本編とは少し違うノリで読んでくれて構いません。
幕間 リプレイ:追憶の旋律(前編)
「わぁ……」
キャッスルドラン内部に広がる荘厳な造りの間に、燐子さんの感嘆の息が溶けていった。日本ではまず見ることのない西洋の宮殿のような内装なのだから、彼女の反応も無理も無いのだろう。そもそも、きっと普通の人にとってはこの反応が当たり前なのだ。僕は生まれた時から見慣れているが、やはり慣れというものは怖いものだ。他の人との価値観を共有し辛くなるのだから。
「行きましょう、燐子さん」
「は──うん」
天井や壁を興味深そうに眺める燐子さんの手をとり、僕は彼女への場内の案内を再開させる。僕のことを受け入れてくれたどころか、晴れて恋人同士になったのだから、僕も全てを語るのが筋だと思い、今日はこうして燐子さんを僕の城へと招待していた。
──ぅわぁ……
──これって……
──きゃっ、今のって?
──へぇ……
この城は一日をかけても全てを回り切れるわけではない。故に特に見てほしい部屋や廊下などを選別して彼女を連れ回していた。初めて見る光景に一々可愛らしく反応してくれる燐子さんが愛おしくて、紹介中何度も彼女を抱きしめたくなる衝動に駆られていたりする。もちろん何とか自制してはいるけれどね。本当は今日からでもずっとここで暮らしてほしいところだけど、流石にいろいろと障害が多すぎるため今は断念せざるを得なかった。
「麗牙さん。あれは……?」
今日見せると決めた部屋の殆どを回りきった頃、とある部屋の机の上に並べられたタロットカードが気になったのか、燐子さんは興味深そうに僕へと視線を向ける。アレは確か……うん、丁度いいかもしれない。そう思い、僕は燐子さんを連れてそのタロットの元へと近付いていった。
「じゃあ、ちょっと見てもらおうかな」
「見るって……?」
「僕たちの……戦いの記録」
僕たちの目の前にあるタロットカードには、これまでの僕の記憶から読み取った戦いの記録が保管されている。僕だけでなく健吾さんやアゲハたちもその記憶を吸い上げて共有させることで、今後の戦いなどの対策を立てることもできる。要は今までの記憶をビデオ再生させていると言った方が早いかもしれない。まあ、プライベートもあるし本人の許容次第という限度はあるんだけど……。
「戦いの……?」
「うん……止めますか?」
戦いの映像となると、もしかすると燐子さんには少しキツい内容になるかも知れないと懸念し、彼女に確認の言葉をかける。しかし、僕個人としてはこれまでキバとして戦ってきた記憶を、彼女にも見てほしかった。僕が歩んできた道、苦しんできた想いを、彼女に知ってほしかったのだから……。
「ううん。見るよ……麗牙さんの今までのこと……わたしも知りたいから……」
「……ありがとう、燐子さん」
しかし燐子さんは逃げることなく、これから始まる戦いの記録へと目を向けてくれた。
そして、僕とRoseliaが出会った頃からの一連の戦いの記録が再生を始めていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
・スパイダーファンガイア
真名:闇に消えゆく楽園の滞在者
最初にRoseliaの前に……リサの前に現れたのがこの蜘蛛型のファンガイアであった。「
「今井さん……そんなことが……」
「でも、そんなファンガイアを放っておかないのが僕だ」
──『王の判決を言い渡す……死だ』
タロットカードでは麗牙がキバに変身し、スパイダーと戦闘を開始した。
「キバ……」
「
かの地に顕現せしはキバ。
紅の鎧を見に纏った、キバフォームである。
「鎖とかがたくさん……あこちゃん好きそうだなぁ……」
「まぁ、実際好きなんだけどね」
圧倒的な力の前にスパイダーはなす術なく蹂躙され、キバはキバットにフエッフルを吹かせていた。
辺りは漆黒の闇に包まれ、空には巨大な三日月が浮かび上がる。右脚の鎖が破壊され、ヘルズゲートが解放されて紅い翼が広げられた。やがて高く跳躍したキバがその脚を敵に向け、一気に急降下を始める。
これがキバフォームの必殺技、ダークネスムーンブレイク。
裁きの一撃を受けたファンガイアの身体はたちまち固まり、音を立ててガラスのように弾け飛んでいた。
「実は最近この名前が恥ずかしくて……」
「え? わたしは……カッコいいと思いますよ?」
「燐子さんにそう言われると嬉しいな……」
この事件を以てしてリサ、そしてRoseliaは異形たちの旋律の中に迷い込んでいくことになるのであった。
・オクトパスファンガイア
真名:串刺された満月と笑う貴婦
蛸型のファンガイア。人間を喰らうという誇りを現代のキング──麗牙に奪われて憎しみを抱いていた。そして麗牙の鼻を明かす目的として、彼に親しかったリサに狙いを定めていた。
「リサさん、僕のせいでまた狙われてしまって……」
「そう、なんですね……」
「でも、絶対に守りますから。燐子さんのことも、絶対に傷付けさせません。改めて誓います」
「ぅ……うん……っ」
・モスファンガイア
真名:湖畔で踊る少女の鼻歌
かつて人間と愛し合った蛾型のファンガイア。愛し合った人と悲劇的な結末を迎えたため、人間とファンガイアは愛し合ってはいけないのだと思い知る。現代において、自分という悲劇を思い知らせるために人間とファンガイアのカップルを狙っていた。
「そんな人が……」
「彼女には……僕は何もしてあげられなくて……でも僕は……っ」
──『人間とファンガイアは愛し合うことができる。僕はそう信じている』
──『そんな世界にするためにも、僕は戦わなくちゃいけないんだ』
タロットカードには、紗夜の前で自身の信念を語り、キバに変身する麗牙が映されていた。
「氷川さんも……この時に知ったんですね……麗牙さんの……強い想いも……」
悲しみのままに暴れるモスを止めるために、彼女の前に立ちはだかったのはキバだけでない。次狼がその正体を現したガルルもまた、その青い影を走られてモスに肉薄していた。
「次狼さんって……狼男……なんですか?」
「彼は誇り高きウルフェン族。でも、狼男で間違いないですよ。古くからその名前でも語り継がれてきた種族ですから」
そんなガルルが光に包まれ、キバと一つになった時、キバの紅の鎧は蒼き鎧へと変化を遂げていた。
これがキバのガルルフォーム。魔獣形態とも呼称される、キバ最速の姿である。
圧倒的な速さでモスを追い込んだ青いキバは、ガルルが変化した魔獣剣ガルルセイバーの刃をキバットに咬ませ、必殺の一撃を発動させた。
「今度は満月……?」
「キバはその姿によって浮かび上がる月の形も変わるんです」
浮かび上がる巨大な満月をバックにして、口に加えたガルルセイバーを敵に向けて斬り裂くガルルフォームの必殺技──ガルル・ハウリングスラッシュ。
その一撃を以てして、モスの悲劇はようやく終わりを迎えたのであった。
・プローンファンガイア
真名:あしながおじさんが見守り続ける幻想
「あれ……これって誰の記憶……?」
「あ、これ愛音だ」
「愛音さん……? 愛音さんも……変身するんですか?」
「そりゃあ、僕の妹で一応王女ですから。僕の黄金のキバも、本当なら愛音が纏っていたものだし」
「えっ? あの……黄金の……?」
「本当は僕には別の鎧があるんですけど、今はそれが使えないから、僕の持つもう一つの鎧を愛音に貸しているんです」
「でも……映ってないですよ?」
「……飛ばしましょうか」
・六柱のサバト
「大きい……でも、こんなのわたし見たことない……」
「サバトは人には見えないんですよ。魔力を通してみるか、特殊な電波の中にいないと姿すら見えないんです」
「だから……こんなに大きくてもニュースにならないんですね……」
愛音によって倒されたプローンファンガイアが、数多のファンガイアの魂と一つになって出現したサバト。しかしその標的は愛音ではなく、キングである麗牙と、そして彼の後ろに乗る友希那に向けられていた。
「友希那さん……(わたしも麗牙さんの後ろに乗りたい、なんて恥ずかしくて言えないよ……っ?)って、ドラゴン? これ、さっき……」
二人が乗るマシンキバーはやがて、竜の城の背中に着地する。燐子はその城から生えた竜の首に見覚えがあった。先ほども麗牙が案内した城の中で見た、巨大な竜の頭部だったのだから。
キャッスルドラン。ドラン族の一種、グレートワイバーンを改造して建造されたファンガイアの王城。王の住まいであると同時に、強力な戦力を誇る移動要塞でもあった。
「これが今僕たちがいる城の正体です」
「うん……改めて……ドラゴンって本当にいるんだなって……すごいなぁ……」
・シープファンガイア
真名:七面鳥は暖炉の前で満たされぬ夢を見る
最近まで自分が人間だと思って生きていた羊型のファンガイア。ある日、日菜に恋をするも、その想いはストーカー行為に及ぶまでに強く膨らんでしまっていた。麗牙たちの行動や日菜への想いから改心しかけるも、最期は日菜を守るためにポーラベアーの爪によって砕け散った。
・ポーラベアーファンガイア
真名:腐肉を漁る餓鬼への戒め
九十年以上生きる熊型のファンガイア(だがそれでもファンガイア全体の中では若め)。自分の意のままに動く子分・手下が欲しくてシープを操ろうとした。
「この人も……人間を好きに……」
「人間にそういう感情を抱くファンガイアは増加傾向にあるって聞きます。僕も……その一人ですし……」
「わたしも……そんなファンガイアを好きになった人間……です……」
シープもまた日菜を心から愛し、そして守るために散っていった。そんな彼を利用したポーラベアーを裁くために、キバの鎧は翠玉へと変化していた。
キバのバッシャーフォーム。半魚人形態とも呼称される、水中戦を得意とする翠玉の射手である。
そんなバッシャーフォームの必殺技は、バッシャー・アクアトルネード。魔海銃バッシャーマグナムから発射されたアクアバレットが敵をどこまでも追いかけ、確実に着弾させる執念の一撃。キバの怒りの一撃を喰らったポーラベアーはたちまちステンドグラスのように固まり、キバの軽く叩いた拳によって砕け散るのであった。
・フロッグファンガイア(緑)
真名:探求心の膨潤にて神秘は埋葬される
キバを倒すために街に入り込み、イクサシステムを狙った蛙型のファンガイアのリーダー格。健吾が変身したイクサ バーストモードの前に敗れる。
・フロッグファンガイア(赤)
真名:恋人に捧げる飛翔の舞
イクサを狙った集団の一人。健吾が変身したイクサ セーブモードに敗れる。
・フロッグファンガイア(黄)
真名:深海に眠る軍艦
イクサを狙った集団の一人。乱入したキバを見ていの一番に逃げ出すも、最終的にキバのダークネスムーンブレイクの前に砕け散る。
「あこちゃん!?」
タロットカードには、千聖とあこを人質に取るファンガイアの姿が映されていた。そのために何も出来ず、打ちのめされる健吾の姿も同様に記録されていた。
「ら、麗牙さんっ! あ、あああ、あこちゃんが……っ、それに白鷺さんも!」
「落ち着いて燐子さんっ。これ、過去の記憶ですから」
「っ……そ、そう、でした……ごめんなさい……」
絶体絶命かと思われたその時、キバが乱入して人質は解放され、健吾もようやく動けるようになる。
そして、健吾の姿は白い聖戦士へと変身していた。
「綾野さんも……変身するんですね……」
「はい。その名もイクサ。
「素晴らしき青空?」
「やっぱりそこに靡きますよね……とりあえず今は、人間とファンガイアの架け橋となるべく動く組織と思っていてください」
イクサ。それは麻生 亜也音──愛音の祖母の設計によって完成した対魔族用迎撃システムである。
イクサ セーブモードの放つブロウクン・ファングが異形の一体を粉々に打ち砕く。更にイクサはバーストモードへの移行が可能であり、その力を一気に増大させることができるのだ。
そしてイクサカリバーから放たれるイクサの必殺の一撃──イクサ・ジャッジメント。神への贖罪の一撃がファンガイアを砕き、その命を主の元へ返したのである。
「神に……あ、だから綾野さん……教会にいたんですね」
「そういうことです」
・ドルフィンファンガイア
真名:人魚の夢見る友情
・ライノセラスファンガイア
真名:地上を知らぬモノクロの尾羽
藍瑠に付き纏っていたストーカー。実家の家族を皆殺しにし、更には藍瑠の旅先で知り合った人間全員を虐殺していた。藍瑠に対して愛情は無く、彼女に流れる高貴な血が欲しかっただけであった。
「こんな人も……いるなんて……っ」
「燐子さんの怒りは尤もです」
人間がそれぞれならファンガイアも人それぞれだ。人間を、愛情を求めるファンガイアもいれば、それを意も介さず破壊する者もいる。血を重視するのはそれはその人の価値観なのだろう。しかしそのために他人の命を容赦なく奪い去るのは違うと、麗牙は思うのだ。
そんなライノに、キバは新たな姿を解放させた。
キバ、ドッガフォーム。剛腕戦士形態とも呼べるそれは、正に破壊の化身。大地を震わせ、空を割り、破壊の音色を奏でる紫電の鉄槌の奏者である。
そんなドッガフォームの必殺技が、ドッガ・サンダースラップ。朧月の中で相手の自由を奪い、巨大な拳で叩きのめす。より大きな力の前になす術もなく、ライノは哀れにも破片となって砕け散ったのだった。
・イヤーウイッグファンガイア
真名:自己本位が招いた保護と絶滅
NFOの世界に入り浸っていた鋏虫型のファンガイア。承認欲求が激しく、自分よりランクが上のプレイヤーを直接殺し回っていた。
「あの件って……この人が犯人だったんですか?」
「はい……あ、なんかあの時のこと思い出してきた……」
「麗牙さん……最近ちゃんと……NFOしていますか……?」
「うぐ……っ」
「して……ないんですか……?」
「やります! やりますからっ、そんな悲しそうな顔しないでください!」
「……約束ですよ?」
しかし悪逆を尽くしていたイヤーウィッグも、同じくプレイヤーであったルークの手で葬り去られるのであった。
・ライオンファンガイア
真名:??
チェックメイトフォーのルークが変化したライオン型のファンガイア。最近、雷の拳を相手にぶつける「ヘブンズ・フィスト」なる必殺技を取得した模様。
「さっきも聞いて驚きましたけど……ルークさんもファンガイア……なんですね」
「強いよ大ちゃんは。なんか最近は変な趣向に走ってるけど……」
「そうですか? カッコいいと思いますよ……ヘブンズ・フィスト」
「帰ってきたらまた新しい技身につけてそうだなぁ……」
・アントライオンレジェンドルガ/元アントライオンファンガイア
真名:色彩の祝祭
蟻地獄型のファンガイアであったが、マミーレジェンドルガによって身体を支配され傀儡とされてしまった。
「このファンガイア……」
「はい。ファンガイアではない別の存在に操られていました」
「あ、アゲハさん……」
・スワローテイルファンガイア
真名:??
羽畑アゲハ──チェックメイトフォーのビショップが変化したアゲハ蝶型のファンガイア。身体能力以上に、多岐にわたる特殊能力によって相手を翻弄する戦法を得意とする。
「アゲハさん……綺麗だけど……なんだか怖い……」
「やる時は本気でやる人だから、アゲハも」
普段の体躯は小さいが、ファンガイアとしてその力を発揮した時の能力は健吾が変身したイクサを超えるとも言う。ビショップは、その力でアントライオンを容赦なく叩き潰し、敵はたちまちドス黒い波動の中に消えていってしまった。
「でも、僕たちが戦う相手はファンガイアだけじゃない」
王として一族の掟を守るため、麗牙は自分と同じファンガイアと対峙し続けてきた。
しかし、彼らにとっての敵はファンガイアだけではなかった。
彼らにとって真に戦うべき敵は、他にいたのだから。
後編へ続く。
キバたちのこれまでの戦いの歴史を振り返ってみよう……的な。