ボーカルでヴァイオリニストな彼は   作:春巻(生)

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『ロックのリズムの基本は4ビートか8ビートである。ただし80年代以降、16ビートをロックに融合させる動きが盛んになる』

「ネタが無くなったら何言うんだろうね」


第3話 薔薇と牙のプレリュード

「では改めて、紅 麗牙です。 TETRA-FANGのボーカル担当──RAIGAとして活動しています。そしてこちらが──」

 

羽畑(はばた) アゲハです! そのままAGEHAって名前でTETRA-FANGのキーボード担当やっています。よろしくお願いしまーす!」

 

 太陽が傾き始めた午後のCiRCLE前カフェで、アタシたちはTETRA-FANGの二人とテーブルを囲んで昼食がてらのミニ懇親会を行っていた。友希那は当初CiRCLEの中でゆっくり話し合うつもりだったみたいだけど、彼はどうせなら懇親会的な感じで軽く話したいと言い出したから、そこにアタシとあこで乗っかっていって今に至るというわけ。

 彼らの挨拶が終わると、次にアタシたちRoseliaが一人一人軽い自己紹介をする。そういえばRoseliaってあこが中学三年生で他がみんな高校二年生なんだよね。あこ本人は大丈夫そうだけど、やっぱり普通は周りが全員歳上だと一歩引いてしまうものだよね。アタシがそう思うのも、目の前の羽畑さんがあまりにも小動物感が強く、なんだったらあこよりも歳下に見えてしまうからなんだけど。

 まあ二人とも高校生って聞いてるし、ちょっとくらい馴れ馴れしくてもいいよねっ。

 

「はい! じゃあ早速アタシから質問っ。お二人の学校と学年も教えてくださーい」

 

「そうだね、まだ言ってなかったっけ。僕は城南大学付属高校に通ってて、みなさんと同じ二年生です。ギターのKENGOさんも同じです」

 

「私は羽丘(はねおか)女子学園の高等部一年生でっす」

 

「えっアゲハちゃんまさかの後輩?」

 

 驚いた、まさか目の前の彼女が後輩だったなんて……世界って案外狭いものなんだね。それに麗牙さんの城南大学付属って言えば、ウチの高校から少し離れた場所にある、それは立派な学校だと聞いている。そもそも城南大学自体が著名人ばかり排出してるイメージだし、もしかして麗牙さんも将来有名人になったり……って、今でも十分有名人だっけ、てへっ☆

 

「明日になったらまた会えるねっ」

 

「うんっ。うちの学校、バンドを組んでる人が他にもいるから、また紹介してあげるよ」

 

「よっしゃコネ確保っ」

 

「コネって、ね〜……あはは」

 

 アゲハちゃんは本当に明るい。可愛らしい顔に見合った人懐こさで、一緒に話しているこちらまでにやけてしまいそうになる。初対面の人間を味方に付けてしまう天才なのかもしれない。何ならお待ち帰りして妹にしたいくらいだ。あのライブで見た華麗なキーボード捌きが本当にこんな小さな子から生まれていたのかと思うと、今でも不思議な気分になる。

 

「なかなか楽しそうな人ですね」

 

「まあね。一応あれでも TETRA-FANGの風紀委員的存在なんだけどね」

 

「……本当ですか?」

 

「うるさい時は本当にうるさいんだよこの人」

 

「ぶー、失礼な。全部貴方のために言ってやってるんだからね。そこんとこ忘れないでほしいなー」

 

「はいはい、分かってますよ。アゲハはいつも僕のために頑張ってますよ」

 

 膨れっ面のアゲハちゃんをあしらうように煽てる様子は、あまりにも自然でそれが彼らのいつもの風景なのだと思わされる。こうして見てみると本当に兄妹のようだよね。

 それとも付き合っているのかな……? いやそれはないなと、何故か確信できる自分がいた。恋人のそれよりも、彼らの関係は兄妹か家族……いや、主人とそれに仕える背伸びしたメイドと言った方がピッタリな気がした。

 

「(それにしても……)」

 

 アタシは麗牙さんの顔を見つめながら思う。う〜ん、なんだかすっごく『王子様』って感じの顔だよねこれって。整った顔は陽に当たっていないんじゃないかってほど色白で、赤髪は一本一本綺麗にその顔を包むように流れている。纏っている雰囲気もとても優雅で繊細にも感じられる。そんな彼の見た目や纏う空気や態度の全てが、私の母性本能を擽り、世話したくて堪らない気にさせてしまう。というか世話してあげたいっ。

 

「(ぶっちゃけ、かなりタイプな感じだから見ているだけも眼福なんだよねー☆)……えーっと、麗牙さん……でいいよね?」

 

「うん、僕のことは名前で呼んでほしいな。そっちの方が僕は好きだから。同じ学年だし呼び捨てでも構わないよ」

 

「じゃあ遠慮なく麗牙って呼ぶからねっ。アタシの事もリサって呼んでくれていいからさ」

 

「そうね、私も TETRA-FANGのRAIGAとAGEHAとして知っていたから、麗牙とアゲハ……ええ、その方が呼びやすいわ。私のことも名前で呼んでくれて構わないから」

 

 友希那の言う通り、彼らは TETRA-FANGとしてステージに立つ時は下の名をそのままバンドネームとして使っている。今更さん付けというのも何かおかしな気がしていたんだろうなぁ、友希那は。あこも燐子も、二人のことを名前で呼ぶらしく、これで一気に彼らとの距離が近づいたような気がした。まぁ、あと一人は……ねぇ? あはは……。

 

「ありがとう。紗夜さんは……やっぱり呼ばないよね」

 

「前にも言いましたけど、性分ですから」

 

「僕は紗夜さんの名前は好きですけどね」

 

「っ……そ、そうですか」

 

 おっと、紗夜の珍しい照れ顔いただきぃー。と、まあそれはさておき、麗牙ってば中々恥ずかしいことをサラッと言うよね。なんか見ているこっちまで恥ずかしくなっちゃうじゃん。さては天然の垂らしだったりして。

 

「名前に『夜』って入ってるのが、なんかいいなぁって。僕は夜が好きだから」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「あれぇ? 紗夜ってばそれだけ?」

 

「名前を褒められたことなんてそうあるわけでも無いし、少し驚いただけよ」

 

 何だか紗夜が可愛らしくてついちょっかいを出してしまう。朝からそうだったけど、麗牙と関わってる時の紗夜って少し柔らかい雰囲気あるんだよね。麗牙と知り合った時のことを紗夜は一向に話してくれないし、二人の間の秘密みたいに感じられてちょっと妬けちゃうじゃん。

 

「あーなんか分かるー。でも私は燐子ちゃんかなぁ」

 

「えっ……わたし……ですか?」

 

「燐っていいじゃん! 弱々しくも一つ一つ激しくキラキラしてるって感じで好きなんだー。私の歌にもちょっとだけ歌詞に入ってるしっ」

 

「私の歌……?」

 

 アゲハのその言葉にみんな頭に疑問符を浮かばせる。あの時歌ったのは麗牙だったけど、アゲハも歌ったりするのだろうか……とみんなが疑問に思っていると、麗牙が説明してくれた。

 

「あー、『Eternity Blood』って曲があったよね。今日の二曲目。あれってAGEHAのイメージソングとして作ったやつなんだ」

 

「ホントですか!? あのカッコイイ曲ってアゲハのための曲だったんだー!」

 

「あーそういえばあこ、今日『好きな曲だー』って喜んでたっけ」

 

 そう言いつつ、アタシも朝の彼らのステージを思い出す。二曲目の……Eternity Bloodだっけ? いきなりアゲハの激しいキーボード捌きが始まったと思ったら、怖いほどの、まるでお化けでも出るような幻想的な旋律が会場を揺らしていた。調律を保つかのように始まったその曲は、しかしいざ始まってみると変拍子の曲で中々掴み所が無く、なのに凄く荘厳で厳格な曲だった。普段あこが言う「カッコよさ」と言うものを理解しようとは思っていても、実際は未だ至らずという感じだった。だけどこの曲を聴いて、あこの好きな「カッコよさ」がようやく理解できた気がしたんだよね。

 

「『燐を纏いし姿、漆黒の太陽照らし続ける』なんてどうしたらそんなカッコイイ言葉思いつくんですかー! あー『黒の言葉は永遠(とわ)に続く血の証』もいいし他にも──」

 

「なんだかここまで真っ直ぐ褒められると照れるね麗牙」

 

「うん。でも、作ってよかったって思えるよね」

 

「──『支配さえ支配してきた』とかもうあこの──」

 

「あこ。そのくらいにしておきなさい」

 

 どんどんヒートアップしていくあこを友希那が止めることでようやく場は沈静化した。流石にこれ以上話が脱線して一緒にライブする話が流れるのは困るもんね。

 まーでも、本当はアタシももう少し話を聞いてみたかったんだけどね。だってあの曲どちらかと言うと威圧感が半端ないし、バリバリ規則を守るって雰囲気醸し出してて、正直今のアゲハを見てても中々ピンと来ない。麗牙は彼女を風紀委員的存在って言ってたけど、あの歌詞が本当のアゲハだったりするのかな……それはちょっと怖いかなぁ。ただ、そう言うところまで知りたかったというのが本音だ。

 でもアタシはやっぱり明るい方が好きだなー。それこそ最後に彼が歌った『Message』は、アタシは大好きだと思う。全体的に「陰」を感じさせる TETRA-FANGの曲の中で、朝日を──「陽」を感じさせる数少ない楽曲だったから。ま、そこのところは今日はいいかなーって。今度麗牙たちと会うときにでも言えればいいし。

 

「それで、次の私たちのライブなのだけど」

 

「うん。まずは互いの今後のスケジュールから見合わせていこうか」

 

 こうして友希那と麗牙のボーカル同士の打ち合わせが行われていく。やれ時間がどうだの順番がどうだの、会場がどうだのといったやり取りが二人を中心に行われていく。しかしそれがあまりにも順調に進みすぎて、なんだか暇になってきたりする。だって基本的に友希那はRoseliaとしてのスケジュールで予定を合わせているだけで個人個人の予定にまで踏み込んでいないし、麗牙は麗牙でここにいないメンバーのことまで「話をつけてみる」と言った具合にどんどんワンマンで決めていってしまう。なんか、本当に王様って感じだ。さっきは王子様っぽいと感じだけど、ちょっと訂正した方がいいかも。

 

「ねぇ、アゲハ」

 

 やることが無くてちょっと暇だったこともあり、アタシは隣で同じようにその様子を見守るだけであったアゲハに小声で話しかける。

 

「どうしたの?」

 

「いや、麗牙って結構ズバズバ物事を決めていくんだなあって。こう言うやり方、みんな反対したりしないの?」

 

 いくらリーダーとは言え、バンドを私物化していいものではない。流石に彼はそこまでしてはいないけど、全員の意見が反映できないこの場で今後の予定を即決できるなんて芸当は普通できない。友希那も怪訝そうに「本当に大丈夫なの?」と少し不安に思っているのが分かる。

 

「そこの細かいところは私が調整するからいいの。どうせKENGOはギターバカだしJIROは麗牙がいるならそれに付いてこないわけがないし。まあ、私たちは結局麗牙のやりたいようにやるだけなんだよね」

 

「誰も不満とか抱かないの?」

 

「あるわけが無い。何せあの人は我らの……麗牙は私たちTETRA-FANGのキングだから」

 

「キング……?」

 

「……あっ、えっと……まぁ、チェスになぞらえてね、うん。一応リーダーだし……でも、今のは私たちだけの秘密だよ?」

 

「え? う、うん……」

 

 一瞬、怖いほど真剣な表情になったアゲハに少しだけ驚いたけれど、すぐになんともないようにさっきまでの可愛らしい表情に戻る。少し慌てたように説明する様は愛らしいけど、それにしてもキングってなかなか大層な肩書きだと思うな。何が秘密にする理由かはわからないけど、秘密と言われたのならとりあえず噤んでおこうかな。

 

「でも本当に大丈夫だよ。麗牙はみんなのこと分かってる……みんなの予定も気持ちも本当はちゃんと考えてる。だから自信を持ってあんなこと出来るんだよ……まあ、我慢できなくなったら怒るのは私の役目なんだけど」

 

「あはは、結構大変なんだね」

 

「全く、ウチのボーカルは世話を焼かせるぜい」

 

「アハッ、やっぱどこもボーカルは世話がかかるんだねー」

 

「リサ。今何か言ったかしら?」

 

「何でもありませんっ、はいっ」

 

 冷ややかな視線と声色で投げかける友希那を前に、つい背筋をぴしゃりと伸ばして畏まって返事をしてしまう。一応は友希那も麗牙も真面目な話をしてるわけだけど、そもそもアゲハとの会話が楽しすぎるのがいけないんだよ、うん……と自分に言い訳してみる。

 そして、やっぱりアゲハともう少し話がしたくて、またさっきのようにコソコソ声で話しかけてしまう。

 

「でも麗牙が TETRA-FANGのキングってことはさぁ、アゲハは差し詰めクイーンってところかなー?」

 

「……私はそんなんじゃないよ。私はどうあがいてもクイーン(女王)にはなれない。精々が……ビショップ(僧正)ってところだよ」

 

「アゲハ……?」

 

 一瞬だけ、彼女の顔に初めて影が覆ったように見えた。何か彼女にとって嫌なことでも聞いてしまったのかもしれない。だったら、もうこの話題は止めにしよう。これ以上は初対面のアタシがまだ踏み込んでいい領域じゃない。自身の経験と直感からそう確信することができた。

 

「でも、リサがクイーンなってくれるって言うなら別に歓迎してあげなくもないかもよ」

 

「ちょっとそれは反応に困っちゃうなぁ……アハハ」

 

 とは言いつつも、アタシはRoseliaをやめるつもりは毛頭ない。友希那にとってアタシはRoseliaに必要みたいだし、アタシだってRoseliaが好きだから、他のバンドに移籍っていうのは正直論外かな。まあでも、ヘルプで入ってもいいなら入りたいなーってちょっと思ってる。それに、一瞬でも麗牙みたいなイケメン君のクイーンになれるんなら役得もいいところだしねッ。

 ……って、ちょっと想像したら顔熱くなってきちゃった。

 

「──そうね、じゃあ一旦この日に全員で一度顔合わせしておきましょう」

 

「うん。でもごめんね、流石に一番近い日のRoseliaのライブは僕たちも行けそうにないや」

 

「いいわ、別に。無理に誘ったのはこちらなのだから。でも、その次なら共に出来るんでしょ?」

 

「うん。任せて」

 

「ええ、信じるわ」

 

 おっと、どうやら世話焼かせボーカル同士の会話も済んだみたいだ。別にアタシもただアゲハと話してただけじゃなく、ちゃんと二人の会話にも耳を立てていたから話の内容はちゃんと掴めている。そこのところはしっかりしてるんだよアタシは。えっへん。まあ、アタシがしっかりしてないとダメなところ結構あるからねウチは。

 

「ねぇ麗牙、それよりさっきから全然食べてないけどいいの? 食べちゃうよ?」

 

「……そろそろ食べましょうか?」

 

「……そうね」

 

 ごめんね二人とも、さっきからアタシたちばかり普通に食べてて。でも今回は一応懇親会として集まってるんだし、話し合いだけで終わったらつまらないもんね。と本来の目的が終わったところで、少し遅くなった昼食をみんなでとることになった。

 

 その後はさっきの説明じゃ足りなかった自分たちの話を交えながら、二人の日常にも触れていった。麗牙は最近テレビの出演も増えてきて、つい最近もPastel*Palettesとの仕事があったみたい。へぇ、じゃあ明日学校でヒナと麻弥(まや)にも聞いてみよっと。ついでにアゲハのことも紹介できるしね。

 そのアゲハだけど、完全にオフな日は教会で鍵盤を弾くバイトとかやってるみたい。そんなバイトあるんだという驚きと、それだけの技量を持ってるんだという尊敬の念が入り混じって、そんな視線に挟まれて照れ臭そうに笑うアゲハは、やはり少女のように可愛らしかった。やっぱりお持ち帰りしたいなぁ……。

 

 互いの音楽の趣味の話や、好きなロックバンドの話、たまに脱線してあこと燐子のゲームの話、一周戻ってまた学校の話……。結構くだらない話もいっぱいした気がしたけど、どれを取っても今日は楽しかったと思っている。

 

 だけどそんな楽しい記憶も、麗牙の落とした特大の爆弾のためにほとんど忘れることになったんだけど……。

 

 

 

 

「羽丘女子学園だけど、実は僕の妹も高等部の一年にいるんだ。アゲハと同じクラスに」

 

 

 

 

 ……いやー、世界って狭いねっ☆

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