ボーカルでヴァイオリニストな彼は   作:春巻(生)

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『キャッスルドランへと招かれたRoselia』

『そんな中、燐子さんは何かに誘われるようにしてキャッスルドランの開かずの扉の前に。キバットさん、あの中には何があるんですか?』

『そいつぁお前……男の夢と希望がいっぱい詰まって――』

「嘘はダメだよ」


第115話 生え変わる牙

 午前の職務も一旦の落ち着きを見せたことで、僕とアゲハ、そして次狼はRoseliaが練習している部屋へと歩き出していた。彼女たちが使っている部屋は普段の僕たちが練習で使用している部屋だが、流石にあんなに広くて豪華な内装の練習部屋というものは世界中どこを探しても見つからないらしく、リサさん曰く「芸能人のPV撮れるじゃん」とのことだ。あこちゃんなんて階段の真ん中に立って色々と格好付けていたし、兎にも角にも喜んでもらえたのは確かなようだ。

 

 もうそろそろRoseliaも十分に身体が温まった頃だろう。これからは僕たちTETRA-FANGの練習時間のため、彼女たちには悪いが交代してもらうことになる。この城は広く部屋の数も多いが、流石にバンドの練習のためにいくつも部屋を解放できるほど今は余裕のある状況ではない。有事の時に必要な部屋が使えないということは避けなければいけないからだ。

 

「みなさん、お疲れ様です」

 

「あっ、麗牙もお疲れーって、もうそんな時間?」

 

「はい。申し訳ないですけど、そろそろ交代です」

 

 アゲハと次狼に扉を開けてもらい、僕は部屋に足を踏み入れて今しがた音楽を奏で終えたRoseliaのみんなに声をかける。リサさんの反応から分かる通り、彼女たちもいつの間にかそれほど時間が経っていることに気が付いていなかったようだ。

 

「……」

 

「どうしましたか湊さん?」

 

 友希那さんは何かを考え込むかのように腕を組み、部屋に建てられた巨大な時計をじっと見つめていた。何かあるのかと紗夜さんが問いかけると、友希那さんは少し戸惑いながら自身の中に抱いた違和感について語っていた。

 

「いえ、歌った曲数的にはもっと時間が経っているものと思っていたから……ほんの少し、時間が長く感じられて」

 

「……すごい、気付くものなんですね」

 

「え?」

 

 友希那さんが抱いた違和感とは、時間の流れ方。そう、彼女の感じた通りこの部屋ではほんの少しだけ時間の流れがゆっくりになっているのだ。と言っても、一時間に十分ほどズレるなどほんの僅かな差でしかないが……。

 

「なるほどね。実際には二時間居たけど、アタシたちには二十分多く感じてたんだ」

 

「へぇ〜。友希那さん良く気付きましたねっ」

 

「ええ。それに、ここに居続ければ時間を無駄なく使えそうですね」

 

「早く歳とりますよ?」

 

「……そういうのは……言わない方が……」

 

「ホントそれ……兄さん、今のは女子的に最悪……」

 

「……ごめんなさい」

 

 燐子さんと既に部屋にいた愛音からダメ出しをくらい、返す言葉もない僕は静かに謝罪する。単純計算でこの部屋に六年居続ければ一年多く歳を取ることになる。人間からすれば大きな差かも知れないが、長寿である僕たちファンガイアからすれば微々たる差であるため大した意味を持つ部屋ではない。更に言えばこれらの部屋以外に時間のズレの影響が無いため、戦闘時にも特に指示系統に時間差が表れるわけでもない。それこそ気持ち程度、少し得をすればいいくらいの部屋という扱いだ。だからこそ時間のズレを感じ取れた友希那さんには驚いたんだけど……。

 

 因みにこの城にはいくつかこのように時間の流れがおかしくなっている部屋が存在する。それはいずれも、あの開かずの扉とは別の「ある扉」を囲む部屋なのだが、彼女たちにわざわざ教える必要はない。

 この部屋のように時間の流れが遅くなる部屋もあれば、逆に早くなる部屋も存在する。この部屋に入り浸りすぎたらそちらの方に入り浸るのもアリだろうけれど、ともかくこの話はここで終了だ。

 僕はこの部屋に先に入っているRoselia以外の人たちに視線を向けていた。

 

「いや、それにしても凄かったで麗牙。Roseliaの練習風景。俺も思わず言葉を失ってもうてたわ」

 

「ええ。まるでよく出来たプロモーション映像を生で見ているようだったわ」

 

 健吾さんがここまで褒めるとは余程のことなのだろう。千聖さんの言葉もあり、この部屋で行われたRoseliaの練習がそこまで素晴らしいものだったのかと、この場に居られなかったことを少しだけ惜しく思う。この西洋の大聖堂のような部屋であの青薔薇たちはきっと映えるだろうと想像はしていたが、どうやらそれは間違いではなかったようだ。

 そんな中で、健吾さんの隣にいるおどおどした少女が遠慮がちに僕に話しかけようとしていた。それは以前にも一瞬だけ会った松原さんだった。

 

「あ、あの……」

 

「ああ、前はほんの一瞬だったけれど改めて……TETRA-FANGのボーカル、紅麗牙です。よろしくお願いします」

 

「ま、松原花音です。『ハロー、ハッピーワールド!』というバンドでドラムをやっています。改めて、よろしくお願いします」

 

 前に会ったときは彩さんと千聖さんを送り届けるために健吾さんと合流した時の一瞬だけ、彼女と顔を合わせただけであった。あの後に静歌ちゃんに巻き込まれて急遽この城に来ることになってしまったそうだけど、やはりこの子も巻き込まれ体質の人間なのだろう。僕や健吾さんと同じ、何もしなくても向こうからトラブルがやってくる人間。そんな彼女に同情を覚えながらも、彼女の告げたバンド名に思うところがあった僕は彼女に問いただしていた。

 

「(“ハロー”……もしかして……)あの松原さん、変なことを聞くようですけど……そのバンドってクマとかいたりします?」

 

「え……」

 

「はぁ? クマ?」

 

 健吾さんの困惑は尤もだ。クマのいるバンドなんて意味が分からないと言いたいのだろう。ただ、僕は以前に病院で聞いた話が未だに頭に残って離れていなかったのだ。「ハロー」なんとかというクマのいるバンドが、病院内でライブを行ったという話を。入院している子どもたちに笑顔を……音楽によって笑顔を与えたという、そんな逸話を持つバンドがいるという話を忘れることができなかった。これまで調べる機会が訪れなかったが、その名前を聞いてふと松原さんに聞いてみたくなったのだ。もしかすると、彼女たちのバンドがそうなのかも知れないと思ったから。

 

「いやいや、何言っとんねんお前。クマがいるバンドなんておるわけ──」

 

「は、はい。いるにはいますけど……」

 

「──おんのかい!?」

 

「本当にいるんですね……クマ……」

 

 病院でライブをしたというのは松原さんたちハロー、ハッピーワールド!で間違いないようだ。しかし自分も半信半疑だったクマの存在が本当だと分かり、健吾さんだけでなく僕も唖然としていた。

 

「あれ? 麗牙、ハロハピ知らなかったの?」

 

「リサさんたちは知ってるんですか?」

 

「知ってるも何も、合同でライブやったこともあるよ。Roseliaだけでなくパスパレやアフグロもね」

 

 どうやらこの中で彼女たちのバンドの存在を知らなかったのは僕たちTETRA-FANGだけ……正確には僕と健吾さんだけのようだ。愛音とアゲハは別段驚いている様子は見られないし、どちらかというと僕たちに向けて意外そうな目を向けているから、その存在を知っていたのだろう。当然の如く静歌ちゃんも知っていたようで、彼女はそのライブについての驚くべき情報を教えてくれた。

 

「いや〜麗牙も健吾も勿体ないっ。あんな面白いライブ見てないなんて人生損してるよ。クマがDJするわ客席に飴は飛んでくるわボーカルは宙を飛び始めるわでとんでもない連中なんだから」

 

「あ、飴?」

 

「飛ぶ!?」

 

 静歌ちゃんの語るあまりにも型破りなステージに僕たちは余計に困惑してしまう。いやそれ本当にバンドのライブなのかと、つい疑いたくなるような奇天烈なことをするグループ、それが「ハロー、ハッピーワールド!」なのだろう。しかしそれでいて、音楽で世界中の人を笑顔にしようという目標を掲げている。彼女たちの理想は僕にとっても一つの夢と言ってもいいだろう。自分の奏でる音楽で世界中の人たちが笑顔になるなら、それはとても素晴らしいことのように思えるのだ。ある意味で僕と似た理想を持つ「ハロー、ハッピーワールド!」というものを、僕も目にしたくなってきていた。

 

「いやしかしようそんな無茶苦茶できるな」

 

「こころちゃんはやるよ。こころちゃんにとって、きっと無理なことなんて無いと思うから」

 

「花音ちゃん。そのこころちゃんって、さっき言ってた?」

 

「うん。弦巻こころちゃん。ハロハピを作った子で、バンドではボーカルをやってるんだ」

 

「それだけじゃないわ健吾。何せ弦巻こころと言えば、あの弦巻グループの一人娘なんだから」

 

「弦巻……あっ……」

 

「あー……」

 

 静歌ちゃんの口から出た聞き覚えのある名前に、僕と健吾さんは間抜けな声を上げながら二人して顔を見合わせて苦笑していた。弦巻とは間違いなくあの弦巻のことだろう。今も青空の会に支援をしてくれている弦巻家。素晴らしき青空の会が方針を変更して、世界中の魔族が共存する世界、恒久的な平和を目指すようになってからの付き合いだとは聞いている。弦巻家の支援による後押しのためにライジングイクサの完成が早まったなんて話も聞いた気がするが、確かな事実は分からない。

 

 ともあれ、そこの一人娘が松原さんたちのバンドを作ってボーカルまで務めているとは知らず、驚きから僅かばかり放心していた。

 

 

「ていうか麗牙。他人に驚いているけど、あなただって充分特殊な出自だということは自覚してる?」

 

 

「「「うんうん」」」

 

 アゲハの指摘にこの部屋に居る誰もが頷いているのが目に入り、僕は何も言えずにアゲハの言葉に同意するしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「練習前に、皆さんに伝えたいことがあります」

 

 TETRA-FANGとしての練習を始めるための準備に取り掛かる前に、僕たちはここに居る皆に伝えておかなければならないことがあった。僕の真剣な声を聞いた皆も、僕に向けて静かな視線を送ってくる。皆が聞く準備が整っていることを確信した僕は、静かに、はっきりした声を部屋に響かせていた。

 

 

「TETRA-FANGから、ベースのJIROが脱退します」

 

 

 そんな僕の宣言に、少女たちの息を飲む声が聞こえて来る。このタイミングで次狼がバンドから抜けるなどと誰も予想できなかったのだろう。特にTETRA-FANGを近くで見続けてきたRoseliaにとっては衝撃が大きいのか、五人全員が口を半開きにして固まっているほどだ。しかし話はそこで終わりではない。本題はここからなのだから。

 

 

「そして、彼の後釜として愛音がTETRA-FANGに加入します」

 

「イェイ」

 

 

 小さくピースをして主張する愛音に全員の視線が釘付けとなる。しかしあまりの突然の交代劇に誰もが口を出すタイミングを忘れ、幻想的な練習部屋は嫌に静かな空間と化していた。そんな中で最初に口を開き、次狼に向けて問い質したのは紗夜さんだった。

 

「……次狼さん。本当、なんですか?」

 

「ああ。元々TETRA-FANGは愛音が入るはずだったグループだ。俺は最初から、愛音が帰って来るまでの一時凌ぎに過ぎん」

 

「次狼さんはそれでいいんですか? あなたも音楽にかける想いは皆と同じようにあるはずなのに」

 

「それに、ベースが二人いるバンドも珍しくはないわ。バンドの名前の意味からは離れるけど、五人でも問題ないように思えるのだけど」

 

 紗夜さんと同じように友希那さんも、愛音のためにわざわざ次狼が辞める必要はないと言っているかのようだった。確かにベースが二人のバンドもいるだろう。五人になることでTETRA(4つ)の意味から離れることになるが、TETRA-FANGが四人であることに強い拘りがあるわけでもない。それでも次狼がバンドを抜けるのは、彼自身がそうすべきだと確信したからだ。僕たちが信じて待っていた愛音は確かに戻ってきた。彼女の代わりとして弾いてやると言った次狼にとって、今が引き際だと強く確信していたのだ。だからこそ今の次狼に迷いはない。むしろ、愛音がようやく一歩を踏み出したことに喜びすら覚えていたのだから。

 

 ……なんてことをわざわざ次狼が言うはずもなく、別の小さな理由を挙げて彼女たちに告げていた。

 

「ふんっ、まあな。だが……流石にこの歳で高校生ばかりのバンドにいるのはそろそろキツくてな。俺はこう見えて、お前らの四倍以上は生きているからな」

 

「七十は超えてるもんね次狼」

 

「「ええっ!?」」

 

 そう言えばと、リサさん以外には次狼の年齢について話したことはなかったことを思い出す。七十年は生きている彼だが、それでもウルフェン族としてはまだまだ現役で戦える年齢だ。そう考えるとまだ若いし、僕自身は音楽に年齢は関係ないと思っているが、次狼本人はそうでもないらしい。青春真っ只中のグループの中に自分がいるのは何かが違うと、彼は常々感じていたようなのだ。だからこそ愛音がベースを再開するとなった時に、彼は潔くその立場を退く覚悟ができたのだろう。

 

「それに、俺が抜けるからといってTETRA-FANGの魅力が消えるわけじゃない。ある意味ではTETRA-FANGはここからが本番だ。愛音の実力は皆知っている。そうだろう?」

 

 その次狼の言葉に皆が静かに頷く。ここにいる皆が愛音のベースを弾く姿を一度は目にしている。実力は決して次狼に劣っていることはなく、その音楽には彼女だけの特別な魅力が宿っている。そんな彼女がTETRA-FANGに加われば、僕たちの音楽は更なる深みを増していく。より高みへと上り詰めることになる。音楽を嗜むものとしてそれを分かっているからこそ、誰も次狼の言葉に反論するものはいなかった。

 

「なんか滅茶苦茶期待されてるけど……そういうことなんで……よろよろ」

 

 ベースを肩から提げながら、担ぎ上げられた本人である愛音はどこ吹く風といった感じでヒラヒラと手を振っていた。一見軽く見える彼女の態度だが、愛音も自分のために次狼がその場を退いてくれることの意味を充分に理解している。TETRA-FANGに参加しなかった自分のために次狼が今日まで音楽と向き合ったことも、また今になって再び音楽がしたくなった自分勝手さにも愛音は向き合っていた。だからこそ、愛音はこれから真剣にベースに向き合うのだと僕たちは確信していたのだ。

 

「じゃあ、始めよう。新生TETRA-FANGの最初の練習を」

 

 新たなTETRA-FANGには大人である次狼はいない。ここから僕たちTETRA-FANGは全員が高校生のバンドとなる。新たな出発となる練習に向かうため、僕たちがそれぞれの立ち位置につこうとした時だった。

 

 

「ちょ〜っと待ったー!」

 

 

 僕たちが決意を新たにしていたところで突然、静歌ちゃんが叫んで僕たちの前に立ちはだかったのだ。しかし僕たちの邪魔をするというわけではなく、何か企みがあるのか彼女は不敵な笑みを浮かべながら後ろに手を回していた。

 

「どしたマイフレンド……一緒にやりたいか」

 

「それもそうなんだけど、ふっふっふ……。そんなTETRA-FANGの新たな門出を記念して〜……ジャーン!」

 

「?」

 

 静歌ちゃんが僕たちに向けて見せつけるように取り出したのは、何かが書かれた紙切れだった。しかしそれはただの紙切れではなく、僕たちにとっては見慣れた用紙……バンドスコアだった。

 

「なんとこの私がっ、TETRA-FANGのために一曲作ってきましたー! はい拍手ぅぅっ!」

 

「おー……パチパチ」

 

 静歌ちゃんはいつものハイテンションで場を盛り上げようとするが、残念ながら愛音が棒読みで驚きの声を上げながら小さく拍手する以外は特に音は聞こえてこなかった。僕もそうだが、みんな驚きでどう返せばいいか分からず反応に困ったという感じだったのだ。

 

「って反応薄ーい!」

 

「い、いや、静歌が曲作るって久々やからびっくりして……」

 

「静歌が作詞も作曲もしたの?」

 

「もっちろん!」

 

「だとしたら僕は正直歌詞が不安なんだけど……」

 

「兄さんに同意……」

 

「そこの兄妹酷くない!?」

 

 いや、確かに僕たちのために曲を作ってくれるのはとてもありがたいし嬉しいんだけど、静歌ちゃんのネーミングセンスを考えるとどうしても不安になってしまうのだ。「イケメンズ」なんて名前も静歌ちゃんのせいで生まれたようなものだし、そんな彼女の書いた詞というものに若干の恐れを感じてしまっていた。とりあえずは彼女から差し出された歌詞カードを受け取り、僕らの新たな曲となる予定の歌詞を目に通すことにした。

 

「……ってド直球!?」

 

「そこはかとなく香ばしい……しかもどちらかと言うと私より兄さんの曲じゃん……」

 

 詳細は省かせてもらうが、まず言葉選びはいい。僕たちTETRA-FANGらしい激しくも神秘的で妖艶な雰囲気を出すにはもってこいの歌詞だ。ただ一つ指摘するならば……“とある鎧”のことをほぼそのまま謳っていることが気になってしまうということだ。直球さでいうなら「Eternity Blood」とどっこいどっこいと言わざるを得ない。これは果たして何も知らない人に向けて歌っていいものなのだろうか……。

 

「えっ、よくない?」

 

「せやな。めっちゃええやんこれ」

 

「……二人ならそう言うと思いましたよ」

 

 Eternity Bloodが好きなアゲハや詩のセンスが静歌ちゃんと同レベルな健吾さんは、この歌詞に何の疑問も感じていないようだ。確かに、同時に手渡されたスコアにもざっと目を通した感じ、この曲はかなり重厚な旋律で奏でられることになる。そこにこの詞が付けばまず間違いはないだろう。

 

「ねぇねぇ、それってアタシたち見ちゃダメ?」

 

「歌詞だけなら……どうぞ……」

 

 一応はこれから練習していこうという曲だが、とりあえずみんなの感想も聞きたかったためリサさんに僕の歌詞カードを渡した。そしてリサさんにRoseliaが、健吾さんに次狼たちが集まり、皆がその歌詞を確認していた。

 

「う、歌い出しからカッコいい……」

 

「中身は完全に紅さんのことみたいですね」

 

「そうね、思いっきり歌詞に『キング』って書いてあるわ」

 

「確かにこれなら……魔王っぽいですね……」

 

 各々の感想を聞く限りはそこまで悪い反応ではないようだ。彼女たちの楽曲の世界観も似たようなものだからだろうか。僕が深く考えすぎなのだろうか。というか僕が魔王云々の話はまだ続いていたのか。等と不毛な感想が自分の中で生まれてくるが、Roseliaの中では問題は無いことが分かり一旦は安堵している僕である。

 

「千聖ちゃんと花音ちゃんは? どう思う?」

 

「そ、そうね……正直キャラソンみたいな感じはするけれど……悪くないんじゃないかしら」

 

「私はいいと思うけどなぁ……」

 

 悪くないと言いつつ苦笑する辺り、とりあえず千聖さんはこちら側の感性の持ち主のようだ。キャラソンとは確かに言い得てるかも知れない。Eternity Bloodのキング版と考えれば、まあ、何とか歌えるか……。

 

「でも僕こんな人じゃないからね?」

 

「いいじゃないカッコよければ」

 

「そうですよ麗牙さん!こんないかにも『闇の力』な歌、あこ早く聴いてみたいです!」

 

 実際の僕と歌詞の僕(仮)とでは随分と乖離していることに少し躊躇ってしまうが、あこちゃんのキラキラ輝く瞳を見せつけられれば、流石にそれを無碍にすることはできない。僕たちのライブを期待してくれる人がいる以上、音楽を奏でないという選択肢は僕たちになかった。

 

「あっははっ……よし、やろうか」

 

 とりあえずこの新曲については各々で練習した後に合わせることにしよう。今日は僕らと愛音で息を合わせるために通しでTETRA-FANGの楽曲を演奏していく予定なのだから。そして練習とは言え、こうして観客がいる以上はライブ本番のようにやるつもりだ。愛音にも、妹で新入りだからといって手加減するつもりは毛頭ない。最初から飛ばさせてもらおう。

 

「明日イヴのモデルの件あるんだけどなー……」

 

「別に死ぬわけちゃうしええやろ」

 

「それな……」

 

「じゃあ最初はやっぱりこれで──」

 

 各自の調整も終えて、立ち位置についたことを確認して、僕はTETRA-FANGの新たな始まりを告げる。僕らにとって始まりであり、青薔薇との出会いでもあるこの曲を……。

 

「──Destiny's Play」




次回、ついに始まる愛音のモデル挑戦。しかしその裏では不穏な影が……?
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