ボーカルでヴァイオリニストな彼は   作:春巻(生)

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『「ロックンロール」という言語が略称されて「ロック」となったと言われている。そのためロックンロールは古いものとされ、発祥の地アメリカの古いロックを指すことが多い』

「そろそろ別の始まり方考えた方がいいんじゃないかな」


第5話 親友:DUAL-FANG?

 時が経つのは早いもので、宇田川さんがTETRA-FANGの話題を持ち出してから二週間が過ぎていた。結局あのライブの日以降、紅さんたちと会うこともなく私たちはいつも通りの二週間を過ごしていた。湊さんと今井さんは、羽畑さんと紅さんの妹と会っていたみたいだけど……。

 そして今は土曜日の午後……私たちRoseliaのライブが行われる日だった。楽屋には他のバンドの姿もいたが、今回私たちはトリのため今はほとんど人がいない状態だった。それにしても湊さんも無茶を言うものだと思う。紅さんに対して次のライブで一緒にやりたいとは言っても、それには準備期間が二週間とないのだ。自分たちが言われたらまず無理だと言うし、ライブハウスでの調整とかいろいろ問題もある。それに関しては湊さんのうっかりなのか、それとも本気で今すぐにでも共にやりたかったのか分からない。真実は彼女の中だけだ。

 

「失礼します」

 

 ともあれ、結局のところ今日は紅さんたちTETRA-FANGは来ない。それは仕方のないことなのだけど……やっぱり、少しは残念だと言う気持ちが付いて回ってしまう。

 あの雨の日に彼と会った時から、今の自分の音楽は間違いなく良いものに進化している。流石にまだ「氷川紗夜の音」だと断言できるものではないのだけれど、それでもあの時のただ嘆くだけの自分の音よりは良くなっていると、彼に知って欲しかったから……。

 

「こんにちは。よかった、なんとかギリギリ間に合いました」

 

「本当ね。もう来ないものかと思ったもの」

 

 私の背中を押してくれた彼……面と向かって会ったのはこの前のライブが久しぶりのことだったけど、それでも彼への印象が変わることはなかった。いえ、少し訂正が必要ね。あんな魔王ファッションに身を包むことまでは全く予想できなかったわけだし。あの優しそうな顔からは想像も付かない激しさで歌うのは日菜と一緒に観にいったライブで知っていたけど、やはり私はまだまだ紅さんについては知らないことばかりだ。

 彼のことがもっと知りたい。一人の人間に対してそう思うことは今までになかったというのに、彼と出会ってからの私は良くも悪くも変わってしまったのかもしれない。

 

「あれ? 嘘っ!? 今日は来れないものとばかり思ってたよ〜」

 

「少し無茶をすれば何とか。流石に全員連れてくるのは無理でしたけど。それで友希那さん、本当に指定した条件で行けそうですか?」

 

「ええ、今日は頼むわね」

 

 ……そう言えば先程から湊さんは誰と話しているのだろう。ずっと無言で思慮に浸りながらギターの調整をしていた自分には関係のないことだとばかりに意識を向けていなかったけど、一体誰──っ!? え、えぇっ!?

 

「くっ、紅さん!? いつの間に、というより今日は来られないはずでは!?」

 

 振り返るとそこにいたのは、今の今まで自分の頭の中にいた当人であった。当然来ないものと諦めが付いていただけに、その衝撃は大きく、声を大にして叫んでしまった。

 

「はい。でも何とかして来たかったから」

 

「紗夜ったら今頃気付いたの? みんなとっくに気付いてたのに……あはっ、そんなに集中して何考えてたのかなぁ〜?」

 

 ちょうど目の前にいる人物のことよ、などと言い出せるはずもなく、私は今井さんの言葉に対して適当に遇らう。

 そして私は彼の姿を再度確認する。今までのTETRA-FANGのステージや彼の衣装、曲のイメージからも、私は彼に対して赤や黒をよく纏う人物という印象を抱いていた。しかし今の彼を覆う色は白だ。敬虔な聖職者が纏う穢れのない純白。そう言えば大袈裟だけど、そう思うほどにはいつもの彼らしからぬ白いシャツと白いジャケットを彼は見事に着こなしていた。

 少し眩しいような気がして彼から僅かに目をそらすことで、ようやく気付いたことがあった。今日、ここに来たのは彼一人ではないということを。

 

「あの、紅さん。そちらの方はもしかして……」

 

「はい。もうご存知かと思いますけど、こちらは──」

 

「いいって麗牙、俺が言うから。俺は綾野(あやの) 健吾(けんご)、またの名をTETRA-FANGのギター担当のKENGOや! よろしくなっ」

 

 紅さんのグループ──TETRA-FANGにおいて、私と同じくギターを務めるKENGO。髪の毛を金髪に染め上げ、ギターを背負いながら自信満々に胸を張って関西弁で挨拶をする彼に、私は即座に判断する。

 

──この人、あまり合わないかも、と。

 

「先言うとくけどな、麗牙をイジメる奴おったら誰であってもブチのめすからな。覚悟しときぃや」

 

「け、健吾さん、彼女たちそんなことしないから大丈夫だって」

 

「せやろな。ま、でも一応なっ。親友アピールってヤツや!」

 

 脅しのような言葉を告げたと思えば、今度はニカッと笑いながら紅さんの肩に腕を回して抱き寄せる綾野さん。なすがままにされる紅さんの顔も満更ではないようで、それだけで二人の仲の良さが伺える。ある意味私と正反対な綾野さんの態度と、それと本当に仲良しそうな紅さんの様子に正直少しだけイラッとする。だけど、今そこに対して怒る理由も必要性も見つからず、モヤモヤした気分を抑えながら私は言葉を発する。

 

「それでっ、お二人は今日は何しにここへ? まさかただ私たちのライブを観に来たってわけではないのでしょう?」

 

 ただのライブ見学ではないと、それだけは確信できた。わざわざ紅さんが無理をしてここに来た上に、ギター担当を連れて私たちの元に挨拶に来たのだから。

 

「はい。今日は僕たち二人だけですが参加させてもらうことになりました。Roseliaの前座としてですけど。友希那さんや受付のまりなさんにも、かなり無理してもらったんですけどね」

 

「今宵は俺たちだけの特別限定ユニット、その名もDUAL-FANG(デュアルファング)や!」

 

「おー! なんかカッコいい響き!」

 

「おうおう、期待しとけよ〜。俺と麗牙がいればそりゃ無敵やからなぁ!」

 

 なるほど、今日のプログラムにおいてRoseliaの前に謎の空白があると思ったらそれは彼らの時間だったわけだ。それにしても綾野さん……うるさい。本当にうるさい。私たちの前座なら今は他にやることがあるはずだ。こんなところで何を馴れ合いをしているのか。ただ仲間内でバンドをやるなら勝手にやってほしいところだ……などと言いたいことは数あれど、彼の実力を知っている身としては口を閉ざさるを得なくなる。

 私が二度TETRA-FANGのライブで見た彼のギターは、正直同じギターとして悔しくなるくらいに激しく、そして正確だった。高速オルタネイト、スウィープ、ピッキングハーモニクス、タッピングにアーミングなどその他諸々、数多の奏法を極めており、その数を並べたらキリがない。しかし私にだって今挙げたくらいのことならば出来ることだし、ただ奏法として奏でるだけなら他のギタリストにだって出来る。ただ彼の場合、年齢とその技量がまるで噛み合っていないのだ。確実に高校二年生がやっていい演奏ではなかったし、なんだったら目隠しをされればプロと勘違いしてしまうような、そんなギター捌きだった。

 

 本当、なんでこんなおちゃらけた人が……そうは思うも、身近に自然体のままメキメキ腕を上げている日菜がいる分、彼もまた「天才」と称される存在なのだろう、とそう思ってしまう。

 

 天才か……案外どこにでもいるものなのね……。本当、羨ましい……。

 

「紗夜さん」

 

「な、何でしょうか……」

 

「その……無理しないでください。今一瞬、またあの時と同じ音のような気がしたから……」

 

「っ……」

 

 最悪だ。あの日、彼に背中を押してもらったと言うのに、私はまた振り出しに戻ろうとしている。天才なんて言葉に振り回されて、また自分を見失おうとしている。全く、こんなに簡単に黒い感情が芽生えてくるなんて、心底自分が情けなくなる。まだこんなにも未熟なのに、彼に今の自分の音を聴いてもらいたいなんて思い上がっていた、そんな自分が惨めに思えてくる。

 

「ねぇ、紗夜さん。紗夜さんはステージに立つ時、何を考えていますか?」

 

「え……? そんなの、ただ良い演奏をする事だけを──」

 

 突然の質問に、少しだけ返事に困るもそう返した。いつだってそうだったからだ。常に上へ上へと目標を掲げて練習を繰り返し、その心意気は本番でも変わりない。練習だろうが本番だろうが、ギターを持つ時はいつでも今よりもっと上手に演奏することだけを考えていた。

 ……本当に? ただそれだけ? 自分で考えてだけど、私は今の自分の答えに少しだけ疑問を抱いていた。そしてその疑問の意味は、紅さんに気付かされる。

 

「そうじゃなくて、誰のことを考えているか、です」

 

「誰って、そんなの……」

 

 紅さんにそう問われて、しかし答えは一つしかなかった。私はいい演奏をしたい。でもそれは自分のために、そしてRoseliaのために……そう、私の演奏はいつもRoseliaがいてこそだった。私の音、氷川紗夜の音は、決して独り善がりの音楽であってはならない。Roseliaのみんなと奏でる音に乗せてこそ、奏でなければならないものだ。だから私のギターは、いつだってRoseliaの演奏のため、みんなのために弾いていた。

 改めてそう思うと、不思議と心が落ち着いていくようだった。私の音はきっとRoseliaの中にある。彼女たちと共にいれば、いつか必ず辿り着ける。そう思うことが出来たから。だから、私はこれからもRoseliaの面々を頭の片隅に残しながらギターを弾くだろう。彼女たちは、もはや今の私の原動力だから。

 

「そんなの、決まっています……口に出すのは恥ずかしいので言いたくはありませんが」

 

「私たちは皆分かってるつもりよ、紗夜」

 

「そ、そうですか……」

 

「ははっ。その気持ち、忘れないでください。僕も今日はRoseliaのステージを楽しみにしていますから。紗夜さんの音も」

 

「ぁ……は、はい」

 

 彼に真っ直ぐと、自分の音を期待してると言われ、少しだけ身体の温度が上昇した気がした。声もはっきり出せず、やはりまだ情けないままではと思ってしまう。

 

「じゃあそろそろ行きますね。Roseliaも僕たちのすぐ後なんですから、裏方で見ててくれても構いませんよ。一応前座ですし、ドラムやキーボードも先にセッティングできますから」

 

「ほなっ、また後でな!」

 

 最後に二人揃って別れの挨拶を告げ、一旦は離れていく紅さんと綾野さん。既に去った後の扉を、私は無意識にじっと見つめていた。

 

「……」

 

「え〜っと……これってやっぱあれだよね? アタシ、応援とかした方がいいのかな? ねぇ友希那。友希那はどう思う?」

 

「? あの二人のライブならとりあえずは応援するけど。リサは違うの?」

 

「いやそうじゃなくて紗夜の……って友希那も紗夜もこういうのってまだ早いのかなぁ? うーん……」

 

「今井さんはさっきから何を訳の分からないことを言ってるんですか」

 

「え? いやいやっ、紗夜も隅に置けないなぁ〜って思ってさ♪」

 

「? だから本当に何を言ってるんですかあなたは」

 

 ともかく彼の言った通り、今回TETRA-FANG改めDUAL-FANGは私たちRoseliaの前座としての登壇なので、私たちもすぐに出られるようにすべきだろう。私はこのまま控え室でじっとしていられず、彼らの後を追うようにしてギターを手に裏方へと進んでいった。とりあえず宇田川さんと白金さんの機材を先に用意してもらえるならそれに越したことはない訳だし。

 そして、私たちの直前のバンドの演奏が終わり、次は私たちの番──の前に、プログラムで空白になっていた謎の時間が訪れる。MCから特別ゲストの参戦が伝えられ、会場の熱が一気に盛り上がっていた。そして、二人は勢いよくステージに躍り出た。

 

「みんな盛り上がってるかぁぁ〜!! まだまだこれからやでぇ!!」

 

「ってあの人、前のライブの時と違ってめっちゃ喋るじゃん!?」

 

 今井さんが驚いた声を上げるが、その感想はここにいるみんなが思っていたはずだ。先ほど楽屋で見たテンションをそのままステージに提げて登場しているが、確かに以前のライブでは彼は殆ど喋らなかったはずだ。もしかすると今回二人だけの特別編成故かもしれないけれど。

 

「今日歌うのは再来週発表の新曲……の特別バージョンです! いつもと違ってキーボードもベースもいませんが──」

 

「代わりに俺のギターで今日は会場をジンジンさせたるでぇ!! 前座やからって手加減せぇへんからな。覚悟しときやRoseliaァ!!」

 

「……思いっきり挑発されていますね」

 

「前座の発言じゃないわね」

 

 とは言え、綾野さんの言葉によって会場はますます盛り上がりを見せている。本当に人を沸かせるのは上手い人だと、そこも認めざるを得ない。そして、私たちと会場の人たちが期待した瞬間が訪れる。

 

「それでは聴いてください……Individual-System」

 

 打ち込みのピコピコ音が鳴った次の瞬間、綾野さんのギターが歌い始めた。表現としてはおかしいかもしれないけど、そうとしか思えないほどステージ上ではある意味変態じみたギタータッピングが展開されていた。最初はあまりにも早すぎて打ち込みかと思ったけど、彼の指を見てそれは違うと即座に理解した。いや、あれは間違いなく打ち込み前提の前奏だったはずだ。しかしそれを彼は全部演奏仕切ったのだ。

 

「(なんて演奏なの……本当に人間なのかしら?)」

 

 天才もここまでくると人外を疑ってしまう。人としてはやっぱり好きにはなれないけど、ギターの扱いに関しては自分も舌を巻くほど上手で、そこは本当に心から尊敬できると思っていた。正直、あまりにも別次元すぎて嫉妬する気すら起こらなかった。

 

「(それに紅さんも……)」

 

 紅さんは、そんな綾野さんの演奏に歌声でしっかりと応えている。いえ、この場合互いが互いに応えていると言った方が正しいのだろう。紅さんは本当に楽しそうに歌うし、綾野さんも満面の笑みを浮かべたままギターを弾き鳴らしている。時折、いや、十秒に一回くらいは二人で顔と視線を合わせているし、つまりそれだけ互いを信用・信頼しているということだ。

 

「(紅さん、すごく楽しそうに頭まで振って……あっ、紅さんの方から綾野さんの肩へ腕を回してる……)」

 

 先ほどの楽屋では感じられなかった二人の結束力が感じられて、何故か分からないけど少しだけジェラシーを感じてしまう。

 

「わたし……この曲……好きかも」

 

「うんうん分かるよっ。この曲、なんか明るいもんねっ」

 

 素晴らしき青空に──栄光に手が届くまで、どんな苦難も厭わない、何を犠牲にしてもいい、どれだけ傷を負っても構わない、そんなエゴを歌った曲だった。正直言って思うところが無いわけではない。FWFのために、父のために、当初は自分の気持ちを二の次にしていた湊さん。日菜へのコンプレックスから逃れるために、多くものを切り捨ててギターの腕を高めてきた私。人は誰も、自分の正義のために何かを犠牲にしている……そんな過去の自分の面影を感じてしまうような曲だった。

 だと言うのにその曲は、青空のように明るかった。暗めのイメージの曲が多いTETRA-FANGの中では珍しい、眩しい光が差し込むかのような楽曲だった。だから白金さんや今井さんが好きと言ったのも全然不思議ではなかった。

 

 やがて曲のラストサビの詞が彼の口から語り終わり、綾野さんのギターの音だけが会場を支配して、そして曲は盛り上がりを保ったまま終わりを迎えた。

 

「ありがとうございました! 今の曲の本番は再来週のここ、CiRCLEにて披露されます!」

 

「そん時はTETRA-FANG四人全員集合でジンジン言わしたるからな! 全力の俺らのライブ、楽しみにしときやぁ!」

 

「では次ラスト! Roseliaのみなさん、お願いします!!」

 

 完全にMCの仕事を乗っ取った紅さんの言葉がキーとなり、私たちはステージに乗り込んだ。今まで二人が支配していた会場を、Roseliaの色に染め上げるために……ここからは私たちのステージだから。

 

「行くわよ。みんなっ」

 

 MCの紹介が終わり、湊さんの言葉と共に私たちのライブが始まった。

 

 ♪~~♬~~

 

「(自分のために……Roseliaのために……)」

 

 紅さんのお陰で思い出せた、誰かのための演奏を胸に私はギターを奏でる。私の音──氷川紗夜の音を作ってくれるRoseliaのことをハッキリと想いながら奏でる演奏は、何かが違っていた。

 

「(すごく……気持ちいい)」

 

 自分だけではない、今は音楽を通じてみんなと繋がっている。それを自覚しながらでの演奏は、自身に今まで以上の気力が満ちてくるようだった。身体が、指が、心が、全てが躍るような心地でギターを弾く。それはなんて気分のいいものだったことだろう。今の私たちの間には、最高のグルーヴ感が生み出されていた。

 

「(紅さんも、聴いていますよね)」

 

 醜態をさらしてばかりの自分のことなんかを期待すると言ってくれた紅さん。そんな彼のことを考えて、そして聴いてほしくて、私はまたギターを弾き続ける。

 

「(私は今、私だけの音を奏でられていますか……?)」

 

 ♪~~♬~~

 

 Roseliaだけでなく、紅さんのことも想っての演奏……それによってまさか先ほどまでよりも演奏の乗りに磨きがかかっていたことなど、この場にいる私だけが気付かなかったのは何かの皮肉だろうか。

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 全てのライブが終わり、ライブに参加したバンドへの挨拶も程々にして、俺たちは帰路についていた。Roseliaのみんなはそのまま打ち上げに行くらしいが、予定があってそれ参加することが出来ない俺と麗牙はライブハウスを後にするしかなかった。

 Roseliaの演奏は正にロックだった。ギターの紗夜ちゃんの演奏も、以前チラッとあそこで見た時よりも色鮮やかに奏でるようになっていて、凄まじい成長を遂げているように感じられた。俺には分かる、アレは俺と同じ努力の化身や。はっきり言って俺は自分にそこまでのギターの才能があるとは思っていない。でもギターが大好きで、それだけは天才にも負けたくないから俺は努力に努力を重ねた。凡人が天才の十倍の努力してそこに届くとしても、天才が更に努力したらもはや敵わない。だけど、天才が他の天才の二倍の努力をするなら、俺は努力した天才にも勝てるように凡人の二十倍は練習すればいいだけのことだ。こうして身につけたのが俺だけのギター……これだけは誰にも真似出来ない、俺だけの音や。なんたって麗牙のお墨付きやからなっ。

 

 ……だけど、俺が今考えていることはギターのことじゃない。麗牙のことと、そして……。

 

「なあ、麗牙。お節介かもしれんし、なんやったら必要ない言葉かもしれんけどな、一つだけ言っとくことがあんねん」

 

「言っておくこと?」

 

 それを言ったとしても多分麗牙は聞かないだろう。俺だって本当は言いたくないし、聞いてほしくもない。

 

 でも、万が一にも……と考えてしまうのだ。

 

 俺は麗牙のあんな顔……もう二度と見たくないから……。

 

「聞けやんっていうならそれでもいい。多分それが真っ当な判断やからな」

 

「だから何ですか? 勿体ぶらずに言ってくださいって」

 

 ああ、言いたくない。余計なことだって分かってるけど、でも言わなければならない。そんな葛藤を乗り越えて、俺はそれを口にする。

 

「麗牙、お前な……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……あんまり燐子ちゃんとは関わらん方がええで」




物語の目覚めの時は近い……。
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