月から聖杯戦争のマスターが来るそうですよ? 作:sahala
『ギフトゲーム名"鷲獅子の手綱"
プレイヤー一覧
逆廻十六夜
久遠飛鳥
春日部耀
ザビ
・クリア条件:グリフォンの背に乗り、湖畔を舞う。
・クリア方法:“力”、“知恵”、“勇気”。いずれかでグリフォンに認められる。
・敗北条件:降参、またはプレイヤーが上記の勝利条件を満たせなかった場合
宣誓。上記を尊重し、誇りと御旗と主催者ホストの名の下、ギフトゲームを開催します。
“サウザンドアイズ”印』
***
「春日部さん、大丈夫かしら……?」
グリフォンに乗って飛び立って行った友人の背中を飛鳥は心配そうに見つめる。
「なあに、春日部だって勝算があるから立候補したんだろ。心配すんなお嬢様」
「それはそうだけど……」
「ゲームはもう始まったんだ。今さらあれこれ言っても仕方ねえ」
飛鳥とは対照的に、十六夜はどっしりと構えた態度を崩さない。彼は冷静にゲームの進行を見守っていた。
あの後、白夜叉はあっさりと黒ウサギの頼みを承諾した。この箱庭では失った記憶を取り戻せるギフトは、いくつもあるのだと言う。
「まあ、他ならぬ可愛い黒ウサギの為じゃ。売ってやるのは吝かでは無いが……」
意味ありげな笑みを浮かべながら、ザビ達を見る白夜叉。
「とはいえ、私は曲がりなりにも“サウザンドアイズ”の支店長である。そなたらが客に値するか見極めさせて貰おうか」
そう言って白夜叉が呼び出したのがグリフォンだった。そしてグリフォンと聞いた途端、それまで会話にあまり口を挟まなかった耀が真っ先に立候補したのだ。
「無事に帰ってくれるといいな」
耀から目を逸らさず、ザビは独り言ちる。
「本来は俺が受けるべき
「いやいや、お前が引け目に思うのは違うだろ。そもそもお前じゃ、グリフォンの背に乗っていられないだろうが」
十六夜の指摘はもっともだ。耀達の姿は遠目に小さく見える程度まで距離が離れているが、それでもグリフォンが耀を背中から振り落とそうとしているのは見えていた。急降下、急上昇、急旋回。さらには錐揉回転の様なアクロバット飛行を駆使している。
白夜叉の本質を看破できる程の真眼があっても、ザビの身体能力は一般人の範疇だ。ザビが同じ事をしようとすれば、あっという間に振り落とされているだろう。
「……分かっているさ、そのくらい」
「まあ、手慰めに遊んでやると言ったのは私だからな。あの小娘がクリアしても、おんし等の要望は聞いてやろう」
カラカラと白夜叉は笑いながらウインクする。
「もちろん対価はお忘れなく、じゃ」
「黒ウサギ達は良いのか? 安くないギフトなら、後回しにしても全然構わないのに」
ザビの心配そうな顔にジンは首を横に降る。
「良いんです。黒ウサギから聞いた蛇神とのゲーム内容や白夜叉様の本質を見抜いた事から察するに、貴方には強力なギフトが宿っていると思います。それなら多少高価でも記憶を取り戻して貰って、ギフトを十全に使える様になって貰う方がコミュニティにとっても有益だと思います」
「同士は助け合うものデスから♪ コミュニティの一員になって貰ったからには黒ウサギ達もザビ様を全力でサポートするのデスよ!」
「……ありがとう、みんな」
屈託無く答える二人にザビは感謝する。彼等の心遣いは記憶喪失のザビの心に温かく染み込んだ。少し湿っぽい空気になりかけた場を明るくしようと、飛鳥はわざとらしく咳払いをした。
「それにしても、もう何も見えないわね。春日部さんは大丈夫かしら?」
遠くを見通そうと手を水平にしてオデコに当てたが、飛鳥の視力では耀達は豆粒の様な点にしか見えなかった。今がどんな状況なのか、さっぱり分からない。
「なんだ、見えないのか? お嬢様は目が悪いんだな」
「お言葉ですけど、普通の人間は望遠鏡が必要な距離を見通すなんて出来ませんからね」
「ちょっと待ってて」
飛鳥がムッとした顔になった横で、ザビが動き出した。手元にホログラム映像の様なコンソールを呼び出し、キーを高速でタイピングしていく。すると———。
「ほう?」
「これは……!」
それぞれが驚きの声を上げる。ザビの前に画面が現れ、グリフォンにしがみ付いている耀の姿がリアルタイムで映されていた。
「これでどう?」
「え、ええ。ありがとう」
戸惑いながらも飛鳥は礼を言う。十六夜の話を聞いただけでは信じられなかったが、目の前で披露されてようやくザビもギフト保持者であると認識できた。
「これがザビさんのギフトですか……。まるで“ラプラスの悪魔”の様なギフトですね」
興味深そうに画面を見ながらジンがポツリと呟いたのを十六夜は聞き逃さなかった。
「黒ウサギも言っていたが……箱庭じゃ、“ラプラスの悪魔”というのはどんなコミュニティなんだ?」
「主に情報収集や情報の管理を行うコミュニティですね。直接見た事はありませんが、大きなギフトゲームになると実況映像を流す為に呼ばれるそうです。ザビさんのギフトは話に聞く“ラプラスの悪魔"に似ていると……白夜叉様?」
ジンが不思議そうに尋ねる。白夜叉は何かを考え込む様子で、ザビが出したコンソールや画面をじっと見つめていた。やがて白夜叉はおもむろにザビに話し掛けた。
「……これはおんしのギフトか?」
「え? ええと、多分……」
「いま写っている映像以外の情報は出るのか?」
「あ、ああ。ちょっと待ってて」
ザビが手早く何かをタイピングしていく。すると、耀が写る映像を中心に複数の画面が現れた。
「これはなんじゃ?」
「いま耀がいる場所の外気温や外気圧。あとは耀の体温や心拍数とか、だな」
「ではこちらは?」
「グリフォンがいま出している速度。他には飛んでいる方角とか、加速度とか色々」
「おいおい……」
ザビの説明に呆れ半分、驚き半分といった様子で十六夜が溜息をつく。
ザビがいま見ているのは只の中継映像ではない。味方と敵の状況を詳細に分析した観測画像だ。それも距離が離れても問題なく、手に取る様にギフトゲームの進行状況やプレイヤーの体調が把握できている。
(こいつ……ギフトゲームの内容次第じゃ化けるんじゃないか?)
今回の様に身体能力に頼るギフトゲームではザビは無力だが、それでもサポートにつければ相手の情報がほとんど開示されていく。スパイ衛星も真っ青な情報を探知しているザビに、十六夜も驚きを隠せない。白夜叉も同意見なのか、厳かに頷いた。
「驚いたな。相手の情報を感知するギフトは多々あるが、短時間でここまで分かるものはそうそういない。おんしは感知や分析に特化したギフトの持ち主なんじゃな」
「そう……なのかな? 記憶が無いから実感が無いけど。今だって、やり方が勝手に頭に浮かんでくるというか……指が無意識に動くという感じ、かな」
「ふむ? 記憶を無くしても肉体は覚えているという事か? 興味深い話じゃな。以前に私と同じ様な者に対峙した記憶といい、そのギフトを身に付けた経緯といい、私もおんしに興味が出てきたのう」
まるで面白い玩具を見つけた様に白夜叉は笑う。そして画面の中ではいよいよギフトゲームが佳境を迎えていた―――。
***
「見事である! よくぞグリフォンの試練を突破した!」
白夜叉から賞賛を受け、耀は照れながらも地面へと降りていく。まるで風を踏み締めながら歩いている様だった。
ゲームの終盤、ゴールと同時にグリフォンから振り落とされた様に見えて黒ウサギ達は一瞬慌てたが、耀は先程までのグリフォンの飛翔術を身に付けていたのだ。
「黒ウサギと出会った時に“風上にいなければ"と言ってたから、他種族とコミュニケーションをとるだけじゃなく、その特性を手に入れるギフトだと推測していたんだが……まさか幻獣も例外じゃないとはな」
「違う。これは友達になった証」
興味津々な十六夜に対し、耀はムッとしながらも言い返す。耀からすれば動物と友達になる事で動物達の特性を身に付けていったので、ただ特性をサンプル採取の様に入手するギフトの様に言われるのは心外だった。
「いやはや大したものだ。このゲームは文句なしにおんしの勝利だの。………ところで、そのギフトは先天的なものか?」
「違う。父さんに貰った木彫りのおかげ」
「木彫り?」
首をかしげる白夜叉に、耀は首から下げていた丸い木彫り細工のペンダントを見せた。材質は楠だろう。中心の空白へと向かう様に幾何学の模様が彫られている不思議なペンダントだった。
「これはまた面妖じゃのう………」
「因みに、チート分析屋のザビはどう見る?」
「それを言うなら君はバグキャラだ」
十六夜の軽口に溜息をつきながら、ザビは耀の木彫りのペンダントを見る。
「と言っても、見た以上の事は分からないかな。この模様は生命の系統樹を示したもの。普通、系統樹は樹の形をしているけど円形になっているのは生命の流転や輪廻を示しているのか……系統樹の行き先が空白なのは世界の中心だからかな。それとも生命がまだ完成してない、と言いたいのかも。つまり、このペンダント単体で生命の全てを表現してーーー」
そこまで言って、ザビはようやく自分を見る目に気付いた。全員が唖然とした表情でザビを見つめていた。気不味くなって、咳払いする。
「ま、まあ自分の眼で見た限りはだけど……いずれにせよ、これを作った人は神域の天才だと思う」
「あ、ありがとう……」
自分の父親を暗に褒められて、耀は戸惑いながらも礼を言う。先程の飛鳥の様にザビの非凡な一面を見て驚きが隠せなかった。
「私も全くもって同意見だが……おんし、それ程の知識があるのに自身の記憶は思い出せんと言うのか?」
「うん……残念だけど、自分の事は本当にさっぱり」
「いや、本当にワケが分からん人間じゃな。というか、初見のギフトを見てここまで鑑識出来るんじゃったら、いっそ私の店に引き抜きたいくらいじゃが?」
「だ、駄目です! ザビ様は私達のコミュニティの同士なのデス!」
黒ウサギの慌てぶりを見て、白夜叉は冗談だと笑った。
「まあ、春日部耀共々、黒ウサギ達の新たな同士は興味深い者ばかりじゃな。見せて貰った礼として……うむ、これくらいサービスしてやっても良いじゃろう!」
パンパンと白夜叉が柏手を打つと、ザビ達の頭上に光り輝くカードが現れた。
「これは、ギフトカード!」
「お中元?」
「お歳暮?」
「お年玉?」
「ええと……贈り物?」
「ち、違います! というかザビ様までボケないで下さい! 顕現してるギフトを収納できる上に、各々のギフトネームが分かるといった超豪華な恩恵です!!」
黒ウサギに叱られながら各々がカードを手に取ると、カードの色が変わった。同時にカードの裏面に文字が刻まれる。
「そのギフトカードとは、正式名称を“ラプラスの紙片”──即ち全知の一端だ。そこに刻まれるギフトネームとは、おんしらの魂と繋がった“恩恵”の名称。鑑定は出来ずとも、それを見れば大体のギフトの正体が分かるというものじゃ」
「ふうん? じゃあ、俺はレアケースなわけだ」
何? と白夜叉は十六夜のギフトカードを覗き込む。そこにはコバルトブルーに染まったカードに、“
「正体不明じゃと? 馬鹿な。全知である"ラプラスの紙片”がエラーを起こすはずが、」
「十六夜もギフトカードでエラーが出ているのか?」
今まで見た事のない表記をしたギフトカードに白夜叉が怪訝な顔をする横で、ザビが口を挟んだ。
「“も"……? おんしのギフトカードもエラーを起こしていると言うのか?」
いよいよもって尋常ならざる状況に白夜叉が真剣な表情になる。そんな白夜叉に気圧されながら、ザビはサイバネティクスな青色に染まった自分のギフトカードを見せた―――。
***
『
ギフトネーム
“
“
“
“
ザビのギフト
前作ではコードキャストだけだったのが、それ以外にも色々とできる様にしました。理由はまた後日という事で。ギフトネームについても、きちんとした理由はあります。
とりあえず……これでようやく主人公の名前をハクノと書ける様になりました。