ボーカルでヴァイオリニストな彼は   作:春巻(生)

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『ロックはしばしば、反体制や対抗文化の象徴として取り上げられる。60年代のイギリスを中心に巻き起こった、若者中心にロックを取り巻く文化は「カウンターカルチャー」という言葉を生み出す』

「出番まで長そうだね」


第4話 眠り姫:Eine kleine Nachtmusik

 午前の授業の最後のチャイムが鳴り響き、学園中が騒々しくなる月曜日のお昼時間。いつもなら友希那を誘って二人で学食に食べにいくところだけど、今日はちょっと予定を変えてねっ。

 

「リサ。アゲハ達を誘うの?」

 

「むしろ誘わない理由がないじゃんか〜。昨日の今日だよ?」

 

「それもそうだけど、麗牙の妹……も一緒で大丈夫かしら。彼女は特に音楽をやっているわけではないと聞いているけど、蚊帳の外にしてしまわないものかと」

 

「友希那も優しいね。大丈夫だよ、そうならないようにアタシもフォローするからさっ」

 

 友希那のクラスに入ると、そこにいるはずの他のガールズバンド仲間の姿は既に見えなかった。もう行っちゃったのかな。それならそれで仕方ないので、友希那と二人でとりあえずはアゲハと麗牙の妹に会いに行くことにした。アゲハ達は一年生だって聞いているし、同じガールズバンドとして活動しているAfterglow(アフターグロウ)のメンバーも知っているかもしれない。彼女たちは幼馴染五人で結成されたグループで、今は全員がこの羽丘女子学園に在籍している。全員一年生で、確か(らん)がA組で他全員がB組だっけ。

 

「アゲハ達は確かA組だったわね」

 

「そうそう、蘭と同じクラス。って、話してるうちに着いちゃったね。それで蘭は、っと〜……もう行っちゃったみたいだね」

 

 一年A組の教室を覗き、どこにいても目立つ赤メッシュを一瞬だけ探すも見当たらない。もう既にAfterglowのメンバーで集まってるのかな。なかなか上手く会えないものだなぁと苦笑していると、今日の本命の声が元気に私の耳まで響いてきた。

 

「リサ、昨日ぶりだねっ。友希那も来てくれたんだっ」

 

「うん、来たよアゲハっ。せっかくだし今日は一緒にお昼でもどうかな〜って」

 

「ありがとっ。じゃあちょっと待ってて……愛音(あいね)起きて! ほら、さっき言ったRoseliaの二人来てるから! ほらっ、もうお昼だよ!」

 

 アタシ達との再会も程々にして、アゲハは声を上げながら窓際の席へトコトコと走っていく。その後を追って視線を向けると、机に突っ伏した状態で静かに寝息を立てている、赤毛のロングヘアーの女の子がいた。麗牙と同じ綺麗な髪の毛は括ったり盛ったり、またウェーブさせたりもせず、自然体のまま流れるようなストレートが腰ぐらいまで伸びていた。

 

「ん……何……もう学校終わり……?」

 

「だからお昼だってば! ほら立って。会わせたい人来てるから……んしょっと」

 

「なんだかアゲハ、お母さんみたいだね……」

 

 アゲハが叫んでも寝る気満々の赤毛の少女を、アゲハはその腕を持って無理矢理机から立たせた。少女の方は「まだ明るいのに……」とぼやいているけど、朝とか弱いのかな? いや、もう昼だし流石に目は覚めるはずだよね? 立ち上がっても未だ目を開けようとしない少女に、アゲハは更なる追撃を畳み掛ける。

 

「ほらっ。まずは食べないとっ! さあさあウェイクアップ! ウェイクアップ!」

 

「……叩かないで……もう起きた、から」

 

 ようやく開けられた瞼の奥からは、透き通るような紅い瞳がこちらを見据えていた。目が覚めたことで身体も起きてきたのかな? 彼女はうんと手を天井向けて伸ばし、声を出しながら背伸びをし出す。ようやくまともに立ち上がった彼女だけど、意外にも身長は高かった。160後半は普通にあるだろう高身長で、元々身長が低いアゲハと並ぶと親子のようにも見えてくる。まあ似たような身長の知り合いが他にもいるからそこまで驚くことはないんだけど、その知り合いたちに負けず劣らず彼女は美形だった。麗牙と同じく色白の肌と長い赤毛が、彼女自身から溢れ出す色気と妙にマッチしててちょっとドキドキしてしまう。だけどそんな高校一年らしからぬ大人びた風貌とは裏腹に、その実態は実年齢よりも子どもっぽいのは……う〜ん、なんかズルイ! そんなん絶対可愛いに決まってんじゃん!

 なんて女性としての妙な敗北感を味わっていることなど露知らず、アゲハは笑顔で話しかけてきた。

 

「リサ、友希那、紹介するねっ。この子、(くれない) 愛音(あいね)。昨日言ってた麗牙の妹」

 

「不本意ながら、異母兄妹やってる……ほんと惜しい……」

 

 何を惜しがってるのかは分からないけど、とりあえず分かるのは麗牙と彼女が異母兄妹だという事と、この子起きてても眠そうだなーということかな。フワフワした話し方をする友だちもいるけど、多分ここまで眠そうには話さないと思う。あまりにも見てこなかったタイプでその上掴み所もないから、接し方に少しだけ困ってしまうや。

 ただ、どうも「異母兄妹」という言葉に嫌に引っ掛かりを覚えてしまう。麗牙と愛音ちゃんは学年が一つ違うだけで、だけど父親が同じで母親がそれぞれ別人って……なんだかあまり触れちゃいけないドロドロしたのが詰まってそうで正直ちょっと怖いんだよね。でもこういうドロドロした恋愛事情もちょっぴり知りたくなっちゃうのが女子なわけで……後でアゲハにでも聞いてみようっと。

 

「私は湊友希那。麗牙かアゲハから聞いてると思うけど、Roseliaというバンドのボーカルを務めているわ」

 

「アタシは今井リサ。Roseliaではベースやってまーっす☆」

 

「うん、兄さんから聞いてた……あなたたち、兄さんに目をつけるの、いいセンスだと思うよ」

 

「そ、そうなの……」

 

 おっとぉ? まさかの友希那までもが対応に困る逸材だったのこの子? ていうかアタシまで既にこの子のペースに飲み込まれてる気がしてるし……。流石にこのままだと話が続く気がしないため、アゲハにヘルプの視線を送る。

 

「とりあえず食べに行こっか。愛音もね。それで、リサと友希那はどこに行くの?」

 

「私はどこでも構わないのだけど。リサはどうするの?」

 

「う〜ん……中庭か屋上かな。もしかしたらAfterglow(アフグロ)にも紹介できるかもだしっ」

 

「旅は道連れね」

 

 こら友希那、そんなこと言わないの。とは言え、どの道彼女たちにも紹介する予定だったわけだし、今から行く方にいてくれると助かるんだけどね。

 

「二人ともお昼はお弁当にしてるって聞いたけど、今日も持ってきてる?」

 

「うんっ、ほら!」

 

 そう言ってアゲハが出したのは二人分の同じデザインが施されたお揃いの弁当箱だった。恐らくアゲハと愛音ちゃんの二人分で、多分間違いなく彼女が用意したものだと思うけど……一応確認しておこう。

 

「ねぇアゲハ。それって愛音ちゃんの分もだよね? アゲハが二人分作ってきたの?」

 

「え? 違うよ、これいつも次狼(じろう)に作ってもらってるの。あ、もちろんウチのベースのJIROのことだよ」

 

「え、うっそホントに!? あのおじさんにっ!?」

 

 昨日のTETRA-FANGのステージで見た、無性髭の生えたちょい悪っぽいイケオジを思い出す。あの時は同じベースとしてその技量の凄さにただ感動していただけだったのに、まさか普通に家事までするなんて……っていやいやっ、それよりもだよっ。彼がこの二人の弁当を作るってことは、それはつまり……。

 

「えっと……まあ、ね。愛音の家って、ちょっとしたシェアハウスみたいな感じだし、そこに私も次狼も一緒に暮らしてるんだ~」

 

「へぇ~、みんな一緒なんだぁ、なんかいいなぁ、シェアハウスって」

 

「それは麗牙も一緒に?」

 

「兄さんは最近一人暮らし始めた……だからあまり実家に帰ってこない……くっそ〜……」

 

 すごく気だるげに悔しがるような言葉を発してるけど、全然表情も変わらないし、その態度から本気で悔しがっているのかよく分からない。どっか妙にクールなんだよね、愛音ちゃんって。

 というわけで全員弁当を持っていることだし(今日のためにアタシたちも二人に合わせてお弁当にしてもらった)、今日はみんなで屋上に行こうかっ。屋上ならAfterglowがいる可能性も高い、そう考えて屋上への扉を開けたんだけど……。

 

「いないわね」

 

「う~ん……今日は別の場所かな~?」

 

「別に今度でいいよっ。ささっ、友希那もリサも、早く食べよっ」

 

 相変わらず気だるそうな愛音ちゃんの手を引っ張りながら、アゲハは屋上の空いているスペース向けて歩き出す。蘭たちがいないのは少し残念だけど、それならそれで今は彼女たちとの会話を楽しむとしよう。

 

「ねぇ愛音ちゃん」

 

「愛音……ちゃん付けとか、慣れない……」

 

「うん分かった、愛音。愛音ってさ、麗牙のこと──お兄さんのことって好き?」

 

 屋上のベンチに並んで座りながら弁当を開け、グラウンドを一望しながらの昼食をとる最中、アタシは愛音へと訊ねる。いやだってさ、アタシの周りってみんな姉妹持ちばかりだし、兄弟がいる子の話ってあまり聞いたことないんだよね。だから、仲間内(たった今から仲間内)で兄のいる数少ない愛音に、その関係性とか知りたくて聞いてみた。

 

「……愚問。むしろ、兄さんに嫌われたら……私、もうこの世にいられない」

 

「あ、あはは……うん、大体分かったよ。麗牙のこと大好きなんだね」

 

「そうだねぇ。ちょっと行き過ぎてる気もしなくもないんだけど」

 

 いや行き過ぎてるでしょ、という言葉を何とか飲み込む。どんだけ兄ラヴなんだこの子は。いや、でもまあ、あことかヒナのお姉ちゃん大好きっぷりを見ていたら、なんだかこれもそうおかしくないような気がしてきた。あれ? アタシの感覚が変になってるのかな? おかしく……ないよね? うん……まあいっか☆

 

「愛音って音楽何かやったりしないの? 麗牙の真似してヴァイオリンとかさぁ」

 

「私は聴き専……いつも兄さんの音と……あとクラシック聴いてる……」

 

「へぇークラシックかぁ。なんかカッコいいなぁ」

 

「そんなことない。クラシック音楽は……誰が聴いてもいいものだから。みんな目を向けないけど、本当は誰の心にも響く、無敵のジャンル……」

 

 相変わらずのクールな言動を続ける愛音だけど、今は少しその言葉に熱が籠っているような気がした。きっと、今のクラシックについて少しだけ語った、その僅かな時間の間に見えた彼女が本当の愛音なんだと思う。麗牙と同じ音楽を心から好きだという熱意、そんな一面を彼女も持っているんだと感じられた。

 

「本当に好きなんだね」

 

「バロックとかルネサンスも好きだけど……今は古典派に夢中……でも一番は兄さんの音だから」

 

「麗牙のヴァイオリン? うん、アレすごくよかったよ。アタシも一度聞いただけで好きになっちゃった」

 

 そんな熱意を感じるクラシック音楽でも、兄のヴァイオリンが一番好きなんだなぁ。本当にお兄ちゃん子なんだなと微笑ましく思ってると、愛音はゆっくり首を横に振った。

 

「ううん、ヴァイオリンもそうだけど……兄さんの心から奏でられる音が、好き……」

 

「心から?」

 

「人はみんな……心の中で音楽を奏でている。私も兄さんも……子どものころから人の心の音楽を聴いて育ってきた」

 

 心の音楽……なんだか素敵な言葉で、不思議と心に馴染んでくる……。そうだ、確か昨日もそんな話を麗牙も話していたっけ。紗夜が妙に聞き入っていたような素振りを見せていたから記憶に残って、お陰ですぐに思い出すことができた。その時の麗牙や今の愛音の真面目な表情から、これが詩人独特の表現なんてもので片付けられるものじゃないんだと、そう思えてきた。

 

「心の中で音楽……なんだか少しだけ分かる気がするわ」

 

「お? 友希那ももしかして聞こえている口かな?」

 

「聞こえるなんて思っていないけど、音楽の世界なら、そういうものがあっても不思議じゃないって思うだけ」

 

 心で誰もが音楽を奏でているなんて……ん~ロマンティックだなぁ~。恋愛小説の読みすぎかって言われるかも知れないけど、やっぱアタシそういう乙女チックな話大好きだ。でもみんな奏でてるってことは、やっぱり私の中にもあるのかな、心の音楽って?

 

「兄さんの心の音、いつでもキラキラしてる……嬉しい時も、哀しい時も、楽しい時も……いつだって側で聴いていたい」

 

「ねぇ、アタシにもその音って流れてるの? 愛音には私の心の音って聴こえるの?」

 

「……うん。聴こえる……聴こえるけど……」

 

「けど、何?」

 

「……ちょっとパパのに似ている……兄さんの好きな音……ちょっとムカつく」

 

 キャー! アタシの心の音、麗牙の好きな音に似てるんだって! ……なんていう冗談は置いといて(本当は割と舞い上がってるけど)、「パパ」ってことはつまり麗牙と愛音のお父さんのことだよね。アタシ自分のことはどっちかというと、最近はお母さん的だと思ってるんだけどね。それにムカつくって言われたけど、アタシもしかして愛音に嫉妬されちゃってたりする?

 

「愛音のお父さんってどんな人なの?」

 

「……ハイパーろくでなし」

 

「ふふっ」

 

 ちょっと笑ってしまった。そりゃあまあ、愛音の言葉からの想像だけど、一、二年以内に違う女性と子ども作ってたらそんな評価にもなっちゃうか。だけど、アタシは愛音が心から自分の父親のことを貶しているようには思えなかった。だって、「ろくでなし」って言う時の愛音の顔がなんだかすごく可愛らしかったもん。嫌いな人に向けて、普通はあんな顔はできない。だからアタシは、彼女が次の言葉を続けなくても、父親のことが好きなんだと確信した。

 

「もう天才的(ジーニアス)なまでのろくでなし。だけど……音楽に対しては誰よりも真摯に向き合ってる……芯がまっすぐでブレない人……だから兄さんのお母さんも私のママも、好きになっちゃった」

 

「それって倫理的にどうなの?」

 

「あのグランドろくでなしにそんなもの、通じない。二人まとめて愛しちゃってたから……三人とも……多分納得してたと思う」

 

「わぁ〜なんか素敵じゃんっ。アタシもう少しその話聞いてみたいかも」

 

 本当に恋愛小説みたいな大恋愛の予感がして、つい浮き足立ってしまう。愛音の言う「納得」までの経緯とかどうなってるのか知りたいし、まず間違いなく山あり谷ありの茨の道だったはずだ。どんな紆余曲折があって二人の兄妹が出会うに至ったのか、ついつい興味を持ってしまう。

 心なしか、静かに話を聞いている友希那も、視線が弁当よりも愛音の方に多く向けるようになっている気がした。やっぱり女の子はこの手の話は聞かないとねっ。

 

「それで、二人の父は今何をしているの?」

 

「……今は……もういない」

 

「え……?」

 

「……麗牙と愛音の父は……もうこの世にはいないんだ」

 

 アゲハの告げたその一言で、楽しかった場の空気が一瞬でどんよりと重くなったのが感じられた。そうだよ、「納得してたと思う」って言うぐらいなんだから、つまりは「もう確認のしようがない」って言ってるのと一緒じゃん。愛音の言葉からそこまで考えが至らなかったことに、少し自分を責めてしまう。

 

「……ごめんなさい。無神経に質問してしまったわ」

 

「いい……久しぶりにパパの話できたから……それに……」

 

「それに……?」

 

「パパの音は、今も私たちの中で生きている……だから、寂しくはない」

 

「う〜……愛音ぇ〜!」

 

「う……急に抱きつかないで……」

 

 だって、あんな健気な愛音を見て愛おしく思わないわけないじゃん! お姉さんちょっと感動しちゃったよ。だからここは、妹らしく抱きしめられてほしいな〜……あ、いや身長とか明らかに愛音の方が高いからあまり格好は付かないねこれ、あはは……。

 

「愛音っていい子だなぁ。でも寂しい時は寂しいって言ってね?」

 

「ホントにパパみたい……ムカつく……」

 

 ムカつくなんて言いつつも、本気で振りほどいたりせずになすがままされている愛音の様子から、本気で嫌がってる感じではないと思ってる。ただこれ以上は自分がみっともないだけだし、名残惜しいけど愛音を解放することにした。

 解放されて、ちょっと照れ臭そうに髪の毛を弄る姿は少し官能的だけど、子どもの面影も垣間見えてやっぱり可愛らしく感じてしまう。

 

「二人とも……昨日の兄さんたちのライブに来たんだよね。セトリの最後の……『Message(メッセージ)』って曲、覚えてる……?」

 

「うんっ、すっごい覚えてる。アタシ昨日の曲だったら一番好きかも!」

 

「ありがとう……あれ、私と兄さんで作詞した……パパへの曲だから……」

 

 そう言われて、アタシは昨日の麗牙の歌を思い出す。全体的に陰のイメージが強い曲(盛り上がる激しい曲だけど)が続いた中で、最後に彼らが持ってきたのは新曲のMessageという楽曲だった。

 暗闇に朝日が差し込んでいくような穏やかさの中で、何かに悩んでいる「僕」がいる。そんな「僕」に「あなた」は何を言ってくれるのだろう。ありのままが美しい? いや、変わるものも変わらないものも、ありとあらゆるものが美しい。世界はそんな「あなた」からのメッセージで溢れているから、「僕」はいつでも「あなた」に包まれている。そんな希望と歓喜に包まれた明るい歌……それがMessageだった。

 正にタイトルの告げる通り、誰かへ向けたメッセージだとは思っていたんだけど……そうか、この曲ってお父さんからのメッセージを謳った、二人からお父さんへ贈る想いだったんだ。「僕」は麗牙と愛音で、「あなた」がお父さん……背景が分かるとより深みが増して、感動してしまうなぁ。よしっ、たった今からアタシの推し曲で決まりだねコレは。

 

「もし今パパがいたら……何を話してたかなって……考えてたらできてた」

 

「父へ贈る歌、ね……」

 

 父のための音楽というものに友希那はシンパシーを抱かずにはいられないだろうなぁ。友希那が今まで音楽を続けてきたのも、Roseliaを作るきっかけになったのも、全部彼女のお父さんがきっかけだったから。友希那は今もお父さんの無念を晴らすべく、FUTURE WORLD FES.への出場を夢見ている。お父さんの音楽を否定した人たちに、自分たちの──お父さんの音楽を認めさせるために。友希那がお父さんを想う気持ちは、愛音たちにも負けていないとアタシは思う。

 ……これ以上はアタシの口から言えることじゃないよね。いつか、友希那も麗牙たちに話す時が来るはずだから。その時はきっと……みんな応援してくれるはず……だよね?

 

「Messageは全三部作の予定……こうご期待」

 

「するする! めっちゃするよ!」

 

「うん……私も……楽しみ……すぅ……」

 

「あれ? 愛音……?」

 

 今、僅かに寝息のような音が聞こえたけど……。そう思い彼女の髪の毛の間からその綺麗顔を覗き見ると、透き通るような紅い目は瞼によって閉じられ、静かに可愛らしい寝息が秩序を保って続いていた。うん、完全に寝ているね。とりあえず絵になっていたからスマホで即撮影したけど。

 

「あはは、また寝ちゃったかぁ。日向に来ると大体こうなるんだから、全くもう」

 

「まるで眠り姫ね……それとアゲハ、さっき紅さんも作詞はするって言ってたけど、他の曲も彼女が?」

 

「うんと、まあ、大体麗牙と愛音で半々かな。そもそも特に決まった作詞担当っていないからウチは。作曲は大方KENGOだけどね」

 

 へぇ〜Roseliaは作詞作曲も友希那が一人で担当してるけど、これってかなり負担が大きいと思うなぁ。アタシもまたいつか作詞なんて手伝ってみたりしてもいいかなって。そもそも麗牙と愛音のMessageなんてもの聞いちゃったら、アタシだって何か書きたくなるもん。

 

 そうして話しているうちに昼休みも終わりが近づいていた。いやぁ、時間が過ぎるのって早いねぇ。少なくともアタシがそう感じるくらいには、みんなとの会話が楽しかったということだ。

 

 もう少し話してたかったんだけど……ってそうだ忘れてたっ。

 

「あっ、ねぇねぇ、二人は放課後って空いてるかな? この学校の他のガールズバンドのメンバーのことも紹介したいからさ」

 

「それはいいけどリサ、あまり時間はかけないようにして。今日だって練習があるの、忘れてないわよね?」

 

「もちろんだって〜。それで、どうかなアゲハ? いける?」

 

 完全に眠ってしまった愛音の弁当箱を片付けているアゲハに訪ねてみる。彼女は予定があるらしいけど、それまでなら会ってくれるって行って快諾してくれた。

 

「よーぅし! じゃあまた放課後にねっ」

 

「うん!」

 

 

 

 

 

 こうして、アゲハと愛音をAfterglowを始めとした羽女に在学するバンド仲間たちに紹介することができたんだけど……この話はまた別の機会にね☆




サブタイトルの読み方は「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」
作曲はヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト
誰もが知るあの楽曲です。
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