月から聖杯戦争のマスターが来るそうですよ? 作:sahala
箱庭の貴族―――黒ウサギと名乗る少女の説明を要約すると、こんな内容だった。
・ここは"箱庭"と呼ばれる世界で、様々な修羅神仏や悪魔、精霊といった存在が跋扈している。
・箱庭ではギフトと呼ばれる特殊な能力を競い合うギフトゲームが存在する。
・ギフトゲームは金品、土地、利権、名誉、人材など様々な物をチップに行われ、勝者は賭けられたチップを全て手に入れられる。
・箱庭にも法はあるが、ギフトゲームを介して行われた取引は適用外となる。なお、ギフトゲームは参加する以上は全て自己責任となる。
・ギフトゲームに参加するには、特定の集団―――“コミュニティ”に加入しなくてはならない。
一通りの説明を済ませた黒ウサギにザビが手を上げた。
「ちょっと良いかな?」
「何でしょうか?」
「この世界の事は大体分かった。ただ・・・・・・」
チラリと同じように説明を聞いていた十六夜達を振り返り、再び黒ウサギと向き直った。
「十六夜達にギフトがあるのは確かだろう。でも、本当に俺にもそんな特別な力があるのか? はっきり言って、実感が湧かないんだ」
「それは・・・・・・」
黒ウサギは困惑した表情で黙り込んでしまう。
逆廻十六夜達には強力なギフト保有者独特の覇気やオーラが確かにある。それは黒ウサギの200年に渡る人生で見てきた実力者達に通じるものだ。
それではザビはというと―――そういったオーラを全く感じさせない。自称記憶喪失の一般人。黒ウサギの経験がそう結論づけている。
(でも・・・・・・この方には月に纏わる何がある。黒ウサギのウサ耳が、そう訴えているのです)
今までの経験則ではなく、月の兎としての本能。それがこの男こそが月を統べる者だ、と囁く。
もしかすると自分の様に月の主権を持っているのか? はたまたどこぞの月神の関係者なのか?
いずれにせよ黒ウサギの直感が目の前の少年を放置してはならない、と告げていた。
「・・・・・・はい、間違いなく。貴方様には強力なギフトが宿っている。月の兎である黒ウサギが、自信をもって断言いたします」
「そ、そうか・・・・・・」
微塵の疑いもない黒ウサギの目にザビは気圧される。そんな事を言われても記憶喪失の自分に黒ウサギが期待している様なギフトが本当にあるのだろうか・・・・・・?
「そうですね・・・・・・。ここは一つ、ギフトゲームをしてみませんか?」
え? と四人が驚いている間に、黒ウサギはサラサラと何処からか取り出した羊皮紙にペンを走らせる。
「この箱庭でギフトゲームとはどういった物か、それを知る為には実際に経験してもらうのが良いでしょう。まあ、軽いお試し版という事でひとつ」
「チュートリアルというわけか。
値踏みする様に不敵に笑う十六夜に、黒ウサギもまた不敵に笑った。
「今回はお試しという事でチップは頂きませんが―――強いて言うなら、皆様のプライドを賭けて貰いましょうか」
ほう……? とザビを除いた三人から闘志が湧き上がる。安っぽい挑発とはいえ、それを流せる程の鷹揚な精神は持ち合わせていない。三者三様に思うところがあるとはいえ、自分の
「では―――こちらをどうぞ♡」
***
『ギフトゲーム:scouting
ゲームマスター:黒ウサギ
プレイヤー:逆廻十六夜、久遠飛鳥、春日部耀、フランシスコ=ザビ
ゲームルール:プレイヤーは用意された52枚のプレイング・カードから一枚引く。
勝利条件:絵札を引く。
敗北条件:絵札以外を引く。
上記のルールを尊重し、ゲームを執り行う事を誓います。
“サウザンドアイズ”印』
(まさかカードゲームとはね………)
手にしたカードを見ながら、ザビはこっそりとため息をついた。
黒ウサギが
(まあ、武力を見せろと言われても勝てる自信なんて無いけど)
単純に考えれば絵札を引く確率は13分の3。およそ23パーセントだ。純粋な運試しとしても、このゲームならザビにも勝てる要素はある。
ふと目を向けると、飛鳥がカードを念入りにチェックしている―――様に見せかけて、裏面を爪で傷をつけていた。別の場所では耀はカードを三毛猫に舐めさせている。何かの目印となるのだろうか?
(カードに細工はするな、と言われてないけど―――いや、)
むしろ、これがギフトゲームを挑む姿勢として正しいだろう。ギフトゲームを挑んでくるのは人外の存在達。そんな相手に勝つ為には知恵を絞り、あらゆる手を尽くす必要がある。人間の常識で考えてはならない。
(それなら俺も手を尽くさないと駄目だな)
自分の甘さに反省し、ザビもカードに印をつけ始めた。
***
数分後、カードに不正がない事を調べ尽くし(ついでに目印をつけた)、ザビ達は黒ウサギにカードを手渡す。
「さて、皆様の準備が整った様なのでゲームを始めさせていただきますが………」
パチン、と黒ウサギが指を鳴らすとザビの目の前にゲームテーブルが現れる。そして―――テーブルの上には真新しいカードセット。
「カードが色々と汚れている様なので新しい物に取り替えますね♪」
「ちょっと待ちなさい! カードを取り替えたら調べた意味が無いじゃない!」
「ふふ~ん♪ 誰もこのカードを使うなんて言ってませんよ~♪」
飛鳥の抗議に黒ウサギはどこ吹く風と言わんばかりだ。
「確かにゲームルールには『カードセットは取り替えない』とは書かれてないけど………こういうのはありなの?」
「ありもあり、大ありです!」
子供の様な主張に呆れた顔をする耀に、黒ウサギは力強く断言する。
「ギフトゲームは神魔の遊戯。ゲームルールを深読みせずに挑む様な愚か者は、ゲームマスターにとってカモに過ぎないのです! とはいえ、こんな手段はほんの序の口。本物のゲームマスターは更に悪辣な手段を使ってくるでしょう。そこで………黒ウサギのコミュニティに来れば、皆様にこの箱庭で生きていく為の知恵を色々と伝授させて、」
「ああ、そうかい」
勧誘に入ろうとした黒ウサギを十六夜は不敵な笑いを崩さずに遮った。
「なあ、黒ウサギ。さっきは素敵な挑発をありがとう」
スッと拳を振り上げ、
「これはホンの―――礼だ!」
バンっ!
拳をテーブルに叩きつけ、衝撃でカードが浮かび上がる。そして半分近くのカードが表になってテーブルに落ちた。
「なっ・・・・・・!?」
「あら、やるじゃない。私はこれね」
「じゃあ、私はこれ」
あんまりな力技に黒ウサギが言葉を失っている間に、飛鳥と耀は表になった絵札を手に取る。
「これもルール違反にはならないよな?」
「うっ・・・・・・、で、でも十六夜さんとザビ様がまだです!」
「おいおい、俺を舐めてもらっちゃ困る」
叩きつけた拳の下にあったカードを黒ウサギに差し出す。そこにはスペードのキングが威厳を込めて黒ウサギを見つめていた。
「偶然じゃねえぞ? 例えばこれは―――」
「クラブのジャック」
十六夜が振り向くと、ザビがテーブルを見つめていた。手に取ったカードは―――ザビの宣言通りクラブの兵士が十六夜を見つめていた。
「………それじゃこれは?」
「ハートのクイーン」
「こっちはどうだ?」
「それはダイヤのキング、こっちはスペードのクイーン」
「じゃあ、この絵札は?」
「それはハートの3。絵札じゃない」
カードを次々と指差し、めくっていく十六夜。それをザビは次々と言い当てていく。
「驚いた。ザビ、ひょっとしてカードを透視していたの?」
「いや、さっき十六夜がカードをばらまいた時に全部見えていたんだ」
「見えたって………あの一瞬で? 全部のカードを?」
耀と飛鳥は驚いてザビを見る。言っている事が本当ならば記憶力と動体視力が人並み外れている。何の才能も無さそうなザビがそれをやってのけるのは、二人にとって意外だった。
、
「とりあえずこれで全員クリアかな?」
「へ……? は、はいっ! 皆様の勝利でございます!」
黒ウサギが驚きながらもゲームの終了を宣言する。だが、どこか嬉しそうな声音だった。
(これは……もしかすると、ザビ様もギフト保持者だったという事でしょうか? いえ、黒ウサギのウサ耳は疑いようがないと言ってましたけど………何にせよ、四人もギフト保持者がコミュニティに入ってもらえるなら………!)
当初の予定だった三人に加えて、予想外の
―――そんな黒ウサギを十六夜は、どこか冷めた目で見つめていた。
リメイク版の変更点
ザビ(仮)の記憶力と動体視力が人並み外れている。この時点では、だから何だ? と言われる程度のギフトですけどね。
書き溜めていた分はこれで無くなったので、次の投稿は少し時間がかかるかも。