冬休みも終わり、憂鬱になる新年最初の長い一週間もまた過ぎ去って土曜日。未だ寒気が肌をつく昼前の空の下で、俺は麗牙と、そして3WAに所属しているという黒麓と共につぐみちゃんたちを待っていた。「つぐみちゃんのために」というリサちゃんからの頼みで、彼女の計画に快く参加することになったはいいが、まさかここで噂の彼と初対面することになるとは夢にも思わなかった。
「アンタが黒麓さんやな。3WAにいて、今のレイに変身してるっていう」
「そう言う君こそ、青空の会の戦士なのだろう? ボクも固い上司から散々イクサの話は聞かされてきたからね」
「やけどアンタの場合はそれだけとちゃうやろ。何でレジェンドルガがわざわざ身分を隠して〜なんてそんな回りくどいことしてんねん」
「まあ、そこは色々あるからね。今日は仲良くしようじゃないか……恋する少女のためにもね」
「アンタが誰も傷つけやんって言うんやったら信用したるわ」
麗牙に聞こえないよう小さな声で黒麓が呟いたように、今日の外出は麗牙に恋するつぐみちゃんを後押しするために計画されたものなのだ。何があったかは知らんが、つぐみちゃんは麗牙に惚れてしまった。しかし麗牙は既に燐子ちゃんといい感じになっているということもあり、半ば諦めモードに入っていたそうだ。しかしそこで何も行動せずに諦めるのはダメだと、リサちゃんはつぐみちゃんのために一肌脱ぎ、今回の外出を提案したということだ。まあ、確かにまだ何にも結論が出てないのに諦めるのは俺もどうかと思うけど……何か異様にデジャブを感じるのは気のせいだろうか。リサちゃんが言い出したあたり余計にな……。
「そう言えば綾野くんは、羽沢さんのことを応援しているのかい? 紅くんが今いい感じになってる……白金さん? との仲はどう思っているんだい?」
「……嫌なこと聞くなぁ」
麗牙に注意しつつ小声で黒麓は話題を続行する。麗牙が心から燐子ちゃんとの仲を望んでいるのなら俺は快く応援するだろう。だが、今のところ麗牙はそんなことを一言も口にしていない。リサちゃんのことが好きになったかも知れないと思った時は嬉々として俺に話した麗牙が、かけらも燐子ちゃんのことを話そうとはしないのだ。確かに彼らはいい雰囲気になってるような気もするが、どちらかというと熟年夫婦に近いような空気にも感じるしなアレ……。
故に麗牙は燐子ちゃんに対して恋心は抱いていない。はい、これで決まり。これ以上は考えたくない。ってかそうであってくれ。
「今は一歩リードしている白金さんより、恋破れそうな羽沢さんの方を応援したいということなのかな?」
「まぁ、そう思っといてくれ。俗に言う判官贔屓ってやつかもな」
黒麓の好意的な解釈に回答を託し、俺は深くため息をつく。何度も言うが、俺は麗牙が本気で惚れたと言うのなら全力で応援をしたいとは思っている。だが、もし麗牙が本気で燐子ちゃんのことが好きだと言うと思うと、俺は怖くて怖くて仕方がないのだ。
例えば、互いの正体が発覚したとしよう。あの日より心身共に成長した麗牙と燐子ちゃんがその事実を真摯に受け止めて、その場で消化出来るならそれに越したことはない。だがそうでない場合……麗牙か、あるいは燐子ちゃんか、どちらかがその事実に耐えられなかった場合だ。この場合は燐子ちゃんの方がそうなる可能性は高いが、彼女がその時、過去のトラウマを刺激されて再び麗牙を拒絶したりしないかと……それだけが気がかりで仕方ないのだ。そして、もし再びあの日の少女に拒絶されようものならば麗牙は……ああ、これ以上は考えたくないっ。
「(どう転んでも、麗牙が燐子ちゃんのことを好きにならん方がダメージは少ないんやけどなぁ……)」
麗牙にはこれ以上傷付いてほしくない。そんな願いを人一倍強く抱いているためか、俺は麗牙と燐子ちゃんの仲をあまり応援する気にはなれないのだろう。嫌な男だと自分でも思うが、こればかりは今はどうしようもない。
「健吾さん、黒麓さん、揉め事は勘弁ですからね」
「ああ、大丈夫や麗牙。向こうから何もせん限りは俺は大丈夫や」
「同じく。まあ今日くらいは職務も忘れて楽しく過ごさせてもらうよ」
今回、麗牙には「みんなで遊びに行こう」という誘いでここに呼んでいる。誘ったのは俺でなくてリサちゃんだけど、あれだけ盛大にフラれたリサちゃんもよく麗牙を誘えるなと感心するし、麗牙もよく平気な顔で承諾できるものだなと同じくらい感心したりしていた。まあ、その部分に関しては彼らの間である程度納得のいく終わり方が出来た故なのだろうし、後腐れがなくて俺としてもホッとしている。
「……さーてと、そろそろお嬢様方のご到着のようやで」
華の女子高生らしくお洒落なコーデを決めた三人の少女たちが、こちらへ近づいているのが目に入った。計画の主犯であるリサちゃんと、その計画に加担したがっていたひまりちゃん、それと二人の背に隠れるようにしてこそこそ近づいてくる今日の主役のつぐみちゃん。ああアカン、麗牙の方見てまた隠れてもた……。
そろそろ覚悟決めてくれよつぐみちゃん。
今日はせっかくの……遊園地デートなんやからな。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「無理ですって! いきなり過ぎます! 早すぎますから!」
先日のカフェ・マル・ダムールにて、リサ先輩から告げられた提案に対して私は即座にそんな叫び声を上げていた。だって仕方ないと思うよ……リサ先輩がいきなり「麗牙と二人きりで遊園地デートに行きなよ♪」なんて言い出すから……。そもそもまだ付き合ってもいないのにデートなんてそんなこと私には出来ないし、そんな場面を他の人に見られたら紅さんが私と付き合っているなんて噂が立ってしまう。そうなれば迷惑がかかるのは紅さんの方だ。私のせいで彼の周りに変な噂が立てられたりするかもしれないのに、その彼と二人きりでデートするなんて提案を出すリサ先輩の考えが私には全く分からなかった。
「つぐみはさ、もうちょっと麗牙に迷惑かけるつもりでいってもいいと思うんだよね。大丈夫だって、麗牙は絶対につぐみのこと邪険に扱ったりしないって」
「そうだとしても、やっぱり紅さんに悪いし…….それに、彼と二人きりで遊園地なんて無理ですって。紅さんを誘うなんてとても……」
「なら、みんなで行けばいい。そうだよね、今井さん?」
「みんな?」
リサ先輩が何を考えているのか私よりも理解している黒麓さんは、確信めいた声色でそう告げた。みんなで行くって、でもそれだと最初の提案と違うんじゃ……そう考えている中、リサ先輩は嬉しそうに黒麓さんの言葉に笑みを浮かべて話し始めた。
「おおっ、さっすが黒麓さん。分かってるんですね」
「あの、リサ先輩。みんなでってどういうことですか? 二人きりだったんじゃ」
「ふふ、それはね……」
そしてリサ先輩発案の計画実行当日。私はリサ先輩と、そしてこの作戦にノリノリで参加してきたひまりちゃんの手によって、いつもより気合いを入れたお化粧やお洒落──と言っても悪目立ちしないくらいの、私に見合ったものだけど──を施され、彼との待ち合わせ場所まで連行されていた。
「うん、やっぱりもう麗牙たち来てるよね」
「もうっ、つぐが家から出るの渋るからだよ? ほら、もう約束しちゃったんだからそろそろ覚悟決めないとっ」
「で、でも……こんなに気合いの入った格好で、変に意識してるんじゃないかって思われそうで……」
いつもより少し華美にお洒落して、可愛らしくお粧しした姿なんて紅さんに見られたら、絶対彼に好意を勘付かれてしまう。もしそうなれば私は恥ずかしくてその場から逃げ出してしまうかもしれない。ううん、もう既に逃げ出したい気分だ。こんなあからさまにいつもと違うんだから、会った瞬間に「気合い入れてるな」なんて思われるに違いない。他の誰かならいざ知らず、今日の場に限っては紅さんにそう思われるのはとにかく恥ずかしくて仕方がなかった。
「じゃあさ、今のつぐとリサ先輩、どっちがお洒落だと思う?」
「……それもそうだね」
ひまりちゃんの言葉でリサ先輩と自分を比べてみる。確かに今のリサ先輩の格好は私なんかとは比べ物にならないほど可愛くてお洒落で、同時にどこか女性にもカッコ良さを感じさせるそんな雰囲気も纏っていた。イヤリングもネックレスもブレスレットも、身に付けたどのアクセサリーも見事に彼女を引き立たせている。それに全身からはどこかいい香りもするし……薔薇の香りかな?
そんな彼女と比べると、私なんてちんちくりんに感じてしまう。身長は然程変わらないはずなのにそう思わせるのも、彼女の纏う歳上の余裕がそうさせているのだろうか。元より器量のよい彼女と普通な自分では最初から勝負にならなかったのかもしれないけど。
ともあれ、すぐ側にこんなに綺麗なリサ先輩がいるなら、自分の施されたお粧しやコーデなんて気にならないよね。そんな風に変な自信を持つことでようやく安堵を抱くことができた。こんな時になって自分の普通さに助けられるなんて思いもしなかったけど。
「あれ、なんか思ってた開き直り方と違うけど……まあ、これはこれでいっか」
頬をかきながら苦笑するリサ先輩だったけど、すぐに紅さんたちに向けた手を振り到着を伝えていた。紅さんの格好は普段と特段印象が変わるようなものではない。ただ一つ違うとすれば、あの日も巻いていた紅色のマフラーを巻いていないことだ。アレとは少し違う、黄色と赤色を主体としたチェック柄のマフラーでその白い首筋を包んでいた。燐子さんから貰ったマフラーをしていないことは私にとって少し嬉しいんだけど、もしかしてリサ先輩、あのマフラーはしてこないでって彼に言ったのかな? だとしたら、やっぱり紅さんには悪いことしちゃってるのかな……。
「おはようみんな。ゴメンね遅くなっちゃって」
「いえ、僕たちもそれほど待っていたわけではないですから」
「ありがと麗牙。それと、ちゃんと違うマフラーしてきてんじゃん。これはこれで新鮮だなぁ」
「新鮮っていうか去年はずっとこれだったんですけどね。ってそもそもリサさんが言ったんでしょ、『遊園地なんだからいつもとは違う装いで来て』って」
「あはは、そうだっけ?」
「そうですよ、ははっ」
共に笑いながら言葉を交える二人を見ていると、本当に彼らは対等で仲がいいのだとしみじみ思う。気の置けない仲と言ってもいいのだろうか、二人の間からは厚い信頼のようなものを私は感じ取っていた。こんなにも仲が良くて笑い合っているのに、リサ先輩と紅さんは恋人同士ではない。それどころかリサ先輩の紅さんへの恋は儚く砕け散っているのだ。
「(そもそも、あのリサ先輩でも紅さんとは付き合えなかったんだよね……)」
今の自分よりも何倍も素敵でカッコよくて可愛らしい、私の目標の一人でもあるリサ先輩。そんな彼女も私と同じく彼に恋し、しかしその想いは叶うことなく終わってしまった。そう考えてしまうと途端に自信が無くなるような思いが襲いかかってきてしまう。彼女でもダメなのに自分が大丈夫なわけがない、そんなネガティブな思いに駆られ始めてすらいた。
「じゃあ行きましょうか……つぐみさん?」
「っ、は、はいっ! 何でしょうか!?」
しまった……彼から話しかけられたことに驚きすぎて叫ぶように慌てて答えてしまった。声が裏返えり、顔や身体中の筋肉も強張って情けない姿を彼に見せてしまう。だけど彼はそんなことかけらも気にせず私に心配そうな顔を向けてくれていた。
「その、すごく不安そうに聴こえから……つぐみさんの音楽が」
「私の音楽……」
紅さんと初めて会った日に彼が言っていたことを思い出す。誰しもの心の中に流れているという心の音楽と、それが聴こえるという彼自身の話。彼を見ているとその話が嘘でないということは充分に分かるし、今の私の心に溢れる不安が、その音楽を通して彼にまで伝わっていってしまったのも確かなのだろう。その事自体が私にとっては恥ずかしい事この上ないんだけどね……。
「大丈夫ですか──ってちょっとっ!?」
「っ!?」
紅さんが言葉を続けようとした時、彼の腕を綾野さんとリサ先輩が抱えて私から引きずり離していた。突然のことで困惑する紅さんを無視して引きずっていった二人は、私から離れるとコソコソと何かを彼に話していた。
「えっ、ちょ、二人とも……っ!?」
「しっ! 麗牙また──こと──じゃない──バカっ──」
「せやで──べきはな──っやろ──」
二人が小言で何かを言っているのが聞こえてくるが、内容まではよく聞き取れない。困惑気味に紅さんがたじたじしているのだけは分かったんだけど……二人とも一体何を話してるの? むしろ私の方がちょっと怖いんだけど……。
「いい? 分かった?」
「は、はい……」
やがて二人から解放された紅さんはよれよれになりながらも落ち着きを取り直して、私に向かい合った。
「えっと、ごめんなさい。さっきは変なこと言って。ともかく行きましょうか……その……服、とても似合ってますよ。可愛いですね」
「えっ!? え、えと……はっ、はい、ありがとうございますっ」
突然彼に今の容姿を褒められて気が動転してしまう。だけど、少し冷静になってその言葉が今あの二人に言わされたものなのかと思ってしまい、どんよりとした感情が胸にのしかかっていた。きっとお世辞なんだろうなぁ、こんな面倒臭い私に気を遣っているんだろうなぁ、とネガティブな気持ちに支配されそうになってしまう。しかし聞かないわけにもいかず、重い気持ちを出来る限り隠して彼に問いただしてみた。
「あの……もしかして言わされてませんか?」
「え? っはは、いえ、本当にそう思ってますから。いつもと少し違う感じで新鮮で、こんなつぐみさんも僕は好きですよ」
「っ、すっ……〜!」
どうしようっ、顔がどんどん熱くなってきちゃう。
好きって……こんな私も好きって……っ。
……っ、いや、違う違うっ。今のはそういう意味で好きと言ったんじゃなくて、単に好ましいって意味で言ってくれたんだよねっ。
「(恋愛的に好きとかじゃなくて、人として好ましい……好ましい……好き……えへへっ)」
でも彼にそう言ってもらえるのが嬉しくて、天に高く舞い上がりそうな心地を抱いていた。
「……綾野くん。彼はもしかして天然なのかい?」
「アイツ昔から無自覚で結構恥ずいこと言うからな……」
そんな男性二人の言葉も舞い上がってしまっている私には全く届くことはなかった。
そんなこんなでようやく遊園地まで辿り着いた私たち。六人でゲートを通過して遊びの園へと足を踏み入れ、しばらくはみんなでワイワイと楽しく過ごしていた。
しかしそのチョイスはオーソドックスなものではなく、友達の顔が窺えないような屋内の乗り物を中心としたものばかりで、お世辞にも遊園地を楽しんでいるというような感じは得られなかった。
……というのも、これも皆で企んだ作戦通りなんだけど。
入ってから一時間ほどしてからだろうか。正午に近づいて来た頃、ふと黒麓さんが端末を取り出して誰かと電話を始めていた。
「……はい、ではまた。すまない皆、ボクに急ぎの用事ができた」
「用事って?」
「それは、まあ……仕事のことだと思ってくれていいよ。ではまた。ボクに気にせず楽しんでくれ」
仕事相手からの突然の電話によって呼び寄せられた……と紅さんは思っているに違いない。去っていく黒麓さんの後ろ姿を今も怪訝な顔で見つめているのが何よりの根拠だ。
そして、不可思議な電話ラッシュは更に続いていく。
「っと、次は俺かいな。ハイもしもし……」
かかってきた電話に出る綾野さん。電話に耳を傾けるに連れてその表情は明るいものからみるみる真剣なものへと変化していく。誰がどう見ても真面目な話をしている風にしか見えないだろう。彼を見る紅さんの目も同様に真剣になるけど……やっぱりカッコいいなぁ……紅さん。
「──ほなすぐ行くわ……みんなすまんな。俺もちょっと抜けるわ」
「健吾さん、今のってどこから? もし何かあるんでしたら──」
「いやいやいやっ、麗牙が気にすることなんて何もないっ。それだけは約束しちゃるわ。ほんじゃ、またな。楽しかったで」
言葉数も少ないまま、この場から走り去っていく健吾さん。彼の後ろ姿を心配そうに眺める紅さんだけど……そろそろこちらの罪悪感も大きくなってくるよ……。
それから更にしばらく経ち、今度はリサ先輩の携帯に電話がかかってきた。
「はいもしもし。どうしました──って、ええっ!? だ、大丈夫なんですか? ……はい……はい……わ、分かりました」
「リサさん?」
「ごめんみんな。ちょっとバイトの子がいろいろあったみたいで……どうしても助けが欲しいとかで」
「それって絶対にリサさんが行かないといけないものなんですか?」
「そ、そういうわけじゃないけど……で、でもその子のことも心配だし、アタシ助けになりたいんだ。だから……行ってもいい、かな?」
上目遣いで紅さんを見上げて懇願するリサ先輩。同じ女子である自分でさえ見ていてドキドキするんだから、それを真正面から食らっている紅さんなら堕ちない理由はないだろう。
「そ、そういうことなら……」
「ありがと麗牙っ。じゃ、つぐみとひまりも、またねっ♪」
そうして手を挙げて笑顔で去っていくリサ先輩。残されたのは私と紅さんと、そしてひまりちゃんの三人だけだ。
だけど、ここまで立て続けに不自然な電話で人が消えていけば、そろそろ紅さんにも勘づかれるかもしれない。
この状況を作り上げた皆の行動が、全て演技だということに。
みんな演技がすごく上手いなぁ……。まるで身体の中に別の誰かが住んでいそうなくらいだ。なんて感心してしまうけれど、正直いつバレないかとヒヤヒヤしているのが実状だ。最後に残ったひまりちゃんに、頼むからバレないようなまともな理由をお願いっ、と心の中で願掛けする。
「あ、私も電話だ」
「(また電話からなんだ……)」
ひまりちゃんも行動を移そうとするけど、正直他の方法を考えて欲しかったなと苦笑してしまう。
「はい、もしもし……あ、はいっ……はい……あ、今からですか……はぁ……分かりました。待ってます」
「?」
「ゴメン二人とも! なんか注文してた商品が今から届くとかで、すぐに受け取りに帰らないといけないんだけど……」
「(え、えぇ〜……)」
に、荷物の受け取りって……。今までで一番どうでもいい理由が来て転けそうになったのは内緒だ。
「どうでもよくなんかないからね! もう既に受け取れずに引き返してもらったこともあるやつだか、今日受け取れないととても面倒なんだから!」
「そ、そう言うものなんだ……」
何故どうでもよさそうなんて考えが読まれたのかは分からないけど、必死にことの重大さを説明するひまりちゃんに紅さんだけでなくこちらまで納得させられるような気になっていた。しかし、あれよこれよと言う間に言葉を捲し立てて、ひまりちゃんは颯爽とこの場から走り去っていってしまった。
「じゃあねー! ばいばーい!」
「(い、いいのかな今ので。流石に誤魔化せないんじゃ……)」
「荷物の受け取りって、そんなに大変なんですね……」
「(いいんだ!? 今ので!?)」
無茶苦茶な理由すぎて流石にわざとこの場を離れたのではと疑われると思ったけれど、紅さんはまるで疑うことなく納得していた。もしかして紅さん、あんまり一般家庭のこととかよく分からない感じ……? さっきも「遊園地はほとんど来たことない」って言ってたし……。
彼の生まれからしても充分あり得そうだけど、ともかくだ……ようやくリサ先輩が言っていた計画が本格的に始まってしまった。
みんなで遊園地に入って、各自離脱していくのが最初から予定……だったみたい。
みんなの狙いは最初からこの状況を作ることにあった。
今の状況……私と紅さん、二人きりの遊園地というシチュエーションが完成されていた。
そしてその後は……私の行動次第だった。
「どうしましょうか。結局二人になってしまいましたけど……」
「っ」
立て続けに消えていった仲間に遠慮しているのか、紅さんはこの後の行動をどうするか私に訊ねてくる。
私は……どうしたい?
そんなの決まってる……。
でも、それを伝える勇気がなかなか出てこない……。
「つぐみさん?」
私が何も言わなければ、もしかするとこのまま解散になってしまうかもしれない。
そんなのは絶対に嫌だ。
私、もっと紅さんといたいから……。
それに、みんながここまでしてくれたのに私が動けないなんて、そんなことは出来ない。
だから今は、全霊を持って自分に向けて発破をかけるしかなかった。
──言って……っ。
──言えっ。
──言うんだっ! 私っ!
「あの、もし──」
「紅さんっ!」
「──っ、はい……?」
「せっ、せっかくですから、二人で回りませんか……?」
「……ふふ、いいですよ」
彼の笑顔と共に、私の人生初デートが決定した瞬間だった。
次回もツグっていくぜ!
ネコウモリさんの正体が明かされる時も近い……かも?