花嫁も五人居ていいんじゃない   作:なでしこの犬

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◯◯と押し入れの嬌声②

 

 

 

 

 

 

 

「フータロー……ごめん……」

「あぁいや。三玖は悪くないから」

 

 林間学校二日目。雪も落ち着き、無事にクラスへ合流することができた。と言っても、彼らも俺たちと同じように目的地にたどり着けなかったらしいが。二日目とは言っても、実質一日目のようなものだ。

 今日はクラスごとにカレー作りと肝試し。正直、小学生がやるような内容ではあるが、ここにいる奴らは浮き足立っていて、誰もそれを疑問に思う人はいない。そんなことを考えながら、火にかけた米を眺めていた。

 

「元はと言えば私が……その」

「まぁ……今さら言っても仕方ないだろ」

「それはそうだけど」

 

 そんな時に三玖が話しかけてきたのだ。クラスは違うこともあって彼女がここに居るのは変な話。しかし、今はそんなことを気にしている余裕が無かった。俺も彼女も。

 

 今朝の事件。あの行為を二乃に見られてしまった。そして俺が吐いていた嘘もバレ、もう彼女たちとの関係はおろか、学校内での立場や地位も死んだものだと思っていた。

 ところがだ。今日の彼女たちの反応はこれまでと何ら変わらない。まるでそれを知らないような。

 三玖に話を聞くと、どうやら二乃は何も言っていないらしい。彼女も二乃とは口をきけていないらしいが、何となくそんな気がするというのだ。俺からすれば、それ自体が不思議でならなかった。真っ先に言いふらして、俺を抹殺すると思っていただけに。何か企んでいるのだろうか。いずれにしても、このままでは終わらない気がして。

 

「二乃は?」

「無言でカレー作ってる。何となく分かるけど、あれは怒ってる」

「無論、俺に対してだろうな」

 

 あいつが無言になる時は相当頭にきている時だ。

 ガミガミ言われるのも精神的にくるが、何も言われないのはそれ以上に恐ろしい。三玖のことを考えても、やはりこのまま放っておくわけにはいかないようだ。

 二乃にも言ったが、あれはあくまでも同意の上だ。俺が無理矢理押し倒したわけではない。まぁきっかけまで遡ると話は別だが、今はそこまで考える必要もないだろう。

 きっとそれは二乃も分かっているはずだ。冷静になって考えてみると、同意しているからこそ、他の三人には何も言わないのではないか。そうだとしたら、これは彼女なりの気遣いだったりするのかもしれない。いずれにしても、どこかで話すタイミングが出来ればいいんだが。

 

「三玖。どうしてここにいるのですか」

「フータローと話してた」

「それは見れば分かります。自分の班に戻ってください」

「あと少ししたら戻る」

「ダメです。班のメンバーに迷惑かかりますよ」

 

 俺と同じクラスの五月が俺たちの様子に気づく。言っている内容は至って正論だ。最初は嫌がっていた三玖も、これ以上何か言うと面倒になると察したようで。何か言いた気な表情をしたまま戻っていった。

 

「――――それで? どうして二乃が怒っているのですか?」

「……盗み聞きか?」

「たまたま聞こえただけです」

 

 話はそれだけと思い込んでいただけに、返答に困った。そんな俺の気持ちも知らず、五月は俺の横で中腰になる。三玖には戻れと言ったくせに勝手な奴だ。

 思考を巡らせる。こいつの態度を見る限り、今朝のことは知らないようだ。なんというか、三玖の姿が重なってしまって申し訳ない気持ちになる。だが、ここで今朝のことを告げるのは危ないだろう。二乃からバラされない限り、わざわざ俺たちの口から言う必要はない。彼女と同じぐらい知られるとまずいのだから。

 俺の班の米を眺めてつつ、明らかに俺の反応を待っている五月。どうしたものか。二乃に吐いていた嘘がバレたことで、更なる嘘を重ねるにも勇気がいる。そんなことを考えているせいで、変な間が出来たせいで、彼女は明らかに怪しんでいる。

 

「どうして黙るのですか?」

「別にいいだろ。第一、五月には関係ない」

「か、関係ないことありません!」

「何故そうなる」

 

 「そ、それは……」五月は口ごもる。どうせ「姉妹だから」なんて言い出すつもりだったのだろう。そんなものは理由でもなんでもない。ただのこじつけだ。それを自分でも分かっているのだろう。彼女は何も言わず俯いている。

 

「ほら。お前も自分の班に戻れ」

「……こうなったら本人の口から聞くしかないようですね」

「お、おいどうした」

「二乃に聞いてきます。上杉くんも理由が分かった方がいいでしょう」

 

 それは今じゃないんだ五月。そんなことをされれば俺は終わってしまうだけ。恐らく彼女なりの気遣いなのだろうが、今はただ余計なお世話なだけ。立ち上がった五月を制止するも、彼女は俺の行動が不可解だったようで。

 

「どうして止めるのです?」

「い、いやほら。今行くと余計面倒なことになるんじゃないかと」

「余計に、ということは何かあったのは間違いないようですね」

 

 揚げ足を取られたが、それを否定する気にはなれなかった。一度バレた嘘のせいで、面倒ごとを避けたい本能的な何かが身体に働いている。

 米からの湯気が鼻腔を抜ける。どこか荒い匂い。焦げているわけではないが、そろそろ頃合いかもしれない。しかし、それ以上に五月を何とかしないといけない。

 

「だからお前には関係ない」

「どうして……!」

「米持っていくわ。じゃあな」

 

 火を消し、軍手をしっかりと重ねて米を持つ。そして逃げるようにその場を離れる。まるでこれまでの会話を濁すような行動。今の俺にとってそれが一番ベストな選択だ。その五月はというと、熱い米を持っているせいで下手に声を掛けようとはしていない。

 自分の班に持っていくと、何故か班のメンバーは不思議そうな顔をしている。その視線は後ろに向けられていて、その時点で何か察するものはある。どこまでもしつこい奴だ。

 

「少し上杉くんをお借りします」

「おい五月」

 

 そう言うと彼女は俺の手を引いて歩き出す。その歩みは力強いというか、少しイラついているように見える。それもそうだろう。あんな適当にあしらわれたのだから。そこで引く彼女じゃないことぐらい、俺も知っていた。

 どこまで行くのだろうか。二人でじっくり話すのだろうと思うが、周りでは他の生徒たちがカレー作りに勤しんでいる。俺たちの姿が可笑しいのか、クスクスと笑う声も聞こえる。いい気はしないが、五月はそんなことお構いなしの様子。俺の手首を掴んでいる彼女の手には力が込められている。

 

 やがて視界に入るのは、見慣れた後ろ姿の彼女。

 

「二乃」

「なに――――ってどういうつもり?」

「やはり、二人の間で何かあったようですね」

 

 二乃は俺たちを見てあからさまに顔を歪めている。それもそうだろう。大切な姉妹の胸を揉んだ奴が目の前に居るのだから。それを連れてきたのが五月だというのも、今の彼女にとっては腹立たしいのではないか。

 カレーを煮込んでいた彼女だったが、その手を止める。同じ班のメンバーに一言言って、首で促す。付いてこいというのだろう。相変わらず五月は俺の手首を掴んだままだった。もうここまで来たら腹を括るしかないだろう。

 やがて人気のない場所に出る。日が暮れてしまえば中々足を踏み入れられないようなそんな雰囲気。だが三人いるせいか、彼女たちの顔に不安はない。むしろあるのは怒りのような。

 

「いつまで手繋いでるのよ」

「こ、これは繋いでいるわけではありません! 上杉くんが逃げないように……」

 

 二乃の言葉に、五月は反射的に手を離す。結構な力で握られていたせいか、いざ離されると違和感がある。だからと言って「離さないで」なんてことは口が裂けても言えない。

 

「上杉くんと何があったのですか?」

「――――別に。五月には関係ないじゃない」

「二乃までそう言うのですね」

「そもそも聞いて何になるの? 五月、あんただって上杉のこと避けてるじゃない。それなのにわざわざ足を突っ込んでどうするのよ?」

「わ、私は二乃のことが心配なだけです。そこまで怒っている二乃を見るのは久しぶりなので……」

 

 二乃の眉毛がピクッと反応する。怒っている、という言葉に。

 ふと考えてみる。もしかして本当にそういうわけではないのか? いやまさか。どう転んでも、そんなことはないはずだ。だが仮に怒っていないというのなら、今の二乃の感情は何なのだろう。

 彼女も五月なりの優しさだと分かっているはず。だからと言って、俺に怒りをぶつけようとはしていない。それがいつもとは違う大きなポイントだった。

 いつもであれば、真っ先に俺へ文句を言うくせに。何というか、何かを考えながら、まるで言葉を探っているようで。

 

「だから別に関係ないじゃない」

 

 彼女は同じ言葉を繰り返した。五月は納得する素振りは見せていない。それもそうだろう。そんなことを聞くためにわざわざ俺を連れて彼女を問いただしに来たわけではないのだ。俺としては今このタイミングでというのは流石に想定外だったが。

 

「話ってそれ? だったらもう戻っていいかしら。班のメンバーに任せっぱなしだから」

「……分かりました」

「ふん。分かればいいのよ。それじゃ」

 

 二乃はそのまま立ち去ってしまった。ある種の修羅場だったが、何事もなく切り抜けることが出来たようだ。何というか、思いの外あっさりとしていたような。

 隣にいる五月は相変わらず、腑に落ちない様子だ。頬を少し膨らませて、分かりやすく拗ねている。俺も彼女を置いて戻りたかったが、それをすると変に怒られそうで戻るに戻れなかった。

 

「本当に何があったのですか」

「何もないって言ったろ。二乃も言ってたし」

「二乃は『私には関係ない』と言いました。何かあったことは否定していません。きっと嘘をついています」

 

 さすがにずっと一緒に居れば、彼女が本当のことを言っているかどうかは分かるのだろう。拗ねている彼女を横目に、グッと背伸びをする。自身の気持ちを誤魔化すように。

 先ほどよりも夕日が落ちてきている。この辺りもじき暗くなる。このままここに居れば班のメンバーや他の姉妹たちに心配されるはず。

 

「戻るぞ。カレーが出来ちまう」

「……あの上杉くん。その、誤解しないで聞いてほしいのですが」

「なんだ」

「二乃とその……そういう関係なのですか?」

 

 「は?」思わず足を止める。彼女は「誤解しないで」なんて前置きしたが、それ以前の話だ。先ほどの会話から一体何をどう思ってそんな結論に至るのだろう。つくづく女心は分からない。

 そういう関係、なんて言い方を濁すあたり、こいつはそういうコトには疎いのだろうか。確かに五人の中で変に一番真面目。だがそれゆえに、実は恋愛とかに一番興味がありそうな感じがする。まぁ勝手な想像だが。

 そもそも、俺のことを毛嫌いしているあいつと付き合っている訳がないだろう。それを思い出したのだろうか。俺の顔を見て彼女は苦笑いする。自分でもその言葉の意味が分からなかったらしい。

 

「何故そうなるんだ。別に二乃とは何もない」

「……クラスのカップルもこんな会話をしていたので、もしかしたらと思いまして」

「まぁそんなことだろうと思ったが」

「ですが、何と言うか。何かに嫉妬しているように見えて」

「嫉妬ねぇ」

 

 二乃があの行為に嫉妬したというのなら、それはそれで問題ありまくりだ。無論そんなことは絶対に有り得ないが。

 それはそうと、俺の人ごとのような返答に、隣を歩いている彼女はどこか寂しげにしている。あれだけ俺とぶつかっていた五月のそんな表情。きっとこれは夕焼けのせいだろう。深く考えると、変に彼女のことが気になって仕方がなくなる。

 相変わらず腹筋はするし、要領悪いし、面倒な奴であることには変わりない。しかし、四人のことを陰で支えようとする姿勢はよく伝わる。今だって俺のことを疑ってはいるが、それも二乃のことを思って。根っこの部分はただ心優しい奴なわけで。

 

「もしですよ。もしもの話です」

「今度はなんだよ」

「……いえ。やっぱりいいです」

 

 そこで焦らされると、気になってしまうのが人間の性。かと言って、聞いてしまえば余計なことに気を遣わないといけない気がして。あえて何も言わなかった。

 

「逆に聞くが、俺が二乃と付き合っていたらどう思う?」

「へ、変なこと言わないでください」

「最初に言い出したのお前だろ……」

「私はその……そこまでは言ってません!」

「やっぱり面倒くせえ」

 

 付き合っているとは言っていないが、ほぼ同じ意味ではないか。そこに変にこだわるあたり、やはり面倒な奴だ。聞いた俺が馬鹿だったと後悔する。

 これ以上話を続ければ、きっと余計に面倒なことになりそうだ。適当に話を切り上げ、そのまま歩みを進める。カレーも出来上がってしまったかもしれない。班のメンバーには迷惑をかけたなこりゃ。

 

 そんな時、携帯が鳴った。メールだ。

 

 

「今夜の肝試し、私とペアになりなさい。さもないと今朝のことバラすから」

 

 

 





 新たに高評価してくださった、らルムさん

 ありがとうございました。

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