ボーカルでヴァイオリニストな彼は   作:春巻(生)

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『クリスマスに偶然街で出会った麗牙と燐子。甘くて溶けそうな雰囲気を醸し出す中、麗牙を見つめる不穏な視線が……?』


第78話 氷雪よ、華麗に激しく

 クリスマスの空の色は次第に灰色が深くなり、日中にも関わらず陽の光は薄くなっていた。今にも落ちてきそうな曇天の元、商店街を抜けようとした正にその時であった。

 

「きゃァァァァァッ!?」

 

「どけどけどけェェッ!!」

 

「っ!?」

 

 僕らの背後から女性の悲鳴と、怒声を響かせる男の声が届いてきた。燐子さんと共にすぐさま振り向くと、帽子とマスクで顔を隠した男が手に高級そうな鞄を抱きしめながらこちらへ走ってくるのと、その男を追いかけようとするも恐怖からか座り込んで動けなくなっている貴婦人が目に入った。この状況から察するに、恐らくは引ったくりに遭ったと言うことなのだろう。男はナイフを振り回しながら周りの人間を遠ざけつつこちらに駆け付けているし、これでは誰も止められないのも無理はない。

 

「(それにしても今時なんてオーソドックスな……)燐子さん、下がってて」

 

「はい……って、えっ? 麗牙さんは……?」

 

 あんなあからさまな暴漢を見逃すことは出来ないし、幸いにも僕はそれを容易に止められる力を持っている。だから燐子さんを下がらせて、男を無力化させるべく一歩前へ進み出ようとした。

 

「どけェェェェ!」

 

「麗牙さんっ!」

 

 男の怒声と燐子さんの悲鳴にも似た叫びが同時に轟く。

 

 しかし、その時だった。

 

 

 

 

 

 

「やれやれ……醜いものが目に入ってしまったな」

 

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

 突如として僕の目の前に、一つの影が現れた。いつの間に、どうやって現れたのかはよく観測できなかったが、いきなり現れた目の前の存在に僅かに息を飲んでしまう。声からして男の人だろうが、僕からは顔をよく見ることができなかった。

 

「ふんっ」

 

「ッガァ!?」

 

 すぐ目の前には暴漢が迫っていたが、男の纏う落ち着いた雰囲気は一切変わることがなかった。一歩前に踏み出し、暴漢の振りかざしたナイフをその手刀で一瞬ではたき落とし、一発、更に一発と拳を身体に叩き込んでいく。そして最後に鳩尾に一発膝を入れた後に地面に叩き伏せ、男を完全に組み伏してしまった。この間、ものの三秒程である。

 

「おお……」

 

「すごい……」

 

 僕と燐子さんの感嘆の声が揃っていた。あまりに手際のいい撃退でつい見惚れてしまったのだ。自分にも出来なくはないが、こうして果敢に余裕を持って悪意に立ち挑む姿にも感心してしまったところもあるのだろう。

 

「刃物の使い方がなっていないな。ま、今後も学ぶ機会はないだろうが」

 

 その後すぐに警察が駆けつけて、完全に伸びた暴漢は連行されていった。それを撃退して商店街のヒーローとなっていた男はほんの軽く言葉を交わしただけで、颯爽とその場を後にしようとしていた。

 

「では、ボクはこれで」

 

「……っ!?」

 

 しかし、僕たちの隣を通り過ぎる際に感じたのだ。

 

 男から溢れる、人間では感じることのない強い魔力を。

 

 ファンガイアともその他の魔族とも違う、禍々しさを感じさせる大きな力を……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれからしばらく歩き、池の見える公園の屋根の下に燐子さんを招いていた。あんなことがあったからだろうか、燐子さんはどこか上の空のように口数が減っていた。元々口数は少ない方だけど、それを知る僕がそう感じるほどには燐子さんは静かであったのだ。

 

「燐子さん? さっきのこと、まだ考えてます?」

 

「えっ? その……はい、少しだけですけれど……あんな人もいるんだなって……ちょっとカッコいいなって」

 

「そう、ですか……」

 

「あ、もちろん麗牙さんも……さっきあの人に向かおうとして、すごいなって思いました……けど……わたし……麗牙さんに何かあると思うと……」

 

「……(僕だって、あれくらいは……)」

 

 僕にだって同じことくらいできる。それを燐子さんな言いたくて、でも対抗心を燃やしていると思われたくなくて言葉を飲んでしまう。というより、なんでこんなにもムシャクシャするんだろうか……燐子さんがあの人のことがカッコいいと言った途端、腹の底が燃えるような感覚に襲われてしまう。急に喉が乾くような飢えが芽生え、側にあるゴミ箱を蹴飛ばしたくなるような凶暴性に目覚めそうになる。そんな自分に気付いてすぐに感情を抑え込み、彼女に出来るだけ自然な笑顔を向けようとした。

 

「こんな時は音楽に身を委ねましょう。怖いことも嫌なことも、僕の音で全部忘れさせてあげます」

 

 先ほどの出来事を全て塗り潰そうと、そんな思いにも駆られていたのだろうか。その言葉と共に僕はヴァイオリンをケースから取り出して、燐子さんの目の前で構える。僕の音を響かせて、燐子さんの心からあの男を追い出したい。そんな黒い感情を抱いていることにすら気付かないまま、僕は彼女の前でヴァイオリンの音を奏でようとしていた。

 

「……っ!」

 

 その時だ。今度は視線だけではなかった。燐子さんをベンチに座らせた時、彼女の遠く背後に立つ樹木から一つの影が半身を覗かせ、こちら見ているのがハッキリと分かった。顔や全身はまだよく分からないが、間違いなく先ほども感じた視線の正体はあの影だと感じた僕は、燐子さんを公園のベンチに残して一人歩き出していった。

 

「ごめんなさい燐子さん。少しだけ席を外します」

 

「え……はい……」

 

「すぐ戻ってきますから」

 

 逃げられるかも、とは一切思っていなかった。逃げる気でいたならあんな挑戦的な視線を僕に向けたりはしないだろうから。最初から僕に用がある相手だということは当然把握できていた。その予想通り、その影は大人しく僕が訪れるのを悠然と待ち構えていた。

 

「っ……貴方は……」

 

「やあ、また会えたね」

 

 僕の目の前にいる存在は、先ほど商店街で見かけたあの男性であった。爽やかな印象を抱かせる彼は白いジャケットを身に纏い、黒いマフラーで包まれた小さな顔は非常に整っており、そのスマートな背丈や体系から一瞬モデルの人かと思ったほどだ。一見好印象を抱かせる容姿だが、わざわざ僕だけに視線を送ってきたのだから決して油断などできない。先ほど感じた魔力のこともあり、警戒を抱きつつその男に向けて静かに問いただしていた。

 

「何か、用ですか? わざわざ僕にだけあんな視線を送って」

 

「気に障ったなら申し訳ない。ただ、どうしても君と二人きりで言葉を交えたくてね」

 

「僕と?」

 

「ああ。会えて光栄だよ……現代のキバを継ぐ者」

 

「……」

 

 目の前の存在が普通の人でないことは、彼の身体から感じる禍々しい魔力からも察しできた。そして僕がキバの鎧を継ぐ者……ファンガイアのキングだということを知っている時点で、男への警戒の度合いを更に高める。そして彼の禍々しい魔力には僕も覚えがあった。その答え合わせも兼ねて、僕は男へと静かに言葉を投げかけていく。

 

「何者ですか貴方は……少なくとも人間でも、ファンガイアでもないですね」

 

「ええ、それは。貴方には隠しても意味は無さそうなので言いますけれど……ボクはレジェンドルガです」

 

「……やっぱりそうですか」

 

 僕も想像は付いていたが、男はあっさり自分がレジェンドルガであることを明かした。ガーゴイルを倒してからしばらくは影も形も見えなかったレジェンドルガ。それがまさか向こうから、しかもこんなに気さくに話しかけてくるとは思いもせず、内心少しだけ動揺してしまっていた。

 

「何が目的ですか」

 

「はは、いやいや。さっきも言ったようにほんの好奇心ですよ。ボクは君に会ってみたかったんだ。現代のキバを継ぐ君にね、紅麗牙くん」

 

「……信じられるとでも?」

 

 これまでレジェンドルガは……それこそ太古の昔から、現存する全ての魔族にとっての共通の敵であった。その上レジェンドルガ族はファンガイア族によって封印され、ほとんど滅んだとさえされていたのだ。そんな一族の一人が、わざわざ単なる好奇心でファンガイアのキングと接触を図るものか。そこに含まれた意図を探るべく、僕は出来るだけ目の前の男から情報を引き出そうとしていた。しかし……。

 

「うーん、全てのレジェンドルガが同じだと思われるのは少し悲しいなぁ。生きているのだから、そう言うことはあり得ないのに」

 

「それは……例外の話をこれまで聞いたことがなくて」

 

「そうか、なら仕方ないな。だったら、今レジェンドルガが人間を拐って何をしているか、それを教えてあげよう。それで少しは信用してくれるか?」

 

「何?」

 

 レジェンドルガが何を目的として動いてくれるか、此方がずっと知りたがっていたことをあっさり話そうとする男に食いついてしまう。そんな僕の反応に悪戯が上手く行った子どものようなしたり顔を浮かべ、彼は僕にゆっくりと近付いてきた。

 

「彼らの目的はただ一つ。ロードの復活だ」

 

「ロード……レジェンドルガの王……」

 

「そう。それを説明するには、ヤツが封印された時まで遡る必要がある」

 

 そう語る彼の目は真っ直ぐ僕を貫いており、そこに虚偽があるとは思えなかった。故に、これから彼が話すことは真実なのだろうと自然と感じてしまっていた。魔皇力を持つ人間の誘拐とロードの復活の間にある関係。それが明かされる時がこんなにも簡単に訪れるとは思いもせずつい臆しそうになるが、彼の言葉に真剣に耳を傾けていた。

 

「太古の昔、ボクたちレジェンドルガはキバの力により大半が死に絶え、ボクを含めた僅かな同胞だけが硬い封印に閉ざされた。そこまでは共通の認識だね?」

 

「うん。かつてのファンガイアのキングによって貴方たちは滅んだはずだった」

 

「そう、確かに滅んだ。しかしロードはしぶとくてね。封印される直前に自らの力の因子を発散させたみたいなんだ」

 

「因子?」

 

「あー……因子というより、ロードの魔皇力……と言った方がいいかな」

 

「まさか……」

 

 そこまでヒントを与えられれば、散らばった点が線で繋がっていくのに時間は要らなかった。

 

「当時の人間に無差別に、自分の写身とも言える力の末端を植え付けた。自分が封印から解放されなくとも、いつの日か世界のどこかで復活の種が芽生えることを見越してね」

 

「それが、その時の人間の子孫にも受け継がれてたってこと?」

 

「そうだ。腐ってもロード、そのくらいの事くらいは当然できるさ」

 

 彼の話を信じるならばレジェンドルガのロードは自身の保険として、復活の糸口となる魔皇力を散布させた。そして燐子さんや友希那さんの遠い先祖が浴びた結果、彼女たちまでその魔皇力が受け継がれていってしまった。そしてレジェンドルガたちが魔皇力を持つ人間を狙っているのは……。

 

「そんな人間たちをレジェンドルガに目覚めさせたならば、誰か一人はロードとして覚醒する。それを期待してるのさ、連中は」

 

「貴方は違うと言うんですか……」

 

「……ボクはロードの復活なんて興味がない」

 

「え……?」

 

 僕の質問に、至極つまらなさそうに男は呟いた。今までの淡々とした話し方よりもずっと感情が込められたような低い声で語るその姿に、彼の言動が単なるポーズでないことが窺えた。

 

「はは、元々嫌いなんだよ。『神の敵』を自称する割に、素の実力はボクと大差無い……いや、ロードそのものよりも、その周辺が嫌いなのかもな」

 

「周辺?」

 

「誰もがロード一人を囃し立てる。ロード一人だけが絶対だと信じて疑わない。だからこそ後継者もいないし、ロード自身も選ぶ気がない。そのくせ頭がいないとまともに統率もされないのがレジェンドルガだ。そんな一族の体制には本当、ウンザリしているんだ」

 

 絶えず口から繰り出される不満の言葉は、それが彼の本心だと言わんばかりに熱がこもっていた。彼は間違いなくレジェンドルガだが、自分たち一族の在り方を本気で嫌っているのだとその顔を見て信じるしかなかった。

 

「誰しもがロードのために生きている奴隷だ。ロードに命を捧げるのが当たり前だと唱え続けている。そんなのボクは嫌だからね」

 

「貴方は……何がしたいんですか?」

 

 それでも、僕は彼に訊ねなければならなかった。レジェンドルガとしての目的はロードの復活、それは分かった。では彼は? 目の前の未だ得体の知れない彼の目的は? それを知らない限り、僕は彼の全てを信じることも受け入れることも出来そうにはなかった。

 

「自由に生きること、かな。せっかく時を超えて復活したんだ。このありのままの世界を自由に生きていく、それが一番気持ちいい」

 

「自由……」

 

 しかし彼は当たり前のことのようにそう答えた。自由、それは生きとし生けるもの誰もが持つ当然の権利である。僕も健吾さんも、そして皆も誰かの自由のためにこうして戦ってきた。誰かの自由が踏みにじられないために、誰かの自由という名の身勝手を討ち滅ぼす。どこか矛盾を孕みながらも、僕たちは僕たちの願う世界の到来を夢見て戦ってきたのだ。だから、清々しい笑顔を灰色の空に向けて、誰に向けたわけでもなくそう答えた彼のことを、僕は少しだけ信用したくなってしまっていた。

 

「貴方は……」

 

「おっとそうだ、そろそろ名乗らないとな。今は人間の身分を偽って過ごしていてね。改めて、紅くん……今のボクの名は黒麓(こくろく) 大地(だいち)だ。よろしく」

 

 そう言って男──黒麓大地は僕に手を差し伸べてくる。握手を求めていることくらいはすぐに分かるが、それをそのまま受け入れていいのか少しだけ迷いが生じていた。レジェンドルガ族を信用していいのかという疑心と、自由を願う彼を信じたいという気持ちの狭間で葛藤が生まれ、反応が遅れてしまう。

 正直なところ、彼の話については未だ疑念が残っている。封印されたロードとそいつの魔皇力から生まれるロードは、果たして同一なのか別人なのか。復活した黒麓大地が今までどこで何をして生きてきたのか。そもそも何故ロードが復活するよりも、他のレジェンドルガが先に復活したのか。僕の中での疑念が尽きることはない。

 

「(いや……きっとそうじゃないよね)」

 

 先にそれらを確かめてから彼の手を握るべきか……一瞬そう考えるも、僕はもう一度考え直す。疑いは晴れないが、そのまま足を拱いていたら一生わかり合う事なんて有り得ないのだ。ならば今はその手を掴もう。疑うよりも信じることを求めたい。

 

 だから僕は決心し、彼の差し伸べた右手へと自分の右手を差し出そうとした。

 

 

 その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!? 燐子さん!?」

 

 僕の耳に、初めて聞く燐子さんの悲鳴が響いてきて、差し伸ばしかけた手を引っ込めて振り向いてしまう。燐子さんの身に何かあった? 一体何が? しかしそれを探る前に、直感的に僕は黒麓の方へと振り向いて彼に殺気を交えた鋭い視線を送っていた。

 

「お前、何をしたッ!」

 

「待て待て早まるな。ボクは何も知らないんだ。本当に」

 

 黒麓は両手を挙げて、目を見開いたまま如何にも知りませんと言わんばかりに首を横に振る。知っていようが知っていまいが彼がここで何も話さないと分かった僕は、すぐさま彼に踵を返して駆け出した。もはや彼に構っている余裕などない。

 

 燐子さんに何かあれば僕は……僕は……本当に何をしでかすか分からなかったから……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……全く。世の中上手くいかないものだな」

 

 そう言いながら歩き始める黒麓の姿があったことなど僕は露ほども気にせず、ただ一心に燐子さんの元へと駆けていた。

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 黒髪に白いマフラーを巻いた少女を脇に担ぎ、一人の異形がその場を後にしようとしていた。担がれた少女──燐子に意識はなく、ぐったりと力無く怪物の腕の中で寝息を立てていた。とは言え怪物に何かをされたわけではなく、怪物の姿を目の当たりにしてトラウマを引き起こされた燐子がショックで気絶したため、彼女は乱暴な扱いをされることなく囚われていたのだ。

 

「この女もロードの魔皇力を……望みは薄いが連れていくか」

 

 赤い全身に蠍の尾のような巨大な右腕を持つライオンのような異形──マンティコアレジェンドルガは、燐子を抱えたままその場から走り去ろうとした。

 

「ッグッ!?」

 

 しかしその脚を踏み出そうとした時、マンティコアの足元の地面が激しく砕け、怪物は脚を止めてその襲撃者を目の当たりにした。

 

「ハァッ!」

 

「ッ!? チィ……キバか……」

 

「彼女を放せッ!」

 

 全身を翠玉に染めた射出、バッシャーフォームへと変身していたキバが、手にした魔海銃によって怪物の動きを牽制していた。燐子を奪われ、バッシャーと意識を同調させているにも関わらず感情的に叫ぶキバであったが、しかしその必死な声色が逆にマンティコアに逃げるための策を与えてしまうことになっていた。

 

「ふんっ、放せば撃たれるだろう。どの道この女も我らには必要なのだ。渡すつもりはない」

 

「僕だって彼女を渡すつもりはないッ」

 

 マンティコアは抱えた燐子を見せびらかすようにキバへと向け、人質であり盾として利用していた。そのことがキバの──麗牙の怒りをより深いものに変えていく。

 

「お前……ッ!」

 

「ふんっ、ではなキバ。いつの日か我らがロードに踏み潰されるがいい」

 

 そう言葉を残してその場から跳躍したマンティコアだったが、キバの取るべき行動は既に決まっていた。怒りに飲まれようとも、彼は最善の行動を見失うことはなかった。そのための半魚人形態(バッシャーフォーム)であったのだから。

 

 

『バッシャーバイト!』

 

 

 キバットの牙からバッシャーマグナムにアクティブフォースが流れ込み、直後、世界は夜に包まれる。巨大な半月が翠玉のキバを照らし出し、彼の手にした銃口に渦を巻きながら水が集まり圧縮されていく。

 

「フッ!」

 

 そして銃口から水の一撃──バッシャー・アクアトルネードが放たれた。真っ直ぐ飛んでいく弾丸は尚も空中で跳躍し続けるマンティコアを狙い、彼もまたそれを迎撃しようとする。しかし水弾は直前に大きく起動を変え、マンティコアの巨大な右腕を擦り抜けてその身体に向かっていったのだ。

 

「何っ、グゥ!? ッオ! ッガッ!?」

 

 生きているかのように自在に動き回る水の弾丸は幾度と異形の身体を掠めていく。強烈な圧縮弾となった水の前では掠めるだけでも激しい痛みを引き起こし、異形の身体に確実にダメージを与えていった。しかしそのどれもが燐子には当たることなく、的確にマンティコアの身体のみに襲いかかっていた。

 

「ゴファッ!?」

 

「フッ(燐子さん!)」

 

 やがて水弾の強烈な一撃がマンティコアの身体を強襲し、彼の腕から燐子が放され地上へと落ちていく。全力で駆け出し、高く跳躍したキバはその腕で燐子を受け止め、難なくと地上へと着地した。腕の中で安らかに眠る燐子を見て安堵し、二度と放さないと言わんばかりにキバは強く、優しく燐子を抱きしめていた。

 

「(よかった……燐子さん……っ)」

 

「ッグフ……クソッ……キバ!」

 

「っ!」

 

『オイオイっ、まだまだ全然余裕そうだぜアイツ』

 

 バッシャーフォームの必殺の一撃を喰らっても尚立ち上がるレジェンドルガを前に、静かに固唾を飲み込むキバ。キバットの言う通り、怒声を上げて怒りに燃えて身体を震わせる姿からは、かの敵が未だ重傷にすら至っていないことを証明していた。

 

 燐子を守りながらあの敵とどう戦うか。またあの時のように、皆の力を合わせて戦うか。そうキバが思案していた時、彼らの間に入り込む存在が現れた。

 

 

 

 

「はぁ……今日は本当に醜いものばかり見てしまうな」

 

 

 

 

「なんだ貴様ッ」

 

「黒麓さん……?」

 

 黒いマフラーを靡かせて歩いてきたのは、先ほど麗牙と言葉を交わしていた黒麓であった。目の前の異形と同じレジェンドルガである黒麓の乱入によりキバは戦慄する。いくら言葉を交えたとは言え、彼が本当に敵ではないという確証は得られていないのだから。最悪、目の前で手を組まれて二人掛かりで襲われる可能性も考慮し、キバはより神経を尖らせていた。

 

「いや、その気配……人間の姿をしているが貴様、我らが同胞か。ふん、丁度いい。ロード復活のためだ、手を貸せ」

 

「は? 何を寝ぼけたことを言っているんだ」

 

「何……グオっ!?」

 

 マンティコアが黒麓に寄り掛かろうとした途端、突如として白い何かが飛来し、マンティコアに襲いかかりその身体を吹き飛ばしていた。

 

「えっ!?」

 

『麗牙! あ、アレって……!』

 

「まさか……!」

 

 キバとキバットの驚愕に満ちた声がこだましていた。

 

 そう、彼らは飛来した物体に見覚えがあったのだ。

 

 キバットと同じくらいのサイズどころか、そのフォルムすら似通った一等身の蝙蝠のような物体。

 

 キバットとは対称的な白銀のボディを輝かせながら飛び回る赤い目を持ったソレは、黒麓の側へと翼をはためかせながら近づいていった。

 

 そして、黒麓は白銀に輝くソレをこう呼んだ

 

 

 

 

 

「レイキバット」

 

 

『行こうか、華麗に激しく』

 

 

 

 

 

 レイキバットと呼ばれた白い存在は黒麓の声に反応し、壮年の男性の低い声が辺りに響き渡る。

 

 レイキバットが黒麓の丹田付近にいつの間にか現れていたバックルに足をかけた瞬間、黒麓はその言葉を告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「変身」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瞬間、彼の周囲が極寒の世界へと移り変わる。

 

 氷雪に包まれた彼の身体は、しかし次の瞬間には巨大な体躯へと変貌……否、変身を遂げていた。

 

 氷雪が弾け、そして権限せしは巨大な白き戦士。

 

 肩から生え出た鋭く巨大な爪。

 

 何重にも巻かれた鎖によって、硬く封印された両腕。

 

 爪によって覆われたようなマスクと、そこから覗かせる青眼。

 

 その雄姿こそ、かつてキバやイクサと死闘を繰り広げた戦士の姿。

 

 キバの力を解析し、人工的にその力を再現するに至った銀雪の狂戦士。

 

 

 その名は……。

 

 

 

 

 

 

「貴様……なんだ、それは……!」

 

 

「ふむ、そうだな……紅くん風に言うならば……仮面ライダー……レイ」

 

 

「仮面ライダーレイ……」

 

 巨人の力をその身に宿した戦士の再臨に、キバは仮面の下で小さく息を飲んでいた。




レイのBGMは神(なおDC版)

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