ボーカルでヴァイオリニストな彼は   作:春巻(生)

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『マル・ダムールでPastel*Palettesの皆さんと話し合う麗牙さんたち』

『しかーし! 話し合いはキバやファンガイアの話だけには留まりそうになく……?』


第104話 マイペース・プリンセス

 マル・ダムールに着いてからは俺と麗牙で、パスパレ(正確には彩ちゃんと麻弥ちゃん)にキバやファンガイアの説明会が始まっていた。店には当然他の客もいるが、そこは麗牙が上手く魔術をかけて人間には聞こえないように施している。次狼のようなウルフェン族でない限り俺たちの会話の内容は届くことはないだろう。

 

 彩ちゃんと麻弥ちゃん以外はファンガイアそのものを知っているだろうが、麗牙のことやキバのことは恐らく千聖ちゃんもよく分かっていないはず。ファンガイア──古くより「吸血鬼」として世界の歴史に度々登場してきた夜の一族のこと。麗牙は、そのファンガイアの世を治める王であること。そして人間との共存を拒み、襲い続ける同族を処するために現れる王の鎧──キバのこと。まずはこの先の話をするための基本的な知識だが、これだけでも皆に混乱を与えるに十分であったようで、数人ほど頭を抱える人も見受けられた。

 

「お、王様……紅さんが……?」

 

「吸血鬼……本当にいたんですね……って麗牙さんもっ!?」

 

「お手本のようなリアクションどうも。次いってええか?」

 

「ええ、お願い」

 

 そもそも世界にはファンガイアだけでなく、様々な文化を持った魔族が存在している。キバに変身するために必要なキバットを始めとするキバット族や、黄金のキバの封印を解くタツロットのようなドラン族。次狼のようなウルフェン族に、千聖ちゃんやイヴちゃんが出会ったレジェンドルガ族(厳密には違ったがその体で話を進めさせてもらう)など、この地球は至る所に魔族のいる星であるのだ。無論、人間も魔族の一種であることも説明は忘れない。接種の仕方はどうであれ、他の生物のライフエナジーを摂ることで生きているのだから。

 

「な、なんだか壮大な話ですね……」

 

「う、うん。でも紅さん、本当の本当に吸血鬼……なんですか?」

 

 未だ全てを飲み込めていないためかもしれないが、彩ちゃんは麗牙が吸血鬼(ファンガイア)ということに対して半信半疑といった感じだ。確かに、一般に伝わる吸血鬼と言うのは生き血を啜る恐ろしい怪物のことを指す。なれば、こんな人畜無害そうな顔した優男が吸血鬼だなんて普通は思うまい。キバの鎧を纏ったからといって、そもそもそのキバの鎧さえ彼女はまだ理解に及んでいない。麗牙が人間でないと言われても納得できないのは仕方のないことであった。

 

「ねぇライガっ、みんなにもアレ見せてよ。ほらっ、前にあたしに見せてくれたあのキレイなの!」

 

「綺麗って、ああ、アレ……」

 

 麗牙と日菜ちゃんの間で何かが伝わったのか、麗牙は少し困ったような顔を浮かべていた。“アレ”とは一体何のことか俺も分からないが、頬をかきながら悩んでいるように見える親友の姿から、あまり取りたくない方法であるのが見て分かる。

 

「……仕方ない」

 

「っ、麗牙さん……?」

 

 しかし決心がついたのか麗牙は行動を起こそうとする。その際、彼は隣に座る燐子ちゃんの手を机の下で握っていた。俺にはそれがまるで、彼女から勇気を貰っているようにも見えていた。

 

「じゃあ、こうすればいいかな?」

 

「え? ……っ!?」

 

「えぇっ!?」

 

 麗牙は自身の魔皇力を目覚めさせ、その身体にステンドグラスのような模様を浮かび上がらせていた。なるほど、自分がファンガイアであることの証明として麗牙はその方法を取ったわけだ。しかし顔の下半分を覆い尽くす、目が痛くなるほどの色鮮やかな模様を目にして、少女たちの息を飲む音が聞こえてくる。唯一違うのは、麗牙の変容を見て楽しそうにはしゃいでいる日菜ちゃんだけだった。

 

「うんっ、やっぱりキレイだよライガっ!」

 

「あ、ありがとうございます。でも、やっぱりみんなには驚かせてしまったかな」

 

「麗牙さん……」

 

 静かに顔の模様を消していく麗牙はどこか申し訳なさそうに眉を顰めていた。確かに自分が人外だと言うには一番手っ取り早く説得力もある効果的な方法だが、それは普通に過ごしてきた人たちにとっては怪奇以外の何物でもない。言葉を失くして目を見開いたまま固まっている彩ちゃんのような態度が自然なのだ。それを麗牙自身が嫌と言うほど分かっているからこそ、それをするのにも勇気が欲しかったのだろう。かつてそれのために拒絶された少女の手を今も固く握りしめるのも、それでも自分を受け入れてくれた存在がいるという安心感が欲しかったからだと理解できた。

 

「わ、わたしは……」

 

「?」

 

 そんな時燐子ちゃんの口が開き、皆の意識が麗牙から彼女に向けられる。

 

「わたしは……ファンガイアとか関係なく……麗牙さんが好きです……」

 

「燐子ちゃん……」

 

「こんな優しい人を……人間じゃないからって……怖がらないでください……嫌いにならないでください……っ」

 

 自分がかつて麗牙を拒絶してしまったことを悔みきれないのだろう、燐子ちゃんの言葉にはとてつもない重みが含まれていた。必死さが込められた彼女の意思を無下にできる者はここにはいない。そんな燐子ちゃんの切なる願いに真っ先に応えたのは千聖ちゃんだった。

 

「大丈夫よ燐子ちゃん。私は知っているから。紅さんが優しいことも、他にも優しいファンガイアがいることも」

 

「白鷺さん……」

 

 いつしか自分たちのことを守ってくれたファンガイアを忘れていないからか、千聖ちゃんは優しく微笑んで燐子ちゃんの想いに応えていた。それはイヴちゃんも同じで、千聖ちゃんの言葉に笑顔で頷いていた。何なら最初に出会ったファンガイアが善良な人物であるだけに、イヴちゃんに関しては他の人よりもファンガイアを受け入れ易いのだろう。

 

「あたしも知ってるよ。優しいファンガイアがいることも、ファンガイアも人間のことが好きになるってことも」

 

「吸血鬼が人間を……」

 

 更に千聖ちゃんに続いて日菜ちゃんも、少し落ち着いた口調で語っていた。彼女に本気で惚れたというファンガイアの話は俺も聞いている。彼の命が失われても、その想いは彼女に届いたのだということも。ファンガイアも普通の人間のように恋をする。彼らは怪物ではなくて、そんなありふれた存在なのだと彼女は言っているようであった。

 

「兄さん……今こそ私を紹介するところ……」

 

 そんな中、静かに話を聞くだけに留めていた愛音の口がようやく開いた。紹介と言われても、先ほどから会話に消極的だったのにどういう風の吹き回しかと悪態をつきそうになる。しかし、人間とファンガイアの恋愛事情となってくると避けて通れないのが愛音の存在であると理解し、麗牙に目配せして話を進めさせた。

 

「さっきも言ったけど、愛音は僕の妹です。日菜さんと大和さんは学校でも会ってますよね?」

 

「うんっ。でもあたし意外とそんなに見てないかも」

 

「ジブンも、秋くらいにリサさんたちから紹介されたきりでしたね」

 

「学年違うし……しゃーなし」

 

「いやいや仕方ないって……どうせ休憩中ずっと寝てたんでしょ?」

 

「オーイエ……」

 

 同じ羽丘の二人とは一応の面識はあったそうだが、この眠り姫の相変わらずの気性のために特に関わりというものはなかったそうだ。まあこの際だから愛音のことをここで知ってもらおうか。そして麗牙の妹ということであることに気が付いた彩ちゃんが、麗牙に向けて恐る恐る訊ねてきた。

 

「あの、紅さん。妹ってことは、愛音ちゃんも……ファンガイア?」

 

「とおもーじゃん……」

 

「なに含むような言い方しとんねん」

 

「ええやろ……」

 

「関西弁真似せんといて?」

 

 基本的にマイペースな愛音だが、俺は偶にこの子が分からなくなる時がある。そんな彼女の言動に振り回されるわけにもいかず、麗牙は脱線しかけた話題を元のレールに戻して話を続けた。

 

「愛音はハーフファンガイアです。父親が僕と同じファンガイアですけど、母親は人間なんです」

 

「ハーフ?」

 

「お母さんが人間? え? 紅さんは……」

 

「僕は両親ともファンガイアの純粋なファンガイアです」

 

「私たち……異母兄妹……どやぁ……」

 

「いやそこドヤ顔するとこちゃうやろ」

 

 普通そこら辺の話はデリケートな話題のはずなのだが、どういうわけか愛音はしょっちゅう面白がって異母兄妹ということを前面に押す癖がある。異母兄妹という言葉の響きがいいのか、敢えて気にしてませんよアピールをしているのか、この子の場合はさっぱり判別できない。まあおかげで彼らの事情にはそこまで深刻になることがないのだから、他人である俺が特に止めることもないのだが……。

 

「ちょ、ちょっと待ってください! 愛音さんがハーフってことは……」

 

「うん……人間とファンガイアでも……ラブラブしてたら……こうなる……」

 

「いや言い方な」

 

 麻弥ちゃんが気付いたように、愛音が言いたかったのは人間とファンガイアでも愛し合うことが出来るという事実であった。違う種族の間でも愛を育み、子を成すことができる。自分がその証明なのだと、愛音は彼女たちに説明していた。とは言え愛音ももう少し言い方というものがあるとは思うのだが……なんだラブラブしてたらって。

 

「人間とファンガイアの子ども……」

 

「昔こそ『禁忌』とされ、生まれてきた子は忌み嫌われていました。今はそんなことはないですけど」

 

「どうして禁忌に?」

 

「危険だから……ハーフの中には稀に……ヤバいのが生まれる……」

 

「ヤバいの?」

 

「……私……みたいな?」

 

 そもそも、太鼓の昔から人間とファンガイアの恋愛が禁じられてきたのは単に種族の血が薄れるという問題だけではなかった。高い魔皇力を持って生まれたハーフファンガイアは、他の魔族を凌駕する恐ろしい力を得ることがあるという。

 

 ──エンペラーバット。

 

 それこそ古くよりファンガイア族の間で語り継がれてきた伝説の存在。

 

 強大な魔力を持ちながら、それ自身さえ制御が効かない怪物。純血を尊ぶ太古のファンガイアにとっては忌むべき存在。同時にファンガイアから見ても恐ろしい力を持つと伝えられる恐怖の象徴。

 

 それの唯一の体現者が愛音なのだ。

 

「まあ、その話はまた後に。現状僕の知っているハーフファンガイアも愛音だけですし」

 

 ただし、事これに関しては流石の麗牙も伝えるのは憚られたようだ。まだ魔族のこともしっかり教えられていないのにここに更にエンペラーバットの話をされても混乱を招くだけだろう。

 

「だから愛音は、僕よりもずっと特別な存在なんです。王家に生まれた、ただ一人の混血の王女(プリンセス)

 

「プリンセス……」

 

 この兄も兄で妹のことをとても大事にしようとしている。黄金のキバの鎧も少し前までは愛音が使っていたのに、キバットの親父とタツロットが眠りについた時からは残った強い鎧の方を愛音に使わせているくらいなのだから。少し妹を特別扱いし過ぎな気もしなくはないが、それほど彼が心配性だということでもある。

 

「それにしても、複雑な家庭事情があるのね……」

 

「はは、あまり気にしないでください。僕たち含めてそのことを憂いている人は誰もいませんから」

 

「それはそれですごいですね……」

 

 麗牙は薄ら微笑みながら千聖ちゃんの感想に安心させるように答える。確かに今現在は、彼らの在り方について憂いを抱くものはいない。

 

 とは言え、それは今だからこそ言える話だ。

 

 

 

 何しろ、この兄妹の間に何の確執もなかったと言えば嘘になるのだから。

 

 

 

「(ま、それも二人の中では笑い話になったってことやろな)」

 

 今の麗牙は愛音を心から大事に思っている。故にもはや過去の話となったそれを彼女たちに話す理由もなく、今は平和に笑い合う二人の兄妹を眺めつつみんなの話を聞くに徹していた。

 

 まあ、愛音のとぼけた発言には結局ツッこまずにはいられないのだが……。

 

「それにしても……アイネさんって大きいですよね」

 

(ひゃく)……六八(ろくじゃうはっ)センチ……ここから更に二センチ伸びる予定……」

 

「いや予定かい」

 

 イヴちゃんの指摘で皆思い出すが、愛音は平均的な女性よりも身長が高い。平均よりも小さいアゲハとは二十センチも離れているのだから、二人が並んで立つととても同学年には思えないということが多々ある。

 

「でも確かに、パッと見だとあんまり(かおる)くんとそんなに変わんなく見えるよねっ」

 

「ええ。それに細くて肌の色も白いし、モデルと言われても驚かないかも」

 

「モデル……はっ! そうです皆さん! あの話、アイネさんにいいと思いませんかっ!?」

 

「あの話?」

 

 突然イヴちゃんが何かを思い出したのか、パスパレの皆に耳打ちを始めていた。自分と同じ「モデル」ということで反応したのか分からないが、イヴちゃんの頭で何か考えが浮かんだのだろうか。

 

 そして、ちょうど入り口の扉が開いて誰かが入店してきたと同時に、イヴちゃんは愛音に向けてこう叫んだのだ。

 

 

 

 

「アイネさん! モデルやりませんか!?」

 

 

 

 

「……何……だと……」

 

 うん、当然そんな反応になるわな。俺も正直さっぱり分からん。え? モデル? 愛音が? 急に話がぶっ飛んで何が何だか分からなくなっているのは俺だけでなく、愛音や麗牙、燐子ちゃんも目を見開いて固まってしまっていた。

 またその驚愕については、たった今この店に入ってきた男にとっても同様であった。

 

 

「待て待て待て待て! なんでそんな話になっているっ」

 

 

「……次狼?」

 

 今はキャッスルドランの中で休養中であるはずの次狼が、突然俺たちの会話に割り込んできた。ここにいるはずのない彼の登場に俺たちはまたも固まってしまい、彼の顔に馴染みのないパスパレのメンバーも困惑してしまっている。だが彼の容態のことを知らず、また次狼とも関わりのあった日菜ちゃんだけは混乱することなく次狼に話しかけていた。

 

「ジローさん! なんか久しぶり?」

 

「ああ。久しぶりだな、氷川妹。それより、他の奴らはすっかり固まってしまっているが?」

 

 誰のせいだと思っているのか。麗牙たちから安静にしているように言われているおり、外で見ることはないと思っていただけに驚きが大きいのだ。これは後で麗牙から説教を喰らいそうな予感がしなくもないが、その当の麗牙も混乱から覚めて、彼女たちに次狼を紹介し始めていた。

 

「えっと、彼は次狼です。僕たちTETRA-FANGのベースを務めています」

 

「ああ! そうですっ、JIROさんですよっ」

 

「確かに一人歳の離れた人がいたかも……」

 

「覚えていてもなくても結構。それよりも愛音がモデルという話が気になるんだが」

 

 ちらほらと次狼の存在を思い出す人がいる中、彼の言葉で愛音の件に話が戻される。そうだ、元々愛音にモデルをやらないかという話がイヴちゃんからもたらされていたのだ。一体どういう話が彼女たちの間で起こったのか気になってしまい、俺も真剣な目で彼女たちを見つめていた。

 

「そんなに硬い顔しなくてもいいわよ。そこまで込み入った話じゃ──」

 

「私は真剣ですっ!」

 

「──イヴちゃん?」

 

 千聖ちゃんたちは軽い気持ちで愛音に話を持ちかけたつもりであったようだがイヴちゃんはそうではないようで、瞳の奥の炎を燃え滾らせ、熱い眼差しで愛音を見つめていた。

 

「すごい……熱気……」

 

「とりあえず順を追って説明してくれやんか?」

 

「そ、そうね。まずはそこからよね」

 

 千聖ちゃんの話によれば、なんでも彼女たちが今日収録している番組で一緒になったモデル雑誌の編集長から、パスパレの身内で綺麗な子がいれば紹介してくれないかと言われたそうだ。雑誌にはイヴちゃんの写真を載せるそうだが、それとは別にちょうどペアルックで撮りたい写真もあるようで、もし良ければ彼女の友達でモデル映えする子を誘って一緒に撮らないかという話だった。

 

瀬田(せた)さんとかは……誘わないんですか……?」

 

「薫が載っちゃうと間違いなく他の子の存在が食われてしまうから……」

 

「確かに……」

 

「どんな子やねんそれ……」

 

 何やら俺の知らない子の話をしているが、それほどの逸材も彼女たちの交友関係の中にいるのだろう。俺の知っているだけでも、彼女たちの周りには綺麗な子が多い。RoseliaやAfterglowとも交友があると聞くが、彼女たちもなかなか美人揃いだ。可愛い子は可愛い子を引き寄せるものなのだろうか……。

 

「やりましょうアイネさん! 一緒にモデル、きっと楽しいです!」

 

「ふむ……」

 

「でも、無理強いはしていないわ。嫌だったり都合が悪ければ断ってもいいのよ」

 

 愛音は腕を組んで意外にも真剣に考えに耽っていた。話だけを聞く限りそこまで切羽詰まった話ではない。元々素人でいい人はいないかという軽い誘いで、いなければ事務所の別のモデルを被写体にするだけのことなのだから。しかしイヴちゃんの真剣な表情を前にして愛音も断りづらくなっているのかもしれない。あのマイペースな愛音らしからぬ熟慮だが、それだけ目の前の少女の心に真剣に向き合っているのだろう。

 

「雑誌載ったら……兄さん……買う?」

 

「買う」

 

「即答かよ」

 

「……じゃあやる」

 

「こっちも即答ォ!?」

 

 え? さっきまでの熟慮は何? そう思ってしまうくらいに麗牙の返答と同時にあっさりと決めてしまった愛音に、俺と次狼はズッコケかけてしまった。いいのか? 本当にそれが決め手でいいのか愛音は?

 

「本当ですかアイネさん!」

 

「武士に二言なし……」

 

「誰が武士やねん」

 

「なんと!? ケンゴさんだけでやくてアイネさんもブシなんですか!?」

 

「あーまたややこしなってきたーっ!」

 

 それ見たことか、純真無垢なイヴちゃんは愛音のふざけた発言もまともに捉えてしまい興奮気味に愛音に詰め寄る。しかも俺のこともまだ武士か何かだと勘違いされているし……なんなんだこの異空間は!?

 

「いいんですか? 麗牙さん……」

 

「うん。愛音にももっといろんなこと知ってほしいし」

 

「まあ家で寝てるよりかはええんやろうけど……」

 

「俺は不安だ……」

 

「過保護狼……」

 

 愛音に過保護気味なのは麗牙だけでなく次狼も同じだが、愛音がモデルをすることに彼にしては珍しく不安を露わにしていた。しかし、確かに昼寝が趣味だと言う愛音も、流石に寝てばかりと言うのは勿体ないとは俺も感じている。人生は長いと言うが、その大半を眠りに費やすよりも他のことに使う方が有意義だと言う考えはよく分かるのだ。

 

「(愛音ほど美人やったら余計にな……)」

 

 共にいる時間が長すぎてあまり意識はしてこなかったが、愛音は麗牙と同じで顔も整っているし、細身で高身長でそれこそ千聖ちゃんたちが指摘するようにモデルのような美少女だ。普段から街に出ないだけで、出た時は必ず誰かの視線を受ける絵に描いたような美少女。故にそんな子がただ家の中で休日を寝て過ごすなんていうのは勿体無いと感じてしまうのだ。

 

「(年頃やし、麗牙のように恋の一つや二つくらいしてもええんやけどな……)」

 

「……今、健吾からやらしい目を感じた……」

 

「……健吾さん」

 

「健吾くん……」

 

「嘘やろお前ェッ!? いやいや、嘘! 嘘やから!」

 

 脳内で美人とは言ったが別にやらしい目で見たつもりはない。しかし愛音の突然の密告によって、麗牙と次狼からは殺意を交えた視線を、千聖ちゃんからは何故か悲しそうな視線を受けてしまう。慌てて訂正するも、しばらくは誤解を解いてもらえず久しぶりに胃をキリキリ痛ませた時間を過ごす羽目になってしまった。

 

「……ふふ」

 

「っ(やっぱよう分からんわ愛音のこと!)」

 

 必死で弁明する俺を見て薄らと笑みを浮かべた愛音に、俺は内心歯軋りしながら彼女の奇天烈さに頭を悩ませるのであった。

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 キバやファンガイアの話をしていたはずなのに、いつのまにか愛音のモデルデビューの話になってしまった話し合いもいつしか解散となり、燐子さんを送り届けた僕は今は愛音と二人、キャッスルドランへ続く道を歩いていた。

 

「なんか……大変なことになったね」

 

「全く……私の美貌に……ようやく気づいたか」

 

「えっ、そっち?」

 

「ジョーク……」

 

 我が妹ながらそのマイペースさには少し参ってしまうが、それも込みで自分の肉親である以上、彼女に愛らしさを感じずにはいられない。愛音はよく冗談を言うが、好意を向けてない人に対してそんなことを言えるような子ではない。彼女のよく分からない発言は、ある意味では親愛の証のようなものだ。だからと言ってさっきみたいに健吾さんを揶揄い過ぎるのは少し目に余るため、後で注意を促しておくつもりだが。

 

「兄さん。身体……もう何とも無い?」

 

 帰路の途中、愛音はふと僕に訊ねてきた。レイとの戦闘で大きな傷を負ったことは愛音、そして大ちゃんにも知れ渡っている。大事な時に側に入れなかったと、悔やんで僕の目の前で首を斬ろうとした大ちゃんを必死に止めたのは昨日のことにようにも思える。それほど強く想われていたということだが、それは愛音も同じで、毎日こうして僕の身体の調子を訊ねてきていたのだ。

 

「今日戦って分かったよ。もう僕の身体は大丈夫だって」

 

 だが、そんな彼女の心配も今日で終わりだ。先の戦闘で完全に把握できたが、僕の身体はとっくに自由に動くことができる。戦闘中に痛みが襲いかかることも、戦闘後に痛みが残ることもない。すっかり元の健康な身体を取り戻したと確信し、愛音に笑顔を向けて答えていた。

 

「本当に? アゲハと次狼もまだなのに……」

 

「キングを……じゃなくて、君の兄を舐めないでよ?」

 

「……それもそうか……ふふっ」

 

 嬉しそうに小さく笑う愛音を見て、僕も安堵していた。このところ彼女にも心配ばかりかけさせていたから、僕のことで安心して笑ってくれるのが心から嬉しかった。父さんはおらず、母さんも寝たきりの僕にとっては、残されたたった一人の妹。だからこそ、彼女にはずっと健やかにいてほしかった。

 

 だからこそ……。

 

 

「だからさ愛音。そろそろ、サガークを返してもらおうかなって」

 

 

 ……彼女には常に万全な状態を備えてほしかった。

 

 サガークを返してもらう……それは言い換えるなら、キバットとタツロットを愛音の元につかせるという意味にもなる。そう、互いの鎧を交換しようと僕は言っているのだ。

 僕の提案に、愛音は目を細めて怪訝そうに僕を見つめてくる。不満というよりは、本当にそれでいいのかという確認を促してくるような瞳だった。

 

「いいの兄さん? 兄さんが纏うなら……きっと黄金のキバの方が強いし……燐子も……確実に守れるよ?」

 

「守るために何を纏うかなんて関係ないよ。たとえ変身しなくても、僕は僕のままでも燐子さんを守る。それに、キバの鎧にも愛音のことを守ってもらいたいし」

 

 あの時、燐子さんを守りきれたのは黄金の鎧のお陰なのだろう。しかしそれに甘えているわけにはいかない。自力では僕より劣る愛音にこそ、今は黄金の鎧が必要なはずだと僕は考えている。

 それに、燐子さんを守るのに黄金の鎧がなければいけない理由なんてない。たとえ鎧が一つもなくても、彼女が僕の後ろにいる限り僕は燐子さんを守りきる。その覚悟は既にできていたのだから……。

 

「はぁ……言っても聞かなさそう……分かった……サガーク」

 

「キバット、タツロット」

 

 僕たちの呼び声に反応し、それらは飛来した。金色に輝きながら翼をはためかせるキバットとタツロット。白銀のボディを回転させながら浮遊する円盤型のゴーレム、サガーク。今まで僕たちを守ってきた彼らだが、その役目は一旦の終わりを迎えることになる。

 

「二人とも、愛音のこと頼むね」

 

『おうっ、任せとけ麗牙っ』

 

『お久しぶりですねっ、愛音さん!』

 

「うん……サガーク……兄さんのこと……任せる」

 

『β⊥√э⌘ΨÅй』

 

 夜空の下で交差する金と銀の光。三つの輝ける光はこれまで守ってきた人の元を離れ、本来の持ち主の元へと帰っていった。彼らはこれから、自分たちの本来の主人のためにその力を振るうことになる。心なしか、ゴーレムであり感情がないはずのサガークの挙動が少し嬉しそうにも感じていた。

 

「よろしくキバット……タツロット……」

 

 そしてこの瞬間、キバの鎧は混血の王女の元へと再び舞い戻ったのである。




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次の中であなたの一番好きな戦闘シーンは?

  • 第9話(キバ初戦闘回)
  • 第29話(イクサ初戦闘回)
  • 第57話(ドガバキフォーム回)
  • 第67話(ライジングイクサ回)
  • 第100話(エンペラーフォーム回)
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