花嫁も五人居ていいんじゃない   作:なでしこの犬

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◯◯は優しく詰め寄る

 

 

 

 

 

 

 

 結局三玖は、ただの風邪だったらしい。今日の朝から病院にかかったことで姉妹たちも安心したという。インフルエンザだったりすれば、試験すら受けることが出来ない可能性だってあった。その点では、唯一の救いというか。

 処方された薬を飲んだことで、熱もすっかり落ち着いたという。だが、試験前に昨日・今日と勉強出来ないのは非常に痛い。本人がその危機感を抱いているのかは知らないが。

 だがこのまま何もしないのは一番ダメだ。五月に相談し、三玖抜きで試験勉強を行うことにした。ま、その前に彼女の腹筋があるんですけどね…。もう開き直るしかない。

 

 今日は土曜日だが、午前中だけ授業があった。そのおかげで、三玖以外の奴らはしっかりと登校している。昼から勉強すれば、わずかだが光明が見えてくるはずだ。

 授業を終えると、五月に「学食で飯を食べてから家に向かう」と伝える。彼女もそれを了承し、そのまま別れた。五月とまともに会話出来ているのが不思議だ。気のせいか、これまでの嫌悪感みたいなものは感じられない。まぁいいことではあるか。

 

 教室を出ると、いきなりカメラのシャッター音が耳に届く。フラッシュで目を開けられない。何事かと思い視界がクリアになるのを待つと、そこには待ち構えていたかのように一花が携帯を構えていた。

 

「フータロー君。お疲れ様」

「なんだ一花か」

「むぅ、私で悪かったね」

「何もそんなこと言ってないだろ…」

 

 一花はプクッと頬を膨らませる。分かりやすいリアクションだ。

 突然の事態だったが、なんとなく彼女の行為に納得する。学校ではあまり会話をしたことがなかったせいか、少し新鮮だ。周りも不思議そうな視線を送っている。気にする必要なんてないが。

 彼女の姿を見るだけで、昨日のコトが頭をよぎる。一日で完全に忘れるなんてことはできない。自分の記憶力の良さが今だけは憎い。寝れば忘れるなんて奴の気が知れないよ。

 

「三玖のこと聞いた?」

「あぁ五月から。ただの風邪なんだろ?」

「うん。熱も下がったみたいだから、一応報告しようと思って」

 

 何もわざわざそんなことしなくてもいいのに。

 同じクラスには五月が居るんだし、彼女から報告を受けることくらい一花は理解できているはずだ。そうなると、別の用件があるのかとも思ったが、それを口にはしなかった。

 そのまま学食に行こうとしたが、彼女に呼び止められる。いい気はしなかったが昨日の件もある。下手に機嫌を損ねないように渋々反応した。

 

「五月ちゃんから聞いたんだけど」

「なんだ」

「三玖、五月ちゃんに扮して腹筋やろうとしたんだってね」

「…見事に騙された奴がここに居るが」

「あはは。そういう意味じゃなくて。なんでだろうね?」

「……言葉の意味が分からないな」

「そう?」

 

 首を傾げられても、分からないことは分からない。

 結局俺のことを馬鹿にしたいだけなのかとも思ったが、彼女の表情を見る限りそういうわけではないらしい。なんというか、一花にも答えは分かっていないようだった。

 特に昨日の三玖なんて、なんで五月に扮する必要があったのだろうか。髪型や呼び方を寄せられれば、俺にだって見分けがつかない。なのにどうしてあんなことをしたのかと。

 そう言えば五月が言ってたな。「三玖は変わってきている」と。確かに俺から見ても、それは感じる。一番最初に勉強してくれたのも彼女で、何だかんだ俺の味方をしてくれている。極論、俺は三玖の胸を揉んだというのに何も言わないのだ。これが二乃や五月だったら、俺は今学校に居れないだろう。

 

 それを考えれば、ここに居る一花だってそうかもしれない。花火大会の日、女優になりたいと打ち明けた彼女に付いていったこともある。彼女も彼女なりに考えて行動しているんだなと。

 そういう意味で、昨日の行為も黙ってくれているのかもしれない。俺としては触れられたくないが、見られたのが一花で助かったのもあるはずだ。

 

「とにかく、今日は昼から勉強だ。五月の腹筋に付き合わないといけないがな」

「あの五月ちゃんがねぇ。ほんと素直になったよ」

「あれのどこが素直なんだよ」

「まぁ、フータロー君から見ればそうかもしれないね。でも、彼女も変わってきてると思う」

 

 ……まぁ、否定する気にはなれなった。

 最初の頃を思えば、交換条件を受け入れるあたり考え方が変わってきているのだろう。もっと違う意味で素直になればいいのにとは思うが、面倒であることには変わりない。おかげでこの一週間、自らの理性と戦わないといけないのだから。すでに一敗してるし。

 一花は、何だかんだ長女なんだと思う。妹たちのことを見守っている感覚というか、なんというか。俺もらいはのことを同じように見ているから、不思議と共感できる部分もあった。

 

 廊下には多くの生徒が出てきている。ここで話し続けるのも邪魔だと感じた俺は、一花に「また後で」と告げその場を立ち去ろうとした。しかし、またしても彼女はそれを拒んだ。

 

「ちょっと待って。ねぇ、これから時間ある?」

「…学食に行くだけだが」

「だったらさ、ちょっと付き合ってよ」

 

 「は?」声を洩らす。そんな俺を無視するように、一花は「いいからいいから」と言いながら手を引いて下駄箱へと降りていく。何がいいのかさっぱりわからないし、昼飯を食べ損ねるのが嫌だったこともあって、それを優しく振りほどく。

 

「あー。女の子のお誘いを断るんだ?」

「だからっていきなり引っ張るのはおかしいだろ」

「それでも、付いてくるのが男の子でしょ?」

 

 どうしてそうなるのか。理由はよく分からない。彼女なりの方程式でもあるのだろう。ここで深く追及すると面倒なことになりかねない。聞き流して、一つため息をついた。

 しかし目の前にいる一花は、諦める様子もない。カバンをプラプラさせながら俺の様子を伺っている。まるで獲物を狙う肉食動物のような目をしていた。そんな目をされる覚えなんてないが。

 仮にだ。彼女が昨日のことを勘付いているとしよう。だとしたら、俺をこうして引っ張り出す理由はなんだ。人が居ないところで脅しでもしてくるのだろうか。いや、それをコイツがするか……? だが三玖があんなことになることを考えると、無いこともないだろう。本当に人間ってのは不思議だ。

 

「用件はなんだ」

「お昼、一緒にどう?」

 

 何故か一花はぶりっ子のように話している。なんというか、お前はそんな奴じゃないだろうと言いたくなるような。

 

「……生憎もう済ませた」

「学食行こうとしてたのに?」

「……忘れ物を取りに行くだけだ」

「へぇ」

 

 こうして嘘を吐いたのは、一花と二人きりで飯だなんて、今の俺に耐えられるはずもなかったからだ。昨日の疑惑が完全に晴れたとも限らない。何も言ってないとはいえ、コイツには何か裏がありそうで俺としても警戒心を解くわけにはいかない。

 そういう意味では、俺に対する嫌悪感マックスの二乃はまだ分かりやすいんだと思う。あからさまに睡眠薬盛ってくるし、考え事がある意味目に見えてるから俺としても接しやすかったりする。薬盛られることにも慣れつつある自分が恐ろしいよ。

 だがコイツはどうだろうか。一見、頼り甲斐のある姉御肌というか、話し方にしても雰囲気にしても大人っぽい。しかし、部屋は汚いし四葉を使って遊んでるし。実は一番子どもっぽいのではないか。

 

「忘れ物ってなに?」

「…単語帳」

「ふぅん。あれだけ単語帳好きなフータロー君がねぇ。よし、わかった。賭けをしよう」

 

 この姉妹は困ったら賭けをしたがるのか。四葉にしても、コイツにしてもそうだ。ここで言う賭けはおそらく、「単語帳があったらそのまま帰る」か「無ければ昼飯に付き合う」のパターンだろう。彼女の考えていることが読めた気がして変な気分。

 

「単語帳が無くても、昼飯には付き合わないぞ」

「へぇ、よくわかったね。もしかしてもう誰かと経験済み?」

「変な言い方するな。想像すればわかるだろ」

「フータロー君も意外と鋭いね」

「感心しても無駄だ。じゃあな。後で家に行くから」

 

 どのみち、後で彼女たちの家に行く必要がある。ここで「今日はさよなら」というわけにはいかないだろうが、昼飯ぐらい一人で食べさせてほしい。その思いを汲んでくれないかと願うが、それは無理な願い事だった。

 

「なんで付いてくる」

「だって、賭けてるじゃん」

「俺がいつ参加した」

「ついさっき」

「意思表示なんてしてないぞ」

「テレパシー的な? それでビンビン伝わったよ」

 

 お前は宗教家か。だとすれば相当なペテン師だ。もはや反論するのが面倒になる。

 何を言ったところで、一花は一歩も引くつもりはないのだろう。彼女に限った話ではない。コイツら姉妹は全員そうだ。性格はバラバラなのに、根っこの部分はまるっきり同じ。面倒にも程がある。

 一花はずっと俺の一歩後ろに居た。結局そのまま学食に到着。どうすることも出来ず、ただジッと人の少ない構内を眺めていた。

 

「どこに忘れたの?」

「あーどこだったっけな……」

 

 そうは言うが、俺は決まった席にしか座らない。そこ以外に置いていれば逆に不自然だろう。俺はさりげなくいつもの席に近づいて、制服の胸ポケットに潜ませておいた単語帳をソッと置く。

 

「あったあった。おい、あったぞ」

 

 偶然を装って一花を呼ぶと、彼女は何故か自信有り気に近づいてくる。良からぬことを考えていそうで身構えてしまうが、ここは堂々といこう、堂々と。

 それが功を奏したのか、彼女はマジマジとそれを見つめると、納得したように息を吐いている。

 

「フータロー君。イカサマって言葉知ってる?」

「イカサマ、知らないな。初耳だ」

「そっか。簡単に言うとね、ズルってことだよ」

 

 かと思えば、呆れた表情を見せる。彼女の言葉を理解すると、背中に変な汗が滲んでくる。

 イカサマという言葉を知らないはずがない。だがここで知ってると言うと、それを認めたような気がして。一花は俺の行為を見ていたと言うのだろうか。だとしても、証拠はない。ここで素直に「そうでした」と頷く奴はいないだろう。もう惚け倒すしかない。

 

「それがどうした。俺には関係無いだろう」

「ううん。君はイカサマをやったんだ。私見てたもん」

「証拠、あるのか。俺がイカサマした証拠が」

「うん、あるよ」

 

 自信があるというか、最早断言している。そんな馬鹿な話はない。どうやってそれを証明するというのか。

 一花は自分の携帯を触っている。なぜ今それをする必要があるのかは分からないが、何故だか良い予感はしなかった。

 

「これ、さっきのフータロー君」

「写真……?」

「ここの胸ポケット、見て」

 

 彼女が見せてきたのは、教室を出てきた瞬間の俺の写真だ。フラッシュに驚いているようで間抜けな顔をしている。こうして見せられると変に恥ずかしい。

 一花は胸ポケットに注目するように言う。その時点で嫌な感じはしたが、単語帳のせいで分かりやすく盛り上がっている。あ、やばいなと思った時にはもう遅かった。

 

「となるとだよ。今フータロー君が持ってるソレは、最初からあったものじゃない?」

「べ、別物の可能性もあるだろ」

「それだったら単語帳が二つあることになるよ。見せてよ、最初からここに入ってた単語帳を」

 

 水を得た魚のように、一花は言葉を紡いでいる。これだけ聞けばとても赤点候補には見えないだろう。俺もそう感じた一人なのだから。

 的確に盲点を突いてくる彼女に、俺は何も言い返すことが出来なかった。このまま逃走しようかとも考えたが、四葉を使って何が何でも捕らえるだろう。それよりは、素直に負けを認めても良い気がする。

 いやしかしだ。このまま二人で昼飯に行くとなると、昨日のことを常に考えながら飯を食わないといけない。ボロが出ないようにビクビクするのは御免だ。第一、外食する金なんて無いんだが。

 

「フータロー君の負けだね。嘘吐くの下手だもん」

「う、うるさいな……」

「よし、お昼行こうか。良いカフェがあるんだよ」

「俺、金ないんだが」

「だってもう食べたんでしょ?」

 

 小悪魔的な笑みを浮かべている。その様子だと、俺が昼飯を食べてないことも勘付いているようだ。しかし、敢えてそれを言わないということは、コイツは俺をとことんイジメるつもりらしい。

 ここで「すみませんでした」と謝るのも癪だ。それを聞き流して、大人しく学食を出た。一花はニヤついている。今日の勉強では思い切りイジメテヤル。絶対に。

 

「ねぇフータロー君。一つ聞いても良い?」

「今度はなんだ……」

 

 下駄箱で靴に履き替え、学校を出たところでそんなことを言ってくる。何を言われるかも分からないし、きっと面倒ごとだろう。「あぁ…」と適当に流した。しかしだ、そんな時に限って背筋が凍るようなことも起こるらしく。

 

 

 

「三玖の匂いはどうだった?」

 

 

 





 新たに高評価してくださった、いーちゃん改さん。ありがとうございます。ご感想・評価お待ちしてます。

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