ボーカルでヴァイオリニストな彼は   作:春巻(生)

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『黄金のキバを見に纏い、レジェンドルガを倒して彩を救い出した愛音』

『しかしなんとっ、その様子を一人の少女が見ていて……?』


第107話 妹蝙蝠(キバーラ)ちゃん見参

「これで大丈夫かな……」

 

 授業も終わり皆も教室からいなくなった放課後の花咲川女子学園の教室で、わたしは今し方書き終えた原稿を手に取って読み返していた。何の原稿かと言うと、今週末に行われる生徒会長立候補のための挨拶の原稿だ。そう、今わたしは花女の生徒会長になるべく行動を起こしていた。と言っても前生徒会長からの推薦であり候補者もわたし一人だけだから、他に競争相手がいるわけではない。それでも母校の生徒会長に就任しようというのだから、稚拙な内容の原稿で皆に不信感を与えるわけにはいかない。故にわたしは、こうして真剣に挨拶の内容を熟慮していた。

 

「どう……思いますか……?」

 

 そしてわたしは、この教室で自分の原稿を見つめるもう一つの存在に向けて声をかけていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……キバーラさん」

 

『う〜ん……生徒に向ける挨拶としては充分だと思うけど……欲を言うならもう少し目標を具体的に明示した方がいいと思うわね』

 

「やはり……そう思いますよね……」

 

 わたしの顔の横で翼をパタパタとはためかせて飛んでいる小さな白い存在。赤い目を持ちキバットさんと同じような形をしているけれど、翼は小さいし耳は丸く、高い声で話す小さなキバット族の女の子がそこにいた。

 

 彼女の名前はキバーラ……麗牙さんたちと共にいるキバットさんの妹さんだ。

 

 何故彼女がわたしと共にいるのか、それは昨日にまで遡る。

 

 

 

 

 先日のTETRA-FANGのライブの後、麗牙さんはわたしを再びキャッスルドランへと招いていた。あの荘厳な造りの廊下を、彼の後にピッタリとついて歩いていき、やがて麗牙さんは一つの部屋の前へと辿り着く。そして扉をノックし、中にいると思しき人物へと声をかけていた

 

『キバーラ。入ってもいい?』

 

『麗牙! ええ、いいわっ。すぐ開けるわね』

 

 女性のような、しかし嬉々とした少女のような明るい声が扉の向こう側から聞こえて来る。しかし開けると言いながら足音らしき物音は聞こえず、わたしたちは静かな空間の中で扉が開くのを待っていた。そしてガチャリと鍵の開く音と共に扉が開けられ、その部屋の主をわたしは初めて目にすることになった。

 

『もう〜言ってくれれば迎えに行ったのに……ってあら? ねぇ、麗牙。その子って……』

 

 そこにいたのは白いキバットさんのような蝙蝠だった。彼よりも一回り小さく、忙しなく翼をはためかせる姿は愛らしさを感じるが、それでも初めて会う相手にそんな失礼な感想を抱くわけにもいかず、わたしを視界に入れた彼女(?)に会釈を返す。そして麗牙さんがわたしの紹介を伝えようとしたけれど……。

 

『前にも伝えたけど、彼女が白金燐子さん。目の前で言うのは恥ずかしいけど、その……僕のか──』

 

『ああ! その子が麗牙の婚約者ね!!』

 

『──へ?』

 

『こ、こんやく……しゃ……?』

 

 白いキバットさんの言葉にわたしの頭は宇宙の彼方に放り出されたような浮くような感覚に襲われる。婚約者? 確かにわたしは麗牙さんの恋人で間違いないし、将来も誓ったけれど……それを婚約とは正直まだ実感できていない……わたしたちまだ高校生だし。

 

『だってだってっ、将来を誓い合ったんでしょう? 共に生きるって抱きしめ合ったんでしょ。それってもう婚約も同然じゃない! キャー! 本当にキュンキュンしちゃうわ二人とも!』

 

『えっと……その……』

 

 目の前で興奮して飛び回る小さな白色に頭が追い付かない。何故彼女がわたしたちの結ばれた経緯を知っているのかは疑問には思うけれど、彼女の言葉を聞いて確かにあの時の麗牙さんの言葉はプロポーズそのものだったことを思い出す。もちろんそれを受け入れたことは間違いじゃないし取り消すつもりもない。しかし、となれば確かにわたしは彼の婚約者ということになるのだろう。ただの恋人ではなく、将来を誓い合った婚約者……そう思うと途端に顔が熱くなって、そして顔がにやけて変になってしまいそうだった。

 

『婚約者……麗牙さんの……ふふ……』

 

 悪い気はしないどころか、改めて嬉しくなってしまう。好きな人とずっと共にいられる、そんな約束があるという事実が嬉しくて、そして心強くて周りに自慢したくなってしまう。もっとも、恥ずかしくて大っぴらに自慢なんてできないんだけど……。

 

『ああ、ごめんなさいね。私はキバーラ。キバットバット三世の妹、と言ったら分かるかしら? よろしくねっ、燐子ちゃん』

 

『は、はい……白金燐子です……よろしくお願いします……』

 

 麗牙さんがキバに変身するときに仕えていた蝙蝠──キバットさんの妹と名乗る彼女にわたしも挨拶を返す。満足そうに頷く(と言うより空中で身体を上下させている)キバーラさんを見て、受け入れられているのだと自然と感じられてわたしも安堵していた。

 

『ふふ、可愛いわねぇ燐子ちゃん。ささっ、入って入って。ずっと廊下で話すのも悪いわ』

 

 そう言う彼女の言葉に甘えて部屋に上がり、わたしたちは部屋に備えられた客用の椅子に腰をかける。席に着き、キバーラさんがわたしたちと向かい合ったところで麗牙さんは彼女に話を切り出していた。

 

『それでキバーラ。大事なお願いがあるんだけどいいかな?』

 

『ええ、いいわよ麗牙。向こうから帰ってきたばっかでちょうど退屈してたから』

 

『向こう?』

 

『私ね、ちょっと前までここを離れて欧州にいたのよ。まあ、留学みたいなものね』

 

 道理で以前この城を案内された時に紹介されなかったわけだと納得する。しかし大事なお願いとは何なのかと、ふと思う。わたしを連れてここまで来た以上、わたしに関わることなのだと自ずと推測出来てしまうけれど……。

 

『それで、麗牙のお願いって何かしら?』

 

『うん。キバーラ……今後、日中の間だけでもいいから、燐子さんの側に付いていてくれないかな?』

 

『え……?』

 

 麗牙さんのそんな提案に思わず声を発したのはわたしだけだった。付いていて、とは? そのまま、キバーラさんがわたしの側にずっといるということ? 麗牙さんとキバットさんのように? 彼の言葉の意味がまだ理解出来ず呆気に取られているわたしだったけど、キバーラさんは静かに、そして真剣に彼の言葉を聞き続けていた。

 

『またいつ燐子さんが狙われるか分からない。燐子さんだけじゃない、今日だって別の子がレジェンドルガに狙われた。レジェンドルガは燐子さんや友希那さんのように魔皇力を持つ人間を狙っている。羽丘は愛音やアゲハがいるから対処はできるけど、花女には誰もいない。もし授業中の真昼間から襲われたら僕も間に合わないかもしれない。だからキバーラ……』

 

『ええ、いいわよ』

 

『え、早っ……』

 

 順を追って彼女に理由を説明して納得してもらおうと長い説明をしようとしていた麗牙さんだったけど、なんと二つ返事でキバーラさんは応えていた。あまりの分かりの良さにわたしと、そして麗牙さんも少し驚いてしまうほどだ。

 

『要はみんなが心配なんでしょ? 何より燐子ちゃんことが』

 

『うん』

 

『私は構わないわよ。何せ、燐子ちゃんは将来のクイーンだものねっ。絶対に守らないと』

 

『クイーン……?』

 

 クイーン……つまりは女王。わたしのことをそう呼ぶキバーラさんに反応してしまい、つい間抜けな声が出てしまう。だって似合わなかったから……わたしが「女王」だなんて……。そんなわたしの心を感じ取ったのか、キバーラさんはわたしの顔の前に躍り出て確認を取るように話しかけてきた。

 

『麗牙はファンガイアのキングでしょ? ならそのキングの伴侶はクイーンで当然じゃない。もしかして燐子ちゃん、そういう自覚は無かったのかしら?』

 

『確かに……そういえば……そうだなって……』

 

『あらら〜……』

 

 そうだ。もうずっと分かっていたつもりだったけど、麗牙さんはファンガイアの王様だ。その事実はずっと忘れずに心に留めていたはずなのに、どうしてそんな彼と結ばれた後のことを考えていなかったのか。王様と結婚すればそれは女王様以外に呼びようがない。そんな基本的なことを失念していた自分が軽くショックになり、思わず頭を抱えてしまった。

 

『っ、燐子さん……あの、もしかして……嫌だとか──』

 

『そんなことない!』

 

『──っ!?』

 

 不安そうな目でわたしを見つめる麗牙さんの言葉を否定したくてつい叫んでしまう。もしかすると女王が嫌で、麗牙さんのお嫁さんになりたくないと思わせてしまったのかもしれない。もちろんそんなことはないけれど、彼にそう思われたのかもと思うと怖くて必死に声を上げていた。だけどわたしの大声が予想外で麗牙さんを驚かせてしまったようで、わたしもバツが悪くなってしまうけれど、早く誤解を解きたくて直ぐに言葉を続けていた。

 

『はっ……ご、ごめんなさい……わたしが女王だなんて……考えたことなかっただけで……麗牙さんの隣が……嫌だとか……そういうわけじゃない……から……』

 

『燐子さん……』

 

『ほ〜ら麗牙、そんな深刻な顔しなくていいの。相変わらず心配性なんだから。それよりも、燐子ちゃんはいいの? 半日も私がずっと側にいて、堅苦しくなったりしない?』

 

『わたしは……大丈夫ですけれど……キバーラさんは本当にいいんですか……? わたしや他の子が危ない目に遭って……助けてもらっても……』

 

『まあそこはね、ほら、ご主人様の命令だし?』

 

『一応はお願いなんだけどね……』

 

 そうは言うものの、キバーラさんの口調からは面倒臭さは感じられず、それよりもどこか楽しげなようにも感じられる。こんな小さな身体でわたしたちを守ってくれるのかと思うと、申し訳なさが生まれないわけではない。麗牙さんの好意は嬉しいけれど、無理をさせないかと思ってしまう。それでもキバーラさんは、麗牙さんのお願いを聞き届ける気満々で張り切っていた。

 

『それにいざとなったら……ね。アレもあるし』

 

『できればそんなことは無いようにしてね』

 

『アレ?』

 

『ふふっ……ファンガイアの女王のために用意されたものだから、別に燐子ちゃんが使っても問題無いんだけど……麗牙が嫌ならそうしておくわ』

 

『?』

 

 彼女にはまだ何かあるみたいだけど、結局わたしにその詳細が教えられることはなく、その場は解散となった。

 

 

 

 

『あ、麗牙さん……実はわたし……生徒会長……やってみようと──』

 

 もちろん帰り際に、彼にそのことを伝えるのを忘れずに……。

 

 

 

 

 

 

 

 

『未来の女王が生徒会長ねぇ……素敵よね、そういうの』

 

「そう……ですか……?」

 

 そして今に至る。わたしの護衛件わたしのような体内に魔皇力というものを持つ人をレジェンドルガから守るため、この花女に送り込まれたのがキバーラさんと言うわけだ。現在、麗牙さんが把握している花女の生徒でレジェンドルガに狙われ得るのがわたしと、そして同じクラスの丸山さん。この二人を中心に見張ってくれるそうだけれど、その他にも何かあれば彼女は動いてくれるのだという。自分ために動いてくれる分申し訳なさもあり、できればそんなことがないように願っているんだけどね……。

 

 しかしとりあえず今は自分のことを進めなければと、再び原稿の手直しに取り掛かろうとした時、わたしとキバーラさんだけの教室に新たな声が響いていた。

 

「どうですか白金さん」

 

「あ、氷川さん……」

 

『マズっ』

 

「ん? 今、何かいませんでしたか?」

 

 わたしの原稿の進み具合が気になって様子を見に来てくれた氷川さん。しかし部外者が来たと思ったキバーラさんは直ぐ様わたしの鞄の中に飛び込んで身を隠してしまった。その瞬間を見逃さなかった氷川さんにキバーラさんの焦る声が聞こえるも、それが杞憂だと知っているわたしは、落ち着いて彼女に伝えていた。

 

「大丈夫ですよ……彼女も知っていますから……」

 

『え、そうなの? な〜んだ焦って損しちゃった〜』

 

「え……白い……キバットさん……?」

 

 初めて目にするキバーラさんに氷川さんの目をが見開かれ、じっとその姿を観察していた。

 

『初めまして。そのキバットの妹のキバーラよ。よろしくねっ』

 

「妹さん……あ、失礼しました。氷川紗夜です。白金さんと同じRoseliaという──」

 

『あーあー! あなたが紗夜ちゃんなのね!? もちろん麗牙から聞いてるわよ! 何々〜? あなたも何かすっごい大恋愛しちゃってる感じじゃない? もっと詳しくお姉さんに聞かせてよ〜!』

 

「えっと……え……?」

 

 麗牙さん、一体キバーラさんに何と言って氷川さんのこと説明したんですか……氷川さんも反応に困って固まっているし……。今はそれを知ることは叶わないけれど、ともかく今も嬉々として氷川さんの周りを飛び回るキバーラさんを宥めようもした。

 

「キバーラさん……他の人の来るかもしれないから……落ち着いてください……」

 

『確かにね……あ〜……でも手遅れみたいよ?』

 

「え?」

 

 キバーラさんの言葉で再び廊下の方に目をやると、そこには不思議なものを見るかのような目をしてこちらを眺める丸山さんと白鷺さんの姿があった。一瞬やってしまったと焦ったけれど、そこにいた彼女たちも麗牙さんや魔族の事情を知っている人たちであるため、彼女たちを見た途端に胸を撫で下ろして安堵していた。

 

「燐子ちゃん? 紗夜ちゃん? えっと、その……人? って?」

 

「丸山さんと白鷺さんっ? こ、これはその……」

 

「氷川さん……二人とも……もう知っています」

 

「はい?」

 

 恐らく二人が既にキバや魔族のことについて知っていることを知らない氷川さんに軽く事情を説明する。先日に麗牙さんが目の前で変身し、その後に魔族についての説明を施されていること。故にキバーラさんの存在を知られても問題ないことを。

 

「そ、そうだったのですね……ですが、二人はまたどうして教室に?」

 

「それは……あはは……机の横に別の鞄もかけてあるの私忘れちゃってて……」

 

「私は帰り際に彩ちゃんとすれ違って、その付き添いよ」

 

 丸山さんは事情説明しながら自分の机にかけてある鞄を持ち、わたしたちの元へと歩み寄ってくる。当然、その興味はさっきまでわたしの目の前で羽ばたいていて、今はわたしの机の上に立つキバーラさんに向けられていた。

 

「でも、その白いキバットさん? みたいなのって……?」

 

『ふふっ。そのキバットの妹のキバーラ、気軽に『キバーラちゃん』でもいいわ。よろしくね、彩ちゃん』

 

「え? どうして私の名前を? も、もしかして私、えっと……キバーラちゃんたちの間でも有名に──」

 

『あなたも燐子ちゃんと同じで庇護対象だから、私も顔と名前くらいは把握しているわよ』

 

「……有名……ってわけじゃないんだね……」

 

「それよりも、庇護対象ってどういうこと?」

 

 何かの期待を裏切られたのか丸山さんは軽く項垂れているが、白鷺さんはキバーラさんの言葉に直ぐに反応して問い質していた。それは氷川さんも同様で真剣な表情を浮かべ、またすぐ立ち直った丸山さんも含めて皆がわたしの机を囲むように立ち、机の上のキバーラさんに注目していた。

 

『え? やだやだな〜に〜? 私そんなに見つめられると照れちゃう〜』

 

「キバーラさん。白金さんや丸山さんが庇護対象というのはどういう意味なのですか?」

 

『あれ? 麗牙はまだそこのところちゃんと説明していないのかしら?』

 

「それは……昨日の今日ですし……」

 

『仕方ないわね。じゃあよ〜く聞いていてね』

 

 キバーラさんは、昨日の麗牙さんの言葉を氷川さんたちにも説明し始めた。レジェンドルガという種族が、魔皇力と呼ばれる力を持つ人間を狙っていること。その魔皇力を持つのが、この学校でわたしと丸山さんだということ。花女に他にも魔皇力を持つ人がいるかも知れないが、現状襲われても対処のしようがないこと。そこで麗牙さんが護衛としてキバーラさんをわたしの側に仕えさせたこと。一連の話を分かりやすく伝えてくれたため、氷川さんと白鷺さんも一応は納得して頷いていた。

 

「そう言えば、昨日愛音ちゃんにも言われたかも……」

 

『昼間から襲われたら麗牙も授業中だし、間に合わないかもって言ってたわ』

 

「しかし本当に何かあったとして、キバーラさん一人で何とかなるんですか?」

 

 氷川さんの疑問はわたしも昨日思ったことだ。レジェンドルガという存在をわたしは二回しか目にしていない。しかも記憶に残っているのが、麗牙さんに深い傷を負わせたあの蛇しか知らないから、余程危険な存在なのだと思い込んでいた。そのため、そんな怪物たちに襲われて本当にキバーラさんだけで太刀打ちできるのか、それだけが心配になっていた。

 

『まあ、どうとでもなるでしょう。いざという時の切り札もあることだし』

 

「切り札とは?」

 

『そ〜れ〜は〜……言わない方が奥の手っぽいし言わな〜い!』

 

「もしかして紅さんみたいに変身できるとか?」

 

『……』

 

「どうして黙るんですか?」

 

 薄々そんな気はしたけれど、丸山さんの呟く予想に対して固まったように無言を貫くキバーラさんを見て確信してしまう。彼女の態度がブラフでないとすれば、彼女の言う奥の手とはキバットさんと同じ変身能力だと言うこと。え? つまり……わたしも変身できてしまうということ……? 麗牙さんのように? そんな思いを抱いたのはわたしだけでなく、丸山さんも興奮したように高らかに質問をキバーラさんに投げかけていた。

 

「えっ!? じゃ、じゃあ私も変身とかできるんですか!? あ、あの黄金の鎧みたいなのに!?」

 

『あ、アレには無理よ! 黄金のキバは今はお兄ちゃんの制御下だし……それに人間がキバの鎧なんか纏ったら普通はその瞬間に死んじゃうんだから!』

 

「えっ、そ、そうなの……?」

 

 変身願望があったのか、期待の眼差しを込めて丸山さんはキバーラさんに迫る。しかし無情にもキバーラさんの答えはNOで、サラッと恐ろしいことを口にしていた。人間がキバの鎧を纏えば即死に至る。そんな恐ろしいものを麗牙さんはいつも身に纏って戦っていたのだと思うと、改めて凄いんだと感心してしまう。

 

「待ってください。それならばキバーラさんの奥の手とは……使える人がいないのでは?」

 

「イクサみたいに人間でも扱えるとか?」

 

『そ、そもそもっ、私の奥の手が、鎧と決まったわけじゃ、ないからっ……お、おほほほほ〜……』

 

「「……」」

 

 皆きっとこう思ったことだろう。「なんて分かりやすいんだ」って。明らかに引きつった顔を浮かべて汗をかきながら作り笑いをするキバーラさんに、むしろこちらの方が変な笑いを浮かべてしまいそうになる。これが演技ならとてもすごいけれど、多分素だと思う。

 

「ふふっ」

 

 でも、そんな人間味溢れる彼女だからこそ、わたしは信用したいと思えていた。恋バナが好きで隠し事が苦手な素直な女の子……それがキバーラさん。そんな彼女がわたしたちを守ってくれるというのなら、それを疑うようなことは出来なかった。わたしは、わたしたちを守ってくれるという彼女に対して改めて信頼を露わにしていた。

 

「とりあえず……これからよろしくお願いします……キバーラさん」

 

『……ええ。みんなもよろしくね』

 

 これから長い付き合いになるかも知れないが、彼女と共にいることについて不安は無かった。麗牙さんが信じて送り出した彼女のことを、わたしも信じてみよう。この小さな身体でわたしたちを助けようとする彼女を信じよう。今はそう思わずにはいられなかった。

 

 

 

 

『それより……そちらに隠れてるお嬢ちゃんも関係者?』

 

 

 

 

「えっ!?」

 

 しかし、キバーラさんからもたらされた突然の情報に皆驚愕して廊下へと振り返る。花女に在学する二年生でキバや魔族を把握している人なんて、わたしの知っている限りこの四人しかいない筈だ。つまり今隠れている子は、そんなことを知らない人……。

 

「っ!」

 

 わたしたちが一斉に振り向いたことに気付いた誰か(・・)はすぐさま駆け出し、教室から離れていってしまう。マズい。見られた。そう思うや否や、わたしたちは慌てて後を追うように廊下へ飛び出し、聞き耳を立てていた人を見つけようとする。

 

 そして見えたのは、階段を駆け下りようとする、わたしたちの知っている一人の少女の姿だった。

 

 

 

 

「……松原(まつばら)さん?」




アンケート結果は以下の通りです。
ご協力ありがとうございました。

次の中であなたの一番好きな戦闘シーンは?

  • 第9話(キバ初戦闘回)
  • 第29話(イクサ初戦闘回)
  • 第57話(ドガバキフォーム回)
  • 第67話(ライジングイクサ回)
  • 第100話(エンペラーフォーム回)
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