ボーカルでヴァイオリニストな彼は   作:春巻(生)

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『友希那の言葉によって迷いの晴れた麗牙。リサと紗夜への答えを出した彼は彼女たちの前に立ち、二人を守るべくキバへと変身を遂げる。さあ、反撃開始だぜ!』

挿入歌:ONENESS


第57話 重なる波動:ONENESS

「ハァッ!」

 

「フンヌァッ!」

 

 キバの紅い拳とマミーレジェンドルガの鈍色の拳が飛び交う。空気を裂く音と共に放たれた互いの拳は、擦り合うだけで互いの顔面に至ることなく空を切る。すぐさまもう片方の拳を繰り出した両者は互いに胸元に相手の一撃を喰らい、軽く後退してしまう。

 

「ハッ!」

 

「っぐ」

 

 だがキバは引くことなく再び接近して右脚を振り上げ、マミーへと高く蹴りを入れようとする。両腕をクロスさせてキバの蹴りを防ぐマミーだが、殺しきれない威力を前に僅かに身体を逸らして声もくぐもってしまう。しかしマミーも決してキバの攻撃に怯むだけではなく、更なる反撃へと転じていた。

 

「フンッ!」

 

「ッグゥゥァ!?」

 

 両手が塞がれていたマミーの口から黒い嵐が吹き荒れる。漆黒に染まる暴風に巻き込まれたキバは大きく吹き飛ばされて地面を転がっていく。

 

「っ、麗牙っ!!」

 

 想い人の傷付く姿にリサの悲痛な叫びがこだます。しかしキバはその悲鳴を打ち消すかのように力強く立ち上がり、左側のホルスターから青い笛を取り出した。

 

「まだまだっ! ガルルッ!」

 

『ガルルセイバー!』

 

 キバットが吹き鳴らしたガルルフエッスルの音色と共にガルルの身体が光に包まれ、キバの元へと吸い込まれていく。キバの身体もまた光に包まれ、次の瞬間には鎖が弾ける音と共に青き鎧を身に纏ったキバの姿がそこにあった。

 

「青い……キバ……」

 

 初めて見るガルルフォームの姿にリサは息を飲む。既に二度その姿を見ている紗夜にはもはや驚きは無かったが、リサに説明することも優越感を感じることもなく、ただ目の前で戦う大切な人の無事を祈ることで精一杯であった。

 

「ガルァァッ!」

 

 野獣の如く荒々しい雄叫びを上げて地を駆け出すキバ。マミーへと至るまでに多くの操られるファンガイアや人間が彼の目の前に立ちはだかるが、今のキバにはその程度の壁は無いにも等しかった。

 

「ガァァルァァァアッ!」

 

「何ッ!? くっ!」

 

 青きキバが地を蹴って走り出した瞬間、彼の身体は次々と立ちはだかる異形の群れの間を駆け抜け、誰も傷付けることなくマミーの眼前へと現れていたのだ。そしてキバは左手に構えた魔獣剣──ガルルセイバーを振るい、マミーは咄嗟に自身の包帯を盾にするも、青き狼の牙は軽々と盾を引き裂き、厚く包帯に巻かれたマミーの腕へと振り下ろされていた。

 

「チィ! ッ、ハァァァァァァ!」

 

 腕に傷を負うもすぐさま飛び退いたマミーは、再びキバに向けて黒い衝撃波を出して吹き飛ばそうとした。

 しかしそれを見越していたのか、キバもまたガルルセイバーの狼の顎を開かせ、その狙いをマミーへと向けていた。大きく息を吸い込むキバ、そして……。

 

「フゥゥゥ……ッ」

 

『アオォォォォォォォォオオオオオオ!!!!!』

 

 ガルルセイバーからけたたましい咆哮が轟き、衝撃波を発生させる。そして二つの衝撃波がぶつかり合い、激しい爆発音と共に土煙を巻き上げて互いの姿が確認できなくなる。しかしその時、彼らの耳にキバットの叫び声と新たな笛の音が轟いた。

 

『バッシャーマグナム!』

 

「なっ? っグオァッ!?」

 

 土煙の中から突如として銃弾がマミーに襲いかかった。着弾と同時に破裂し水を撒き散らす弾丸は、今も翠玉の魔海銃をマミーに突きつけるバッシャーフォームへと姿を変えたキバが放ったアクアバレットであった。

 

「今度は……緑のキバ」

 

「ふッ!」

 

「ハァッ!」

 

 キバは手にしたバッシャーマグナムの弾丸を炸裂させ、追い討ちをかけるようにマミーへと連射する。しかしマミーも自身の包帯を自在に操り、それ以上の追撃を見事に防いでいた。触手のように自在に包帯を操りながら水弾を躱しつつ、マミーもまた次の一手を打ち出していた。

 

「ハァァ!」

 

「くッ!?」

 

 マミーが腕を振るった瞬間、先行が走り辺り一面が大きく爆発を起こした。火花を撒き散らす一帯からキバは大きく飛び退き、再び銃口を目標へと掲げるも、マミーの周囲には盾となる人形が渦巻いており迂闊には攻撃出来なかった。

 

「だったら……っ」

 

 キバはバッシャーと分離し、その鎧を再び紅に染める。そしてホルスターから三つ目の笛……ドッガフエッスルを取り出してキバットに吹かせた。

 

『ドッガハンマー!』

 

 重厚な闇のような音が空に響く。ドッガの力ならば、余計な存在の動きを全て止めることができる。そこに期待をかけた故の行動であったのだろう。

 

「……」

 

 しかし、ドッガに変化は起きない。

 

 紫色の巨体をふらふらと揺らしながら、依然重い足取りをキバに向けて進ませるのみであった。

 

「くっ、ドッガ……っ」

 

『オイオイっ、やっぱり操られてたら無理ってことなのかよ!?』

 

 キバとキバットの苦しい声が漏れる。レジェンドルガの能力により、今の彼にはフランケン族のドッガとしての個性はなく、ただの一介のレジェンドルガとして存在していた。フエッスルはその種族と惹かれ合う音楽を鳴らす事でキバと彼らの魂を共鳴させている。しかしレジェンドルガの傀儡となってしまったドッガには彼らの音楽は響かず、故に姿を変えることもままならなかったのだ。

 

「ははは……今回は前のようにはいかないみたいだなァッ!!」

 

「っ!? ハッ!」

 

 マミーの操る無数の布が多頭の蛇の如く、鋭くキバに襲いかかる。喰らいつく布は間一髪キバが避けた後の地面を抉り、尚もキバへと追撃をかけようとする。マミーの布に捕縛されないよう意識を集中させて避けていたが、彼の意識の外側から更なる攻撃がキバに襲いかかってきた。

 

「フンッガァ!」

 

「っな、ぐァァァ!?」

 

「っ、麗牙ァ!」

 

「紅さん!」

 

 マミーの攻撃を避けようとするキバの身体へドッガの重い拳が炸裂していた。ファンガイアの腕力を優に超えるフランケン族の力はそれは凄まじく、モロにその拳を受けたキバは苦痛の声を上げて大きく吹き飛ばされてしまった。地面に激突しても勢いがすぐに衰えることはなく、彼を見守る二人の少女の前まで地を転がっていくキバ。

 

「っ! 大丈夫……」

 

 しかしリサと紗夜の悲鳴を聞いたキバはすぐさま立ち上がり、自分の無事をアピールするかのように二人に声をかける。少女たちは彼の言葉が明らかに強がりであると分かっていたが、愛しの人がかけてくれるその言葉に安堵を抱いていた。それに状況的には最悪であるが、キバの声には確かに希望の色が含まれていたのだから。

 

「さあどうするキバ。後ろにはか弱い人間、お友達は俺の手の内、それでこの数を相手にどうする?」

 

 敵に向けて構えを崩さないキバを前にマミーは楽しそうに煽る。もはやこの状況ではキバに勝ち目はないと、人質すらまともに攻撃出来ない軟弱なファンガイアの王相手に負ける気はしないと、マミーは内心で嘲笑っていた。

 

 二体の異形と二人の少女の視線の視線がキバへと集まる。この状況下でどのような決断を彼はくだすというのか、期待と不安の入り混じった眼差しがキバへと突き刺さる。

 

 

 

 

「大丈夫……ドッガの音楽は……まだ止まっていない」

 

 

 

 

「何……?」

 

 しかし、キバの心が揺れることはなかった。

 

 むしろ先ほどよりも厚みを増したようにすら感じる自信に、マミーは見えない眉をひそめる。

 

「聴こえたんだ……ドッガの心の音楽が……『まだ戦える』って叫ぶ心の声が」

 

「何を言っている……貴様」

 

「分からないよ……お前には。絶対に」

 

 キバは力強く宣言する。心の音楽はその人の想いそのものである。故に、他人の想いを踏みにじったり抑え込んだりする者には決して聴こえないものであった。ましてやレジェンドルガにとっての音楽とは他者の苦痛の声以外には存在せず、マミーにはキバの唱える「音楽」が理解できなかったのだ。

 

「だとしてどうすると言う。この状況でそれが聴こえたからどうなると言うのだ」

 

「聴こえたからだよ。だからこそ出来るって分かった。そう……」

 

 キバは静かにマミーの言葉に答えていく。いくら言われようとも彼の言葉から動揺が感じられることはなく、強い意志を宿したままキバは左側のホルスターへと手を伸ばした。

 

 

 

 

「……皆の音楽()を一つにすればっ」

 

 

 

 

 そしてキバはホルスターから三つのフエッスルを取り出した。

 

 青く光るガルルフエッスル。

 

 翠玉に煌めくバッシャーフエッスル。

 

 そして紫の重厚な輝きを放つドッガフエッスル。

 

 これらの三色の笛をキバは重ねて胸の前に構えていた。

 

『ちょっと待て麗牙。そんな使い方、キバの鎧の生成過程で全く想定されてねぇぞ。ぶっつけ本番で下手すりゃ全員お陀仏だ。それでもやるのか?』

 

 キバットは冷静な分析と予測をキバへと告げる。本来ならば一体ですらキバの身体に宿すことは、身体の支配権を奪われる危険性すら孕んだ装置であった。それを三体まとめて、それも一体は操られた状態で発動しようというのだ。下手をすれば死、それも麗牙やキバットを含めた五人の生命が全て危険にされされることになる。故にキバットがキバへ忠告するのは至極当然のことであった。

 しかしその口調からは非難の感情は見当たらず、ただキバへと確認をとるだけの声色であった。如何なる予測を立てようと最終的に判断を下すのは鎧の所持者であるキングである。故にキバットは、キバが──麗牙がやると決めたことに対して受け入れるのみであった。麗牙が自分の主君というだけではなく、彼らの間に存在する信頼もあったのだから……。

 

「うん……僕たちの音楽、今こそ響かせよう」

 

『そうか……よっしゃ! だったらオレ様も出血大サービスで行くぜ!』

 

 キバットの高らかな叫びに反応し、キバは手にしたフエッスルを順にキバットに咥えさせ吹かせていった。

 

『ガルルセイバー!』

 

 吹き渡る青き笛の音と共にガルルの身体が光に包まれる。

 

『更に、バッシャーマグナム!』

 

 ラッパなように高らかな音と共にバッシャーの身体が光に包まれる。

 

『そして、ドッガハンマー!』

 

 最後に地震のような重厚な音が響き渡る。

 

「ゥ……ゥゥググ……」

 

 その音に反応するかのように、ドッガの口から唸るような声が漏れ、身体が揺れ始める。

 

 苦しむように頭を抱え、やがて激しく身体を揺らし、叫び声をあげるドッガ。

 

 そんな彼に対して、キバは最後の一押しとして心からの叫びを響かせた。

 

「来い……ドッガ!」

 

「っ……フゥゥン」

 

「何ッ!?」

 

 麗牙の心の声が轟くと同じにドッガの身体が光に包まれ、同時に彼に付けられた仮面が粉々に砕け散った。一つの音色だけでは響かなくとも、皆の音楽が共鳴し重なり合った時、新たに生まれたメロディは確かに彼の心にも届いたのだ。

 

「さあ行こう……共に!」

 

 三体の色とりどりの異形が小さな光となり、キバの身体へと吸い込まれるように近づいていく。

 

 ガルルはキバの左腕に、バッシャーは右腕に、そしてドッガはキバの胴体へと。

 

 光に包まれたキバの身体に鎖が巻かれていく。

 

 両腕と胴体を何重もの厚い鎖に覆われ、その次の瞬間には一気に弾け飛んだ。

 

「わぁ……」

 

「これは……」

 

 新たに生まれたキバの姿にリサと紗夜は感嘆の息を漏らす。

 

 

 かの地に顕現せしは極彩色。

 

 

 左腕は青色に、左腕は翠玉に、胸は重厚な紫色に。

 

 

 キバ本来の紅色を合わせて計四色の彩りが施された新たなキバの鎧がそこに存在していた。

 

 

 四つのエレメントと五つの生命が一つになりて誕生した極彩色の牙。

 

 

 これこそが仮面ライダーキバ──ドガバキフォーム。

 

 

 華やぐ声色が奇蹟をそそぐ、メロディアスな光。

 

 

 異なる種族の重なる想いが生んだ、絆の姿である。

 

 

「行くぞ……!」

 

 

 ドガバキフォームへと変身を遂げたキバはゆっくりとその歩みを進める。背丈が増えたわけでも、先の三つの姿から大きな見た目の変化も確認できなかったが、一歩一歩が重く大きく感じられるほどの威圧感を放つ今のキバに、マミーは本能的に脅威を感じとっていた。

 

「フゥゥンヌァ!!」

 

 マミーの顔面が発光し、眩い閃光が走りキバの周りで激しく爆発が巻き起こる。しかしその中でもキバの歩みが止まることはなく、巨大な歩みがまた一歩とマミーへ向けて踏み出されていく。その姿にマミーは更なる戦慄を覚え、焦るように更なる猛攻を加速させる。

 

「……」

 

「なっ……ッ、ハァァァァァッ!!」

 

 口から黒き衝撃波が発生し、キバを飲み込む。まともに食らえばその場で耐えきれる存在は少なく、ドッガでさえ視界が確保できなくなるほどの激しい嵐がキバに襲い掛かった。そのあまりの巨大な嵐の前に、発生させたマミー自身ですらその詳細が確認できなくなるほどである。そして衝撃波を止め、辺りの土煙が収まるのをマミーが息を切らしながら待っていた時だった。

 

「ッグォァ!?」

 

 突如土煙の向こう側から何かがマミーの身体に強襲し破裂した。それは先ほども自身に襲い掛かった魔海銃のアクアバレットであることを思い出し、マミーは晴れていく土煙へと目をやる。

 

「……」

 

「馬鹿な……っ!?」

 

 そこには右手で魔海銃(バッシャーマグナム)を構えてこちらを狙いながら、先ほどと変わらない足取りで歩き続けるキバの姿があった。自身の攻撃を二度喰らったと思えないほどの不変を保つその影に、今度こそマミーの口から恐れの声が漏れていた。

 

「く……行けェッ!」

 

「……ふッ」

 

 これ以上近づけさせるのは不味いと感じたマミーは、自身の操る傀儡たちを一斉にキバへと襲い掛からせる。再び罪のない存在を盾にマミーが次の策へと打って出ようとした時、キバの額のシグナルが光り輝いた。次の瞬間、彼らの周囲の地面が突然土の面から水面へと変化した。バッシャーフォームの特殊能力である疑似水中空間(アクアフィールド)が、今のドガバキフォームへと変身したキバによって生成されていたのだ。

 

「な、なんだこれは……っ!?」

 

 突如水のステージへと変化したことにキバ以外の生命体は混乱を引き起こし、更に水に足を取られて思うままに素早く動くことが叶わなくなっていた。この水のフィールドにおいてバッシャーフォームのキバに勝る存在は無く、それは彼の力をも内包したドガバキフォームにとっても同じことであった。

 

「ハッ!」

 

「ッグゥゥォ!?」

 

 動きが拙くなる異形を他所目にキバは水面の上を滑り出した。スケートリンクの上でフィギュアを舞うように、白鳥が湖の上で踊るように、キバは華麗に水面を駆け巡る。目にもとまらぬ速さで異形の群れを避け、マミーの眼前に辿り着いたキバはその弾丸を容赦なく敵へと撃ち込んだ。襲い掛かる痛みに苦悶の声を上げ、しかしそれ以上の追撃を防ぐために包帯を固めて防ごうとするマミーだったが、水面上を自在に動き回るキバは即座にマミーの背後に回り込み、魔海銃の弾丸を炸裂させる。

 

「ゥグガガァッ!? な、何故急にこんな……!?」

 

 突然人が変わったかのように力を増し、自身を追い詰めるその現実が信じられずマミーは困惑する。確かにドガバキフォームへと変身したキバの力は、他の姿のそれを優に上回る。しかしそれだけではない。彼らの間にある、従える者の使い方がその差を明確なものにしていたのだ。マミーは自身の力で意識を奪い、無理やり操った存在を盾にすらして利用していった。マミーにとっての他者とは支配の対象でしかなかった。しかしキバは……麗牙は違った。彼は他者との共存という道を選んでいたのだ。自身と共に道を歩む異種族とも肩を組み合い、苦楽を共にし、心の音楽を共鳴させる。それが麗牙──現代のファンガイアのキングの在り方であった。

 

 だからこそ、今のキバは間違いなく目の前の存在よりも強かった。

 

「ハァッ!」

 

「ガハッ!?」

 

 水面を自在に動き回るキバが視界から消えたと感じた次の瞬間、マミーの背中に激痛が襲い掛かった。それは以前にもその威力を味わった巨大な紫の槌──ドッガハンマーの一撃であった。重い一撃の前に地を転がるマミーだったが、キバの攻撃は止まらず更なる追撃がマミーに襲い掛かる。

 

「ハアッァァッ!!」

 

「ゥグ……ググゥァ! 小癪なァ……!」

 

 魔鉄槌(ドッガハンマー)をマミーの身体に押し込むキバ。マミーもただただやられるだけではなく、その巨大な紫の拳を体一つで受け止める。苦悶の声を上げながらもキバの攻撃を防いだかに見えたマミー。しかしキバの攻撃は決して止まることはなかった。

 

「フンッ!!」

 

「ヌゥ!? ォオオオッ!?」

 

 槌を抱え込んだマミーごと、キバはドッガハンマーを大きく振りかぶり、マミーを空中高く放り投げる。紫色の圧迫感から解放されたマミーは突如として襲われた浮遊感に成すすべがなく、地上からのキバの攻撃に全く対処できなかった。

 

「ハッ!」

 

「ゥガガガガッ!?」

 

 天に向けて撃ち出されるアクアバレットが全弾マミーの身体で炸裂する。更にマミーが体勢を立て直すことを許す間もなく、キバは地を蹴ってマミーの元へと跳躍した。

 

「ハァァッ!」

 

「ガハァッ!?」

 

 空中でマミーとすれ違う直前、キバは左手で握りしめる魔獣剣──ガルルセイバーでマミーを斬り裂いた。いいように空中で踊らされ、猛攻を咥えてくるキバに成すすべなくマミーは全ての攻撃をモロに浴びてしまう。キバが華麗に着地すると同時に、マミーの重い身体が地面に衝突していた。

 

「紅さん……」

 

「すごい……」

 

 先ほどとはまるで違いマミーを圧倒するその姿に二人の少女の息が漏れる。だがそれには触れることなくキバは依然目の前の敵を睨みつける。いくら攻撃を加えたとしてもキバは決して気を緩めることはない。例え既にボロボロであったとしても、撤退を図ろうとこちらに背を向けていたとしても、今のキバのすることに変わりはなかった。そんなキバの右手には紅色に染まる笛が握られており、彼はそれを十字架を手に祈るような仕草で胸の前に構えていた。

 

 そして、禁断の笛(ウエイクアップフエッスル)の音が周囲にこだました。

 

 

Wake Up(ウエイクアップ)!』

 

 

 魔獣剣と魔海銃を握りしめながらキバは腕をクロスさせて腰を低く構える。

 

 

 やがてキバの右脚の封印──ヘルズゲートが解放され、紅に染まる悪魔の翼が顕現した。

 

 

「ハッ!」

 

 

 キバは解放された右脚を誇示するように高々と振り上げる。

 

 

 その仮面に映るのは、今もこの場から撤退を図ろうとするボロボロの異形ただ一人のみ。

 

 

 ファンガイアの王に牙を剥いたものは決して逃げられない。

 

 

「(今度こそ……逃がしはしない!)ハァッ!」

 

 

 それを体現させるべく、覚悟を抱いてキバは跳躍した。

 

 

 天高く舞い上がり、空で回転を加え、真っ赤に染まる悪魔の翼広げし右脚を突き出しマミーへと急降下していく。

 

 

 そして──

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハアァァァァァァァァァァァーーーッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 キバの必殺の一撃、ダークネスムーンブレイクがマミーレジェンドルガの胸に突き刺さり、その身体を大きく吹き飛ばした。

 

 

「ゥグァア゙ア゙ア゙ア゙ア゙アアアアアアア!!?」

 

 

 蹴り飛ばされた勢いのまま吹き飛ばされたマミーは体中から大量の火花を飛び散らせ、断末魔の悲鳴を上げていた。

 

 

「ロ、ロード万歳ィィィィィ!! ガァア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ァァァァァッ!!!!」

 

 

 そして最期に自身の主君を称える言葉を遺し、盛大に火柱を上げて激しく爆散したのだった。

 

「……」

 

 キバはマミーの最期の様子を全て瞳に収めて静かにその場を後にする。

 

 陽の光によって輝ける彩の深い鎧が希望の色のようにも見え、リサと紗夜の顔に笑顔が戻る。

 

 キバが勝利し、自身の恋い慕う人が無事に帰ってきたのだから。

 

 そしてキバも……麗牙もまたその顔に笑顔が戻る。

 

 守りたい者たちを最後まで守り通せた。

 

 その誇りが彼の胸を擽っていたのだから。




次回、麗牙の出した答えは……?
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