ボーカルでヴァイオリニストな彼は   作:春巻(生)

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『次狼がTETRA-FANGを脱退し、愛音がベースとして加入した』

『愛音さんを加えたTETRA-FANGがどんな音楽を響かせるのか。楽しみですねキバットさん!』


第116話 愛音、モデルに挑む

 私がTETRA-FANGのメンバーとして加わった最初の練習から一夜明け、今日は朝からキャッスルドランを経って離れた街に来ていた。とは言え一人で来たわけではなく、隣にいるイヴと彼女の事務所の人間に連れられて私はここにいる。そんな私の今の格好はいつもの無難な女子高生のものではなく、私みたいな陰キャが向かないような少し露出の高めの派手な衣装を身に纏っていた。そう、今日は以前からイヴに誘われていたモデルの仕事の日であったのだ。

 

「うんうんっ、二人ともすごくいい笑顔してるよー!」

 

 慣れないながらも隣に立つイヴのようにポーズを決め、そんな私たちを上手いこと言葉に乗せるカメラマンによって次々と写真に納められていく。全く、このキューティープリンセス愛音ちゃんを被写体にして何十枚も撮れるとはなんて運のいい奴だろうか……なんて冗談は置いといて、最初はぎこちなかったモデルの撮影も時間が経つごとに慣れてきたのも事実だった。隣で本当に楽しそうに笑うイヴがいるからか、私の方も彼女につられるようにして自然な笑みを出せるようにはなってきていたのだ。

 

「はいオッケー! ありがとう二人とも。少し休憩したらまた次の準備もお願いねっ」

 

 カメラマンと言うのはこうもテンション高めの陽キャばかりなのだろうかという疑念が残るが、とりあえず全体の半分を終えたということで小さく息をつく。正直なところ、最初は写真を撮られるだけの簡単な仕事かと侮っていたが全然そんなことはなく、カメラマンのイメージに沿うように自分を表現しつつ、それを何パターンも繰り返して長時間カメラの前に晒し続けられる……そんな予想以上にハードな内容に内心ビビっている私であった。いやすごいなコレ。普段運動はしない私だが、それでも人よりは体力があると自負していた自分がこうも疲れを感じるとは……。照らされる光もかなり眩しくて暑いし、それを苦手とするファンガイアでなくとも狼狽えて仕方ないだろうに。隣で涼そうにしているイヴが途端に強い子に思えて、私は素直に彼女に感心していた。

 

「アイネさんっ。楽しいですか?」

 

「どうだろう……まだ分からない……でもイヴはスゴイ……こんなことずっと続けてるなんて……」

 

「私も割とやってきてちょっとは慣れましたから。それに、こんなことでも私にとってはとても好きな仕事なんですっ」

 

「ごめん……失言だった……」

 

 私にとっては得体の知れないものでも、彼女にとっては大事なものなんだ。それを軽率に“こんなこと”呼ばわりしたことに気付き、彼女に詫びを入れる。イヴはそんなことは全く気に留めもせずに笑顔で私を許してくれていた。

 

「アイネさん、少し見ていきませんか? 他の子がどんな写真を撮るか、私も気になりますから」

 

「おけ……見とく……」

 

 次の撮影まではまだ時間があり、二人で休憩しながら他の事務所のモデルの撮影を見学していた。私たちのようにペアルックで二人一組の撮影はなかったが、一人であのシャッターの嵐に晒されて笑顔を保ち続けられるのは素直に凄いと思う。私が作り笑顔が苦手なだけかも知れないが、モデルという人たちは皆並々ならぬ努力と忍耐を続けているのだとほんの少しだけ見ただけでも感じ取っていた。

 

「? あの子……」

 

 しばらくの間何人かの撮影を見学していたが、とある少女の番になった時、その子の様子に違和感を抱かされることになった。他のモデルは皆キラキラとした眩しく笑顔を浮かべていたのに、撮影場に向かう彼女の顔は嫌に不安そうで、今にも逃げ出しそうな雰囲気を纏っていたのだ。緊張しているのか知らないが、カメラマンの明るい言葉を受けても、ずっと付き添いのマネージャーらしき人の方を見つめ続けている。

 

「もしかしてあの人の事務所って……」

 

「イヴ?」

 

 イヴは何か知っているのか? 彼女に問い質そうとした時、先ほど撮影を終えて休憩に入るモデルたちが話をするのが聞こえたため、そちらの方に意識を向けた。

 

「ねぇねぇ、あの子の事務所だよね? 所属の子が立て続けに行方不明になったっていう……」

「あー、そうだね。でも前の社長が辞めてからそういうの無くなったって聞いてるけど」

「それってその社長が犯人なんじゃないの……?」

 

 どうやらあまりよくない噂が立てられている事務所のようだ。今の話を信じるなら、あの子が所属する事務所では行方不明者が何人も出ている。そんな話が出ているなら、周りの視線が気になっても仕方ないだろう。しかしその前社長が犯人ならばもう彼女には関係のない話なのだから、後は時間が解決してくれるだろう。

 そう思っていたところで、更なる情報が耳に入ってきたために再び意識がそちらに引かれてしまった。

 

「いやそれがさ……なんか、昨日も一人消えたんだって。それも今日出る予定だった子が。ほら、今出てるあの子……その消えた子の代わりだって。さっきウチのマネージャーたち話してたよ」

 

「……」

 

 なるほど、だから彼女は怯えていたのだろう。解決したと思った矢先に新たな失踪者が出てしまった。そしてその子の代わりとしてここに来たのなら、不安にならないはずがない……自分が新たな行方不明者になるかもしれないのだから。火の無いところに煙は立たぬと言うくらいだし、その事務所には何かがあるのだろう。そんな風に勘繰っていた時、新たな人影が見えて私は小さくイヴに話しかけていた。

 

「? ねぇイヴ、あの人は?」

 

「あの人……あ、見たことあります。今撮っている方の事務所の社長さんです」

 

「……新社長?」

 

 先ほどモデルの子たちが話していた、辞めた社長の後釜に就いた人がそこにいた。まだ見た目も若々しく、とても社長という立場の人間には思えない青年だった。身に纏う服や装飾品が周りの人間と違っていることからどうにか社長なのだと分かるくらいだ。

 

「(あの子を心配を……しているようには見えないな)」

 

 普通に考えれば、この場において怯えている自分の事務所の子を心配して見に来ているのだろうが、私にはどうにもそうは思えなかった。観察するような、ともすれば見張るような、まるで彼女が余計なことをしでかさないように監視しているかのような冷徹な視線のように私には見えたのだ。

 

「(それに……あの子のマネージャーと仲は良くないみたい?)」

 

 彼の鋭い視線の先にいるのはモデルの子だけでなく、彼女に付き添っていた女性マネージャーも同じであった。しかし彼女は新社長から受けた視線を逆に睨み返し、そこに敵意のようなものも感じられた。ほんの一瞬のことだったから、社長とマネージャーの間で冷たい視線が交差していたことに気付いたのは私以外誰もいない。二人の間に一体どのような確執があるのか分からないが、きっとロクでもないことだろうというのは感じていた。

 

「あ……終わった……」

 

 気付けば件の子の撮影は終了しており、少女はマネージャーの元へと慌てて駆けつけてその胸に飛び込んでいた。余程マネージャーを信頼しているのか、或いは依存しているのか、彼女に抱きついた途端に少女の顔から恐怖が消えていた。笑顔とまではいかないが、そこには確かな安堵の表情があった。

 

「あの人、マネージャーさんのこと大好きなんですね」

 

「少し行き過ぎな気もするけど……」

 

 とは言え、誰しも縋りたい相手というのは存在する。少女にとってはその相手がマネージャーだったと言うだけだろう。少女はマネージャーの腕にぴったりくっついて離れないまま、二人は部屋を後にしていた。

 

「アイネさんは、ライガさんに対してあんな感じじゃないんですか?」

 

「生温い……私ならもっと……抉るように飛び込む……兄さんみを限界まで蓄える」

 

「なんとっ、兄妹を越えた素晴らしい愛ですっ」

 

「ふっふっふ……もっと崇めよ……」

 

 流石イヴは分かっている、と言わんばかりに得意げに鼻で笑う。実は同じことを言ってアゲハにはドン引かれたが、そのくらいは兄さん検定十段の私にとっては当然なのだ。……何? 私が兄さんに依存している? 上等だとも。地獄の底まで依存してやるとも。そうとも、燐子には負けない……血を分けた妹の力はこんなものではないのだといつか証明してみせよう。

 

 そんな束の間の平和なやり取りも、次の衣装に着替えるために部屋を出るまで続くのだった。

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

「(アイネさんにもモデルの楽しさを分かってもらいたいです)」

 

 電話がかかってきたという愛音と一時的に離れていたイヴは、一人建物の通路で彼女を待ち続けていた。初めてのモデルを務める愛音には自分が付いていないと、とイヴは今日の朝から意気込んでいた。愛音にはモデルとしての楽しさを是非分かってもらいたい、その気持ちで今日は愛音に寄り添い、今のところはまずまずの手応えを感じていた。モデル業を続けているイヴから見ても愛音は綺麗で、共に撮影をしていて彼女と更に続けていたいと思うようになっていたのだ。愛音にはモデルに必要なものが揃っている。そんな彼女とこれからもモデルを共にやっていけたならどれだけ素晴らしいことかと、イヴは未だ訪れていない未来に瞳を輝かせていた。

 

「……っ(あの人は……)」

 

 その時、イヴの視界に見覚えのある影が入り込んできた。それは先ほど愛音との間でも話題になった例の事務所の新社長の姿であった。だがその姿を見た途端にイヴは思わず身を隠し、その様子を窺い始めたのだ。新たに社長になったとは言え、未だ良くない噂が流れている事務所となればイヴも少しは警戒してしまう。もちろんそれを理由に彼を怪しいとするのは短絡的な思考だと彼女自身も理解はしていた。

 しかし、周りを注意深く見渡して、誰もいないのを確認してから人気のない通路に入っていくところを見て怪しまない者はいない。人目を気にするようなことがあるのだろうか。そう考えた彼女の未熟な正義感が先行してしまい、イヴは彼の後を追い始めたのだった。

 

「──ヤツ──いくらなんでも──」

 

「……(独り言?)」

 

 そしてイヴが目にしたのは、広く暗い通路の奥で一人愚痴らしきものを吐き連ねる男の姿であった。先までの冷徹で静かな様子から一転、荒々しい口調で壁を蹴りながら鬱憤を晴らそうとする姿は、社長という理知的な立場の人間とは到底思えず、イヴはその本性に目を見開いて驚きつつも観察を続けていた。

 

「俺の事務所には──食料は──それを一人──だけで──クソが──」

 

 男の激しい怒声は人のものとは思えず、まるで獣の咆哮を聞いているかのようにもイヴには思えた。誰かに対しての不満を零しているのだろうが、それも壁を蹴る音に遮られてよく聞こえなかったイヴは、更に男の元へと近づいていき、そして……。

 

「──節操なしだ? ふざけんなッ。目の前にたんまり食える人間がいるのに一人も食うなという方がおかしいんだ!」

 

「っ!(人間を……っ)」

 

 男の独り言をはっきりと聞き取った時、その恐ろしい内容にイヴは思わず息を飲んでしまう。衝撃は大きくとも小さな息を漏らしただけのイヴだったが、なんと男はその微かな吐息を聞き逃さず、声を立ててイヴの方へと振り返ったのだ。

 

「誰だッ!」

 

「っ!?」

 

 自分の小さな息を聞き取られたことに驚き、イヴは二度息を飲む。男は彼女を目にするや否や、先ほどまでの怒りの表情を収め、感情が抜け落ちたような顔を浮かべてイヴに迫っていく。

 

「今の……聞いたのか?」

 

「え、あの……」

 

 静かに訊ねる男に、イヴはすぐに言葉が出てこず反応が遅れてしまう。男は自分の発言が聞かれてはいけないものだと自覚しており、自分はそれを聞いてしまった。それに対して肯定することは自分の身に危険が及ぶことだと本能で悟っていたからこそ、イヴは直ぐに反応することができなかった。

 

「っ、今俺が言ったことを聞いたのかと質問しているんだ!」

 

「っ!? ひぃッ!?」

 

 男の態度が豹変し、癇癪を起こすように怒声を放ったその瞬間、男の影は大きく変化を起こした。全身を青と白のステンドグラスのような光る体表に覆われ、馬のような面をした怪物がそこに出現していたのだ。青と白のコントラストが映えるシマウマのような異形──ゼブラファンガイアは、ゆっくりとイヴへと近づいていく。

 

「あ、あなたが……事務所の子たちを……? あなた社長さんじゃ──」

 

「知るかッ! 誰が好きで人間なんぞの会社のトップに立つものか! あんなもの俺の会社でもなんでもないのに……クソッ! なんで俺が……あんなものただの食糧庫だろうが!」

 

「っ、酷いです! どうしてそんなこと言えるんですか!」

 

 人知を超えた怪物を前にして尚、イヴは恐怖よりも憤りが混ざっていた。彼女にとって初めて出会ったファンガイアが人間との共存を果たしている優しい人だということもあり、異形が人間を食料としか見ていない事実に愕然としていた。更には麗牙や、半分ファンガイアである愛音という優しい人を知っている分、余計に目の前の怪物が嫌なもののように感じていたのだ。

 

「人間に優しいファンガイアを私は知っています! なのにあなたはどうして──」

 

「喧しいわ! 元々ファンガイアは人間を食うことを誇りとしてたんだよ。おかしいのはむしろそいつらの方だ!」

 

「──っ、そんな……」

 

 人間と分かり合うことを理解しない怪物を前に、イヴは悲しそうに瞳を曇らせる。自分が素晴らしいと感じた人たちがおかしいのだと、疑いもせず信じる怪物に対してイヴは分かり合えない悲しみを感じていたのだ。

 

「あぁクソッ! なんで人間なんかと話をしてるんだ俺はッ。とりあえず……お前のライフエナジーを貰うぞ」

 

 怪物は最初から人間の話の通じる相手ではない。イヴが何を話そうが、彼がイヴの命を奪い去ろうとすることに何の変わりもなかった。太く変化した巨脚を踏み出し、重い足音がイヴへと近付いていく。しかしイヴは逃げることなく、通路の脇に束ねられていた鉄パイプの内の一本を引き抜くと、なんとそれを両手で構えて異形の前に立ちはだかったのだ。

 

「っ、許せませんっ。あなたのような人、私が懲らしめてやります!」

 

「は? 人間が俺を……? カッハッハッハッ! こりゃ傑作だ! 人間のモデル風情がファンガイアに立て付くなんてなァ!」

 

「っ……」

 

 怪物の恐ろしい威圧を受けても尚、イヴはそこから一歩も引くことはなかった。彼女の中の正義感が目の前の存在を許すことが出来なかったのだ。数々の人の命を奪い、その上自分の友達たちを馬鹿にしたこの異形に天誅を下さなければ。高鳴る胸の鼓動を抑え、イヴはそんな想いで武器を握りしめていた。

 

 しかし、イヴの得物が敵に襲い掛かることも、また怪物がイヴに襲い掛かることも無かった。

 

 

「それはだめ……イヴ……」

 

 

 イヴの肩に、声と共に手が優しく乗せられる。背後から響く、その聞き覚えのある眠そうな声にイヴは少しばかりの安堵を得ていた。

 

「アイネさんっ」

 

「モデルがそんな危険なことしちゃだめ……アレの相手は……私の役目だから……」

 

 イヴの背後から現れた愛音の姿を目にして、イヴの顔には再び笑顔が蘇っていた。そんなイヴの様子を見た愛音も薄らと微笑み返すと、イヴの掲げた得物を下げさせ、彼女の前に出て怪物の眼前に己の身体を晒したのだった。

 

「イヴ、下がってて……」

 

「あ? なんだお前? エサが増えたところでどうなるというのだ?」

 

「確かにそれは私も気になる……アンタがこの後どうなるのか……」

 

「何ぃ?」

 

 挑発に僅かな怒りの色を見せる怪物だが、それを歯牙にも掛けない愛音はすっと腕を上げ、その名を呼んだ。

 

「……キバット」

 

『よっしゃあ! キバって行くぜ! ガブッ!』

 

 愛音の呼び声に応え、飛来したキバットが彼女の手に咬みつく。牙から愛音の身体にアクティブフォースを流し込んだキバットは、愛音の腹部に形成された紅色の止まり木へ自ら飛び込んでいく。

 

 そして──

 

 

「変身」

 

 

 愛音の宣告が終わると共に、その場には紅の鎧が顕現していた。

 

「何ッ!?」

 

「アイネ、さん……?」

 

 初めて目にする王の鎧(キバ)を前に、イヴは目を丸くしてその場で固まっていた。先程まで自分と共にモデルをしていたはずの彼女はどこに行ったのか。あの大人しそうな少女とはまるで印象のかけ離れた威圧的な背中を目にして、それらが同一人物だと理解するまで時間がかかってしまっていた。

 

「キバっ……クソッ!」

 

「逃がさない……次狼」

 

『ガルルセイバー!』

 

 キバという予想外の存在を前にした異形は先までの威勢が嘘のように消え去り、彼女に背を向けて逃走を始めた。しかしキバは冷静に左のフエッスロットから青色の笛を取り出し、キバットに吹き鳴らさせた。

 

「きゃっ!? な、なんですか……っ?」

 

「ふっ!」

 

 高い笛の音と共にどこからともなく現れた青い彫像に驚くイヴ。そんな彼女を尻目にキバが左手でその彫像を掴んだ瞬間、キバの左腕と胴体を鎖が包み込んだ。そしてそれらが弾けた時、そこには紅から青に変化した王の鎧の姿があった。

 

「青くなった……?」

 

「ッ、ガルァァァッ!」

 

「あ、アイネ……さん?」

 

 ガルルフォームへと変身したキバは獣の如く吠え叫ぶと、地を蹴ってゼブラの後を追って駆け出した。それまでの愛音の眠そうな声をずっと隣で聞いていたイヴは、突然人が変わったように荒々しく叫ぶ愛音が信じられず混乱の極みにいた。本当にさっきまで自分と共にいた少女と同じ人なのかという疑いをより強めながらも、顛末が気になるイヴはキバたちの後を追いかけるしかなかった。

 

「グラゥォア!」

 

「っな!? グゥゥッ!?」

 

 裏口から人気の無い屋外へと飛び出したゼブラであったが、その直後に襲い掛かる青い影に反応する間も無く、キバの手に握られる魔獣剣ガルルセイバーの一撃を浴びせられた。重く鋭い一撃が青と白の身体を斬り裂き、火花を飛び散らせながらゼブラは吹き飛ばされていく。だがキバは敵に立ち上がる時間すら与えようとせず、すぐさま飛び掛かって異形の身体に剣を振りかざした。

 

「グラァッ! ガァッ!」

 

「ガハッ!? ィガッ!?」

 

 すれ違いざまに一閃、更に振り向きざまに一閃し、確実にゼブラの身体を引き裂いていく。しかし斬られながらも殊の外すぐさま体勢を立て直したゼブラは、キバに向けて口から光弾を発射したのだ。

 

「グゥッ……ハァァァァ!」

 

「ッ、フッ!」

 

「チッ……ハッ! シャァ!」

 

 至近距離からの光弾を飛び退くことで何とか躱したキバであったが、ゼブラは更に光弾を発射し続けてキバを自分から遠ざけようとしていた。しかし、このままゼブラを逃すわけにはいかないキバは飛び交う光弾の嵐の中を猛スピードで突き進んでいく。そして光弾の雨が緩んだ一瞬を突き、ようやく再びゼブラの懐へ潜り込むことができた、その時であった。

 

「へっ……ジェァアッ!」

 

「ッ、ガァッ!?」

 

「っ!? アイネさん!」

 

 キバの剣が届くと思われたその瞬間、ゼブラの口から今までの光弾より何倍も巨大なエネルギー弾が放たれ、キバの身体に直撃したのだ。鎧に着弾すると同時に大きく爆発を起こし、爆風の激しい勢いでキバは壁に向けて吹き飛ばされていく。このまま壁に激突するかと思われ、イヴの友を心配する叫びが轟いた時、彼女はベルトに停まる相棒に己の得物を咬ませたのだった。

 

「くっ……キバット!」

 

『おう! ガルルバイト!』

 

 ガルルセイバーの剣身にアクティブフォースが注入されると共に、キバは身体を翻して体勢を入れ替え、そして迫る壁を思い切り蹴って宙へと跳び上がったのだ。

 

「な、何ですかっ!? 急に夜にっ!?」

 

「何ッ!? ィシャァッ!」

 

 それを見たゼブラは再び光弾を連射するも、突然暗闇に包まれた景色に目が慣れなかったためにその攻撃がキバに当たることはない。キバは空中で剣の柄を顎で咥え、更にビルの壁を蹴ってキバの起動に目が追いつけなくなっていたゼブラに飛び掛かった。

 

 そして──

 

 

「ガルァァァァァァァァァァァッ!!」

 

「ヒッ!? ッゥグォァァァア゛ア゛ア゛ァ!?」

 

 

 ガルル・ハウリングスラッシュがゼブラを捉え、その身体に鋭い斬撃が刻まれた。断末魔と共にゼブラの身体はステンドグラスのように固まり、その直後、激しい音を立てて粉々に砕け散ってしまったのだった。

 

「グルゥ……」

 

「……」

 

 立ち上がり、手にした剣をゆっくり下げながら散りゆく色とりどりの破片の中で静かに佇むキバ。そんな青き剣士の姿を、イヴは輝いた瞳で見つめ続けるのであった。




これで解決……?
次回へ続く。
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