風太郎モテ期到来と花嫁たち   作:アニッキーブラッザー

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なんか、意外と好評だったことと、最近はアニメも原作もおもろすぎて、また衝動に駆られて書いてしまいました。それに、最近は、かぐや様も面白いし・・・ラブコメも進化したもんですね。


貢ぎ物バトル

 今日は、家庭教師休みの日ということで、中野家に風太郎は来ない。本来なら勉強しなくてもいい日というのは嬉しいもののはずだが、今の中野姉妹たちにとっては違う。

 家庭教師休みの日=風太郎に会えない。ということである。

 そして、そういう日こそ気が抜けないということを、五つ子姉妹は既に承知していた。

 

 

――修学旅行準備の買い物しよう

 

――今日は都合が悪い

 

 

 風太郎に対するメールは一言だけ返信があり、休みの日のデートは断られた。

 

「……二乃……今日はフータローくん、ケーキ屋のバイト休みだよね?」

「間違いないわ。だって私、フー君のシフトだけは念入りに確認してるから」

「じゃあ、今日はフータロー……暇なはず」

「上杉さんは、自分の勉強したいときとかは……『断る』、っていう風に返信来くるよね?」

「ということは……予定がある……友達の居ない……お金を使って遊ぶこともしない……そんな彼に何の予定でしょう?」

 

 単純にメンドクサイだけなら、風太郎はそういうこともハッキリとメールで返信するはずである。

 しかし、そうではなくて「都合が悪い」ということは、何らかの予定が入っているということ。

 別に、誰にだって休みの日ぐらい各々の予定はあっても不思議ではないが、相手はあの風太郎である。

 そして何よりも、つい最近知った風太郎を狙う五人の敵を知ってから、五つ子姉妹たちは非常に疑り深くなった。

 

「……よし、お姉さんが電話で予定を聞き出しちゃおうっかな……」

「いいえ、私が聞くわ! っていうか、どんな予定でも私たちのデートの誘いを断るなんて許さないわ!」

「いい……私が、直接フータローに聞きに行く」

「ちょ、ちょー! 一花も二乃も三玖も落ち着いてって! 断られたのに追及したら、上杉さんも困っちゃうんじゃ……」

「ですね……。それに、実際に彼の予定を聞くなら他に方法があるじゃないですか」

 

 身を乗り出して、風太郎の予定を聞きだそうとする一花、二乃、三玖に対して四葉が慌てて止め、そして五月は冷静に代案を提示する。

 

「こういうときは……未来の義妹に聞くのが……い、いちば……い、いもうと……は、い、言いすぎですかね?」

 

 スマホを取り出して、一瞬ドヤ顔を浮かべようとした五月だが、すぐに顔を赤らめて訂正。一花、二乃、三玖、が少し眉間にしわを寄せるが、五月は気にしないようにして咳払いしながら、電話をかける。

 勿論、スマホはスピーカー設定にしてだ。

 

『はい、もしもし、五月さん?』

「こんにちは、らいはちゃん」

 

 そう、風太郎ではなく、妹のらいはに聞けば良い。

 テーブルの上に置かれた五月のスマホに、姉妹たちは聞き耳を立てる。

 

「今日は、お勉強がお休みなので、らいはちゃんに電話しちゃいました……今、何してるのかな~って」

「そうなの~? えへへ、あのね、今ね、お兄ちゃんと家の近くの公園に居るの!」

 

 公園? 風太郎と?

 

「フータローくんの予定って、らいはちゃんと遊んであげること?」

「ったく、あのシスコン……まぁ、そういう家族想いなところも素敵なんだけど」

「うん……フータロー……優しいから……」

「いやいや、らいはちゃんの可愛さなら、血のつながりがなくたって優先しちゃうからね」

「ええ、可愛すぎますから!」

 

 電話の向こうには聞こえないように小声とアイコンタクトで会話し合う姉妹たち。

 

『おい、らいは。誰と電話してるんだ?』

『あのね、おにいちゃん。今ね―――』

 

 電話の向こうから風太郎の声が聞こえた。

 本当なら、「何で私たちの誘いを断ったんだ」と言ってやりたい気持ちもあったが、休みの日に幼い妹と遊んであげるために……それなら仕方が無いなと苦笑しあう。

 だが……

 

 

『フータロちゃん、お待たせ~! あー、らいはちゃん、久しぶりやな~。おおきゅうなったな~』

『あっ、一望おねえちゃん!』 

 

―――ッッ!!!???

 

『あっ、ごめんね、五月さん。ちょっと今、おにいちゃんと一緒に人と待ち合わせしてて、……来ちゃったから、また電話するね』

 

 

 次の瞬間、電話の向こうから聞こえてきた声に五人の形相が一変する。

 その、独特な話し方と、馴れ馴れしい呼称は、つい最近聞き覚えがあったからだ。

 電話は切れたが、それで終わることはない。

 

「今の声……」

「間違いないわ」

「……ッ……」

「あ、あの人……ですよね?」

「むむむむーっ……」

 

 そして、次の瞬間には五人全員立ち上がっていた。

 

「い、いや~、今日は暇だし、ちょっと散歩してこようかな~」

「っざけんじゃないわよ! 出遅れたわ、あの女ァ!」

「疾きこと、風の如く」

「ちょっ、皆、どこ行くのー! 私も行くー!」

「お、おねえちゃん……おねえちゃん? 私はまだ『五月さん』なのに……おねえちゃ……」

 

 そして、やはり五つ子である。考えて行動することも同じ。

 目指すは風太郎の家の近くの公園。

 よりにもよって、出し抜かれてしまったと歯軋りしながら向かう。

 

 

 

 

 そしてその公園では……

 

「あんな~、これ、らいはちゃんにプレゼント。子供用の自転車や!」

「うわー! 自転車だー! え、い、いいのー?」

「勿論や。この間、CMのスポンサーにウチの妹にってプレゼントされたんやけど、もうウチの妹には自転車あるからな」

「うわー、うわー、うわー! 自転車だ……お兄ちゃん、見て見て! 私の自転車だって! 私のだよ!」

 

 生活が苦しい上杉家において、車や自転車等の移動手段はない。ゆえに、風太郎もらいはも自分の自転車などは持っていない。

 しかし、風太郎はまだしも、まだ小学生のらいはにとって、自転車を持っているのと持っていないのとでは、友達同士の遊び方などが変わってくるのである。

 ましてや、らいはは体がそれほど丈夫ではない。そのため、友達が自転車に乗ってどこかに遊びに行くとなると、走ってついていったりすることができないのである。

 だからこそ、らいはが友達と遊ぶにも色々と制限がある。そして、まだ幼いながらも家計の事情を知っているからこそ、「自転車が欲しい」などとおねだりもしないで我慢をしている。

 そんならいはにとって、このプレゼントは最高の贈り物だった。

 

「お、おい、お前……いいのか? 久しぶりの再会早々にこんな高価なもん貰っちまって」

 

 大はしゃぎで喜ぶらいはの姿に眩しくなりつつも、つい最近まで名前も顔も忘れていたような相手からのプレゼントには、さすがに風太郎も戸惑ってしまう。

 しかし、一望は優しくニッコリと微笑んで……

 

「ええにきまっとるやん。子供用やからウチも乗れんし、むしろ持っとって困っとったところや~」

「だ、だが……」

「んも~、フータロちゃんは固すぎや~。ウチらの仲やん。それに、らいはちゃんはウチのもう一人の妹みたいなもんやからな~…………ボソッ……まあ将来的にはほんまの義妹になるんやけど……」

「ん? おい後半はよく聞こえなかったけど……いいのか?」

「う、うん。勿論や~!」

 

 むしろ貰ってくれて都合が良かった。

 だから、むしろ遠慮したり申し訳なく思うことは一切無い……

 

(むふふふふ……四万の出費は大きかったけど、これも必要経費や♪ ウチの貢ぎ物作戦のな)

 

 という作戦で、実際のところは一望の自腹なのである。

 

(なんや知らんけど、ウチの知らんうちに、よう分らん五つ子とかいう子たちがおったからな……出し抜くには幼馴染の特権を利用した家族ぐるみ……)

 

 風太郎自身へのプレゼントではなく、まずは、らいはから。

 

「そうか……ありがとな。それと……食堂で……忘れてて……すまん」

「あははは、もうええんや。大事なんは……これからや。そやろ?」

「……そ、そうか……」

 

 貢ぎ物と心遣い。その二つで風太郎も軟化した様子を見せる。

 

「ほら、らいは。ちゃんとお礼を言え」

「ありがとう、一望みおねーちゃん! だーいすき! 私、ずっと大事にするからね!」

「ん~~~! らいはちゃんかわいすぎやーーん! ウチも大好きやえー!」

 

 そして、らいはの抱きつきからの満面の笑みでの「ありがとう」、「大好き」のコンボ。

 これには、一望もメロメロになり、だらしのない顔を見せながら、らいはを抱きしめて頬ずりした。

 

「「「「「……ギリッ……」」」」」

 

 そんな光景を歯ぎしりしながら、公園の草むらに隠れて睨んでいる五人の影。

 

「ふ~ん……貢ぎ物作戦か……」

「しかも、あえてターゲットをフー君ではなくて、妹ちゃんにしているあたり……考えてるわね」

「将を射んとする者はまず馬を……」

「うう~、ずるい! 私だって、らいはちゃんに大好きってもっと言われたいのにー!」

「……お、お姉ちゃん……うう、わ、私はまだ『五月さん』と他人行儀なのに……う、ううう!」

 

 各々それぞれ思うところがあったが、共通するのはやはり「悔しい」という想いである。

 相手は全国区の芸能人とはいえ、先日の風太郎の様子ならば、自分たち五人の絆の方が風太郎と強く結ばれていると思っていた。

 しかし、相手もどうやら一筋縄ではいかない。

 少なくとも、この一件で、一望の株価は大幅上昇しただろう。

 

 

「でも、貢ぎ物作戦とか……何だかセコイな~。お姉さんとして、このままじゃフータロー君がダメ人間になっちゃわないか、将来が心配だよ」

 

「「「「………………」」」」

 

「え? あの、何で皆して目を細めて私を見るのかな?」

 

「「「「……別に……」」」」

 

 

 一花は苦笑しながらも、面白くなさそうに批判するが、そんな一花を「お前が言うか?」という目で姉妹たちは無言で見るが、それはさておき……

 

「でも、効果絶大なのは見てのとおりよね。こうなったら、私たちも妹ちゃんに何かプレゼントするとか……」

「私たちもまずは馬から……」

「らいはちゃんにプレゼント! あげるあげる、いっぱいあげますー!」

「私だって、らいはちゃんに……大好き……お姉ちゃんなんて言われたいです! その作戦は賛成です!」

 

 このままではまずい。

 何とかしなければならない。そう思い、自分たちもプレゼント作戦を実行するべきではないかと、二乃が提案した。

 

「よくよく考えれば、皆でこの間あげたフー君への誕生日プレゼント……なんか、フー君は喜んだというより、ああいうのに慣れていないのか戸惑いの方が大きかったわ。でも、一花がギフトカードを贈って、妹ちゃんに好きなものを買ってあげたらって提案したら、すごい喜んでた……そう、フー君は自分がプレゼントをもらうよりも、妹ちゃんの笑顔を見る方が好きなのよ……ほんと、家族想いで優しんだから……」

 

 二乃は、自分が風太郎に一番喜ばれるプレゼントを選んだつもりだったが、一花のプレゼントには「その手があったか」と思わされた。

 そして、それはやはり正しかったのだと、今日改めて気付いた。

 

 

「うん、そうだね。なんか……フータロー君を振り向かせるために、らいはちゃんをダシに使うのは少しアレかもだけど……うん、でもそうしよっか。でもそのかわり、真剣にらいはちゃんのことを考えて皆でプレゼントしよう」

 

「「「「おーっ!!!!」」」」

 

 

 そして、黙っていた一花も二乃の提案には同意。元々は一花が風太郎の誕生日に思いついた作戦のため、別に反対することはなかった……のだが……

 

(やられた……まさか、私以外に貢ぎ物作戦する人が現れるなんて……私には分かる……あの自転車……絶対自腹だ……だって、外村一望はスポーツ関連のCMに出てないし……天然なんかじゃない……あの人、計算している……)

 

 一花は苦笑しながらも……

 

(まずいな~……私はこれまで、フータロー君自身には本ぐらいしか買ってあげてないし……コーヒーは飲めないって断られたし……ギフトカードじゃ、あの自転車以上に高価な物は買えないし……)

 

 姉妹たちに同意しながらも……一花は内心では一人違うことを考えていた。

 

(このままじゃダメだ。馬を射てる場合じゃない……フータロー君自身を射ないと……そうだ! 皆で、らいはちゃんにプレゼントを用意する裏で……私だけフータロー君へのプレゼントを……今度はギフトカードなんて変化球なんかじゃなく、私が買ってあげる物……そして、あの自転車よりも高価な物を……そして、フータロー君が受け取ってもらえるものを……!)

 

 そう、一花は姉妹たちと結託する裏で、一人抜け駆けすることも考えていた。

 

(この間の映画のギャラも入って……家賃や光熱費を今は五等分しているおかげで、また貯金も溜ってるし……私が一番高価な物をフータロー君にプレゼントするんだ……でも何を……高級レストラン? ううん、フータロー君は味音痴だし、あんまりありがたみないだろうし……高級時計? これならいつも身に着けてもらえるし……いや、ダメ。多分こういうのは受け取りづらいだろうし……)

 

 自分が……自分こそが、風太郎に一番喜んでもらえるものを……。しかし、そこから先のいいアイディアが一花には思いつかない。

 

「わ、わわわ、動いた動いたー! おにーちゃん、動いたよー!」

「おー、らいは、転んだりするなよ?」

「はははは、ほな、らいはちゃん、ウチが後ろ抑えてるからな」

 

 そんな中で、初めて乗る自転車に、らいはが目を輝かせて練習し、それを風太郎や一望が手伝っている微笑ましい光景が繰り広げられている。

 仲睦まじい三人の光景を、正直、姉妹たちは今すぐ乱入したいぐらいだったが、幸せそうならいはの姿を見せられると、何もできず、ただ指をくわえて眺めることしかできない。

 だが、そんなとき……

 

「そういえば、フータロちゃんは自転車もっとらんの?」

「いや。駐輪場も金がかかるし、通学にも必要ないからな」

「そうなん? あっ、でも、フータロちゃん、バイクの免許もっとったな。バイクはあるん?」

「いやいや、仕事で必要だったから取っただけだ。バイクなんて自転車よりも金がかかる。駐車場代もガソリン代も考えると、不要だ」

 

 ふと、交わされる二人の会話。

 その会話を聞きながら、一花はハッとした。

 

(……それだッ!!)

 

 そう、一花は閃いたのである。

 出し抜く方法を。

 

 

 

 そして数日後……五つ子姉妹に覗かれていたことを知らなかった外村一望は、次なる作戦を実行するために動いていた。

 

「さて、今日はこの『偶然手に入って、ウチ以外の家族は都合が悪くて行けない』という設定の、食べ放題のビュッフェバイキングの無料券……フータロちゃん、らいはちゃん、そして義父様、ウチを含めた四人で食べに行こう作戦……これや! むふふふふふ、もうこれで、らいはちゃんも義父様からも『もう一望ちゃんは、上杉家の家族だな』、『そうだよー、一望おねえちゃんは、らいはの本当のお姉ちゃんだもんね?』……もう、待ったなしや!」

 

 将を討ち取るための段取りが整ったとばかりに、無料券を握りしめてほくそ笑む。

 だが……

 

 

「らいはちゃーん、いらっしゃーい!」

 

「ッッ!!??」

 

 

 道を歩いていた一望は、突然聞こえてきた名前に思わず反応。

 声のした方向に振り返ると、そこには一つの安アパートがあり、アパートの外の庭では五つ子の女の子たちと、小学生の女の子が大量の段ボールを前にして笑顔を浮かべていた。

 それは、一望がつい先日その存在を知った、中野五つ子姉妹と、らいはであった。

 

「らいはちゃん、に、あの五つ子……あの子ら、ここに住んどったんか?!」

 

 予想外の現場の遭遇に思わず身を隠して覗き見る一望。

 状況からして、大量に並べられた段ボールを、らいはに向けているように見えるが……

 

「これ、好きなのもらっていいんですか?」

 

 そして、らいはの上目遣い。やはりプレゼント。

 

「うん、いいんだよ~。お姉さんたちが小学生の頃に着なくなった服とかオモチャとか……」

「今、大掃除をしてて、いらない私物は捨てようと思ってるんだけど……」

「もったいないし……らいはちゃんがもらってくれるなら、私たちも嬉しい」

「らいはちゃん、遠慮なく持って行っていいんですよ? 一緒に家に運んであげますから、全部でもいいんですよ?」

「はい。だって、らいはちゃんは私たちの『義妹』なんですから、遠慮なんてダメですよ?」

 

 お下がり作戦。

 新しいものを買ってあげるという手もある。

 しかし、それはやはり遠慮されてしまう恐れがある。

 

「わー、このぬいぐるみ可愛い! わーわー、こっちのワンピースも……うわ~、もらっていいんですか?」

「「「「「もちろん!」」」」」

 

 ならば「もう捨てるしかなくて、もらってくれたら嬉しい」ということならば、相手も遠慮しないだろう。

 さらに、自分の私物を受け継いでもらえる。そこにはやはり目に見えた繋がりのような物を実感することが出来る。

 

(やられた!? ……お下がり作戦……らいはちゃんと同じ歳の妹が居るウチにはできひんことや……しかも五倍なんて……)

 

 その状況を偶然目の当たりにした一望は歯軋り。

 

「なんか、悪いな……こんなに貰っちまって」

 

 そして付き添いに来ていた風太郎もこればかりは感謝。

 その反応を見て、中野五姉妹は……

 

「あはは、そんなお礼なんて水臭いよ~、フータロー君」

「そうそう、私たちももらってもらった方が助かるし、あんなに喜んでくれる妹ちゃんを見ると嬉しいし」

「うん、もっとあげたくなっちゃう」

「三玖~、分かるよー! 私もらいはちゃん見てるともっとあげたくなっちゃう!」

「はう~、あんなに笑顔で……可愛すぎます!」

 

 小さくガッツポーズ。そして……

 

「ほら、らいは。ちゃんとお礼をしてからにしろ」

「うん、そうだね! おねーちゃんたち、ありがとう! だいだいだーいすき!」

「「「「「いただきました!」」」」」

 

 念願の言葉を言われたと、達成感に満ちた表情で五姉妹はウットリしていた。

 そして……

 

「……フータロー君。ちょいちょい」

「……ん?」

 

 お下がりの物に夢中になってるらいはに、色々見せていく姉妹たちの中で、一花がコッソリと抜け出して、フータローを呼び出す。

 皆は気付いていないが、隠れている一望は気付き、二人を追った。

 

「おい、どうしたんだ?」

「いいから、ちょっと来て。この裏に、アパートの駐車場があるんだけどさ……」

 

 皆に隠れるようにアパート裏の駐車場にフータローを連れて行く一花。

 何かあるのかとフータローが首を傾げながらついていくと……

 

 

「実は私……女優としての活動の幅を広げるために、どこかのタイミングでバイクの免許取りたいな~って思ってて……それを言ったら、知り合いの人がさ……」

 

「おっ」

 

「中古だけど、これを譲ってくれたんだ~」

 

 

 アパート裏の駐車場。そこには一台のネイキッドバイクが止まっていた。

 

「私、これから免許を取りたいって話なのに、今貰わないと他に譲っちゃうなんて言われたからさ……乗れないのに思わず貰っちゃって」

「ぷっ……お前、乗れない物を貰うとか、貧乏性だな……お嬢様のくせに」

「も~、笑わないでよ~」

 

 苦笑しながら頭を掻く一花。……そして、嘘である。知り合いから譲ってもらったというのは真っ赤な嘘である。

 このバイクは、一花が姉妹に内緒で中古ショップでコッソリ買ったバイクである。

 

「でさ、バイクって乗らないで放置してるとさ、ダメになっちゃうって聞いてさ……バッテリーとか?」

「まあ……な……」

「うん。でもさ、私は乗れないし、今は忙しくて免許取る暇はないからさ……だから、フータロー君さ、これを自分の物だと思って私の代わりに乗っててもらえないかな? そのお礼としてガソリン代とか要らないからさ」

「……はぁ!?」

 

 一花の新変化球。

 何十万もするバイクをプレゼントなんてしても、相手が親類だったり、ホストでもない限り、普通の感覚なら重くて引いてしまう。

 ならば、「私が乗れない代わりに自由に使って欲しい」という作戦。

 もちろん、一花はバイクの免許を取る予定などサラサラ無い。

 

「い、いや、いくらなんでも悪いだろ。大体、自由に乗って、ガソリン代もいらないとか……それに、駐車場代だってあるだろ?」

「駐車場代はいらないよ! うん。大家さん優しい人で私たち五つ子に結構親切してくれてさ、駐車場のこと聞きに行ったら、内緒だけどタダでいいって」

「マジか!?」

「うん。その代わり、フータロー君はバイクに乗るたびに、ウチに来てもらうことになるけどさ……」

 

 嘘である。駐車場をタダにする大家など居るはずがない。ちゃんと一花は月々数千円支払う契約を姉妹に内緒でしているのである。

 

「で、でもな~……ガソリン代もいらないとか、それは言い過ぎだ。お前らだって姉妹全員がバイトし始めたとはいえ、金をポンポン払える状況じゃないだろ?」

「ん~。フータロー君って意外と遠慮するんだね。初対面の時は人の家の中にズカズカ上がり込んだのに」

「あのな~、こういう高価な物のやりとりだったら、当り前だっつーの」

「はははは、そうかそうか~」

 

 そのとき一花は心の中で「計画通り」とほくそ笑んだ。

 全てが自分の作戦通り事を運んだからだ。

 

「そう……なら、フータロー君には、お姉さんがもう一個お願いをするってことならどう?」

「お願い?」

「うん。お願い」

 

 ウインクしながらある提案をする一花。それは……

 

「ほら、私ってさ、仕事の度に今は社長に送り迎えしてもらってるじゃん? あれって実はけっこう社長に負担かけちゃってるんだよね……ほら、社長ってシングルファザーで、子供まだちっちゃいから……」

「ああ、そうだな……」

「だからさ……その、これからバイクを自由に使っていいし、駐車場もガソリン代も気にしないでいいかわりに……私の送り迎えをフータロー君にこのバイクでお願いするってことでどうかな?」

 

 そのとき、物陰に隠れていた一望は心の底から舌打ちした。

 

(その手があったか―――――――ッ!!!!!)

 

 自分の送り迎え。しかもバイクで。つまり今度から、一花は仕事にはバイクに二人乗りで行くことになる。

 男に送られる。

 バイクに二人乗りで。

 しかもこれから仕事の度だ。

 

「おいおい、そんなんでいいのか? そりゃ、俺もバイトがあるから毎回は分からないが……そんなんでいいんなら……」

「ほんと! ありがとう、フータロー君! うん、じゃあ、これからフータロー君が私のアッシー君だね」

「……おいコラ」

「あははは、冗談冗談。ほら、前に二乃がフータロー君とバイク二人乗りしたって聞いたときから、私も乗ってみたかったんだ。だから、今度から、お姉さん専用ということで、よろしくね!」

 

 ウインクしながら冗談を交えて笑顔を見せる一花。心の中ではシャドーボクシングしまくるぐらいにハイテンションで喜んでいた。

 

(ふふふふ、仕事にバイク二人乗りで送り迎えとか……もう、そんなの恋人みたい……それに、これからは一緒の時間が増える……あの五人の女の子たちに対してだけじゃなく……フータロー君とバイトが一緒の二乃のアドバンテージもなくなる……)

 

 という、一花の本心を知らずに、フータローはこれから自分が自由に乗っていいバイクに興味を奪われ触っていた。

 そんな中……

 

「くっ……あの子……最近少しずつ映画にも出だした……中野一花やったな……強敵やな」

「……あ……」

「ッ!?」

 

 物陰に隠れていた一望と一花の目が偶然合った。

 しかし、一花は一望に気づいても声をかけることなく、ただ……

 

「ふふん」

「ッ!?」

 

 勝ち誇ったかのように笑みを浮かべた。

 

「……はは、上等や。次はウチがもっと高級なものフータロちゃんに贈るから覚悟しい」

 

 こうして、フータローが知らない間に、乙女たちの第一ラウンドが終わっていた。

 

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