月から聖杯戦争のマスターが来るそうですよ?   作:sahala

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中途半端な切れ方ですが、これ以上投稿が遅れるよりはマシなので投稿しました。そして間違えて旧作の方に投稿してしまい、焦りましたとも(苦笑)。


第四話『First battle』

「ああ、もう! どこに行っちゃったんですか、あの御二人は!?」

 

 森林の中をピンク色の影が横切る。音すらも置き去りにする様な速さで黒ウサギは箱庭世界の果てへと続く森林を駆け抜けていた。

 箱庭都市の入り口で黒ウサギはようやく十六夜達がいなくなっていた事に気付いた。飛鳥達から二人が世界の果てに向かったと聞いて、慌てて後を追っている最中だ。

 世界の果てはギフトゲームの為に放し飼いにされている幻獣や下級の神霊の住処となっている。彼等が気紛れでギフトゲームを開催すれば無事には済まないだろう。

 

(十六夜さんはともかく、ザビ様は戦闘に長けている様には見えません! どうか……どうかご無事でいて下さい!)

 

 つい先程、偶然出会った一角獣(ユニコーン)からそれらしき二人がトリトニスの大滝へ向かったという情報を手に入れた。それが事実である事を示すかの様に先程から大河の方向から地響きが鳴り渡り、遠くからでもはっきりと見える程の巨大な水柱が上がっている。明らかに普通のギフトゲームでは有り得ない光景だ。黒ウサギは最悪の事態を覚悟しながら大滝へと走る。

 やがて視界が開けて森を抜けた。そこで―――黒ウサギは信じられない光景を目の当たりにした。

 

 ***

 

 十六夜の目前に水弾が迫る。一つ一つの大きさが十六夜の体の大きさ程度はあり、当たれば人間の体など容易く砕け散るだろう。

 

「右へ五メートル移動! その場で最初の水弾を迎撃!」

「そらよっ!」

 

 後ろから聞こえてきた声の通りに動く。直撃するはずだった水弾はさっきまで十六夜がいた地点で不発に終わる。移動した場所ですぐさま拳を振るう。十六夜に迫っていた水弾は拳の風圧で弾け飛び、弾け飛んだ水滴が散弾銃となって白雪を襲う。

 

『ぐぬう……っ!』

 

 鱗に突き刺さる様に弾ける水滴に顔をしかめながら、白雪は十六夜の足元に間欠泉を出現させようとする。

 

「足元から来る! 後方へ回避!」

「ほい来た!」

 

 不意打ちとして放った攻撃は、十六夜の後方から響いた声に看破される。彼等からすれば死角から繰り出された筈の水流は、誰も捕らえられずにその場で水をまき散らすだけに終わった。

 

『ええい、鬱陶しい!』

 

 苛立った声で白雪は十六夜の後方へと水弾を撃ち出した。轟音と共に森の木々が吹き飛ぶ。そして―――抉れた地面だけが白雪の目に写った。そのすぐ横でザビが体勢を立て直してすぐに森林へと走っていく。

 

『そこか!』

「おおっと! 俺を忘れるなよ!」

 

 白雪の鼻先に第三宇宙速度で投げられた石が迫る。白雪は苦々しく顔を歪めながらも水弾を吐き出して投石の威力を相殺した。

 

『猪口才な!』

 

 すかさず白雪は反撃を加えようとし―――

 

「右から来る! 上空へ跳んだ後、正面を警戒!」

「あいよ!」

 

 蛇身を鞭の様に振りかざした一撃は十六夜に避けられ、それを避ける為に身動きの出来ない空中へ跳躍した愚か者を狙った水弾も十六夜の拳によって防がれた。

 先程からこの繰り返しだ。白雪がどんな攻撃しようとザビに看破され、十六夜にダメージを与えられない。ザビに攻撃しようとすれば十六夜がそれを阻み、その隙にザビは周りの木々に隠れて白雪の視界から消える。時折、十六夜からの反撃をもらい、白雪は徐々に追い詰められていった。

 

(何故……何故、私の攻撃が悉く読まれる!? 奴は未来視のギフト持ちだというのか!?)

 

 霊格も身体能力も自分より遥かに劣る人間に追い詰められているという事実に白雪は焦りながら思考する。だが、焦りのあまり思考が定まらない。時間を経つごとに状況が不利になっていく事を感じながらも白雪は状況を打破する策が思いつかなかった。

 

 ***

 

 白雪が焦る一方で、十六夜は悠然と思考していた。

 十六夜の中で勝敗はもはや見えていた。この水神は十六夜が箱庭に召喚される前に戦った燕尾服の死神より、二段階も三段階も劣る。はっきり言って、十六夜が本気を出せばすぐに片が付く。

 

(ホント、こいつは何なんだか……)

 

 それなのに十六夜は手を抜いて戦いを長引かせていた。理由は今も背後の木々で白雪の攻撃から逃げながら指示を出しているザビの事だ。指示の通りに動くと、まるで予見していたかの様にザビが指定した地点に攻撃が来た。そして攻撃を避けた後に十六夜がいる場所は反撃するのに絶妙な場所だった。そのお陰で十六夜は完封試合さながらに白雪と戦えていた。

 

(俺一人でもこの大蛇を倒すのに問題はないが、ここまで相手に反撃を許さずに完封するのは難しいな)

 

 今の状況を例えるならば、将棋の名人対アマチュアだ。相手の一手に対してノータイムで打たれたくない位置に駒を動かし、一手の反撃も許さない。

 そして―――それをやっているのが、さっきまで記憶喪失で不安そうにしていた少年なのだ。

 

(こんな名軍師ばりの指示が出せるのに記憶喪失って……ホント、面白すぎだろお前!)

 

 今の状況ならどう判断する? 次の一手にはどう返す? この攻撃は? どんな一手を見せてくれるのか?

 すぐに終わらせるなんてもったいない。ザビがどういう試合運び(ゲームメイク)をするのかが気になってしまい、十六夜はついつい手を抜いて戦いを長引かせていた。

 

 ***

 

 十六夜が状況を楽しむ一方、ザビは不思議な感覚に戸惑いながら戦っていた。白雪が放つ攻撃がスローモーションの様にはっきりと見える。どう動けばいいのか、すぐに頭の中に浮かぶ。十六夜をどう動かせばいいのかが手に取る様に分かる。黒ウサギのギフトゲームの時と同じだ。ザビが必要とする情報が、そしてザビが望む結果を手に入れる為にすべき行動が頭の中で即座に答えが出てくる。

 

(何なんだ、この感覚は……?)

 

 足元から迫ってきた間欠泉を事前に察知して回避しながら、ザビは思考する。

 戦いが始まった途端、ザビの頭の中で雷が奔ったかの様に思考が冴え始めた。白雪の次の行動、十六夜の現在の位置、周囲の環境などなど……。あらゆる情報がザビの頭の中に高速で流れていく。それ程の情報量だと普通の人間ならば扱いきれずに混乱するだろう。ところがザビは混乱するどころか、どんどん思考が冴え渡っていく。白雪の次の行動(コマンド)が、今のザビには全て見えていた。

 

(俺は……いったい………?)

 

『なめるな……なめるなよ、小童共ォォォッ!!』

 

 怒り狂った白雪の声が辺りに響き渡る。同時に津波の様な魔力の高まりがザビに感じられた。

 

『貴様らに……貴様ら(人間達)ごときに! この私が敗れては、あの御方に申し訳が立つものか!!』

 

 轟、と音を立てながら白雪の周りに幾つもの水流が立ち上がる。それらはまるで龍の様にに天へと昇り、鉛色の雲を発生させて空を曇天に、そして滝の様な暴風雨へと天候を変えた。同時に白雪の頭上に巨大な水の竜巻が唸りを上げて逆巻く!

 

「っと、さすがに怒らせすぎたか」

 

 十六夜はザビの前に立ちながら、やれやれと首を振った。

 

「ま、それなりに楽しめたから幕引きといこうか。お前は下がって……ザビ?」

 

 ザビは十六夜の声など聞こえていないかの様にその場に立ち尽くした。

 目の前に肌を突き刺す様な雨風が吹き、この辺りの地形を一変しそうな巨大な水の竜巻が自分達に襲い掛かろうとしている。だというのに―――ザビはその光景に強い既視感を感じていた。

 

「まるで―――嵐みたいだ」

 

 ザビの意識がホワイトアウトする。次の瞬間、ザビの目には別の映像が映し出されていた。

 

『野郎共! 時間だよ!』

 

 そこは光も差さない海の底。周りには朽ちた船が転がる亡霊の墓場(サルガッソ)

 その中でひと際巨大で、輝く船に乗った女海賊がザビを見下ろした。

 

『嵐の王! 亡霊の群れ! ■■■■■■■の始まりだ!』

 

 女の宣言と共に船の砲門が開く。女の乗った船だけではない。周りの亡霊船も女に付き従うかの様に、一斉に砲門を開いてザビへと照準を向ける。

 ザビは思わず身を竦め―――目の前に人影が立ちふさがった。

 

「え……?」

 

 ザビは驚いて人影を見た。人影はボンヤリとした輪郭で何なのか判別がつかない。男にも見えるし、女にも見える。だが、何故かザビはその人影を知っている気がした。

 

「君は、誰……?」

 

 人影はザビに背を向けたまま答えなかった。まるでザビを守るかの様に女海賊の船団と対峙していた。その背中を見ていると、ザビの中に安堵感と共に何かが体の中を駆け巡る。

 

(そうか……君がいるから、俺は安心して戦えるのか)

 

 体の中を駆け巡る何かは、血液の様に全身に行き渡り、ザビの手が知らず知らずのうちに持ち上がった。

 

(だったら、俺は……俺がすべきことは―――!)

 

 コンピューターの起動音の様な音と共にザビの目の前にコンソールが浮かび上がる。ホログラム画像の様に浮かび上がったそれに、ザビは迷いなく指を走らせていく。

 

「―――術式(プログラム)起動(アクセス)

 

 目の前の画面にザビのタイピングに連動して、0と1の数字の羅列が高速で流れていく。そして―――!

 

「code―――add_invalid()!」

 

 ザビの力強い宣言と共に光の壁がザビ達の前に現れる! 一秒遅れて、白雪の渾身の攻撃が放たれた!

 轟音。

 水の竜巻は地盤ごと抉りながらザビ達を呑み込む!

 

『オオオオオオオオッ!!』

 

 白雪は唸り声を上げながら水の竜巻を操る。巻き込まれた岩が数秒と経たずにバラバラに砕け散った。

 

『消エロォォォォォォッ!!』

 

 噛み締めた牙が頬肉を切って、口から血が垂れる。だが白雪は構わずに水の竜巻に全ての霊力を注ぎ込んだ。

 一分は経っただろうか。やがて水の竜巻は回転が遅くなり、次第に細くなって消えた。

 

『ハア、ハア……』

 

 白雪は荒くなった呼吸を整える。辺りは水煙が立ち込め、白雪の視界を真っ白に染め上げていた。だが、その破壊力は絶大だ。ザビ達が来る前は木立ちだった岸部は、今は巨人の手で掘り起こしたかの様に抉り取れていた。

 

『ハア、ハア……フン。少しムキになりすぎたな』

 

 今だ水煙が立ち込め、はっきりと見えないザビ達がいた地点に目を向けながら白雪は堂々と言い放つ。

 

『既に消し飛んでいるだろうが、称賛をくれてやろう。私がここまで本気になったのは白夜叉様のギフトゲーム以来だ。ただの人間にしては貴様らは中々やったと言える―――』

 

「ああ、そうかい」

 

 ギョッと白雪は声のした方向に目を向ける。一陣の風が吹いて水煙を飛ばした。そこには、先程の攻撃で抉られた地面と―――ザビ達を取り囲む様に展開された光の壁が見えた。

 

『なっ………!?』

「なら、ついでに覚えておけよ。お前を負かしたのは逆廻十六夜と、フランシスコ=ザビ(仮)ってな」

 

 光の壁が消え、中から十六夜の不敵な笑い顔が出てくる。当然の様に傷はない。それどころか壁に囲まれていた地面だけ竜巻が来なかったかの様に平坦なままだった。そんな奇跡をやってのけたザビは―――

 

「……やっぱり改名しようかな」

 

 真剣に自分の名前に悩んでいた。

 

『馬鹿な! ただの人間が神格を宿した私の一撃を防いだだと!? ありえん!!」

 

 白雪は混乱のまま、もう一度竜巻を作ろうとする。だが、それは大きな隙だった。

 

「ま、中々だったよ。お前」

 

 ドン、と大地を踏みしめる音と共に十六夜の姿が消える。白雪の頭上へと跳躍した十六夜は、拳を振り下ろした。

 落雷の様な轟音が辺りに響く。脳天に隕石の様な衝撃で拳を落とされた白雪は、痛みを感じるより先に意識を地面に叩きつけられた衝撃と共に手放していた。

 

 

 




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次の一手に受ける攻撃を無効化する。
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