ボーカルでヴァイオリニストな彼は   作:春巻(生)

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『オンラインゲーム、或いはネットゲームの始まりは1997年と言われている。その当時のゲームでは遊ぶのにパソコンや英語の知識が必要とされ、その上通信費が無駄にかかったりと様々な問題が存在していた。ネット環境があれば誰でも手軽に遊べる今とは大違いだ。そこの君っ! 課金はほどほどにだぜっ!』


第38話 プレイヤー/帰ってきた右腕

「麗牙。俺は新しい『ゲーム』を見つけたぞ」

 

 そう彼が言い出したのは、彼の長い旅路の報告が終わった後のことだった。

 

 しかしそもそも彼とは誰なのか、まずはそこの説明からだ。

 僕は彼を「大ちゃん」と呼んでいるけど、本名は誰も知らない。彼に物心がついた時には既に、彼は家族も親戚もいない孤独の身であったからだ。今回は彼との出会いについての説明は割愛させてもらうが、ともかく僕が知るのは彼の魂に刻まれた真名と、そして彼の役職名だけだ。そして僕を除く殆どのファンガイアは彼をこう呼んでいる。

 

 ──ルーク、と。

 

 ルーク……チェスの駒において「城」または「戦車」を意味するもの。そしてそれはファンガイアのキングの右腕として、或いは護衛として、或いは先鋭としてあらゆる敵を排除する、正に一騎当千の猛者に与えられる名誉ある称号であった。しかし「ルークの称号」は誰かによって与えられるものではなく、「運命」によって選ばれる。この世に生を受けた時、或いは前任者の力が衰えるか失われた時、キングを除いて最も力のあるファンガイアの手にルークの刻印は浮かび上がるのだ。残酷なことにこの力に選ばれる条件としての「力」は努力のみではどうにもならず、生まれ持った力に左右される。また、古い時代においてはこの力の継承は絶対であり、拒めば命は無かったと言われている。無論、僕の時代においてそんなことは絶対にないが。

 同じような条件で継承される称号として、他に「ビショップ」もあるが、こちらの話はまた今度にしよう。「クイーン」の話にもなるとあまりにも話がややこしくなり過ぎるから。

 

 閑話休題。久しぶりに僕の元まで帰ってきたルーク──大ちゃんが旅立った理由はいくつかある。傷付いた身体を癒すための休息と慰安、諸国を巡り自身の見聞を広める修学、そして遠い土地においてキングの代理として掟に逆らうファンガイアの粛清。

 ただ割合的には最後の件が一番多いだろうからほとんど出張と言ったところか。まあ、休む時は休むようにしっかり釘を刺しておいたし、報告でもしっかりそう言ってくれたから大丈夫だと信じている。

 大ちゃんの報告は中々興味深いものだった。滅多に姿を現さないギガント族──巨人伝説の元となる十三魔族のうちの一つ。イエティやビッグフットなどもこの種族──と交流していたり、僕を打倒しようと計画していた秘密結社を現地のファンガイア族と共に制圧していたり、半ディストピア化していた人間とファンガイアの住む集落を単騎で攻めて解決して救世主になっていたりと、なんかもう小説にまとめ上げたいくらい濃いものが多かった。

 いや、でもそれ経過報告ほしかったな……大ちゃん……。

 

 ともかく、大ちゃんの旅路の報告を彼の上司として全て受け取り、事務的な仕事が全て終わって解散となった直後のことだった。完全に仕事モードからプライベートに切り替えた大ちゃんが「新しいゲームを見つけた」と言い出したのは。目の前のタンクトップに革ジャンを着た筋骨隆々の男に僕は問いかけた。

 

「新しいゲーム?」

 

 元々何でも「遊び」には真剣になる大ちゃんのことだ。また何かに夢中になるものでも見つけたのだろうと、ニッカリと豪快に歯を見せて笑いながら大ちゃんが言う「新しいゲーム」とやらが気になって仕方がなかったのだ。

 

 すると彼は浮かべた笑みを少年のようにキラキラと輝かせて、嬉しそうにその名前を答えた。

 

 

 

 

「NFOだ」

 

 

 

 

「NFO……?」

 

 はて、どこかで聞いたことがあるような名前のゲームだけど……なんだったかな? 僕のピンと来ない顔に気が付いたのか、大ちゃんは旅から持ち帰ってきたバッグの中からとあるものを取り出して机に広げた。

 

「ってええっ!? 大ちゃんノーパソ買ったの!? しかもこれ、ポケットWi-Fiでしょ!? えっ? いつの間に!? ちょっと待ってまさか経費で落としてないよね!?」

 

「安心しろ。自費だ」

 

「あー……うん、だよね……ビックリした」

 

 キャッスルドランの中でさえパソコンの類は無いのに(それもこれも、どの種族も寄ってたかってパソコンで作られた書類が気に入らないだの抜かしているためだ。故に同胞や異種族への書類作成のために現状パソコンを導入するメリットが全く無いと判断されたけど、そろそろ本当いい加減にしてほしい。今でも「羽ペンだからいい」な訳がないだろ。時代を考えろ)、それを当たり前のように所有している大ちゃんが少しだけ羨ましくあった。いや、僕も使えないわけじゃないけどさ。ドランの下のビルにはパソコンが並んでいるし。

 そして旅の途中で買ったであろうノートパソコンを起動させ、デスクトップ上のとあるアイコンにカーソルを合わせようとして大ちゃんの動きが止まった。

 

「麗牙……ここじゃ無線が届かない」

 

「ドランの中だからね。下のビルに降りればいけるよ」

 

「よし、行こう!」

 

「はは、そうなると思った」

 

 キャッスルドランの中には基本的に外部からの電波の類は届かないようにしている。だから人間が作ったテレビもラジオも電話もない。ただこれは外部からの攻撃、即ち魔術の類をシャットアウトするため、結界を張ったことによる二次的な作用だ。

 僕にNFOとやらを紹介したい大ちゃんに付いていき、キャッスルドランの下のビルへと降りてゆく。誰もが使える自由スペースの一角へと大ちゃんは座り、ようやく開いたパソコンでそのゲームを開始させた。

 

 そして大ちゃんが得意げに、その名前をもう一度告げた。

 

 

 

 

「これがNFO──Neo Fantasy Online(ネオ ファンタジー オンライン)だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「信じて送り出した友が廃人ゲーマーになって戻ってきた件」

 

「それめっちゃ辛みあるね」

 

 アゲハに先ほどの大ちゃんとのやり取りを伝えて、僕は机の上に頭を乗せて項垂れていた。大ちゃんが教えてくれたNFO──Neo Fantasy Online、それは所謂オンラインゲームと呼ばれる、ネット上で日本や世界のプレイヤーと共に遊ぶことができる今流行りのグローバルなゲームの一つだった。オンラインゲームという名前は僕も知ってるしCMでもよく見かけるから大体のことは分かる……分かっているつもりだった。

 

 大ちゃんのあの画面を見るまでは。

 

 NFOはファンタジーの世界(僕らもある意味ファンタジーな存在であることはこの際無視してほしい)を冒険するアクションRPGと呼ばれるジャンルのゲームで、ストーリーの中で出されるクエストをこなしていきながらプレイヤーは成長し、武器や装備を手に入れ、また更に強化していき、更なるクエストを……と先が見えなさそうな内容だと大ちゃんの最初の説明では感じていた。

 しかし大ちゃんが操作するプレイヤー、その所持アイテムや装備品、図鑑を見たとき、ゲームを全く知らない筈の僕ですら分かることがあった。

 

 ──武器アイテム称号その他諸々が、全部コンプリート&カンストされていたことを。

 

「正直、目眩がした」

 

「でしょうね」

 

 今でも思い出す自慢げに自分の成果を語り出す大ちゃんの顔。そして完全に上がりきった武器や防具にスキル? のレベル。マテリアルとかいう画面で空白部分が全く無かったり、果てには称号の一覧で、過去のイベントでトップに立った証すら……。

 

 ──ねぇ、大ちゃん……これいくらくらい使ったの……?

 

 ──ふふ、知りたいか?

 

 ──いや……やっぱり言わなくていい。言わないでください。

 

 課金要素もあるらしい……というより課金こそパワー(大ちゃん談)であるらしいこのゲームで、運だけでここまでするのは不可能だと、何ページにも渡って続く図鑑一覧を見て直感した僕は大ちゃんに問い質そうとした。しかし結局は答えが怖くなって聞くのを止めてしまったが、これが英断だったと僕は信じている。

 

 僕が信じて送り出した右腕は、いつの間にかネットの世界でも強者として君臨していたらしい。「いやホント君何やってんの?」って言わなかっただけ僕のことも褒めてほしい。

 

「因みにさ、ハンドルネームって言うのかな? ルークのプレイヤー名って何だった?」

 

「……『†ルーク†』」

 

「……ぅ……ぅわぁ……しかもそのまんま……」

 

 正直、始めて見た時めちゃくちゃキツかった。いや、別にこれがあこちゃんとかならまだ可愛いのだけど、大ちゃんは誰がどう見てもガタイの良い大の大人だ。良い年した人が「†」なんて使ってるんじゃないよと。というかそのまま「ルーク」なんて名前を使うんじゃないよと。その時の僕ときたら呆れて呆れて……そんなことを指摘することも出来なかった。

 

「でもさ、いいんじゃない? 仕事に支障があるわけじゃないんでしょ? ルークが仕事と遊びをしっかり弁えてるなら特に口を出す必要ないんじゃない?」

 

「うん。だから別に何も注意とかはしてないよ」

 

「そっか……私もやってみようかな。『†ビショップ†』って名前で」

 

「もうツッコみたくない……」

 

 アゲハの冗談に、僕の疲れた言葉が魂のように口から抜けていった。

 

 ゲームって……そんなに面白いものなんだろうか……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……(なんてことがあったら嫌でも目がいってしまうなぁ)」

 

 そんなことがあった後の日の放課後、コンビニで偶然NFOのくじが販売されているのを目撃してしまい、ふと立ち寄った僕はそこに並んでいる商品を観察していた。廃人ゲーマーになったとは言え、大ちゃんがあそこまでハマったゲームがどんなものなのかという興味は確かにあった。くじの商品の内容と言えば上はキャラのフィギュアから下はカップ等の日用品まで、よく見るタイプのくじだった。

 

「(こういうのが人気なんだなぁ……うーん……う〜〜ん……これだったらまだウチのタツロットの方がかわいい──)」

 

「麗牙……さん?」

 

 商品の一つであるデフォルメされた小さなフィギュアを見て、内心で対抗心を燃やすようにいろいろと考えていた時だった。僕の背後から、恐る恐る僕を呼ぶ小さな声が聞こえてきた。

 

「ん? あれ、燐子さん。こんにちは」

 

 声につられて振り返ると、そこには意外なものを目にしたと言わんばかりに大きく目を見開いた燐子さんがいた。彼女はまだ花咲川の制服姿のままであり、恐らく帰宅途中だったのだろう。しかし学校帰りにコンビニで何かを買って帰るような子には見えなかっただけに、その登場にこちらまで軽く驚いてしまう。

 

「こ、こんにちは……あの、麗牙さん……さっきからずっと見てましたけど……もしかして麗牙さんも……NFO……してるんですか?」

 

「え? いや、僕はしてないよ。してないけど、ちょっと興味があったから見てただけ、かな……ん? 僕、も?」

 

 聞き間違いじゃなければ燐子さんは今「麗牙さんも」と言っていた。それはつまり、燐子さんも大ちゃんと同じように……?

 

「じゃ、じゃあ……麗牙さんっ」

 

 大人しく見えた燐子さんの目が、その瞬間だけ鋭く光ったように見えたのは気のせいだろうか。いや、あんなキラキラ輝いた目が気のせいなわけがない。そして何となくだが彼女の言おうとしていることが分かって、僕は身構えていた。

 うん、この流れは分かる。

 この後、彼女が何を言って僕がどうなるのか、大体分かってしまった。

 

 

 

「一緒にNFO……やりませんか……?」

 

 

 

 燐子さんの純粋で熱のこもった瞳を向けられて、無情に「No」と答えることは僕には出来なかった。




突然ですがアンケートを集計したいと思います。ご協力お願い致します。

次の話のうち、あなたのお気に入りのエピソードはどれですか?(キバ初変身回は除外しています)

  • 第15〜17話(ガルルフォーム回)
  • 第18〜21話(キャッスルドラン回)
  • 第22〜25話(バッシャーフォーム回)
  • 第26〜29話(イクサ回)
  • 第34〜37話(ドッガフォーム回)
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