月から聖杯戦争のマスターが来るそうですよ?   作:sahala

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 全くもって話が前に進まないです。それでもこのSSの投稿はsahalaの数少ない娯楽になっているので、自己満足なSSでも良ければ読んでいただけると幸いです。


第十六話『Téwodros』

 “ノーネーム”本拠の応接室。

 生活苦の為にコミュニティが隆盛だった頃に飾られていた豪奢な調度品を売り払い、最低限の家具だけとなった殺風景な部屋にハクノ達は集まっていた。

 

「ふむ………お世辞にも上質とは言えんが、悪くはない」

 

 出されたハーブティーにルキウスは口をつける。カップの取手を摘む様にしてお茶を飲む姿は一枚の絵画の様に気品に溢れ、殺風景な応接室はルキウスがいるだけでまるで玉座の間にいるかの様に煌びやかな印象を与えていた。

 

「あの、そろそろお話を聞かせて貰ってもよろしいでしょうか?」

 

  緊張感を隠せないながらも“ノーネーム”の当主としてジンがルキウスに応対する。ルキウスの王気(オーラ)に気圧されながらもジンはまっすぐと相手を見た。

 

「まずは御礼を言わせて下さい。僕たちの客分であるハクノさんの窮地を救っていただき、ありがとうございました」

「なに、余からすればマスターを守っただけのこと。礼は不要である」

「………それはつまり、貴方はハクノさんに隷属している。そう認識してよろしいのですね?」

「そんな事を疑っていたのか? マスターのギフトカードを見るが良い。そこに余の名があろう」

 

 ハクノは自分のギフトカードを取り出した。相変わらず表記がおかしいギフトネームの下に、『薔薇の神帝』というギフトネームが新たに加わっていた。

 

「これが………。でも、俺は契約を結んだ覚えなんて無い筈だけど……」

「………。そなたは覚えていないだろうがな。遥かな昔、余はそなたと契約を結んでいた」

 

 自身の記憶が無い為に自信が無さそうに言うハクノ。ルキウスは一瞬だけ複雑な顔になり、すぐに悠然とした表情に戻った。

 

「その契約は余が神霊として祭り上げられても尚変わらぬ。それだけの事だ」

「―――という事は、あんたはキシナミが記憶を失くす前の事を知っているという事だよな? ()()()()()()?」

 

 事の成り行きを黙って見ていた十六夜が挑発的に笑いながら、ルキウスを問いかける。

 

「ロ、ローマ皇帝ですか?」

「おいおい、それくらいは一目瞭然だろ」

 

 驚く黒ウサギに、十六夜は呆れながらも解説する。

 

「ルキウスが乗っていた四頭戦車(クアドリガ)。これは勝利の女神ヴィクトーリアやペメといった女神や太陽神のアポロンやヘリオス、ソルといった神々が騎乗する姿がよく描かれる。同時に、古代ローマ帝国では主力だった兵器だ。炎を纏った天馬が戦車を牽いてる事から太陽神の加護があるのは一目瞭然だ」

 

 ビシッとルキウスを指差す十六夜。

 

「太陽神ソルは歴代ローマ皇帝達の守護神だ。ついでに臆面もなく自分を()と名乗る胆力。アンタが歴代ローマ皇帝の一人だと推察するのは容易い」

 

 スラスラと素性を言い当てられ、ルキウスは———―涼しい顔だった。

 

「———―それで? 余が歴代皇帝の誰か、分かったか?」

「いいや。それはさっぱりだ」

 

 ルキウスの指摘に十六夜はあっさりと認めた。

 

「黒ウサギから聞いたが、神格保持者は自分の名前を偽ると霊格を落とすそうだな。だったらルキウスというのはお前の名前に最も近いものなんだろう。だが、()()()()()()。そもそもルキウスという名前のローマ皇帝も複数いるくらいだしな」

 

 五大賢帝の一人マルクス・アウレリウスと共同皇帝だったルキウス・ウェルス。

 セウェルス朝の開祖であるルキウス・セプティミウス・セウェルス。

 分裂した帝国を再び統一した軍人皇帝ルキウス・ドミデウス・アウレリアヌス。

 架空の存在も含めるならアーサー王伝説のルキウス・ティベリウスなど、ルキウスと名のつくローマ皇帝は複数いる。その為に十六夜の知識を持ってしても目の前のルキウスが()()()()()()なのか、断定するには情報が足りなかった。

 

「残るはお前自身に教えて貰うしかないが………お前は、キシナミにどう関係しているんだ?」

 

 核心的な問いに、一同に緊張が走る。中でもハクノは最も緊張していた。ハクノ自身は忘却してしまった過去。その鍵をルキウスが握っているのだ。知らず知らずのうちに膝の上で握った拳の力が強くなる。

————しかし。

 

「………すまぬが、話す事は出来ん」

「何故でしょうか? もしかしてローマ神群に関わりが、」

「否。此度の余はローマ神群のコミュニティとは無関係である」

 

 予想外の言葉に驚く黒ウサギに、ルキウスはきまり悪そうな顔になる。

 

「………今の余には制約(ギアス)がかかっている。これは余が箱庭に降り立った際に好む好まざるを得ずに結ばれたものだ」

「キシナミの素性を話すな、という事が?」

 

 十六夜の問いにルキウスはただ沈黙を通した。だが、その沈黙が何よりの答えだった。

 

「………質問を変えるぞ。お前に制約を課した相手。それはローマ神群のコミュニティか?」

「———否。余の事情はこの世界のローマ神群には与り知らぬ事。我がマスターもまた、ローマ神群とは関わりはない」

「お前もキシナミもローマ神群とは無関係。それなのにソル神が神格を与えたのはどういうわけだ?」

「かの神は余が現界する直前に、余の事情を察した。さすがは真実を見通すと言われたローマの主神よ。そして、こう言ったのだ。“今の私は神殺しの魔王との戦いによって、霊格を大きく削がれた。我等ローマ神群は何か争いがあっても手をこまねいているしかない”」

 

 カチャリとルキウスはカップを置く。ソル神への敬意から厳粛な顔になっていた。

 

「“故に———お前に残された霊格を託す。そうする事がローマの———―ひいては箱庭の未来を繋げるのだ”。そう言い残し、余に神格を与えたのだ」

「まさか、ソル神ほどの方が霊格を明け渡すなんて………。一体、何があったというのですか? ローマ神群の主神がそこまでの決意をなさるなんて、只事ではありません」

 

 ギフトとは自らの魂に刻み込まれたもの。本人への同意が無ければ霊格の譲渡は不可能だ。それを神群の主神が行ったというのだから、黒ウサギの驚きはもっともな物だ。しかし、ルキウスから返ってきたのは沈黙だった。

 

「………だんまりという事は、それも制約に引っかかるという事か」

「なんというか、いまいち要領を得られない話ね」

「………ならばこそ、余は我がマスターとなったキシナミハクノに選択を委ねよう」

 

 飛鳥の胡散臭そうな目にルキウスは神妙な顔でハクノと向き直った。

 

「キシナミハクノ。古き盟約に従い、余はそなたの下に推参した。されど、今の余はそなたが望む情報を渡すことが出来ぬ。これではそなたの信頼を得られぬだろう。だから―――そなたが余を信用できぬと言うならば、余はこのまま去るとしよう。素性の怪しい者を手元に置いておくのは危険であるからな」

 

 ルキウスの宣言にジンと黒ウサギは顔を見合わせる。確かにルキウスの素性をはっきりとしない。しかし、ソル神に神格を授かった実力は本物だ。“ペルセウス”とのギフトゲームを控えている“ノーネーム”からすれば、ルキウスの戦力は手放すのは惜しい。

 

「言っておくが、これはキシナミが決める事だ」

 

 二人の雰囲気を察した十六夜は先に釘を刺した。

 

「ルキウスはキシナミのギフト扱いになるんだろ。そしてキシナミは“ノーネーム”の客分だ。キシナミの持ち物でアレコレ指図する権利は俺達にはない」

 

 で、どうする? と十六夜はハクノを目線を向ける。そして、ハクノは―――。

 

 ***

 

 ―――“ペルセウス”本拠。

 

 壮大なギリシャ風の神殿を思わせる白亜の宮殿。その中庭で磨き上げられた大理石の様な柱に寄りかかりながら、“ペルセウス”の紋章を付けた二人の兵士が談笑していた。

 

「―――そういえば、聞いたか? 例の“名無し”共。どうやら“ペルセウス”の挑戦権を得たそうだぞ」

「はあ!? マジかよ! グライアイとクラーケンは“名無し”に負けるほど弱かったのか?」

「あの“名無し”共はどういうわけか階層支配者(フロアマスター)の白夜叉のお気に入りだからな。何か裏から手を回したと専らの噂だ」

「ハッ、羨ましい事で。階層支配者様の腰巾着ならやりたい放題です、ってか」

 

 手に持つ槍をやる気無さ気に杖にしながら、二人は白夜叉本人が聞けば不快になりそうな内容で会話の花を咲かせていた。彼ら二人をよくよく見れば、鎧や武器は丁寧に手入れしてないのか灯りに燻んだ様な光を反射し、コミュニティの誇りとも言える“ペルセウス”の紋章も色褪せて手入れを怠っている事が見て取れた。

 

「てかさ、ウチのリーダーヤバくね? これで階層支配者お気に入りの“名無し”とやり合うわけなんだろ?」

「なんだ怖いのか?」

「違ぇよ。たかが“名無し”に五桁のコミュニティが対等に戦うとか、ウチも堕ちたよな」

「まあ、確かに………。テオドロス様がリーダーの時はこんな不手際は無かったな」

「そうそう、思い出した。リーダーは箝口令を敷いたみたいだけど、上層のギリシャ神群系のコミュニティ。もうウチとは取引しなくていいって言って来たらしいぜ」

「噂には聞いていたが本当だったのか………。これでは苦心して上層に認められていたテオドロス様が浮かばれまい」

「先代が凄すぎたんだよ。今のリーダーは所詮親の七光り———」

 

「随分と楽しそうな話をしているな」

 

 柱の影から二人よりも豪華な装飾を付けた甲冑姿の男が出て来た。

 

「な、騎士団長(ナイトリーダー)!」

 

 自分達の上司の登場に兵士二人は慌てて姿勢を正す。騎士団長と呼ばれた男は肩を怒らせながら二人をジロリと睨め付けた。

 

「ところで貴様等はコミュニティの巡回を命じられた筈だが、何故こんな所で油を売っている?」

「それは、その………」

「罰として貴様等の次の食事は水のみとする。分かったら———さっさと仕事に戻れ、この馬鹿者供がっ!!」

「は、はっ!!」

 

兵士二人は大慌てでその場から立ち去った。走り去る彼等二人の背中を見ながら、騎士団長は大きく溜息をついた。

 

「………騎士達の質も随分と落ちたな」

 

 どこか哀しそうに肩を落としながら、騎士団長も中庭から立ち去ろうとし———視界の端に高く積まれた紙束が見えた。その紙束からは痩せた手足が飛び出していた。

 

「これは執事長殿。大変でしょう、私がお持ちしましょう」

「ああ、騎士団長。これはご丁寧にどうも」

 

 紙束の正体は腰の曲がった老爺だった。白髪が後退し、寂しくなった頭が正面から見えない程の紙束をフラフラと歩きながら抱えていたのだ。

 

「それで、この書類はどちらに? それにしても凄い量ですな」

「私の執務室にお願いいたします。これは全部、他コミュニティへ申し送りする書類ですよ」

 

 書類の束を受け取りながら聞いた答えに、騎士団長は渋い顔になる。よくよく書類を見れば、結構前の日付に送られた書類もある。そして、その全てがコミュニティのリーダーの確認印が必要な物ばかりだ。

 

「………これをルイオス様にはお見せしましたか?」

「もちろん。しかしルイオス様は、その………どうやらお忙しい様なので。私の裁量でどうにかなる物は、こちらで処理しようかと」

「………執事長殿。失礼だが、貴方が何でも処理されてはルイオス様の為にならない。量が膨大であろうと、最低限はルイオス様にお目を通して貰わないといけないのでは?」

「それは分かっています。分かってはいますが………これ以上、付き合いのあるコミュニティをお待たせして顰蹙を買うわけにもいきませんし………」

 

 ふぅ、と二人して大きな溜息が出る。騎士団長も執事長がルイオスを蔑ろにしているわけではないと理解はしている。だからといって、このままルイオス抜きで話を進めてはリーダーであるルイオスはコミュニティの御飾りにしかならない。

 

(テオドロス………お前が生きていればなぁ)

 

 テオドロス=ペルセウス。

 ルイオスの父であり、“ペルセウス”の先代リーダー。そして———英雄ペルセウスの再来と言われるほどの傑物だった。

 神仏にも引けを取らない卓越した戦闘の才能。悪辣なギフトゲームをも突破する明晰な頭脳。それだけの才能がありながら驕る事なく敵味方に対等に接しようとする慈愛の心も持ち合わせていた。

欠点があるとすれば、酒と女に目がない事だがそこはご愛嬌という物だ。女性に対してはプレイボーイながらも紳士的な態度で接するという正に天が一物どころか百物を与えた様な出来過ぎた人間だった。

テオドロスが“ペルセウス"のリーダーの座を継ぐと同時に、ギフトゲームは瞬く間に連戦連勝を重なっていった。彼の武勇は箱庭の東西南北に広く知れ渡り、ついには上層のギリシャ神群のコミュニティもテオドロスを一角の人物として認めた。まさにテオドロスがリーダーの“ペルセウス”は全盛期だった。

———そう、全盛期()()()のだ。

 

(四桁昇格を賭けたギフトゲーム………それに敗れたと聞いた時は、誰もが耳を疑っていたな)

 

 箱庭の四桁は修羅神仏の中でも一握りの者しか辿り着けない領域だ。いかにペルセウスの再来と言われたテオドロスであっても、荷が勝ちすぎていた。その時の傷が元でテオドロスは息を引き取り———コミュニティの栄光に影が差し始めた。

 

「………坊ちゃ、ではなくルイオス様も努力はされているのです」

 

騎士団長の考えている事を察しているのか、執事長はポツリと呟いた。

 

「先代であるお父上が急死され、突然にコミュニティを率いるお立場になりながらもどうにか当主たらんとはしているのです。しかし………今少しのお時間が必要なのです」

「………分かっていますとも」

 

テオドロスの息子であるルイオス。彼がコミュニティのリーダーの後釜に着いたが、残念な事にルイオスにはテオドロスほどの才能は無かった。それが明るみになると英雄の居なくなったコミュニティなど用は無いと言わんばかりに、“ペルセウス”を贔屓にしていたコミュニティは掌を返した。

 最初はルイオスも努力はした。四方に駆け回って他のコミュニティに頭を下げて周り、ギフトゲームにも果敢に挑戦した。しかしながら、ルイオスが足掻けば足掻く程に皆はテオドロスと比較した。

 

 “テオドロスならばもっと早く話が通ったのに”

 “あのギフトゲーム。先代ならば、もっと戦果を挙げられた筈だ”

 “鳶が鷹を産むと言うがね、鷹が産んだのは雀だったというわけか”

 

 そうして英雄である父親と比較され続けられたルイオスが、精神を腐らせるにはあまり時間がかからなかった。まるで形だけでも父親と似せようとして女遊びと深酒をする様になり、最近では新規開拓と称して箱庭の外のコミュニティに人身売買の取引までしようとする有様だ。

 

(テオドロスならば絶対に許可などしなかったな………。いや、こうして比較する事自体が、ルイオス様には苦痛であろうな)

 

 ルイオスの方針について行けず、“ペルセウス”を離れた旧臣も少なくない。そのおかげで先の様なコミュニティのリーダーに平然と陰口を叩く様な不届き者も簡単に解雇できない程に騎士団も人数が縮小した。そんな悪条件な中、騎士団長と執事長は他の旧臣の様にルイオスを見捨てなかった。騎士団長は先代とは竹馬の友であり、執事長は先々代から務めているのだ。彼等にとってルイオスは主従という関係があるとはいえ、息子や孫同然なのだ。

 

「………執事長。やはりルイオス様にもう一度書類をお見せすべきだと思います。まだ期限を延ばせる物もある筈です」

「それは………しかし、これから例の“ノーネーム”への対策も考えねばなりませんし、やはりあまりお時間を取るわけには………」

「そちらは私の方で処理しますよ。なに、大分顔触れが変わったとはいえ、かつてはテオドロスと共に勇名を馳せた騎士団です。“ノーネーム”の一つや二つくらいどうにかしますとも」

「ううむ、そうですな………」

 

 執事長は少し迷う素振りを見せたが、すぐに大きく頷いた。

 

「やはり、誰が何と言おうとルイオス様が“ペルセウス”のリーダー。ルイオス様自身に裁可を頂くべきですな」

 

そして二人してルイオスの執務室に向かおうとし———。

 

「………………では、取り急ぎルイオス様に渡す書類の選別に入りましょう」

「お手伝いしますよ、執事長殿」

 

 すぐさま二人は踵を返して執事長の執務室へ向かった。

………何故、ルイオスの執務室へすぐに向かわなかったのか。それは全く疑問に思わなかった。

 

 

 

 

 

 

 




 ルキウス

 問題児の設定として、『神格保持者は名前を偽ると霊格が落ちる』というものがありました。しかしここで馬鹿正直に■■と名乗らせるわけにもいかないので、彼女の幼名であるルキウスを名乗っています。sahalaが調べただけでもルキウスと名の付くローマ皇帝は五人以上はおり、ルキウスというのはラテン語で“輝く”という意味もあったので太陽神の神格を貰った彼女の仮名に丁度いいと思いました。

 “ペルセウス”のお家事情

 これは完全にこのSS独自設定。要するにルイオスは偉大な父親と常に比較されてすねているという感じです。

 太陽神ソル

 多分、一人称は私と書いてローマと読む。
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