ボーカルでヴァイオリニストな彼は   作:春巻(生)

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『麗牙さんたちTETRA-FANGのライブが続く中、ななんとっ!彩さんが誘拐されてしまいました!?』

『走れ愛音! ……ってオレ様たちも行くんだよ! タッちゃん!』


第106話 超新星:黄金の皇女(ゴールデンプリンセス)

 青空の元、人気のない大地に一陣の風が吹く。しかしそれは風などではなく一人の人間──否、ライブハウスに忍ばせた姿は今は形を変え、そこにいるは五体を奇怪に膨れ上がらせた異形であった。地を蹴り、ビルの壁を蹴り、木々を伝い、風の如く異形は駆け抜ける。その脇には桃色に照らさた偶像のような愛らしい少女が、今はぐったりと意識を失って異形に抱えられていた。魔皇力を身体に秘めた少女、それは彼らの王の復活への手掛かりとなる存在でもあった。これより異形は捕えた少女に儀式を施し、その身体に眠るレジェンドルガの力を呼び覚ます。上手くいかずとも少女は自身と同じ異形と化するだけだが、上手くいけばその瞬間に彼らの王が復活を遂げる。王に忠実な僕たちで構成された種族故に、彼らはこうして手当たり次第に魔皇力を持つ人間を連れ攫っていたのだ。

 

 しかし異形が地面を蹴り再び宙に舞おうとした直後であった。

 

『ドリャァァッ!!』

 

「ッグオ!?」

 

 黄金に輝く小さな光が突如異形に突進をかまし、不意を突かれた異形は手にした少女を地面に落としてしまう。細く小さな身体が止まることなく地面へと近付いていった。

 

「ふっ!」

 

 しかし少女が地面と激突することはなく、颯爽と現れた紅色の少女によって受け止められていた。危なげなく彩を抱き止めた少女──愛音はその身体に傷が付いていないことを確認し、今し方着地したばかりの異形を睨み付けた。

 

「あれ、私……え、愛音ちゃん……?」

 

「よかった……離れてて……彩……」

 

「え?」

 

 ゆっくりと彩の瞼が開かれ、その視界に紅色に光る綺麗な長髪が映る。自分は先ほどまでライブハウスにいたはずなのに、どうして今は屋外にいるのか。そして何故彼女に抱き寄せられているのか。何が起こっているのかまるで把握出来ていない彩も、そこから少し離れて立つ異形の声に意識を向けさせられることなる。

 

「なんだ貴様……」

 

「ひっ!? な、に……また怪物……ファンガイア……?」

 

「違う……アレはレジェンドルガ……彩……アレに攫われてた……」

 

「攫われてっ、えっ、どうしてっ?」

 

「説明は後……危ないから下がってて……」

 

「下がってって、愛音ちゃんは……?」

 

「私は……まあ、見てて……」

 

 愛音によって地に降ろされた彩は、それでも治ることのない困惑を抱きつつ愛音に投げかけていた。目の前には恐るべき異形が立ちはだかるにも関わらず、愛音は顔色も声色も変えないまま一歩また一歩と異形へと近付いていく。二人の少女を見つめるは、雄鶏のような見た目の頭部と鋭い爪や鱗の生えた五体、そして蛇ような尾を持ち、その視線だけで相手を殺しかねないほどの威圧を放つ異形──コカトリスレジェンドルガ。そんな相手に対しても愛音はまるでいつもの眠そうな態度を変えることなく、静かにコカトリスへと近付いていったのだ。

 

「絶対に許さないから……女の子にはもっと優しくしないと……」

 

「はぁ……?」

 

 相変わらずの静かな言葉遣いだが、その言葉には愛音の確かな怒りも込められていた。兄の大事なライブに乱入するどころか、自分が友達になった少女を連れ去り、レジェンドルガに変えようとしたのだから。故に、愛音は静かに怒りの感情を瞳に込めてコカトリスを睨みつける。

 

「貴様が何者かは知らんが邪魔をするな。その小娘は我らにとって必要なのでな……来いっ!」

 

「っ!」

 

 コカトリスが懐から小さな枝のようなものを数十本取り出し、辺りに散布させる。次の瞬間、散乱した枝──骨はウネウネと形を変え、やがて人間の全身骨格のような形をした無数の兵士が出現していた。

 

「きゃっ!? な、何……っ!?」

 

「……前にも見た……あの人形……」

 

 目の前に現れた骸骨兵士の群れに彩は背筋が凍る思いで縮こまる。一方愛音は、その兵士の姿に見覚えがあった。それは以前にレジェンドルガが初めて自分たちの前に姿を現した時……マミーレジェンドルガが侵攻してきた時の軍勢の中にもいたスケルトン兵であった。マミーと同様、この異形の背後にもこの力を持つレジェンドルガの影を見た愛音は、敵同士の繋がりが構築されつつあることに僅かに眉を潜める。自分たちが思っているよりもレジェンドルガたちは復活を果たし、集まりつつあるのだと静かに戦慄していた。

 

「? ……いや待て、貴様も魔皇力を持っているのか……?」

 

「だから何……勧誘はお断り……先約がいるから……」

 

 しかし愛音は微塵も動揺を見せることはない。自身の中に眠る魔皇力に気付いたコカトリス相手にも淡々と言葉を返し、睨む視線を強くする。敵がどれだけ増えようとも、自分が目の前の敵を倒すことに変わりはないのだから。

 

 そして──

 

「キバット」

 

『よっしゃ! 久々にキバっていくぜ、愛音』

 

 彼女は、己を変えるための相棒の名を呼んだ。すると今し方コカトリスに体当たりをかました小さな黄金の光が愛音の元に飛来する。

 

「え、アレって紅さんが変身する時の……」

 

 彩がソレを以前に目の当たりにしたのは、麗牙が変身する時であった。その時点で彩の中にはキバットが麗牙を変える存在だという認識が成り立っていたのだが、今はソレと全く同じ存在が愛音の元に降り立ったことで彼女の頭は再び困惑に陥る。しかしそんな彩の混乱に気にかけることなく、愛音は右手を空へと伸ばして飛来したキバットを掴み取る。そして足を半歩下げてクロスさせ、同じく天に伸ばした左手にキバットを咬ませた。

 

『ガブッ!』

 

 天から伝うようにキバットから注入されるアクティブフォースが愛音の身体を侵食していく。愛音の白く端正な顔をもステンドグラス状の模様が覆い尽くし、彼女の腰回りには紅色のベルトが出現していた。

 

 ♬〜〜

 

 笛の音が待ち切れないと言わんばかりに何度も反芻する。

 

 おどろおどろしい警鐘が辺りを包み込み、誰もが無闇に動けずその様子を伺っていた。

 

 そしてバレリーナのように華麗に身体を伸ばしたまま、愛音はその言葉を告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「変身」

 

 

 

 

 

 

 

 

 勢いよく両腕を下げ、キバットをバックルの止まり木にセットする。その瞬間、愛音の身体を白銀のベールが覆い尽くし、それは刹那の後に音を立てて砕け散った。

 

「わぁ……」

 

 そこに顕現せし紅色の姿に彩は息を飲む。一度その目で見た筈の鎧だが、今の彼女にとってはまるで違って見えていたのだ。

 

 あの日見たのは、全てを圧倒する強者の威圧を纏った支配者の姿。

 

 しかし今目の前にいるのはそれとは違う、静けさを纏った華麗なる戦士の姿であった。

 

 いつ放たれるか分からない嵐を静けさの中に眠らせた紅い鎧。正に眠れる姫。

 

 仮面ライダーキバ──ハーフファンガイアたる紅愛音が変身する、紅の皇女が顕現した。

 

「キバ!? しかし、女が……?」

 

 キバとは元来、ファンガイアの王が纏う鎧である。それを女性である愛音が纏うとなれば、ファンガイアを知る者からすれば驚愕以外の何物でもなかった。

 

「ふッ、ハァァァァァァッ!」

 

 そして両腕を斜めに天と地に広げ、蝙蝠の翼のような姿勢でキバは軍勢に向けて駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ♬〜♬〜

 

 一方ライブハウスLiFEでは、ステージに登壇したTETRA-FANGのオリジナルメンバーによるパフォーマンスが披露されていた。ラストの新曲を披露するまでの間、登場したばかりの彼らと観客との一体感を高めるために熱い旋律が奏でられていた。

 

「あっ、りんりんお帰り……どうしたの?」

 

「えっ? あ、ううん……ちょっと疲れたから……」

 

 その間に燐子はステージ裏から観客側へと入りRoseliaと合流していた。しかし、観客でただ一人彩が攫われたことを知る燐子は会場を埋め尽くすサウンドに完全に乗り切ることは出来ず、不安が顔に現れていた。その様子をいち早く察知したあこに指摘されるも、それを今ここで口外して麗牙たちのステージを壊したくなかった燐子はすぐに誤魔化していた。

 

「そっか、お疲れりんりんっ。でも次がラストだから、一緒に精一杯応援しようよ!」

 

「うん……(麗牙さんが信じてるなら……わたしも……信じなきゃ……)」

 

 内にある不安は彩と愛音を心配してのことだ。しかし自分が信じる彼が信じているなら、それを信用しないわけにはいかない。自分に今できることは、目に映るの大好きな人のことを信用して応援することだと燐子は自分に言い聞かせていた。

 

「では皆さん、本日最後の曲。僕たちTETRA-FANGの一つの到達点とも言える曲です」

 

 パフォーマンスを終え、いよいよ最後の新曲が始まろうとしていた。

 

「それでは聴いてください……(聴こえてる……愛音……?)」

 

 曲名を告げる前に麗牙は今一度、離れて戦場に立つ妹に向けて自身の音を届けようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァッ!(聴こえるよ……兄さんの音楽は……いつだって)」

 

 迫るスケルトン兵を拳で打っては砕き、或いは投げて砕きつつ、キバは無数の兵士相手に善戦していた。元々戦ったことのある相手であることも理由だが、スケルトン兵一体一体の実力は然程高くはない。そんな中で、キバの鎧の中で愛音は兄の奏でる心の音楽に耳を傾けていた。自分を心配し、鼓舞するような優しい兄の音楽に彼女はいつだって応えようとしていたのだから。

 

「フゥゥンッ!」

 

「っ! ハッ!」

 

 コカトリスの口から放たれた毒の息を跳躍して躱したキバは、キバットに新たなフエッスルを奏でさせた。

 

「来て、タツロット」

 

『タッちゃーーん!』

 

 キバットから奏でられる笛の音と共に、空から新たな黄金の光が飛来する。魔皇竜タツロット──キバの鎧の鎖を解き放つ、進化を促す光である。

 

『ビュンビューン! テンションフォルテッシモ! さぁ行きますよ愛音さん!』

 

 

 

 

 

 

 

 それと同時に、麗牙の口から曲名が告げられていた。

 

 

「Supernova」

 

 

 ♬〜〜

 

 

 そして麗牙の放つ歌声が会場を、そして世界を支配し始めた。

 

 

 ──あふれ出す感情がこの身体突き破り

 

 

『変身』

 

 

 キバの左腕にタツロットが止まり、キバの鎧は黄金に包まれていく。

 

 

 ──時を溶かし始まったNext Stage

 

 

 二対の真紅のマントが炎と共に現れ、ここにキバの鎧の真髄──仮面ライダーキバ エンペラーフォームが降臨した。

 

「っ、黄金の……キバ……!?」

 

「ザンバット!」

 

 タツロットの口元に手を添え、キバはザンバットソードを引き抜いた。太陽の光に照らされ、眩しく輝く刃に異形たちの目が眩む。本来キングである麗牙が持つべき黄金の剣の複製、その刀身には愛音がこの魔剣を使いこなすための黄金のザンバットバットが噛み付いていた。黄金の鎧と共に現れた黄金の剣。圧倒的な煌びやかで高貴な輝きを前にして、誰もが思わず息を飲んでいた。そして、キバはゆっくりと異形の群れへと歩み始めた。

 

 

 ──いつも足りなくて 言い訳的な諦め

 

 ──ずっと積み上げていた 隠すように

 

 

「ハァッ! セヤァァッ!」

 

「ンガァ──」

「ギヒッ──」

 

 ザンバットが振るわれ、一振りでスケルトン兵が跡形もなく消し飛ばされていく。あまりにも素早く華麗にためか、彩にはキバが剣をいつ振るったのかすら認識出来ていなかった。目に見えない早業で振るわれる卓越した剣技により、彼女が通る後では異形の群れが無に還っていく。

 

 

 ──どこか遠巻きに 眺めてたような景色

 

 ──急に手のひらの上 粉々に砕け散る

 

 

「フッ、ハァァッ!」

 

「グガァァ」

「アグゥァ」

 

 敵を斬り裂く毎にキバはザンバットバットをスライドさせ、その刃の斬れ味を上げ続ける。その勢いは留まることを知らず、五十はいたとされるスケルトン兵も既にそのほとんどが塵に還っていた。キバの力もさることながら、彼女の手に握られたザンバットソードの威力もある。そして何より愛音の純粋な剣の腕は麗牙を上回っていたのだ。剣に限らず武器を用いた戦闘に関しては、愛音は麗牙よりも力を発揮する。兄が魔力や徒手空拳中心の戦闘であるに対し、彼女は武器を操る戦術を得意としていたのだ。故に、今この世で最もザンバットソードを効率よく華麗に扱える存在こそが彼女であった。

 

 

 ──この気持ちの行き場教えて

 

 

「ふんッ、ゥオオオオッ」

 

「ッ、セイッ!」

 

 残るスケルトン兵を蹴散らそうと畳み掛けるキバに向けて、コカトリスがどこからともなく槍を取り出して飛び掛かった。突き出された槍をザンバットソードの刃で反らし、振り払って両者は距離を取る。

 

 

 ──制御不能 熱い炎 戸惑いを焼き払い

 

 ──昨日までの感覚 忘れさせる

 

 

「ハァッ、ダァァァッ!」

 

「ゥギ」

「ガッハ」

 

 剣をなぎ払い、群がる兵士に蹴りを入れながら、キバは剣を砥ぐことを止めない。キバが刃に咬みつくザンバットに手をかける毎に刃は斬れ味を増していき、より眩しく光り輝いていく。普段の愛音からは想像も付かないほど声を上げて激しく戦うキバであるが、彩にはマントを翻して軽やかに舞うキバの姿もまた輝いて見えていた。

 

 

 ──No one ever knows 僕の音 どこまでも進化する

 

 

「ルォアァァァッ!」

 

「ッ、ハァァァアッ!」

 

「ッグゥオッ!?」

 

 コカトリスは再び毒を口から吐きながらキバに飛び掛かる。しかし素早くその場から飛び退いたキバはザンバットをスライドさせ、空中に浮くコカトリス向けて剣を振るった。その時ザンバットソードから紅い斬撃が放たれ、空を裂く刃はコカトリスの身体に命中し地面に撃ち落とした。

 

 

 ──まだ知らない自分が 目覚めてく…Supernova

 

 

「グゥ……ッ」

 

 コカトリスが完全に態勢を立て直す前に、キバはザンバットバットの頭部を覆う仮面を解放し、胸の前に掲げた。鉄仮面のような、或いは蝙蝠の翼のような形をしたフエッスルをキバットに加えさせ、彼はその音色を辺り一帯に吹き轟かせた。

 

Wake (ウェイク) Up(アップ)!』

 

 キバットの宣言と共に、キバはザンバットバットを剣先に向けてゆっくりとスライドさせていく。血のように真っ赤な光が刃から放たれ、ザンバットソードに紅色の刀身が作り出される。剣先に至ったザンバットバットを峰に戻し、キバは剣を構えて敵の群勢を見据える。

 

「ふっ」

 

 

 ──見えない暗闇の中…

 

 

「ハッ! ダァッ!」

 

「ヒギィ」

「ガガァ」

 

 駆け出したキバはザンバットを振るい、次々とスケルトン兵を消滅させていく。そして全ての兵士を残らず討ち払ったキバは、その嵐のような勢いのままコカトリスへと向かっていった。

 

「っ、グゥラァァァアッ!」

 

 キバを串刺しにせんと突き出されるコカトリスの槍。しかしキバはそれを刃で迎えることはなく、槍が胴を貫く寸前で小さく跳んで躱し、宙から槍を握るコカトリスの手に向けて剣を振るった。

 

「セヤア゛ァァァァッ!!」

 

 

 ──微かな光 創り出すように

 

 

「ッグゥオ゛ア゛ア゛ァァッ!?」

 

 手首を斬り裂かれ槍を落とすコカトリス。しかし彼に痛みに叫んでいる余裕などなかった。苦悶の声を上げる異形に向けてキバは一閃、また一閃と剣撃を浴びせることになるのだから。

 

「ダァァァァァァァラァッ!」

 

「ゥグゥルォガガゴゴォォォァ!?」

 

 凄まじい数の赤い閃光がコカトリスに襲いかかる。

 

 一振りでさえ強大な威力を放つザンバットの斬撃、それを連続で浴びて耐えられるものはいない。

 

 たとえ伝説の怪物が相手であろうとそれは変わらない。

 

 誰しも例外なく、最後には黄金の威光にひれ伏すことになるのだから。

 

「ハッ!!」

 

「ゥ……ガァ……」

 

 最後にキバはザンバットソードを大きく突き出し、赤く輝く刃が異形の身体を貫いた。嵐のような連撃を受け、もはや抵抗する力も残されていない異形から力が抜けていく。目の前の異形から力が消えていくのを感じたキバは、逆手持ちにして自身が刺した剣を異形の身体から引き抜いた。

 

「フッ」

 

 膝を地面に付けつつ敵に背を向け、剣先を地面に向けたままザンバットバットをスライドさせていく。剣先に至ったソレを再び峰に戻していくが、その様は剣についた血を拭うかのように、或いは納刀するようにも彩は見えていた。

 

「ゥゥ……ガァァ──」

 

 そしてザンバットが元の鞘に収まり、刃から赤い光が消えた時、コカトリスの身体は地に伏せ、盛大に爆発を起こしたのだった。

 

 ファイナルザンバット斬──王の剣から放たれる紅の閃光が異形を永遠の闇へと葬り去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ♬〜〜||

 

 

「〜っ! TETRA-FANGでした! ありがとうございます!」

 

 それと同時に、LiFEではTETRA-FANGのステージが終了していた。われるような歓声が屋内を埋め尽くし、誰が何を言っているのか確実に聞き取れた者はここにはいない。それでも、彼らの音楽に対して同じように感動を衝撃を覚えていたのは誰もが同じであった。

 

「は、はは……すごいね……友希那……」

 

「ええ……本当に……(いつだって期待のその上を行くのね……あなたたちは)」

 

 友希那はステージ上で輝く(ライバル)を見据え、自身の心で滾る気持ちを抱きしめながら彼らの姿をいつまでも目に焼き付けていた。間違いなく今日の彼らの最後の楽曲は今までで一番のものであった。最良の舞台だったと友希那は感じていた。自身の期待などあっという間に超えていくTETRA-FANGの音楽。そんな彼らに、そして麗牙に対して、友希那はまた一つ期待と賛美を覚えていた。これからも彼らの音楽は高く羽ばたいていく。それに負けぬよう、自分たちもまた更に激しく高々と舞い上がっていくのだと、自身の中で決意を新たにしていた。

 

 そして麗牙もたった今、どこかで妹の戦いが終えたことを感じていた。遠く離れていても、彼女の心の音楽は麗牙にも聴こえる。荒々しく燃え盛った彼女の音が、今ゆっくりと沈静していくのを心で感じ取っていたのだから。故に麗牙は愛音の心配はしていない。今はただ、自分の音楽が彼女に伝わったかどうかを知りたがっていた。

 

「(愛音……ちゃんと聴こえたかな……)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(兄さん……兄さんの音……ちゃんと聴こえてたよ……)」

 

 そんな麗牙の音楽は確かに愛音の心にも届いていた。強く熱い兄の鼓動は、戦いの本能に身を任せる愛音の心にも響いていたのだ。黄金の鎧を輝かせ、二対の真紅のマントを靡かせながらキバは優雅に歩いて彩へと近付いていく。そして変身を解除し、鎧の中から彩も知る元の眠そうな紅色の少女の姿が現れていた。

 

「ふぅ……疲れた……」

 

「あ、え、愛音ちゃん……だよね?」

 

「いかにも……たこにも……」

 

「そこ、ボケるタイミングじゃないよね?」

 

「……照れる」

 

「褒めてないし……」

 

 彩が今目にしているのは、以前にも会った何を考えているか分からずいつも眠そうにしている不思議な少女の姿である。しかしほんの少し前までの彼女は、人の手には余る異形の群れを相手に黄金の鎧を身に纏い、そして獣の如く荒々しく戦場を駆け巡っていた紛うことなき戦姫であった。普段の眠そうな彼女の態度からはまるで想像も付かない変貌を目の当たりにして、彩がそれらを同一人物なのかと疑ってしまうのは至極当然のことであった。

 

「愛音ちゃん普段は大人しいのに、さっきも人が変わったようにあんなに戦って……」

 

「ああ……よくあるやつ……」

 

「よくあるやつなの!?」

 

「……とおもーじゃん?」

 

「もう〜! 結局どっちなの〜!?」

 

 マイペースな愛音の回答に振り回されて頭を抱え、彩の苦悶の声が辺りに響いていく。結局あの鎧と今の愛音は本当に同じ人物なのかと、そんな彩の疑問が晴れることはなかった。愛音とは確かに友達になったが、それでもまだまだ彼女に対しては知らないことが多すぎる。不適に微笑む愛音を見てそれを切に感じた彩であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふえぇ……何……今の……?」

 

 

 しかしそんな彼女たちの様子を遠くから見ていた少女がいることなど、その時は誰も気付くことはなかった……。




キバの戦闘を見ていた少女とは……?
次回もお楽しみください。

アンケートは次回投稿時までです。

次の中であなたの一番好きな戦闘シーンは?

  • 第9話(キバ初戦闘回)
  • 第29話(イクサ初戦闘回)
  • 第57話(ドガバキフォーム回)
  • 第67話(ライジングイクサ回)
  • 第100話(エンペラーフォーム回)

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