月から聖杯戦争のマスターが来るそうですよ?   作:sahala

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 BOX周回を経て、再び戻りました。遅くなってすみません。
 聖杯戦線はコルデーちゃんがひたすらマスターMをチクチク刺してました。


第二十二話『First round』

 ルイオスが十六夜相手に優勢に立ち回っている頃、ルキウスもまた熱戦を繰り広げていた。

 

『AAAaaaaaaahhhhh!』

 

 耳障りな叫びを上げながらアルゴールが豪腕を振るう。一般人には一条の線にしか見えない様な速度で、鞭の様にしなりながらルキウスへと襲い掛かる。

 ルキウスは大剣でガードするが、一際小柄な彼女とアルゴールとでは体格差があり過ぎた。後ろへ一歩僅かに後退した。

 

『AAAhhhH、raahhh!』

「ぬ、ぅ……!」

 

 二撃、三撃、四撃……衝撃波と共にアルゴールの腕が唸りを上げながらルキウスへと振るわれる。その全てを剣で受け止めながら、ルキウス は少しずつ後退させられていく。

 

『GEEeyyyyaaaAAA!』

 

 大振りな一撃がルキウスを襲う。地面ごと陥没させる勢いで叩きつけられた拳は咄嗟に身を捻ったルキウスによって空振りに終わったが、彼女の足に蛇の胴体が絡み付いた。

 

「何!?」

 

 地面から突然現れた蛇達は、一重二重に増えてあっという間にルキウスの全身に絡みつく。

 これぞアルゴールに石化の邪眼に次ぐもう一つの力。悪魔化のギフトを与えて、任意の物を怪物に変える力だ。

 雁字搦めになったルキウスに、彼女の胴回りよりも大きな蛇が現れて鎌首を上げる。

 

「ルキウス!」

 

 ハクノが叫ぶと同時に大蛇がルキウスを丸呑みにした。競技場の誰もが息を呑み、十六夜を相手取っていたルイオスは姿を消しながら勝利の確信で拳をぐっと握りしめ———途端、大蛇は爆炎と共に四散した。

 

「「「「!?」」」」

 

 天をも焦がす様な火柱が上がり、辺りを昼間の様に照らしながら彼女の声が響く。

 

「————ふむ。堕ちた星霊と聞いていたが………」

 

 剣から、そして全身から紅炎をオーラの様に纏いながら、ルキウスは悠然と火柱から進み出た。

 

「やはり本調子では無いか。些か期待外れである」

 

 金髪が陽光に反射して黄金の様に輝く。眉根を寄せて溜息をつくだけでも、まるで高尚な絵画の様に美しかった。

 

「何をしている! アルゴール!」

 

 ルキウスに思わず見惚れていたハクノの意識をルイオスの声が引き戻す。虚空から癇癪が爆発する様な声がアルゴールに降り注いだ。

 

「お前は僕の星霊だぞ! さっさとそのクズ共を殺せ!」

『A、aaah、GAAAaaah!!』

 

 自分の攻撃が効いてない様子に戸惑うかの様に止まっていたアルゴールが再び動き出す。先程の様に豪腕が唸りを上げてルキウスへと襲い掛かる。ルキウスは爆炎を纏った剣を振り翳して応戦する。次の瞬間———爆炎と共にアルゴールの手が焼け爛れた。

 

『Ga、GEYa!?』

「ハァァァァッ!!」

 

 続いて二閃、三閃とルキウスの剣が振るわれる。先程よりも威力も速度も段違いとなった剣閃を前にアルゴールは対応しきれない。

 魔力放出(炎)。

 武器や肉体に魔力を帯びさせ、ジェット噴射の様に放出させて瞬間的に能力を向上させるギフト(スキル)。ルキウスは太陽神ソルから神格を授かった事で、このギフトが開花していた。本気を出した彼女の一撃は小規模な太陽面爆発に等しい威力で相手を斬り刻んでいく———!

 

「ア、アルゴール! 何をしている!? すぐにそいつを、」

「そらよっ、と!」

 

 姿に消しているのにも関わらず、迂闊に大声で指示を出すルイオス。声がする方向へ十六夜は地面に落ちていた石を第三宇宙速度で投球した。舌打ちしながら、回避に専念するルイオス。その隙にアルゴールはさらに追い詰められてらいく。

 

『RAaaaaaah!!』

 

 呪いの歌を奏でる様にアルゴールが不協和音を響かせる。同時にルキウスの足元の地面が再び怪物化し、大蛇の群れとなって足首に食いつこうとする。

 

「ふっ!」

 

 足元に力を込めるルキウス。それだけで太陽の熱線が放出され、大蛇達は一瞬で消炭となって消え失せる。そして次の瞬間、アルゴールへと肉薄する。

 

『!?』

 

 足元の魔力放出だけで瞬間移動さながらに距離を詰めたルキウスに、アルゴールの生存本能が警鐘を鳴らした。彼女はルイオスの命令を聞く前に石化の邪眼を使おうとする。だが、それより早くルキウスの剣が彼女の眼を横一文字に斬り裂いた。

 

『GEYAAAaaaHHH!?』

「まだまだ征くぞ! “喝采は万雷の如く(パリテーヌ・ブラウセルン)”!」

 

 袈裟斬り、横薙ぎ、正中突きと神速の斬撃がアルゴールの身体に刻まれる。その威力で後ろへ吹き飛ばされるアルゴールの眼に、太陽を象った魔法陣の様な図形が展開させたルキウスが映った———!

 

「これで止めだ! “ 駆け蕩う太陽戦車(アエストゥス・クアドリガ)”!!」

 

 魔法陣から炎の天馬が牽引するチャリオットが現れる。ルキウスは手綱を操り、アルゴールへとチャリオットを突進させる。白野の耳につん裂く様な爆発音が、白野の目に焼ける様な閃光が襲う!

 

「うわっ!?」

「白野!」

 

 闘技場に巻き起こる爆発に白野の身体が飛ばされかけ、それを耀が慌てて受け止める。白野を抱えたまま、耀は地面に伏せた。焼ける様な熱気が二人の肌を粟立たせる。徐々に熱気が収まっていき、二人はまだ閃光に眩んだ目でどうにか闘技場を見た。

 そこには変わり果てたアルゴールの姿があった。

 全身は余す事なく炭化し、天馬や戦車に轢かれた為か手足は全て有り得ない方向に曲がっていた。肉が焼ける嫌な臭いの中、そんな光景すら舞台の一つであるかの様にルキウスは悠然と立っていた。

 

「まあ、ざっとこんなところだな」

 

 ***

 

「そんな、馬鹿な……」

 

 上空で姿を消しているルイオスは力なく呟いた。自分の虎の子である星霊・アルゴール。それが一瞬の内に倒され、今は息絶え絶えといった状態で地面に這いつくばっている。それを理解する事をルイオスの脳は拒んでいた。

 

『おい……おい、アルゴール!! 何をしている、さっさと起き上がれ!』

 

 先程の様に迂闊に声を出して自分の居場所を知らせる愚行を避ける為、ルイオスは念話でピクリとも動かない自分の星霊に呼びかける。

 

『お前は星霊だぞ! “ペルセウス”に……僕に隷属した使い魔(サーヴァント)だろう!? さっさと起きて戦え! 神霊ごときに負けたまま終わるつもりか!?』

 

 霊格として劣る相手に負けた不甲斐ない使い魔(アルゴール)を叱責するルイオス。だが、アルゴールはピクピクと痙攣するだけで起き上がる気配が全く無い。

 実の所、アルゴールが負けたのは単にルイオスが星霊を使うのに未熟だったせいだ。

 ◾️◾️を使って自身の霊格を上げたルイオス。しかし、星霊を扱う程の器にまでは至れていない。結局のところ、今のアルゴールの強さは元のルイオスが使う程度の霊格しか無く、そんな劣化した状態では太陽神ソルから神格を授かったルキウス相手では分が悪過ぎた。その事実にルイオスは気付いていなかった。

 

『っ、もういい! この役立たず!』

 

 癇癪を起こす子供の様にアルゴールへの念話は打ち切る。そして、血走った目を十六夜に向けた。

 

(アルゴールがアテにならないなら僕が———!)

 

 未だに唖然とした顔でルキウスを見ている十六夜へ先程の様に矢を射り、同時に矢を追い越して別方向から斬りかかる。ハデスの兜の効果はまだ健在だ。姿も音もなく、ルイオスの攻撃は十六夜へと迫る。

 

(()った———!)

 

 今までの様に矢を叩き落とした十六夜の隙をついて、ハルペーの刃が十六夜の首へと奔る。ルイオスは絶殺の確信を得て、思わず口元に笑みが浮かぶ。

 その直後。十六夜の拳がルイオスの腹に叩き込まれた。

 

「ガハッ———!?」

 

 ルイオスの身体がくの字に折れ曲がる。いまルイオスが着ている鎧は

父親も使っていた“ペルセウス”で随一の防御を誇るギフトだ。だが、そんな物など知らんと言わんばかりに衝撃がルイオスの背中へと抜けていく。衝撃で兜が弾き飛び、ルイオスは闘技場の壁に背中から叩きつけられた。

 

「グッ、ゲェぇっ」

 

 ルイオス様! と動揺する声が客席から聞こえる。しかし、殴られた衝撃で胃の中を逆流させたルイオスはそれどころでは無かった。

 

「なんだ、まだ全力を出していなかったのか?」

 

 闘技場の端で蹲っているルイオスを余所に、ルキウスは十六夜に声をかけた。

 

「いやに時間をかけていると思っていたが、手加減していたのか?」

「まあ、本命は元・魔王につもりだったからな」

 

 ハア、と十六夜はため息をついた。

 

「アンタがやられたら、次は俺の番と考えていたんだが、予想以上にアンタが強かったからな。お陰で魔王と戦う機会を逃したわ 」

「強欲だな。最初から連戦で魔王と戦う気で力を温存していたのか」

 

(なんだよ、それ………)

 

 ようやく痛みが収まってきたルイオスは愕然とする。つまり、今まで優位に戦えていたと思っていたのは十六夜がアルゴールと戦う為に体力を温存しようとしていたからで、最初から自分は眼中に無かった……?

 

(嘘だ……嘘だ嘘だ、嘘だっ! 僕は強いっ!!)

 

 胸中の不安を掻き消す様にルイオスは突撃する。激情のあまりハデスの兜を被り忘れているが、それでもその速度は並の人間では反応し切れない。振るったハルペーの刃は———ガシッと十六夜にしっかり掴まれた。

 

「っ!?」

「悪いな、ボンボン。ちょっと舐め過ぎていたわ」

 

 振りほどこうとするも、ハルペーは十六夜の手に接着されているかの様に動かない。

 

「詫びと言っては難だが、ちょっと本気出すわ」

 

 次の瞬間、ルイオスの腹に突き上げる様な衝撃が奔る。殴られたのだ、と理解した時にはルイオスの身体は宙高く撃ち出されていた。そして、垂直に飛んでいくルイオスに十六夜は力を込めて跳躍するとあっという間に追いつく———!

 

「せいっ!」

 

 振り下ろされた十六夜の拳がルイオスの顔面を打ち抜く。彼の身体は撃ち出された速度よりも速く、地面へと叩きつけられた。辺り一帯に衝撃と共に土煙が舞う。

 

「がっ……はっ……」

 

 パラパラ、と巻き上がった小石がルイオスに落ちる。闘技場の地面に蜘蛛の巣状の亀裂を作りながら、ルイオスは地面に陥没していた。

 

「ルイオス様っ!」

 

 客席から騎士団長や執事長達の悲鳴が上がる。父親の鎧のお陰でどうにか意識を保てたが、たった二発で深刻なダメージを負っていた。それくらい十六夜の拳は強力だった。

 

「ま……まだ、だ……まだやれる……」

「止めとけよ。もうどう見てもテメエの勝ちは無いだろ」

「まだだ、ハデスの兜……あれを被って、もう一度、」

「だから止めとけ、って。悪いがあの手品はもう通用しねえよ」

 

 がくがくと膝を震わせながら立とうとするルイオスに、十六夜はため息をつきながら声をかける。

 

「確かに音も臭いもしないとステルス性は完璧だが、透明化であって透過してるわけじゃない。だったら、俺は動く時の微妙な空気の揺らぎとかに注意を払えば良い」

「な、何を言って……」

「あとは、攻撃してきたタイミングでカウンターを食らわせればいいだけだ。この際だからはっきり言うけどな、お前……実戦の経験あまり無いだろ」

 

 十六夜の一言にルイオスは頭をガツンと殴られた様な衝撃を受ける。その顔を見て、十六夜は自分の予想が間違いでないと確信した。

 

「やっぱりか。そりゃ姿が見えない高速連撃は凄えけどよ、どうも技の軌道が単純だったわけだ。何度も繰り返されたら嫌でも身体が覚えてくる」

「ち、違……お前の言ってる事に確証があるわけ、」

「じゃあ試してみるか?」

 

 拳を握り直した十六夜の姿を見て、先程の威力を思い出して思わず顔に怯えた色を出してしまうルイオス。その姿を見て、十六夜は深々と溜息をついた。

 

「前よりもパワーアップしたみてえだけど、大方戦いが急遽決まったから身に付けた何らかのギフトといったところか? それなりに強かったけどな、付け焼き刃だからどうしても戦い方に限界が見えてくる」

 

 ルイオスは“ペルセウス”の当主となってから、いくつかのギフトゲームを経て常に父親と比べられる事に嫌気がさしていた。その為、ここ近年はギフトゲームに参加していなかった。◾️◾️の力で確かにルイオスはかつての父親よりも強力な霊格を宿した。しかし、実戦のカンというべき感覚をすっかりと錆び付かせていた。そして今、そのツケを支払う時が来たのだった。

 

「そんな……あれ程の力であっても、あの“名無し”に及ばないと言うのか」

「俺たち、とんでもない相手に喧嘩売ったんじゃ……」

 

 すっかりと戦意喪失してしまったルイオスを見て、“ペルセウス”側の観客席から響めきが起こる。自分達が逆立ちしても勝てない様な戦闘能力を見せていたルイオスが呆気なく倒された姿を見て、騎士達に諦観の念が浮かんでいた。

 

「やっぱり……ルイオス様では無理だったんだ」

 

 騎士達の一人がポツリとそう呟いた。

 

 

 

 

 

 




 区切り良くないけど、今回はここまで。次回はそれなりに早く書き上げられる筈……。
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