ボーカルでヴァイオリニストな彼は   作:春巻(生)

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『友希那の言葉によって、リサと紗夜は自分の心の底にある互いへの思いを自覚する。二人の気持ちが同じであることを感じた友希那は安堵し、次の目的に向けて足を踏み出した』


第55話 雨雲の先へと

 雨が傘を叩く音に耳を傾けて歩きながら、アタシは目的となる少女の姿をこの目で確認した。アタシが麗牙に想いを告げたあの場所に、彼女は──紗夜は既に傘を差してアタシのことを待ってくれていた。

 

「ありがとう紗夜。来てくれて」

 

「いえ。私も、今井さんには話したいことがありましたから」

 

 友希那に自分の心を自覚させられた後、アタシはすぐに紗夜に連絡を取り、会って話がしたいと伝えた。紗夜は二つ返事でそれに応えてくれたから、アタシは急いでこの場所に……アタシが紗夜の心を傷付けてしまったこの場所に駆けつけた。

 

「紗夜……アタシ……」

 

 ──ごめん。

 

 そう伝えに来たのに、すぐには口から出てくれなくて雨の音ばかりが鳴り響く。裏切ってごめん、相談もせずに麗牙に告白してごめんと言いたくても、その行為も自分が望んでしてしまったことだったために、言っても余計に傷付けるだけかもしれないと一瞬考えてしまう。

 

 しかし、ここまで来て何も言わないことこそ本当に卑怯者な気がして、アタシは勇気を出して紗夜にその言葉を伝えようとした。

 

「ごめん! 紗夜!」

「ごめんなさいっ」

 

 ようやく言葉が出た時、アタシと紗夜の声は重なっていた。あまりにも気持ち良すぎるくらいにタイミングが合っていたために、互いにぽかんとして相手の目を見つめ続けていた。やがて、アタシは自分が伝えたい言葉を伝えられていることを思い出し、言葉を紡ぎ始めた。

 

「紗夜の言う通りアタシ、紗夜の気持ち知ってた……麗牙のことが好きだってずっと前から分かっていたのにアタシ……そんなこと全然気にすることなく麗牙に告白しちゃって、紗夜のこと凄く傷付けて──」

 

「ま、待ってください! 好きならば想いを伝えたいと考えるのはごく自然なことです。今井さんに落ち度はありません。むしろ私の方が……紅さんと結ばれてもいないのにあんなことをしてしまって……今井さんにも、紅さんにも軽蔑されて然るべきなのに……」

 

「アタシは……確かにショックだったけど、でも軽蔑なんてしてないよ。麗牙だって紗夜のこと軽蔑したりしないよ。絶対」

 

 紗夜が麗牙にキスしたということに関してショックを受けたのは事実だけど、この期に及んで紗夜に隠し事はしたくないために正直に告げる。紗夜に対して信じられないと言って非難してしまったけど、それ以上紗夜に対して蔑んだ感情を抱くのは嫌だった。

 紗夜のことを嫌いになりたくなかったから、そして……。

 

「私は……ズルい人です。あんなことしておいて、まだあなたに嫌われたくないって思ってしまいます」

 

「……おんなじじゃん……」

 

「え?」

 

「アタシも同じ……まだ紗夜に嫌われたくないって思ってるもん……」

 

 目の前で僅かに怯えの色を見せる雨色の少女が、自分の前からいなくなってしまうことが怖くて仕方がなかった。そして紗夜も同じように、アタシに嫌われたくないという想いを明かしてくれた。

 

「バカだなぁ……アタシが紗夜のこと……嫌いになるはずないじゃん……」

 

 彼女との間に隔てた空間に寂しさを覚え、アタシは無意識に身体を紗夜へと近づけていた。傘と傘がぶつかろうとして綺麗に避け合い、アタシは紗夜の震える手を握っていた。

 

「今井さん……」

 

「紗夜……酷いこと言ってごめん。たとえどんなことになっても……ずっと、アタシと友達でいてくれる……?」

 

「そんなの……」

 

 アタシが勇気を振り絞って伝えた願いに対して紗夜は最後まで口には出さないけれど、代わりにアタシの手を強く握り返してくれた。強いけど痛みは感じず、紗夜の温かさが繋がれた手を通じてアタシまで流れ込んできた。それが嬉しくて、アタシは目尻に涙を浮かべていることにも気付かないまま、彼女の手を両手で握りしめて胸の前で抱きしめていた。

 

「ありがと……紗夜……」

 

「私こそ……こんな私をまだ友達だと思ってくれて……とんだ果報者ですね、私は」

 

 全く嫌な顔をせず手をアタシに委ねたまま、紗夜の顔にも笑顔が灯った。互いに同じ想いを抱いていたはずなのにバラバラに散りかけた絆がようやくこの手に取り戻せた。麗牙への想いとはまた違う、胸が熱くなる思いが身体中を迸り、それが愛おしくてアタシは紗夜の手をずっと握りしめていた。

 

 たとえ、どんな結果を迎えてもアタシは紗夜のことを拒絶しない。そんな決意を固めて、紗夜の温もりを一身に感じ続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その時だった。

 

「っ!?」

 

 紗夜の後ろから何かがこちらへ向けて飛来してくるのが目に映った。

 

 円盤のような、しかしそれにしては盤面を横にして飛んでくるそれは物理法則を無視しているとしか思えない飛び方だと感じた。

 

 それは円盤というよりも、ひとりでに浮遊する仮面と表現した方が分かりやすいだろう。

 

「紗夜っ!」

 

 その瞬間、唐突に嫌な予感を察知し、アタシは紗夜を引き寄せて彼女を庇う形で自分の身体を飛んでくるソレの前に晒した。

 

「今井さん、何を──っ!?」

 

 紗夜も飛んでくる物体を視認したのか、大きく息を飲む声が聞こえてくる。

 

 しかし迫る円盤に対して何かしらの反応をする時間はほとんどなかった。

 

 アタシのすぐ目の前まで迫ってきた円盤──いや、ここまで迫られたら分かる──目と口が縫い合わされた奇妙な仮面は、後ほんの一秒後にはアタシに襲いかかるのだから。

 

 だから、今のアタシにできることは紗夜を庇うことだけだった。

 

「だめぇッ!!」

 

「っ──」

 

 仮面の動きも、紗夜の叫びも、全てがゆっくりと感じる。

 

 咄嗟に紗夜を庇ったけれど、アタシは怖くて目を瞑り、視界を暗闇に委ねる。

 

 次の瞬間にはどうなるのか自分にも分からず、暗闇の中で訪れるであろう恐怖に耐えるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ルガァァァァッ!」

 

 しかしその時、獣のような荒々しい声とともに、何かが壊れるような音がアタシのすぐ前方から聞こえてきた。明らかに今の仮面とは色の違う音に驚き、アタシはゆっくりと目を開けていく。

 

「な……なに……?」

 

 アタシの眼前に立っていたのは、青色の狼だった。全身を深い海のように真っ青に染めた毛並みと、頭から三日月のように鋭く伸びた一本の角、そして全てを射抜くような赤い瞳を持った狼の顔。二本の足で立ち、人のように腕を地に片腕を突き立てている姿は正に狼男だった。ファンガイアともドランともキバットとも違う、初めて見る異形の姿にアタシは緊張を隠さずにはいられなかった。

 

「次狼さん!」

 

「……次狼さん……ええッ!? じ、次狼さん!?」

 

 ゆっくりと立ち上がる青色の異形。その姿にはどこか気高さを感じ、思わず目を見開いてその姿をより確かめようとしたところで、紗夜から予想外の名前が飛び出してきた。次狼さんって、あの次狼さん!? あまりの衝撃で先ほどの恐怖も忘れて飛び上がってしまう。

 

「よぉ……間一髪で何より。だがそれよりも……」

 

 アタシたちへ声をかけた狼男の声は間違いなくTETRA-FANGのベース担当の次狼さんのもので、紗夜の言葉を信じざるを得なくなる。しかし次狼さんはアタシたちへの言葉もそこそこにして前方へ……次狼さんが打ち砕いた仮面が飛んできた方向へと目を向ける。

 

「これは驚いた……まさかウルフェン族に邪魔されるとは……」

 

「っ、あの怪物は……」

 

 雨の向こう側から歩いてきたのは、あの日見たミイラ男のような異形であった。同時に奇妙な仮面を付けたファンガイアを従えていたことを思い出し、アタシは身が縮む思いがしていた。

 

「何故人間を狙った。レジェンドルガ」

 

「何、キングが入れ込んでいる人間を手駒に出来たら、それほど面白いことはないと思ってな。それに……見ろ」

 

「っ!」

 

 ミイラ男が手を挙げると、彼の背後から何らかの集団が雨の中を並んで歩いてきた。まるで軍隊の行進のように一糸乱れぬ動きでミイラ男の背後に集まってきたそれらは、アタシたちを驚愕させるのに充分な異様さを纏っていた。

 

「な……なんで……人間までいるの……?」

 

 集った存在の多くはミイラ男の仮面を付けたファンガイアであったが、その中には数人ほど人間が入り込んでいた。仮面らしきものは付けていないが、全身をミイラの布のようなもので巻かれ、目の焦点が合っていないのか虚ろな表情を浮かべたままぼうっとその場に佇んでいた。

 

「それが奴らレジェンドルガの特性だ」

 

「ほう、ちゃんと勉強してきてのか」

 

「ああ、おかげさまで時間は充分にあったからな」

 

 そして次狼さんは短く語ってくれた。目の前のミイラ男は太古に滅んだと言われるレジェンドルガ族という存在だと。その特性は多種族を操り、自身と同じレジェンドルガにしてしまうというもの。そして時間が経てば、その手駒と化した存在は真の意味でレジェンドルガとして生まれ変わってしまうこと。

 

「つまりこのままだと、今は人間やファンガイアの原型を残すアレらは生前の姿を残すことなく、完全に新たなミイラ男になってしまうわけだ」

 

「そんな……っ」

 

 ミイラ取りがミイラになるなんて言葉があるけど、正にその通りの展開になっていたことに戦慄する。ただ操られるだけで自身の尊厳を奪われて、その上で相手と同じ存在に変えられるなんて。生き物の繁栄は種それぞれだと聞くが、ここまで愛を感じさせない繁殖方法に怖気が走ってしまう。

 

「だが、初期症状のうちなら大本を倒せば全て解決だ。まさか自分からのこのこ出てくるとは思わなかったがな」

 

「さて、倒せるかな? この数相手に」

 

 次狼さんの言葉を信じるなら、あのミイラ男さえなんとかすれば周りのみんなは元に戻るということになる。しかし当のミイラ男は余裕を崩すことなく手を広げて攻撃を煽っている風にすら感じられる。倒すべき敵は一人だが、きっと周りの人たちは皆ミイラ男に操られて襲いかかってくるに違いない。それどころかミイラ男は、周りのファンガイアや人間を盾にするかのように自身に侍らせていた。

 

「なんて卑劣な人……っ」

 

「他種族も有効に使わなければ。ファンガイアのキングもそのように戦うのだろう? 同じことだ」

 

「麗牙を貴様と一緒にするなっ」

 

 次狼さんの唸るような荒々しい口調に少しだけ飛び跳ねてしまう。麗牙のことを愚弄されて怒りを覚えるのはアタシたちだって同じだけど、次狼さんの地獄の底から唸るような低い音にはアタシたちでは覚えようのない強い憤りが含まれているように感じられた。静かだが、そこに込められた想いは計り知れない。

 

「お前こそ、ウルフェン族が何故人間を庇う。キングの命令か?」

 

「いや……キングは何も言ってはいない。ただ、俺も主君の慟哭はもう聞き飽きたんでな」

 

 次狼さんの言葉と共に、その周囲に二人の人影が現れた。セーラー服を纏った少年と、燕尾服を着こなす大男。二人ともキャッスルドランで会ったし、アタシたちの合同ライブにも来てくれていたから覚えている。だから二人とも麗牙の仲間なんだと、その姿を変えても信じることが出来た。少年は翠玉の半魚人に、大男は紫色の怪物に姿を変え、アタシたちの前に背を向けて立ち構えていた。

 

「また会ったね、お姉ちゃんたち。正直もっと驚かれると思ったけど」

 

「麗牙の友達……守る……」

 

 緑の怪物の言葉の通り、初めてその姿を見るわりには対して驚いていない自分たちがいた。色とりどりの怪物たちがアタシたちを守るように立ち塞がる、その光景に心強さを感じていたからかもしれない。

 

「狙いはレジェンドルガ一人。他は出来るだけ傷付けるなよ」

 

「分かってるって」

 

「それ……麗牙……悲しむ……」

 

「マーマン族にフランケン族……確かに俺の知るファンガイアのキングとは随分懸け離れているようだな」

 

 ミイラ男の呟きと共に彼の周りのファンガイアたちが襲いかかり、同時に三体の怪物たちも駆け出した。

 

「紗夜っ」

 

 不安そうな顔をする紗夜の手を握り後ろに下がる。不安なのはアタシも同じだけど、こんな時だからこそせめて紗夜の隣で彼女を感じていたかった。

 

「ゥオオオオオオ!」

 

「ガァアアアアッ!」

 

 目の前で異形たちがぶつかり合う様を、アタシは紗夜と祈りながら見守ることしかできなかった。

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

「っ、なんやなんや。骨とミイラの軍隊かいな?」

 

「妖怪大戦争……」

 

 キャッスルドランにいた健吾たちが異常を察知して雨の元へと駆け出したのはほんの数分前のことだった。しかしいざ街へ踏み込んだその時、彼らの目の前にはずらりと横一列に並んだ異形の群が立ち塞がっていた。真ん中に立つのは今し方次狼たちと戦闘を繰り広げているマミーレジェンドルガと似通った姿をした異形が一人。その周囲にはかの奇妙な仮面を付け、ミイラのような布を全身に巻かれたファンガイアと人間が幾人と並び立つ。そしてカタカタと音を立てながら健吾たちを見据える、骨だけで構成された小さな異形が並び立つ群の空白を埋めるように立っていた。

 あまりにも圧倒的な光景に健吾と愛音はそれぞれ思い思いの感想を残していた。

 

「多分……あの骨は……ただの人形……」

 

「大本とも操られた人とも違うってことか。やけど……あっちのミイラ男は……」

 

「……手遅れ」

 

 愛音の分析で小さな骸骨の兵士が文字通りの人形だと健吾は理解した。しかし、目の前でこちらを見据えるマミーレジェンドルガ……それは以前に麗牙やアゲハを襲撃した存在とは違う異形だと二人ともすぐに見抜いていた。間違いなくファンガイアとも人とも違う見た目であるが、麗牙たちから伝えられた特徴とも僅かに異なる容姿を持っていることからも、それが新たに生まれたマミーレジェンドルガだと判断せざるを得なかった。いつどこで生まれたかは分からないが、元の姿とは違うものへと変化したかの異形を健吾は哀れに思わずにはいられなかった。

 

「だから……やらないと……周りの人たちも後を追うことになる……」

 

「……ああクソッ! ホンマ厄介な奴らやなレジェンドルガ!」

 

 遣る瀬無さと怒りで健吾は雨に向かって叫び、懐からイクサナックルを取り出した。同時に愛音も懐から白色の縦笛を取り出し、そして彼女のためのスイッチとなるソレの名を呼んだ。

 

「サガーク」

 

「ふっ!」

 

R・E・A・D・Y(レディ)

 

 そして、雨の中に現れた二人の白き戦士の戦いが、誰にも知られることなく始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リサと紗夜が会うほんの少し前のこと。友希那は最後の目的地である大きな屋敷に──紅邸へと訪れていた。麗牙が生家であるキャッスルドランから離れて一人暮らしを続けている静かな居城へと、彼女は再び一人で辿り着くことが出来たのだ。

 麗牙の許したもの以外は決して立ち寄ることも出来ない迷宮のゴール、それがこの屋敷であった。迷いの中へ嵌っていく麗牙の心を思えば、本来ならば誰にもこの迷宮を抜けることは叶わなかったはずだった。今の麗牙は無意識下で誰かとの接触を拒んでいたのだから。

 

 ♪〜〜♬〜〜

 

 しかしそれでも友希那がここまで辿り着けたのは、再びあの音に導かれたからであった。麗牙の父が残したブラッディ・ローズ……その透き通るようなメロディが再び友希那の元に響いてきたのだ。血染めの薔薇に導かれ、再び紅邸の敷地へと踏み入れた友希那。しかしチャイムを鳴らしても反応は無く、玄関の扉も鍵で閉ざされていた。

 それでも友希那は引き返すことはなかった。

 

「(麗牙……ここにいるんでしょう? そうでなければ、あの音楽が私をここに導くはずがないわ)」

 

 ブラッディ・ローズの音が自分をここに呼び寄せたことには意味があるはずだと友希那は確信していた。故にここに麗牙がいることも確信している以上、引き下がる理由がなかった。彼女はどうしても麗牙と会い、伝えなければならないことがあったからだ。

 

「っ? (今、鍵の開く音が……)」

 

 そんな彼女の想いが届いたのか、ガチャリと金属製の重い音が空気を震わせた。麗牙が開けたのか思うのも束の間、ゆっくりと扉が開かれていき、小さく開かれたドアの隙間から小さな金色がその身体を覗かせていた。

 

『よう友希那。もしかすると来るんじゃないかって思ってたぜ』

 

「キバット……」

 

 小さな翼を羽ばたかせ、友希那を誘うように扉を開けていくキバット。予想外の出迎えに少しばかり驚くものの、友希那はすぐに落ち着きを取り戻して凛としてキバットへ要求する。

 

「麗牙に会わせてほしいの」

 

『おう分かってるって。ちょいとガツンと言ってくれよ。じゃないと梃子でも動かねーぞ今のアイツ』

 

「そう。だったら遠慮なく言わせてもらうわ」

 

 キバットに誘われて友希那は屋敷の中へと上がり込んでいく。雨に打たれる音ばかりが響く静かな空間の中を歩き、そして階段を上った先……以前に麗牙と二人で曲作りをした部屋の扉まで友希那は辿り着く。

 

「僕は……一体どうすればいいんだ……っ」

 

 部屋に入ろうとした時、麗牙の助けを乞うような声を耳にして友希那の動きが僅かに止まる。彼女の予想通り、彼は迷いの中にいた。深い闇の中で、答えが見つからずに悩む麗牙の姿が友希那には容易に想像できた。

 

 しかし同時に解せない部分もあった。

 

 何故ならば、彼は答えを見つけられないはずがなかったからだ。

 

 そして友希那は扉を開け、部屋の隅で蹲る麗牙に向けて放った。

 

 

「あなたの音……自分の心に従えばいい」

 

 

 答えはきっと存在する。

 

 他人の心の中にではない。

 

 彼自身の心の中にきっと……。

 

 そう信じていたからこそ、友希那は麗牙へと強く呼びかけた。




日差しの訪れは近い……。
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