ボーカルでヴァイオリニストな彼は   作:春巻(生)

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『心の内でベースへの想いが静かに蘇りかけていた愛音さん』

『そんな彼女の前に現れたのは、なんと愛音たちの昔馴染みである静歌であった!』


第110話 再演への一歩

 放課後のカフェ・マル・ダムールでは優雅なひと時を過ごそうとする客でごった返していたが、俺と花音ちゃんはそんな店内の一番奥のテーブル席に腰をかけていた。因みにパスパレの二人は仕事のため先ほど解散し、今は俺と花音ちゃんの一対一の状況だった。そして他の客に聞かれることのないような小さな声で、俺は彼女に魔族についてのあれやこれやを語っていた。

 

「ふ、ファン、ガイア……? イクサ? ふえぇ〜……?」

 

 当然と言えば当然だが、花音ちゃんの頭は混乱を極めていた。昨日までは何も知らない普通の女子高生であった子が、突然異形の存在を知り、その戦いに巻き込まれてしまえばこういう風に取り乱してしまうのが普通だ。その不幸な境遇には十分すぎるほど同情できる。

 しかし花音ちゃんの場合は少し特殊というか、取り乱し方が先ほどの時とあまり変わらないようなのだ。レジェンドルガに遭遇して命の危機に陥った時の取り乱しようと今の彼女の様子は、俺には同じに見える。花音ちゃん曰く普段からおどおどしているらしいが、もしかすると彼女はそれ以上に狼狽ることはないのかもしれない。

 

「混乱することばかりやと思うけど、全部真実や。花音ちゃんが見た通り。受け入れるまで時間かかるかもしれやんけど……」

 

「な、何をどう受け入れたら……」

 

 花音ちゃんに全てを説明し終えたが、花音ちゃんの様子は変わることなく目を回して半分泣き顔を浮かべてオロオロしていた。多少肝は座っているかのよつに思えた彼女だったが、それでも本文としては一介の女子高生。こうして説明されても狼狽え続けるのが普通なのだ。むしろこれまで自分が事情を説明してきた少女たちの分かりの良さの方が異常だったのだと、花音ちゃんの様子から改めて思わざるを得なかった。

 

「で、でも……うん……なるべく頑張って、受け入れられるようにやってみるね」

 

「……」

 

 びくついた態度は完全には消えなかったが、俺に真っ直ぐな瞳を向けて彼女は言ってくれた。揺れる瞳からは不安が見え隠れしていたが、それに負けじと強がって俺を見つめるその目が綺麗で、恥ずかしながら少しだけ見惚れてしまっていた。本当は怖いし嫌なのに強がって逃げないようにする姿に、自分たちの姿が重なって見えていたからだろうか。

 

「……健吾くん?」

 

「あ、ああ。そうしてくれると俺も助かるわ」

 

 もっと他にかける言葉は無かったのかと、咄嗟に言い返しを出来なかった自分を反省する。不安がっている彼女にこそ、曖昧な言葉でなくしっかりした言葉で安心させなければいけないのに俺は何をやっているのか。

 

 そうして目の前の少女を何とか安心させたくて、再び言葉を探そうとしていた時だった。

 

 

「マスター! おっひさー☆」

 

 

 店の扉が勢いよく開き、小さな鐘がカランカランと元気に歌う。そして店内に響き渡る、明朗快活という言葉が似合う元気な少女の声。そんな目立つ存在に向けて、店の誰もがそちらに視線を向けていた。当然俺たちもだ。

 

「え?」

 

 その声に、そしてその顔に聞き覚えがあったから、俺は間抜けな声を上げて石のように固まってしまった。ブラウンに染まる長い髪をポニーテールにまとめ、身体中から「私喧しいですよ」オーラを放つ大音量少女。間違いない、俺も麗牙も昔馴染みである少女の姿であった。

 

「あら静歌ちゃん、いらっしゃい。久しぶりだね」

 

「えーちょっとマスター反応薄ーい!」

 

「ごめんね。ああそうそう、今ちょうど健吾くん来てるけど──」

 

「えっ? あ、ホントだ。やっほー健吾☆ 無事?」

 

「いや無事って、言い方……」

 

 マスターの言葉も終わらないうちにこちらを見た彼女は先ほどと変わりないテンションで声を上げて手を振っていた。しかし「無事?」って……そこはせめて「元気?」と聞くところだろうに。何が悲しくて俺が無事でない可能性のある質問をされなければいけないのか。そんな容赦のない昔馴染みの言葉に思わず苦笑してしまう。

 

 彼女の名は、小野村(おのむら) 静歌(しずか)

 

 俺や麗牙、愛音の昔からの友人であり、そしてかつて共にバンドを組んだことでもある仲である。歳は愛音と同じで彼女とも仲の良い親友同士であるが、現在はこの街を離れて森羅(しんら)高等学校に在学している。ここまでの彼女の言動を見ていれば分かると思うが、名前に似合わず明るくて騒がしい少女である。俺としては気が合うっちゃ合うが、静かなのが好きな麗牙や愛音とよく上手くいっていたものだと今でも思うことがある。まあそれだけの明朗快活な少女だと思ってくれればいい。

 

「……えっ? は?」

 

 そんな静歌は、俺の前に座る花音ちゃんを視界に入れると、信じられないものを見たかのように目を丸めていた。そのすぐ後には面白いものを見たかのように目を輝かせて俺に迫ってきたのだ。

 

「は、はぁぁ〜? なになになにその子!? え、嘘っ!? 健吾、アンタもしかして彼女できたの!?」

 

「か、かのっ!? え、いや……ふぇ、ふえぇ〜!?」

 

「違うわアホっ!」

 

 血圧が心配になるほどのハイテンションで俺の肩を叩いて喋る彼女を何とか黙らせようとする。確かに喫茶店で男女二人が向い合っていればそう見えてもおかしくはないが、例えそうだとしても叫ぶことはないだろうに。それ見たことか、花音ちゃんなんて顔真っ赤にしてオロオロしているではないか。正直愛らしいし、花音ちゃんのような可愛い子が彼女なら毎日楽しいと思うが、今はそんな浮かれた話をしているわけではないため、冷静さを保って静歌に事情を小声で説明していた。

 

「戦いに巻き込まれてたんや。それで訳あって説明してるとこ」

 

「あ、そうなんだ……つまんなっ!」

 

「悪かったな! ……ってあれ?」

 

 一言余計な彼女に若干苛立つも、その背後に見える人影に気付いて動きを止めてしまう。

 

「愛音、アゲハ、次狼。それと……Afterglow?」

 

 見慣れた顔三つに、これまたこのカフェには珍しい顔が五つ、全員がこちらに視線を向けていた。静歌を含めれば九人となんとも大所帯で来たものだ。しかし客でいっぱいの今の店内で彼女たちが座る場所は空いておらず、マスターも申し訳なさげに静歌へと歩み寄っていた。

 

「ごめんね静歌ちゃん。せっかくだけど、流石にこれだけの人数は今すぐ座れないね。もう少し待ってもらうことになるけど……」

 

「いいってマスター。今日は別件だから」

 

「別件?」

 

 どうやら彼女たちは珈琲を飲みにきたというわけではないようだ。まあ次狼はともかく、Afterglowは羽沢珈琲店で間に合っているから分からなくもないが、では何故ここに来たのかと少し考えてしまう。

 

「あの場所、また使わせてもらってもいい?」

 

「(ああ……)」

 

 しかし静歌の今の言葉で何をしたいのか俺には分かってしまった。愛音がいることが少し気になるが、恐らく俺の予想は間違っていないだろう。

 

「静歌。あの場所ってもしかして……」

 

 それでも一応は念のために静歌に問いかけて確認を取る。そして彼女は得意げに胸を張り、目をキラキラ輝かせて俺に言い放った。

 

 

「へへんっ、健吾も久しぶりに行こうじゃない。我らイケメンズの始まりの場所へ!」

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

「っ」

 

 なんだろう。今一瞬、僕の身体に少しだけ悪寒が走った。悪い予感というよりは、触れられたくない名前に触れられたような、そんな寒気がしたのだ。しかしそんなピンポイントな予感なんてあるはずがないと、気のせいだと自分に言い聞かせて、僕は辺りの様子を見渡しつつ心の中で静かに祈っていた。

 

「(今日はこれ以上何も起きませんように)」

 

 僕は今、広場のベンチに腰をかけながらとある建物を視界に入れつつ辺りに注意を払っていた。僕が視界に入れている建物の中では今、彩さんたちPastel*Palettesが仕事の最中である。

 先ほど僕は健吾さんと合流し、それから彩さんと千聖さんをここまで送り届けていた。健吾さんは魔族との戦いに巻き込まれた松原さんという少女に落ち着いて事情を説明するために、今はマル・ダムールにいる。しかしその後に仕事があった彩さんたちはそこで解散しなければならず、故に僕が必要だったというわけだ。彩さんがこの後再びレジェンドルガに狙われないとも限らない。だから彼女をここまで送り届けた後も、こうして近くで何事もないか見張っているのだ。流石に関係者でない僕が建物の中に入ることは叶わず、故にサガークを中に潜入させて見張らせている。

 全員揃っているということだが、ラジオ番組のゲストとして呼ばれているのだと彩さんは言っていた。どういう内容か気になるところだが、生憎ラジオもアプリも無ければそれを聴くための会員でもないため、今はこうして静かに佇んでいるしかなかった。

 

「……ん?」

 

 何事も起きず、平和で静かな時間が過ぎていく中、僕の側に近寄る気配に意識を向ける。とは言え、そこに緊張感はない。彼から流れる音楽を僕はずっと聴いていたし、その穏やかなメロディーからは敵意は微塵も感じられないのだから。

 

「隣、いいか?」

 

「うん、もちろん。大ちゃん」

 

 そうして僕の隣に腰を下ろしてきたのはチェックメイトフォーのルーク、もとい大ちゃん。大きな逞しい身体をゆっくりとベンチに腰掛け、大ちゃんは僕と同じ方角を静かに見据えていた。

 珍しく街中で会うものだと思うが、何の用事もなく僕の前に現れる彼ではない。そして大ちゃんは勿体ぶることなくここに来た目的を口にした。

 

 

「ナイトとポーンから言伝を預かっている。『闇のキバの修復が完了した』と」

 

 

 ナイトとポーン……それはファンガイアの王室技巧匠として仕える双子の兄弟のことである。太古の昔に王の鎧を完成させたファンガイアの兄弟に、かつてのキングがその二つの称号を与えたことから、以降ファンガイアの王城には専属の技巧匠が住まうようになったと言われている。もっとも、今のナイトとポーンは二代目であるらしい。先代の後継として選ばれたのがまた偶然にも双子の兄弟であるという話だが、師と共に闇のキバを完成させたことをきっかけに二代目を襲名し、その後黄金のキバを作り上げたのが現代のナイトとポーンである。

 そんな二人が今は損傷した闇のキバの鎧の修復に当たっていたのだが、大ちゃんの報告に誤りがなければ彼らはそれを完了させたということなのだろう。何とも有能な兄弟だと思うし、闇のキバの鎧があるのは心強く感じるが、しかし残念かな、最重要の問題が未だクリアされていなかった。

 

「でも、二世が眠ったままじゃ意味がない」

 

「そうだな。三世も今は黄金で手一杯だろうしな」

 

 肝心の闇のキバをコントロールできるただ一人の存在であるキバットバット二世──今は愛音に付いているキバット三世の父親が目を覚さないことには、闇のキバを使用することは叶わない。三世のことを悪く言うつもりはないが、父子の間では生きた年数も場数も何もかもが違い過ぎた。本人曰く、早くて後十年二十年はその域に達するまでかかるそうだ。そもそも、もし彼に扱えるなら例え鎧が損傷していても三世に使わせて今頃身に纏っている。

 しかしレジェンドルガとの戦いはこれから熾烈になっていくだろう。その中で最悪の場合、彼らのロードが目覚める可能性もあり、今の戦力で打ち勝てることができるのか勝算は未知数だ。ならばかつてレジェンドルガを蹂躙したと言われる闇のキバが必要になる時が来る。だからこそ、かの鎧の修復はナイトとポーンの最重要課題であったが、それも今日完了した。後はそれを使いこなせるキバットの父親の目覚めを待つ他ない。

 

「ありがとうね大ちゃん。後で二人にもお礼を言っておくよ。それとごめんね、休みなのに」

 

 そう、後は二世が目覚めるだけ。それがハッキリしただけでも十分だと、僕は大ちゃんに言伝の礼を告げる。休みにも関わらず僕に真っ直ぐ報告に来た彼は嫌な顔することなく、いつものように得意げに笑って返してくれた。

 

「気にするな。だがそうだな……偶には麗牙の隣でゲームをするのも悪くない」

 

「おっとそう来たか」

 

 何に思い至ったのか、彼は自らの鞄から薄いノートパソコンを取り出して電源を入れ始めた。上司が気張っている隣でこれはどうなのかと思うが、まあ大ちゃんだしいいかと僕も若干の諦めが付いてしまっている。休日の彼の行動を制限するつもりもないし。だがそんな彼の様子を見ていて、一つ気が付くことがあった。

 

「あれ? なんか前と違う……?」

 

 以前の大ちゃんのパソコンにはモバイルルーターが付いていたはずだが、このパソコンにはそれらしきものが見当たらない。自分の携帯を見ても辺りにWi-Fiは飛んでいないし、にも関わらず画面ではネットに繋がっている。そもそも、以前僕が見たパソコンと微妙に色も形も違うことを思い出し、僕は大ちゃんに訊ねていた。

 

「SIMカードを挿れたLTE対応機種だ。どういうものか試しに使っている」

 

「君そういうところ本当に思い切るよね」

 

「ふふ、もっと褒めろ」

 

 大ちゃんがどんどんそっち方面の知識を身につけて手を出していく様は尊敬に値するものがある。大ちゃんのフットワークの軽さの一方で、他の魔族が電子書類などを利用してくれない、認めてくれないというものを見てきて若干苛ついているため、彼の柔軟さには心の底から感心していたりするのだ。

 

 もっとも、彼の場合はその熱意がゲームをすることにのみ向いているんだけど……。

 

「麗牙……NFOやったりやらなかったりのようだな」

 

「や、やるよ……(燐子さんにも言われたし……)」

 

「この前ゲーム内でRinRinが嘆いていたぞ」

 

「そう呼んでるんだ……っていうか会ってるんだゲーム内で……」

 

 こちらの時間の都合というものがあるから仕方がないのだが、流石にゲーム内と言えど自分の彼女との時間を作れないのはどうかと思ってはいる。何より、自分の知らない間に彼がNFOで燐子さんと会っているのが気に食わなかった。何を親しそうにRinRinなんて呼んでいるんだ大ちゃんは。僕の彼女だぞ。

 

「よし、今日やろう」

 

「おうっ、そう来なくてはな!」

 

 珍しく大ちゃんに対して芽生えた小さな対抗意識により、僕は今日この後、またあのファンタジーの世界に降り立つことが決定したのだった。とりあえず後で燐子さんに連絡を取ろう、そう考えていたところで大ちゃんから思わぬ言葉を受け取ることになった。

 

「RinRinだけでなく、あこ姫と氷川紗夜も誘っておけ。皆巡り合えた同志だからな」

 

「……ん? あこちゃんと……誰って?」

 

「氷川紗夜だ。知らんのか? 彼女もNFOプレイヤーだぞ?」

 

「嘘だぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 松原さんの件でも闇のキバの件でもなく、今日一番の驚きを持って発せられた叫びは、ちょうど今し方建物から出てきたパスパレの皆にも聞こえたとか聞こえていないとか。

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

「……今、兄さんの声が聞こえたような……?」

 

「気のせいでしょ? それよりほらっ!」

 

 昨日のTETRA-FANGの動画を見て居ても立ってもいられず突撃してきたずっちゃん。彼女によって連れてこられたのは、マル・ダムールから少し離れた場所を走る高架線の下に開かれた小さな広場であった。周りを鉄網で囲まれて誰も侵入できないように隔離されている空間の中に私たちは足を踏み入れている。何故そんな場所に入れたかというと、何でもマスターが以前からそこに土地を持っていたそうだが、今も土地の権利を手放さずに中に入る鍵を持っていたのだ。そしてこの場所は私たちがかつてバンドを……出来れば名前は言いたくないけれど、あのイケメンズを結成する前後に何度か使わせてもらった場所でもあった。当時も今のように、マスターのお許しをもらってだ。

 

「ここなら誰も来ないし、ちょっとくらい煩い音を出しても上の車の音が掻き消してくれる。うーんやっぱりなかなかの穴場ね!」

 

「まさかまだ残っとるとはな……」

 

 正直、私もこの場所のことも半分忘れていたし、何なら既にゴミ捨て場か何かに変わっているかもと思っていた。しかしどうだろうか、今私の目の前には綺麗に揃ったドラムセットが置かれているではないか。辺りも然程散らかってはおらず、バンドが演奏をするには申し分ないスペースがそこにあった。これならばと、マスターから借りてきた赤いベースを肩から提げている私は、少しだけ胸が熱くなっていた。

 

「よーし! とりあえず愛音と健吾と……それと次狼もカモン! 今は麗牙いないからね」

 

 ずっちゃんに手招きされて、元イケメンズメンバーの私と健吾は定位置に付いていく。方向性が定まる前は健吾がギター&ボーカルをしていた時もあったっけ、と懐かしくなる。私も兄さんがベースで、そこの煩いのがドラム。兄さんの代わりに今は次狼が立っているけれど、それでも私が最初にバンドを組んだ時の事を思い出してしまい、少しだけ背筋が伸びる思いがしていた。

 

「いよっ! 待ってました!」

 

「ぅおおっ、なんか楽しくなってきたじゃん!」

 

「あいちんファイト〜」

 

「おけ……任せろ……」

 

 ベースのチューニングを行う側から、Afterglowの温かい声が飛んでくる。少しこそばゆく感じるも、やはり彼女たちに応援されるのは悪い気はしなかった。

 

「健吾くんのギターってどんなんだろう……」

 

「まぁ、人前に出して恥ずかしくない音ね。花音ちゃんもしっかり聴いていてね」

 

「おいコラ言い方」

 

 成り行きでマル・ダムールからついてくることになったトラブル少女、もとい花音もこのライブを見守る観客の一人だ。それでいて出会ったばかりの健吾の音を知らないただ一人の観客でもある。健吾のあの変態じみたギター捌きを見てどんな反応をするか、実は密かに楽しみな私である。

 しかしアゲハ……花音に説明するのはいいが、こちらにカメラ構えるのはやめろ……。変に意識してしまうではないか全く……。とりあえずは深呼吸だ。

 

「すー……はー……よしこい……どすこい……」

 

「気ぃ抜けるなオイ……」

 

「それでこそ愛音! マイフレンド!」

 

「サンクス……マイフレンド」

 

 やはり私の冗談に全力で応えるのはずっちゃんだけだ。喧しいけれど、そういうところが好きだから私も彼女の親友をやめられないのだろう。

 それに、こんなやり取りもとても懐かしく感じてしまう。私たちが離れてからまだ一年くらいしか経っていないはずなのにね……。しかしそんな彼女が傍にいるからか、大して緊張することもなく自然体でベースを構えることができていた。皆の前に立つことが恥ずかしいという気持ちは当に消え去っていた。

 

「(よぅし……)」

 

 今の私はベーシスト。昨日のように自分の音をありのままに伝えるのだ。兄さんがそうしてきたように。かつての私がそうであったように……。

 

 そして、私が覚悟を決めたのを察したずっちゃんによって曲名が告げられた。

 

 

「そんじゃやっちゃいますか! 『Destiny's Play イケメンズVer.』!」

 

 

 きっとここからが、私にとっての再演。手放したものを取り戻すきっかけの調べになるのだ。そんな期待を胸に抱いて私は、綻ぶ頬に気付かぬままベースを弾き奏でていた。




麗牙の頭の中→[NFOプレイヤー紗夜 > 闇のキバ]
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