ボーカルでヴァイオリニストな彼は   作:春巻(生)

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『次狼によってキャッスルドランへと招かれた紗夜たち。しかし次狼の勝手な行動に対して麗牙の鋭い視線が放たれる。そんな麗牙も、自分がつぐみにあらぬ憧憬を抱かれていることを自覚して頭を悩ませていた。そんな重い空気を振り払おうと、彼は母の元へと歩き出し……』


第75話 贈り続ける微笑み

 通路に敷かれた赤いカーペットを恐る恐る踏みながら、私たちは次狼さんに連れられてこの不思議な空間の中を進んでいく。偶にすれ違う使用人らしき人たちから小さく頭を下げられる感覚には未だ慣れないけど、流石にこの格式高い屋敷の景色には慣れてきていて、紗夜さんたちと言葉を交わす余裕も出来ていた。

 しかしそれでも、さっきの紅さんの怖い顔が未だ頭にこべり付いて離れてくれなかった。初めて正面から見る彼の怒った表情につい怖くなって顔を背けてしまったけど、改めて思っても失礼なことをしてしまったと自己嫌悪に陥ってしまう。私に怒ったわけじゃないと分かっていたのに、あの時の紅さんの顔が本当に怖くて……憧れていたはずなのに彼から目を逸らしてしまった。直後の紅さんの顔が穏やかだっただけに、彼に気を遣わせてしまったと感じずにはいられなかった。

 

「羽沢さん。あまり気を病むことは無いと思いますよ。偶然にも間が悪かったと、そう思いましょう」

 

 紗夜さんは私の気持ちを察してくれて慰めの言葉をかけてくれる。紗夜さんは怖くはなかったのかな、さっきの紅さんの顔……。だけど、きっと私よりも紅さんのことを知っている紗夜さん……紅さんの内面を理解している紗夜さんが動揺していない辺り、やはり二人の間の絆は強いのだと思い知らされる。これが紅さんのことを特別だと思わない彼女と、どうしても特別な目で見てしまう私との差……なのかな。

 

「ねぇジローさん。あたしたち結構歩いた気がするけど、もしかしてまだあるの?」

 

「ああ、まだまだ見足りないほどにな……そろそろ来る頃か」

 

「?」

 

 紗夜さんが私の心配をしてくれているからか、次狼さんに話しかけるのは専ら日菜先輩の役割になっていた。日菜先輩の言う通り、紅さんと別れてから大分歩いたように思えるけど、それでも次狼さんはまだまだだと言う。そもそも、ここは本当にビルの中なのだろうか。次狼さんが言った「城」と言うのが比喩でもなんでもなく、そのままの意味のように感じ始めていた時、私たちの進む先に一つの扉が見えてきた。扉の両脇に甲冑を付けた兵士……いや、置物かな? まるで扉を守るようにして立たされた門番のようなものが立つ姿が目に入った。

 

「あれ?」

 

「あ、ライガだっ」

 

 それと同時に、私たちが歩いているのとは違う通路から、先ほども見たあの紅色の男の子が姿を現した。

 

「え……なんで……」

 

 私たちを迎えに来たのだろうか? お仕事はもういいのかな? 一瞬そう思ったけど、彼も私たちがいたことは予想外だったらしく、さっきの部屋に入った時と同じように目を丸くしてこちらを見つめていた。

 

 そして、同じようにまたあの怖い目を……いや、さっきよりもずっと恐ろしい敵意を込めた眼差しを次狼さんに向けていた。

 

 

「ねぇ……何、ふざけた真似してるの次狼……よりによって、ここに連れてくるなんて……」

 

 

 静かに、荒ぶらないようにゆっくりと言葉を発していくも、本当に怒り心頭なのか彼の声が震えているのが分かる。何に怒っているのかわからないけど、まさかここまで怒ることがあるなんて……。そう思いふと横を見ると、紗夜さんも日菜先輩も意外そうに目を見開いて彼と次狼さんの間を視線が行ったり来たりしていた。きっと二人も、身内に対してここまで怒りを見せる紅さんの姿を初めてなんだ……。

 

「ふ、そう怖い顔するな。寄り付くものも寄り付かなくなるぞ」

 

「分かって言ってるよね……何が目的?」

 

 次狼さんの言葉でほんの少しだけ声の震えが収まるも、依然として彼の感情が収まることはなかった。ここまで感情を顕にされると、彼にとっての触れられたくない何かに触れてしまったような、そんな気持ちにさせられてしまう。私がここまで怒ることは無いかも知れないけど、もし怒るとすれば、それは大事なものを侮辱されるか傷付けられた時。紅さんも……同じなのかな?

 

「いや何、挨拶くらいは必要だろうと思ってな。新しい友達を連れてきたとか言えば、マヤなら喜ぶかも知れんぞ?」

 

「? 麻弥ちゃん?」

 

「多分、違うと思う……」

 

「……」

 

 次狼さんが告げた「マヤ」という名前に紅さんはピクリと反応する。日菜先輩が反応したように、バンド仲間にも同じ名前の先輩がいるけど関係は無いと思う。しかし爆発寸前にも見えた紅さんは、次狼さんの言葉で考え込むように沈黙を決め込んでいた。その扉の向こうには何があるの? 何があなたをそこまで怒らせるの? そんな想いに駆られている中、長い沈黙を破って紅さんはようやく言葉を発した。

 

「それも……そうかもね」

 

「そうか……よかったなお前ら、今から麗牙のお母様に会わせてくれるそうだ」

 

「えっ?」

 

「お、お母様って……」

 

「ライガのお母さん!?」

 

 今から行われることに私たちの全員が同じように驚いていた。紅さんのお母さん!? え、それってとても大事なことだよねっ。しかし紗夜さんは「初めて聞く」みたいな顔して驚いている辺り、紅さんは母親のことを紗夜さんにも話してなかったんだろう。でもよく考えてみればそうだよね、紅さんの家なんだしお母さんもいるよねそれは。紅さんには助けてもらっちゃったし、いるなら是非とも挨拶はしておきたいと思っていたところだ。

 それに、吸血鬼の王様である紅さんのお母さんってことは……。

 

「先に言っておくが、先代のファンガイアのクイーンだ。無礼のないようにな」

 

「クイーン……?」

 

「キングがいるならクイーンも当然いる。だが今はそんなことどうでもいい。さっさと入ろうか」

 

 当然、紅さんのお母さんも吸血鬼ということになる。それにしてもクイーン……女王様かぁ……。外国とかお伽話の中でしか聞かない名前だけに、少しだけ緊張してしまう。どんな人なんだろう。やっぱり紅さんのお母さんなんだし、若くて綺麗で美人なんだろうなぁ……。そんな想像をしている中、紅さんがその扉をノックして、中にいるであろう人に向けて話し始めた。

 

「母さん、入ります。今日は……新しい友達もいるんです。驚いてくれると……嬉しいかな……」

 

「……?」

 

 彼の言い方には少し違和感を覚えるけど、その重そうに見える扉を開けて彼は中に入り、私たちもそれに続いて部屋の中へと足を踏み入れた。

 

「(なんだろう……とっても静かな……)」

 

 部屋の中は思っていたよりも殺風景で、音もなく静かな時が流れていた。

 

 静かなのは当然、音を出すものが何もなかったからだ。

 

 その部屋の主も含め……。

 

 

「こんにちは母さん。元気ですか?」

 

 

 紅さんが声をかけた先……私たちの目に映ったのは、全身を黒一色の柔らかな生地に包まれた、今まで見たこともない程の美女の姿だった。細く綺麗な黒い髪はベールの如く彼女の小さな顔を包み込み、その雪のように白い肌を際立たせている。その顔も神様が本気を出して一人の人の顔を作ったのかと思わせるほど整ったパーツで構成されており、絵画でしか描かれない空想上の女神のようにすら感じていた。

 

 見ているだけで溜め息が溢れてしまいそうなほどの、一点の穢れも見えない美女。

 

 ただ、普通と違う点を挙げるとするならば……彼女はベッドの上でじっと動かず、ただ目を見開いて虚空を見つめ続けているということだった……。

 

 

「……」

 

 

 彼女は……紅さんのお母さんはピクリとも反応しない。

 

 その瞼を開き、透き通るような瞳を見せているのにも関わらず、そこに紅さんなんて存在しないかのように微動だにしない。

 

 そう、まるで時が止まったかのように、じっと固まったまま……。

 

 ──え……これって……何なの……?

 

 私は、もしかするととんでもないものを目の当たりにしているのかも知れない。紅さんが自身の母を見つめる優しすぎる目を見て、そう思わずにはいられなかった。

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 紅さんが自身の母を支えて、寝かせた状態からベッドの壁にもたれかからせるのを見ながら、私は目の前の光景に衝撃を隠せず身体が震えそうになっていた。彼から家族のことを詳しく聞いたことは無かったし、彼がよく話すのも自分の父親のことばかりであった。母親のことは話したくないのだろうか、とは思わずとも何かあるのかも知れない、そう予想は立てていたつもりだけど……まさかこんなことだったとは夢にも思わなかった。目は見開いているのにそこに感情はなく、息子の言葉にすら反応出来ずただ息をするのみ。自分では身体も動かせず、言葉も発せず、意思があるのかも分からず……今もこうして紅さんに支えてもらっている彼女の姿を見て居た堪れない気持ちになってしまう。

 

「じ、次狼さん……その……紅さんのお母様は……」

 

「死んではいない。が、生きているとも言い難い。ずっと、時が止まったままの状態で過ごしている」

 

「そんな……」

 

 それ以上の言葉は出てきそうになかった。反応しない母親へ尚も語り続ける紅さんの姿が悲しくて、胸の奥が激しく痛み出す。もしこれが自分の親だと想像するだけでも耐えられない苦しみであるというのに、その現実に目の前の彼は直面している。

 

「──前に、母さんに話したことあったよね。一緒にライブをしたりする仲間ができたって──」

 

 今まで、ずっとこうして聞き返すことのない母に語りかけて来たのだろう。いつの日か、自分に言葉が返ってくることを信じて……。彼は自分の母が目覚めることを諦めていない、それはすごく強くて高潔なことなのだと思う。しかし、そこに至るまでに彼が深く傷ついた事は容易に想像出来てしまう。そうでなければ、今もあんなに優しそうな目をして彼女に語りかけたりしないから……。

 

「(紅さん……っ)」

 

 彼は今でも母親のことが大事で、それだけに彼女が寝たきりになってしまった時の彼の悲しみは大きいものだと想像出来る。しかし、それがどれほどの苦痛なのかは私には推し量ることしか出来ない。それが酷くもどかしくて、胸の中で暴れる痛みを必死に手で押さえていた。

 

「ライガ……ねぇ、ジローさん。どうしてライガのお母さん、こんな……」

 

 私も羽沢さんも目の前の現実がショックで何も言えなかった中、日菜だけは次狼さんに問い掛けることができた。その光景を見慣れているはずの次狼さんも、一息ついてから静かに語ってくれた。

 

「マヤは優しすぎた。そして麗牙を愛しすぎた。だからこうなった……俺からはそうとしか言えん」

 

「なんで……どうして優しかったらこんなことになるの? ライガのこと大事だったらこんなことになるの? そんなの、絶対おかしいよ……」

 

 悲しげに告げる日菜の言葉には同意しかない。優しさが、人を愛する気持ちがその人を不幸にするなんて絶対に間違っている。彼女とは愛の形は違うけど、少なくとも私は紅さんを愛して不幸になったとは思っていない。あんな結末になっても、それでも私は幸せだったと自負している。それに二人は親子なのだ。その間に愛があって許されないはずはないのに、親が子を愛した結果が不幸だなんておかしいとしか言えない。

 

「世界にはそういう理不尽はよくある」

 

 次狼さんは表情を見せないようにそっぽを向きながら淡々と答える。確かに悪いことをしていなくても酷い目に遭う人はいるのだろう。だからといって、今私の目の前の理不尽を「よくある」の一言で済ますことはしたくなかった。

 

「だからって、納得できるわけが──」

 

「アイツもそうだ。麗牙はマヤが何故ああなったかよく理解しているし、彼女の選択も尊重している。それでもだ。それでもその結末に納得がいかないからこそ、今のアイツがある」

 

「──紅さん……」

 

 全ての事情を受け入れて、それでも理不尽に納得できないのは紅さんも同じだった。今でも諦めることなくお母様に話しかけるのがその証明だろう。

 

「──明後日のライブの曲なんだけどね、あの衣装を少し工夫して──」

 

 私たちの存在など忘れているかのように、ただひたすら母に語り続ける紅さん。その顔は微笑みで塗り固められているが、私にはそれが強がりのようにしか見えなかった。彼は今、笑顔という仮面で涙を隠している。悲しくて苦しくて、泣きたい気持ちを必死に抑えて、大切な母に笑顔を贈り続けている。そんな彼の姿が痛ましくて、目を逸らしたくなってしまう。

 

 しかし、その時だった。

 

 

「あの、紅さんっ」

 

 

「っ、つぐみさん?」

 

 私と同じようにショックから動けなくなっていたと思っていた羽沢さんが彼まで歩いて行き、ハリのある声で話しかけたのだ。

 

「わ、私も……挨拶していいですか?」

 

「え?」

 

「えっと、その……私も紅さんのお母さんと……お話ししてもいいかなって」

 

 突然の彼女の行動に思わず面食らい、無言で立ち尽くしてしまう。紅さんのお母様と話す……そんな行動に咄嗟に出られるなんて。その思いは紅さんも同じで、いつしかベッドの傍まで歩み寄っていた羽沢さんに気付くまで固まったままであった。

 

「は、はいっ。つぐみさんも……どうぞ」

 

「ありがとうございます……ふぅ……は、はじめまして! 紅さ……麗牙さんのお母さん。私、羽沢つぐみと言います」

 

 紅さんの返答を貰うや否や、羽沢さんはすぐに自己紹介を始めた。寝ている人も起きてしまいそうなほどの明るい元気な声で自分のことを述べていく羽沢さんにを見ていると、何故かこちらまで元気になってしまう。

 

「──で、私はそこでキーボードを担当しています。麗牙さんとは偶然知り合ったんですけど、色々と助けられてて──」

 

 どこか必死に感じる気もするけど、紅さんのために何かしたくて居ても立ってもいられなかったのだろう。本来の彼女はそういう人だったなとふと思い出したのも束の間、自分の隣から日菜が歩き出すのが見えてふと我に返った。

 

「ライガ、あたしも挨拶していいよね?」

 

「っ……はい、もちろんです」

 

 羽沢さんの行動に影響された日菜も、紅さんのお母様に言葉をかけようと動き出す。日菜の相変わらずの動きの早さに驚いて、自分は出遅れてしまったと内心バツが悪くなってしまう。

 

「ええっと、どんな感じがいいかな……やっほー☆ライガのお母さん! 元気? あたし氷川日菜っ。ライガと同じ高校二年で──」

 

「ちょっ、日菜!?」

 

 先ほどの次狼さんの「無礼のないように」という言葉をもう忘れたのか、友達に語りかけるような軽い口調で挨拶を始める日菜に焦らずにはいられない。彼女に元気がないから、こうして紅さんやお母様にかける言葉を皆選んでいるというのに、そんな空気を壊すような明るすぎる挨拶を聞いて姉としては慌ててしまうばかりだった。

 

「いいですよ、日菜さんはアレで。母さんには、みんなのありのままを知ってほしいから……」

 

「紅さん……」

 

 しかし紅さんは日菜の言動を咎めたりはせず、彼女のありのままを肯定してくれた。今の紅さんのお母様に必要なのは社交辞令でも形式的な挨拶でもなく、私たちという存在を伝えることなのだと紅さんは言いたいのだろう。

 

「その、紅さん……私もよろしいでしょうか。紅さんのお母様に、私のことを話しても」

 

「はい、もちろんです。ありがとうございます、紗夜さん」

 

 日菜の明るい自己紹介の後に私のような生真面目で固い挨拶をするのは少し気が引けるけれど、これもありのままの私なのだと、紅さんが伝えてほしい自分を伝えるために、私も動かない彼女に向けて言葉を紡ぎ始めた。

 

「お初にお目にかかります。氷川紗夜と申します。先ほど紹介した日菜の双子の姉にあたり、同じく高校二年……麗牙さんと同じ歳になります」

 

「……」

 

 やはり彼女は動かない。そこにある存在感から、それが人形でも作り物でもない一つの生命だということはハッキリと認識できる。それでも、何の反応も見せずただ虚空にある一点を見つめ続ける姿を見ていると、本当に止まった時の中に置いていかれたような、そんな人を見ている気分にさせられてしまう。もしかすると、このまま一生意思を見せることはないのかもしれない。でも、紅さんが諦めていないのだから、私も諦めたくはなかった。

 

「私、麗牙さんには本当に助けられました。闇に沈もうとする私の心を救い上げて、その背中を押してくれました。彼がそんな優しい人でいられたのも、きっとあなたがいたから……なんですよね」

 

「……」

 

「あ、ライガ照れてる」

 

 今は紅さんのお母様にのみ眼差しを向けているから彼の顔は見えないけれど、日菜の発言から彼が顔を赤らめて頬をかいている姿が容易に想像出来た。そんな紅さんを思い描いたからか、私にも自然と笑顔が湧き出てきて、お陰で自然な笑みを彼女に向けることができた。

 

「ですから、ありがとうございます。あなたが麗牙さんのお母様で良かったと、今はそう思います」

 

「……」

 

 私が紅さんと出会えたのは、元を辿れば彼女が彼を産んだから。私が愛を知ることが出来たのもそう。流石にそこまで言うには照れ臭すぎて言葉が出せなかったけれど、この心からの感謝の気持ちは彼女にも伝わっていると、そう信じていたかった。

 

「私も麗牙さんと同じでバンドを──」

 

 自己紹介は得意な方ではないし、最初は何を話そうかと迷っていたけど、いざ彼の母の前に立つと自然と話したいことがどんどん頭に浮かんできて、口が止まらなくなってしまっていた。それほどまでに、私は紅さんの肉親に何かを語りたくて仕方がなかったのだ。彼と過ごした時間は決して長くはないけれど、そこで得られたものは何物にも変えがたい大切なものだったと、私の口から彼女に伝えたいと心が叫んでいた。

 

「──私からは以上です。長話に付き合っていただいてありがとうございました」

 

「……」

 

 相変わらず彼女は微動だにしない。今の私の言葉が届いているのかも私には判断しかねない。自己満足だと受け取られてしまうかもしれないけれど、それでも私の言葉を贈ることができて良かったと今では強く感じていた。

 

「皆さん……ありがとうございます」

 

 紅さんの細い声が静かな部屋に響く。彼が何を思って感謝しているのかなんて分かりきったことだけれど、彼女に言葉をかけようと率先して動いたのは羽沢さんだ。羽沢さんがいなければ、私は動くことは出来なかったかもしれないし、この場で一番紅さんたちのことを想って動けたのは間違いなく彼女だった。

 

「紅さん……」

 

 そんな羽沢さんも、今は紅さんのすぐ側に立ち、柔らかな笑みを浮かべる彼の顔を心配そうに見上げていた。

 その時の彼女には王の顔色を伺うような遠慮した表情は見えず、ただ一人の青年のことを心から気遣おうとする優しい少女の姿がそこにあった。




話数も増えてきたしそろそろオリキャラ人気投票でもやろうかしら。
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