ボーカルでヴァイオリニストな彼は   作:春巻(生)

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『麗牙の前に突如現れた男、黒麓大地。自身をレジェンドルガと言う彼に麗牙は警戒するが、その時、燐子の悲鳴が響き渡る。燐子を守るためキバに変身する麗牙だが、彼らの間に黒麓が現れ、なんと変身……氷結の戦士、レイが姿を現した』


第79話 ツメたいレイきを浴びて

 白銀の戦士が悠々とその脚を踏み出し始める。後頭部や胸から見せる雪男のような白い毛を揺らしながら、一歩一歩とその大きな歩幅を進めていく。

 

 かの戦士の名はレイ。かつて3WAによって開発された対魔族用迎撃システムであり、キバの能力を徹底的に解析して作られた人造キバとも呼べる鎧である。しかしその姿や理論はキバと似て非なるものである。キバの各所に埋められた魔皇石の代わりに、レイに埋め込まれるは額の人造魔皇石。レイの鎧をコントロールするレイキバットはキバット族にあらず、その姿を模したロボットである。キバの右脚を封印するカテナとは違い、スノーホワイト製の鎖がレイの両腕を何重にも巻いて封印している。そして何より、このレイシステム自体はギガント族のイエティクラスの個体の能力が転用されたものであり、もはや人造キバというよりは人造雪男と言った方が正しい代物であった。

 

「どうしてレジェンドルガがレイを……」

 

 燐子を両腕で抱きかかえたまま、キバは現れた白銀の戦士に動揺していた。レイは人間以外の魔族の殲滅を目標と掲げる3WAによって生み出されたものであり、故にそれを纏うことが許されるのも人間のみである。そして、かつてのレイシステムは既にキバやイクサたちの活躍によって全てが破壊され、もはや現存しないはずであった。

 だからこその「レイリビルドプロジェクト」なのだと察しは付いていたが、それがまさか既に完成しているとは……それもレジェンドルガの手に渡っているとは思わず、キバは仮面の奥で固唾を呑みこんで眼前の光景に目を凝らしていたしていた。

 

「貴様、何の真似だ! 我らを裏切るつもりか!?」

 

「……」

 

 怒りと困惑を混えたマンティコアの言葉にもレイは反応せず、ただその巨人の如き巨大な一歩を踏み込んでいく。その態度が肯定だと踏んだマンティコアは腕を構えて体勢を低くし、そしてレイに向かって飛び掛かった。

 

「ゲェァァアアッ!」

 

「……っ! ふっ!」

 

 マンティコアの蠍の尾のような巨大な右腕と、レイの鎖の腕が交差する。マンティコアはすぐさま身体を翻して片脚を軸にして回転し、獣のような脚で鋭く蹴りを入れようとする。その脚をレイは右腕でガードすると、すかさずマンティコアの空いた腹部に肘を入れて敵を後退させた。

 

「ッグ……ジェァァッ!」

 

 後退して僅かに二者の距離が開くが、すぐさまマンティコアは右腕を突き出し、その腕を伸縮させてレイの首元へと突き立てようとした。マンティコアは相手に分けて幾つもの毒を使い分けることができる怪物であった。伸縮自在な彼の右腕には毒が仕込まれており、それによって動けなくすることも、一瞬で絶命させることも可能である。無論、マンティコアが使おうとしているのは致死性の高い毒……裏切り者には死あるのみ、それが彼らにとっての掟でもあったのだから。

 レイはその場から飛び退いて毒手から逃れるも、マンティコアの攻撃は止まらず何度も右腕を振い続けてレイの身体を狙っていた。

 

「フンッ! ッデャ!」

 

 身体を翻し、或いは飛び退き、腕や脚で弾きながらマンティコアの毒手を躱していくレイ。その動作は一見激しく荒々しかったが、レイの動作には一瞬の無駄もなく、華麗に優雅に避けていく姿は舞う蝶のようだとキバは感じていた。その一方で、攻撃が全て紙一重で躱されていくマンティコアの苛立ちはどんどん募っていた。

 

「チィッ。いい加減にっ、くたばれェ!」

 

「……君がね」

 

『ふん、食らいなっ』

 

「なっ!? ッグ? 動かな……ガ……」

 

 再び一直線に毒手がレイに迫ったその時、彼の腹部に止まっているレイキバットからブリザードミストが放出された。マイナス二百度にも達する氷点下の霧がマンティコアの伸縮した右腕を覆い尽くし、凍結させてその活動を完全に停止させてしまったのだ。

 

「ふぅ……いい運動になりましたよ。ふっ!」

 

「ッガァァァァァッ!?」

 

 凍結した腕を蹴り上げ、マンティコアの毒手は彼の右腕もろとも砕け散った。右腕を失い痛みと動揺が走るが、それでも意識を失うことのないマンティコアはその場を離脱を図ろうとしていた。目の前の白銀の戦士には敵わない、それをここに来てようやく実感したのだから。そしてマンティコアはレイの前から逃げようと地を蹴った。しかし……。

 

「ハァ!」

 

「フギャァ!?」

 

 跳躍し宙高く舞ったその時、マンティコアの身体を槍のようなものが貫いた。その正体はレイの両肩から生えた巨大な爪──ブロウニングショルダーであった。両肩から突き出た黄金の巨爪が伸縮してマンティコアの身体を突き刺し、その動きを完全に止めていたのだ。身体を貫かれようとも踠いて脱出を図ろうとするマンティコアであったが、目標を捕らえたレイはすぐさま爪を収縮させてマンティコアを引きずり込んだ。

 

「フンッ!」

 

「ブゴォ!?」

 

 身体を貫かれ自由に身動きの取れない異形は成す術なく宙から地面へと叩きつけられる。それでもなおレイは敵を解放することはなく、ブロウニングショルダーの巨爪を突き立てたまま、その手を目標へと掲げた。

 

「ハァ!」

 

「ッグ!? なっ! ッグォォォォ!?」

 

 レイの掌からも先ほどのレイキバットと同様のブリザードミストが放出され、凍てつく霧がマンティコアを襲う。爪の拘束が解かれていないため当然避けられるはずもなく、身体全体が凍結し、脚も地面と共に冷却されて真の意味で身動きが取れなくなっていた。やがて爪から解放されるも、氷の牢獄に囚われたマンティコアにもはや成す術は無かった。

 

「き、さま……っ!」

 

「では、これでお別れだ」

 

Wake(ウエイク) Up(アップ)!』

 

 レイキバットが金と銀の装飾で作られたウエイクアップフエッスルを吹き奏でた瞬間、レイの両腕の鎖が弾け飛んだ。

 

 封印が解き放たれ、その両腕に現れるは巨大な鋭爪──ギガンティック・クロー。

 

 巨人の如く蒼き巨大な腕、肩の爪と同じく金色に輝く鋭利な爪が顕現し、レイの本来の姿が完成した。

 

 そしてレイは、半ば氷のオブジェと化したマンティコアに向けてその冷気を纏わせた爪を振り下ろした。

 

「フンッ! セェヤッ! ハァァァッ!」

 

 一撃、二撃と十文字に片爪で斬り裂き、三撃目で両爪を敵の身体に突き刺した。

 

 そして──

 

 

 

「ハァァァァァァァァァァアアア゛ッ!!」

 

 

 

 レイは敵を引き裂くように、身体の内側から突き刺した爪を両外側へと振り払った。

 

 

「グォアァァアアァァアア゛ア゛ア゛!!」

 

 

 ブリザードクロー・エクスキュージョン──レイの巨爪によって執行される凍てつく斬撃がマンティコアの身体を破壊した。

 

 そして断末魔の叫びと共に、爆煙を撒き散らしたマンティコアは跡形もなくこの世から消え去ってしまった。

 

「……」

 

 キバは一連の戦闘をただ見ているだけであった。意識の無い燐子を抱きかかえているのも主な理由だが、それ以上にレジェンドルガの黒麓が同じレジェンドルガを、それも3WAが開発したレイを纏って戦闘を行ったという事実に動揺し、心に整理を付けたかったからだ。

 そしてレイがマンティコアを撃破し、レイの白い鎧が消えて黒麓の姿が現れた時、キバもまた変身を解除して麗牙の姿へと戻った。麗牙は腕の中の燐子を落とさないように強く抱えながら、ゆっくりと黒麓へと向けて歩み出す。

 

「ふぅ……さて、いろいろと聞きたそうな顔をしているね、紅くん」

 

「何故、貴方がレイを持っているんですか? それは人間の組織が作り出した──」

 

「3WA……知ってるよ。今はボクもメンバーの一人だからね」

 

「えっ?」

 

 黒麓の言葉に麗牙は一瞬呆気に取られるも、すぐさま彼から距離をとっていつでも逃げられるよう構えていた。3WAは魔族を、特にファンガイアの根絶に尽力している組織であり、時にはファンガイアのキングである麗牙を狙うことも過去にはあった。そんな組織に、しかもレジェンドルガが在籍しているという異常な事態に麗牙は戦慄していたのだ。目の前の男が何を考えているか理解できず、ただ睨みつける麗牙。臨戦態勢を取れれば最も良かったのだが、燐子が手の内にある今、当然戦うことなど出来なかった。

 

「本当に信用ないなぁボクは。大丈夫さ、あくまでもポーズに過ぎない。一応は人間を装って3WAにいるんだ、そのための黒麓大地という名前なんだしさ」

 

「……どうしてわざわざ3WAに?」

 

「そりゃあ、ボクの求める自由にとって最も邪魔だから、かな。偶然にも、このレイを再稼働させる計画を耳にしたんだし、このまま放っておけなくてね」

 

 先ほどまで激しく荒々しい攻撃を繰り出していた当人とはとても思えないほど、黒麓は爽やかな笑顔を見せて答えていた。自分の思想とは相容れない3WAにわざわざ身を寄せることで、その活動を阻害、或いは終わらせようとしているのだと黒麓は続けて説明した。

 

「よく入れましたね」

 

「いやいや、なかなか乗せやすいよ彼らは。必死な形相で『とりあえずファンガイアをぶっ殺しまくりたいです』とか言ってればね」

 

「……本当に殺ったと言うなら……」

 

「まさか、3WAの言いなりで殺したりなんかするものか。誓ってもいい」

 

「……」

 

 慌てた素振りを見せて首で手を振る黒麓に麗牙は何も返さず、ただ無言で黒麓の真剣な顔を見据えていた。

 

「まあでも、向こうの上層部とかは気付いてるだろうな。ボクがレジェンドルガだということ」

 

「それならレイを貴方に託したりはしないと思うけど」

 

「いや、連中はボクのことを利用するつもりさ。レイの計画はまだ終わっていないからね」

 

「どういうこと?」

 

「3WAはレイの再稼働だけでなく、更なる強化を課題にしている。それこそチェックメイトフォーすら打倒出来るほどの力を求めてね。だから、レジェンドルガであるボクの戦闘データを今も嬉々と研究に利用しているだろうさ」

 

「新たなレイ……」

 

 薄々とそんな気がしていた麗牙は納得するように頷く。そもそも彼が最初に報告を受けたレイ再構築計画とは、既存のものとは違うレイの強化版の開発に関わるものであったからだ。ファンガイアを確実に殺すための成分や装備を充備させた殺戮マシン、それが3WAが開発中と耳にした強化レイ……仮称レイR(リビルド)。その計画が未だ進行中なのだと知り麗牙は頭を抱えそうになるが、深く息をついて黒麓へと言葉を投げ続ける。

 

「貴方はいいんですか? 今も自分が利用されているのにそれで」

 

「確かに奴らはボクを利用しているけど、ボクも奴らを利用し返す。人間も他の魔族も区別なく、公平な世であってほしいからね」

 

「っ、ちょっと待ってください。どこへ行くんですか?」

 

 それだけ告げて、黒麓は麗牙に踵を返して歩き出そうとした。話はまだ終わっていない麗牙は止めようとするも、振り返る気がないのか黒麓はそのまま麗牙から離れていく。

 

「3WAのところさ。今回のレジェンドルガのことも一応報告もしておかないとね」

 

「貴方のこと、他の仲間にも周知させますよ」

 

「構わないよ。ボクも『ファンガイアのキングと接触した』くらいのことは報告させてもらうさ」

 

 麗牙に振り向かないまま、彼方を見続けながら答える黒麓。追っても無駄そうだと、離れていく黒麓から視線を離さずに見つめ続ける麗牙であった。

 

「おっとそうだ、ねぇ、最後に聞いていいかな? その……彼女のこと」

 

「……燐子さんがどうか?」

 

 しかし、ふと思いついたかのように突然立ち止まり振り向いた黒麓は、麗牙の腕の中で眠る燐子を指して問い掛けた。燐子のことを話題にされて麗牙の身体から僅かに殺気が漏れていたが、それに麗牙自身が気付くことはなく、黒麓だけが彼の黒い感情に気付いていた。

 

「そんな怖い顔しないでよ。彼女は……君の大切な人、なのかな?」

 

「はい。燐子さんは僕の大切な友達です」

 

 黒麓の質問に間髪入れず麗牙は答える。燐子のことで無駄な言葉を目の前の男に投げたくないと、そんな敵意に似た強い想いが彼の口にも表れていた。しかし、自分の心が僅かに荒れていることを当の麗牙自身が自覚出来ていなかったのだが……。

 

「友達、ね……そうは見えないんだけどなぁ……

 

「何か?」

 

「いや。じゃあ、別にクイーンというわけではないんだね?」

 

「違います。見れば分かるでしょう」

 

「……それもそうか。どう見ても人間だからね、彼女。残念」

 

 黒麓は半分納得、半分不服といった表情で頷いた。何故黒麓が「残念」だと言うのか分からない麗牙であるが、燐子に何かするというのであるならば直ぐにでもその首を掻き切るぞと言わんばかりの鋭い視線を黒麓に向けていた。

 

「(おっと、もしかしてまだ無自覚なのかな……)ではまたね、紅くん。いつか共に戦えることを願うよ。ボクたちの未来のためにね」

 

「……」

 

 手を挙げながら去っていく黒麓を無言で睨み付け、二人の邂逅は幕を閉じた。

 

 しかしいつかまた出会うことになるのだと、麗牙は内に渦巻く予感を拭い去れずにはいられなかった。

 

 黒麓大地──仮面ライダーレイ。

 

 彼の登壇により、牙と薔薇の物語の第二楽章は折り返しを迎えるのである。




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