月から聖杯戦争のマスターが来るそうですよ?   作:sahala

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覚悟はしていましたが、社会人になると自分の時間は中々取れないです。でもこのSSは自分が書きたい物なので、完結を目指して頑張ります。

7/22でFate/EXTRAは9周年を迎えました。
sahalaはこれからもFate/EXTRAを応援しています。


第八話『Thousand eyes』

 日が暮れて街灯がポツポツと灯り出した通りをザビ達は歩いていく。歩いていく内に見てきた建物や街道の造りから察するに、この周辺は商店街なのだろう。通りでは店仕舞いを始めている店がいくつも見えてきた。

 

「本当にこんな時間に行っても大丈夫なのか?」

「はい、大丈夫です! 店主の方とは話をつけてありますから!」

 

 心配そうなザビに、黒ウサギは元気よく答える。

 

「皆様のギフトがどういった物なのかを正しく把握する為にも、“サウザンドアイズ”で鑑定をして貰わなくてはなりません。明日に初めてのギフトゲームが行われるのは予想外でしたが、だからこそ早くご自身のギフトの正体を知るべきです」

「もっともな話だけど、本当に鑑定はして貰えるの? 私達のコミュニティが?」

 

 耀の疑問ももっともだ。黒ウサギ達のコミュニティは箱庭では最下層に位置する“ノーネーム”。店側からすれば、門前払いして当然な対応になるだろう。

 

「御心配なさらず。今から行く店の店主は黒ウサギ達が御懇意にさせて頂いている方です。皆様を召喚したギフトもその方から売って頂きました」

「ほう? それは興味深いな。“ノーネーム”を相手に商売してくれるとは、ずいぶん気前が良い店主じゃねえか」

「もともと先代の頃から付き合いのあった方ですから。といっても、先代の縁が繋がっているのはその方くらいですけど……と、見えましたよ」

 

 ジンが指差した先に十六夜が目を向けると、そこには周りの店と比べてひと際立派な門構えの店が見えた。看板には剣を持った双女神の旗印が描かれている。

 

「こりゃまたご立派な―――」

「イヤッホオオオオオウ! よく来たな、黒ウサギィッ!」

 

 十六夜が店の感想を言う前に、店の中から和装の少女が飛び出す。少女は店から走り出し、獲物に跳びかかる猫の様に黒ウサギに目掛けて跳躍した。

 

「ほれ」

「へ?」

 

 トン、と背中を押されてザビは黒ウサギの前に出される。頭上には先程の少女がザビに振ってくる。

 

「ちょっ―――!」

 

 待った、と言う前にザビの身体は動いていた。少女を受け止めると、そのまま背中から地面へ倒れこむ。両手は受け止めた少女をしっかりと抱え、体を横回転(ローリング)させながら地面を転がった。

 

「おお、教科書に載せたいくらい綺麗な受け身だ」

「って、言ってる場合ですかお馬鹿様!」

 

 こんな状況を作り出しておきながら呑気な感想を言う元凶(十六夜)にハリセンがとぶ中、怪我をさせない様に下敷きとなったザビは少女を見上げる。

 

「イタタ………大丈夫?」

「…………」

 

 少女はザビに跨ったまま、じっとザビを見つめていた。

 

「あの、何か……?」

「おんし……いったい、」

「おーい、いつまで他人様のコミュニティの同士を下敷きにしているんだ?」

 

 ヒョイと十六夜が少女の首根っこを掴んでザビからどかした。

 

「い、十六夜さん! あまり雑に扱わないで下さい!」

「はあ? 今のはどう見ても突っ込んで来たチビ助が悪いだろ」

「チ、チビ……!? その方がさっきの話の店主です!」

 

 何だと……? と、十六夜が胡散臭げに顔を顰める。少女は首根っこを掴まれたまま、不敵な笑みを浮かべる。

 

「久しぶりじゃのう、ジン。そして黒ウサギよ。召喚の儀式は無事に成功したようじゃな」

「はい、白夜叉様のお陰です」

「謙遜するでない。私はクイーンの召喚術が込められたギフトを売ったに過ぎん。召喚が成功したのはおんし等に時の運があったからじゃろうて」

 

 少女―――白夜叉は異世界から来た人間達を品定めする様に睥睨し、十六夜とザビに意味ありげな目線を送る。

 

「なるほど。随分と面白い人材を確保できたのう」

 

***

 

「改めて自己紹介しよう。私は白夜叉。四桁の門、3345外門に本拠を構えている“サウザンドアイズ”の幹部であり、この2105380外門支店のオーナーである。以後よろしく頼む」

 

 白夜叉の私室に通された“ノーネーム”の一同は、目の前の少女と改めて対峙する。着物に白い髪。頭に生えた角を除けば、見た目は少し風変わりな少女だ。しかし彼女こそが、“ノーネーム”を幾度も支援している店主だというのだ。。少女にしか見えない外見といい、先程までの言動といい、どうにも肩書きと一致しない様に見えて十六夜は相手を計りかねていた。

 

「まあ、良いが………外門ってのは何だ?」

「箱庭の階層を示す外壁にある門ですよ。数字が小さいほど都市の中心部に近く、同時に強力な力を持つ者達が住んでいるのです。因みに私達のコミュニティは一番外側の七桁の外門ですね」

 

 黒ウサギの説明に、異世界組はなるほどと頷く。箱庭都市は言うなら、巨大バームクーヘンみたいなものだ。そして一番外側のバームクーヘンの皮が、いま自分達がいる場所だ。

 

「そして私がいる四桁以上が上層と呼ばれる階層だ。その水樹を持っていた白蛇の神格も私が与えた恩恵なのだぞ」

 

 そう言って、白夜叉は黒ウサギの横に置かれた樹の苗を指差した。それを聞き、十六夜は得心がいったと言う風に頷く。

 

「ああ、思い出した。あの蛇が言っていたシロヤシャ様はお前の事か」

「その通り。白雪に神格を与えたのはもう二百年前になるがな」

「へぇ? じゃあお前はあの蛇より強いのか?」

「ふふん、当然だ。私は東側の”階級支配者”だぞ。この東側で並ぶ者がいない、最強の主催者(ホスト)だからの」

 

 それを聞いた途端―――十六夜・耀・飛鳥の三人が立ち上がった。

 

「最強の主催者ねえ………。つまり、お前を倒せば俺達が最強というわけだ」

「ええ、なかなか景気が良い話じゃない」

「ちょっ、ちょっと皆さん本気ですか!?」

 

闘気をむき出しに白夜叉と対峙する異世界組にジンは制止しようとする。そんな中―――。

 

「うん? おんしはやらんのか?」

 

 闘気をぶつけられてもニヤニヤと笑っていた白夜叉だが、一人だけ立ち上がらなかったザビを見て怪訝そうな顔になる。

 

「あら? ザビ君は怖気づいたのかしら?」

「ちょっと待て、お嬢様」

 

 挑発的に笑う飛鳥を十六夜が制する。白雪との戦いでザビの人並み外れた戦術眼を目の当たりにしていた十六夜は、ザビが険しい顔で白夜叉を見ているのに引っ掛かりを感じた。

 

「お前……こいつに何を見ているんだ?」

「…………彼女は、」

 

 ザビの額から、冷や汗が一筋落ちる。頭の中でノイズ塗れの映像が見える。

 距離感が可笑しくなりそうな巨大な和風の神殿。

 虫の様に小さな■■を見下ろす巨大な■■の■。

 直視しているだけで目が潰されそうな圧倒的なエネルギー。

 正確に思い出せないながら、何故か目の前の少女が記憶にある存在と重なって見えていた。カラカラに乾く口で唾を飲み込みながら、ザビは口にする。

 

「彼女は、太陽………いや。()()()()()()()()()()()()だ」

 

 それを聞いた瞬間、白夜叉の目が見開き―――ニヤリと口角を上げ、周りの景色が砕け散った。

 

「な、何!?」

 

 突然の事態に耀が辺りを慌てて見渡す。部屋全体が硝子細工の様に景色が砕け、次々と景色が切り替わっていく。湖畔、砂漠、樹海、廃虚……テレビのチャンネルを何度も替える様に耀達の周りの景色が流れていき―――気付けば水平に太陽が廻る、白い雪原と凍った湖畔がある世界にいた。

 

「……なっ………!?」

 

 突然の事態にさすがの問題児達も息を吞む。まるで現実感のない光景だが、肌を刺すような冷たい風がこの上ない現実感(リアルさ)を感じさせていた。

 

「よくぞ見破った。ザビとやら」

 

 悠然と少女―――否。幼き魔王はザビに話しかける。

 

「初対面にも関わらず、私の本質を看破するとはな。いや本当に大したものだ。相手の力量を即座に見抜く眼力はギフトゲームでは必須だからのう」

 

 ピシ、と音を立てて白夜叉の周りの氷が罅割れる。彼女が身じろぎ一つするだけで、空間が軋む様な圧力が襲い掛かる。

 

「改めて自己紹介しようか。私は”白き夜の魔王”―――太陽と白夜の星霊・白夜叉。星を司る魔王である」

 

 くつくつと笑いながら、白夜叉は名乗る。もはやこの場にいる誰もがその言葉を疑っていなかった。少女の様な身体つきだというのに、問題児達の目には何十倍も巨大な存在に見えていた。

 

「さて………聞き違いで無ければ、私を倒すそうだが」

 

 パンと扇子を開いて口元を隠しながら、白夜叉は問題児達を見下す。

 

「そなた達が挑むのは戯れのゲームか? それとも………命を賭けた殺し合いか?」

 

 ドクン、ドクン。十六夜達の耳に自分の鼓動が煩いくらいに聞こえる。手が震えているのは、けっして寒さだけではないだろう。しばらく経ち、十六夜は苦い顔になりながら頭を掻きむしった。

 

「………はあ。分かった、降参だ。今回はあんたの勝ちだよ、白夜叉」

「ほう? あっさりと負けを認めるのだな」

「ああ。だから今回は大人しく試されてやるよ」

 

 白夜叉の笑い声が響く。試されてやる、とは随分と可愛らしい意地の張り方だ。ひとしきり笑った後、白夜叉は残りの三人に問う。

 

「くっ、くくく……して、他の童達も同じか?」

「……ええ。私も試されてあげるわ」

「右に同じ」

「今は勝てる手段が無いからな」

 

 全員のゲーム参加の同意を得られ、白夜叉は覇気を抑えた。一連の流れを見ていた黒ウサギ達はようやく安堵の溜息をつく。

 

「も、もう! お互いにもう少し相手を選んで下さい! 初日で“階層支配者”に喧嘩を売る新人も、新人の喧嘩を買う“階層支配者”も初耳です!」

「いやいや、すまん黒ウサギ。久々にイキの良い童達じゃからからかいたくなっての。それにしてもザビよ。よくぞ私の霊格を見抜けたな。それがおんしのギフトの能力か?」

「それは……うまく言えないけれど、前に同じ様な相手に会ったことがある……と思う」

 

 歯切れの悪い言葉に白夜叉が首を傾げると、ジンが捕捉する様に話した。

 

「ザビさんは箱庭へ来る前の記憶が無いそうです。その上、ご自身のギフトも覚えていない様です。まったくの無能力では無いとは思いますが……」

「なんとまあ、難儀な状況じゃのう」

「その事で白夜叉様にご相談があるのですが……」

 

 黒ウサギは神妙な顔で白夜叉へ向き直る。次の一言はザビ達を驚かせるには十分だった。

 

「ザビ様の記憶を取り戻せるギフト。それを売って頂けないでしょうか?」

 




原作との変更点や作中の説明など

・黒ウサギ達は最初から白夜叉から懇意にされている。

 原作だと白夜叉がいるとは知らずに“サウザンドアイズ”を訪ねていますが、このSSでは最初から白夜叉がいる事を知っているし、白夜叉からも特別に便宜を図って貰っている状態です。他にも召喚のギフトも白夜叉が売ったという設定になっています。

・ザビ、白夜叉を見抜く。

 旧作でもやりましたが、金色白面と対峙した事がある■■は太陽神としての側面も持つ白夜叉を見ていると既視感を覚える様です。

・記憶喪失を治療するギフト

 箱庭にはそれくらいあるよね、多分。
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