ボーカルでヴァイオリニストな彼は   作:春巻(生)

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『日本文化では、「妹」はしばしば可愛らしく守られる存在として描かれるわ。現実の家族関係を超えて、エンタメで理想化されることが多いけど、実は欧米などでは兄弟姉妹の描写がより対等で現実的だったりするのよ。日本で兄が妹を守る役割が強調されるのは、儒教の影響だと言われているわ。そうよねっ、お兄ちゃん?』


第155話 妹

 ──兄さん? アンタが……?

 

 

 それは、遠く青い日の思い出。

 

 

 ──細いし頼りなさげだし……全然兄貴っぽくない……。

 

 

 紅の異母兄妹が初めて出会った時の追憶。

 

 

 ──しゃーないか……温室育ちのお坊ちゃんだし。

 

 

 明らかな敵意を義兄に向けていた彼女は、あらゆる角度から彼を煽ることも珍しくなかった。

 

 

 ──うっざ……兄貴ヅラすんなし……。

 

 

 それでも彼女の義兄は、兄であろうとした。両親と触れ合うことのできない今となっては、彼女こそが残された唯一の肉親であったからだ。

 

 

 ──そんなこと関係ないし……アンタと家族とか、なんかキモいし。

 

 

 拒絶されているのは分かりつつ、彼は何度も妹に語りかけていた。しかしそんな兄の心の中にも、僅かに彼女のことを疎む感情が存在していた。

 

 

 ──パパに選ばれたの、私のママだし。分かる? アンタのママ、裏切られたの。無様な負け犬よ。

 

 

 やがて彼女は言葉にしてしまう。兄が心の奥底に隠していた暗い想いを。

 

 

 ──なんでアンタがパパの城にいるのっ……愛されずに生まれたくせに!

 

 

 いつしか限界を迎えた兄は、遂に兄であることを放棄した。これは妹ではなく、自分を踏み躙る敵なのだと、そう認識した。

 

 

 ──アンタが! アンタがいなければ私はもっとパパといられた!! アンタがいなければ!!

 

 

 彼女も兄同様、心の内に秘めた黒い感情を曝け出していた。

 

 

 ──アンタのママよりも私のママの方が愛されていたのに!!

 

 

 彼らは亡き父親の真意を知らなかった。愛に生き愛に死んだ父の真相を。

 

 二人は互いに親を勝手に解釈して生きてきた。故に、彼らはぶつかり合うことになってしまった。

 

 自己獲得のため、尊厳を守るため、存在理由を証明するため、兄妹は命をかけて相対した。

 

 

 

 

 

 

 しかし、彼女の本音は別のところにあった。

 

 

 ──なのに誰も私のことなんて愛してくれない!!

 

 

 彼女は愛に飢えていた。

 

 母を喪い、父と離れて暮らし、彼女のことを最も愛してくれる存在はいないのだと信じ切ってしまっていた。

 

 

 ──私もパパと毎日いたかったのに!!

 

 

 父親と会える日は限られていた。それでも彼女は父親を愛していた。それは、自分以上に父との時間を過ごす義兄の存在を知らなかったからだ。

 

 

 ──私もアンタのようにパパに愛されたかった!

 

 

 兄に向けられていたのは嫌悪や侮蔑ではなく、嫉妬と羨望であった。

 

 兄が自分よりも家族と共にいられたことを羨んでいた。

 

 自分よりも愛を受けていたことを妬んでいた。

 

 

 ──私も誰かに愛されたかった!! 私も誰かを愛したかった!!!!

 

 

 彼女の心は悲鳴を上げていた。

 

 彼女の音楽は助けを求めていた。

 

 愛を求め、愛に飢え、愛を諦めた悲しき少女の慟哭。

 

 もう手に届かないものだと絶望する嘆きの音楽がこだましていた。

 

 

 ──お願い邪魔なの……ねぇお願い! 私のために死んでよ!! 兄さん!!!!

 

 

 そんな壊れたような音楽を奏でる妹の心を知った兄は、再び認識を改めた。

 

 彼女は自分だと。

 

 そうなるかも知れなかった、もう一人の自分なのだと。

 

 だからこそ、彼は決めた。

 

 

『僕が……僕が愛音のことを愛するから!!』

 

 

 彼の叫んだ言葉が嘘か誠かは……もはや言うまでもないだろう。

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

「……っ……あい、ね……」

 

「麗牙……!」

 

 懐かしい夢を見ていた。苦く切なくて、でも大切な思い出。僕と愛音が本当の意味で家族になるまでの追憶……。

 

 目を覚ました天井はよく見慣れたキャッスルドランの王の間であった。そこには無数の薔薇の花びらが敷き詰められ、僕はその中央で横たわっていたようだ。身体を覆い尽くす薔薇の花が傷を癒やしてくれたからか、既に身体から痛みは無くなっていた。しかし気を失う直前の光景を思い出し、身体よりも心が痛みだし、拳を強く握り締めていた。

 

「よかった無事で……傷はもう大丈夫か?」

 

「はい……自分でもよくアレで生きていたものだと思います」

 

 ずっと見守っていてくれたのか、僕の目覚めを確認した健吾さんはホッとした表情で話しかけてきた。隣にはアゲハも立っており、目に隈ができている様子から相当心配させたことが伺える。

 あの時、僕は愛音の身体を奪ったロードの攻撃を受けて気を失った。一瞬だけだが、あの時感じた魔皇力から察するに相当の威力だったはずだ。だからこうして五体満足でいることに幸運を感じずにはいられなかった。

 

「……やったらサガークに礼言うた方がええわ」

 

「え?」

 

「サガークがね、身を挺して麗牙のこと庇ってたの。だから何とか致命傷は避けられたみたい」

 

 健吾さんの言葉に続いてアゲハが説明を引き継いで語る。やはりアレはまともに受けていい攻撃ではなかったようだ。咄嗟の判断で僕の防壁になったサガークのおかげで何とか生きていられたのだと理解したが、それと同時に頭の中に浮かんだ一つの疑問を二人から聞き出そうとした。

 

「……それでサガークは?」

 

「……」

 

「……」

 

「そう、ですか……」

 

 二人の無言の返事が答えだった。

 

 本来なら僕も死んでいてもおかしくない攻撃をその身に受けたのだ。きっと無事では済まないだろう。人工的に生み出されたメカ生命体だとしても、僕の代わりに犠牲になったことに強く心を痛めてしまう。僕の軽率な行動の結果故に、彼にはどう詫びていいか分からない。

 

「何とか原型は留めてたけど、流石に機動はせぇへんかったわ」

 

「一応、ナイトとポーンには修理を依頼している。でも、その……」

 

「サガには変身できない」

 

「うん……」

 

 サガークが起動できない今、サガへの変身は実質不可能となってしまった。そうなればロードへの対抗手段は黄金のキバしかなくなってしまうわけだが……。

 

「キバットとタツロットも……あの闇のオーラの影響か、まだ起き上がれないの。ずっと、というわけじゃないみたいだけど……」

 

「キバの鎧もダメ、と」

 

「……」

 

 レジェンドルガのロードに対抗するための鎧は使えない。そうなると相当厳しい戦いを強いられることは必至であろう。いや、厳しいなんてもんじゃない。愛音の身体を持った敵とやり合わなければならないのだ。僕たちにとって大事な存在と戦うことになる、それだけでもこちら側の戦う意欲を削ぐには充分なものであった。

 

 しかし、八方塞がりというわけではなかった。

 

「僕に策がある」

 

 目覚めた瞬間から僕の中には一つの“作戦”が浮かび上がっていた。まるで最初からそういう行動をとるのが分かっていたかのように、頭の中に浮かんだたった一つの最善の方法。その作戦を実行すべく、今はその策を彼らに伝える土台を整えたかった。

 

「アゲハ、いや“ビショップ”。ルークとガルル、バッシャー、ドッガを招集せよ……そこで話す」

 

「……仰せのままに。キング」

 

 その後、大ちゃんや次狼たちも含め、ロードに対抗するための作戦会議が開かれたわけだが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふンざけんなァッ!!」

 

「ぅぶッ!?」

 

 作戦の全貌を語り終えた直後、頬に重く鋭い痛みが走り、衝撃のままに僕は床へと倒れ込んでしまう。起きあがろうとする視線の先には、頭に血が登って拳をわなわなと震わせる健吾さんの姿があった。

 

 まあ有り体に言えば、彼に殴られたのだ、僕は。

 

「そんな作戦実行させるわけないやろこのアホがァ!!」

 

「っ……でも、最善の方法です」

 

 じんわりと痛む頬には意識もくれず、僕は冷静に健吾さんに伝える。それが間違いなく最も確実で最善の方法だと信じているからだ。

 僕が彼らに伝えた作戦は大まかに第四段階まである。それらを全て成功させることができれば、愛音を取り戻すことができるうえ、ロードを滅ぼし、僕もみんなもいつも通りの日常に戻ることができる。正に言う事なしの完璧な勝利が待っている。

 

 しかし、作戦の過程で一つでも失敗してしまえば……。

 

「いくらお前やかて失敗したら死ぬだけやんか!」

 

「それしかないんですよ!! 愛音は僕の、僕だけの妹なんだ! 僕以外に救える人なんていない! 愛音は僕の助けを待ってるんだ!!」

 

 それでもやるしかないのだ。ロードに完全に支配される直前、あの時に愛音は僕に助けを求めていた。彼女が「助けて」と言ったのだ。ならば僕がやるしかない。いや、僕以外にやらせるわけにはいかなかったのだ。

 そんな強い想いがために熱が入ってしまい、いつしか声を荒げて僕は健吾さんに突っかかっていた。

 

「じゃあ燐子ちゃんどないすんねんお前!! 仲直りもまだやってのにお前が死んでもたら、今度こそ……今度こそ燐子ちゃん本当に終わってまうやろ!!」

 

「っ……」

 

 健吾さんの真に迫る言葉を前に僕は思わず言葉を飲んでしまう。彼の言う言葉は正しい。もし作戦が失敗して僕が二度と帰ることがなければ……彼女の心は深い闇の底に沈んでしまうだろうことは想像に難くない。少し前の僕なら自惚れすぎだと自嘲していたが、恋人として燐子さんの音楽を聞き続けた今なら、そう確信してしまう自分がいた。

 

 そして僕の音楽を信じ、好きだと言ってくれた友希那さんも間違いなく……。

 

「燐子さんには……絶対に知らすわけにはいかない(友希那さんにも……)」

 

「当たり前や。誰にも言えるかこんなこと!」

 

「なら、それでやるしかない」

 

「っ、お前は……!」

 

 作戦の実行はここにいる人以外の者には伝えるつもりはない。キバーラと名護さんは例外として後で伝えるが、そうでない限りは絶対にこの作戦のことを知られてはいけない。

 情報漏洩の阻止という意味もあるが、それ以前に作戦の過程で起きる出来事を前にして、燐子さんたちの心が耐えられる気がしなかったからだ。

 

 そう、実行するなら誰にも知られることなく、誰にも気付かれることなく全てを終えなければならない。

 

 少し日が経てば、僕も愛音も当たり前のようにいる日常がある。いつも通りの光景が、気付いたら戻ってきている。そんな結末を僕は望んでいた。

 

「それに、もうみんな分かっているんでしょ? 既にこの作戦は必ず実行しなければならないもの(・・・・・・・・・・・・・・・)だってこと」

 

「……」

 

 僕の言葉に対して誰も声を上げることはなかった。決して荒唐無稽な作戦ではないが、誰もが僕の策に反対したいのは皆の心の音楽を聴けば分かることであった。しかし、僕が作戦を立案した時点で実行は避けられないものだということも、皆が理解していた。

 

 もう止めることはできない。

 

 それは、この作戦を思いついた僕自身でさえも……。

 

「それでもや。たとえ作戦の第三段階まで上手くいったとして……いや、多分いくやろうな。それはここにいるみんなが何となく感じてる。でも、その先は誰にも……」

 

「……だとしても、愛音は戻ってくる」

 

 健吾さんの察した通り、作戦が成功すれば愛音は助かり、僕も無事でいられる。反面、失敗した場合は愛音が助かるが、僕は二度とみんなと会うことはできなくなる。そして残念なことに、肝心の作戦の最終段階については成功確率は未知数であった。その確率がどのくらいあるか……それは名護さんの持つ情報(・・・・・・・・・)によって大きく変わるだろう。故に、僕には確実なことは言えなかった。

 

「お前が戻ってこんと何の意味もないって言ってるんやろさっきからよ!!」

 

 健吾さんの反対理由はその一点張りであった。彼はより安全で確実な方法を僕に模索してほしかったのだろう。僕の命を賭ける以外の方法を提示してほしかったのだろう。しかしそれは無理な話だ。どんな結果になろうとも愛音が確実に戻ってくるという最低ラインがある以上、僕は決して今の意見を曲げることはない。

 だから僕は健吾さんに向かって叫んでいた。

 

「自分の命を賭けずに妹を助けられるなんて、そんな甘い考えは端っから持っていない!!」

 

「っ……」

 

 僕は今、自分の命と愛音の命を天秤にかけていた。しかし、どちらかを一方を選ぶなんてことはしない。僕が狙うのは当然、天秤ごと掻っ攫うことだった。それは以前に松原さんが囚われた時の健吾さんと同じ選択であることを、果たして彼自身は気付いているのだろうか。

 

「僕は愛音の命も、自分の命も諦めないよ。だって、僕はいつだって強欲で傲慢で、独善的な王様……なんでしょ?」

 

「嫌や……俺は嫌やそんなん……っ」

 

「健吾さん……」

 

 しかし僕の両方を掴む健吾さんの手は震えていた。今度は怒りではなく、悲しみと恐怖の入り混じった震えであった。もはや僕を止められないことを彼は理解しているのだろう。それしか正解はないのかもしれないと感じているのだろう。

 それでも、健吾さんは僕が消えゆく可能性を拒絶せずにはいられなかった。人生の大半を共に歩んできた親友を失うことに、恐怖せずにはいられなかった。でも、そんな健吾さんだからこそ僕は彼のことが好きになって、今もこうして親友であり続けている。僕はそんな彼を宥めるように、優しく語りかけていた。

 

「健吾さんが諦めたら僕まで心配になるよ。お願いだから……僕を信じて……」

 

「そんなん……そんなんズルすぎるやろ……」

 

 ズルいなんてことは自分でもよく分かっているつもりだ。それは僕の真剣な願いを彼が無碍にできるはずがないことを知っていたから。健吾さんに信じて欲しいというのは僕の本音で間違っていないが、この場合は流石に健吾さんに酷すぎたかもしれない。

 

「麗牙が俺らを裏切るはず、ないもんな……」

 

「当然です」

 

 ゆっくりと僕から手を離し、下がっていく健吾さん。その顔に薄らと浮かんでいた笑みは果たして諦めか、それとも悟りか……。ともかく、彼がこれ以上反対意見を出すことはないことは察することができた。そんな健吾さんの様子を見て、まだ一度も口を開いていなかったアゲハが彼に囁いた。

 

「健吾……もういいの?」

 

「ああ、もうええわ……悪かったなみんな。話止めてもて」

 

「いや、お前が言ってくれたおかげで、ここにいる皆の溜飲が下がっただろうさ」

 

「あ、やっぱりみんなもそうだよね……」

 

 次狼の言葉に皆が軽く頷いた。その様子を見る限り、ここにいる全員が僕の作戦に何かしらの不満を抱いていたようだ。そうでなければ最初に健吾さんに殴られた時に、誰かしら止めるか非難するかしていただろうし……。容認されないことは想定済みのため全く驚きはしないが、それでも声に出てしまっていた。

 

 そして、それが彼女の不興を買うことになってしまう。

 

「当たり前じゃない!! しかもよりによって私になんて役目押し付けてんのよ!? ホント信じらんない!!」

 

 健吾さんの激情を目の当たりにしたおかげで何とか堪えていたアゲハだが、ここに来て我慢の蓋が開いてしまった。だがそれも仕方のないことだとは思う。この作戦の要は僕だが、次点で重要になるのはアゲハだ。彼女の行動が上手くいくかどうかで、僕の運命が決まると言っても過言ではない。それほどの重く苦しい責務を僕は彼女に押し付けてしまったのだから。

 

「私だって嫌……こんなことしたくない……想像するだけでも涙が出そうなのに……!」

 

「それは本当にごめん。自分でも酷いことだと思ってる。でも、アゲハを信用してのことだから。アゲハじゃないと、こんなこと頼めないから」

 

 上っ面の言葉ではなく、本当に今にも泣き出しそうな顔で僕を睨みつけるアゲハ。本当は反対したいだろうし、逃げ出したくて堪らないのだろう。それほどの苦役を僕は彼女に課しているのだが、彼女は絶対に逃げたりしない。

 

「分かってる……分かってるよ! やらなきゃいけないものね……私はビショップ……貴方の忠実なしもべだから……」

 

 ビショップという立場故に。そして、僕を信じているが故に。アゲハは僕の掲げた作戦を実行することを決めてくれた。そんな真面目な彼女だからこそ、僕はいつだって彼女を信用してきた。故に今回も、僕の命を預けるに相応しい存在だと確信していた。

 ただ、泣きそうになりながら僕の命令を守ろうとする彼女を見ていると、どうしても罪悪感を拭いきれなくなる。周りよりも小さな身長を持つアゲハだから余計にそう思わせてしまうのだろうが、彼女を悲しませる自分はなんて酷い王様なのだろうと自嘲したくなる。

 

「大ちゃんは──」

 

「俺は麗牙が無事であることを信じている。それ以外に何も考えることはない」

 

「──やっぱすごいねキミ」

 

 彼の醸し出す大物感には敵わないものだ。心の中では心配しているはずなのに、それを全くおくびにも出さない。彼の物怖じしない様子を見ていると、僕までが自信に満ち溢れてくるような感覚がする。これまでも彼の自信があるから、僕も自信を持ってキングとしてあり続けられたところもあったのだから。

 

「とりあえず、全部終わったらゲームに付き合え」

 

「分かったよ。気の済むまでやろう」

 

 きっと僕がまたNFOから離れていることを憂いているのだろう。そんな彼と約束を結び、次は次郎たちを見据える。ここまできたら、彼らの想いも是非とも聞いてみたいと思っていた。死地に向かう僕にどんな反応を向けるのか気になっていたのだが……。

 

「次狼──」

 

「いらん」

 

「──え?」

 

 彼らからの言葉も聞こうとして、しかし一刀両断されてしまう。何がいらないのかと呆気に取られていると、ラモンと力が言葉を続けてくれた。

 

「確かにそうだね。ていうか、こんなところで語り尽くしちゃうの、ちょっと勿体無いよね?」

 

「人生……長い……」

 

「ま、そういうことだ」

 

 言葉はいらない。二人が代弁したことが全てなのだろう。彼らも次狼も、ここで僕が終わるなんて考えていなかったのだ。

 だがよく考えてみればそうだ。僕自身が不安が拭いきれなかったために皆に何かしらの言葉をかけていたが、それは悲観しすぎていたのかもしれない。

 皆に策を披露した手前、僕が不安がっていては何も成せやしない。達観した価値観という意味でなら、僕たちより圧倒的に歳上である彼らにはどうしても勝てそうにはなかった。

 

「やっぱり年の功ってすごいな」

 

「俺たち……すごい……」

 

「ねぇ、ぼくまだ百二十七歳なんだけど?」

 

「麗牙もまずは百年生きてみることを勧めるぞ」

 

「ふふ、分かった。やってみるよ」

 

 年長組の励ましで勇気と元気が湧いてきた僕は、いつしか心からの笑みを取り戻していた。早死にするつもりは毛頭ないが、また一つ死ねない理由ができてしまったことを嬉しく思っていた。きっと今の僕ならやり切れる。未知数の成功率であるこの作戦にも、そんな希望が持てていた。

 

 そして、皆の顔を再び一瞥した僕は高らかに宣言した。

 

 

「よし、やろう! ロードを倒して、愛音を連れ帰る……!」

 

 

 僕はファンガイアのキングで、愛音の兄だ。一族にも、そして何より妹に無様な姿を見せるわけにはいかない。

 

 

 ──兄さん……。

 

 

 僕は愛音を助ける。

 

 

 ──私のこと……愛してくれるの……?

 

 

 彼女との約束を破りはしない。

 

 

 ──私……愛されていいの……?

 

 

 二度と彼女に愛を諦めさせはしない。

 

 

 ──愛しても……いいの……?

 

 

 これからもずっと、彼女に愛の音楽を聴かせ続ける。

 

 

「(だから待ってて愛音。すぐにまた会えるから……)」

 

 

 その翌日、僕は作戦を実行に移し、そして第一段階が完了したことを皆に報告したのだった。




最近この小説を読み始めた人は愛音(あいね)と愛音(あのん)でややこしいかもしれませんが、なんとか付いてきてください。今のところ愛音(あのん)は出てきていませんので……。

さて、麗牙の作戦の全貌とは……?
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