花嫁も五人居ていいんじゃない   作:なでしこの犬

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◯◯の身体は柔らかい④

 

 

 

 

 

 

 気がつけば、十四時を過ぎていた。せっかくの休日だというのに、余計なことで時間を使っているような気がする。まあその原因は俺にあるんだが。

 太陽の光がリビングに差し込んでいる。広すぎるリビングには、中野姉妹の全員が集結していた。五月の呼び掛けで、あっという間に集まったのだ。どれだけ仲が良いんだって話。

 

「……裁判長。被告は三玖をお風呂場に連れ込み、卑猥な行為に及びました」

「完全な誤解なんですけど」

「アンタに発言権はないわよ」

 

 この光景を見るのは二度目だった。いや、夢の中を含めれば三度目か。いずれにしても、気分の良いものではない。

 現実では、俺が二乃を押し倒したことになった時。あの時は忘れ物を取りに来ただけで、あの場面に出くわしてしまった。今考えると、今日の朝より過激な光景だ。よく自分を抑えたものだとひとりでに感心する。

 何とか誤解を解くことは出来たが、今回で二度目になる。彼女たちの視線が痛い。朝の件もあって、完全にクロで話を進めていく気らしい。それでいいのか司法。こんな国はすぐに滅びるぞ。

 

「まぁ朝の件もあるし、何ていうの? あのー……証拠はないけど証拠がある的な」

「……状況証拠とでも言うのか?」

「そうそれ! たぶん」

 

 裁判長こと、一花の言うことも一理ある。朝の騒ぎのせいで、俺の完全な無実が証明されづらくなっているのは確かだ。しかも、被害者は三玖で、朝と全く同じ。彼女たちの俺に対する心象は最悪と言っても良いだろう。

 検察側には二乃と五月。被害者として祭り上げられた三玖には、前回の反省を生かして発言権はないようだ。唯一の味方は四葉。弁護人として俺をサポートするらしいが、まぁ不安しかない。むしろ罪状を重くするのではないか。シロをクロに変える力を持ってそうで、とにかく怖い。

 そもそも、三玖に発言権がないのはおかしい。彼女が否定すればこの茶番は終わり。完全な検察側の職権濫用だ。それを発言しようものなら、検察側の圧力がかかる。闇の深さを感じる。

 

「普通に考えて、二人がお風呂場から出てくるのはおかしいと思いますが」

「はいはーい! カゴには三玖のベッドの枕カバーとシーツが入ってました。それと、上杉さんの部屋着!」

「……とすると、三玖の部屋でコトに及び、その証拠を隠滅しようとしていた。そう考えることも出来ますね?」

 

 四葉よ。お前は見事に俺を売ったな。

 五月の発言に何もフォローをしないあたり、何も考えずに発言したのだろう。期待はしていなかったが、これで俺の負けが近づいたのは間違いない。

 今回ばかりは本当に無実なのだが、それを証明するものが何も無かった。本当ならば、それを分かっている三玖に説明してもらうことが一番なのだが、検察側の圧力でそれが出来ない。となれば、この四葉に期待するしかない。まるでゲームの初期装備ではないか。

 

「そう言う五月は、上杉さんのことをフライパンで殴ってます! これはれっきとした暴力です!」

「そ、それは今関係ないです!」

「でもまぁ、四葉の言うこともわかる。五月は早とちりしすぎるところがあるから」

 

 いいぞ四葉!

 ここで検察側の捜査態勢を突っ込むとは。そう、五月は誤認逮捕する傾向にある。前回も俺の言い訳に聞く耳を持たなかった。最終的には納得したが、捜査方法にはかなり問題がある。

 容疑が晴れつつある。このまま一気に押し切りたいが、それ以上四葉に攻める案は無かった。仕方なく、裁判長に発言の許可を求める。

 

「んー。仕方ないか。()()()()、認めます」

「こんな茶番はとっとと終わらせよう。もう帰りたい」

「……検察側何かありますか?」

「あー待て。今のは違う」

 

 一言、というのはガチの一言らしい。俺が嫌味を言うと、一花は何事もなかったかのように二乃たちへ発言を促した。

 その様子を見る限り、彼女もまた俺のことを疑っているのだろうか。五人の中では()()()物分かりが良いと思っていたが、そういうわけでもないらしい。あまり彼女たちのことを知らないから、何とも言えないが。

 こんなことで時間を使うのがもったいなかった。何というか、コイツらは俺を使って遊んでいるようにしか思えない。勉強しないといけないのに、この調子じゃ本格的に出来るのはいつになることやら。今日はもうやりたくない。早く一人になりたい。バツが悪そうな表情を見せる一花を説得し、今度こそ発言権を得た。

 

「寝汗がひどくてシャワーを借りただけだ。三玖は洗濯機を回しに来ただけだ」

「回した様子はありませんが」

「そこに居るとは知らずに、俺が浴室から出てしまったんだ。腰にボディタオルを巻いてたから、事故にはならずに済んだ」

 

 多少の出血は仕方がない。そう割り切って、具体的な言い訳をする。もちろんほぼ嘘だが、側から聞けば割とありそうな話に聞こえるはずだ。現に、五月は顔を歪ませて何か言いたそうな表情をしている。一花に関しては、口元が緩んでいるのが気にかかるが。

 ここで三玖に発言してもらうのが、俺としては有り難い。だが、検察側の二人はそれを認めるつもりは無いらしく。相変わらず、圧が凄い。肝心の三玖は、何も言わずにただ戦況を見つめていた。

 

「で、ですが私は! 朝の件もまだ認めてません!」

「それとこれとは話が別だ。お前の個人的な感情に俺を巻き込むな」

 

 五月に関しては、完全に俺を敵対視している。

 別にやましいことをしたわけではない。単純にウマが合わないだけだ。素直に教えて貰えばいいものを、下手に意地を張るから。俺も相応の対応しか出来ない。

 

「ま、朝の件については同意ね」

「だから何もしてねえから」

「そうかしら? 三玖に庇ってもらってるくせに」

「は、はぁ?」

 

 二乃が冷静に突っ込む。なぜ庇ってもらってるという言葉が出てくるのだろう。いや確かにそんなんだが、ここまで来れば嘘を突き通す他ない。それだけなのだ。俺が生き残る道は。

 

「別に庇ってなんかない」

「それでもマッサージと言うのですか?」

「ん。五月が入ってきた時は腹筋してただけだよ」

「ふ、腹筋?」

 

 思わず五月が聞き返した。無論、俺もその一人。声が出なかっただけ良かったと思う。ここで素っ頓狂な声を出せば、彼女の嘘が水の泡だ。極限まで付き合う必要がある。この程度なら、何とか対応可能ではある。

 

「あれ、今流行りの腹筋法なんだって。フータローから聞いた」

「…そうなのですか?」

「あ、あぁそうだ! 以前ネットで見た情報なんだ。お腹を気にしてた三玖から相談を受けてな……。誤解を招くことは頭にあったが、どうしてもとお願いされて」

 

 三玖の言葉はどこかで聞いた気もするが、今は別にどうでもいい。ネットで見た情報と言っておけば、この膨大なネット社会。そんな情報は見つかるはずもない。仮にあったとすれば、それはそれで問題ないし。

 

「でもアンタ。腹筋だとしても、普通上杉に頼む? それこそ、四葉あたりに言えば喜んで協力したはずよ」

「男の人の方が重いし、効率的だと思った」

「で、でもねぇ……」

 

 二乃の追及にも、動じずに答えている。淡々と話しているせいか、その言葉には説得力があった。いや、これ全部嘘なんだけどさ、それを知っていても「そうか…」と声を洩らしそうになる。

 三玖って意外と頭回るんだな。口数は少ないが、相手の論点をしっかりと突いて答えを導き出している。発情中はそんなの関係ないが。

 

「そ、そんな腹筋があったんですね…」

「気になるなら、五月もやってみたら?」

「……………………結構です」

 

 なんだその間は。

 まさかとは思うが、一瞬でも考えたと言うのか。だとすれば、それは随分頭がお花畑なものだ。

 というか待て。腹筋なんてやってないし、むしろ腹筋よりも運動になるようなことをやろうとしていたんだぞ俺は。とにかく今はこの場を気に抜けることが大事なのだ。

 腹筋の話はもういいだろうと、口を開こうとした時。相変わらず話を広げるのが好きな二乃は、その話題を続ける。話が逸れすぎて何について裁判をしていたのかすら分からなくなる。

 

「顔上げる度に上杉の顔が目の前にあるのよ? そんなのに耐えられたの?」

「二乃みたいに面食いじゃないし」

 

 さりげなく馬鹿にされたような。いやもうこの際どうでもいい。

 何なら、早くこの話題を終えてほしい。生産性無さすぎるぞこの会話。しれっと馬鹿にされるし。

 そう思っているのは、どうやら俺だけらしい。二乃と三玖は睨み合っている。なんか前にもあったな、こんなこと。

 

「あっそう。なら料理対決で判決下す?」

 

 いやいや何故そうなる。ただ単に三玖との決着をつけたいだけじゃないか。被告である俺が言うのも変だが、完全に俺は飾りと化している。二人の喧嘩する要因を作るためにこの場にいるのかと、言いたくなるほど。

 二乃の分かりやすい挑発に、三玖も乗ったようで。彼女はおもむろに立ち上がると二乃を睨みつけている。やめろ三玖。余計な争いには巻き込まれる必要ない。

 

「お、おい。何でそうなる?」

「大丈夫、フータロー。なんとかする」

「そ、それは別にいいけど。なら俺は帰ろうかな……」

「アンタには審査員してもらおうかしら。前回みたいなふざけた審判は許さないから」

 

 えぇ……。思わず声が洩れた。

 二乃が言う前回とは、一回目の料理対決の時。あの時は俺も空腹だということもあって、二人が作った料理はどちらも美味かったように感じた。見栄えは圧倒的に二乃だったが。

 それから三玖は料理の練習をしているらしい。一花や四葉から聞いたが、手先が不器用なことも相まって、まぁ上達しないというが。

 一花と四葉に視線を送っても、苦笑い。裁判ごっこは終わりを迎えたようだが、俺の心は晴れない。茶番はしばらく続きそうだ。仕方なく俺が立ち上がると、五月が話しかけてくる。

 

「……その腹筋って効くんですか?」

「あ、あぁ。どうだろうな。確証はない」

 

 真に受けている様子。彼女は姉妹の中で一番の大食い野郎だ。そこを気にするのは分かるが、あれだけ食って他の姉妹とスタイルは変わらないように思える。別に気にする必要は無いと思うが、それを言うとまた噛み付かれるだろうな。

 キッチンへ向かうと、二乃は冷蔵庫の中をチェックしていた。

 一方の三玖。そんな彼女の様子を伺いながら、俺の隣にやってきた。なんのつもりだと考えたが、特に何も言わずに二乃を様子を眺める。

 

「フータロー」

「なんだ」

「………わかってるよね」

「は?」

 

 わかっている? 何の話だ。素直に聞き返すと、彼女は何も言わずにキッチンへと向かった。意味が分からない。

 だが彼女が言うことだ。何か意味があることは確か。答えを導き出すだけの情報が少なすぎるだけで。そうこうしていると、二人は料理を始めた。二乃はさすがの手際だ。普段料理をすることがない俺からしても、よく分かる。

 三玖は……うん。気にすることはない。まだまだ練習中の身なのだから、これからだ。これから。

 

 結局、それから一時間ほどが経過した。その間、俺は四葉に勉強を教えていた。暇だったこともあって、これまでよりはゆったり目だが。一花は昼寝している。男の前でよく眠れるものだ。

 

「出来たわよ。早く食べなさいよ」

 

 早く食べるために作ったのなら、是非やめてほしい。

 昼過ぎにはなるが、あまり空腹ではない。前とは違って、あまり食欲は無かった。テーブルには、二人が作った料理が並んでいた。

 二乃、お洒落なランチ。フレンチ? というのだろうか。料理名は分からない。ただこれまでお洒落な料理は食べたことはない。

 三玖、なんだこれは。タワシか?

 何かの塊がボンと皿の中心に乗っていて、お世辞にも美味しそうには見えなかった。

 いや、だが待て。さっきの彼女の言葉。あれはどういう意味なのか。もしかしたら「私を勝たせろ」ということなのかもしれない。勝たせなかったら? 朝のことを暴露されてみろ。風呂場の件も完全にクロになる。いや、もうそのことは忘れ去られているだろうが。

 

 恐る恐る三玖に視線をやると、顔を赤くして俯いていた。レベルの差を痛感したのだろうか。何というか、見ているこちらが可哀想にすら思える。

 

「……いただきます」

 

 一言言って、まずは二乃の料理を口に運んだ。瞬間、広がる感じたことのない旨味。これが彼女の本気なのだろうか。普段のヤツを知っているからこそ、何というか、信じたくなかった。

 三分の一を食べ終えたところで、二乃が味の感想を求めてくる。うるさいヤツだ。

 

「美味いぞ」

「当たり前でしょ。ほら、三玖のも食べなさいよ」

 

 なら急かさないでもらいたい。しかもそれは三玖が言うべきセリフではないか。

 改めて、三玖が作った料理を眺めてみる。真っ黒ではあるが、ところどころ若干茶色い。もしかしてこれは……ハンバーグか? 顔を近づけて匂いを嗅ぐ。うん、焦げた匂いしかしない。だが、微かに、微かにだが美味そうな匂いもしないでもない……気がする。

 

 箸でその中央に切り込みを入れ、真っ二つに割ってみる。するとどうだ。外見はあんなに黒いのに、中は綺麗なピンク色をしていた。これはもしや……生焼け。

 さすがにそれはマズい。味とか置いておいて、身体に悪影響を及ぼしかねない。これで腹を壊すのは御免だ。

 

「や、やっぱりいいよ。私が自分で食べるから」

「ダメよー。上杉に食べさせないと。ねぇ、こんなに美味しそうなハンバーグを食べないと、三玖に失礼でしょー?」

 

 一見すると、三玖の料理を馬鹿にしているようにも聞こえるが、コイツはそうじゃない。単に、生焼けのハンバーグを俺に食べさせたいだけなのだ。裁判はあっちいくし、料理対決もあっちいくし。結局、コイツは俺を痛めつけたいだけなのではないか。

 さすがに生焼けしてるとは思わなかったのだろう。三玖は俺の右手を抑えて、食べないように制止している。

 

「食べるよ。大丈夫」

「で、でも……」

「対決なんだ。食べないとわからないだろ」

「上杉にしては分かってるじゃない。早く食べなさいよ」

 

 どうしてそんなことが口から出てきたのか。自分でもよく分からなかった。ただ、このままだと三玖が恥をかいて終わるだけなような気がして。

 優しく彼女の手を振りほどいて、半分に切ったソレを口に運んだ。中が冷たい。ハンバーグとは言い難いそれは、舌が痺れるような感覚を覚えた。拒否反応を示しているのだろうか。よく分からないが、身体に悪いことはよく分かる。

 吐き出しそうになる気持ちをグッと抑えて、意を決して飲み込む。気持ち的には一五〇〇メートル走を走った気分だ。

 

「ふ、フータロー……」

「美味かった。二乃の料理よりも」

「は、はぁ!?」

 

 無意識にそんな言葉が洩れる。彼女を持ち上げないといけないから、なんてことは考えてもなかった。

 三玖にしか聞こえていないように言ったつもりだったが、二乃の耳にもしっかりと届いたようで。

 

「お、美味しいのなら全部食べなさいよ! 美味しいんでしょ!?」

「に、二乃! フータロー身体壊しちゃう……!」

「壊したから何? 別に関係ないじゃない」

「二乃、三玖を責めるな。食べればいいんだろ、食べれば」

 

 ギャンギャンと騒ぐことで、四葉や一花、部屋に戻っていた五月まで俺たちの様子を伺っていた。そこまで集中する必要も無いんだけどな……。

 残った生焼けのハンバーグ。味を知っているからこそ、箸が動かない。心配そうに三玖が覗き込んでいるが、ここで引くわけにはいかない。俺にも一応意地はある。勇気を振り絞って、口へ運んだ。

 うわぁ……マズい。口の中には肉のそのままの味が広がる。俺の家は貧乏だが、さすがに生肉を食べたことはなかった。

 三玖が持ってきてくれた麦茶を一気に流し込む。後味が嫌すぎて、お茶がとんでもなく美味しく感じた。

 

「…………美味すぎた」

「フータロー君も男気あるね」

「あっそ。やっぱり、アンタのこと嫌いだわ」

 

 そう言い残すと、二乃は後片付けすらせずに部屋へと戻っていった。自分勝手なヤツだ、全く。

 俺が立ち上がると、隣で心配そうに立っていた三玖がキュッと制服の腰のあたりを引っ張った。

 

「とりあえず、二乃の料理も食べてしまうか」

 

 彼女のしおらしい行為に、少し恥ずかしくなって。目に入った二乃の料理を言い訳に使った。彼女が服を引っ張ったまま、俺は残った二乃の料理に手を付ける。さっきよりも味を感じなくなったのは、三玖の料理のせいだと思いたい。

 また余計なことに時間を使ってしまった。そんなの分かってるのに、それを口に出す勇気はなくて。だからこそ、彼女の呟いた言葉がよく耳に響いた。

 

 

 

「………ありがと」

 

 

 






 (3月19日、20時40分現在)新しく高評価してくださった、大秦王安敦さん・コウジョウチョウさん・パイポさん・空気読めない人さん・塩胡椒さん・かゆいさん・アルジェルトルゥーさん・ミュルグさん・ソリューさん・ken1121さん・まぼ725さん・神城愁さん・モリモッコリさん。
 沢山の方に評価していただきました。ありがとうございます。

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