!!」
ソニックが音速の体当たりを食らわせようと駆け出すが、それを見切っていたタブーは彼が辿るであろうルートに地雷型の魔法を埋め込んだ。それは本当に一瞬のことで、ソニックは攻撃を避けることができずに喰らってしまった。
「のわあっ!!」
「ソニック!!」
吹き飛んできたソニックをなんとか支えるリンク。ソニックは「サンキュー」とすぐに立ち上がったが、その声からは余裕が消えかかっている。
完全に、劣勢だ。このままでは、また、破滅的な大敗北をしてしまう。〈この世界〉をタブーに明け渡すことになってしまう。ヤツの犠牲になったエインシャントの部下達が、報われなくなる。
最悪の未来が皆の頭を横切った時、タブーが頭のネジが外れたような高笑いをした。
「ほら、ほら! どうしようもないではないか! それが絆というものか! 滑稽、実に滑稽だ! 絆、絆!! そんな見えぬ糸などで、我に勝てるとでも思っていたのか!」
悔しいが、誰も、何も言い返せなかった。皆が信じてきた物を簡単に馬鹿にされているというのに。チームワークを一番大切にしているはずなのに……。やはり、どんなに強い絆で結ばれていても、強大な力の前では無意味なのだろうか?
そんな時、絶望が蔓延する空気を楽しむように、タブーはいつの間に修復したのだろうか、半透明の翼を広げた。
まずい。誰もがそう思った。しかし、《OFF波動》は避ける方法が思いつかない。実際バリアは全く役に立たない、しかしそれ以外に避ける方法が思いつかない──というよりも、考えつかない──。なんせ、一度しか食らっていないのだから。
「もう、終いにしようではないか。……お前らもさぞ疲れただろう。安心しろ、もうお前らを苦しめるようなことはせん。一瞬で終わらせてやるからな! フハハハハハハ!!」
タブーの翼にどんどんパワーが溜まっていく。
──……ここまでなのか。俺達の力は……。
絶望の中、皆はただ、うなだれていた。
しかし、ただ一人諦めきれない想いを持つ者が、神器を手に取り、抵抗の牙を剥いた。
「……まだ、終わらせないわよ!!」
そう叫んだ直後、素早く〈流星の笛〉に息を吹き込み、詠唱を始めた。
「『真実を見据え、
ファイター達を護るようにクリーム色の結界が展開された。
「サラ!」
「ここで終わりになんてさせない……! あなた達に、兄さん達のような目に遭わせたくないのよ!!」
ファイター達の時空とは全く違う時空から来た歌姫は、切実な想いを技に乗せていた。彼女と共に旅をしていた剣士達はその小さな背中がいつにも増して頼もしく思えた。
「ふふ。無駄だと言うのに」
しかし、そんな彼女の想いが実ることはなかった。タブーは《OFF波動》の一撃を放った。以前食らわせた時の、倍の威力で。その威力に耐えられずに、サラが展開した結界は薄いガラスをハンマーで叩き割るように一瞬で砕けてしまった。
「いやアアッ!!」
サラは笛ごと木の葉のように吹き飛ばされてしまい、メタナイト達が急いで彼女の元に駆けつけるが本人は「心配しないで……!」と膝をついていた。顔面蒼白な彼女を見て、明らかに妖力が足りないということが伺える。タブーは、これを見計らっていたというのだろうか?
あれこれと考察をしている間に、また、タブーはパワーを溜め始めた。今度こそ、完全に防ぐ術がなくなってしまった。
フィギュア化してしまった自分達が、目の前に見えたような気がした。
エリア3 希望はここにある
「諦めんな、まだ俺らがいるぜェッ!!」
「ぐあアアッ!?」
またも深い絶望に飲み込まれそうになっていたファイター達をすくい上げたのは、今まで消息不明だったとある神だった。白い左手袋が、タブーのことを思いっきりなぐったのである。
マスターハンド? いや、違う。彼はこんな大胆な行動には出ない。ここまでクレイジーなことをする神は、彼しかいない。
「くっ、クレイジーハンド!!」
破壊神クレイジーハンド。マスターハンドの弟であり共に〈この世界〉を創りあげた者。
クレイジーハンドはファイター達に近寄り、黒い光と共にヒトの姿になった。逆立った短髪の黒髪と黒いロングコート、指ぬきグローブ、ジーパンにスニーカーといったちょっとばかりヤンキーにも見えなくない青年の姿に。
「悪ィな、マスターに呼ばれてついさっき状況を知ったんだ。……ごめんな、すぐに動けなくて」
〈初代期間〉から彼を知っている者はなぜかこちらまで申し訳なくなるような気がした。普段お調子者の彼が、こんな風に謝るとどうしてこんなにもやりきれない気持ちになるのだろうか。
「お前たち無事だったか! いや、無事ではないだろうが……とにかく、大丈夫か!?」
「マスター!」
遅れてマスターハンドも右手袋の姿でやって来た──すぐにヒトの姿へと姿を変えたが。
「マスター、今までどこに行ってたの!? ぼくら大変だったんだから!」
「済まなかったな……。クレイジーを呼びに行っていたのと、もう一つ、大切な用があったのだ」
そう言って、端正な顔立ちの青年の姿となった創造神は、振り返った。〈スマブラ五戦士〉に。
「……マリオ、カービィ、ピット、リンク、ヨッシー。折り入って君たちに頼みがある。……《最後の切りふだ》を使って、タブーを一気に攻めてほしい」
マスターハンドの唐突な頼みに、皆言葉を失った。その最後の切り札とやらが何か分からなかったのもあるが、多くのファイターの中からなぜ、五戦士が選ばれたのか本人らが分からなかったのが一番大きい。
「最後の……切りふだ? マスター、そいつは一体何なんだ?」
「今期間から導入した新システムだ。君たちファイターの中にある潜在能力を私が創り出すアイテム〈スマッシュボール〉を使って引き出し、技にするというものだ」
いつの間にそんな新しいことを考えたのだろう。ファイター達の中には目をキラキラ輝かせる者や、最後の切りふだの威力がどれほどのものか想像している者が半分に分かれた。しかし、なぜ自分らが? と、少し腑に落ちないマリオがマスターハンドに理由を訊こうと口を開いた時、申し訳なさそうな声がマスターハンドを呼んだ。マスターハンドが視線を移すと、そこにはリュカとレッドが疑問を隠しきれない顔で佇んでいた。
「その……最後の切りふだって、おれで言う《さんみいったい〉のことですか?」
「うむ、そのとおりだ。しかし、なぜ?」
「〈この世界〉で、おれはその技を使うことができたんです。その……スマッシュボールを使わなくても、技を放てるんじゃないかなって……」
「ああ。それは、私の力が君たちのもとに及んでいなかったからだろう。大乱闘やこの空間では私の力で最後の切りふだが制御されてしまっているから、アイテムを使うしかないのだよ」
マスターハンドがそう説明すると、レッドは理解したようで「ありがとうございます!」にっこり笑ってその場から下がった。
「……マスター、なんで、俺らが最後の切りふだを?」
「…………」
マリオの質問にマスターハンド少し考えたあと、答えた。
「
「メタ発言すな!!」
「とっ、とにかく! 五人とも、頼まれてくれるか?」
ここまで来たら、腹を決めるしかない。
五人はそれぞれ頷きあい、決心の意をマスターハンドに知らせた。マスターハンドはそれを受け取ると、すぐに右手袋の姿に変化し、神力を集中させてスマッシュボールの作成に取りかかった。
「流石は今期で一番注目されるだろうファイターらだ! オレらも全力でフォローするぜ!」
「させん……!! こんなところで負ける訳にはぁぁっ……!!」
「ちッたァ黙れ!」
「ぐふぅ!?」
今まで怯んでいたタブーがマスターハンドを妨害しようと片手を挙げたが、クレイジーハンドがまたたく間に左手袋の姿に変化し、タブーの腹に一発入れた。タブーは大きく吹き飛んだが、すぐに体制を立て直すとクレイジーハンドに向き合った。
「まずは貴様からだ……!」
「ハッ! やれるもんならやってみな!」
「僕らも応戦しよう! マスターハンドを死守するんだ!」
「おおーーーー!!」
クレイジーハンドに続くように、マルスが──ファイター陣が宣戦布告をする。僅かな時間でも、抗うために。
タブーはクレイジーハンドと魔法を交えた攻撃をしながら、ファイターとクレイジーハンドを睨んだ。“絆”というくだらないものに縛られる弱者が勝ち、現実を見据えた実力者が負けるのはおかしい。いつもそうだった。自分は何も悪くないのに、禁忌の神というだけで虐げられ、世界の禁忌を生み出しては恨まれ、憎まれ、終いにはこの空間に閉じ込められた。自分はただ、“ルール”を決める神だというのに──。
と、その時。マスターハンドが五人の名を呼んだ。どうやら、作業を終えたらしい。妨害をしたいが、クレイジーハンドに邪魔をされて向かうことができない。
「スマッシュボールを割れば、最後の切りふだを発動させることができる! 健闘を祈るぞ!!」
マスターハンドは七色に輝くスマブラの
クレイジーハンドとマスターハンド、そして他のファイター達は少し離れたところに移動し、五人はとタブーを見守っていた。禁忌の神と、五人の戦士。空気がこれまでにないほど、ビリビリと震えている。
「ぐぅ……! なぜだ……なぜ!」
タブーは両腕を広げた。
「我が、禁忌の神である我は……貴様らに勝てないのだ!!」
嘆きと共に、淡い紫の結界がタブーを覆った。これが、奴の最後の悪あがきなのだろう。
「絆などというくだらないものに囚われる貴様らに勝ち目などないはずだ!! この世は実力者だけが勝つ、実力者のみが全ての者の頂点に立つはずなのに、なぜ、我は報われぬのだ!! どうして! なんで! なんで!!」
「そんなに知りたいなら……教えてやるよ!」
タブーに向かって叫んだのは、ヨッシーだった。
ヨッシーは高くジャンプし、くるん、と一回転すると、彼の背中に純白の翼か生えた。
「お前が…ボクらに勝てない理由を!」
ヨッシーの最後の切りふだ《スーパードラゴン》。炎を吐き出しながら攻撃することができる技だ。
「お前はマスターを、エインシャントを利用した! そんな奴が、実力者ぁ? ふざけるな! そんなのは実力でもなんでもない! ただの卑怯者だよ! 愚か者さ!」
何度も何度も、炎を吹きかけながら叫んだ。炎の威力はさほどのものではないが、微かに結界にヒビが入る音が聞こえた。──自分の魔力が弱まっている? そんなはずはない。
ヨッシーはある程度攻撃すると地面に降り立った。それと同時に、翼が消えたことから時間が来たのだろう。
「ふん、卑怯がなんだ……! 絆などという多大なリスクを持つ者こそが、真の愚か者だろう!!」
「それはどうかな!?」
次はリンクがタブーに立ち向かい、マスターソード握る左手を掲げた。その手の甲には、神秘なる力であるトライフォースが浮かんでいた。マスターソードの切っ先をタブーに向けると、トライフォースがタブーを囲む。リンクの最後の切りふだ《トライフォーススラッシュ》。
「確かに、絆だけではどうにかならない時もある……! 綺麗事だってことも分かってんだよ。でも……でも!!」
滅多切りを入れ、剣を引く。
「たった一人で行動して、仲間を……誰かを利用するヤツのほうがよっぽどおかしいとオレは思ってる!! そんな奴の一人がお前だ。絆を信じるヤツを否定するヤツなんざ、醜いだけだぜ!!」
勢いよく切っ先で突いた。その衝撃で、トライフォースは消え去り、結界のヒビ少しだけだが大きくなった。まずい、負ける。このままでは、また、誰にも認められずにこの空間にたった一人に──。
「リンクさんの言うとおりだ!!」
ピットも飛び上がり、光と共に神秘的だがどこか騎士のような力強さと気高さを兼ね備えた装備を身に纏った。ピットの最後の切りふだ《三種の神器》。
「……オマエに何があったのかは、ボクは分からない。でも、何があっても、絆を引き裂いてまで誰かを利用するのは許されないことなんだよ!」
ビーム状の弾幕から縦断された極太ビームをくらい、また、結界にヒビが入った。おそらく、次の一撃で割れてしまうだろう。
タブーは黙りこくったまま、両手を下ろした。その姿を見て、刹那の間技を放つのをためらったカービィだが、腹を決め、大きくジャンプした。
「……もしかして、きみ、過去に何かあったの?」
「…………」
「何かあったとしても、こんな風に迷惑をかけることは許されることじゃない。……それは一番きみが分かってるはずだよ……!」
少し泣きそうになりながら、巨大な剣を取り出した。カービィの最後の切りふだ《ウルトラソード》。連続で斬りつける技だ。
「禁忌の神……やっちゃいけないことを決めたりするカミサマなんでしょ? どこの世界にも、同じように、ルールを決めるんでしょ? ……だったら、なんでこんなことを……!」
大きな一撃が、タブーの結界を砕いた。地に降り立った瞬間、タブーは低い声で唸り始めた。
「……何がわかるというのだ。……虐げられたこともないくせに」
「え……?」
彼の口からこぼれたのは、とても、悲しい音色の言葉だった。声を震わせながら、タブーは続けた。
「確かに、我は禁忌の神だ。どの世界にも共通の禁忌を決め、その世界に住む者達に教訓を与えてきた。だが、その度に不平不満をくらった、それまでは良いのだ。仕方がないことだからな。だが、だが……」
苦しそうに、タブーは最後の言葉を放った。
「ここまでのことをすることはないだろう……! こんな風に虐げらることなど、あって良いはずがないんだ! どうしてあの美しい世界で、暮らすことができない……! どうして、お前たちのように笑って戯れることが許されないのだ……!!」
今まで語られることのなかった事実が、タブーの口から洪水のように溢れ出ていた。
その様子を見ていたファイターらや、二神、五戦士──マリオは、トドメを刺そうかどうか迷ってしまった。もしかしたら、罠かもしれない。しかし、ここまで大袈裟に言うだろうか? いや、彼ならばありえない話ではない。
こんな風に悩むマリオにとある者が指摘を入れた。
「……マリオ殿。ヤツが言っていることは本当だ。嘘の波動を感じない」
「じゃあ……タブーは……」
もとは普通の神。マスターハンドやクレイジーハンドと同じく、普通の──〈この世界〉に住む者達を愛する神。
「……なぁ、タブー」
マリオはとあることを聞きたくて、タブーに声をかけた。タブーはマリオを睨みながら「なんだ」とだけ返した。
「……俺達の仲間にならないか?」
「……何?」
「今回起こした事件は、確かに許されることじゃないさ。……でも、それはそれまでの憎しみから生まれたこと……。だったら、その禍根を絶てば良い。お前は、一人が怖かったんだろう?」
何も答えなかった。だが、マリオは続けた。
「虐げられられて、一人になった。それまで、仲間なんてものを信じたくなかった。だけど、信じずにずっと一人でいたら、孤独が怖くなった──そうじゃないのか?」
「……ああ」
「なら、今ならまだやり直せるよ。……罪滅ぼしとまでは言わない。俺達は少しでも、お前の傷を癒せるように、居場所を作るから!」
赤い英雄の声が、亜空間に響いた。それはどこまでもどこまでも、飛んでいくような気がした。
タブーは何も言えなかった。もう、このファイター達には敵わない。そう確信した。だって、本物の“絆”を目の当たりにしたのだから。タブーはフッと頬を緩め、しっかりと、マリオに向き合った。
「……どこまでも、お人好しなのだな。ファイターとやらは」
「そうでもなきゃ、リーダーはやってられないしな」
「ふっ。それもそうか」
タブーは完全なる微笑みを見せ、マリオもにっと笑ってみせた。
「……亜空間から〈この世界〉を戻す方法はたった一つ。我を倒すことだ。……これしか、本当に方法がない。……その技を、我にぶつけろ。案ずるな、我は神だ。一時的に姿を消すが、すぐにまた復活する」
「タブー……」
「……また、会おう。ファイターども──いや、スマッシュブラザーズよ」
こぼれそうになる涙を必死にこらえ、マリオは両手にくる熱い感覚を絶叫とともに思いっきり放った。
「うああああああああああっ!!」
マリオの最後の切りふだ《マリオファイナル》がタブーを飲み込んだ。
ありがとう。そんな声が、聞こえたような気がした。
光。
舞い散った光は、美しく、儚いものである。
炎が消えるともに、タブーは金色の光となって消えた。一時的に消滅したのだ。
タブーが消えたことにより、いくつもの風景が光の粒となって消えていく。〈この世界〉が、取り戻されていく。その光景は、どうしても切なくなる。なぜかって? 小さい写真のように映し出された〈この世界〉は、確かに、亜空間にない色を持ち、輝いていた。こんな世界に、タブーは戻りたかったのだろう。
「お前ら! ボサっとしてんじゃねェ!!」
「亜空間の扉が閉まったら、君たちは〈この世界〉に戻ることができなくなる! 急いで脱出するんだ!」
マスターハンドとクレイジーハンドの叫びで、我に返ったファイター達は泡を食って逃げ出した。無機質に輝く階段を駆け下り、それぞれの乗り物に飛び乗る。
「あっ……ああああっ!! こんな時に限って、エンジンがつきません!!」
「おいいいいいいいッ!! 何やってんだよオリマーアアアアッ!!」
……もはや助からないんじゃないか? オリマーとリンク……。だが、マスターハンドがドルフィン初号機ごと持ち上げてくれたお陰でなんとか助かった。(・д・)チッ
「オイコラ何舌打ちしてんだよ!!」
「ひいいっ!? してませんよ私!」
「あっ、オリマーじゃなくて……」
「私もしていないが?」
「マスターでもねぇって!!」
そんなこんなで、なんとか亜空間を脱出できたファイター達なのであった。
亜空間から出ると、そこは、オレンジ色の空間が広がっていた。一回で〈この世界〉であるとわかった。……タブーが作り出した大迷宮ではない。本物の〈この世界〉だ。
「……あ」
誰かが、小さくつぶやいた。
先程まで亜空間への入り口だった場所──元エインシャント島──に、神々しいクロスした光が現れたのだ。──エインシャント島ではなく、光が現れるなんて、なんとも複雑だが。
「……エインシャント」
マリオは光を見つめているエインシャントに話しかけた。どうしても、心配で。
「きっと、あれは、亜空間からのメッセージだ。タブーが……“ありがとう”と言っているのが、私には聞こえる」
エピローグ 舞い戻る平和、訪れる乱闘
小鳥が歌いながら空の彼方へと旅立つそんな朝。
マスターハンドとクレイジーハンドはヒトの姿でとある試合をホロパネルで観戦していた。その側には、見慣れない青年が。
「おおっ、あと少しで五戦士優勝じャん。やッぱ強ェなァ、アイツら」
「うむ、今回は彼らの優勝で決まりだな。トロフィー……どこにしまったかな」
「おい創造神。そんなんで祝杯しようとしていたのか? 情けない」
「うるさいなぁ……私とてそこまでしっかりしとらんぞ」
「それが駄目だッつッてんだよ。タブーはよ」
三人の神に見守られ、ファイター達は今日も、乱闘をしている。
それが、〈この世界〉での、唯一無二の楽しみなのだから。
ここまでの閲覧、本当にありがとうございました!!
こっちでも無事完結できて嬉しく思います
後日あとがきを投稿しますので、よろしければお読みください!