ボーカルでヴァイオリニストな彼は   作:春巻(生)

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『今一度ベースを奏で、TETRA-FANGの練習に参加することを決意した愛音。しかし静歌はキャッスルドランで行われるその練習に花音を招くのだった』

『一方その頃、キバーラさんたちはというと……?』


第112話 青薔薇と白蝙蝠

 夕陽が地平線に消えていき幻想的な空模様を作り出す黄昏時、私たちRoseliaはそんな様子を見ることもなくCiRCLEのスタジオでひたすら練習を続けていた。昨日のTETRA-FANGのライブを間近で見ていたために皆やる気は十分のはずだが、元より本気でバンドに打ち込んでいる自分たちにとってはそれが練習量の変化に繋がるわけではない。しかし、彼らの音楽が私たちにより気を引き締めるきっかけを与えていたのは確かだった。今も皆の思いは一つのはずだ。彼らに負けたくない……TETRA-FANGと同じステージを共にしていた燐子もそう思っているからこそ、今日の音には強い想いが込もっている、皆が一つになっていると私には感じられたのだ。

 

「今日はここまでよ」

 

 気合いが入っているのはいいことだが、そこで練習量を増やして無理をさせるわけにもいかない。ただでさえ最近は共に練習する時間が増えたというのに、そこに更に負荷をかければまた面倒な事態に繋がりかねない。普段からしっかりと実力を付けてきたのだからここで無理をさせることなく、私は皆に練習の終わりを告げていた。

 

「えー、もう終わりですかー?」

 

「あははっ、確かに昨日の今日だとちょっと物足りなく感じるかもねぇ」

 

 黄昏はとうに過ぎ去り、今頃外は暗闇が支配する世界に移り変わっているはずだ。もっと練習を続けたいのは私だけでなく皆同じ気持ちのようだが、これ以上は日常生活に支障をきたしかねない。時計を確認して自分たちが思っていた以上に音楽にのめり込んでいたのを自覚すると、皆は苦笑しながら身支度を始めていた。

 

『すっごいわ〜。学校終わってから何時間もこうして練習するなんて……友希那ちゃんなんてよく喉がもつわねぇ〜』

 

 そんな私たちの様子を見ながら、パタパタと団扇を叩くような音を出して飛び回る小さな存在があった。燐子に付いてきたキバットの妹を名乗るキバーラというネコウモリ二号だ。いや、キバットと比べても全然猫耳ではないし、そう呼ぶのは間違いかもしれない。丸い耳をしているし、どちらかというと……熊耳?

 

『ねぇ、今なんか失礼なこと考えなかったかしら?』

 

「いえ、別に。それと、私は幼い頃からずっと歌ってきたし、普段から喉のケアも怠らずにいるし、このくらいわけないわ」

 

『キャー友希那ちゃんカッコいい!』

 

「本当にキバットの妹ねあなた……」

 

 高いテンションで喋りながらスタジオ内を飛び回る様はあの金色の蝙蝠を思い起こさせ、この二人(二匹?)が兄妹だと確信せざるをえなかった。そんなキバーラの様子を皆が気に留め、彼女はその視線を一手に受けていた

 

「キバットさんの時も思いましたけど、本当に不思議な生き物ですね」

 

「アタシなんて初めてキバット見たとき思いっきり叫んじゃったし……」

 

「リサの気持ちは分かるわ」

 

「う〜ん……」

 

「? どうしたの……?あこちゃん」

 

「……ねぇねぇキバーラさん。そもそもキバット族ってどういうものなの?」

 

 あこのふとした質問は皆が薄々思っていたことだった。キバーラだけでなくキバットもそうだが、彼女たちの言う「キバット族」という存在が何なのか私は何一つ聞いたことはなかった。世界に存在する十三の魔族の一つとは聞いているが、それ以上詳しいことは私は知らない。何が好きで何が得意で、何故そんな姿をしているのかなど、一度気になってしまえばキリがないほど不思議な存在だ。そんな皆からの眼差しを受けたキバーラは少し困惑した様子であった。

 

『キバット族がどうって……うーん難しい質問ね。みんなだって人間族がどういうものって聞かれても困るでしょ?』

 

「確かに……」

 

 彼女の言うことはもっともだ。自分のことならともかく、種族全体のことを自分から言うのは難しくなる。主観も入りかねないし、正しい情報が伝えられない可能性もあるのだから。

 

『でも私だってキバット族の端くれ。簡単な話くらいならしてあげられるわ』

 

 しかしキバーラはすぐに調子を取り戻して私たちの中心に飛んでいき、あこの質問に答えてくれた。

 

『私たちキバット族はね、知能は高いんだけど、力の点じゃハッキリ言ってそこまで強くない。だから太古の昔からファンガイア族と同盟を結んで、今日まで生きながらえてきた種族でもあるの』

 

「同盟ですか?」

 

『ええそうよ。まあ正確には従属の意味が強いんだけど、少し前から同盟扱いになっているわね。そしてそれは今でも続いている。あなたたちも見たでしょ、麗牙が変身する瞬間を』

 

 ここにいる皆が麗牙がキバットに咬みつかれて変身する瞬間を目の当たりにしている。ファンガイアのキングが常にキバットを付き従えさせているのがよく分かる光景だ。しかしそこでまた一つ疑問が浮かび上がってくる。

 

「何故、キバットが麗牙をキバに変身させることができるの?」

 

 恐らくその理由がキバット族がファンガイア族と同盟を結べたことに繋がるのだろう。麗牙があの紅の姿に変化する時、側にはいつもキバットがいた。キバット無しには麗牙はキバに変身できないが、そもそもキバットは麗牙に何をしているのかが気になっていた。

 

「そう言えば麗牙の手に何かを流し込んでいるよね」

 

「キバーラさん言っていましたよね。人間がキバの鎧を纏えば即死に至ると」

 

「ええっ!? そうなの?」

 

『ええ、残念ながらね。だからあなたたちが麗牙と同じキバになるのは無理よ。因みにお兄ちゃんが咬みついた時に体内に流し込むのは、本人の魔皇力を活性させるアクティブフォースと呼ばれるものよ』

 

「まおう……りょく?」

 

 急に専門用語で説明されてもこちらは何のことかさっぱり理解できない。そんな私の気持ちを表情から読み取ったのか、キバーラはすぐさま言葉を付け足してくれた。

 

『魔力みたいなものよ。分かりやすく言うなら潜在能力ね。日本語で魔の皇帝の力で魔皇力。アクティブフォースはその活性剤ってところね』

 

「魔の皇帝の力……魔皇力……くぅ〜……っ!」

 

「あはは〜、あこ悶絶しちゃってるねぇ」

 

『ふふっ。ともかく、そんな魔皇力のコントロールに長けているのが私たちキバット族というわけなのよ』

 

 キバーラの解説で何となくだがそのメカニズムの一部と、彼女たちキバット族がファンガイア族に取り入ることができた理由は分かった。とは言え、やはり私にはどうも遠い世界のことのように思えて仕方がない。麗牙のこともキバのこともこの目で見て体験してきたはずなのに、こうして言葉にされると自分たちとは別世界の住人のようにも思えてしまう。だから、キバーラの説明も自分には特に関係ないことのように捉えていた。私には縁のない無関係の話だと、そう思っていたが……。

 

『他人事のように思ってそうだけど、燐子ちゃんと友希那ちゃんだって当事者なんだから』

 

「え?」

 

 そんなキバーラの言葉に、私は小さく息を飲んで目を見開いていた。私が当事者とはどういうことなのか。燐子なら分かる。麗牙と想いが結ばれて恋人となっている彼女にとって、今の話は自分の愛する人を理解する上で重要なことなのだから。私にとってはきっと必要の無い、入り込み過ぎた彼の事情。愛しているわけでもない私が知ったところで使いようのないもの……そもそも燐子がいる時点で私には無用な知識……。自分で言っていて虚しくなるが、ともかく私には無関係だと思っていたのだから。

 

「待ってください。まさか湊さんも……?」

 

「? どういうこと紗夜?」

 

 何か思い当たることがあるのか、紗夜はキバーラに向けて真剣な目を向けていた。何か焦りのようなものを抱いているのか、僅かに彼女の顔に戦慄の色が浮かんでいるように感じられた。

 

『あらら……麗牙やっぱり魔皇力のこと友希那ちゃんにも話してないのね……』

 

「多分……無闇に不安にさせたくなかったんだと思います……友希那さんにも……音楽だけに集中してほしかったから……」

 

「それで、結局何なの?」

 

 キバーラと燐子の間だけで何かが通じているようだが、そんな勿体ぶられ方をされれば気にならない方がおかしいだろう。私と燐子には一体何があるのか、それをキバーラの口から吐かせようとしていた。

 

『友希那ちゃんと燐子ちゃんの身体の中にもあるのよ。微量にだけど、その魔皇力が』

 

「え?」

 

 だがキバーラが告げた予想外の言葉に、私は一瞬言葉を失ってしまっていた。自分の身体の中に、自分の理解から程遠いものが流れている。そんなとんでもないことを告げられて、本当に一瞬何も考えることができなくなっていた。

 

「えええええぇぇぇっ!? じゃ、じゃありんりんと友希那さん、魔法みたいなこととかできちゃうってこと!? こう、ドーン! ババーン! って!?」

 

『残念ながらそれができるほどじゃないわ。本当に微量だから』

 

「え〜……そうなんだ……」

 

「……よく分からないけど……期待に応えられなかったみたいで悪かったわね」

 

 勝手にテンションが上がったかと思うとすぐに沈む、そんな忙しそうなあこを見ていたおかげで幾分か冷静さを取り戻すことができた。とは言え驚きから完全に抜け出したわけではなく、キバーラに無言で視線を送り、その先の話を続けさせた。

 

『麗牙には悪いけど、私は隠しておくべきじゃないと思うから言うわね。今その魔皇力を持つ人間が、レジェンドルガっていうヤバいのに狙われているの』

 

 レジェンドルガ……どこかで聞いたことのある名前だと記憶の中を探してみるがどうも思い出せない。そう昔の記憶ではなかったはずだけれど……。

 

「……あっそうだ。前に健吾さんが言ってたかも。ですよね友希那さん」

 

「……そうね(その時ね)」

 

 あこが代わりに思い出してくれて助かった。そう言えば確かに以前、健吾が魔族について話していた。その中で出た名前がレジェンドルガ……かつて地球上に存在した史上最悪の魔族だと。それが現代に復活したとキバーラは言うのだ。

 

「紗夜には、前に見たあのミイラみたいなやつって言えば分かるよね?」

 

「え、ええ……しかしアレの仲間ですか……」

 

「それと……黒麓さんも……」

 

「……」

 

 リサと紗夜、そして燐子は直接遭遇したことがあるのだろう。その恐ろしさを知る故か、三人とも顔持ちが異様なまでに真剣な色を帯びていた。そしてまた一つ、燐子の呟いた名前によって思い出す。麗牙がそれと同じ存在によって傷付けられ、あの屋敷の廊下を血に濡らしていたことを。彼がそこまでの痛手を負う相手がレジェンドルガなのだとすれば、戦慄せずにはいられない。私は思わず固唾を飲んでしまうほどの緊張を人知れず静かに抱いていた。

 

『レジェンドルガと言っても全員ヤバいってわけじゃないわよ。本当にヤバいヤツなんて、それこそ前に麗牙が出会ったヤツかロードくらいよ』

 

「ロード?」

 

『奴らを束ねるレジェンドルガの王よ。今はそのロード復活のために、燐子ちゃんや友希那ちゃんのような魔皇力を持つ人間が狙われているの。その中の誰かが彼らの王として覚醒するかもしれないから』

 

 麗牙が深傷を負うほどの存在はそうはいないと分かったのはいいが、それとはまた別の問題がキバーラの口から語られていた。彼女の言葉に矛盾がなければ、私と燐子はレジェンドルガに狙われているということになる。しかも場合によっては彼らと同じレジェンドルガになるかもしれないと言うのだ。

 

「友希那さんとりんりんが……それって今もなの?」

 

『ええ。昨日も別の子がレジェンドルガに狙われていたそうだから』

 

「丸山さんがそうみたいですね。昨日のライブの最中に拐われたと」

 

「つぐみもそうだったよ。前に二度襲われるところにアタシもいたから」

 

 丸山さんに羽沢さんも魔皇力というものを持っており、それが理由でレジェンドルガに狙われたと二人は言う。自分の知らない内に顔見知りがそんなことになっていたとは露知らず、顔には出さず静かに驚いてしまっていた。

 

「友希那は大丈夫だよね? まだ何ともないんだよね?」

 

「ええ、怪物に拐われかけたりなんてしたことないわ」

 

 心配そうな顔をしてこちらを見つめるリサに、私は現状を隠さず伝える。彼女たちには色々と難があったようだが、私は今のところそういう目には遭っていない。ただ運がいいだけなのか、それとも狙われるのに値しない存在なのかは知らない。それでも本来ならば危機感を抱いて慎重に行動していかなくてはならない場面なのだろう。狙われていると知っていながら無防備に外を出歩くのは、愚か者なのかもしれない。しかし……。

 

「そう、だよね……よかった……」

 

「でも、だからと言って私は立ち止まったりはしない。そんなことで私たちの音楽を邪魔されるなんて馬鹿げてるわ」

 

「ちょ、ちょっと友希那っ?」

 

 それでも私は音楽から逃げることだけは絶対にしない。誰が私を狙っていようが、この胸に流れる音楽にかける情熱が揺らぐことはない。愚か者だと罵られようと私は止まるわけにはいかないのだから。

 

「不安がっても仕方ないわ。いつまでも怯えていたら外に出ることもできないじゃない」

 

「そ、そうだけど……うん、友希那の気持ちはすっごく分かるよ。音楽を止めたくないのはここにいるみんな同じだもん。でもアタシ、友希那や燐子に何かあると思うと怖くて……」

 

 リサが私たちを危険な目に遭わせたくないと、だから守ろうとしているのは分かる。しかし彼女には悪いが、これが私だ。ただひたすら自分の音楽を極め、高みへと登り詰めていく。この想いは誰にも邪魔させない。怪物だろうと何だろうと、誰にも私から音楽を奪うことはできない。それが今の私という人間なのだから。

 ただ一つ心残りがあるとすれば、そう……燐子を巻き込むくらいだろうか。

 

「白金さんはいいんですか? 狙われているのはあなたも同じでは」

 

「わたしは……多分大丈夫です。わたしも友希那さんと同じで……わたしの音楽を止めたくないです。それに……守ってくれるんですよね?」

 

『ええ、ドンと任せてちょうだい。私が近くにいるうちは、友希那ちゃんのことも守るからね』

 

 得意げに燐子に応えて飛び回るキバーラを見て、少しだけ安堵を覚える。先ほど力は強くないと言い切ったばかりだが、それでも大丈夫だと思ってしまう自分がいた。彼女の言葉にはどこか安心感を抱かせる、そんな不思議な響きが含まれていたのだ。

 

 そんなキバーラだが、急に声を張り上げて私たちにこんな提案をしてきたのだ。

 

『そうだ! 次の休みの日にウチに来るのはどう?』

 

「ウチって?」

 

『キャッスルドランよ。バンドの練習用スペースだってあるんだからっ。きっと地球一安全な練習場よ!』

 

 キャッスルドラン……え? もしかしてあの竜の城のこと? かつて一度だけ降り立ったあの城に、私たちを招き入れると彼女は言っているのか? ここにいる殆どがその名前を聞いてあの城を思い浮かべて小さく驚いていたが、ただ一人だけ頭の上に疑問符を浮かべている少女がいた。

 

「キャッスルドラン……?」

 

『ファンガイアの王城よ。紅家の実家で今は愛音やアゲハ、次狼も住んでるみんなの家でもあるわね』

 

「王城……お城なの!?」

 

「あー……そう言えばあこだけ行ったことないんだ?」

 

「ええっ!? みんなお城に入ったことあるの!? りんりんも!?」

 

「う、うん……凄かった……本当に凄くて……わたしも何から説明していいか分からないくらい……」

 

「私は正直、宇多川さんが興奮しすぎて迷惑かけないか心配しているわ」

 

 紗夜の心配は十分理解できる。あんな中世ヨーロッパの建築様式のような豪華な内装、あこが見ればどんな反応をするか……。いや、シャンデリアやステンドグラスなんてまだいい方だ。あの竜の頭を見た時、彼女がどんな反応をするか想像に難くなかった。

 

「わわっ、私行きたい! その城、私も行きたいです!」

 

「はぁ……やっぱりこうなるのね」

 

「私も目をかけますが……白金さん、ちゃんと宇田川さんのこと目を離さないでくださいね」

 

「わ、わかりました……」

 

 こうして次の休みの日、Roselia全員で再びあの城に行くことが決まったのだった。ただし今回は避難のためではなく、音楽を奏でるためにだが。

 

 まさか偶然にも、同じようにその城に招かれた人たちがいることなんて当然予測は出来なかったけれど。




CSMキバットベルト最高ですね。

次回もご期待ください。
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