ボーカルでヴァイオリニストな彼は   作:春巻(生)

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『楽しい楽しい遊園地デート……のはずが、突然二人の乗った観覧車が止まってしまい……』


第84話 気付きの旋律

 観覧車の異変は下から麗牙たちを眺めていた俺たちもすぐに察知していた。

 

「なぁ、アレ止まってへんか?」

 

 ゆっくり回転していた筈の巨大な車輪の動きがピタリと止まり、各部位に吊り下げられたゴンドラは今はただ風で揺れるのみであった。園内を巡る他の客もちらほらと気付き始めたようで、皆口々に騒ぎ立てたりスマホで写真を撮ったりして事態が大きくなりつつあった。

 

「う、嘘でしょ!? 観覧車が止まるなんて……っ」

 

「つまり、二人は閉じ込められたってこと? 嘘、何でこんな時に……」

 

 観覧車が止まる事故というのは偶に聞くが、まさかそれがこんなタイミングで起こるとはなんて運の悪い……。自分の思いつきから企画したつぐみのデートがまさかこんな事になるとは予想だにせず、リサちゃんは思い詰めた表情で空を仰ぐことしかできなかった。麗牙一人取り残されたならまだ何とでもなるだろうが、あくまでも一般人であるつぐみちゃんは別や。この恐ろしい状況に陥って今頃物凄く怖い思いをしているはずだ。麗牙がいるから大丈夫だと思うが、ストレスが祟って精神が病まないかと心配になる。

 

「ん? 皆、ちょっと待ってくれ」

 

「どないしたんや?」

 

 観覧車が復旧するかレスキュー隊が到着するか待つしかなく万事休すかと思われた時、黒麓さんが怪訝な顔で観覧車を見つめながら俺たちに話しかけてきた。

 

「……妙な気配がするんだ。あの観覧車の方角から」

 

「妙な気配?」

 

「ああ。少なくとも人間でないような何かが……っ、アレは?」

 

 黒麓さんが更に声を上げた時、俺にもその異変が目についた。

 

 人型の禍々しい何かが、腕から生やした翼をはためかせて上昇していき、麗牙たちの乗るゴンドラへと近付いている光景がそこにあったのだ。

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

「と、止まっちゃいましたけど……え、観覧車ってこういうものでしたっけ?」

 

「そんなわけないでしょう! 普通止まりませんから! 事故ですってこれ!」

 

「ですよねー……」

 

 もしかするとそういった観覧車もあるかもしれないと思ったけど、彼女の慌てようから見るにこの状況は普通に事故のようだ。僕らの乗るゴンドラは頂点が近づいて来て殆ど天辺に位置し、そんな高いところで閉じ込められてしまった。僕は高いところは平気だし落ちても死なない自信があるから特に動揺したりはしない。

 

「ぅぅ……」

 

 でもつぐみさんは別だ。僕と違って特別な力も持たない普通の人間である彼女からしてみれば、この状況はとかく恐ろしく不安に感じても仕方のないものだろう。今もその場から動けず震えているつぐみさんを目の前にし、彼女のために何か出来ないかと考えあぐねていた。

 

「つぐみさん──」

 

 しかし彼女に向けて何かを話そうとした時、ゴンドラの外の広大な景色に突如として異物が入り込んだのだ。

 

「──なっ!?」

 

「ひぃ!?」

 

 腕から生やした翼をはためかせ、僕らと同じ目線に飛び上がって来たのは一人の異形だった。全身を羽毛に覆われ、鳥のような強靭な足と鋭い爪を持つ、人間の女体のような体付きをした存在。伝説でいうところのハーピー─―ハルピュイアのような見た目をした異形が僕たちの目の前に迫っていたのだ。

 

「うっふふ、いたいた」

 

 つぐみさんを一瞥してニヤついた笑みを浮かべる異形──間違いなくレジェンドルガだ。恐らく世界にハルピュイアの伝説を残した存在の一人──ハルピュイアレジェンドルガと今は呼ぼう。そしてレジェンドルガの目的と言えばただ一つ、ロードの復活。そしてその足がかりとなる存在……つまりはつぐみさんの強奪がこの場に現れた理由だろう。僕はハルピュイアの視線からつぐみさんを守るように二人の間に入り込み、異形を強く睨みつけていた。

 

「っ、紅さん……」

 

「あん? 何よ。悪いけどアンタには興味ないの。そこの彼女さん? 貰っていくわね♪」

 

 やれるものならやってみろ、と口には出さず全身の魔皇力を右手に集中させてハルピュイアに向けて放とうとする。その衝撃でゴンドラが崩れ落ちたりしないかは少し心配になるが、つぐみさんを守るためにも四の五の言っていられない。

 

「ッハハッ!」

 

 ハルピュイアがこちらに接近を始め、僕も右手を奴に翳そうとした、その時だった。

 

「ッグホァッ!?」

 

『フゥン!』

 

『待て待てぇ〜い! って、お前はっ!』

 

 小さな白銀と金色の二体の蝙蝠が流星の如くハルピュイアに降り注ぎ、予想外の攻撃によってバランスを崩した異形は地へと落ちていく。僕らの間に割って入ってくれたのは相棒のキバットと、そして……。

 

『よぅ、キバの兄ちゃん。後はオレたちに任せておきな』

 

 それは黒麓さんが変身のために必要となる、キバット族を模した制御ロボット──レイキバットだった。自信に満ちた渋い声色で僕たちにそう告げると、彼は落ちていくハルピュイアに向けて追撃を仕掛けるように急降下していった。

 

『なっ! オレ様たちの出番を取る気か!? ってコラ待てって!』

 

「あっ、キバット!?」

 

 変に対抗意識を燃やしたキバットも同じように後を追っていってしまい、僕も変身できない状況になってしまう。とは言え、このまま変身したとして、本当に後を追ってもいいものかと考えてしまう。流石に彼女を抱えてこの高さから飛び降りるのは、つぐみさんも持たないかもしれないし……。

 

「く、紅さん……」

 

「大丈夫ですかつぐみさん。どこも怪我は……」

 

「大丈夫です。紅さんが守ってくれましたから……えへへ」

 

 怖かっただろうに僕に屈託のない笑顔を向けてくれるつぐみさん。無理しているのかと思ったけど本当に嬉しそうに笑うものだから、僕も釣られてつい一緒になって微笑んでしまう。

 

「(レイキバットがいるということは黒麓さんもいる。けど、任せていいものか……)」

 

 しかし頭は冷静で、先程のレジェンドルガのことを考えてしまう。大胆にも昼間の遊園地に現れたあの異形をこのまま放っておいてもいいものかと。恐らく黒麓さんがいるのだろうが、本当に彼に任せたままでいいのかと未だ彼に全幅の信頼を置くことが出来なかったのだ。

 

 ♪〜♪〜

 

 その時、僕のポケットから着信音が鳴り響いた。手に取った端末の画面には健吾さんの名前が表示されており、この動けない状況を打破するためにも僕は迷わず通話を始めた。

 

「もしもし健吾さん?」

 

『麗牙か? お前、今つぐみちゃんと一緒におるな?』

 

「はい、いますよ」

 

『そっかよかった。こっちは俺らが何とかするから、お前はつぐみちゃんの側におったれ。ええなっ?』

 

「えっ? ちょっと健吾さん──って切れた……」

 

 必要最低限の言葉だけを告げて、彼は電話を切ってしまった。「つぐみさんの側にいてろ」と言うのは分かるけれど、「こっちは何とかする」とはどういうことか……もしかしてすぐ側にいるのか?

 

「紅さん? 綾野さんは何て……?」

 

「こっちは大丈夫だから僕はここにいてろ、だそうです」

 

「そう、なんですね……」

 

 つぐみさんの顔から安堵の色が見え、彼女は落ち着いたように息をつく。つぐみさんも僕にここにいて欲しいのだということはその様子を見てすぐに分かった。レジェンドルガのことは気になるが、健吾さんの言葉を信じて今は彼女の側にいてようと思う。

 

「……」

 

 先ほど一瞬だけ安堵の表情を見せたつぐみさんだが、すぐにまた不安の色が彼女の顔に表れていた。異形は離れていったとは言え、観覧車は今も停止していて僕らは宙吊りの状態のままだ。一介の女子高生が心細くなるのは当然の心理だろう。忙しなく周りを見回しながら、時折僕の方へと助けを求めるような視線を向けるつぐみさん。言葉にはしなくとも、今の彼女が何を求めているのか僕には何となくだけど分かることができた。

 

「つぐみさん。隣、いいですか?」

 

「っ、は、はいっ……ひゃっ!?」

 

 嬉しそうに頷く彼女の対面の席を立ち上がり、ゆっくりと彼女の元へと近づいてその小さな身体の隣へ肩が密着するように腰を下ろした。二人分の体重が偏ったためにゴンドラが僅かに揺れ、つぐみさんは小さく悲鳴を上げながら僕の腕にしがみつく。やがて揺れは収まるも、まだ怖いのかつぐみさんは未だ僕の腕に身体ごと寄せてしがみついたまま離れようとはしなかった。

 

「……大丈夫ですよ。僕が側にいます」

 

「紅さん……」

 

 震える彼女の手の上に僕の手を添え、優しく彼女に向けて呟く。僕をその身に感じてくれたのか、次第に彼女の手の震えが小さくなっていくのが分かった。彼女の心で鳴り響いていた恐怖の音色も、穏やかなものへと変化しつつあった。

 

「ありがとうございます……紅さんがいると、とても落ち着きますね」

 

 燐子さんみたいなことを言うなと内心思ったけれど言葉には出さず、穏やかに笑みを浮かべる彼女に僕は微笑み返す。僕がいることで彼女の心に安寧が戻ってくるのなら、それまでは彼女の側にいてたいと思っていた。

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 レイキバットによって観覧車の天辺付近から落下していく異形を追い、俺と黒麓は走っていた。後ろからリサちゃんとひまりちゃんも駆けつけてこようとするが、生憎待っている猶予などないため遠慮せず距離を放しながら男二人だけで駆け抜けていた。

 

「チィ……フンッ」

 

 人目の付かない茂みの中に落ちてきたレジェンドルガは華麗に身体を翻して着地を決めていた。そして同時に駆けつけてきた俺たちに向けて恐ろしく鋭い目線を投げ、不快を隠さない声色で語りかけてきた。

 

「チッ、アンタら何なのよ。私らはね、ロードを復活させるのに忙しいの。邪魔だからその細っちいお腹引き裂いてあげる。いい声で泣きなさいよぉ?」

 

 女性らしい身体つきからは想像もつかないほど、生理的な嫌悪感を抱かせる卑しい声で挑発するレジェンドルガ。しかしその程度の嫌悪も挑発も、俺には既に慣れたものであった。

 

「悪いけど俺にそんな芸当できやんからな。潰させてもらうで」

 

R・E・A・D・Y(レディ)

 

「右に同じく。代わりにキミの断末魔でも聞かせてもらおうか。レイキバット」

 

『行こうか。華麗に激しく』

 

 異形の挑発に挑発で返しながら、俺はイクサナックルを取り出して左掌に押し当てる。隣の黒麓もレイキバットを呼び、小さな白銀の塊が彼の元へと飛来した。

 

 そして……まさかコイツと共にその言葉を唱えることになるとはな……。

 

 

「変身!」

 

「変身」

 

 

 俺たちの変化の呪文が交互に景色へ溶けていく。

 

F・I・S・T(フィスト) O・N(オン)

 

 俺はナックルを天高く掲げ、バックルへと装填する。ベルトから光子状のパワードスーツが召喚され、俺の身体に吸い寄せられる。次の瞬間には俺の身体は穢れなき白き鎧に覆われていた。

 

 隣ではレイキバットが黒麓のバックルに収まり、彼の周りに氷結の世界が形成される。その次の瞬間に氷結は砕け散り、そこには白き爪の戦士が顕現していた。

 

 青空の会が開発したイクサ。3WAが開発したレイ。組織の思想の違いから相容れることのなかったはずの二人の戦士が、異形を前にして並び立っていた。

 

「何っ?」

 

「覚悟しぃや。恋する少女の邪魔をした罪は重いで」

 

 俺はレジェンドルガにイクサカリバーを向け、銀の弾丸を放ちながら接近を始めた。しかしすぐさま敵はその翼を羽ばたかせると、弾丸を躱して空へと飛翔を始める。

 

「クッ、アハハッ。飛べもしない人間に何ができるのかな?」

 

 鳥人間のような姿を異形は飛びながら俺の方を見て嘲るような笑いを浮かべていた。イクサも、そしてレイにも飛行機能は備わっていない。確かにこのまま再び観覧車まで登り詰められたらそれこそなす術はないだろう。しかし、俺の持つ銃のように空中の敵への対抗策がないわけではない。

 

 それはレイも同様に……。

 

「ふふ……ッ!? ギィャァ!?」

 

 俺の放った弾丸を横に避けた直後、異形の両翼に金色の槍が突き刺さった。振り返らずとも俺には分かる。レイと幾度と戦ってきた俺には、それがどういう能力なのかよく分かっていた。

 

「ィギ! こ、こんの……放せェ」

 

 俺の背後にいるレイの肩から伸びた巨爪──ブロウニングショルダーが異形の翼を貫いたまま放さなかった。そして両翼を貫かれてなお俺らに向けて何かをしようとしてくる異形をレイが許すはずがなかった。

 

「フンッ」

 

「なっ、ォオオオッ!?」

 

 肩から伸びた爪を収縮させてこちらへ引き摺り込みながら、敵を地面に叩きつけようとしていた。だが俺もただそれを見ているだけではない。地面へ激突しようとするレジェンドルガに向けて駆け出し、カリバーモードに移行させたイクサカリバーを振るい、その刃の一閃を異形の身体に叩き込んだ。

 

「ゥラァァア!」

 

「ガァァァァッ!?」

 

 イクサの斬撃と共に地面に打ち付けられ、激しく地面を転がりながら吹き飛んでいく異形。そんな彼女から目を逸らさずに、俺とレイは再び並び立って構えをとっていた。

 

「うん。なかなか息があってるよね、ボクたちは」

 

「どうやろな。俺やってレイのことはよく分かってるしな」

 

「ボクだってイクサのことは調べたつもりさ」

 

 互いに相手の能力を知っているからこそ、次にどの手を使うのが最善かは自ずと導き出される。故にそれが合致した時、息の合った攻撃というのが可能になるのだろう。たとえ、相手のことを完全に信用していなくともだ。

 

「ググ……クソッ……」

 

「残念やったな、こっちの方が有利や。このまま大人しくくたばるか降伏するんやな」

 

「確かに数では不利ね……仕方ないっ」

 

 追い詰められた異形が叫んだその時、俺たちの周囲から奇妙な気配が感じられた。数は少なく、明らかに何かの気配がするのだが視界では何も確認できない。嫌な違和感が肌に突き刺さり、冷や汗をかき始めた時だった。

 

「ゥオッ!?」

 

「綾野くん?」

 

 突然胸部に衝撃が走り、俺は軽く後方へと吹っ飛ばされる。痛みが走る胸を押さえながら周囲へと目をやるが、やはり敵は先から動いていないレジェンドルガ以外に誰もいない。

 

「今のって……ッグァ!?」

 

「何が──グッ!? なるほど……目に見えない敵ってことか」

 

 俺に更なる追撃が加えられ、レイも見えない何かに攻撃される。彼の言う通り、目の前のレジェンドルガ以外にも敵がいるということで間違いないだろう。しかも、視界には映らない厄介な特性を持った敵がな。

 しかし特に慌てることはない。この手の敵は何度か戦ってきたし、今更恐れることはなかった。レジェンドルガという強大な存在にさえ注意すれば、決して切り抜けられない危機ではなかったのだから。

 

「あれ?」

 

 だが気を入れ直して敵と向かい合おうとすると同時に、俺はある変化に気付いていた。

 

「観覧車……動いとるな……」

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

「つぐみさん?」

 

 しばらく密着していたつぐみさんだったけど、身体の震えが治ったと共に僕から離れると何かを考え込むように俯き始めていた。穏やかな音楽が奏でられていたはずの彼女の心に再び暗雲が立ち込めていたことが気になり、すぐさま声をかけて訊ねていた。

 

「……紅さん。前もでしたけれど、私ってやっぱりまだ狙われているんですよね」

 

「はい。でも、絶対に危害は加えさせませんから」

 

「ふふ、紅さんがいうと本当に安心できるから不思議です」

 

 自分が狙われていることで僕に迷惑をかけているとでも思い詰めていたのだろうか。確かに大変であることには違いないが、こうして出会えた音楽で繋がる仲間を守ることに僕に不満なんてない。彼女を傷付けさせないという言葉を嘘にしないためにも、これからも迫るレジェンドルガから彼女を守り続ける決意を固めていた。

 

 しかし──

 

「私以外にもいるんですよね。同じように狙われている人が」

 

「それは……そうですね。僕が分かっているだけであと二人は確実に」

 

 つぐみさんと同じように魔皇力を持った人間は世界中に幾人といるのだろう。その中で僕が確実に狙われていると把握できているのは、つぐみさんと、そして友希那さんと燐子さんだ。友希那さんはまだ狙われたことがないから意外と対象外なのかもしれないが、音楽で繋がることが出来た仲間たちに危険が迫っていることに対して憂いと憤りを感じずにはいられない。それを感じ取ってしまったのか、つぐみさんは僕に問い質してきた。

 

「それって、もしかして紅さんの友達ですか?」

 

「え、どうして?」

 

「だって紅さん、今すごく辛そうな顔してたから……誰か大切な人が狙われてるんじゃないかって」

 

 本当に人のことをよく見ているのだと、彼女に軽く感心すると同時に驚いて目を見開いてしまう。大切な人、か……うん、確かに彼女たちは今の僕にとっては大切な人と呼べるだろう。一瞬頭をよぎった黒髪の面影を振り切ってそう結論付け、つぐみさんにも彼女たちのことを共有すべくその名を伝えた。

 

「その通りですよ。狙われてるのはつぐみさんの他に、友希那さんと燐子さんです」

 

「え……」

 

 まさか自分の知り合いが同じように狙われているとは想像し得なかったのか、驚きに満ちた表情でつぐみさんは固まっていた。しかしその驚きようというのか、彼女の心が打ち鳴らす動揺の音は僕が予想していたよりも遥かに大きかった。ただ知り合いが危ないという不安以上の何かを抱いているような、そんな風にも捉えられるが、今は特に触れずに話を続けさせてもらおう。

 

「友希那先輩に、燐子さんも……」

 

「友希那さんはまだ狙われたことはないけど……実は、少し前に燐子さんが狙われて……」

 

 今でも思い出せるクリスマスのあの日。黒麓さんと話をしている間に……僕が目を話しているほんの少しの合間に燐子さんがレジェンドルガに連れ去られそうになったことを思い出して、無意識に手に力が篭り拳を握り締めていた。あの時のことを思い出すだけで今でも怒りと、そして自虐的な感情が湧いて出てきてしまう。

 

「僕が近くにいたのに、あともう少しのところで連れ去られそうになって……本当、何やってるんだろうなって僕……」

 

「……」

 

 燐子さんに危ない目に遭わせてしまったという負い目がついて回ってしまう。レジェンドルガを打ち倒すだけの力を持っていながら、彼女に一瞬とは言え怖い思いをさせてしまったことを僕はずっと情けなく感じていた。握り締めた拳が震えていることにも気付かないまま、僕は感情が漏れた声を出し続けていた。

 

「敵にも、自分自身にも腹が立ちます。何のために力を持ってるのかって……守りたい時に守れなければ何の意味も無いのに」

 

「……」

 

「燐子さんの悲鳴が聴こえて、彼女が目の前からいなくなるかもって思った瞬間、本当に怖かったんです。あんな思い、もう二度としたくない……」

 

 燐子さんを二度と危険な目に遭わせるものか。

 彼女の悲鳴も二度と聞きたくない。

 彼女にはずっと笑っていてほしい。

 僕に安寧と静寂を与えてくれる柔らかな笑顔を、僕は近くで見続けていたい。

 

「だから……絶対に守らなくちゃ……」

 

 僕はきっと、この手に届く人を守りたいと願っている。今の言葉もそれに沿ったものであるはずだった。

 

 しかし、それとは別に頭に思い浮かぶただ一人がいたことは、僕自身全くの無自覚であったが……。

 

「そうなん、ですね……」

 

 僕の情けない話を聞いて、つぐみさんの歯切れの悪い声が耳に聞こえてくる。僕のことをカッコいいなんて言ってくれた手前、こんな小さな姿を見せてしまうことには申し訳なさも感じている。だけど、こんな僕も僕だから……。

 

「ごめんなさい、なんか弱音みたいなことばかり言っちゃって」

 

「ううん。紅さんがこんな風に自分のこと話してくれるの、ちょっと嬉しかったから……」

 

 いつものような花咲くような笑みではなく、感情を押し殺したような拙い笑みをつぐみさんは見せていた。気を遣わせてしまったと思ったが、しかしそれにしては彼女の心の音が妙に切なげであることに僕は違和感を抱いていた。

 傷付いたような、泣きそうな、そんな切ない音楽が小さく僕の耳にも届いてくる。

 今の話のどこに切なくなるような要素があったのかと気になり始めたところで、つぐみさんから声がかけられた。

 

 

「あの、紅さん……一つ、いいですか?」

 

 

 そんな音を心で奏でたままのつぐみさんに、僕は快く頷く。

 

 

 つぐみさんは小さく深呼吸をして息を整え、そして僕の目を真っ直ぐ見据える。

 

 

 彼女の唇と、透き通るような綺麗な瞳が揺れていた。

 

 

 今までにない真剣な表情を浮かべるつぐみさんを前に、僕は顔を背けることも逃げることもできず、ただ彼女の言葉を待ち続けていた。

 

 

 そして──

 

 

「紅さんは多分……ううん、きっと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……燐子さんのこと、好きなんですよ」

 

 

 彼女の言葉が空へと溶けていくのと同時に、僕たちを乗せたゴンドラも再び動き始めたのだった。




※つぐみのために企画されたデート

風花雪月にリングフィットに剣盾に……やることが多い。
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