ボーカルでヴァイオリニストな彼は   作:春巻(生)

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『ロックが生まれたのは、1950年代のアメリカ大陸である。当時は音楽的に明確な定義はなく、黒人音楽と白人音楽の融合体として、広く庶民に愛されたポピュラー音楽であった』

「……ねぇ、誰に言ってるのそれ?」


第1話 開演:Destiny's Play

 TETRA-FANGのライブが行われるのは、CiRCLEから離れた場所にある大きめの施設──『LiFE(ライフ)』と呼ばれるライブハウスだ。名前こそ違うがCiRCLEとは同系列の施設であり、内装などはCiRCLEとかなり似通ったものになっている。私もCiRCLEができる以前は何度か足を運んでいたけど、近場にちょうどいいCiRCLEができてからは随分とご無沙汰になっていた。

 会場の入り口前では日曜日の午前中のためか人で混雑しており、お陰であこと燐子は先に到着した私たちを見つけるのに苦労したようだ。

 

「これで全員揃いましたね。では早く入りましょう」

 

「……紗夜?」

 

 全員揃うや否や、紗夜はそそくさとLiFEの中へと足を踏みいれようとする。時間に厳しい彼女のことを考えればそれは別段変わりない態度ではあるが、今はまだTETRA-FANGのライブが始まるまで五十分近くも時間に余裕がある。確かに今し方オープンしたから会場へ入ることはできるが、今日この時間にLiFEのステージを借りているのは彼らだけなので、早く入っても他のバンドの様子を見ることはない。施設の中を見学すると言うなら分かるが、彼女の様子からするにその線もなさそうだ。会場に入れるのは今から十分後だが、無駄な時間を作ることを嫌う彼女が、わざわざ四十分近くもライブのステージの前で待っているだけとは到底考えられなかった。

 故に、よく言えば浮き足立っているような、悪く言えば落ち着きのない紗夜の様子が気になって、つい声をかけてしまう。

 

「どうしましたか湊さん? 私、あまり時間を無駄にしたくないので」

 

「いえ、私はむしろ早すぎると思うのだけれど」

 

「確かにそうだよねぇ。予定だとスタートは五十分後って書いてあるし、アタシはもうちょっとここを見学していきたいな〜って」

 

 リサもあまりにも早すぎる会場入りに困惑した態度を隠せずにいた。私とリサの疑問に対して紗夜は少しだけ困ったような表情を浮かべて考えるような仕草をとるが、私はその様子が言葉を選んでいるように見えた。しかし、そんないつもと違う紗夜の態度を理解していたのが一人だけいた。ある意味、それは当然の帰結であったけれども。

 

「おおっ、もしかして紗夜さんも知っていましたか!?」

 

 それは集合時間を決めた当人のあこだった。時間を決めた当初は、慣れない場所のため早めに着くか、先に施設の様子を見る時間を作っているのかと考えていたけれど、どうやらあこには他の考えがあったようだ。

 

「あこちゃん……もしかして、他に何かあるの?」

 

「ふふふ……それは〜……行ってからのお楽しみ! というわけで早く行こう!」

 

 それだけ言うと紗夜さえ追い抜いてLiFEの中へと入っていくあこ。何故か何も話してくれない紗夜を除いて私たちは首をかしげるが、置いていかれるわけにもいかず、仕方なく二人の後を追うことにした。

 その後あこが予約したチケットを受け取り、五人揃って地下のライブ会場の入り口まで辿り着くが、その時点で既にある程度長い客の列が出来上がっているのを目の当たりにし、リサが感嘆の声を漏らしていた。

 

「うひゃあ〜まさかスタート四十五分前なのにこんなに人が集まるなんてねぇ」

 

「それだけ固定のファンが多いということなのかも……」

 

 ライブハウスへ入場するにはチケットの購入が必要で、基本的にそれは全て売れたとしても会場に入る客の限界数であることが多い。そのため、ただ見るだけ聴くだけならば開演ギリギリに入場しても問題ない。現に私たちのステージでも開演ギリギリに来る人や曲の途中で来る人だっている(それはそれで悔しいのだけれども)。それにも関わらず、開演四十五分前でこの人数の列はもはやアマチュアのレベルとは思えなかった。TETRA-FANGはプロに所属しているわけではないし、しかも大人が一人だけで残り三人は私たちと同じ高校生だという。それでいてこの固定ファンの数はすごいと言わざるを得ない。

 しかし結成三ヶ月ほどのロックバンドが何故これほどの……? そんな私の疑問を知ってか知らずか、あこは嬉々としてそのヒントを教えてくれた。

 

「ファンしか知らない前座というものがあるんですよ!」

 

「前座……か」

 

 あこの言葉をそのまま捉えるとすれば、彼らはライブ前に何かしらのパフォーマンスをするものと考えられる。確かにそういうものは他のバンドでも何度か目にしたことはある。しかしTETRA-FANGの本当にすごいのは、それを知った客が今日のようにまた来るようになるところだ。純粋にリピーターが多いというのはバンドとして相当の強みだろう。

 

「(紗夜は知っていたのね。TETRA-FANGのこと)」

 

 流石にそれに気付かないほど愚かではない。音楽に関しては人一倍熱心に向き合っている彼女のことだ。最近注目を浴びてきているバンドの情報など知っていて当然か。前座があるというのは自分が調べた範囲では見つからなかった情報だけど、それを紗夜が見つけていてもおかしくないだろう……そこまで考えた時、ふと頭の中にもう一つ疑問が生まれた。

 

 ──それは紗夜がわざわざ私たちに言わず、また楽しみにするものなの?

 

 先日も何故か最初は乗り気ではなく、私がライブに行かないと言えば紗夜は最後までTETRA-FANGの存在を匂わせるような態度は取らなかっただろう。知っていたなら「そのバンドなら聞いたことがあります」くらいのことは言う人物なだけに、そこが気になっていた。

 紗夜もあこと同じくその前座の正体を知っていて、でも敢えて口にしないでいる。しかし何も言わずにいても、今の紗夜の様子はどこか期待の色を匂わせているように感じられた。あまりにもポーカーフェイスが決まっているけれど、先までの態度から彼女が何かを楽しみにしているのは明らかだった。だからつい我慢できなくなって問い質してしまう。

 

「紗夜。珍しく楽しそうだけれど、そんなにいいものなの?」

 

「た、楽しそうって……んん、別にそこまで期待しているわけではありませんが。第一、アレは私たちの演奏にはあまり当てはめられないというか、参考になるものでもありませんし……」

 

 あからさまに動揺した紗夜の口からどんどんと前座の情報が漏れていく。なるほど、彼女がそう言うからにはソレはバンド……少なくともギターに関連するものではないということだ。しかし自分の参考にはならないといった手前、それをわざわざ率先して見に来ている時点でその言葉の信用度は知れている。

 

「へぇ〜紗夜がそんなに楽しみにするものなんだ〜。なんだかアタシまで楽しみになってきちゃった!」

 

今井(いまい)さん! だからそこまで期待していないって言ってるのに」

 

 無論、私が感じ取れる程度の事をあのリサが見逃すはずもなく、嬉々として紗夜に詰め寄る。かく言う自分もリサと同じく、紗夜の期待するものに対して興味が湧き始めた。ただの前座だというのに、一体今から何が始まるというのだろうか。私の中の期待もどんどん膨らんでいく。

 

「あ、列が進んだ」

 

「やっと入れるよー!」

 

 やがて列が進み、私たちもライブ会場へと足を踏み入れた。ドリンクを注文する人の群れを無視して出来るだけステージの側へ近づいていくが、ステージ上には楽器が置かれているだけで他には何もない。今日はある意味彼らの貸切状態なのだから楽器だけが置かれている状況は理解できる。今頃TETRA-FANGの面々は控え室で思い思いの行動を取っていることだろう。そんな中ステージの楽器を見ていた燐子がある事に気付く。

 

「あれ? キーボードとギターと……あ、ドラムがないんだ」

 

「基本足りない部分は打ち込みなんだって。でもたま〜にヘルプでドラムが入ることはあるみたいだけどねっ。超超レアものだよ!」

 

 打ち込みにしても技術と知識が無ければ到底適うものではない。ましてやその時その時のコンディションに大きく左右されるライブ会場では、どんな時でもその打ち込んだ音に合わせなくてはならない分、相当なハンデになるものと私は考えている。先に断っておくが、私は自分のスタンスとして基本的に打ち込みは少なくしているが、決して嫌っているわけではない。手段の一つとしては大いにありと認めている。まあそれはそれとして、ドラムの入った彼らというのも見ては見たいけれども。

 その時、会場入りした客たちから声が上がり始めた。

 

「あっ! キタキタぁ!」

 

「あれがボーカルのRAIGA(ライガ)ね」

 

 ステージに現れたのは少し細身の長身の男性だった。長い赤毛に高校生らしい幼い顔付きが妙にマッチして甘いマスクを形成している。だけど騙されてはいけない。この見た目優男から繰り出されるシャウトは中々激しく、私が動画で初めて見た時はそのギャップに度肝を抜かされた。

 彼がTETRA-FANGを代表するボーカルのRAIGA。だけど今ステージの上にいるのはボーカルというよりも……。

 

「ヴァイオリン……?」

 

 彼の手に握られていたのは紛れもなくヴァイオリンだった。まさか前座とは……それを確信した時、彼はこちらへ向けて一礼した。

 そして、ヴァイオリンを構え、瞳を閉じ……会場に彼の調べが響き渡り始めた。

 

「……」

 

 会場に彼の音が鳴り響く。

 

 それ以外は静寂に包まれ、彼の音だけがこの場を支配する。

 

 どこか幼いような、怯えのような色を孕んだ音色は、しかしどうしてか非常に力強さも備わっているように感じられた。

 ゆらゆらと揺れる綱渡りのように、運命に誘われるように歩き続けた彼の音は、やがて自分の意思を持ったかのように強かに変化していく。

 あまりにも綺麗で繊細で、でも不器用にも思えるその音色を前に、私はついつい聴き入ってしまっていた。

 

「……ぁ」

 

 最後に寂しげな声を残して消えていくヴァイオリンと、訪れた静寂によってようやく私は周りへと意識を向けることができたほどだ。ちらりと他のメンバーへと視線を向けると、リサと燐子は息を飲んで圧倒されているようであった。あこは相変わらずの笑みを浮かべたまま、そして紗夜はどこか落ち着いたような、憑き物が落ちたかのようなすっきりした笑みを浮かべている。

 

「……あっ」

 

「?」

 

 その時、彼の視線がこちら側へ向けられたような気がした。誰かを見つけたのか、ほんの僅かに見開かれる彼の瞳。

 しかし彼の音はまだ終わりではない。感動していたのも束の間、彼は次の演奏を奏で始める。今度は先ほどのような心を揺さぶるようなものではなく、むしろ心踊るようなテンポで流れ始める。それは奏者の心を写すかのように辺り一面に響き渡り、誰が聞いても何かいいことでもあったのだろうか、と思わせるような調べであった。しかしそれでいて調律は完璧であり、聞いているこちらまで楽しい気持ちにさせられるような、不思議な感覚であった。

 

 それから何曲演奏しただろうか、自分でも気が付かないほど時間が流れていたようだ。いつの間にやら開始の十分前になっていたようで、常に密着状態にあった彼とそのヴァイオリンはようやく離れる。

 そこで初めて、彼は観客側へ向けて口を開いた。

 

「えー……いつも僕の練習に付き合ってくれて、みなさん本っ当にありがとうございます。ですが本番はここからです。もう間も無くTETRA-FANG……僕たちのステージが始まりますので、期待しててください!」

 

 男性の少し高めの声が会場に流れていく。あまり喋り慣れていないのか、少し照れ臭そうに年相応に話す彼が、先ほどの凄い演奏を奏でたヴァイオリニストと同一人物なのか一瞬疑ってしまう。期待の歓声と共にステージ裏へ去っていく彼を見送ると、燐子が何かに気付いたようで……。

 

「あ、あこちゃん? も、もしかしてあの人って……」

 

(くれない) 麗牙(らいが)。今話題になっている高校生ヴァイオリニストですね」

 

 燐子の質問に即座に答えたのは紗夜だった。高校生のヴァイオリニスト……確かにそんなニュースを見た事ある気はするが、流石に顔や名前までは覚えていない。あの歳でプロ顔負けの実力を持ったそれは正に天才と言えるべき──みたいな内容だったけど、正直よく思い出せない。

 

「あぁ〜なんかそんなニュース見たことあるかも。今を時めく『天才ヴァイオリニスト』って注目されてたやつ。それって彼のことなんだ〜」

 

「そうっ。何を隠そうTETRA-FANGのボーカルこそが、あの天才ヴァイオリニストの……じゃなくて、天っ才☆ヴァイオリニストの紅麗牙!」

 

「今の、言い直す必要はあったのかな……」

 

 そんな燐子の些細な疑問は哀れにも人混みの中に溶けていく。しかしなるほど、確かにこれは魅力的な前座だ。メディアにも取り上げられるほどの天才ヴァイオリニストの演奏が、ライブハウスの入場料という安価で堪能できてしまうのだから、例えバンドに興味が無かったとしても行きたくなるものだ。それに彼が言ったように、これはあくまで公開練習で、本番時間前に客に見てもらうという体裁を取っている。観客を前にした練習をしたい彼やそれを見たい客からすれば得もいいところだが、ライブハウス的には大丈夫なのかという疑問は残る。よほど自分の実力に自信が無ければできない芸当だろうが、あの人畜無害そうな人相からは想像もできないほど、彼は勝気な性格なのかもしれない。

 

「けれど、大事なのはここからよ」

 

 当初の目的を忘れないためにも私はみんなに声をかける。素晴らしい演奏であったが所詮は前座だ。アレを前座として扱ってしまう彼らのステージとやらがどれほどのものか、リサも燐子も気にならないはずがなかった。

 

 そしてその時はやってくる。会場の湧き上がる声援と共に、ステージ裏から四人の人影が姿を現した。

 

 一人は無精髭を生やし、ワイルドに着飾った革ジャンが特徴的な男性。このTETRA-FANGで唯一の大人である、ベースのJIRO(ジロウ)

 

 一人は髪の毛を金髪に染め上げた、いかにもなチャラチャラした格好の青年。RAIGAと同じ高校に通うというギターのKENGO(ケンゴ)

 

 一人は真っ黒な薄いローブに身を包み、キーボードの前に立つや否や、そのフードを取り上げる。そこから現れたのは小動物のような可愛らしい顔をした女の子だった。彼女がTETRA-FANGの紅一点、キーボードのAGEHA(アゲハ)

 

 そして最後の一人が、先ほどまでステージの上に立っていたボーカルの──

 

「って、な、何あのアレ……?」

 

 ボーカルのRAIGA──彼がステージに現れた瞬間、その身に纏う衣装に変な声を上げてしまう。さっきまでの彼は動きやすいラフな服装でヴァイオリンを弾いていたのに、今の彼は全身を漆黒の革コートで包み込み、胸元から真っ赤に燃えるような紅のシャツが顔を覗かせいた。肩からも真っ赤な布を垂れ下げており、下半身も黒の革製のタイトなパンツとブーツで固めている。極め付けは全身から彼を包むように散りばめられた鎖であった。

 そんな相手を威圧するような、結構ヤバイ方のV系が好みそうな彼の格好に混乱せずにはいられなかった。これが普段の彼の姿なのかと隣へ目をやると、紗夜とあこも同じように口を開けて驚きを隠せずにいた。燐子に至っては若干涙目になっている。一体さっきまでの優男はどこに行ったのだろうか。正直、顔だけ付け替えた別人が立っていると言われた方が信じるくらいだ。

 しかし他の客から湧き出るけたたましい歓声がそんな混乱すらも打ち消してしまう。今この空間を支配しているのは間違いなく彼なのだ。彼の観客を引き込む力は常人のそれを優に超えていると言わざるを得ない。

 

「TETRA-FANGです! 早速ですが聴いてください──『Destiny's Play』」

 

 前置きなんて無く、それは突然訪れた。先ほどのRAIGAと同じヴァイオリンの音が響いたと思った次の瞬間、会場を激しいロックサウンドが包み込んだ。同時に湧き上がる観客たちにつられるように、私たちもそれに着いていく。

 

 そして、彼の歌声が支配を始める。

 

 TETRA-FANGの一曲目──Destiny's Play。それは雁字搦めに絡まった意固地な己からの解放を謳ったものだ。聴く人が聴けば必ずドキリとするし、何ならすぐ身近にそういう人がいたような気もする。私がかつて動画で見ていたのもこの曲だったが、動画で見るのと生で肌で感じるのとはやはり別物だ。大音量で部屋中が震え、身体の芯まで伝わり、心まで熱くさせていく。それもライブの醍醐味といえるが、今日は何故か異様に心が震えるような気がしていた。

 だけど凄いのはRAIGAだけではない。彼の声に、他のメンバーの誰もがそれに応えている。三人とも、RAIGAが求めるもの全てを彼に捧げている。そういう風に思えてしまうほど非常にまとまった、結束力の強いバンドだということがよく分かった。

 彼らが凄いのは技術だけではない。彼らのステージには見ている人を掻き立てる、言葉では表現できない何かがある。純粋に音楽を楽しみ、周りの人間も幸せにしていく何か……そうだ、私はそれを感じたことがある。私たちと同じCiRCLEで出会ったあの四つのバンドにも感じた何か……それがこのTETRA-FANGにも備わっているのだと感じられた。

 

「まだまだいきます! 次──『Eternity Blood』」

 

「キター! あこの好きな曲〜!」

 

 今度はAGEHAの奏でるキーボードが場を支配し始めた。凄まじいまでの正確さで鍵盤を叩いていく小さな彼女のソロから始まり、続いて非常に特徴的ならメロディから繰り出される変拍子の楽曲が辺りを包み込む。纏わる詞もまた幻想的で、なるほどあこが好きと言うわけだと納得してしまう。

 

 

 

 

 

 やがて、予定されていた四十五分間をフルに使い、無事TETRA-FANGのライブは大成功のうちに幕を閉じた。

 

「みなさん、今日は本当にありがとうございました。僕たちはこれからもどんどん、バキバキ活動していきますので、えぇ、どうかみなさん、応援よろしくお願いします! TETRA-FANGでした、ありがとうございました! また会いましょう!」

 

 さっきまで魔王の如く歌声だけで場を支配していたとは思えないほどの腰の低さで挨拶を終え、RAIGAたちTETRA-FANGはステージを後にした。

 そんな彼の姿を、ついつい目で追ってしまっている自分がいることにも気付く。何故だろうと少しだけ考えて、そして思い当たる理由に自分自身が困惑していた。

 

「(何故かしら……少しだけ、似てる気がした……お父さんに)」

 

 顔も格好も歌声も、何もかもが違うはずなのに、私は彼の歌う姿に父の姿を空目してしまった。いくら考えても理由は分からないが、それでも彼に父に似た何かも感じてしまったのは確かなことだった。例えそれを抜きにしたとしても、多くのバンドのステージを見てきた自分が、その中でも特にTETRA-FANGに魅力を感じてしまったこともまた事実だ。

 興奮冷めやらぬまま会場を後にした私の心には、いつしかこんな想いが生まれていた。

 

 

 ──いつか彼らと共にライブを行えたら素晴らしいわ……と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まさかその機会を得るチャンスが秒で訪れるとは思わなかったけど……。

 

「あっ、紗夜さん! 僕たちのライブ、見にきてくれたんですね。ありがとうございます」

 

「く、紅さんっ?」

 

「「ええっ?」」

 

 人混みの中から、深く帽子を被った青年が紗夜に声をかけてきた。

 それは今の私たちの話題の中心──TETRA-FANGのボーカルであるRAIGAその人であった。




次回「第2話 心の音:Determination Symphony」
明日の更新です。ご期待ください。
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