月から聖杯戦争のマスターが来るそうですよ?   作:sahala

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作者より頭の良いキャラは書けないと痛感しています。十六夜の考察は原作の十六夜の頭脳と比べると穴だらけだと思いますが、ご容赦ください。というか十六夜は書くのが本当に難しいです。


第十九話『Consideration & Lonly leader』

カタカタ、とキーを叩く音が響く。ハクノは複数の画面を写し出し、その一つの画面に出てる地図を見ながら休む事なく指を滑らせていた。

 

「右150メートル先の通路から敵5人が接近。そこの通路をロックするよ」

 

宣言と同時に、バタンと扉が閉まる音が聞こえた。同時に地図上の通路に通行止めを示す様な赤い線が引かれる。別の画面にはその通路の様子が映し出されており、突然閉まった扉に驚き戸惑う“ペルセウス”の騎士達がいた。別の画面ではハクノ達のいる階層に上がって来た騎士達が写された。

 

「背後から接近中。この先のT字路を左に曲がろう。そこでトラップを仕掛けるよ」

「わ、分かりました!」

 

ジン達と移動すると同時にハクノの左手が動く。手が床に向けられると同時に、電気を発する音と共に魔法陣の様な図形が現れる。そして床に吸い込まれる様に消えた。

 

「………こんな隠し玉があったなんてね」

 

走りながらも澱みなくタイピングするハクノに耀は感心してため息をつく。

 

「飛鳥から聞いた時は半信半疑だったけど、そういえばハクノは遠くの相手でもモニターに出せるんだっけ? というか、妨害とか色々出来るあたり結構万能………十六夜?」

 

耀は十六夜に声をかける。十六夜は沢山の画面を見ながらキーを叩くハクノをじっと見ていた。

 

「どうかした?」

「ん? ああ、キシナミの正体がちょっと気になってな………」

 

今も遠隔操作でトラップを仕掛けているハクノを見ながら、十六夜は考え込む。

 

「先読み、遠見、治療、敵コミュニティの防衛システムの乗っ取り………こうも色々と出来るのに自分の記憶がないとかおかしすぎだろう」

「………十六夜はハクノが嘘をついてると思ってる?」

「まさか。あいつに嘘を貫き通す程の器用さは無えよ」

 

そう言いながらも、十六夜は別の事を考えていた。

 

(奴のギフトの出所が何なのか、なんとなく分かりそうな気がするが………)

 

十六夜とて、“ペルセウス”のギフトゲーム開始まで無為な時間を過ごしていたわけではない。“ノーネーム”の書庫を漁り、ペルセウスの神話からルイオスが頼みとするギフトの正体、それに付随する箱庭の星空の秘密などに迫っていた。そして、書庫の中で一冊の手書きのレポートを見つけていた。

 

(あのレポートによれば、ギフトは本来人類史を正しく存続させる為に修羅神仏の類いが与え、“歴史の転換期”に合わせて顕現すると書かれていたな)

 

著者は不明だったが、そのレポートは箱庭の世界を解明しようとする内容が書かれていた。お陰で今の十六夜は異世界組の中で一番箱庭の事を理解できていると言える。そしてレポートと一緒に置かれていた大量の医学書や電子工学の技術書から、十六夜はハクノの力に見立てを立てていた。

 

「春日部。お前の元いた世界で、ああいう技術はあったか?」

 

宙に浮いた光るモニターやキーボードを操作しているハクノを指差す十六夜。耀は少し考えてから話し出した。

 

拡張現実(AR)デバイスで似た事は出来たと思うけど………。でも、あそこまで万能じゃなかった筈。傷の治療だって、回復魔法みたいな物は無かった」

「成る程な………」

 

拡張現実というのは人が知覚した現実環境をコンピュータで情報を拡張して映す技術だ。十六夜の元いた世界でも研究されており、スマートフォンのゲームにも使われている程だ。もっとも、ハクノの様にデバイスを使わないで情報を表示したりは出来ない。異世界の技術だからと言えばそこまでだが、ハクノの技術は十六夜の時代よりも未来の物と見て良いだろう。

 

(その技術体系を示すギフトがキシナミのギフトカードに書かれていた霊子魔術師(クォンタム・ウィザード)だな。言葉だけを見るなら、さしずめ量子コンピュータを自在に操るウィザード級ハッカーという所だが………)

 

今現在も研究が進められている量子コンピュータ。完成すれば、従来のコンピュータを遥かに上回る計算能力を有すると言われる。ギフトを使っている時に見せるハクノの情報処理能力は既存のコンピュータでは遠く及ばない。

 

(デバイスはおそらく………アレか)

 

十六夜はハクノの指先に注目する。ハクノ自身は無意識でやっている様だが、先程から必ず指輪が嵌っている左手を向けて魔術をかけている。少なくとも左薬指の指輪が魔術の発生源と見て良いだろう。

 

(これらの事を纏めると、キシナミは未来の世界では量子コンピュータを自在に操っていたプログラマーないしハッカーだった、と推測できる。だが………)

 

だが、それ以上の事が分からない。キシナミハクノにはまだ名前の分からないギフトがある。それにハクノが超A級のプログラマーやハッカーだったとしても、そこからローマ神群の主神から神格を受けたルキウス や白夜叉から月神に関係があるかもしれないと言われた“月の★王”というギフトにどう繋がるのか、情報が足りなすぎる。

 

(現段階だと不明だらけだが、発想を飛躍させなきゃ分からないかもな)

 

最奥へと繋がる最後の扉の術式を解除(ハッキング)したハクノを横目で見ながら、十六夜は思考する。

 

(例えば———遠い未来では月面都市が作られ、その都市システムを構築したのがキシナミだった、とかな)

 

***

 

———時間は少し遡る。

 

白亜の宮殿の最奥部。騎士達の練兵場とは違い、ギフトゲームなどの大々的なイベントの際に使われる円形競技場(コロッセウム)にルイオスはいた。彼は観覧席の中でもコミュニティのリーダーや賓客が座る豪奢な席に着き、傍らには物言わぬ石像と化したレティシアが見せしめの様に置かれていた。

 

「ちっ、使えない奴等だ」

 

ルイオスの目の前には古めかしい鏡が置かれており、その鏡にはコミュニティ内部の様子が映し出されていた。今もハクノがロックした扉を必死に破ろうとしている騎士達の姿が見えていた。

 

「普段は僕に陰口を叩いているくせに“名無し”を一人も止められないのか。本当に使えないクズばかりで頭にくる」

 

「奴等なりに精一杯やってるとは思うけどな」

 

突然、背後から聞こえた声にルイオスが振り向く。そこにはいつの間にいたのか、芳香のキツい煙を煙管からゆらゆらと立ち昇らせたクロウリーがいた。

 

「っ、お前か。どうやって入って———いや、僕の部屋に入れるくらいだ。今更な話だな」

「おや? 今度は慌てないんだな。驚く顔が見たかったのに」

「ふん。これから“名無し”共と戦うんだ。お前の相手をしてる暇は無い」

 

ニヤニヤと笑うクロウリーにルイオスは眉間に皺を寄せながら鼻を鳴らす。しかしクロウリーはまるで旧来の友人の様にルイオスの肩に手を置く。

 

「そう邪険にするなって。一応、俺はお前にギフトを授けた恩人だぜ? もう少し愛想良くしてバチは当たらないと思うが?」

「恩人? 言っておくけど、ギフトの事に関して礼を言う気は無いからな。お前は“名無し”と戦う奴が欲しかっただけだろ」

 

手を払い除け、クロウリーを睨むルイオス。

 

「僕とお前は利用し合うだけの関係だ。ビジネスの相手にそこまで愛想良くする気は無い」

「………そこまで分かっていて、何で俺の話に乗ったんだ?」

「このギフトゲーム、負けたら終わりなのは確かだ。絶対に僕は負けるわけにいかない。その為なら、悪魔とだって手を組んでやるさ」

 

もしもルイオスが負ければ、“名無し”に負けたコミュニティとして“ペルセウス”への信頼は一気に零となるだろう。ただでさえルイオスがリーダーとなってからの“ペルセウス”は凋落の一途を辿っているのだ。下手をすればコミュニティの解散も有り得る。

 

(それにこのゲームの報酬も明確に決まって無いからな。“ノーネーム”が吸血鬼含めて全財産寄越せ、と言ってきても断れないって気付いているのかね?)

 

もちろんクロウリーはその事を指摘する気は無い。そもそもそんな善人ならば、“世界で最も邪悪な人間”と記録されていない。しかし、ルイオスは別の未来を思い浮かべている様だ。

 

「このギフトで僕は勝つ為の力を手に入れたんだ。僕が勝ったら、“名無し”共は全員奴隷にしてやる。男は死ぬまで肉体労働させて、女は兵士達の———」

「ああ、はいはい。皮算用は実際に獲ってから考えろよ」

 

聞いていてさほど面白くもなさそうな未来図をクロウリーは遮った。しかしルイオスは本気でゲームに挑む様だ。服装もいつもの伊達男ぶった格好から鏡の様に磨き上げられた鎧姿になっており、さらには騎士達が持っている物とは遥かに性能が上回るハデスの兜のオリジナルを被っている。何より———。

 

「ちゃんとギフトが馴染んでいるみたいだな。良かったじゃないか」

 

以前、会った時よりもルイオスの魔力は高まっていた。そこにいるだけで肌をビリビリと震わせる様な圧力がルイオスから感じられていた。

 

「僕は“ペルセウス”のリーダーなんだ。◾️◾️であっても僕が扱えない筈があるか」

 

クロウリーが初めて会った時とはまるで別人の様にルイオスは覇気を伴っていた。だが———。

 

「ああ、そうだ。僕は特別な存在なんだ。親父を超える様な大きな存在なんだ。この力があれば、もう僕の事を侮る奴なんて———」

 

自分の手を握り締めながらルイオスは呟く。側にいるクロウリーの事も眼中に無い様だ。

 

「………まあ、お前にくれてやった物だから好きに使えよ」

 

自分に酔いしれるルイオスにつまらなそうな視線を向けながら、クロウリーはポケット灰皿に煙管の吸いカスを入れる。

 

「でも、ちゃんと忠告は守れよ? 何度も言うが、絶対に———」

「分かっている、いい加減にしつこいな」

 

煩しそうにクロウリーの言葉を遮るルイオス。

 

「僕は絶対に失敗なんかしない。お前の望み通りに“名無し”共を倒してやるから指を咥えて大人しく見ていろ」

「………そうかい。じゃあ、吉報を待ってるぜ」

 

くるりと背を向けてクロウリーは立ち去る。そして、そっと溜息をついた。

 

「俺にしては珍しく善意の忠告だったんだがなあ………」

 

 

 

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