花嫁も五人居ていいんじゃない 作:なでしこの犬
◯◯の身体は柔らかい
夢を見ているのだろう。横たわっている。視線の先には天井。見慣れたようで見たことがない。あまり天井なんて意識したことなんてないせいか。
でもそれは、彼女たちの家であるということは直ぐにわかった。夢の中で彼女たちの家が出てくるなんて、よほど気に入ってるとでも言うのか。そんなの認めなくもない。
一人で横たわっている……そう思っていたのに、隣からは健やかな寝息が聞こえる。シャンプーの甘い香りと、すぅすぅと一定のリズム。聞いているこちらまで心地良くなる。
頭上からは太陽の光が差し込んでいた。つまりは、朝ということか。夢の中だとは言え、なかなか趣はある。
意識を隣に戻す。おそらくは五人のうちの誰かなのだろう。ただ夢の中ということもあって、かなり冷静な自分が居る。
普通に考えて、思春期の男女が隣で横たわっているのだ。それはまぁ、色々と考えてしまう。眠っているのならと、思い切って横を向く。パジャマがはだけて大きな胸元が露わになっている。そそるものがあるが、夢であることが少し残念だ。
どうしてこんな夢を見るのだろうか。欲求不満ということなのだろうか。言われてみれば、最近は勉強に勤しみすぎてソチラの方は処理出来ていない。身体がそろそろだぞと促しているのだろうか。
それならば、この特権を活かさないわけにはいかない。夢なのだから、何をしようが誰にもバレはしない。自分でもかなりのクズな発想だと思う。しかし、夢の中ぐらい自由にやらせてほしい。
隣で寝ている彼女。髪は長い。その時点で一花と四葉の可能性は消えた。となれば、二乃、三玖、五月の誰かということになる。
いや、そもそも彼女は五人の中の誰かなのか。寝顔を見ると、見覚えのある顔。中野であることは確かなようだ。しかし、あくまでも夢の中。ハッキリとはわからないのが本音だ。それに、視界も少しボヤけている。まぁ仮に現実だとしても、見破る自信は無いが。
ムクっと起き上がり、彼女の身体を眺める。この時点でとんでもなく変態感が滲み出てるが、夢の中だ。繰り返すように言い聞かせる。それと同時に、彼女は寝返りを打って仰向けになった。ナイスタイミングだ。
その寝顔もまたいいが、何より、視線ははだけた胸元に集中してしまう。俺は意外と胸好きなのかもしれない。
さて、どうするか。
触ってもいいのだろうか。いや、夢の中だと割り切ったではないか。ここは思い切って触ってもいいのではないか。夢の中なのだ。夢の中。
そもそもコイツは誰なんだ。三人のうちの誰かだろうが、分からない上に触るなんて何というか……興奮に欠ける。とんでもないクズ発言だなこれ……。
いや待て。コイツらは五つ子だ。髪型は違えど、容姿は見分けがつかない。それは体型も含めてだ。つまり、触った感触も全員一緒ということではないか。
我ながら天才的だ。この事実に気づくことが出来れば、もう怖いものはない。五つ子のうちの誰かではなく、五つ子のことを愉しめばいいのだ。はいクズですね、分かってます。今だけだ、今だけ。
彼女に体重をかけないように跨って、右手で右胸を優しく触る。柔らかい。え、めっちゃ柔らけぇ…。
女性経験なんて無い。いや、男女交際なんて不必要だと思ってはいたが、一応思春期の男子高校生だ。性欲がないわけでは無い。他の男子に比べれば少ない方かもしれない程度で。
こんな感触は体感したことがない。これまでの貧乏人生を回想しても……マシュマロ? のような柔らかさ。自分で言うのもアレだが、まぁ例えがひどい。
少し力を入れて、キュッと掴んでみる。
「んっ……」と彼女は声を洩らした。おぉ、これが噂の
言っても、俺と彼女たちの関係はただの家庭教師と生徒だ。同い年ではあるが、ただそれだけの関係。ただ彼女たちのルックスは校内でも噂になるほどらしい。特別そんなことを感じたことはないが、周りが言うのだからそうなのだろう。
余った左手で左胸を揉む。「あっ……」と再び声を洩らした。
少し慣れてきたこともあり、遊ぶように彼女の胸を触り続ける。時間を忘れて勉強するような感覚に近かった。勉強と一緒にするものではないが、いかに自分がクズなのかは分かった。
この後はどうすればいいのか。下の方を触ればいいのだろうか。いや、別にルールなんてものはないはずだ。こんなところでウブな自分が情けなく思える。
これは夢なのだから、好き勝手やらせてもらおうか。胸を揉むのを止め、下の方に手を伸ばそうとすると、彼女がパチっと瞼を開けた。
「………へっ?」
おそらく、目が合った。誰だコイツは。まだ視界がボヤけている。身体つきはわかるのに、顔を判別するにはまだ曇った感覚だ。
目を擦っても、ぼんやりとしたまま。さて、これはどうしようか。夢の中だと割り切って、このまま続けさせてもらうか。それとも、普通に声を掛けるか。変なスイッチが入ったこともあって、後者はすぐに消えた。
「ふ、ふ、フータロー………?」
声を掛けられた。勢いの無い声だ。寝起きのせいか。
ただ、そこでようやくある程度的が絞れてきた。というか、おそらくコイツは三玖だ。二乃や五月は俺を下の名前で呼ばない。髪の長さからして、条件に当てはまるのは三玖だけだった。
「な、なにを……」
彼女は何をされているのか、ようやく理解したようだ。そのせいで、少しだけ震えている。怖いのだろう。本当の三玖も、同じような状況ならこのように震えるのだろうか。そう思うと、少し可哀想に思えてきた。
「……マッサージだ」
「ま、マッサージ…?」
「ここをこうすると、身体が楽になるらしい」
夢の中だと言い聞かせていたのに。こんな時でもそうやって言い訳をする自分が途轍もなくダサい。
ここをこうする、とは言ったのは少しでも怪しまれないためだ。「胸を揉むと身体が気持ちよくなる」なんて素直なことは言えなかった。だが、三玖はこういったことに興味はあるのだろうか。何を考えているのか分からないこともあって、イマイチ読めない。
「……どうだ?」
「なんか……変……」
これはこれで中々良い。ここまで良い夢は見たことがない。
勉強ばかりしてきたが、人間とは不思議なものだ。興味深い。このまま夢の中で男になるのだろうか。だとすれば、それはそれで面白かったりする。
互いの体温が上がっていくのがわかる。吐息も熱く、彼女の息が俺の手にかかって、それが凄く色っぽくて。下半身に力がこもっていくのが否が応でも分かった。
本格的に我慢できなくなりそうだ。このまま一気に――――。そう思った時、後ろのドアがノックされる。結構強めだ。
「上杉くん、起きてますか?」
この声は……五月か?
だとすれば、ここは無視するに限る。こんなところで邪魔をされては困る。お預けなんて食らえば、家庭教師の仕事に影響が出るのは目に見えていた。
彼女の呼び掛けを無視して、寝間着のズボンを下げようとすると、タイミングを見計らったかのように五月が再び声を掛けた。
「入りますよー……?」
いや、それは困る。そもそも、鍵はかけられていたか?
振り返ってドアノブを見ると、鍵がかかっていない。マズイ、ここでバレれば夢が終わってしまう。慌てて三玖の上から降りて、ドアを開ける。
「どうした?」
「起きてましたか。あの…三玖知りませんか? 朝起きたら居なくて」
「さ、さあな。図書館にでも行ってるんじゃないか?」
バリバリ俺の後ろに居るんだが。
ここで五月にバレるのは色々と面倒だった。適当に誤魔化すと、「そうですか……」と落ち込んだ様子を見せる。適当に声を掛けるが、納得した素ぶりは見せなかった。
「二乃が朝食を作ってくれてます。上杉くんも食べてください」
「あ、あぁ。後で頂くよ」
朝であることは間違いないらしい。五月は夢の中でもその真面目ぶりを発揮している。少しぐらい砕けても良いと思うが、彼女に限ってそれは無いだろう。
そのままドアを閉めようとすると、下の方から耳に響く声が聞こえた。思わず閉めるのを止めてしまう。五月も視線で降りるように促しているように見えた。
「上杉ー。早くしなさいよ。後片付け面倒なんだから」
「わ、分かった。今すぐ行くよ」
トコトン邪魔をしてくれるな、この姉妹は。
鍵を閉めさえすれば、後は自由に愉しむことが出来るというのに。これまでの癖なのだろうか、彼女たちから急かされるとどうも言うことを聞かないといけない気がして。
男としてもみっともないが、サッサと済ませてしまおう。いつ覚めるかも分からないのだ。
「いただきます」
テーブルには美味しそうな料理が並んでいた。これをあの二乃が作っているというのだから、また面白い。二回目になるが、人間とは不思議なものだ。
席に座ると、味噌汁のいい香りが鼻孔を刺激した。先ほどの三玖の香りは相変わらず鼻の奥に居座っている。これが消えてしまえば、夢から覚めてしまいそうで。慎重に味噌汁を啜ると、舌に強い刺激がした。
「熱っ……」
熱い……。いや待て、今確かに感じた。この味噌汁の熱さを。
それを自覚すると、一気に視界が広がっていく。ぼやけていた視界は、クリアなものに。腕をつねっても、痛い。
冷や汗が身体から出てくる。待て、これは現実なのか。でも味噌汁の熱さ、腕をつねった時の痛さを感じる。だとするとだ……三玖の身体を触ったあの感触も……現実なのか。
マズイ……非常にマズイ。こんなことがコイツらに知られてみろ。俺は社会的にも死ぬことが確定する。家族からも見放され、いよいよ人生も終わりということだ。
そうだ思い出した。俺は昨日、コイツらの家に泊まることになったのだ。それで三玖の部屋のベッドを借りて、そのまま眠りについた。それなのに、三玖が隣で寝ていたのだ。きっと寝ぼけて夜中に移動してきたのだろう。だとしても、悪いのは完全に俺だが。
「これは夢か……?」
「何言ってんのよ。早く食べてよね」
こうしている間にも、三玖の部屋にはまだ彼女が居る。
ここで彼女が部屋から出てくれば、終わりだ。二乃の料理を口に運ぶが、そのせいで全く味がしなかった。
どうやってこの状況を切り抜ける…!? まずは一度三玖の部屋に戻る必要がある。携帯も部屋に置きっぱなしだ。それを理由にして入ることは可能だろう。
問題はその後だ。三玖になんと言えばいいんだ。「寝ぼけていた、悪かった」と謝れば素直に許してくれるだろうか。可能性はゼロではないだろうが、あまり期待しないほうがいいだろう。
「ごちそうさま。美味かった」
「貧乏舌のくせによく言うわよ」
五分もかからずに朝食を平らげた。ぶっちゃけそれどころではない。そんな俺に二乃は嫌味を言ったが、無視して階段を駆け上がる。三玖の部屋の前に着くと、とりあえず息を落ち着かせる。
「三玖の部屋に何の用ですか?」
「え、いや携帯忘れて」
まるで待ち構えていたように、五月が声を掛けてきた。
その視線は俺を疑っている。疑われる理由はまあ有り有りだが、今ここでバレるわけにはいかない。何とかして三玖を説得させないと本当にマズイ。
携帯を忘れたのは事実だ。別に嘘を吐いているわけではない。部屋に入る理由は大嘘だが。
「私が取ってきます。上杉くんはここで待っていてください」
「え、な、なんでそんな急に」
「匂うんですよ。貴方から三玖の匂いが」
「お前は犬かよ……」
彼女のベッドで寝たのだから、それは当たり前だ。生活の匂いの一部なのだから、そこまで敏感になる必要はない。
だが、姉妹の部屋に入れたがらない気持ちも分からないでもない。三玖自身は快く貸してくれたが、他の奴らは別だ。なおさら自分がヤッた行為を後悔する。
別にやましいことは
「ですから! 私が取ってきます!」
「十秒で出てくるから待ってろって」
「いいえ。信用出来ません!」
信用出来ないと言われてもだ。今の俺に言い返せる言葉は無い。
ソレを表に出すわけにもいかず、適当にごまかしてはいたが、結局そんなやり取りがループされるだけで。
そんな時だった。彼女の部屋のドアがおもむろに開いて――――。
「フータロー。マッサージの続きまだ……?」