ボーカルでヴァイオリニストな彼は   作:春巻(生)

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『キバに変身した麗牙はその圧倒的な力で怪物を倒す。麗牙はリサに自分も同じ怪物だと告げるが、リサは麗牙を拒絶することなく受け入れた……なのになんでオレ様はダメなんだァァァ!!』

「それは何というか、ご愁傷様」


第10話 彼の家は竜の城:前編

「あっ! おーいリサー! ここだよー!」

 

 巨大な高層マンションの麓で、アゲハが腕を大きく振り回して飛び跳ねながらアタシを呼んでいた。太陽が地面のタイルに反射してキラキラと輝き、その中心にいるアゲハまでも輝いているように見えた。

 

 あれから……アタシが麗牙の正体を知ってから四日が過ぎた。早いものだと言う人もいるかも知れないけど、アタシからすれば過去類を見ないほど長い四日間だった。あの夜にアタシが見た異形について、麗牙の纏った鎧について、蝙蝠お化けについて……麗牙には聞きたいことが沢山あったのに、それを教えて貰える時間が今日までなかったのだから。誰が見てるかも知れないのに電話やメールで教えてくれるはずもなく、結局アタシは麗牙が招待してくれた今日まで待ち続けるしかなかった。

 

 そうしてやっと今日──土曜日の午後、朝Roseliaの練習が終わった後の時間。昼食を取る間も無く、アタシは逸る気持ちを抑えきれずに彼が伝えてくれた場所へと走り出していた。

 そして今、私の目の前には立派な高層ビルが聳え立っていた。「ドラクルタワーレジデンス」と呼ばれるその高層ビル──いや高層マンションは、普段の自分の行動範囲からは少し遠めの場所に立ち構えていた。だけどアタシたちの通う高校からもその姿を見ることが出来るほど巨大で立派な建造物で、もちろん住んでる人なんてみんなお金の持ってる人ばかりかと想像していたくらいだ。

 そんな、いつも見ているけど関わることなんてないだろうって思っていた場所に呼ばれて、その件に関しても少しだけワクワクしていたりした。まあ、麗牙の話を聞ける楽しみに比べたらほんの僅かなワクワクなんだけどね。

 

 さて話を戻そう。アタシは確かこのビルの一階に来るように麗牙に言われたはずだった。だから当然そこにいるのは……アタシを待ち受けているのは麗牙だと思っていた。

 

 そこにいたのがアゲハである。正直、昨日も会っていただけに衝撃は大きかった。

 

「えっ、アゲハ? どうしてアゲハが……?」

 

 昨日学校で話した時はこんな事、うんともすんとも言ってくれなかったのに。アタシが困惑したまま立ち尽くしていると、アゲハは可愛らしくとことこ走ってきて、アタシの手を掴んで歩き出した。

 

「ごめんね、でも麗牙は今まだ忙しいから。だからそれまでアタシが案内してあげるっ」

 

「あ、案内って……アゲハが?」

 

「うん。だってここ、今は私の家でもあるからさ」

 

 あーそう言えば前にアゲハ言ってたっけ。ベースのJIROさんや愛音も、みんな同じ場所で暮らしてるって……そうそう、確かシェアハウスみたいな感じって言ってたっけ。愛音は最近の麗牙はここに帰ってはこないって言ってたけど、彼がここに招待した以上今日はいるんだろうな。

 けどまあ、麗牙が普段一人暮らしをしてる家に招待してくれなかったことに関しては思うところが無いわけでも無いんだけどね……。

 

「……ん? 忙しいって?」

 

 そりゃあ実家に帰ってきたら忙しいことも多いだろうけど、ならわざわざ出迎えをアゲハにさせるだろうか。アタシと同じで如何にもな世話焼きオーラがプンプン漏れているアゲハでも、そのくらいなら麗牙にやらせるはずだし……。

 

「それはね、今から見にいけば分かるよ」

 

 アタシたちはマンションの屋内に入り、そしてエレベーターの扉の前に立ったアゲハを見て、アタシは上の階に上がるためのボタンを押すのかと思っていたけどそれは違った。彼女は扉の横のボタンには触れることなく、その扉に手のひらを当てた。

 

「えっ……(またステンドグラスの?)」

 

 その瞬間、エレベーターの扉一面がステンドグラスのように色鮮やかに彩られた。あの蜘蛛の怪物や麗牙の顔に浮かんだものと同じようなあの模様。それが扉にも表れたということの意味を、アタシは何となくだけど察してしまった。

 

「さ、行こっ」

 

「……うん」

 

 開いたエレベーターの中は普段見るものと変わりない(とはいえ絨毯が敷かれて全面鏡ばりだったりと色々豪華な)内装だった。一足先に中に入り、アタシを誘うアゲハ。彼女に対して思うことはあるけど、アタシは今更躊躇うことはなかった。アゲハに続いてエレベーターの中に入り、その重い扉が閉じられた。

 

「……」

 

「あれ? アゲハ、ボタン──きゃっ!?」

 

 扉が閉じられてもアゲハは一向にボタンを押す気配はなく、アタシが声をかけようとした瞬間に突如エレベーターは動き出した。これまでいろんな驚くことに遭遇してきたけど、持ち前の臆病さを克服出来るかと言われるとそうでもなく、アタシはそんなわずかな現象にすらビクッと身体が震えてしまう。だけどエレベーターの狭い個室で二人きりというこの状況は、アタシがこの話を切り出すにはちょうどよかった。

 

「……ねぇ、アゲハ」

 

「……なぁに?」

 

「アタシ、アゲハにも聞きたいことがあるの」

 

「うん……なんかそんな気がしてたなぁって」

 

 そう言ってアタシの顔を見るアゲハの顔は以前見た麗牙のそれとは違い、悲しみの色も憂いの色も浮かんではいなかった。だけどそれは逆に言えば、何の感情も読み取れないとも言えた。喜怒哀楽、そのどれもが彼女の表情にはなく、彼女の気持ちがまるで分からなかった。

 あの時に麗牙の心の音が聴こえたのも、彼の演奏を聴いた直後でそれがずっとアタシの心に残っていたからで、今の自分は誰かの心の音を聴けるわけじゃない。

 だから今のアタシは彼女にどんな言葉を投げかけるのが正解かは分からなかった。それでもとアタシは自分を奮い立たせて、出来るだけ彼女を傷付けないように声をかけようとした。

 

「アゲハ。もしかしてだけど、ひょっとしてアゲハも──」

 

「着いたよ」

 

「──え?」

 

 質問の核心の部分がアタシの口から出て来る前にエレベーターが止まり、扉が開こうとしていた。もしかしてあまり高層の階じゃなかったのかな? とアタシが思っていると、それを読んだようなアゲハの声が届いた。

 

「ようこそ、このマンションの最上階へ。そして──」

 

「っ──(なに……これ……)」

 

 エレベーターの扉が完全に開き切った時にアタシの眼に映った光景、それは──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──我らの城へ。歓迎します、今井リサ様。本日は我らがキングのお客人として丁重にお持て成しさせていただく所存にございます故、どうか気を楽にお過ごしくださいませ」

 

 

 ──急に別人のように余所余所しくなったアゲハと、そして映画の中に入り込んだかのような、巨大なシャンデリアが天井から吊るされた広大な洋風の屋敷の玄関だった。目の前には広い石段積みの階段が続いており、部屋のあちらこちらに火の灯った燭台がかけられている。とても高級そうな絵画や彫刻が所狭しと並べられており、如何にも格式高い空間だと言わんばかりの荘厳さだった。

 本当にここは高層マンションの中なのだろうか? 今は本当に昼間なのだろうか? そもそもここは本当に日本なのだろうか? アタシは外見には収まりきらないほど広く、妙に薄暗い空間を見て疑問に思っていた。

 

「って、それよりもアゲハどうしちゃったの!? アタシ、別にアゲハにそんなにしてもらうような人じゃ──」

 

 そう、そんなことより問題はアゲハだ。今のアゲハはアタシが今まで見たことのないくらい畏まって、それどころか顔を伏せてアタシに向かって一礼をしたまま全く動かずにいた。突然、まるで人が変わったように静かになった彼女が逆に心配になってしまい、さっきまでアゲハに対して抱いていた懸念なんてものは既に抜け落ちてしまっていた。

 

「いえ、いえ違うのです。本日(わたくし)めはキングよりリサ様をもてなすよう仰せつかった身。よって本日は『羽畑アゲハ』という個人ではなく、キングの忠実な(しもべ)として──『ビショップ』として、貴女をご案内させていただきます」

 

「ビ、ビショップ……?」

 

 確かこれも前にアゲハがチラッと言ってたような気がするけど……いや、そもそもキングって何なの? しもべってどういう意味なの? 何が何だか分からず混乱する頭でどの質問からしていいかなんて分からず、アタシは頭を抱えてしまう。

 

「ここでは客人と話し続けるには相応しい空間ではありません。こちらへとご案内致します」

 

「は、はい……」

 

 アゲハにつられて自分まで敬語になってしまった……。アゲハがこうなっている以上、頼れるのは麗牙しかいない。アゲハが頼りないとかそういう問題じゃなくて、この妙に重々しく感じる空間の中で心休まる時間が欲しいだけだ。

 

「ね、ねぇアゲハ。麗牙とは会えないのかな?」

 

「我が主より、執務の最中ですが部屋に通すように仰せつかっております。ですので今から拝謁できると考えてもらって構いません」

 

「そ、そうなんだ……」

 

 とりあえず今から麗牙と会えるようでほっとした。アゲハは相変わらずの固い態度を欠片も崩そうとはしないけれど……。それにしても執務って、一体何をしているんだろうか。もうこの時点で彼が普通の高校生でないことは十分に理解はしている。それを差し置いても一介の高校生が「執務」だなんて……。そもそも「キング」ってアゲハもあの怪物も言っていたけど、それの意味するところをアタシは未だ理解できていない。

 

 ──キング……そのままの意味だと王様だけど……まさかね?

 

 

 

 

 

 

 赤い絨毯が一面に轢かれた廊下や階段をいくつか渡り歩いて、アタシたちはようやく一つの扉の前に辿り着いた。アゲハが立ち止まったことからも、そこが目的地なのだとすぐに察することができた。そう、この中に麗牙が……。

 

 そう思っていたところで、中から何かの話し声が聞こえてきた。

 

 

 

 

『ナイトとポーンから────闇────修復────パーセントで予定より────Ⅱ世とタツロットの────共に────、ただし未だ昏睡────』

 

『確かにあの────大分無理させ────ね。今度────―』

 

『その方が────ろう』

 

 

 

 

 聞き間違えることはない。この話し声の片方は間違いなく麗牙だ。その声に安堵を感じていたアタシなど露知らず、アゲハはアクションを起こしていた。

 

「失礼致します。キングのご客人がお越しになりました。お部屋にお通ししてもよろしいでしょうか」

 

 その扉をアゲハはノックして、大きくなりすぎない声で扉の向こう側にいる人たちに告げる。すると部屋の中から、アタシがずっと聞きたかったあの声が今度はしっかりと響いてきた。

 

「あっ、もうそんなに時間が……うん、ありがとう。二人とも入ってきて」

 

「はい、失礼致します」

 

 麗牙の声が返ってきたことを確認すると、アゲハが扉をゆっくり開き、そして部屋の全貌が明らかになる。相変わらずシャンデリアや燭台に絵画や彫刻など、この屋敷(もうマンションの一室だと思いたくないから屋敷と言うことにしておきたい)内でずっと見てきたのと内装はほとんど同じだったけど、意外にもその部屋は大きくはなかった。学校の教室と同じくらいの広さの空間で、その最奥にポツンと木製の大きな執務机が設置されていた。

 

 そしてその机の周りを三人の男の人が取り囲むように……いや、守護するように立っていた。

 

 一人は見たことがある。TETRA-FANGのベース担当を務めているJIROさんだった。今日はライブで見たようなジャケット姿ではなく、タキシードを崩した状態で着流していた。だけどその立ち姿はベースを構えているときのワイルドなものではなく、背筋をびしっと伸ばした正にできる執事のような振る舞いであった。三人の男で最も机の椅子に座る主に近い位置で、アタシの方をじっと……まるで値付けしているかのような目で見つめていた。

 

 一人は見た目はアタシよりも年下な感じの男の子。セーラー服にハーフパンツという変わった格好が印象的で、一瞬女の子かと思うほど可愛らしい顔立ちをしていた。そしてその立ち振る舞いはJIROさんと違って自由だった。机に手をかけて体重を僅かに載せて、退屈なのか足をトントンと床に何度も打ち付けながらアタシの方を興味深そうな目で見ている。正に「無邪気」と言った言葉が似合いそうな子だった。

 

 一人は巨大な男。燕尾服をピシッと着こなし、髪の毛をオールバックにした長身の男。如何にも「寡黙」と言った雰囲気をこれでもかと全身から出していて、正直どこか近寄りがたいと感じてしまう。他二人よりは比較的机から離れて扉に近い位置に立っており、腕をだらんと横に垂らしたままこちらを観察しているようだった。

 

「(うわ~……三人ともすっごくアタシの方見てるよぉ……)」

 

 大勢に見られる分にはライブで慣れているから特に問題はないはずだけど、目の前の三人の場合はそれが普通の視線とは思えず、ちょっとビクついてしまう。ここで変な行いをすればその場で殺されてしまうのではと思ってしまうほどだ。そんなアタシの助けになるのが、今も執務机の中央に座る存在──麗牙だった。

 

「ごめんリサさん。もうすぐ終わるから、そこのソファで座って待っててもらえませんか」

 

「え? うん……ぁ、ハイっ」

 

 目の前の三人のせいか、ここで溜口を使ってはいけないという気にさせられて、つい麗牙に対して敬語で言い直してしまった。そしてアタシがアゲハに連れられて部屋のソファに腰を掛けると、男たちの視線がアタシから逸らされていき、ようやく息を落ち着かせることができた。

 

 そして肝心の麗牙だったけど……。

 

 

 

 

「ごめん次狼、止めちゃって。次は──」

 

「ああ、ホビット族の独立記念式典の件。この日は──」

 

「うん……出席は難しいかも。申し訳ないけど祝辞それと──を──」

 

「──次は……ちっ、また面倒な──」

 

「ゴブリン族ってまだこんな──」

 

「そういう連中だからなアレは。誰かしらを派遣──」

 

「そうだね。とりあえず──」

 

「この稟議──出るか──」

 

「いやこれ──だから──」

 

「──」

 

「──」

 

 

 

 

「……はぇ~……(麗牙、なんかバリバリ働いてる……)」

 

 時折頭を抱えながら書類と向き合っては立ったままのJIROさんと話を交えて、ペンを走らせたり印鑑を押したり……その繰り返しが目の前で行われていた。そんな麗牙の姿は高校生ではなく、もはや完全に社会人のそれだった……まあ、実際に見たことないからよく知らないんだけどねっ。これもまたアタシの初めて見る麗牙の顔で、でもやっぱりカッコよくて頬を緩ませてしまう。頑張る人って誰であってもカッコいいもんねっ。

 

 そう言えば一つ、この光景の中で気づいたことがある。現代の執務室として足りないものがあるような気がした。それは……。

 

「(っていうか、パソコンって無いのかな?)」

 

「はぁ……パソコン欲しい……」

 

「(やっぱり思ってたんだ!?)」

 

 送られてくるもの全てが紙の書類で、電子機器の類が一切ない執務室の上で麗牙は疲れたように呟いていた……。

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

「ごめんなさいリサさん! まさかこんなに長引くなんて思わなくて……」

 

 結局リサさんが執務室に入ってきてから二十分後に僕はこの机から解放された。椅子から立ち上がって身体を伸ばしていると、次狼以外の二人が僕に丁寧に一礼をして部屋から去っていく。それを見てから僕は即座にソファから立ち上がったリサさんの元へと歩き出し、そして待たせてしまったことに対して頭を下げて謝罪していた。

 

「いやいやいやっ、そんな頭下げないでって。なんか分かんないけどここで麗牙にソレさせるのヤバイ気するから」

 

「別にヤバイなんて……悪いことしたんだし謝るのは当然だから」

 

「それはそうなんだけどね。あはは……」

 

 でも確かに、僕が人間であるリサさんに頭を下げることを快く思わない連中が全くいないわけでもない。今ならともかく、昔の時代ならリサさんの命は危なかったかもしれない。だけど今の時代でそんなことはないし、もしそんな連中がいるなら僕が許さないまでだから。

 

「あの、それより麗牙。今のアゲハのことなんだけど……」

 

「アゲハがどうか?」

 

「なんか……急にメイドみたいに畏まっちゃったっていうか、これがどういう状況か分かんないんだけど……キングの(しもべ)だとかビショップがどうとかって……」

 

「……え?」

 

「キング、お忘れですか? 本日の朝のことです」

 

 僕のことをキングと呼ぶアゲハ。そして彼女が自身のことをビショップを呼ぶ時は、彼女が僕の忠実な右腕として行動する時だけだ。そんな態度をリサさんの前で取ることなんてありえないし、僕だって命令したりしない。

 

 全く身に覚えがない……そう言おうとしたところでアゲハの言葉が待ったをかける。今日の朝? 僕はその言葉に従って記憶の糸を辿って行った。

 

 

 

 

『麗牙、今日ってリサ来るんだよね? どこまで話すつもりなの?』

 

『とりあえず僕たちの一族のことと、十三魔族のことは最低でも。あとはリサさんの質問に会わせて僕の裁量次第かな』

 

『一応不安だから私も隣にいていい?』

 

『もちろん』

 

 朝、執務が始まる前のアゲハとの会話だ。リサさんが来ることの確認の話をしていて、ここまでは普通の会話だったはずだ。じゃあどこで……?

 

『麗牙。そこまで信用できる存在か? 彼女は』

 

 そうだ、そこで次狼が話に加わってきたんだった。まだ会ったことのない彼女を、次狼は少しだけ警戒していたからだ。リサさんにそんな心配する必要なんてないんだけどなぁ。

 

『信用してるよ。彼女は僕のことを、人間じゃないって知っても受け入れてくれた。こんな嬉しいことはないよ。これは僕個人としても、キングとしても、是非とも招待したいと思ってる』

 

 ああ、そういえばここで「キング」って言っちゃってるなぁ……。でも確かに異種族の交流として必要なことだとは思ってるけど、それも言い過ぎなのだろうか……。

 

『……そうか、そこまでか』

 

『うん。アゲハも頼むよ? 正直、ちょっと格好つけたいって思ってるし』

 

 あの時の嬉しさを思い出してか、少しだけ舞い上がっている自分がいた。いい気分になっていると、自分が何を言っているか分からない時があるって次狼が言ってたことがあるけど、多分その時が近い状況だったんだろう。

 

『だからアゲハ。キングとして(・・・・・・)、リサさんの招待は丁重に行いたいんだ』

 

『麗牙、でも──』

 

『頼むよ。絶対に』

 

『……キング……仰せのままに』

 

 

 

 

 

「──あ゙……あぁ~……」

 

 思い出した。完全に『キングとして』アゲハに『命令』してしまっていた。浮かれていたとはいえ、自分の言葉の重みを軽視していたことを自覚して茫然としてしまい、僕は口を半開きにして天井を仰ぎ見た。

 

 ──訂正しなければ。

 

「アゲハごめん! キングとして命ずる。いつものようにリサさんと接してあげて!」

 

「…………ハァァァ~~~~~~~~…………」

 

 僕が命令を更新すると、アゲハの口から何度も聞いたような長い長い溜息が生み出されていた。長いこと俯いてようやく上げたその顔は、いやに笑顔だった。

 

「リサ、今までごめんね。あと、もうちょっと時間ちょうだい。すぐ戻ってくるから」

 

「え? う、うん……ん? アゲハ、戻ってくるって──」

 

「麗牙……ちょっと部屋変えようか……?」

 

「……はい」

 

 その後、僕はアゲハに別部屋に連れられてボロクソに説教されることになったんだけど、正直内容まで語りたくない。『自覚が足りない』とか『取り返しのつかないこともある』とか、その他諸々の事実と正論にただただ打ちのめされていたから。

 とりあえず自分の教訓の中に、言葉選びにはもう少し慎重になろう、という言葉が追加されたとだけ言っておく。

 

 因みにアゲハの怒鳴り声は、執務室で待っているリサさんの元まで聞こえていたとかいないとか。




アゲハさん、麗牙がミスに気付いていないと分かってて初めから怒る気でやっています。
彼女なりの愛の鞭とでも思ってくれれば……。
そんな「麗牙の言葉の重さ」の意味することとは……?

後編に続きます。

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