月から聖杯戦争のマスターが来るそうですよ? 作:sahala
ちゃんとしたシーンを読みたい方はお近くの書店かネットで原作を買いましょう(ダイマ)
———“サウザンドアイズ”2105380外門支店。
「よくも双女神の看板に泥を塗ってくれたな」
白夜叉は目の前の男に冷たい声を投げかける。
「一度開催を約束したギフトゲームを中止するなど………本来なら降格ものだ」
しかし男はふてぶてしい態度を崩そうとしなかった。そもそも彼の服装が既に礼節を欠いている。派手なレザージャケット、シルバーアクセサリーを指や首にジャラジャラと取り付けた遊び人風のファッションは仮にも東側の
「そんなに責められる事ではないと思いますがねえ? 参加者達にも納得してもらった上での中止なんでね」
胡座を崩しただらしない座り方でヌケヌケと言い放つルイオスに白夜叉は鼻を鳴らす。どんな手段を用いて参加者達を納得させたかなど聞きたくなかった。どうせ聞いても気分が悪くなるだけだろう。
「それよりもそのゲームの商品だった吸血鬼が逃げ出したんですけど、御存知ありませんかねえ?」
「………レティシアの事なら隠し立てするつもりは無いぞ」
ニヤニヤと笑うルイオスに白夜叉は毅然と言い放つ。現在、“ペルセウス”に所有されているレティシアが“ノーネーム”の元へ行けたのは白夜叉の手引きによるものだ。自分の商品に逃げられたというのに、ルイオスは余裕のある態度だった。
「ああ、やっぱり。そんなにあの吸血鬼を古巣に帰したかったんだ?」
「………そこまで分かっていながら、随分と余裕そうじゃな」
「いやそんなに余裕無いですよ? 吸血鬼に買い手も決まった事だし、一刻も早く戻ってきて貰わないと困るんでね。さっき部下達に回収を命じたところってわけ」
ただ………とルイオスは口元を歪める。
「手荒い連中だから邪魔する奴がいたら、
「貴様………!」
白夜叉が憤怒の表情で立ち上がる。自分が目をかけている“ノーネーム”に危害を加えられようとしているとあっては、さすがに黙っていられない。今まさに白夜叉の逆鱗に触れている事を理解しながらも、ルイオスは冷や汗を流しながら虚勢を崩さない。
「おお、怖い怖い。元・魔王様が相手じゃ、僕ごときは簡単に殺されるだろうなあ。でも………僕にも切り札の一つくらいはあるんでね。殺される前に
芝居掛かった仕草でルイオスは首のペンダントを弄る。蛇の髪の毛をもつ凶悪な女性の顔をモチーフにした悪趣味なアクセサリーだった。しかし、白夜叉には分かっていた。あれこそは“ペルセウス”の当主が代々受け継いできたギフトであり、一時期は自分と同格に扱われていた魔王を封じ込めたギフトだ。そしてそれを暴走させれば、自分を倒せないまでも支店にいる従業員達が皆殺しにされるだろう事も。
「………貴様の代になってから“ペルセウス”は変わったな。以前はこんな人質を取る様な脅迫はしなかったぞ」
今すぐルイオスを縊り殺したい衝動を理性で抑えつけながら、白夜叉はルイオスに怒気を向けていた。
「貴様の父―――テオドロス=ペルセウスは酒や女にだらしない所はあったが、星座の騎士の名に恥じぬ高潔な精神の持ち主じゃった。どうやら貴様は父から何も学ばなかったらしいな。そもそもテオドロスならばギフトゲーム上の事とはいえ人身売買など、」
「僕は、親父とは違う」
尚も言い募ろうとする白夜叉をルイオスが先よりも若干高めの声で遮った。
「ああ、そうさ。親父ならもっと上手くやっただろうよ。でもそんな親父もギフトゲームであっさりとくたばったんだ。今の“ペルセウス”は僕がリーダーなんだ。部外者のあんたにアレコレ指図される謂れはないね」
断固たる口調で拒絶するルイオス。だが、その顔は何かに苛ついている様に険しく、ギュッと握りしめたペンダントの手も細かく震えている事を白夜叉は見逃さなかった。
「ルイオス、おんしは―――」
白夜叉が何か声をかけようとしたその時だった。障子をノックする音が響いた。
「入れ」
「失礼します。白夜叉様、門前に件の“ノーネーム”が現れました」
三つ指をつきながら障子を開けた女性店員の報告に白夜叉は眉を上げた。噂をすれば影、と言うべきか。
「して、彼奴等は何と?」
「はっ、彼等の話によると………“ペルセウス”所有のヴァンパイアが敷地内で暴れ、その捕獲に来た“ペルセウス”の騎士達が“ノーネーム”に対して暴行や暴言を振るった、と言っています」
「………ふん、なるほどな」
女性店員の報告に白夜叉は意図を察した。すぐさま女性店員へと指示を出す。
「あい分かった。この話は私が預かろう。彼奴等をこの場に通せ」
「はっ」
すぐさま女性店員は立ち去った。そんな中、ルイオスは舌打ちを一つ漏らした。
「チッ、使えない部下共だよホント」
***
「―――“ペルセウス”の狼藉は以上です。そちらのコミュニティの所有するヴァンパイアとその追手が、我らのコミュニティの敷地内で狼藉を働いたのは明白です」
白夜叉とルイオスの前で“ノーネーム”を代表して黒ウサギが釈明する。全ての非が“ペルセウス”にある様な言い分だったが、事実は些か異なる。
かつての古巣の未来を憂いているレティシアに十六夜が実力を見せる為に決闘を申し込んで戦っていたところで、“ペルセウス”の追手達の横やりが入った。彼等はレティシアを“ゴーゴンの威光”で石化させて連れ帰ろうとしたが、その時にレティシアを箱庭都市の外のコミュニティへ売ろうとしている事を“ノーネーム”の前で漏らしてしまった。箱庭都市には吸血鬼の様な太陽を苦手とする種族の為に不可視の天蓋によって太陽光を防ぐ仕掛けがされている。箱庭都市の外へ出るという事は、吸血鬼にとっては行動を著しく制限される事と同じだ。黒ウサギは元・仲間であるレティシアがそんな不自由な扱いにされると知って、黙っていられなかった。
しかし、五桁に所属する“ペルセウス”からすれば名も旗もない“ノーネーム”の言葉など耳を傾ける価値はない。“名無し”風情が邪魔をするな、と邪険にした事でとうとう黒ウサギの堪忍袋の緒が切れた。レティシアへの扱い、“ノーネーム”とはいえ他人のコミュニティに土足で踏み入れたこと、そして同士達への非礼な扱い………。それら全ての怒りを込めてギフトを発動させようとした黒ウサギ。しかし、ここで下手に揉めれば白夜叉に迷惑がかかると思った十六夜が止め、その内に“ペルセウス”達はレティシアを連れて逃げ出してしまった。
その為、“ノーネーム”は怪我で動けない耀と彼女の看病に残したジンを除いた全員で“サウザンドアイズ”へと抗議に来たのだ。
「よって、この屈辱は両コミュニティによる決闘をもって決着をつけるべきです」
これこそが黒ウサギの狙いだった。まるでレティシアが暴れまわったせいで“ノーネーム”が“ペルセウス”から被害を受けた様に話し、その遺憾を両コミュニティの決闘で解決させる。そして決闘で勝利した景品としてレティシアを“ノーネーム”に取り戻す。“ペルセウス”が断ろうにも、白夜叉が仲介に入れば彼女の
「嫌だね」
唐突にルイオスは言った。彼は髪を掻き上げながら、黒ウサギを流し見る。
「大体さ、吸血鬼が暴れたって証拠はあるの? そっちのでっち上げかもしれないじゃん」
「そ、それは………」
「そもそも、あの吸血鬼が逃げ出す理由は君達だろ? 元・お仲間さん。実は盗んだんじゃない?」
「言いがかりです!」
「じゃあ調査してみる? ま、それをやって困るのは何処かの誰かさんでしょうけど?」
わざとらしく白夜叉を盗み見するルイオス。対する白夜叉は、鼻を鳴らして受け流していた。
ここに来て、黒ウサギ達もレティシアが誰の手引きで“ノーネーム”に来られたのか理解できた。こうなっては黒ウサギも口を閉ざすしかなかった。大恩ある白夜叉にこの一件で苦労を掛けるのは避けたい。
「さて、僕はさっさと帰ってあの吸血鬼を売り払うとするかな。知ってる? 吸血鬼の買い手は箱庭の外のコミュニティなんだ。吸血鬼は不可視の天蓋で覆われた箱庭でしか日の光を浴びられない。アイツは日光という檻の中で永遠に玩具にされるんだ」
「あ、貴方という人は………!」
怒りのあまり、逆立ったウサ耳が震える黒ウサギ。しかし続くルイオスの言葉で凍りついた。
「アイツも馬鹿だよね。他人の所有物になるなんて恥辱を被ってまで、己のギフトを魔王に譲り渡すなんてさ」
「………え?」
「気の毒な話だよ。魔王に生命線であるギフトを譲って仮初の自由を手に入れたのに、昔の仲間は誰も助けてくれないんだもんなぁ。いやはや目を覚ましたら、アイツはどんな顔をするんだろうねえ?」
十六夜との決闘の最中にレティシアのギフトカードを黒ウサギは盗み見ていた。かつて神格と鬼種の純血を兼ね備えていたが故に魔王として君臨していたレティシアのギフトが大幅に削られていた。その理由が己の魂とも言えるギフトを売り渡してまで“ノーネーム”に駆け付けようとしていた事を知り、黒ウサギの顔色は真っ青になっていた。
「取引しないかい、月の兎さん」
スッとルイオスは手を差し出し―――邪悪な笑みを浮かべた。
「吸血鬼は返してやる。その代わり………君は生涯、僕へ隷属するんだ」
「何を言ってるの! そんな提案、聞けるわけないでしょ!」
怒りのあまり、飛鳥は席を立つ。目の前の男は異性を性の捌け口くらいにしか見ていないと飛鳥は直感で理解できた。そんな相手に黒ウサギの身柄を引き渡せるわけがない。
「妥当な取引だと思うよ? “箱庭の騎士”の吸血鬼の代わりに、“箱庭の貴族”である月の兎がウチに来る。交換レートは釣り合ってるだろ? それとも元・お仲間が惜しくないとか?」
「………っ!」
ニヤニヤと好色そうに笑うルイオスに黒ウサギは何も言い返せない。いま彼女の中ではレティシアと“ノーネーム”の事が天秤にかけられ、激しく揺れ動いていた。そんな黒ウサギの迷いを見透かした様にルイオスは尚も言い募る。
「ホラホラ、君は月の兎なんだろ? 帝釈天に自己犠牲の精神を買われて箱庭に招かれたんだろ? 今度は君のお仲間の為に、僕にその身体を差し出し」
「
黙り込んだ黒ウサギに尚も詰め寄るルイオスは、飛鳥の“威光”で強制的に口を閉じさせられる。
「っ………!? ……………!!?」
「貴方は不愉快だわ。
混乱するルイオスに、飛鳥は更に“威光”を使う。ルイオスは飛鳥の命令に従う様に体を前のめりにさせていき―――
「こ、の、アマ。そんなものが、通じるのは―――格下だけだ、馬鹿が!」
飛鳥の“威光”に逆らう様に、急激にルイオスは体を起こす。自分のギフトが破られると思っていなかった飛鳥は目を見開く。その隙をルイオスは見逃さない。ギフトカードから取り出した金色の半月形の鎌を取り出し、飛鳥へと刃を奔らせる。目前に迫った死に、飛鳥は思わず目をギュッとつむり―――
「
金属が衝突する様な甲高い音が鳴り響く。飛鳥が目を開けると、ルイオスと飛鳥の間にハクノが割り込んでいた。ハクノは左手から光の壁を出し、ルイオスの鎌は壁に完全に阻まれていた。
「おまえ―――!」
「ええい! 止めんか小童ども! 話し合いで解決出来ぬのなら外に放り出すぞ!」
ルイオスが激昂してさらに武器を振るおうとするが、白夜叉の叱責が飛んだ。舌打ちしながらもルイオスは武器を収める。
「………言っておきますが、先に手を出したのはあの女ですからね」
「ええ、分かってます。これで今夜の一件はお互いに不問としましょう。………先程のお話ですが、少しだけお時間を下さい」
「「黒ウサギ!?」」
返事に驚くハクノと飛鳥。しかし黒ウサギは二人と目を合わせず、ウサ耳を萎れさせていた。その様子にルイオスはヒュウと口笛を吹きながら応じた。
「オッケーオッケー。こっちも取引のギリギリの期限………一週間先まで待ってあげる。僕の物になる決心が着いたら、いつでも来なよ」
「………失礼します」
「待ちなさい、黒ウサギ!」
足早に立ち去る黒ウサギの背を飛鳥は追いかける。ハクノは一瞬、白夜叉と話すべきか躊躇したが、とにかく飛鳥達の後を追う為に退室した。
「おい、あんたが“ペルセウス”のリーダーか?」
「だったら何だ?」
ただ一人残った十六夜はルイオスを値踏みする様な不躾な目で見て、やがて深い溜息をついた。
「名前負けし過ぎ。期待した俺が間違いだったわ」
「………今なら安い挑発でも買うぜ?」
顔を真っ赤にしながらもルイオスはギフトカードを握りしめる。しかし十六夜は片眉だけ上げ、興味を無くした様に立ち去った。
・テオドロス=ペルセウス
オリキャラ。ルイオスの父親であり、“ペルセウス”の先代リーダー。故人。
酒と女にだらしなかったが、白夜叉も一目置く様な人物だった。
・ルイオス
原作と違って、コンプレックスが高くなっている。