ボーカルでヴァイオリニストな彼は   作:春巻(生)

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『薔薇の花は、色だけでなくその本数によっても花言葉が変わると言われている。一本なら「一目惚れ」、三本なら「愛しています」、九十九本だと「永遠の愛」、百八本で「結婚してください!」だそうだ。意味も知らずに適当に束ねて贈ると、意外な落とし穴に嵌るかもしれないぜ〜?』


第80話 聖なる日に音楽を

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

 目の前の光景が信じられなかった。わたしの前に突如として現れたのは人でも動物でもなく、見たこともない姿の怪物だった。人のように二本足で立ちながらも全身を赤く染めた獅子のような姿で、右腕に巨大な蠍の尾のようなものが備えられた、幻想の中でしか見ない存在がわたしの前に立っていたのだから。

 

 そして、ふと意識が遠のいていく感覚が訪れた。

 

 その怪物が醸し出す恐ろしい雰囲気に飲まれたのだろうか。

 

 いや違う。

 

 怪物を見るのと同時に、あの日の光景がわたしの脳裏に鮮明に思い出されてしまっていたからだ。

 

 幼き追憶の日、初恋のあの子の前に現れた恐ろしい怪物のことを。

 

 あの子までが見るも恐ろしい怪物へと姿を変えたことを。

 

 そして、そんな怪物に恐れをなしてあの子を拒絶した幼い自分のことを。

 

「ぁ……」

 

 目眩く情景がわたしの脳裏を埋め尽くし、わたしの心はそれに耐えられなくなっていた。

 

 そして……わたしの意識は暗い闇の底へと沈んでいったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あれ?」

 

 次に感じたのは、後頭部から伝わってくる温もりだった。少し固くて違和感を覚えるけど、わたしにとって好ましい匂いが共に感じられて、ずっと閉じ込められていたいような心地よさに包まれていた。だけど目を開けた次の瞬間、目の前に広がる紅色を見つけて顔の温度が急上昇を始めることになってしまう。

 

「っ!? ら……らっ、ら……麗牙、さんっ!?」

 

 わたしが目を開けた時、そこには麗牙さんの綺麗な顔と、その向こう側に見える広大な曇った空が見えていた。彼の顔から伝って身体がわたしの顔の直ぐ横にある。そしてそこから伸びているはずの脚は……きっと……今のわたしの枕に……っ。

 

「おはようございます。よく眠れましたか?」

 

「え? わ、わたし……あれ?」

 

 起き上がらないまま、わたしは彼の身体の反対側へと視線をやる。そこにはわたしが気を失うまでとなんら変わることのない静かで平和な景色が広がっていた。今までそこに怪物がいたなんて信じられないくらいだ。

 

「悪い夢でも見ていました? ずっと、うなされているようでしたけど」

 

「夢? アレは……夢……?」

 

「はい。燐子さんはずっとここで眠っていました」

 

 しかし麗牙さんの言葉でわたしは自分の記憶に途端に自信を無くしてしまう。わたしはずっと眠っていた? さっきまでの非現実的な光景は全部夢? いや、でもそんなことって……。

 

「落ち着きましたか?」

 

「っ……は、はい……(よ、余計に落ち着かない……っ)」

 

 それでも、わたしの頭を優しく撫でる彼の手を感じ、さっきの疑問が些細なもののように過ぎ去ってしまう。彼の手がわたしの頭を、髪を、つーっと流れるように撫でていく感覚があらゆる五感で感じ取っていた。嫌な気分ではなく、でも胸がドキドキと高鳴ってとても苦しい気持ちにさせられてしまう。嬉しいはずなのに脳を揺さぶられるような、息が詰まるような辛い気持ち……それでもやはり心地良さが勝ってしまい、このまま彼に身を委ねたくなってしまう。

 

「っ」

 

 彼にマフラーをかけてもらった時の比ではないくらい、今のわたしの顔は赤く火照っているに違いない。頬も瞼も耳まで熱く燃え盛り、こんな自分を見られるのが嫌で真上の彼の視線から逃れるように静かな景色へと顔を背けてしまった。こんなに近くでこれ以上彼の顔を見ることがとても恥ずかしくて、このまま上を見続けることに自分の頭が耐えられそうになかったのだから。

 

「ぁ……」

 

 だけどその時、彼のわたしの頭を撫でる手の動きが止まり、離れていく感覚に寂しさを覚えてしまう。撫でられるのが嫌だと思わせてしまったのだろうか。もう少しだけ、触れて欲しいな……。でも、そんな言葉を出す勇気はわたしにはなく、ただ心に訪れる寂しい音に包まれるしかなかった。

 

「……怖い夢を……見ていました……突然、恐ろしい怪物に襲われる夢……」

 

「……」

 

 何かを話そうとして、わたしはさっきの鮮明に残る夢とは思えぬ記憶について話し始めた。だけどおかしいよね。怪物に襲われるなんて、そんなの小さな子の見る夢なのに。あまりの幼稚さに麗牙さんも呆れているのかな……。子どもっぽいと笑われるのかな……。彼の膝に頭を乗せたまま、彼にそう言われてしまうかと不安で仕方がなかった。彼に幻滅されると考えると……なんでだろう……とても恐ろしくて悲しくて……泣きそうになってしまう。

 

「それは……怖かったですね」

 

「っ……はい……」

 

 だけど彼は再びわたしの頭に手を乗せると、優しく撫でてくれた。さっきまでの恥ずかしさとは違い、今度は心から落ち着くような心地よさがわたしを包み込んでいく。そうだよね、麗牙さんはそんなことでわたしをとやかく言ったりなんてしない。そんな優しい人だから……。

 

「(そうだ……)でも……」

 

「?」

 

 そして、彼の温もりと同時に思い出したことがある。夢の中で怪物に襲われた後のこと、よく分からないけど温かな何かに包まれていたような感覚がしていた。夢の中でそんな場面はなかったけれど、何故かその温もりだけは確かにあったとわたしの心が訴えていた。

 

「わたし……誰かに助けられたような……そんな気がするんです……」

 

「助けられた?」

 

「はい……夢の中……ですけど……誰かに優しく守られていたような……そんな気がして……」

 

「そう、ですか……ふふっ」

 

「麗牙さん……?」

 

 自分でも変な話をしていると思っていたけど、何故か麗牙さんは優しく微笑んでくれた。滑稽だと思っている笑い方じゃなく、どこか嬉しそうに口の中で小さく弾けるような、そんなくすぐったい笑顔をわたしに見せていた。

 

「もしかして……麗牙さんだったりして……ずっとこうして……膝を……貸してくれて……っ」

 

 膝枕をしてくれていると、自分で言ってて恥ずかしくなり言葉が途切れてしまう。そうだよね……これって膝枕……だよね。もう随分と経験していなかったし、何より男の人にしてもらうのは初めてだ。うぅ……意識すると余計に恥ずかしくなる……。

 

「かも知れませんね。でも燐子さん、そろそろ起き上がってもらえますか?」

 

「っ……ご、ごめんなさい……大丈夫ですか……わたしを膝に乗せてるの……辛かった、ですか?」

 

 だけど麗牙さんにそう言われてわたしは飛び退くように彼の膝の上から頭を起こし、真っ直ぐ起き上がって彼と距離を取ろうとした。もしかしてわたしのことが苦になっていたんじゃないか、彼の膝に負担をかけていたんじゃないかと心配になり、興奮も冷めて先までの羞恥も忘れていた。

 

「そんなことないですって! 燐子さんの助けになるのが辛いわけないですっ」

 

「え……」

 

 慌てたような麗牙さんの言葉に心臓が軽く跳ね、息を飲んでしまう。彼の真剣な表情がその言葉が嘘でないことを物語っていて、取り繕ったものでない彼の本心だとわたしに感じさせていた。その言葉に安堵する自分と、心から嬉しいと感じる自分がいる。おかげで余計に彼から視線を外すのが難しくなってしまった。

 

「その……そろそろ燐子さんにヴァイオリンを聴かせたいなと思って……もちろんさっきのままでも出来るんですけど、肘とか当たると危ないから」

 

「あ、そうでした……ごめんなさい……わたし、忘れてて」

 

「いいですよ。僕の音で燐子さんの怖い思いも、全部塗り潰してあげます」

 

 そう言って麗牙さんは側に置いてあったケースの中からヴァイオリンを取り出して立ち上がり、ほんの数歩だけ踏み出してわたしの前に躍り出る。

 

 わたしへ綺麗に一礼し、ヴァイオリンと弓を構え、そして──

 

 

 ♪〜♪〜

 

 

 麗牙さんが弓を引くと同時に、彼の腕から綺麗な音楽が生み出され始めた。

 

 人の歌声にも似た綺麗で繊細な、感情の込められた柔らかな音。

 

 喜びにも慈しみにも聴こえる、暖かな光を感じる優しい音楽。

 

 彼の一手一手の挙動によって生まれていく音たちは、皆舞台で踊るようにわたしたちの周りを流れていく。

 

「(いい音……)」

 

 麗牙さんの奏でる音楽は温かで、優しくて、わたしの大好きな静けさを孕んでいた。

 

 いつまでもこうして彼の音に身を任せていたい。

 

 気の済むまで、彼の音に耳を澄ませていたい。

 

 彼の響かせる旋律に心落ち着かせ、わたしは一瞬とも永遠とも思える満ち足りた時間を過ごしていた。

 

 これはわたし一人のためだけに開かれた小さな演奏会。そう思うだけで胸が浮くような、楽しい分にさせられてしまう。故にこんな贅沢をしてしまうと後が怖いと少しだけ考えてしまう。

 

 でも大丈夫だと信じている自分がいた。

 

 麗牙さんの側にいると落ち着くし、嫌なことなんて一度もなかった。麗牙さんはいつだってわたしを助けてくれた。だから、彼と共にいて悪いことなんてこの先もきっと起こらない。確証なんて何もないのに、そう信じようとする自分がいた。

 

 これからも彼の音を聴いていたい。

 

 そんな切な希望を抱きながら、今も響き続ける彼の音に耳を傾けていた。

 

「ぁ……」

 

 ふと景色を見渡せば、優しく雪が降り始めていた。

 

 私たちがいるのは屋根の元だから、その冷たさに直接触れることはない。

 

 だけど、雪がしんしんと振る白い景色の真ん中に立つ紅色の彼は、どこか神秘的でつい目を奪われてしまう。

 

 舞い落ちる雪までが、彼の音楽に聴き惚れているのかと思ってしまう。

 

「(ありがとうございます、麗牙さん)」

 

 全てが特別で魅力的で、わたしにとって二度とない素敵なホワイトクリスマスだった。

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 燐子さんへ向けた小さな演奏会は幕を閉じた。途中から降り始めた雪も、僕の演奏が終わる頃には止んでしまったようだ。僕の気持ちを込めた魂の音楽はきっと燐子さんの胸にも届いたことだろう。彼女の心から流れる安らかな音楽が僕にそれを確信させていた。

 

 しかし、その時になってようやく時間が大分経過していたことに気付いた僕は慌てて彼女を連れてLiFEへと足を急がせていた。買い物に時間をかけすぎたのか、燐子さんの眠っている時間が長かったのか、僕の演奏が長すぎたのか。どれが原因かは定まらないが、大事なTETRA-FANGのライブまでの時間がすぐそこまで迫っていた。

 

「ま、間に合いましたね」

 

「そうですね……ごめんなさい……わたしのために……」

 

「燐子さんが謝ることなんてないですから。思ったよりも余裕はありますし」

 

 それなりに急いで来たからか、予想よりも早くLiFEに到着することができた。間に合ったという安堵とそこから生まれた心の余裕から、屋内へ入っていく人たちを眺めながら懐かしい日のことを思い出していた。

 

「そう言えば……久しぶりに来ますね……」

 

「そうでしたね。思えば初めて僕らが出会ったのもここでしたっけ」

 

「なんだか……随分と昔のことのようです……」

 

「はは、僕もそう思います」

 

 僕がRoseliaと知り合ったのはこのLiFEと呼ばれるライブハウスだ。あの日、Roseliaの皆が僕たちのライブを見に来てくれたことで僕らの間に音楽の繋がりが生まれた。あまり月日は経っていないが、割と濃密で波乱万丈な日々を送っていたと僕は思う。実際に過ごした時間の三倍以上は体感しているが、その分彼女たちともより親密になれたはずだと思いたい。そうでなければ、リサさんや紗夜さんとあんなことにはならなかっただろう。

 

「わたし……よかったと思っています。あの日……麗牙さんたちのライブを観に行って……」

 

「僕も、燐子さんたちが観に来てくれてよかったと思っています。って、そうじゃなきゃこんな会話も出来ないんですけど」

 

「ふふ、そうですね」

 

 小さく破顔する燐子さんの愛らしい表情に心が温かくなるのを感じながら、僕も準備に取り掛かるため屋内へと踏み入れようとした。

 

 しかしその時だ。

 

 

 

 

「おっと。やあ紅くん、遅かったじゃないか」

 

 

 

 

 僕たちの目の前には、先ほどまでレイとして戦っていたあの黒麓大地が待ち構えていたのだ。先ほどと変わらぬ白いジャケットに黒いマフラーを纏った長身の二枚目が、どういうわけか小さな薔薇の花束を手にして立っていた。

 

「うわ……(また出た……)」

 

「……あ、さっきの……?」

 

 正直なところ会いたいとは思っていなかったため、本心の一部が小さく口から出てしまう。あの別れ際からしばらく会うことはないと思っていた矢先だけに、そのあまりにも早過ぎる再会には困惑を通り越して呆れすら抱いていた。燐子さんも少し遅れて商店街で見た彼のことを思い出したようで、しかし何故ここにいるのか分からず首を傾げていた。

 

「あはは、そう嫌そうな顔しないで。どうしても直接これを渡したくて待っていたんだから。好きだよね、薔薇の花」

 

「え……」

 

 そう言って彼は、僕に向けて小さな薔薇の花束を手渡してきた。ごく自然な手つきで渡してくるものだから僕も何も考えずに流れで受け取ってしまい、しばらく茫然としてしまう。しかし直ぐに意識を現実へと戻して、今し方渡した薔薇に何の仕掛けもないか魔術を用いて検査していた。

 

「大丈夫だよ。タネも仕掛けもないごく普通の薔薇だから」

 

「……確かにそうですね」

 

 彼の言う通り手にした薔薇には何の仕掛けも魔力も感じず、そこにあるのは何の罪もない綺麗な五本の赤い薔薇であった。しかし疑問は尽きることはない。レジェンドルガであり、今は人間を偽って3WAに入り込んでいる彼が、何故わざわざファンガイアのキングに薔薇を贈ることがあるのか。親愛の証のつもりなのだろうか。五本の薔薇の花の意味は「貴方に出会えて心から嬉しい」と言うことは恐らく彼も知っているのだろうが、そもそも何故僕が薔薇の花を好きだということも知っているのか……。

 

「そう重く構えなくていいから。ただ純粋に、ボクは君の音楽のファンだからね」

 

「ファン……?」

 

「ああ。ヴァイオリンも歌声も、ボクは君の音楽が好きだよ」

 

「……ありがとう、ございます」

 

 屈託のない笑みで真正面から答えられて、僕は顔が僅かに火照るような感覚を味わっていた。何を照れているのだろうか僕は。ちょろすぎはしないだろうかと自分でも感じているが、これまで自分が積み重ねてきたものを真正面から好きだと言われて何も感じない人の方が少ないだろう。

 

「おっと、少し立ち話が過ぎたかな。じゃあね紅くん。ライブ、楽しみにしているよ」

 

「え? あ、はい……」

 

 これ以上の会話はライブに影響すると見越したのか、黒麓さんは立ち去ろうとしていた。急に現れたかと思えば、僕の好きな薔薇の花を贈ったり僕の音楽が好きだと言ったりして心が揺れているだけに、未だ疑いの残る相手にどう返していいか分からず生返事となってしまう。

 

「それと……彼女さん、大事にね」

 

「か!?」

 

「ちょ──って、行っちゃった……」

 

 しかし去り際にとんでもないことを言い放って、僕と燐子さんは二人揃って大きく反応してしまう。黒麓さんはそんな僕らの反応を見ることもなく、颯爽とライブハウスの中へと姿を消して行ってしまった。黒麓さん……さっきクイーンではないと言ったばかりなのに……。単に悪戯をしたかっただけなのか他の意図があるのか分からないが、おかげで僕らの間に微妙な空気が流れてきていた。

 

「……」

 

「……」

 

 まただ。燐子さんといると良くも悪くも静かな空間が生まれてしまう。もちろんそれは僕の好きな時間なのだけど、今は彼の残した波紋が大きくて互いにかける言葉に困ってしまっていた。

 

「えっ、と……とりあえず……行きますか?」

 

「は、はい……そう、ですね……」

 

「……」

 

「……」

 

 沈黙が胸の高鳴りをより大きく響かせる。彼女の赤面が僕の顔をも赤く染める。身体は向かい合っているのに互いに顔を背けて、それでも目線だけはチラチラと相手の方を見やろうとするも長くは続かない。これが側から見てれば「中学生か」と言いたいところだけど、いざ自分がその状況になると本当に何も出来ないのだと痛感してしまう。

 

「麗牙さん……」

 

「なんですか?」

 

「あの……わたしも……麗牙さんの音楽が……好きですから……」

 

「っ……あ、ありがとう……ございます」

 

 あ、ダメだ。本格的に燐子さんの顔が見れない。仄かに灯っていた顔の赤みも、今ので完全に真っ赤に染まってしまったことだろう。顔から湯気が出るとはこのことなのだと、ニヤける口元を隠して彼女から顔を逸らしながらそのことを実感していた。

 

「……えっと……」

 

「……」

 

 とにかく何か話さなくてはと、グルグル回る脳内で言葉を整理しようとするも上手く纏まってくれなかった。時間だけがゆっくり過ぎていく中、どうしようかと思っていた時、僕たちに向けて新たな声が降り注いだ。

 

「燐子? 麗牙? ずっと外で立ち止まってて何をしているの?」

 

「え? あ、友希那さん……と皆さん……」

 

 声の主は友希那さんであった。彼女の声に振り向くと、そこには彼女だけでなく他のRoseliaのみんなの姿も見受けられた。LiFEの屋外で本当に初めて出会った時のようなシチュエーションが偶然にも再現されていて、今まで以上に懐かしさを感じてしまう。

 

「やっほー麗牙。来ちゃった♪」

 

「ははっ、ありがとうございますリサさん。みんなで揃って来たんですか?」

 

「違うよー、偶々だよたーまーたーまっ♪」

 

「別々に歩いてたらなんか揃っちゃったんです。そしたら最後にはりんりんとも合流できて……ねぇりんりん、これって凄くない!?」

 

「ど、どうかな……みんなここに来るなら……最後には揃うと思うんだけど……」

 

 それは確かにそうだが、僕にはそれだけとは思えなかった。Roseliaという存在には単なる一グループ以上の何かがあると僕は思っている。いつだったか、友希那さんを皮切りにリサさんと紗夜さんが僕の結界を抜けてきたのも、彼女たちがRoseliaという一つの存在であったからだと思うのだ。彼女たちには何かがある、そう僕に予感させて堪らないのだ。

 あの日、僕たちが出会ったのは偶然なのだろうか、それとも運命なのだろうか。それを決めるのはきっと、この先の僕たち次第なのだろう。

 

「それでさぁ麗牙、その薔薇ってどうしたの? あ、もしかして──」

 

「なんでしょう、僕のファンって方からもらいました。ですよね、燐子さん」

 

「はい。気の良さそうな男の人でした」

 

「──ってそうなんだ。アタシてっきり……」

 

「……?」

 

 リサさんは燐子さんを一瞥するも、すぐになんてことないように首を振る。燐子さんが贈ったとでも思ったのだろうか。確かにこれをくれたのが燐子さんなら凄く嬉しいのだけれど……ってさっきから何を考えているのだろうか僕は。想像してにやけそうになる顔を落ち着かせて何とか平静を保とうとしていた。

 

「しかし大丈夫なのですか紅さん? もう開始までそれほど時間はありませんが」

 

 幸運にも、紗夜さんが時間を知らせてくれたことで気持ちを燐子さんから音楽へと切り替えることができた。そうだ、ここへはライブをしに来たのだ。知り合いたちとただ談笑しに来たわけではない。そう意識を切り替えて、紅麗牙からRAIGAの顔へと自身を変身させる。

 

「……そうですね。じゃあ、僕はもう行きます。皆さん、僕たちのライブ、楽しんでいってください」

 

「ええ。期待しているわ、麗牙」

 

 友希那さんにそう言われては気合いがより一層入るというものだ。力強く一歩を踏み出し、ライブハウスへと入り込んでいく。ここから先は紅麗牙でもキングでもヴァイオリニストでもない、TETRA-FANGのRAIGAとしてのステージが始まるのだ。

 

 聖なる日に行われる牙の饗宴──Holy Fang Party。この時のライブについても、いつか語れたらいいな……。

 

 そしていつしか、外へ出るまでに抱いていた不安や焦燥は彼方へと消え去っていた。




忘れているかも知れませんが、幼い頃の二人は自分のことをあまり語り合っていません。ほとんどの時間を、互いを感じる距離で静かに過ごしていました。

そして次回、少し時間が飛びます。クリスマスライブについてはまたいつかの機会に……。

アンケートありがとうございました。
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  • 紅 麗牙
  • 綾野 健吾
  • 羽畑 アゲハ
  • 紅 愛音
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