月から聖杯戦争のマスターが来るそうですよ? 作:sahala
新しく生まれ変わった「月から聖杯戦争の勝者が来るそうですよ?」をぜひご覧ください。よろしくお願いします。
―――かくして、閉幕の鐘は鳴る。
戦争があった。国家や民族が争う戦争ではなく、人と人が争い合って月の王へと至ろうとする戦争があった。
七つの海は踏破され、熾天の玉座への道は今こそ開かれる。月は新たな王を迎え入れた。
されど、月の新たな王―――■■■■は知っていた。自分は所詮は紛い物。故に玉座に着いたと同時に察知され、消去される運命にあるという事を。
「・・・・・・・・・」
それでも■■■■は躊躇わなかった。玉座に着き、異常を察知される前に王としての命令を下す。
まずは白衣の賢者が起こした戦火の火種を消すこと。
次に共に戦ってくれた友人を月から生還させること。
最後に―――二度とこの様な戦争を起こさない為に、月を誰の手にも触れられない様に封印すること。
「――――――」
秒にも満たない刹那、月は新たな王の下した命令を実行する。そして―――月は新たな王が紛い物だと看破し、消去すべく動き出した。
“―――ここまでだな”
王は長いため息と共に、天を仰ぐ。
電子の海の底へ沈みながら、走馬灯の様に今までの戦いに想いを馳せる。
思えば、遠い所まで来たものだ。
戦争の参加者の中で誰よりも弱かったというのに、ついには月の玉座に至るなんて・・・・・・・・・。
だが、それは自分一人の力ではない。支えてくれた友人がいて、共に戦ってくれた従者がいた。だからこそ、自分は最後まで戦えたのだ。
手足の先から光の粒子へと変換されていく。消えた先から感覚が無くなっていく。だが、不思議と恐怖は無かった。
“さようなら、■■―――”
共に戦い、地上へと生還する少女に別れを告げる。そして―――
“さようなら、■■■■■―――”
共に戦い、残される従者に別れを告げる。
そして全身が光の粒子へと変換されていき、――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――■■■■は、光に包まれた。
***
『悩み多し異才を持つ少年少女に告げる。
その才能を試すことを望むならば、
己の家族、友人、財産、世界の全てを捨て、
我らの"箱庭"に来られたし』
「ヤハハハハハハハハハハハハッ!!」
高度5000メートル。目も眩む様な高さから落下しながら、少年―――逆廻十六夜は爆笑していた。
彼が着ているのは普通の学ランであり、パラシュートなどの落下に対する補助道具は一切身に付けていない。普通の人間ならば、このまま地面に激突して無惨な墜死体になるだろう。
そんな絶望的な状況だというのに、十六夜の爆笑は止まらなかった。
「ハハハハハハハハハハハハッ! 何だアレ!? あり得ねえ! あり得ないだろ!?」
すぐ横を見たことも無い怪鳥が通り過ぎていく。その奥には縮尺がおかしくなりそうなくらい巨大なドーム型の建物がある。その更に奥には、世界の果ての様な断崖絶壁が広がっている。
どれも常識には無い、見たことも無い風景に十六夜の乾ききった心が急速に満たされていく。
逆廻十六夜は、今まで自分を取り巻く世界に辟易していた。山河を一撃で砕く身体能力、類い希な明晰な頭脳を持つ彼にとって元の世界は窮屈すぎた。人を、社会を壊さない様に自らに枷を嵌めて生きてきたのだ。ショベルカーに乗りながらも、周りの幼児が怪我しない様に砂遊びする様な生活は十六夜の心を腐らせていくには十分だった。
しかし、それはもう昔の事だ。
養母の遺言書に導かれたこの世界は、きっと十六夜を退屈させる事はない。もう退屈なんてサヨナラだ。自分の全力を出せる世界が、いま目の前に広がっている―――!
「さようなら、マイ・ワールド! こんにちは、ニュー・ワールド! ここが今日から俺の新世か、ゴバッ!?」
突然、水の膜の様な物体を叩きつけられる。大口を開けて爆笑していた十六夜は肺に水を吸い込んでむせた。呼吸困難になりかけている間にも水の膜は次々と現れて十六夜の落下速度を落としていく。落下地点にあった湖に着水する頃には、プールサイドから飛び込んだ程度の衝撃になっていた。
(・・・・・・・・・まずはこんな素敵な方法で呼び出した相手にお礼参りだな)
胸元まで浸かる程度しかない深さの湖から出ながら、十六夜は脳内予定リストにしっかりと刻み込む。
ふと振り向けば、十六夜の他にも二人の少女が湖から上がっていた。
「もう! 信じられない! 手紙を読んだと思ったら、突然空に放り出すなんて!」
「ハ、同感だよクソッタレ。招待した奴はさぞかし礼儀を知らない奴だろうさ」
プリプリと怒りながら岸部に上がる黒いストレートの髪の少女に十六夜は同意しながら、相手を観察する。
白のブラウスに膝下まである黒のスカートという些か古風な服装だが、気品の高さが何気ない仕草からも滲み出ていた。良家の子女だろうか?
「あるいはこれが異世界での挨拶かもな。初対面の相手をずぶ濡れにするのが、この世界なりの歓迎だろうよ」
「・・・・・・・・・そんな礼儀なら、会いたいとは思わない」
視線を向けると、栗色の髪をボブカットにした少女が岸部から上がってくる所だった。ショートパンツにノースリーブのシャツという動きやすさを重視した服装の少女だったが、どことなく表情が乏しい。先程の少女を動だとすると、こちらは静。人見知りをする性格なのか、十六夜達に目を向けずに手に抱いていた三毛猫にかまっていた。
「大丈夫、三毛猫?」
「ニャア・・・・・・・・・」
「それにしても、ここは一体どこなのかしら?」
「さて、ね。世界の果てらしきものは見えたから大亀の背中だったり―――」
ザッパアアァァンッ!! と派手な水しぶきが十六夜の言葉を遮った。見れば湖に新たな水柱が上がっていた。
「まったく、千客万来だな」
この湖が何らかの出入り口になっているのか? と呆れながら、十六夜は落ちてきた人間を観察する。新たに落ちてきた人間は湖に浮かんだまま、ピクリとも動かず―――。
「って、オイオイ・・・・・・・・・」
さすがの十六夜にも緊張が走る。新たに落ちてきた人間は全く動く気配はなく、顔を水につけたまま浮かんでいる。あのままでは窒息死してしまうだろう。
自分の異世界生活のスタートで誰かが溺死体になる様を眺めているなんて幸先が悪い。着ていた学ランの上着を手早く脱ぐと、十六夜は再び湖へと飛び込んだ。
「おいコラ。このまま魚の餌になるつもりか?」
水死体になりかけていた相手を水面から引き起こし、十六夜は岸部に戻った。引き上げられたのは、自分と同年齢くらいの少年だった。ベージュ色の学生服を着た少年は目を閉じたまま、十六夜の呼びかけに答えなかった。十六夜は少年の意識を覚醒させる為に頬を軽く叩く。
「………! グッ、ゲホッゲホッゲホッ!!」
「OK、落ち着け。まずは深呼吸だ」
水を吐き出しながら目覚めた少年を介抱していると、黒髪の少女が安堵の溜め息をついた。
「まったく・・・・・・・・・変な手紙で呼び出された挙げ句に死にかけるなんて、貴方も災難ね。招待状の送り主は人を何だと思っているのかしら?」
「・・・・・・・・・手紙・・・・・・・・・?」
ようやく呼吸が落ち着いてきた少年は、黒髪の少女の言葉に首を傾げる。
「私も変な手紙を受け取ったと思ったら湖に投げ出されたけど、君は違うの?」
ボブカットの少女は少年を見ながら首を傾げる。少年は力なく首を振った。
「・・・・・・・・・分からない。何のことなのか、全然分からない。それに・・・・・・・・・ここはどこなんだ?」
コイツだけ違う理由で呼ばれたのか? と十六夜は訝しんでいたが、少年の次の一言に思考を止めざるを得なかった。
「俺は・・・・・・・・・誰なんだ?」
***
(さて・・・・・・・・・どんな方達が召喚されたのやら?)
十六夜達が落下した湖へと駆けながら、ウサギ耳の少女―――黒ウサギは、まだ見ぬ召喚者に期待を寄せていた。
この黒ウサギこそが十六夜達を箱庭へ召喚した張本人だった。とある退っ引きならない理由から、彼女は十六夜達の様な異能を持つ人間を欲していたのだ。
(あの御方の話では三人とも人類最高峰のギフトを持っているとの事ですが・・・・・・・・・)
やがて黒ウサギの目に湖が見える距離まで近付いた。黒ウサギは速度を抑え、コッソリと湖の周りに生えている林へと入る。会話の主導権を得るためにも、最初のインパクトが重要だ。何よりも、この世界は神魔の遊戯場である“箱庭”。召喚したホストとして、盛り上がる演出で登場しようと息を潜めてタイミングを計り―――。
(あれ? 気配が四人?)
黒ウサギのピンと立ったウサ耳が、自分達が召喚した三人以外の気配を捕らえた。
(おかしいですね? 招待状を送ったのは、確かに三通のはずでしたが・・・・・・・・・)
頭にクエスチョンマークを浮かべながら、黒ウサギは茂みからコッソリと湖の方を伺う。見れば、金髪の少年が誰かを湖から引き上げて――――
「え・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」
ドクン、と黒ウサギの鼓動が跳ね上がる。隠れている事も忘れて間の抜けた声が口から漏れる。
ベージュ色の詰め襟。少し茶色がかった髪。体型は痩せ過ぎでもなければ太り過ぎでもなく、顔立ちは至って普通。唯一、気になる所は左手の薬指に金の指輪を嵌めているくらい。街中で会えば、気にも留めずにすれ違う様な少年が湖から引き上げられていた。
しかし、黒ウサギの―――月の兎の本能が、ある名前を口に上らせた。
「
リメイク版の変更点
主人公が■■■■に。招待状は貰っていない。とある女王は気に入らないかもしれないけど、それは後々の展開で。